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本編
72話 メダカと学校 その16
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そうして商会は充実した打合せを終え今日の来客はここまでとなり、レイナウトとマールテンが事務所を辞し、やれやれと一息ついた四人である、どうやら二人はまた別で打合せをするらしく、それこそがレイナウトの思う所であったようで、小雨の降る中二人はローレン商会へと向かったようである、そして四人は玄関口から事務所へ入った、丁度良いからとテラがタロウを呼び止め、グルジアも知恵を貸して欲しいと声をかけられた、グルジアは私なんかでと遠慮がちであったが、すでにその実力はテラにはバレており、エレインも折角だからと逃がすつもりは無いらしい、グルジアは及び腰で会ったが学園の先輩の為ならと誘いになる事にした、
「お疲れ様でした」
事務所の隅、作業空間とは別にしてあるテーブルに四人は腰を下ろした、事務所内の人員はガラッと変わっている、奥様達の作業はそのままうら若い生徒達に代わっており、忙しく手を動かしながらも何とも黄色い嬌声が時折響いていた、四人が姿を見せるとそれはピタリと止まったが、すぐに響きだすあたり、流石学生達である、
「お疲れさん、あっ、サビナさんの紹介した人どうだった?」
タロウがやれやれと微笑む、どうやら今日は打合せの日であるらしい、今日も昨日のように日の出ている間はゆっくりしようと画策していたタロウであったがそれは難しいようだと諦めていた、
「いい人でした、期待できると思います」
「そうですね、フフッ、でもあれなんですよ、サビナさんを一回り大きくしたような感じなんです」
テラが微笑み、エレインも口が軽くなる、
「へー、ってことはあれ、大きい人?」
「はい、大きいんです」
「ねー、厨房に入るかしら?」
「そんなに?」
「はい、でも、お似合いといってはあれですけど、もう似た者夫婦って感じでした」
テラがニヤニヤと微笑むも、
「それは失礼でしょ」
とエレインが即座に窘める、
「そうですか?」
「そうですよ」
もーとエレインが顔を顰めるが、ん?とテラは首を傾げてしまった、タロウとグルジアもあれっと不思議そうにしている、そこへ、
「あー、どうでした?どうでした?どんな感じですかー」
とジャネットが大声を上げて腰を上げ、他の生徒達も爛々と輝く瞳を向けている、どうやらジャネット経由で知れ渡っているらしい、まったくとテラは睨みつけ、タロウとグルジアはまぁそうなるよなと呆れ顔であった、
「どんな感じも何も、良い感じの人でした、それだけですよ」
エレインが目を細くして答えるも、
「えー、それだけじゃないでしょー」
とジャネットは手にしたシルクをテーブルに置いて駆け寄る始末で、マフダが流石にそれはとジャネットを睨むも、マフダ自身も興味がある為咎める事は無かった、その気持ちは十分理解できるし、エレインとジャネットの仲であればそれも許されるであろうと思う、しかし、
「それだけです、はしゃぐな!!」
エレインがスゥっと息を吸い込んで一喝する、ヒィッとお道化た様に身を竦めるジャネットにほらーと囃し立てる生徒達である、フンとエレインが鼻息を荒くするも、
「えっと・・・会長・・・もしかして・・・気付いてないですか?」
とテラが心配そうにエレインを覗き込む、
「何をですの?」
エレインはムッとテラを見つめ返した、
「・・・あー・・・」
「・・・へー・・・」
とグルジアとタロウが呆れ顔でエレインを見つめる、ナッと二人に向き直るエレインである、どうやら自分だけが何かに気付いていないらしい、
「なんですか?二人とも・・・」
一転焦りだすエレインであった、
「いや・・・」
「はい・・・」
「ねぇ・・・」
タロウとテラとグルジアが目配せし合い、何やら面白そうだとジャネットがそろそろと音も無くエレインの背後に立つ、生徒達もこれはと目を輝かせており、すっかり作業が止まってしまっていた、マフダとリーニーまでもが手を止めている、事務所は微妙な空気感に支配され、エレインはそれには瞬時に気付いてキョロキョロと視線を彷徨わせた、
