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本編
72話 メダカと学校 その30
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「いかがでしょう?」
タロウが数度左手を大きく開いては握りこぶしを作り、しっかりと動く事をマルルースとエルマに見せつけた、
「そうね・・・どうかしら?」
マルルースがエルマに問いかけ、
「はい、その・・・大変に・・・素晴らしい技術かと思います」
エルマは困惑しながらそう答えるしかなかった、タロウとソフィアによって説明された治療に関する知識であるが、エルマが魔法に関しては素人同然の門外漢であったとはいえ、あまりにも高い技術と初めて目にし耳にする事ばかりで正直理解が追い付いていない、この場でこの二人に食らい付いていたのはどうやらユーリだけのようで、メイド達は勿論マルルースもカトカとゾーイでさえ、二人の説明を聞き取るだけで精一杯であった様子である、
「まぁ、一気に話してしまいましたからね、全てを理解しろなんて事は言いません、ただ・・・」
タロウはニコリと微笑み、
「痛みを伴う施術にならない事、想定される傷痕はこのように全く消えてなくなる事、まぁ、今回はね、それこそが目的なので、その点を御理解頂ければと思います」
「はぁ・・・」
エルマは気の抜けた溜息で答えてしまい、マルルースも確かにそうかもねと頷くしかない、実際に目の前で行われたソフィア曰くの実践とされたその手技は大変に血生臭いもので、タロウの左手の甲には小さなナイフがザックリと突き刺さり、ドクドクととまではいかないが、じっとりと赤い血液が流れだしている、そういう血に慣れていない女性達は思わずヒィっと悲鳴を上げてしまった、しかし当のタロウは平気な顔で、まるで痛みは感じないと微笑む有様で、しかしやはり何かが刺さっている感覚はあるのだという、これは完全に感覚を遮断しているわけではなく、鈍化させている証拠だとタロウは平然と言い放った、そのタロウに無理にやせ我慢している様子は無く、遮断と鈍化の違いをマルルースもエルマも理解する事は無かったが、その痛みを消すという魔法の効果だけはなんとか理解できた、そしてソフィアはそのナイフを引き抜くと、今度は治療魔法を頼むとユーリを指名し、そこでさらに幼馴染のすったもんだがあったのであるが、早くしてくれ血が抜けると悲鳴を上げるタロウを見て仕方が無いとユーリが腰をあげ、短い呪文を唱えるとあっさりとその傷痕を消している、治療魔法とソフィアとユーリは呼称しているが、他の者が見る限り、それは治療では無く、傷痕を消したようにしか見えなかった、これが高度な魔法なのかとマルルースとエルマは信じられないと感心するほか無く、さらにソフィアは治療が終わった左手に魔法をかけている、曰くマスイを解く魔法であるらしい、放っておいても半日程度で効果は無くなるそうなのであるが、タロウはこの後も忙しいらしく、左手がこの状態では困るであろうと一手間かけたとの事で、タロウはそれはすまんねと渋い顔を見せていた、そうしてタロウは血まみれであった左手を手拭いで綺麗に拭って笑顔を浮かべている、マルルースとエルマとしてはなんとか理解した事を伝えたかったのであるが、正直それでは嘘になる、説明そのものは明確で分かりやすかったし、実際に魔法に関しては目にしたのであるが、まるで夢のような技術であってまるで実感が湧かないのであった、その背後では、
「ほれ、書きなさい」
「えー・・・だってさー、あれはよくわかんないのよねー」
「何を言ってるの?得意じゃないのは知ってるけど、出来ないって事は無いでしょ」
「そうだけどさー・・・」
「めんどくさがるな、折角開発したものでしょ、最後まで責任持ちなさい」
「責任って言われても・・・別に私が使えればそれでいいんだし・・・」
「良くないわよ、どんだけ便利なものかあんた分かってるでしょ」
「そうだけどー」
「いいからやれー」
とグズグズとめんどくさがるソフィアにユーリがギャンギャン吠えたてている、まぁ、その気持ちは分かるかなとカトカとゾーイは同情してしまう、それはソフィアにでは無く、ユーリに対しての同情であったのだが、
