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本編
72話 メダカと学校 その7
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それから正午近くになって王妃一行はイフナースの屋敷へ向かった、客間の下見とついでにガラス鏡店をエルマに見せる為となる、テラが同行し、エレインも屋敷までは同行したがそのまま領主邸に向かった、ユスティーナの都合が合えば打合せの為である、都合が悪くても訪問の約束を取り付ければ良いだけであった、そして食堂では、
「へー・・・良くまとまってるね・・・」
「そう?」
「うん、ここまで分析できてたんだ・・・大したもんだねロキュス先生もユーリもさ」
「何を偉そうに」
「偉いんだもーん」
「言ってなさいよ」
とタロウとソフィアが魔法陣に関する書物を読み込んでおり、その隣ではミナが黒板に向かっている、
「エライノ?」
ミナがキョトンと顔を上げた、
「ん?んー・・・ちょっとだけな」
タロウがニヤリと微笑む、
「ちょっとだけ?」
「そっ、ちょっとだけ、なんだ?もう飽きたのか?」
「飽きてない、やる」
ミナがムッとタロウを睨んですぐにお手本としている書物の頁を捲った、レインがそれでいいとばかりに本を押さえ、難しいであろう文言を説明する、フンフンと素直に頷くミナである、タロウはその様子に温かい笑みを浮かべてしまい、ソフィアも普段からこの位素直だったら静かでいいのにと微笑まざるを得ない、何とも久しぶりに感じる家族の時間であった、街路を叩く雨音はいまだ激しく、暖炉に燃える薪がパチパチと小さく爆ぜている、タロウはのんびりするってのはこういう事だよなー等と実感していた、どうしても寮という環境の為に気付けば誰彼が側にいるもので、それはそれで楽しいと感じているがそこはどうしてもどこまでいっても他人である、家族のそれに対するものとは異質の神経を使うもので、やはり休まらないのであった、
「あっ、ここ間違ってない?」
ソフィアが顔を上げて開いた書物を指し、どれどれとタロウが覗き込む、
「・・・間違っては無いが解釈が違うかな・・・これだと・・・うん、説明が上手くないね、注釈入れるか」
タロウは当たり前のようにインク壺とガラスペンを取り出した、
「ちょっと、いいの?」
「いいんじゃない?この手の書物はね、改変されてしかるべきだよ」
「そうなの?」
「そうだよ、だってさ、この理屈がいつかは覆される事もあるんだ、そうなるとこの書物自体も書き直さなければならなくなる、そうやって知識と言うのは積み重なっていくものさ」
タロウは適当に答えながら腰を上げ、ソフィアの隣に座るとその書になにやら書き付ける、ソフィアは訝しそうにその作業を見つめていた、ソフィアとしては貴重な上に高価な書物に文言を書き加えるなど冒涜に思え、またそのような経験も無い為非常に不愉快に感じる、生徒達にも学園から預かった教科書を汚さないようにと指導していたはずである、まるで納得できなかったがタロウはこんなもんかなと微笑み、確認するようにと視線でソフィアに訴えかけ、二人の様子を何となく眺めていたレインはそういうものかもしれんなと頷いている、
「・・・まぁ・・・悪くは無いわね・・・」
サッと目を通してソフィアは書き加えてしまったものは仕方が無いと納得するしかなかった、実際に理解しやすくなっているようにも思う、
「それは嬉しい」
とタロウは席に戻ると、
「あっ・・・そうだ、あれはあるかな?」
「あれ?」
「うん、カトカさんが学園から借りてきたっていう古い書物」
「・・・何それ?」
「聞いてない?やたら古くて汚い本なんだけど」
「そうね、特には・・・」
とソフィアが積み上げられた書物に手を伸ばす、もしかしたら預かっているかもと思い、そして、
「あっ、これかしら?随分古いわね・・・っていうか確かに汚いわね」
