986 / 1,050
本編
72話 メダカと学校 その27
しおりを挟む
ソフィアがもうと微笑みつつ、改めて予定について大雑把に説明すると、
「嬉しいです、もっとかかるかと思ってました・・・」
エルマは満面の笑みをソフィアに向けた、無論その表情が相手に伝わる事は無いと承知していたが、その明るい声音にソフィアもマルルースもどうやら大丈夫そうだとホッと安堵する、
「まぁ、あくまで予定でしかないですけどね、何らかの結果・・・方針は見えていると思いますこの頃には」
「はい、ありがとうございます」
大きく頷くエルマである、その染髪だとか新しい衣服だとかも気になるがやはりここは自分の問題であった、そして同時に子供というのはそういうものであったと改めて思い知る、マルルース曰くどうやら他の家庭教師にも綽名があったらしく、それはイフナースがそう名付けたのが始まりのようで、あのヤンチャで次男坊らしい次男坊であるイフナースであればさもありなんと前向きに考えてしまった、相手は子供でさらには男子なのである、綽名程度は普通であるし、自分の子供達にも手を焼かされたもので、マルルースがその程度がなんだとまるで気にしていないのにも得心がいく、相手は子供なのである、大人であり教師であった自分が振り回される必要は毛ほども無いのだ、
「良かったわね」
マルルースが優しい笑みを浮かべ、ハイッと嬉しそうにエルマは答えた、
「まぁ、あくまで予定ですから・・・それに上手くいくとは現時点では断言できませんので、その点御容赦下さい」
「はい、勿論です」
大きく頷くエルマであった、郷里を離れこの地に来た目的は爛れた皮膚の治療であるのは当然であったが、その目的意識が初日であるにも関わらず既に希薄になってしまっている、この寮の初めて見る様々な道具と若く情熱的な研究所員、さらにはこの愛らしい子供達に囲まれてしまっては、もう10年の付き合いになる醜い顔の事等置き去りになったとしても不思議は無い、それほどにこの半日はエルマにとって濃厚でかつ良い刺激になっている、子供らしい悪意ある渾名もまたその一因となったであろう、
「しかしまぁ・・・これも仕事と思えば・・・ね、それにそう思えばもっとこう本腰を入れないとってなりますし・・・」
「あら、本腰じゃなかったの?」
「まだですね、午後から本腰が入ります」
悪びれず微笑むソフィアにこれだからとマルルースは苦笑いで目を細める、
「そう・・・あっ、エルマ、こちら、レネイさんで良かったわね?」
とマルルースは思い出したように二人を引き合わせ、レネイは恐縮しつつ腰を上げて一礼し、エルマもいつの間にやら人が増えていたと慌てて対応する、どうやらレネイにも気付いていなかったようで、これはよほどの衝撃だったのだなとマルルースはこちらにも苦笑いを浮かべてしまった、
「すいません、その子達うるさく無かったですか?」
エルマの傍らで実に熱心に書に向かい、時折ギャーギャー騒ぎ出す義妹達へレネイが視線を向ける、うるさい事には変わりないが走り回ってないだけまだましかと詮無い事を思ってしまう、
「うるさいのは仕方ないですよ、子供はそういうもんです」
「確かにそうなのですが、すいません、お手を煩わせて」
「そんな、とても楽しいですよ、そうだ、サスキアちゃん、黒板を見せてあげて」
エルマが振り返ると、サスキアはスッと顔を上げた、そのまま無言で黒板を掴み寝台を下り、ハイッとばかりにレネイに黒板を突き出した、
「どうしたの?」
「・・・上手って・・・ほめられた・・・」
レネイの若干困惑した顔にサスキアは小さく答える、褒められた?とレネイは黒板を見つめる、そこにはサスキアの名と家門名が綺麗な文字で羅列されており、ん?とレネイは首を傾げ、
「これ・・・エッ、サスキアが書いたの?」
コクリと頷くサスキアである、すぐに、
「そうなのー、サスキアちゃん上手なのー」
「むー、ノーラも上手だよー」
「ノールも上手くなったー」