「・・・だから、なんですの?」
ムッとエレインはテラを睨みつける、
「・・・あのですね、明言されてないですけど・・・マンネルさんって、サビナさんのお付き合い相手ですよ」
エッと驚愕の面相でテラを見つめるエレインであった、その反応にタロウもグルジアもやっぱり気付いていなかったなと苦笑いとなり、ジャネットはニヤーと意地の悪い笑みを浮かべる、
「・・・エッ・・・」
エレインは再び絶句してタロウとグルジアへ視線を向け、
「だろうなって思ったけど・・・」
「はい、昨日の様子でだってわかりますよね・・・」
とタロウとグルジアが顔を見合わせる、タロウは恋愛の機微に疎い方であるが、流石に昨日のサビナの様子から、これはよほどの仲なのだろうなと察しており、グルジアにしても若いながらも未亡人である、女性が男性についてあれほど懸命になるのは肉親か恋愛感情のある相手で無い限りありえないなと横目で見ていた、事実そうであったらしい、少なとくともテラはそう判断したらしく、その判断は正しいものであると思う、
「だよなー・・・」
タロウの視線がゆっくりとエレインに向かった、その目は暗に気付いてなかったのと問いかけている、
「・・・そんな事・・・当然ですわよ・・・」
オッホッホとエレインは盛大に笑う、パトリシアもかくやと言うほどの高笑いで、貴族らしいそれであったが、食堂内の全員が、誤魔化し笑いだ・・・恥ずかしい時の笑いだ・・・とその内心で見事にエレインを見透かした、
「あー・・・会長、無理しないで下さい」
テラが可哀そうな子を見るようにエレインに語りかけ、
「うん、無理は良くないよ」
「そうですよ、ほら、こういうのってはっきり言って貰わないと、わからないもんですから・・・」
「だよな、グルジアさん、良い事言う」
「そうですか?」
「そうだよ、もしかしたらほら、兄弟とかかもしれないし、だって二人ともおっきいんでしょ?」
「それは無いですよー、だって、そこは確認しましたから」
あっさりと否定するテラである、
「あっ、やっぱり?」
「はい、だから、そういう事ですよ、それにね、隣に座るサビナさんが可愛くて・・・」
「へー・・・サビナさんがですか?」
「その言い方は駄目でしょ」
「でも、ほら、サビナさんって基本的に理知的な人じゃないですか、可愛い感じの時って少ない・・・あっ、これも失礼ですよね」
「そうです、普段から可愛い人ですよ、でもね、こうなんていうか、緊張してハラハラしてる感じ?」
「えー、そうなんですかー、見たかったですー」
とテラとグルジアが盛り上がり、そういう事を聞きたかったといよいよ瞳を輝かせ聞き耳を立てる生徒達である、すると、
「そうなんだー」
ジャネットがニヤリと呟く、
「あっ・・・ジャネットさん、サビナさんをからかう様な事は駄目ですよ」
スッとテラが振り向いた、
「それは分かりますけどー」
ジャネットはさらにその笑みを意地悪く変え、
「うちの会長ってば、可愛いよねー」
とエレインを見下ろす、そのエレインはまるで気付かなかったとすっかり放心しており、ハッと我に返ると、
「だから、当然だと申し上げたでしょ」
金切り声を上げて振り返る、エーッとにやつくジャネットと他の生徒達の口にはしないが疑念の視線がエレインに突き刺さり、ムッとエレインは睨み返す、そこへ、オリビアが茶道具を手にして事務室へ入ってきた、四人が戻って来たところを見計らい静かに動いていたオリビアである、
「あっ、オリビア、あれです、あれはどうなってますの」
エレインが居た堪れなくなったのか勢いよく腰を上げ、
「なんでしょう、お嬢様」
冷たく答えるオリビアである、特に指示は無かったはずで、しかし、事務所内の雰囲気を敏感に察する、特にニヤニヤと微笑むジャネットと、心配そうなテラにタロウにグルジア、何よりも顔を赤くしている我が主となれば何かあったのは明白なのであった、
「あれですわ、あれです」
「はい、あれですね、少々お待ちを・・・」
しかしそれを察しつつも茶を配すオリビアである、タロウとグルジアは小さく礼を言いつつ茶を受け取り、テラもありがとうと一声添える、