「でもさー・・・あー・・・とっかかりがまるで浮かばないのよねー」
「ムッ・・・どういう意味よ」
「ほら、まずね、霧の魔法がね、再現するの難しかったでしょ」
「まぁね」
「あれをね、ギュッとまとめて、それで、手の中に吐き出して、で、それを振りかけて、安定させる?って感じなんだけど」
「なによ、想像できてるんじゃない」
「だけどー、ほら、そのね、霧の魔法がね、何となくでやってるもんで」
「ムキャー、それが大事でしょ」
「それは分かってるから、困ってるんでしょ」
「困ってるわけないでしょ」
「困ってますー」
「嘘を言えー!!」
すっかりソフィアに遊ばれるユーリである、ユーリとしてはこのソフィアの曖昧な感覚主義が大変にもどかしかった、ソフィアは言わば魔法の天才ではあった、それはタロウに鍛えられた後に発現したもので、タロウと同じように小難しい魔法を感覚で使えてしまうのである、呪文の詠唱など必要とせず、あぁこうなんだと理解したもの、ソフィアとタロウはそれを真理と呼称しているが、それさえ理解すれば呪文は必ずしも使う必要もなければ存在すら疑問だという、対してユーリは理論派であった、秀才肌と言い換えても良い、感覚よりも理屈が必要で、故に魔法を使用する際には呪文が必要であったりする、得意な呪文やその真理とやらを理解できればそうでもないのであるが、彼女らが触れてきた魔法は大変に巧緻で複雑なものばかりで、呪文から理解を深め、発展改良する事をユーリは得意としている、この二つの才能が先の大戦時にはタロウの大きな助けになった、タロウが思い付く度に試しとばかりに披露する魔法をソフィアはなるほどと瞬時に模倣し、ユーリはソフィアからその仔細を引き出しつつ呪文であるとか理論であるとかを構築した、特に結界魔法に関しては二人の活躍があってこそで、転送陣の開発にはユーリがその能力を遺憾なく発揮していたりする、
「まぁ、こっちはこっちで」
「そうですね・・・」
カトカとゾーイはどうやら進展は遅そうだなと諦め、手元の黒板をまとめる事としたらしい、数枚に渡って記されたそれは何とも乱雑なもので、今回特に壁の黒板はあまり使用されず、殆どが口頭での説明になってしまっている、メイド二人も困った顔で黒板を見ていた為、ここはとカトカは二人を誘い、四人でまとめることにした、そこへ、
「お掃除終ったー」
とミナが食堂に駆け込んでくる、
「あら、ありがとう」
ソフィアは丁度良かったと笑顔を見せる、
「ウフフー、あとはー、他にはー」
すっかりおねえさん気取りのミナである、ソフィアとユーリの座るテーブルに乗り上げて、もっと褒めろと笑顔を見せた、
「あー、ミナ、ゴメンね、邪魔しないで」
ユーリがブスリとミナを睨む、
「えー、なにがー」
「ソフィアがね、お仕事しないの」
「お仕事?」
「そうよ、お仕事、のらりくらりとめんどくさいったらないのよ」
「えー、そなのー」
「んー・・・だってー、ユーリが虐めるんだもん」
ソフィアがニヤリと微笑む、アン?とユーリがソフィアを睨むも、
「ムー、ユーリめー、イジメルナー」
ミナがここぞとばかりに騒ぎ始め、
「虐めてないでしょ、あんた駄目よ、ミナを使わないで」
「使ってないですー、ミナは私の味方ですー」
「そうなんですー、ミナはソフィアのミカタなのー」
ソフィアの口調を真似るミナを、このーとユーリが睨むも、
「キャー、ユーリ怖いー」
ミナがキャッキャッとソフィアに抱き着き、
「ねー、怖いよねー」
「うん、怖いー、ユーリ、いじめっ子だー」
「そうよねー、ユーリは駄目ねー」
「そうだー、ダメだー、ダメ人間だー」
調子にのる親娘にこいつらはとユーリは顔を歪め、何をやっているのやらと振り返るマルルースとエルマであった。
そんなこんなであっという間に正午を過ぎた、マルルースとエルマは黒板をまとめる四人に合流して改めてその知識を深め、ユーリはソフィアをギリギリと詰めており、ミナとレインはユーリと一緒になってソフィアを茶化す、タロウはそう言えばと薬草やらスライムやらの点検をしつつ、アッと叫んであれもあったなどうしようかと首を捻っている、