「ミナもー、ミナも上手ー」
ここぞとばかりに騒ぎ出す三人である、エッとレネイは改めて黒板を確認し、本当かしらとエルマを見つめる、エルマはゆっくりと大きく頷く、
「そっか・・・サスキア凄いのね」
レネイの静かな賞賛に、無言で照れくさそうな笑顔を見せるサスキアである、もうとレネイはその頭を撫でつけ、やっとサスキアはえへへと呟いた、
「そうだ、じゃ、あれね、明日から通いなさい」
ソフィアが席に戻りながら言い放つ、通う?黒板をサスキアに返しながらレネイは首を傾げた、
「あのね、エルマさんに勉強を見てもらおうって思ってね、だから、三人も一緒に見て貰えばいいわ、折角の機会だしね」
ニコニコと席に着くソフィアである、
「エッ・・・でも、その・・・おう・・・貴族様の家庭教師であった方・・・ですよね・・・」
王族と言いかけて必死に貴族様と言い換えたレネイである、マルルースからの紹介で目の前の人物が如何に特別であるかを瞬時に理解し、またその異様な装束もあっさりと受け入れていた、何らかの事情はすぐに察せられ、それを問い質すのは失礼どころの話しでは無いであろう、マルルースは勿論ソフィアもそれを当然としているのだ、回転の早さと順応性は流石遊女であっただけはある、
「そうよー、滅多にない事よー、マルルース様もエルマさんほどの教師は探しても見つからないってくらいの評価だし、それにほら、ミナだけを見てもらうのもね、物足りないかもだし」
ソフィアが意地悪そうにエルマに視線を送る、そんなことはないとエルマは顔を顰めるが、その表情は伝わっていなかった、
「そうね、遠慮する事はないわよ」
マルルースものほほんと微笑み、
「貴方達にも何らかのお返しが必要かなって思ってたし、何かと協力頂いてるみたいだからね、と言っても表立っては難しいからね、影ながら支援するわよ」
と続けた、再びエッと驚くレネイである、すぐに、
「そんな、私達こそ、お返ししなければならない事ばかりです、お世話になっているのはこちらですよ」
ワタワタと慌てるが、
「それはだって、ソフィアさんとかタロウさんとか、エレインさんでしょ、私もね、この人達には大変に世話になっているんだから、そのくせ妙にね、欲が無いというか、適当というか、勝手放題というか・・・」
フスーと鼻息を荒くするマルルースである、あまりの言い草にレネイはそんな事はないですよと言いかけて黙り込んだ、まったくもってその通りだったからである、
「またそんな事言ってー」
ソフィアがアッハッハと笑うもそれにつられる者はいなかった、メイド達は勿論であるし、レネイはマルルースの弁はその通りだと同意し、エルマは似たような事を言われているなと首を傾げている、
「・・・ありゃ・・・」
ソフィアがすぐに笑いを止めてどうしたものかと顔を顰める、
「フフッ、まぁいいわ、そういう事だから、エルマ、先はどうなるか分かりませんけれど、ここはしっかりと家庭教師をやりなさい」
「はいっ、喜んで承ります」
エルマがスッと背筋を伸ばして一礼する、
「ソフィアさん、レネイさんもそういう事だから、宜しくね、ミナちゃん、ノールちゃん達もエルマ先生の言う事をしっかり聞くのよ」
ハーイと素直な返事が食堂に響いた、どこまで本気なんだかとソフィアはミナを伺うも、ミナ達はすぐに書に向かっている、この調子が明日以降も続けばいいんだけどなと現実的な事を考えるソフィアであった、そして、今日は一旦戻って、明日マフダと共に顔を出すとの段取りをした上でレネイと三人娘は事務所に戻った、ミナは名残惜しそうに見送る、三人娘の手にはお土産に持って行きなさいとソフィアから渡された藁箱がしっかりと握られていた、中身はドーナッツである、お姉さん達に自分が作ったと自慢なさいねとソフィアが優しく微笑むと、ノールとノーラはピョンピョン飛び跳ね、サスキアもレネイの脚に縋りついて笑顔を見せた、そして、
「うー・・・静かになったー」