「ですから」
「はいはい、で、なんでしょう?」
どこまでも冷静なオリビアにムーとエレインは唸る、
「まぁまぁ、さっ、オリビアさんも座って、そうだ、ジャネットさん達経営陣もこっちに来て、皆さんも意見があれば欲しいです」
テラがここは本題に入った方がいいかなとパンパンと手を叩いた、ハーイと幾つかの楽し気な声が響きアニタとパウラ、ケイスが腰を上げたようで、
「会長座って下さい」
テラがもういいだろうとエレインを見上げる、エレインは顔を上気させたまましぶしぶと腰を下ろした、そして、改めての打合せである、新しい店舗の為のそれであり、テラはタロウと経営陣、他の生徒達の要望も含めて話したいと考えていたことで、エレインがむくれたままに始まったそれであったが徐々に機嫌を直していったようだ、
「そうなると・・・そっか、ミーンさんでいいんじゃないの?惣菜に関しては」
「はい、今日のマンネルさんと、もう一人、有望な方が参画して頂けると思うのですよ」
「それは良かった・・・じゃ、やっぱり喫茶店の方?」
「はい、そちらに知恵をお貸し頂ければと思います」
「前にも話したでしょ」
「勿論です、で、現場で私どもも打合せしまして」
とテラが一旦二階に上がり、すぐにカチャーと共に木簡を手にして下りて来た、どうやらカチャーにも意識を共通させる意味合いで聞いておいた方が良いとの判断であろう、そして経営陣が集まって協議した内容が語られ、それは先日の給料日にエレインから説明された以上に内容の濃いものであった、そこまで考えていたのかと感心する生徒達である、
「なるほど・・・面白いね・・・じゃぁさ・・・」
タロウが聞く限りそれはしっかりとした喫茶店のそれで、なるほど面白いと頷ける内容である、流石若い娘さんたちの吸収力と発想力は違うもんだなと感じつつ、
「ここからは・・・うん、余計な事・・・でもな、あれはあれで楽しいんだけど・・・」
とタロウは首を捻りつつ案を提供した、一つは制服の採用、もう一つは男性従者の採用である、
「男性従者ですか?」
エレインがゆっくりと首を捻る、制服に関してはなるほどと理解できる内容であったが、男性従者との表現に違和感を感じてしまった、
「そだね、だってさ、このままだとこのお店って、女性しか入らないんじゃない?」
アッと声を上げる経営陣である、確かに女性目線でしか案を出していない為女性に好かれる店になっていると思われる、
「それはそれでいいんだよ、狙いとするお客様は絞った方が良いからね、なんだけど、そうなるとさ、正直な話・・・君ら女性に給仕されるよりも、カッコイイお兄さんに給仕された方が嬉しいんじゃないか?」
再びアッと声を上げる経営陣と、カッコイイお兄さん・・・とざわつく生徒達である、
「・・・そう・・・れもそうですね・・・」
テラまでもがその手があったかと目を剥き、グルジアも驚いてタロウを見つめている、
「うん、だけど、難しいかな・・・君らのお気に召すような若くてかっこいい男ってそうそういないんだよね、男だったらね、正直なところさ、ある程度若くて器量よりも・・・愛嬌がある女の子であればそれだけで嬉しい・・・あっ、君達に器量が無いなんて意味じゃないよ、皆さんホントに可愛らしいからね」
とタロウが一同を見渡すも、そんなことはどうでもいいと一同の目が語っていた、ありゃとタロウは微笑み、
「だから・・・うん、もしかしたら、小さい男の子?とかに従者というか配膳をお願いして、それもちゃんと髪を整えて、身綺麗にして見た目も良くして・・・そうだな・・・本人に言っちゃ駄目だよ、それこそイージス君をね、もう少し歳をとった感じにしたような子がね、笑顔で礼儀正しく相手してくれたら嬉しいんじゃない?」
タロウの言葉にイージスを知る者達はその様を想像し、ブルリとその背を震わせた、
「・・・いいかも・・・」