「所長、この治療魔法なんですけど、これは呪文になってますよね」
カトカが黒板を見ながら顔を上げた、
「ん?なってるわよ」
「正確なの教えて頂けます?」
「あー、はいはい、じゃ、ミナ、レイン、ソフィアを見ててね」
「了解じゃ」
「リョウカイじゃー」
明るく叫ぶミナに、ソフィアはもーと顔を顰めるもすぐに黒板に戻った、まぁ確かにケイスに教えて楽をしようとは思っており、そうなれば呪文を織らない事には始まらない、昨晩の時点で気付いていれば良かったかな等と反省もしていたりする、
「で、なに?」
席を移したユーリがやれやれと溜息混じりである、
「呪文です、あと、詳細を伺えればと思います」
ゾーイがスッと顔を上げ、マルルースとエルマも興味があるのか真剣な瞳であった、
「そうね、あれはそれほど難しい魔法ではないんだけど・・・まずは使い方としては、刺し傷とか切り傷ね、そういう怪我に有効かしら、抉り傷とか削いだ感じの傷には有効とは言えなくて・・・だから繋ぎ合わせて元に戻すっていう感覚、それが大事になるわね」
「すいません、どれくらいの大きさまで対応できます?」
とカトカの冷静な質問である、ユーリはあーこういうのの方が楽だし楽しいわーとホッと安堵してしまった、ぶつくさとうるさく挙句のらりくらりとハッキリしないソフィアの相手をするよりも理知的で前向きで大変に心地が良い、
「それは魔力によるわね、私やソフィアならね、それこそどんな大きな傷でもなんとかなるけど、そうね、あんたらなら・・・うん、カトカなら腕一本分?は変な表現かな、切り傷にして・・・表現が難しいわね・・・」
「そうですね、じゃ、仮に腕一本分の長さの傷を基準にします?」
「そうね、それであればカトカなら対応出来るし、ゾーイなら・・・それが数十本?」
オオッーと小さな歓声が起こり、ゾーイに視線が集まった、
「あれよ、あくまで目安よ、その基準でやれば・・・カトカだとぶっ倒れるかもしれないギリギリの感じ?」
「なるほど・・・なるほど・・・」
黒板の鳴る音が響き、
「そうすると、今回の治療に関してですが・・・あっ、そうか・・・ここに繋がるんですね」
カトカが何かに気付いたらしい、
「そういう事ね、私もちゃんと聞いてやっと理解できたけど、レッドスライムを使うのはそういう事だと思うわね」
「はい、確かに、そっか、病巣を食べてもらって、スライムからでる分泌物で肌を覆う、そこに薬剤も混ぜて肌を再構築する・・・その際の痛みはマスイで緩和して、最終的には治療魔法で傷を塞ぐ・・・というか皮膚を再生ですか・・・これも凄い概念ですけど・・・そういう事ですね」
「そうなると思うけど・・・タロウさんね、そういう事でいいのよね」
ヒョイとユーリは顔を上げ、タロウは振り返りニヤリと微笑む、どうやらそれでいいとの答えらしい、
「・・・まとめてもらってやっと理解出来たわね・・・」
マルルースがフーと鼻息を荒くする、
「そう・・・ですね・・・何か大事になってしまって・・・」
エルマが申し訳なさそうに呟くも、
「大事なのは最初から分かっていた事でしょ」
「そう・・・ですね、はい、その通りです」
「ですね、なので・・・私も出来るだけ関与しますので・・・まぁ、あれを見る限り痛みも少ないでしょうし・・・ソフィアもタロウも腕利きなので、その辺はご安心を、あとは、実際にやってみないとですね・・・」
ユーリが腕を組んで他にあるかなと首を傾げる、なんのかんのと騒いでいたが信頼はしているのかなと、エルマは思わず微笑んでしまった、
「あっ、あれね、問題があるとすれば、そのマスイの方はまだ何とかできそうだけど、治療魔法の方は練習が難しい事かな?」
「それもそうですね、あれですか、やっぱり他人を傷つけてやるのがいいんでしょうか・・・」
「それが一番だと思うんだけどね、それはほら・・・なんか嫌よね」
「確かに・・・」
大きく頷く者多数であった、
「かと言って・・・自分の体で練習するのも違うしね・・・だから、ほら、あまり大っぴらにしてなかったのよ、便利なのは知ってるし、役に立つのも分るんだけど・・・今一つ扱いが難しくて、久しぶりに使ったけど・・・まぁそんなところで」