ミナは寂しそうに寝台の上をゴロゴロと転がる、同年代の子供と戯れたのは久しぶりの事で、喪失感が大きいのであろう、
「そうね、ほら、ノシ片付けて、明日また来るんだから、いい、ミナが一番のお姉さんなんだからね、しっかりしないと駄目よ」
ソフィアがニコリと微笑む、ミナはエッと顔だけを上げ、
「・・・ミナがおねーさんなの?」
「そうよー、サスキアちゃんが一番小さいのかしらね、ノールちゃんもノーラちゃんもミナより小さいでしょ」
「・・・そうなんだ・・・ミナがおねーさん?」
信じられないのかエルマに再確認するミナである、
「そうよ、ミナちゃんが一番大きいわね、ソフィアさんの言う通りしっかりしないとね」
「わかったー」
ミナがピョコンと半身を上げ、
「しっかりするー、えっとえっと・・・どうやるの?」
不思議そうに首を傾げるミナにもうこれだからと大人達は微笑んでしまった、
「そうね、まずはお片付け、あと・・・どうしようかお手伝いする?」
「する、えっと、えっと、お片付けー」
ワタワタとノシを片付け始めるミナである、
「フフッ、この年頃の子は可愛いわよね」
マルルースがのんびりと微笑んだ、
「まったくです、素直で元気で・・・もう少し大きくなるとね、なんて言うか・・・男の子だと手がつけられなくなって、女の子は妙に大人ぶり始めて・・・それはそれで可愛いんですけど・・・小生意気になっちゃいますからね・・・」
エルマも静かに微笑む、
「ですねー、あっ、どうしましょう、明日からの勉強の道具は取り合えずここにあるものを使って貰って」
「あっ、そうですね、先程の教科書もいいですが・・・あっ、カトカさんからベルメルでしたか、あれをお借りしたいですね、それと・・・黒板もあるし・・・教科書もある・・・他に・・・」
エルマがキョロキョロと食堂内を見渡す、足りない物があれば今の内であればマルルースに頼めば手配してくれるであろう、そういった点でマルルースは大変に気前の良い人物である、逆に遠慮すると叱られる程であった、
「お絵描きじゃな」
レインが唐突に口を挟む、エッと大人達が振り向いた、
「お絵描きですか?」
エルマがゆっくりと首を傾けた、
「うむ、ミナはな、良い絵を描くのじゃ、ほれ、その絵もミナが描いたのだぞ」
レインがマントルピースの上に飾られた二枚の額装された絵画を示す、
「それもそうね、ミナちゃんは絵も上手なのよ」
マルルースも思い出したのかポンと手を叩く、
「そうなのじゃ、それにな、どうせ書に向かっているだけでは飽きるからな、絵を描かせるのも息抜きになってよい」
フンと鼻を鳴らすレインである、
「なるほど・・・流石レインちゃんね、ミナちゃんの先生なだけはありますね」
エルマは目から鱗と感心してしまう、
「だけはあるかな、しかし、そうなるとあれじゃな、ニコリーネに頼んでも良いかものう、どうかな?」
レインはフムとソフィアを見上げる、
「そこまで本格的にやるの?」
しかし微妙に顔を顰めるソフィアであった、
「・・・それも面白いかもね」
マルルースがニヤリと微笑み、ニコリーネ?とエルマは首を傾げた、どうやらまだ会ってない人物がいるらしい、
「まぁな、あれはあれで曲者じゃがな」
「あんたに言われたくはないでしょうよ」
「ソフィアに言われたくはないぞ」
ナヌ?と睨み合うソフィアとレインである、この二人はもうとマルルースらは微笑み、
「終わったー、次は次は?」
片付けを終えたミナがソフィアに駆け寄り、ピョンピョン飛び跳ねるのであった。
「嬉しいです、もっとかかるかと思ってました・・・」
エルマは満面の笑みをソフィアに向けた、無論その表情が相手に伝わる事は無いと承知していたが、その明るい声音にソフィアもマルルースもどうやら大丈夫そうだとホッと安堵する、
「まぁ、あくまで予定でしかないですけどね、何らかの結果・・・方針は見えていると思いますこの頃には」
「はい、ありがとうございます」