エレインが思わず呟き、ハッと背筋を伸ばす、慌てて周囲を見渡すも自分に向けられた視線はないようで、ホッと安堵するもすぐにデレッと口元の力が抜けた、イージスが従者の姿で前掛けを着けちょこまかと動き回り、満面の笑顔で給仕する、それを見ながら茶を楽しむ自分・・・時折失敗して泣きそうなイージス、それを優雅に許す自分・・・真っ赤な顔を笑顔に変えるイージス・・・雪崩のように巻き起こる妄想が頭の中を渦巻き、 ポヤヤンと力が抜け幸せなその妄想に浸りきってしまう、
「まぁ・・・そんな感じでね・・・でも・・・そうだねぇ、これはまた先だろうね」
とタロウは渋い顔で首を捻るのであった。
「お疲れ様でした」
事務所の隅、作業空間とは別にしてあるテーブルに四人は腰を下ろした、事務所内の人員はガラッと変わっている、奥様達の作業はそのままうら若い生徒達に代わっており、忙しく手を動かしながらも何とも黄色い嬌声が時折響いていた、四人が姿を見せるとそれはピタリと止まったが、すぐに響きだすあたり、流石学生達である、
「お疲れさん、あっ、サビナさんの紹介した人どうだった?」
タロウがやれやれと微笑む、どうやら今日は打合せの日であるらしい、今日も昨日のように日の出ている間はゆっくりしようと画策していたタロウであったがそれは難しいようだと諦めていた、
「いい人でした、期待できると思います」
「そうですね、フフッ、でもあれなんですよ、サビナさんを一回り大きくしたような感じなんです」
テラが微笑み、エレインも口が軽くなる、
「へー、ってことはあれ、大きい人?」
「はい、大きいんです」
「ねー、厨房に入るかしら?」
「そんなに?」
「はい、でも、お似合いといってはあれですけど、もう似た者夫婦って感じでした」
テラがニヤニヤと微笑むも、
「それは失礼でしょ」
とエレインが即座に窘める、
「そうですか?」
「そうですよ」
もーとエレインが顔を顰めるが、ん?とテラは首を傾げてしまった、タロウとグルジアもあれっと不思議そうにしている、そこへ、
「あー、どうでした?どうでした?どんな感じですかー」
とジャネットが大声を上げて腰を上げ、他の生徒達も爛々と輝く瞳を向けている、どうやらジャネット経由で知れ渡っているらしい、まったくとテラは睨みつけ、タロウとグルジアはまぁそうなるよなと呆れ顔であった、
「どんな感じも何も、良い感じの人でした、それだけですよ」
エレインが目を細くして答えるも、
「えー、それだけじゃないでしょー」
とジャネットは手にしたシルクをテーブルに置いて駆け寄る始末で、マフダが流石にそれはとジャネットを睨むも、マフダ自身も興味がある為咎める事は無かった、その気持ちは十分理解できるし、エレインとジャネットの仲であればそれも許されるであろうと思う、しかし、
「それだけです、はしゃぐな!!」
エレインがスゥっと息を吸い込んで一喝する、ヒィッとお道化た様に身を竦めるジャネットにほらーと囃し立てる生徒達である、フンとエレインが鼻息を荒くするも、
「えっと・・・会長・・・もしかして・・・気付いてないですか?」
とテラが心配そうにエレインを覗き込む、
「何をですの?」
エレインはムッとテラを見つめ返した、
「・・・あー・・・」
「・・・へー・・・」
とグルジアとタロウが呆れ顔でエレインを見つめる、ナッと二人に向き直るエレインである、どうやら自分だけが何かに気付いていないらしい、
「なんですか?二人とも・・・」
一転焦りだすエレインであった、
「いや・・・」
「はい・・・」
「ねぇ・・・」
タロウとテラとグルジアが目配せし合い、何やら面白そうだとジャネットがそろそろと音も無くエレインの背後に立つ、生徒達もこれはと目を輝かせており、すっかり作業が止まってしまっていた、マフダとリーニーまでもが手を止めている、事務所は微妙な空気感に支配され、エレインはそれには瞬時に気付いてキョロキョロと視線を彷徨わせた、
「・・・だから、なんですの?」
ムッとエレインはテラを睨みつける、
「・・・あのですね、明言されてないですけど・・・マンネルさんって、サビナさんのお付き合い相手ですよ」
エッと驚愕の面相でテラを見つめるエレインであった、その反応にタロウもグルジアもやっぱり気付いていなかったなと苦笑いとなり、ジャネットはニヤーと意地の悪い笑みを浮かべる、
「・・・エッ・・・」