とユーリは言葉を続け、改めて治療魔法の呪文、その際に思い浮かべる方向性等が語られ、理解を深める女性達であった。
タロウが数度左手を大きく開いては握りこぶしを作り、しっかりと動く事をマルルースとエルマに見せつけた、
「そうね・・・どうかしら?」
マルルースがエルマに問いかけ、
「はい、その・・・大変に・・・素晴らしい技術かと思います」
エルマは困惑しながらそう答えるしかなかった、タロウとソフィアによって説明された治療に関する知識であるが、エルマが魔法に関しては素人同然の門外漢であったとはいえ、あまりにも高い技術と初めて目にし耳にする事ばかりで正直理解が追い付いていない、この場でこの二人に食らい付いていたのはどうやらユーリだけのようで、メイド達は勿論マルルースもカトカとゾーイでさえ、二人の説明を聞き取るだけで精一杯であった様子である、
「まぁ、一気に話してしまいましたからね、全てを理解しろなんて事は言いません、ただ・・・」
タロウはニコリと微笑み、
「痛みを伴う施術にならない事、想定される傷痕はこのように全く消えてなくなる事、まぁ、今回はね、それこそが目的なので、その点を御理解頂ければと思います」
「はぁ・・・」
エルマは気の抜けた溜息で答えてしまい、マルルースも確かにそうかもねと頷くしかない、実際に目の前で行われたソフィア曰くの実践とされたその手技は大変に血生臭いもので、タロウの左手の甲には小さなナイフがザックリと突き刺さり、ドクドクととまではいかないが、じっとりと赤い血液が流れだしている、そういう血に慣れていない女性達は思わずヒィっと悲鳴を上げてしまった、しかし当のタロウは平気な顔で、まるで痛みは感じないと微笑む有様で、しかしやはり何かが刺さっている感覚はあるのだという、これは完全に感覚を遮断しているわけではなく、鈍化させている証拠だとタロウは平然と言い放った、そのタロウに無理にやせ我慢している様子は無く、遮断と鈍化の違いをマルルースもエルマも理解する事は無かったが、その痛みを消すという魔法の効果だけはなんとか理解できた、そしてソフィアはそのナイフを引き抜くと、今度は治療魔法を頼むとユーリを指名し、そこでさらに幼馴染のすったもんだがあったのであるが、早くしてくれ血が抜けると悲鳴を上げるタロウを見て仕方が無いとユーリが腰をあげ、短い呪文を唱えるとあっさりとその傷痕を消している、治療魔法とソフィアとユーリは呼称しているが、他の者が見る限り、それは治療では無く、傷痕を消したようにしか見えなかった、これが高度な魔法なのかとマルルースとエルマは信じられないと感心するほか無く、さらにソフィアは治療が終わった左手に魔法をかけている、曰くマスイを解く魔法であるらしい、放っておいても半日程度で効果は無くなるそうなのであるが、タロウはこの後も忙しいらしく、左手がこの状態では困るであろうと一手間かけたとの事で、タロウはそれはすまんねと渋い顔を見せていた、そうしてタロウは血まみれであった左手を手拭いで綺麗に拭って笑顔を浮かべている、マルルースとエルマとしてはなんとか理解した事を伝えたかったのであるが、正直それでは嘘になる、説明そのものは明確で分かりやすかったし、実際に魔法に関しては目にしたのであるが、まるで夢のような技術であってまるで実感が湧かないのであった、その背後では、
「ほれ、書きなさい」
「えー・・・だってさー、あれはよくわかんないのよねー」
「何を言ってるの?得意じゃないのは知ってるけど、出来ないって事は無いでしょ」
「そうだけどさー・・・」
「めんどくさがるな、折角開発したものでしょ、最後まで責任持ちなさい」
「責任って言われても・・・別に私が使えればそれでいいんだし・・・」
「良くないわよ、どんだけ便利なものかあんた分かってるでしょ」
「そうだけどー」
「いいからやれー」
とグズグズとめんどくさがるソフィアにユーリがギャンギャン吠えたてている、まぁ、その気持ちは分かるかなとカトカとゾーイは同情してしまう、それはソフィアにでは無く、ユーリに対しての同情であったのだが、
「でもさー・・・あー・・・とっかかりがまるで浮かばないのよねー」
「ムッ・・・どういう意味よ」