「おう、それだ」
いかにも古ぼけてボロボロになった一冊を抜き出すと、タロウに渡し、
「それがどうかしたの?」
「うん、これな、俺でも読めないんだよ」
エッとソフィアが目を丸くする、
「だから、せめてこれの魔法陣だけでも解読できないかなって思ってね」
タロウは開いていた書を閉じて、うやうやしくその古く厚く脆い書物をテーブルに置くと、ゆっくりと開いた、
「・・・読めないの?あなたでも?」
「そうだね、まぁ、なんか読める人がいたみたいでさ、ちょっとばかりいらん事をしたみたいだけど・・・」
タロウがゆっくりとレインを伺い、レインは何の事かと目を細め、すぐに思い出してプイッとそっぽを向いた、
「おいおい、誰もいないんだから誤魔化さなくてもいいぞ」
ニヤリと微笑むタロウとあーそういう事かとソフィアも微笑む、
「誤魔化してなどおらん」
ムスッとレインが二人を睨む、
「ナニガー?」
すぐにミナが顔を上げた、
「なんでもないぞ」
「そなの?」
「そなの」
わかったーとミナが黒板に向かい、レインはそれを覗き込む、
「じゃ、解読してもらう?前やったみたいに」
ソフィアがニヤニヤと微笑みつつタロウを伺った、
「ん?前も解読したの?」
「そうよー、ほら、下水道の取り扱い説明書だっけ?」
「あー・・・なんだ、あれってレインが解読したのか」
「そうよ、言ってなかったっけ?私も手伝ったけどね、レインの言う事をそのまま丸写しした感じ」
「そっかー・・・でも、それはそれでつまらんな」
「あら・・・そういうもの?」
「そういうもの、ほれ、これ見てみろ、この魔法陣、見たことないだろ」
と二人は書物を覗き込む、その書は王国の書とは大きく違っていた、まずもって王国の書は左開きが主流であるが、右開きである、そして表に当たる頁にのみ記載があり、その裏面は白紙となっていた、どうやらそういう作りであるらしい、ソフィアが見る限りなんとも無駄の多い事だなと感じ、また、そこに並ぶ見慣れぬ文字もあってか大変に胡散臭く感じてしまう、
「確かに見たことないけど・・・どんな効果があるの?」
「わからん」
「・・・それもそうね、読めないんだから」
「うん」
ソフィアはどうしたもんだかとタロウを見上げるが、タロウはなんとも楽しそうで、
「だから、まずはこれを試しに使ってみるってのもありなんだよね」
とその記された魔法陣に指を這わせた、
「危なくない?」
「それはだってそういうもんだよ、でもね、このぶ厚い書物の一番最初に描かれている魔法陣だよ、そんなとんでもない事が出来るとは思えないよ」
「それはだって・・・そうかしら?・・・」
「たぶんね」
「適当ねー」
「そうだよー、でも、俺らの知っている魔法陣とは根本的に違っているのは明らかだからね、もしかしたら、塗料も違うかもな」
「あっ、それはあるわね」
「うん、だから・・・軽くシミュレーションしてみて、それからかな・・・」
「シミュ・・・なに?」
「ん、あぁ、描かないまでも想定して使ってみる?って感じ、構造から流れを予想して・・・まぁ、結局解析になるのかな?」
「ふーん・・・」
「まぁ、その前に塗料・・・違うな、根本技術を解読・・・やっぱり解読しなきゃ駄目か・・・」
「でしょうね」
「だねー、でも、これの一部はもう使ってるんだよな」
「えっ、そうなの?」
「うん、ほら、領主様の所の光柱の小皿?広く明るくなってたでしょ」
「・・・そう?」
「そうなんだよ、それにこれの一部が使われてて、だから、まぁ、今使ってる塗料でもなんとかなるかなって思ってね、どかな?」
タロウがチラリとレインを伺う、レインはムッと目を細め、まぁいいかと、
「確かにの、上で使ってる塗料で充分じゃ」
「やっぱり?」
「まぁの、しかし、注意しろ、その時代のそれよりも今の方が優秀じゃ、特に魔力の保持に関しては各段に違っておる、小さいものであれば問題はなかろうが、大きくなると危険じゃ」
