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本編

72話 メダカと学校 その17

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「そうなりますねー」

と妄想に取りつかれていないテラは同意のようである、

「うん、まずもって・・・皆さんで回さないとだし・・・だから、やっぱり制服かな、それはあると便利だよ、君らのほらあの輝く前掛けは当然として、メイドさんの服もね、統一してあげるとカッコイイ」

「それ前にも話してましたよね」

「だね、やっぱりね、衣装の統一って大事でね、それを着ているだけで店の人ってのが分かるし・・・あっ、そっか・・・マフダさんにさ新しい衣装を、新しいメイド服を作って貰えばいいんだよ、それこそメイドの服とはこうだって感じのやつ」

何とも難しい事を簡単に言い放つタロウであったが、そのマフダはマフダで妄想の中である、イジース君ってちょっと見かけた会長の甥っ子さんだよなと、あんなに賢そうで可愛い弟がいたら嬉しいなとエレインのそれと若干方向性が違っていたが、妄想に浸っていることには変わりない、正にイージス恐るべしといった状況である、

「メイドの服ですか?」

「うん、ここの領主様もそうだし、北ヘルデルのお姫様の所もそうなんだけど、メイドさんってほら、服自体は統一されて無いからね、前掛けだけは統一してあって、それでメイドさんってわかるんだけど・・・だけどそうなるとメイドさん達はわりとね好き勝手な恰好してるから、今一つ清潔感が無い・・・」

「なるほど・・・オリビアさんどうかしら?」

とテラが側に控えるオリビアを見上げるがオリビアもどうやら妄想に浸っているらしい、俯いたその頬は珍しくも緩んでおり、なにやらウフフと呟き笑いを零しているようで、

「オリビアさん」

テラが再び呼びかけると、ハッと顔を上げた、ありゃとタロウが周囲を見渡せば、何やら皆心ここにあらずと手が止まっている、隣りのグルジアまでがポーっとしている有様で、

「テラさん」

と目配せすると、テラも呆然とする一同に気付いて、

「こらっ、どうしたの?」

怒声が響き渡った、ハッと顔を上げ、慌てて口元の涎を拭く者までいる始末で、タロウはそんなにか?と眉を顰める、どうやら男性従者の姿は見事に少女達の心を掴んだらしい、やっぱりそういうの好きなんだろうなとタロウは再確認し、テラはまったくと鼻息を荒くした、

「すいません、聞いておりませんでした」

オリビアが素直に非を認め、頭を下げる、

「いいよ、気にしないで、でも、やっぱりいいでしょ、男性従者・・・」

タロウがニコリと微笑むと、

「はい・・・その・・・はい・・・いいと思います・・・」

再び素直に認めるオリビアである、あのオリビアでさえこうなのだ、他の欲望により素直な女性達であればいちころなのは仕方が無い、近くのテーブルに席を移したジャネットは未だエヘヘとだらしない笑みを浮かべており、ケイスまでもが恥ずかしそうに頬を染めている、

「だよね、まぁそれはおいおいとして、メイドさんの服なんだけど」

とタロウは再び説明すると、

「確かに・・・」

とやっとオリビアは沈思する、さらにエレインとグルジアもなるほどそうかもしれないと思考を始めるが、どうやら先程迄の妄想は思考の中心にドカンと存在するらしく、あっという間にだらしない顔に戻ってしまった、

「しかし、私どもとしては動きやすく、汚れても構わない服としてこちらを選んでおります、それにお屋敷勤めとなればある程度共通していると思うのですが・・・」

オリビアは前掛けの下、自分で選んでいるという服の袖を摘まんで見せる、確かに動きやすそうな服であるが、それは平民の服と大きく変わらない、変わりようが無いのが現在の王国の服飾文化であった、

「それは理解しているよ、すぐにほらメイドさんだなってわかるからね、でもね・・・」

タロウはそこでんーと首を捻り、

「やっぱり、一着作らないと駄目かな・・・」

と呟いた、

「そうなりますよね・・・」

ニヤリとテラが微笑む、結局人は言葉を幾ら弄した所で理解できる事には限界がある、前回のチャイナドレスもそうであったが、タロウの中に確固たるものがあるのであればそれを表に出してしまうのが最も理解に易い、

「だね・・・あー・・・でもなー・・・俺もそんな詳しくないからな・・・あれは・・・うん、先にあっちをって思ってたけど・・・」

グズグズ悩みだすタロウである、

「そこまで言ってしまっては気になりますよ」

「そうだよね・・・うん、じゃ・・・マフダさんに話して・・・サビナさんも同席してもらってかな・・・姫様は・・・出来上がってからでいいか」

「それで良いと思います」

テラが上手く行ったかなと微笑んだ、まさか新店舗の打合せが新しいメイド服の話題になるとは思ってもいなかったが、これはこれで良しとするしかない、ましてここ数日マフダがうんうんと悩んでいる様子を見ている、チャイナドレスそのものは良いのであるが、それをどう改良しようとも一般受けする品にするのは難しく、より扇情的になってしまってこれで良いのであろうかとテラに相談する有様で、昨日からは基本的なチャイナドレスの生産に入った為だいぶマシであったが、それ以前は可哀そうな程に悩んでいたのだ、まったくもって生真面目過ぎるなとテラは思うも、若いうちの葛藤は必ずその人の糧になるであろうと暖かく見守るしかなったのである、