「ほら、まずね、霧の魔法がね、再現するの難しかったでしょ」
「まぁね」
「あれをね、ギュッとまとめて、それで、手の中に吐き出して、で、それを振りかけて、安定させる?って感じなんだけど」
「なによ、想像できてるんじゃない」
「だけどー、ほら、そのね、霧の魔法がね、何となくでやってるもんで」
「ムキャー、それが大事でしょ」
「それは分かってるから、困ってるんでしょ」
「困ってるわけないでしょ」
「困ってますー」
「嘘を言えー!!」
すっかりソフィアに遊ばれるユーリである、ユーリとしてはこのソフィアの曖昧な感覚主義が大変にもどかしかった、ソフィアは言わば魔法の天才ではあった、それはタロウに鍛えられた後に発現したもので、タロウと同じように小難しい魔法を感覚で使えてしまうのである、呪文の詠唱など必要とせず、あぁこうなんだと理解したもの、ソフィアとタロウはそれを真理と呼称しているが、それさえ理解すれば呪文は必ずしも使う必要もなければ存在すら疑問だという、対してユーリは理論派であった、秀才肌と言い換えても良い、感覚よりも理屈が必要で、故に魔法を使用する際には呪文が必要であったりする、得意な呪文やその真理とやらを理解できればそうでもないのであるが、彼女らが触れてきた魔法は大変に巧緻で複雑なものばかりで、呪文から理解を深め、発展改良する事をユーリは得意としている、この二つの才能が先の大戦時にはタロウの大きな助けになった、タロウが思い付く度に試しとばかりに披露する魔法をソフィアはなるほどと瞬時に模倣し、ユーリはソフィアからその仔細を引き出しつつ呪文であるとか理論であるとかを構築した、特に結界魔法に関しては二人の活躍があってこそで、転送陣の開発にはユーリがその能力を遺憾なく発揮していたりする、
「まぁ、こっちはこっちで」
「そうですね・・・」
カトカとゾーイはどうやら進展は遅そうだなと諦め、手元の黒板をまとめる事としたらしい、数枚に渡って記されたそれは何とも乱雑なもので、今回特に壁の黒板はあまり使用されず、殆どが口頭での説明になってしまっている、メイド二人も困った顔で黒板を見ていた為、ここはとカトカは二人を誘い、四人でまとめることにした、そこへ、
「お掃除終ったー」
とミナが食堂に駆け込んでくる、
「あら、ありがとう」
ソフィアは丁度良かったと笑顔を見せる、
「ウフフー、あとはー、他にはー」
すっかりおねえさん気取りのミナである、ソフィアとユーリの座るテーブルに乗り上げて、もっと褒めろと笑顔を見せた、
「あー、ミナ、ゴメンね、邪魔しないで」
ユーリがブスリとミナを睨む、
「えー、なにがー」
「ソフィアがね、お仕事しないの」
「お仕事?」
「そうよ、お仕事、のらりくらりとめんどくさいったらないのよ」
「えー、そなのー」
「んー・・・だってー、ユーリが虐めるんだもん」
ソフィアがニヤリと微笑む、アン?とユーリがソフィアを睨むも、
「ムー、ユーリめー、イジメルナー」
ミナがここぞとばかりに騒ぎ始め、
「虐めてないでしょ、あんた駄目よ、ミナを使わないで」
「使ってないですー、ミナは私の味方ですー」
「そうなんですー、ミナはソフィアのミカタなのー」
ソフィアの口調を真似るミナを、このーとユーリが睨むも、
「キャー、ユーリ怖いー」
ミナがキャッキャッとソフィアに抱き着き、
「ねー、怖いよねー」
「うん、怖いー、ユーリ、いじめっ子だー」
「そうよねー、ユーリは駄目ねー」
「そうだー、ダメだー、ダメ人間だー」
調子にのる親娘にこいつらはとユーリは顔を歪め、何をやっているのやらと振り返るマルルースとエルマであった。
そんなこんなであっという間に正午を過ぎた、マルルースとエルマは黒板をまとめる四人に合流して改めてその知識を深め、ユーリはソフィアをギリギリと詰めており、ミナとレインはユーリと一緒になってソフィアを茶化す、タロウはそう言えばと薬草やらスライムやらの点検をしつつ、アッと叫んであれもあったなどうしようかと首を捻っている、
「所長、この治療魔法なんですけど、これは呪文になってますよね」
カトカが黒板を見ながら顔を上げた、
「ん?なってるわよ」
「正確なの教えて頂けます?」
「あー、はいはい、じゃ、ミナ、レイン、ソフィアを見ててね」