エレインは再び絶句してタロウとグルジアへ視線を向け、
「だろうなって思ったけど・・・」
「はい、昨日の様子でだってわかりますよね・・・」
とタロウとグルジアが顔を見合わせる、タロウは恋愛の機微に疎い方であるが、流石に昨日のサビナの様子から、これはよほどの仲なのだろうなと察しており、グルジアにしても若いながらも未亡人である、女性が男性についてあれほど懸命になるのは肉親か恋愛感情のある相手で無い限りありえないなと横目で見ていた、事実そうであったらしい、少なとくともテラはそう判断したらしく、その判断は正しいものであると思う、
「だよなー・・・」
タロウの視線がゆっくりとエレインに向かった、その目は暗に気付いてなかったのと問いかけている、
「・・・そんな事・・・当然ですわよ・・・」
オッホッホとエレインは盛大に笑う、パトリシアもかくやと言うほどの高笑いで、貴族らしいそれであったが、食堂内の全員が、誤魔化し笑いだ・・・恥ずかしい時の笑いだ・・・とその内心で見事にエレインを見透かした、
「あー・・・会長、無理しないで下さい」
テラが可哀そうな子を見るようにエレインに語りかけ、
「うん、無理は良くないよ」
「そうですよ、ほら、こういうのってはっきり言って貰わないと、わからないもんですから・・・」
「だよな、グルジアさん、良い事言う」
「そうですか?」
「そうだよ、もしかしたらほら、兄弟とかかもしれないし、だって二人ともおっきいんでしょ?」
「それは無いですよー、だって、そこは確認しましたから」
あっさりと否定するテラである、
「あっ、やっぱり?」
「はい、だから、そういう事ですよ、それにね、隣に座るサビナさんが可愛くて・・・」
「へー・・・サビナさんがですか?」
「その言い方は駄目でしょ」
「でも、ほら、サビナさんって基本的に理知的な人じゃないですか、可愛い感じの時って少ない・・・あっ、これも失礼ですよね」
「そうです、普段から可愛い人ですよ、でもね、こうなんていうか、緊張してハラハラしてる感じ?」
「えー、そうなんですかー、見たかったですー」
とテラとグルジアが盛り上がり、そういう事を聞きたかったといよいよ瞳を輝かせ聞き耳を立てる生徒達である、すると、
「そうなんだー」
ジャネットがニヤリと呟く、
「あっ・・・ジャネットさん、サビナさんをからかう様な事は駄目ですよ」
スッとテラが振り向いた、
「それは分かりますけどー」
ジャネットはさらにその笑みを意地悪く変え、
「うちの会長ってば、可愛いよねー」
とエレインを見下ろす、そのエレインはまるで気付かなかったとすっかり放心しており、ハッと我に返ると、
「だから、当然だと申し上げたでしょ」
金切り声を上げて振り返る、エーッとにやつくジャネットと他の生徒達の口にはしないが疑念の視線がエレインに突き刺さり、ムッとエレインは睨み返す、そこへ、オリビアが茶道具を手にして事務室へ入ってきた、四人が戻って来たところを見計らい静かに動いていたオリビアである、
「あっ、オリビア、あれです、あれはどうなってますの」
エレインが居た堪れなくなったのか勢いよく腰を上げ、
「なんでしょう、お嬢様」
冷たく答えるオリビアである、特に指示は無かったはずで、しかし、事務所内の雰囲気を敏感に察する、特にニヤニヤと微笑むジャネットと、心配そうなテラにタロウにグルジア、何よりも顔を赤くしている我が主となれば何かあったのは明白なのであった、
「あれですわ、あれです」
「はい、あれですね、少々お待ちを・・・」
しかしそれを察しつつも茶を配すオリビアである、タロウとグルジアは小さく礼を言いつつ茶を受け取り、テラもありがとうと一声添える、
「ですから」
「はいはい、で、なんでしょう?」
どこまでも冷静なオリビアにムーとエレインは唸る、
「まぁまぁ、さっ、オリビアさんも座って、そうだ、ジャネットさん達経営陣もこっちに来て、皆さんも意見があれば欲しいです」
テラがここは本題に入った方がいいかなとパンパンと手を叩いた、ハーイと幾つかの楽し気な声が響きアニタとパウラ、ケイスが腰を上げたようで、
「会長座って下さい」