大きく頷くエルマである、その染髪だとか新しい衣服だとかも気になるがやはりここは自分の問題であった、そして同時に子供というのはそういうものであったと改めて思い知る、マルルース曰くどうやら他の家庭教師にも綽名があったらしく、それはイフナースがそう名付けたのが始まりのようで、あのヤンチャで次男坊らしい次男坊であるイフナースであればさもありなんと前向きに考えてしまった、相手は子供でさらには男子なのである、綽名程度は普通であるし、自分の子供達にも手を焼かされたもので、マルルースがその程度がなんだとまるで気にしていないのにも得心がいく、相手は子供なのである、大人であり教師であった自分が振り回される必要は毛ほども無いのだ、
「良かったわね」
マルルースが優しい笑みを浮かべ、ハイッと嬉しそうにエルマは答えた、
「まぁ、あくまで予定ですから・・・それに上手くいくとは現時点では断言できませんので、その点御容赦下さい」
「はい、勿論です」
大きく頷くエルマであった、郷里を離れこの地に来た目的は爛れた皮膚の治療であるのは当然であったが、その目的意識が初日であるにも関わらず既に希薄になってしまっている、この寮の初めて見る様々な道具と若く情熱的な研究所員、さらにはこの愛らしい子供達に囲まれてしまっては、もう10年の付き合いになる醜い顔の事等置き去りになったとしても不思議は無い、それほどにこの半日はエルマにとって濃厚でかつ良い刺激になっている、子供らしい悪意ある渾名もまたその一因となったであろう、
「しかしまぁ・・・これも仕事と思えば・・・ね、それにそう思えばもっとこう本腰を入れないとってなりますし・・・」
「あら、本腰じゃなかったの?」
「まだですね、午後から本腰が入ります」
悪びれず微笑むソフィアにこれだからとマルルースは苦笑いで目を細める、
「そう・・・あっ、エルマ、こちら、レネイさんで良かったわね?」
とマルルースは思い出したように二人を引き合わせ、レネイは恐縮しつつ腰を上げて一礼し、エルマもいつの間にやら人が増えていたと慌てて対応する、どうやらレネイにも気付いていなかったようで、これはよほどの衝撃だったのだなとマルルースはこちらにも苦笑いを浮かべてしまった、
「すいません、その子達うるさく無かったですか?」
エルマの傍らで実に熱心に書に向かい、時折ギャーギャー騒ぎ出す義妹達へレネイが視線を向ける、うるさい事には変わりないが走り回ってないだけまだましかと詮無い事を思ってしまう、
「うるさいのは仕方ないですよ、子供はそういうもんです」
「確かにそうなのですが、すいません、お手を煩わせて」
「そんな、とても楽しいですよ、そうだ、サスキアちゃん、黒板を見せてあげて」
エルマが振り返ると、サスキアはスッと顔を上げた、そのまま無言で黒板を掴み寝台を下り、ハイッとばかりにレネイに黒板を突き出した、
「どうしたの?」
「・・・上手って・・・ほめられた・・・」
レネイの若干困惑した顔にサスキアは小さく答える、褒められた?とレネイは黒板を見つめる、そこにはサスキアの名と家門名が綺麗な文字で羅列されており、ん?とレネイは首を傾げ、
「これ・・・エッ、サスキアが書いたの?」
コクリと頷くサスキアである、すぐに、
「そうなのー、サスキアちゃん上手なのー」
「むー、ノーラも上手だよー」
「ノールも上手くなったー」
「ミナもー、ミナも上手ー」
ここぞとばかりに騒ぎ出す三人である、エッとレネイは改めて黒板を確認し、本当かしらとエルマを見つめる、エルマはゆっくりと大きく頷く、
「そっか・・・サスキア凄いのね」
レネイの静かな賞賛に、無言で照れくさそうな笑顔を見せるサスキアである、もうとレネイはその頭を撫でつけ、やっとサスキアはえへへと呟いた、
「そうだ、じゃ、あれね、明日から通いなさい」
ソフィアが席に戻りながら言い放つ、通う?黒板をサスキアに返しながらレネイは首を傾げた、