「了解じゃ」
「リョウカイじゃー」
明るく叫ぶミナに、ソフィアはもーと顔を顰めるもすぐに黒板に戻った、まぁ確かにケイスに教えて楽をしようとは思っており、そうなれば呪文を織らない事には始まらない、昨晩の時点で気付いていれば良かったかな等と反省もしていたりする、
「で、なに?」
席を移したユーリがやれやれと溜息混じりである、
「呪文です、あと、詳細を伺えればと思います」
ゾーイがスッと顔を上げ、マルルースとエルマも興味があるのか真剣な瞳であった、
「そうね、あれはそれほど難しい魔法ではないんだけど・・・まずは使い方としては、刺し傷とか切り傷ね、そういう怪我に有効かしら、抉り傷とか削いだ感じの傷には有効とは言えなくて・・・だから繋ぎ合わせて元に戻すっていう感覚、それが大事になるわね」
「すいません、どれくらいの大きさまで対応できます?」
とカトカの冷静な質問である、ユーリはあーこういうのの方が楽だし楽しいわーとホッと安堵してしまった、ぶつくさとうるさく挙句のらりくらりとハッキリしないソフィアの相手をするよりも理知的で前向きで大変に心地が良い、
「それは魔力によるわね、私やソフィアならね、それこそどんな大きな傷でもなんとかなるけど、そうね、あんたらなら・・・うん、カトカなら腕一本分?は変な表現かな、切り傷にして・・・表現が難しいわね・・・」
「そうですね、じゃ、仮に腕一本分の長さの傷を基準にします?」
「そうね、それであればカトカなら対応出来るし、ゾーイなら・・・それが数十本?」
オオッーと小さな歓声が起こり、ゾーイに視線が集まった、
「あれよ、あくまで目安よ、その基準でやれば・・・カトカだとぶっ倒れるかもしれないギリギリの感じ?」
「なるほど・・・なるほど・・・」
黒板の鳴る音が響き、
「そうすると、今回の治療に関してですが・・・あっ、そうか・・・ここに繋がるんですね」
カトカが何かに気付いたらしい、
「そういう事ね、私もちゃんと聞いてやっと理解できたけど、レッドスライムを使うのはそういう事だと思うわね」
「はい、確かに、そっか、病巣を食べてもらって、スライムからでる分泌物で肌を覆う、そこに薬剤も混ぜて肌を再構築する・・・その際の痛みはマスイで緩和して、最終的には治療魔法で傷を塞ぐ・・・というか皮膚を再生ですか・・・これも凄い概念ですけど・・・そういう事ですね」
「そうなると思うけど・・・タロウさんね、そういう事でいいのよね」
ヒョイとユーリは顔を上げ、タロウは振り返りニヤリと微笑む、どうやらそれでいいとの答えらしい、
「・・・まとめてもらってやっと理解出来たわね・・・」
マルルースがフーと鼻息を荒くする、
「そう・・・ですね・・・何か大事になってしまって・・・」
エルマが申し訳なさそうに呟くも、
「大事なのは最初から分かっていた事でしょ」
「そう・・・ですね、はい、その通りです」
「ですね、なので・・・私も出来るだけ関与しますので・・・まぁ、あれを見る限り痛みも少ないでしょうし・・・ソフィアもタロウも腕利きなので、その辺はご安心を、あとは、実際にやってみないとですね・・・」
ユーリが腕を組んで他にあるかなと首を傾げる、なんのかんのと騒いでいたが信頼はしているのかなと、エルマは思わず微笑んでしまった、
「あっ、あれね、問題があるとすれば、そのマスイの方はまだ何とかできそうだけど、治療魔法の方は練習が難しい事かな?」
「それもそうですね、あれですか、やっぱり他人を傷つけてやるのがいいんでしょうか・・・」
「それが一番だと思うんだけどね、それはほら・・・なんか嫌よね」
「確かに・・・」
大きく頷く者多数であった、
「かと言って・・・自分の体で練習するのも違うしね・・・だから、ほら、あまり大っぴらにしてなかったのよ、便利なのは知ってるし、役に立つのも分るんだけど・・・今一つ扱いが難しくて、久しぶりに使ったけど・・・まぁそんなところで」
とユーリは言葉を続け、改めて治療魔法の呪文、その際に思い浮かべる方向性等が語られ、理解を深める女性達であった。
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