テラがもういいだろうとエレインを見上げる、エレインは顔を上気させたまましぶしぶと腰を下ろした、そして、改めての打合せである、新しい店舗の為のそれであり、テラはタロウと経営陣、他の生徒達の要望も含めて話したいと考えていたことで、エレインがむくれたままに始まったそれであったが徐々に機嫌を直していったようだ、
「そうなると・・・そっか、ミーンさんでいいんじゃないの?惣菜に関しては」
「はい、今日のマンネルさんと、もう一人、有望な方が参画して頂けると思うのですよ」
「それは良かった・・・じゃ、やっぱり喫茶店の方?」
「はい、そちらに知恵をお貸し頂ければと思います」
「前にも話したでしょ」
「勿論です、で、現場で私どもも打合せしまして」
とテラが一旦二階に上がり、すぐにカチャーと共に木簡を手にして下りて来た、どうやらカチャーにも意識を共通させる意味合いで聞いておいた方が良いとの判断であろう、そして経営陣が集まって協議した内容が語られ、それは先日の給料日にエレインから説明された以上に内容の濃いものであった、そこまで考えていたのかと感心する生徒達である、
「なるほど・・・面白いね・・・じゃぁさ・・・」
タロウが聞く限りそれはしっかりとした喫茶店のそれで、なるほど面白いと頷ける内容である、流石若い娘さんたちの吸収力と発想力は違うもんだなと感じつつ、
「ここからは・・・うん、余計な事・・・でもな、あれはあれで楽しいんだけど・・・」
とタロウは首を捻りつつ案を提供した、一つは制服の採用、もう一つは男性従者の採用である、
「男性従者ですか?」
エレインがゆっくりと首を捻る、制服に関してはなるほどと理解できる内容であったが、男性従者との表現に違和感を感じてしまった、
「そだね、だってさ、このままだとこのお店って、女性しか入らないんじゃない?」
アッと声を上げる経営陣である、確かに女性目線でしか案を出していない為女性に好かれる店になっていると思われる、
「それはそれでいいんだよ、狙いとするお客様は絞った方が良いからね、なんだけど、そうなるとさ、正直な話・・・君ら女性に給仕されるよりも、カッコイイお兄さんに給仕された方が嬉しいんじゃないか?」
再びアッと声を上げる経営陣と、カッコイイお兄さん・・・とざわつく生徒達である、
「・・・そう・・・れもそうですね・・・」
テラまでもがその手があったかと目を剥き、グルジアも驚いてタロウを見つめている、
「うん、だけど、難しいかな・・・君らのお気に召すような若くてかっこいい男ってそうそういないんだよね、男だったらね、正直なところさ、ある程度若くて器量よりも・・・愛嬌がある女の子であればそれだけで嬉しい・・・あっ、君達に器量が無いなんて意味じゃないよ、皆さんホントに可愛らしいからね」
とタロウが一同を見渡すも、そんなことはどうでもいいと一同の目が語っていた、ありゃとタロウは微笑み、
「だから・・・うん、もしかしたら、小さい男の子?とかに従者というか配膳をお願いして、それもちゃんと髪を整えて、身綺麗にして見た目も良くして・・・そうだな・・・本人に言っちゃ駄目だよ、それこそイージス君をね、もう少し歳をとった感じにしたような子がね、笑顔で礼儀正しく相手してくれたら嬉しいんじゃない?」
タロウの言葉にイージスを知る者達はその様を想像し、ブルリとその背を震わせた、
「・・・いいかも・・・」
エレインが思わず呟き、ハッと背筋を伸ばす、慌てて周囲を見渡すも自分に向けられた視線はないようで、ホッと安堵するもすぐにデレッと口元の力が抜けた、イージスが従者の姿で前掛けを着けちょこまかと動き回り、満面の笑顔で給仕する、それを見ながら茶を楽しむ自分・・・時折失敗して泣きそうなイージス、それを優雅に許す自分・・・真っ赤な顔を笑顔に変えるイージス・・・雪崩のように巻き起こる妄想が頭の中を渦巻き、 ポヤヤンと力が抜け幸せなその妄想に浸りきってしまう、
「まぁ・・・そんな感じでね・・・でも・・・そうだねぇ、これはまた先だろうね」
とタロウは渋い顔で首を捻るのであった。
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