「ん、まぁ、じゃ、それはそれで、で、喫茶店か・・・他にあるかな?」

「はい、配管も進んでました、なので、トイレですね、こちらなんですが・・・」

とテラはより細かい点を議題にする、生徒達もやっと手を動かし始め、するとキャッキャッと騒がしくなった、どうやらお互いの妄想を話しだしたらしい、経営陣達もそっちの方が面白そうだなと視線を彷徨わせるが今はこちらの方が重要である、しっかり聞いておかないと示しと言うものがつかないと顔面に力を込めたりしていた、

「なるほど・・・では、それはあれですね、ニコリーネさんに手伝って貰って、ブラスさんにも相談して・・・」

「だね、うん、あとは・・・あっ、大事なあれだ、魔法石はどうする?」

「あっ、それはユーリ先生とも話しておりました」

とやっとエレインも参戦した、

「そうなんだ、じゃ、任せていいね」

「はい、アニタさんとパウラさんに管理をお願いする予定です」

アニタとパウラがハイッと嬉しそうに声を上げる、

「そっか、まぁ、ほら、定期的に交換すればいいだけだけど・・・そっか、今の内から仕込んでおいた方がいいのかな?」

「それもソフィアさんに寮の井戸でやってもらってました」

「あら、段取りいいねー、じゃ大丈夫かな・・・」

「あっ、そのガラス窓なんですが」

とさらに議論は進み、こんなもんかなと皆が納得したところでやっとマフダの出番となった、カチャーが寮に走りサビナを連れて来る、サビナはサビナで急にまたと渋い顔であったが、生徒達の何やら艶めかしい視線を感じ何かあったのかと訝しそうに首を傾げた、

「サビナさんも先に言って頂ければいいのに」

一人ブスッと睨むのがエレインである、

「エッ・・・なにが?」

サビナはさらに首を傾げてしまった、

「なにがって・・・もう・・・みずくさい・・・」

「みずくさい?」

「はいはい、じゃ、サビナさんは向こうで、ほら、他のは仕事に集中なさい」

テラが場をまとめた、ハーイと黄色い声が事務所に響く、

「では、なんだけど・・・」

とサビナが席に着いたのを確認し、タロウが口を開いた、マフダとオリビア、メイド組の生徒が数人、エレインとテラ、グルジアも同席する、

「まずね、メイド服の要点として、汚れが目立たない事と、汚れるのが前提で汚してもいい仕掛けってのがあるんだよ」

とタロウは続けた、まずは理屈から始めるあたりが駄目なんだよなーとテラは微笑んでしまう、どうしても男性はそういう傾向にあるとテラはその経験上理解していた、タロウもその例に漏れないのは重々理解している、特にタロウは理屈っぽい、それは誰もが認めるところであろう、