「なるほど・・・それが分かれば嬉しいよ、ありがとね」
ニヤーと笑うタロウにフンと鼻を鳴らすレインである、あらあらとソフィアは微笑み、
「じゃ、やってみる?」
「その内ね、急がなくてもいいよ、危険が危ないし」
「そうは言っても、転送陣を使いやすくするのって急いでいるんじゃないの?」
「急いだからって出来る訳じゃないよ、それにもう俺は作れるし」
「エッ、そうなの、先に言いなさいよ」
「やだよ、なんでもかんでも俺がやるのは違うかなって、前も話したじゃない」
「それは聞いたけど」
「それにね、ユーリも君もそうだし、ゾーイさんだって優秀な技術者だよ、その人達の作ったものを見たいしね」
「それも前に聞いたわね」
「そういう事、だから期待してるんだよー、ソフィアせんせー」
「ちょっとやめてよ」
「ソフィアセンセー?」
ミナがパッと顔を上げる、
「ソフィアは先生様だからねー、だろ?」
「うん、ソフィア先生、厳しいのー、すぐ怒るのー」
「ちょっと、ミナ」
とソフィアがミナを睨むと、
「あー、ホントだすぐ怒るー」
「でしょー」
タロウがからかいミナが嬉しそうに微笑む、モーとソフィアは頬を膨らませ、レインも何を言っているんだかと苦笑いであった、
「・・・でも、そう言われると途端にやる気がなくなるわね」
ソフィアがブスッとタロウを睨んだ、
「何が?」
「だって、作れるんでしょ、転送陣の簡易版」
「そうだけどさ」
「なら、私達が一生懸命にやるのが馬鹿らしいじゃない」
「あー、そういうの良くないぞ、第一さ、俺が考案しているやつが全てにおいて正しい訳じゃないもの」
「そうは言っても・・・」
「気持ちは分かるけどねー・・・例えばだけどあの光柱は凄いよね、俺はまったく発想になかったもん」
「それはだって・・・」
「事情も聞いたけどさ、結界魔法にあんな使い方があったとは思わなかったよ、偶然の産物ってのは理解できるけど・・・挙句それをね、ゾーイさんがあっという間に壺に仕込んじゃったんだよ、大したもんだよ」
「それはまぁ・・・ねぇ、私も想定してなかったらビックリしたけどさ」
「だろ?だから、こういうのはやっぱりね、皆でじっくりと育てるものなんだよ、そりゃどっかの天才がポンと作るのもそれはそれで凄いんだけど、寂しいかなって思うしね」
「どっかの天才?」
「うん」
「誰が?」
「別に誰とは言ってないさー」
意地悪くニヤつくタロウをソフィアはフンと鼻で笑う、まぁ、その自称天才さんのお陰で今この場がある事をソフィアは重々理解しているが、自らそう名乗る程のものではないであろうと不愉快にも思う、そして、
「その天才さんでも読めないのよね、その字は?」
とタロウの前の古文書と呼ぶにふさわしい書物へ視線を戻した、
「そうだね、でも文字は王国のそれに近いと思うんだけど・・・帝国のものとも違うしな・・・」
タロウは左目を閉じて書に戻った、
「それは良かったわ、天才様を凹ますには丁度いいかしら?」
「だねー、でも・・・うん、共通単語を抜き出して・・・文法は大きく変わらないと仮定すればだけど・・・」
タロウがブツブツと集中し始めた、ソフィアはもうと不満そうに鼻を鳴らす、そこへ、
「失礼します」
とティルとミーンが階段から下りて来た、
「あら、もうそんな時間?」
とソフィアが腰を上げる、
「そうですね、少し遅いくらいです」
「そう?」
「はい、王妃様達がいらっしゃって、バタバタしちゃって」
ティルが申し訳なさそうに微笑む、
「あー、そういう事ね、エルマさんには会った?」
「はい、お会いしました、なんか、屋敷が豪華過ぎて申し訳ないって感じでした」
「今度はそうなるかー」
と一気に姦しくなる食堂である、さらに、
「こんにちはー」
と玄関先に来客のようである、ソフィアが対応に向かい、すぐに戻ると、
「ブラスさんよ、タロウさんお願い」
「ん?どうかした?」
「私に聞かないでブラスさんに聞きなさい」
「そりゃそうだ」
と腰を上げるタロウである、家族の時間は唐突に終わった、ミナも集中を切らしてソワソワし始め、レインもこんなもんかと諦め顔となる、バタバタと動き出した食堂内はいつも通りの慌ただしい喧噪に支配されるのであった。
「へー・・・良くまとまってるね・・・」
「そう?」
「うん、ここまで分析できてたんだ・・・大したもんだねロキュス先生もユーリもさ」
「何を偉そうに」
「偉いんだもーん」
「言ってなさいよ」
とタロウとソフィアが魔法陣に関する書物を読み込んでおり、その隣ではミナが黒板に向かっている、
「エライノ?」
ミナがキョトンと顔を上げた、
「ん?んー・・・ちょっとだけな」
タロウがニヤリと微笑む、
「ちょっとだけ?」
「そっ、ちょっとだけ、なんだ?もう飽きたのか?」
「飽きてない、やる」
ミナがムッとタロウを睨んですぐにお手本としている書物の頁を捲った、レインがそれでいいとばかりに本を押さえ、難しいであろう文言を説明する、フンフンと素直に頷くミナである、タロウはその様子に温かい笑みを浮かべてしまい、ソフィアも普段からこの位素直だったら静かでいいのにと微笑まざるを得ない、何とも久しぶりに感じる家族の時間であった、街路を叩く雨音はいまだ激しく、暖炉に燃える薪がパチパチと小さく爆ぜている、タロウはのんびりするってのはこういう事だよなー等と実感していた、どうしても寮という環境の為に気付けば誰彼が側にいるもので、それはそれで楽しいと感じているがそこはどうしてもどこまでいっても他人である、家族のそれに対するものとは異質の神経を使うもので、やはり休まらないのであった、
「あっ、ここ間違ってない?」
ソフィアが顔を上げて開いた書物を指し、どれどれとタロウが覗き込む、
「・・・間違っては無いが解釈が違うかな・・・これだと・・・うん、説明が上手くないね、注釈入れるか」
タロウは当たり前のようにインク壺とガラスペンを取り出した、
「ちょっと、いいの?」
「いいんじゃない?この手の書物はね、改変されてしかるべきだよ」
「そうなの?」
「そうだよ、だってさ、この理屈がいつかは覆される事もあるんだ、そうなるとこの書物自体も書き直さなければならなくなる、そうやって知識と言うのは積み重なっていくものさ」
タロウは適当に答えながら腰を上げ、ソフィアの隣に座るとその書になにやら書き付ける、ソフィアは訝しそうにその作業を見つめていた、ソフィアとしては貴重な上に高価な書物に文言を書き加えるなど冒涜に思え、またそのような経験も無い為非常に不愉快に感じる、生徒達にも学園から預かった教科書を汚さないようにと指導していたはずである、まるで納得できなかったがタロウはこんなもんかなと微笑み、確認するようにと視線でソフィアに訴えかけ、二人の様子を何となく眺めていたレインはそういうものかもしれんなと頷いている、
「・・・まぁ・・・悪くは無いわね・・・」
サッと目を通してソフィアは書き加えてしまったものは仕方が無いと納得するしかなかった、実際に理解しやすくなっているようにも思う、
「それは嬉しい」
とタロウは席に戻ると、
「あっ・・・そうだ、あれはあるかな?」
「あれ?」
「うん、カトカさんが学園から借りてきたっていう古い書物」
「・・・何それ?」
「聞いてない?やたら古くて汚い本なんだけど」
「そうね、特には・・・」
とソフィアが積み上げられた書物に手を伸ばす、もしかしたら預かっているかもと思い、そして、
「あっ、これかしら?随分古いわね・・・っていうか確かに汚いわね」
「おう、それだ」
いかにも古ぼけてボロボロになった一冊を抜き出すと、タロウに渡し、
「それがどうかしたの?」
「うん、これな、俺でも読めないんだよ」
エッとソフィアが目を丸くする、
「だから、せめてこれの魔法陣だけでも解読できないかなって思ってね」
タロウは開いていた書を閉じて、うやうやしくその古く厚く脆い書物をテーブルに置くと、ゆっくりと開いた、
「・・・読めないの?あなたでも?」
「そうだね、まぁ、なんか読める人がいたみたいでさ、ちょっとばかりいらん事をしたみたいだけど・・・」
タロウがゆっくりとレインを伺い、レインは何の事かと目を細め、すぐに思い出してプイッとそっぽを向いた、
「おいおい、誰もいないんだから誤魔化さなくてもいいぞ」
ニヤリと微笑むタロウとあーそういう事かとソフィアも微笑む、
「誤魔化してなどおらん」
ムスッとレインが二人を睨む、
「ナニガー?」
すぐにミナが顔を上げた、
「なんでもないぞ」
「そなの?」
「そなの」
わかったーとミナが黒板に向かい、レインはそれを覗き込む、
「じゃ、解読してもらう?前やったみたいに」
ソフィアがニヤニヤと微笑みつつタロウを伺った、
「ん?前も解読したの?」
「そうよー、ほら、下水道の取り扱い説明書だっけ?」
「あー・・・なんだ、あれってレインが解読したのか」
「そうよ、言ってなかったっけ?私も手伝ったけどね、レインの言う事をそのまま丸写しした感じ」
「そっかー・・・でも、それはそれでつまらんな」
「あら・・・そういうもの?」
「そういうもの、ほれ、これ見てみろ、この魔法陣、見たことないだろ」
と二人は書物を覗き込む、その書は王国の書とは大きく違っていた、まずもって王国の書は左開きが主流であるが、右開きである、そして表に当たる頁にのみ記載があり、その裏面は白紙となっていた、どうやらそういう作りであるらしい、ソフィアが見る限りなんとも無駄の多い事だなと感じ、また、そこに並ぶ見慣れぬ文字もあってか大変に胡散臭く感じてしまう、
「確かに見たことないけど・・・どんな効果があるの?」
「わからん」
「・・・それもそうね、読めないんだから」
「うん」
ソフィアはどうしたもんだかとタロウを見上げるが、タロウはなんとも楽しそうで、
「だから、まずはこれを試しに使ってみるってのもありなんだよね」
とその記された魔法陣に指を這わせた、
「危なくない?」
「それはだってそういうもんだよ、でもね、このぶ厚い書物の一番最初に描かれている魔法陣だよ、そんなとんでもない事が出来るとは思えないよ」
「それはだって・・・そうかしら?・・・」
「たぶんね」
「適当ねー」
「そうだよー、でも、俺らの知っている魔法陣とは根本的に違っているのは明らかだからね、もしかしたら、塗料も違うかもな」
「あっ、それはあるわね」
「うん、だから・・・軽くシミュレーションしてみて、それからかな・・・」
「シミュ・・・なに?」
「ん、あぁ、描かないまでも想定して使ってみる?って感じ、構造から流れを予想して・・・まぁ、結局解析になるのかな?」
「ふーん・・・」
「まぁ、その前に塗料・・・違うな、根本技術を解読・・・やっぱり解読しなきゃ駄目か・・・」
「でしょうね」
「だねー、でも、これの一部はもう使ってるんだよな」
「えっ、そうなの?」
「うん、ほら、領主様の所の光柱の小皿?広く明るくなってたでしょ」
「・・・そう?」
「そうなんだよ、それにこれの一部が使われてて、だから、まぁ、今使ってる塗料でもなんとかなるかなって思ってね、どかな?」
タロウがチラリとレインを伺う、レインはムッと目を細め、まぁいいかと、
「確かにの、上で使ってる塗料で充分じゃ」
「やっぱり?」
「まぁの、しかし、注意しろ、その時代のそれよりも今の方が優秀じゃ、特に魔力の保持に関しては各段に違っておる、小さいものであれば問題はなかろうが、大きくなると危険じゃ」
「なるほど・・・それが分かれば嬉しいよ、ありがとね」
ニヤーと笑うタロウにフンと鼻を鳴らすレインである、あらあらとソフィアは微笑み、
「じゃ、やってみる?」
「その内ね、急がなくてもいいよ、危険が危ないし」
「そうは言っても、転送陣を使いやすくするのって急いでいるんじゃないの?」
「急いだからって出来る訳じゃないよ、それにもう俺は作れるし」
「エッ、そうなの、先に言いなさいよ」
「やだよ、なんでもかんでも俺がやるのは違うかなって、前も話したじゃない」
「それは聞いたけど」
「それにね、ユーリも君もそうだし、ゾーイさんだって優秀な技術者だよ、その人達の作ったものを見たいしね」
「それも前に聞いたわね」
「そういう事、だから期待してるんだよー、ソフィアせんせー」
「ちょっとやめてよ」
「ソフィアセンセー?」
ミナがパッと顔を上げる、
「ソフィアは先生様だからねー、だろ?」
「うん、ソフィア先生、厳しいのー、すぐ怒るのー」
「ちょっと、ミナ」
とソフィアがミナを睨むと、
「あー、ホントだすぐ怒るー」
「でしょー」
タロウがからかいミナが嬉しそうに微笑む、モーとソフィアは頬を膨らませ、レインも何を言っているんだかと苦笑いであった、
「・・・でも、そう言われると途端にやる気がなくなるわね」
ソフィアがブスッとタロウを睨んだ、
「何が?」
「だって、作れるんでしょ、転送陣の簡易版」
「そうだけどさ」
「なら、私達が一生懸命にやるのが馬鹿らしいじゃない」
「あー、そういうの良くないぞ、第一さ、俺が考案しているやつが全てにおいて正しい訳じゃないもの」
「そうは言っても・・・」
「気持ちは分かるけどねー・・・例えばだけどあの光柱は凄いよね、俺はまったく発想になかったもん」
「それはだって・・・」
「事情も聞いたけどさ、結界魔法にあんな使い方があったとは思わなかったよ、偶然の産物ってのは理解できるけど・・・挙句それをね、ゾーイさんがあっという間に壺に仕込んじゃったんだよ、大したもんだよ」
「それはまぁ・・・ねぇ、私も想定してなかったらビックリしたけどさ」
「だろ?だから、こういうのはやっぱりね、皆でじっくりと育てるものなんだよ、そりゃどっかの天才がポンと作るのもそれはそれで凄いんだけど、寂しいかなって思うしね」
「どっかの天才?」
「うん」
「誰が?」
「別に誰とは言ってないさー」
意地悪くニヤつくタロウをソフィアはフンと鼻で笑う、まぁ、その自称天才さんのお陰で今この場がある事をソフィアは重々理解しているが、自らそう名乗る程のものではないであろうと不愉快にも思う、そして、
「その天才さんでも読めないのよね、その字は?」
とタロウの前の古文書と呼ぶにふさわしい書物へ視線を戻した、
「そうだね、でも文字は王国のそれに近いと思うんだけど・・・帝国のものとも違うしな・・・」
タロウは左目を閉じて書に戻った、
「それは良かったわ、天才様を凹ますには丁度いいかしら?」
「だねー、でも・・・うん、共通単語を抜き出して・・・文法は大きく変わらないと仮定すればだけど・・・」
タロウがブツブツと集中し始めた、ソフィアはもうと不満そうに鼻を鳴らす、そこへ、
「失礼します」
とティルとミーンが階段から下りて来た、
「あら、もうそんな時間?」
とソフィアが腰を上げる、
「そうですね、少し遅いくらいです」
「そう?」
「はい、王妃様達がいらっしゃって、バタバタしちゃって」
ティルが申し訳なさそうに微笑む、
「あー、そういう事ね、エルマさんには会った?」
「はい、お会いしました、なんか、屋敷が豪華過ぎて申し訳ないって感じでした」
「今度はそうなるかー」
と一気に姦しくなる食堂である、さらに、
「こんにちはー」
と玄関先に来客のようである、ソフィアが対応に向かい、すぐに戻ると、
「ブラスさんよ、タロウさんお願い」
「ん?どうかした?」
「私に聞かないでブラスさんに聞きなさい」
「そりゃそうだ」
と腰を上げるタロウである、家族の時間は唐突に終わった、ミナも集中を切らしてソワソワし始め、レインもこんなもんかと諦め顔となる、バタバタと動き出した食堂内はいつも通りの慌ただしい喧噪に支配されるのであった。
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