「あのね、エルマさんに勉強を見てもらおうって思ってね、だから、三人も一緒に見て貰えばいいわ、折角の機会だしね」
ニコニコと席に着くソフィアである、
「エッ・・・でも、その・・・おう・・・貴族様の家庭教師であった方・・・ですよね・・・」
王族と言いかけて必死に貴族様と言い換えたレネイである、マルルースからの紹介で目の前の人物が如何に特別であるかを瞬時に理解し、またその異様な装束もあっさりと受け入れていた、何らかの事情はすぐに察せられ、それを問い質すのは失礼どころの話しでは無いであろう、マルルースは勿論ソフィアもそれを当然としているのだ、回転の早さと順応性は流石遊女であっただけはある、
「そうよー、滅多にない事よー、マルルース様もエルマさんほどの教師は探しても見つからないってくらいの評価だし、それにほら、ミナだけを見てもらうのもね、物足りないかもだし」
ソフィアが意地悪そうにエルマに視線を送る、そんなことはないとエルマは顔を顰めるが、その表情は伝わっていなかった、
「そうね、遠慮する事はないわよ」
マルルースものほほんと微笑み、
「貴方達にも何らかのお返しが必要かなって思ってたし、何かと協力頂いてるみたいだからね、と言っても表立っては難しいからね、影ながら支援するわよ」
と続けた、再びエッと驚くレネイである、すぐに、
「そんな、私達こそ、お返ししなければならない事ばかりです、お世話になっているのはこちらですよ」
ワタワタと慌てるが、
「それはだって、ソフィアさんとかタロウさんとか、エレインさんでしょ、私もね、この人達には大変に世話になっているんだから、そのくせ妙にね、欲が無いというか、適当というか、勝手放題というか・・・」
フスーと鼻息を荒くするマルルースである、あまりの言い草にレネイはそんな事はないですよと言いかけて黙り込んだ、まったくもってその通りだったからである、
「またそんな事言ってー」
ソフィアがアッハッハと笑うもそれにつられる者はいなかった、メイド達は勿論であるし、レネイはマルルースの弁はその通りだと同意し、エルマは似たような事を言われているなと首を傾げている、
「・・・ありゃ・・・」
ソフィアがすぐに笑いを止めてどうしたものかと顔を顰める、
「フフッ、まぁいいわ、そういう事だから、エルマ、先はどうなるか分かりませんけれど、ここはしっかりと家庭教師をやりなさい」
「はいっ、喜んで承ります」
エルマがスッと背筋を伸ばして一礼する、
「ソフィアさん、レネイさんもそういう事だから、宜しくね、ミナちゃん、ノールちゃん達もエルマ先生の言う事をしっかり聞くのよ」
ハーイと素直な返事が食堂に響いた、どこまで本気なんだかとソフィアはミナを伺うも、ミナ達はすぐに書に向かっている、この調子が明日以降も続けばいいんだけどなと現実的な事を考えるソフィアであった、そして、今日は一旦戻って、明日マフダと共に顔を出すとの段取りをした上でレネイと三人娘は事務所に戻った、ミナは名残惜しそうに見送る、三人娘の手にはお土産に持って行きなさいとソフィアから渡された藁箱がしっかりと握られていた、中身はドーナッツである、お姉さん達に自分が作ったと自慢なさいねとソフィアが優しく微笑むと、ノールとノーラはピョンピョン飛び跳ね、サスキアもレネイの脚に縋りついて笑顔を見せた、そして、
「うー・・・静かになったー」
ミナは寂しそうに寝台の上をゴロゴロと転がる、同年代の子供と戯れたのは久しぶりの事で、喪失感が大きいのであろう、
「そうね、ほら、ノシ片付けて、明日また来るんだから、いい、ミナが一番のお姉さんなんだからね、しっかりしないと駄目よ」
ソフィアがニコリと微笑む、ミナはエッと顔だけを上げ、
「・・・ミナがおねーさんなの?」
「そうよー、サスキアちゃんが一番小さいのかしらね、ノールちゃんもノーラちゃんもミナより小さいでしょ」
「・・・そうなんだ・・・ミナがおねーさん?」
信じられないのかエルマに再確認するミナである、