「なもんでね、まず考える事ってのが」

とタロウはやっと黒板を手にすると、大雑把な服の形を描き、

「汚れが目立たない色ってのは、やっぱり黒か濃い紺色だとおもうんだけど、どうかな?」

と一同を見渡す、ウーンと首を傾げる者と、確かになと頷く者に別れ、

「すいません、埃が目立つと思います」

オリビアが率先して意見を出す、

「うん、それは確かに、だけど、それは逆に目立つから払うのも始末するのも楽でしょ」

「そうです・・・ね・・・」

「うん、だから、ここでいう汚れってのは、水汚れとか油の汚れとかなんだよね、特に水を良く使うでしょ、メイドさん達は」

「はい、それはもう」

「だよね、でも水の汚れってそう簡単に乾かないんだよ」

「それはそうですね・・・」

「でも、埃ってすぐに落とせるでしょ」

「そうですけど・・・そっか・・・そう考えるしかないんですか・・・」

「そういう事」

オリビアがどうやらその理屈の一つを理解したらしい、なるほどと頷くもの多数である、

「でね、材質に関してはあるもので作るしかないんだけど、次に汚れるのが前提での仕掛けになるんだが」

と黒板に何やら書き加えるタロウである、何だろうと覗き込む一同に、

「これをね、付け袖って呼ぶらしい」

「付け袖・・・ですか」

「うん、どうだろう、掃除にしろ料理にしろ汚れる箇所って決まってない?」

タロウが顔を上げると、確かにとこれには皆が同時に頷き、と同時にアッと声が上がる、

「そういう事、特にこの袖口が汚れるんだよね、だろ?」

「はい、そうです」

オリビアが代表して答え、大きく頷くメイド部隊であった、

「他にも肘とか膝とかが汚れるんだけど、膝はほら前掛けをしっかり着けていれば気にならないと思うし、肘は・・・これは気を付けてとしか言い様が無いかもな・・・」

「肘はそれほどでも無いですよ、どちらかと言えば擦り切れる感じなので・・・はい、汚れるよりもそちらの方が気になります・・・」

「そう?」

「はい、でも膝は確かに汚れますね」

「だね、でも前掛けがあるから大丈夫・・・となると」

「付け袖ですか・・・」

「そうなる、袖の部分だけ付け外せるようにして、汚れたらすぐに交換・・・服自体を洗うのは大変だけど、これであればね、何かの作業のすぐ後に接客する事になってもここだけ変えれば体裁を保てる、汚れた姿を見せなくていいって事は雇い主の為にもなるんだな、前掛けと一緒だね、それにね、人の視線ってのは手先、指先に向かう・・・これはほら、ソフィアにそう教わっただろう?」

「そうです、はい、その通りです」

「その手全体と合わせてやっぱりこの袖口も視界に入るからね、そこを綺麗な状態で見せるのは大事な点になるんだな」

これは凄いかもと、やっとメイド達の目の色が変わってきた、正直なところオリビアを含めて半信半疑であったのである、

「でだ、この仕掛け・・・取り外しの機構に関してはマフダさんに一任するとして」

エッとマフダが顔をひきつらせた、そこが大事な所であろうと集中していたのであるが、見事な肩透かしである、隣りで忙しく黒板を鳴らしていたサビナも思わず顔を上げてしまった、

「だって・・・俺も詳しくないんだよ、着たこと無いし・・・」

「そんなー」

「まぁ、頑張って、マフダさんの腕の見せ所だから、で次なんだけど」

とタロウはあっさりと黒板に向かった、モーとタロウを睨むマフダと気の毒そうにマフダを一瞥して、すぐに黒板に向かうサビナである、そしてタロウは髪飾りと前掛けそのものにも言及する、

「まず髪ね、みなさん、後ろでまとめているけど、髪飾りで統一感を出すのも面白いと思う、で、これはエレインさんに聞きたいんだけど、どうだろう、貴族様の各家ごとに違いがあったら面白いと思わない?」

「・・・確かに面白いですね」

エレインがジッとタロウの手にする黒板を見つめて答える、

「でしょ、あくまでほら、メイドさんの髪型は作業の邪魔にならない為のそれだからね、そこまでひっつめるような事はしないで、大きめの髪飾りで大きくこう押さえてもいいし、金額は大きくなるだろうけどレースの髪飾りとか、それこそ君らの髪留めとかでね、御洒落かつ、上品にまとめてあげる、そうすると髪型は微妙に異なるだろうけど、こう・・・同じ髪留め、同じ衣装のメイドさんが並ぶとね、統一感があってよりかっこよくなるよ、想像してみ?」

「・・・わかる・・・かもしれません・・・」

エレインが首を捻りその様を想像する、居並ぶ同じ衣装のメイド達の隣にイージスがピョコンと顔を出し慌てて首を振るエレインであった、

「そうなると・・・前掛けも勿論統一して・・・で、こっからが大事、前掛けの形で担当する作業を分けるのも面白い」

「作業ですか?」

「うん、給仕担当と掃除担当、さらには調理担当のメイドさんが同じ前掛けってのはちょっと違うなって思わない?」

それもそうかもなと顔を見合わせるメイド組の生徒達である、

「まぁ、そこまで厳格でなくてもいいんだけどさ、せめて接客する、人前に出るメイドさんの前掛けは小さくていいんだよ、で、そういう場合はこの新しいメイド服が目立つくらいのいい感じの大きさにして、で、表に出ないメイドさんに関しては大きくてこう前面を覆う感じの前掛けにしてあげる、こうすればね、雇い主としてもそのメイドさんが今日は何を担当しているのか一目瞭然で、客としてもどのメイドさんに声をかけるべきかがわかる・・・まぁ、裏方さんはね、人前には出ないようにしているだろうけどさ・・・どかな?」

コクコクと頷くメイド組とオリビアであった、

「ん・・・で、後は・・・」

とタロウは首を捻り、

「あっ、そだ、襟元・・・これも大事、ここもね、付け袖と一緒で付け替えるようにするといいかな、襟に関してはほら、やっぱり何て言うか、肌と接するからね、ほつれる事もあるし、肌汚れかな?それも目立つから・・・あとあれだ、ここもね、パリッとしているとカッコイイんだよ」

結局調子良くその知識を披露し、悦に入るタロウであった。
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