「そうよ、ミナちゃんが一番大きいわね、ソフィアさんの言う通りしっかりしないとね」
「わかったー」
ミナがピョコンと半身を上げ、
「しっかりするー、えっとえっと・・・どうやるの?」
不思議そうに首を傾げるミナにもうこれだからと大人達は微笑んでしまった、
「そうね、まずはお片付け、あと・・・どうしようかお手伝いする?」
「する、えっと、えっと、お片付けー」
ワタワタとノシを片付け始めるミナである、
「フフッ、この年頃の子は可愛いわよね」
マルルースがのんびりと微笑んだ、
「まったくです、素直で元気で・・・もう少し大きくなるとね、なんて言うか・・・男の子だと手がつけられなくなって、女の子は妙に大人ぶり始めて・・・それはそれで可愛いんですけど・・・小生意気になっちゃいますからね・・・」
エルマも静かに微笑む、
「ですねー、あっ、どうしましょう、明日からの勉強の道具は取り合えずここにあるものを使って貰って」
「あっ、そうですね、先程の教科書もいいですが・・・あっ、カトカさんからベルメルでしたか、あれをお借りしたいですね、それと・・・黒板もあるし・・・教科書もある・・・他に・・・」
エルマがキョロキョロと食堂内を見渡す、足りない物があれば今の内であればマルルースに頼めば手配してくれるであろう、そういった点でマルルースは大変に気前の良い人物である、逆に遠慮すると叱られる程であった、
「お絵描きじゃな」
レインが唐突に口を挟む、エッと大人達が振り向いた、
「お絵描きですか?」
エルマがゆっくりと首を傾けた、
「うむ、ミナはな、良い絵を描くのじゃ、ほれ、その絵もミナが描いたのだぞ」
レインがマントルピースの上に飾られた二枚の額装された絵画を示す、
「それもそうね、ミナちゃんは絵も上手なのよ」
マルルースも思い出したのかポンと手を叩く、
「そうなのじゃ、それにな、どうせ書に向かっているだけでは飽きるからな、絵を描かせるのも息抜きになってよい」
フンと鼻を鳴らすレインである、
「なるほど・・・流石レインちゃんね、ミナちゃんの先生なだけはありますね」
エルマは目から鱗と感心してしまう、
「だけはあるかな、しかし、そうなるとあれじゃな、ニコリーネに頼んでも良いかものう、どうかな?」
レインはフムとソフィアを見上げる、
「そこまで本格的にやるの?」
しかし微妙に顔を顰めるソフィアであった、
「・・・それも面白いかもね」
マルルースがニヤリと微笑み、ニコリーネ?とエルマは首を傾げた、どうやらまだ会ってない人物がいるらしい、
「まぁな、あれはあれで曲者じゃがな」
「あんたに言われたくはないでしょうよ」
「ソフィアに言われたくはないぞ」
ナヌ?と睨み合うソフィアとレインである、この二人はもうとマルルースらは微笑み、
「終わったー、次は次は?」
片付けを終えたミナがソフィアに駆け寄り、ピョンピョン飛び跳ねるのであった。
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!
ree
ファンタジー
波乱万丈な人生を送ってきたアラフォー主婦の檜山梨沙。
生活費を切り詰めつつ、細々と趣味を矜持し、細やかなに愉しみながら過ごしていた彼女だったが、突然余命宣告を受ける。
夫や娘は全く関心を示さず、心配もされず、ヤケになった彼女は家を飛び出す。
神様の力でいつの間にか目の前に中世のような風景が広がっていて、そこには普通の人間の他に、二足歩行の耳や尻尾が生えている兎人間?鱗の生えたトカゲ人間?3メートルを超えるでかい人間?その逆の1メートルでずんぐりとした人間?達が暮らしていた。
これは不遇な境遇ながらも健気に生きてきた彼女に与えられたご褒美であり、この世界に齎された奇跡でもある。
ハンドメイドの趣味を超えて、世界に認められるアクセサリー屋になった彼女の軌跡。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる