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本編
72話 メダカと学校 その3
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それからソフィアは幾つかの質問を重ねた、全てエルマの個人的な事である、魔力があるかどうか、こちらに通う事が可能かどうか、痛みには強いか、等となる、エルマはその一つ一つに慎重に答えていく、魔力に関しては人並程度、その人並がどの程度かをソフィアに再度確認され、それもそうだと答え直し、痛みには恐らく強い方だとは思うが、どの程度と問われると難しいと答えた、そして一番の問題が通う事であった、
「先程も言った通り・・・実験的な技術で、時間がかかると予想されます、なので・・・もしこちらに滞在可能であればそれが良いかと思います、通うとなるとアフラさんかリンドさんの手を借りる事になると思います、なので・・・どうでしょうか?」
ソフィアが念を押すように問いかける、ソフィアが現時点で考えている手技はタロウの協力を必要とし、隣に座るレインがウズウズと何かを言いたそうにしている為、どうやらレインも口を出したいらしいと察している、故に恐らくであるがなんとかなりそうであった、しかし、それもあくまで実験的である事は変わらない、故に時間と本人の協力が不可欠であった、ソフィアはジッとエルマを見つめる、その表情は見えなかったが、その佇まいから悩んでいる事は把握できた、何より見ず知らずの医者ですら無い者にそのように問われたら即断など出来はしない、王妃からの紹介であるとはいえ、悩むのも無理はない、
「なら、イフナースの屋敷に泊まればいいのよ」
エフェリーンがあっさりと口を挟み、
「それいいわね、客間が空いてるし、何かあってもリンドかアフラがいつもいるから便利よね」
マルルースがポンと小さく手を叩く、ソフィアもそれもそうだわねーと頷くがエルマはエッと小さく驚いてエフェリーンを見つめていた、
「なに?難しい?」
キョトンと問い返すエフェリーンである、
「あっ・・・いいえ、そのイース様・・・いえ、殿下のお屋敷ですか?」
「そうよ、途中で通ったでしょ、転送陣が並んでる狭い部屋」
「はい・・・すいません・・その、えっと」
エルマは一体何から聞けばいいのやらと再び軽く混乱する、まずイフナースの名を聞いたのはもう10年振りであろうか、そしてその名は王都でも口の端に上がる事は無くなって随分経つと思う、大戦時の病で伏せっているとだけエルマは耳にしていた、そしてかの転送陣である、先程三階で詳しくは聞いたがまるで理解できぬ技術で、さらには光柱である、これは勿論エルマは初めて見る灯りであった、そしてこのソフィアと名乗る女性である、王都で開業する高名な医者の誰一人として治す術は無いと明言したこの爛れた皮膚を、時間はかかるがなんとかできるらしい、そして先程から視界に入っている美しく輝く巨大な鏡、さらには暖炉の脇で小さく水が流れ落ちているガラスと木の造作物、それらを初めて目にしたエルマにすればもう全てが何が何やらと良く分からない空間であった、
「あー・・・ごめんなさいね、少し急ぎ過ぎたかしら」
ソフィアがニコリと微笑む、何とも優しくのんびりとしたもので、
「そうですね、治療云々はまず置いておいて、何がどうなっているのかをゆっくりと説明致しますね」
と続けると、
「まずは・・・そうですね、この街がモニケンダムである事から見ていきましょう」
ソフィアは腰を上げると木窓に向かった、寒気が入る為明り取り程度に薄く開けたそれを全開にし、
「王都は雨でした?」
「えっ・・・あっ、いいえ」
「こっちは朝から大雨なんです」
と半身を避けて窓の外を見せた、確かに土砂降りである、三階の研究所に入った瞬間に気付いた何かうるさいなと感じたそれはどうやらこの雨音であったらしい、
「そんな・・・」
「ふふっ、それにこっちは寒いわね」
「そうよねー、全然違うわね」
王妃二人もソフィアの意図に気付いたらしい、見事に話しを合わせて軽く微笑む、
「でも、私雨は好きなのよ、ほら、街中が綺麗になるでしょ」
「確かにね、王都はどうしても埃っぽくって臭いから」
「ねー、こっちはその点いいわよね、やっぱり川のお陰かしら?」
「ですね、でも、その代わりに川は汚いんですよ」
「そういうものよ、王都なんて馬車に乗らないと街歩きも出来ないのよ」
「あっ、それ分かります、昔散策しようとしてえらい目に遭いました」
「でしょー」
ニコニコと微笑む三人を、エルマはポカンと見つめてしまう、そして確かになと理解した、まずここが王都ではない事である、
「だから・・・そうね、そのうちあれでしょ、晴れる日もあるんでしょ、そしたら街を歩いてみるのもいいわよ、この街は城壁が無いから息苦しくないのよ」
「そうよね、それに道が綺麗でね、市場も活気があるし、子供達も多くて」
「えっ・・・えっと、お二人が歩かれたのですか?」
エルマがおずおずと問い質す、
「そうよ、お祭りのときだったけど」
「あっ、あれは駄目、泥祭りは駄目」
「あー、ありましたねー」
「ホント駄目、あっ、この間のお祭りは良かったわ、あの光柱のと、学園の」
「そうね、あれは楽しかったわ、学園のは勉強になったわね」
「お祭り・・・ですか?」
「そうなんです、この街ってね、いろんな地域の人が集まってできた街らしくて、祭りが多かったんですって、でも毎日のように祭りがあるもんだから、月に一度にまとめろって領主様がしかりつけたらしくて、なもんで、月に一回はなんだかんだで街を上げてのお祭りがあるんです、あっ、今月は来月と一緒なのかな?ほら、年末と年始の祭り?」
「あら、そうだったんですか」
「もー、マルルースそう聞いたでしょ」
「そう?」
「そうよ」
王妃二人が顔を見合わせ、エルマはへーと素直に感心してしまった、
「まっ、私もほら、半年くらい前にこっちに来たばかりなので、その毎月のお祭りを全部見たわけではないのですが、そんな感じです」
「そう・・・なんですね・・・」
「そうなの、でね、そっか、先に言えば良かったわね、イフナースが病床にあった事は聞いてるでしょ」
マルルースが優しくエルマを見つめる、エルマはコクリと頷いた、
「そのイフナースを治療したのがソフィアさんなの」
エッとエルマはソフィアを見つめ、
「私は大した事はしてないですよ」
と苦笑いで謙遜するソフィアである、
「そんな事ないでしょ、あなたがいなければイフナースはまだ床の中だわ」
「そうよね・・・ホントにそう、エルマ、ソフィアさんはね、ある意味でこの王国を救ってくれた方なのよ」
「言い過ぎですって」
「あら、謙遜も過ぎると嫌味に聞こえますよ」
「また、そんな事言ってー」
「素直に褒められておきなさい」
「そうかもですけどー」
「はいはい、だからね、そのソフィアさんがなんとかできそうって言ってるんだから、任せてみなさい、良くなることはあっても悪くなることはないわよ、いい、イフナースが5年も苦しんだ病をあっという間に治したんだから、下手な医者よりも信用していいわ」
「そうね、それにね、あなたを呼ぼうと思い立った美容の技術、あなたも体験してみなさい、絶対気に入るわ」
「そうね、その通りよ」
「でしょー、ほら、この爪を見て、この肌も、10歳は若返ったんだから」
「あら、それで足りるかしら?・・・私は10歳くらいだけど・・・エフェリーン姉様は15歳くらい?」
「まっ・・・マルルースその辺にしておきなさい」
「勿論ですわ姉様」
ウフフと微笑みつつ睨み合う王妃二人である、エルマは唖然と二人を見つめ、ソフィアは何を言っているんだかと苦笑いを浮かべる、
「・・・まぁ・・・そういう事だから・・・信じていいのよ」
「はっ・・・はい」
マルルースの優しく真摯な視線にエルマは思わず頷いた、
「宜しい、あっ、そうだ、あなた豊穣神の信徒だったわよね」
エフェリーンがそう言えばと軽く口を開く、エッとソフィアは思わずエフェリーンを見つめ、レインがピクリと肩を震わせた、
「あのね、裏山にね」
とエフェリーンが続けるのを、
「王妃様!!」
ソフィアが大声で制止してしまう、ビクリと肩を震わせソフィアへ顔を向けるエフェリーンに、
「申し訳ありません、大声を・・・ですが、その件は御内密に何卒・・・」
ソフィアはゆっくりと噛み締めるように告げた、その真剣な眼差しと口調に、
「そう・・・ね、ごめんなさい、軽率だったかしら」
エフェリーンは不満そうであったが渋々と謝罪する、
「すいません、なにぶん・・・はい、騒ぎになりますと、王国をひっくり返しかねない事でありますから・・・」
「・・・確かにね、エルマ、忘れて頂戴・・・で、なんでしたっけ」
と誤魔化すように微笑むエフェリーンである、
「あー、ほら、こっちに長居をするかどうかかしら」
マルルースが慌てて答える、
「そう、それよ、どうかしら、そういう訳でね、イフナースはすっかり元気なのよ、で、色々あってこっちに屋敷もあるの、あなた一人を泊めるのなんて簡単なのよ」
「そういう事ね」
王妃二人がなんとか落ち着きをみせて優しい笑みを浮かべ、ソフィアはホッと安堵し木窓をゆっくりと閉じる、何事かと顔を上げたウルジュラとミナもすぐに双六に戻ったようで、リーニーとカトカはすっかり手を止めて見守っていた、書記係として席を占めているが現時点では特に技術的な話題になっておらず、白墨も黒板もその役目を果たしていない、アフラは静かに壁際に控えており、そしてレインは難しい顔で首を傾けている、
「えっと・・・すいません、その・・・何から何まで・・・お世話になるのは・・・」
エルマはしかしやはりどこか遠慮気味であった、それは不安半分、申し訳なさ半分といった所で、正直な所踏ん切りがつかないのであった、そこへ、
「申し訳ありません」
エレインがドタバタと玄関から顔を出した、
「あら、エレインさん、忙しいようね」
マルルースがニコリと微笑み、
「そうね、もうすっかり元気になったのかしら?」
エフェリーンも優しく微笑む、
「お二人を差し置いて仕事など、失礼の段どうか御容赦を」
勢いよく頭を下げるエレインに、
「何を言っているの、事情はアフラから聞いてますよ」
「そうです、あれね、イフナースも駄目ね、女性の扱い方を教えないと」
「まったくだわ」
フンスと鼻息を荒くする二人にエレインはゆっくりと頭を上げ、
「その・・・私が不甲斐ないと・・・昨日も姉に叱られた所です・・・殿下にも御迷惑をおかけして・・・」
「いいのよ、さっ、座りなさい、こちらエルマよ、エルマ、こちらがエレインさんね、色々とお世話になっているの」
エルマはゆっくりと会釈をするも、エレインは、
「そんな、お世話になっているのはこちらです」
「はいはい、分かったから、座りなさい、そうだ、エレインさん、ニコリーネはまだこちらで世話になっているのよね」
「あっ、はい、ニコリーネさんはお部屋でお仕事中と思いますが、お呼びしましょうか」
「いいの、あれはパトリシアのお気に入りなんだから好きにさせておきなさい、となると、エレインさんの事務所にはお部屋は余っているの?」
「えっ、はい、個人部屋はありますが・・・お泊りになるのであれば殿下のお屋敷が宜しいかと思いますが」
「そうじゃなくて、どうかしら、イフナースの屋敷が嫌ならエレインさんの所にお世話になるのは?」
「それもいいかもですね」
ソフィアが適当に微笑みつつエレインに湯呑を供した、エレインはすいませんと小さく会釈をして席に着く、エルマが再び何が何やらと混乱していると、バタバタと階段が騒がしくなる、何事かと面々が階段を注視するとイフナースがヒョイと顔を出した、そして、見つめる一同の視線を一身に受けその顔を瞬時に強張らせると、
「たばかったなー、タローーーー!!」
怒声を上げて振り返るのであった。
「先程も言った通り・・・実験的な技術で、時間がかかると予想されます、なので・・・もしこちらに滞在可能であればそれが良いかと思います、通うとなるとアフラさんかリンドさんの手を借りる事になると思います、なので・・・どうでしょうか?」
ソフィアが念を押すように問いかける、ソフィアが現時点で考えている手技はタロウの協力を必要とし、隣に座るレインがウズウズと何かを言いたそうにしている為、どうやらレインも口を出したいらしいと察している、故に恐らくであるがなんとかなりそうであった、しかし、それもあくまで実験的である事は変わらない、故に時間と本人の協力が不可欠であった、ソフィアはジッとエルマを見つめる、その表情は見えなかったが、その佇まいから悩んでいる事は把握できた、何より見ず知らずの医者ですら無い者にそのように問われたら即断など出来はしない、王妃からの紹介であるとはいえ、悩むのも無理はない、
「なら、イフナースの屋敷に泊まればいいのよ」
エフェリーンがあっさりと口を挟み、
「それいいわね、客間が空いてるし、何かあってもリンドかアフラがいつもいるから便利よね」
マルルースがポンと小さく手を叩く、ソフィアもそれもそうだわねーと頷くがエルマはエッと小さく驚いてエフェリーンを見つめていた、
「なに?難しい?」
キョトンと問い返すエフェリーンである、
「あっ・・・いいえ、そのイース様・・・いえ、殿下のお屋敷ですか?」
「そうよ、途中で通ったでしょ、転送陣が並んでる狭い部屋」
「はい・・・すいません・・その、えっと」
エルマは一体何から聞けばいいのやらと再び軽く混乱する、まずイフナースの名を聞いたのはもう10年振りであろうか、そしてその名は王都でも口の端に上がる事は無くなって随分経つと思う、大戦時の病で伏せっているとだけエルマは耳にしていた、そしてかの転送陣である、先程三階で詳しくは聞いたがまるで理解できぬ技術で、さらには光柱である、これは勿論エルマは初めて見る灯りであった、そしてこのソフィアと名乗る女性である、王都で開業する高名な医者の誰一人として治す術は無いと明言したこの爛れた皮膚を、時間はかかるがなんとかできるらしい、そして先程から視界に入っている美しく輝く巨大な鏡、さらには暖炉の脇で小さく水が流れ落ちているガラスと木の造作物、それらを初めて目にしたエルマにすればもう全てが何が何やらと良く分からない空間であった、
「あー・・・ごめんなさいね、少し急ぎ過ぎたかしら」
ソフィアがニコリと微笑む、何とも優しくのんびりとしたもので、
「そうですね、治療云々はまず置いておいて、何がどうなっているのかをゆっくりと説明致しますね」
と続けると、
「まずは・・・そうですね、この街がモニケンダムである事から見ていきましょう」
ソフィアは腰を上げると木窓に向かった、寒気が入る為明り取り程度に薄く開けたそれを全開にし、
「王都は雨でした?」
「えっ・・・あっ、いいえ」
「こっちは朝から大雨なんです」
と半身を避けて窓の外を見せた、確かに土砂降りである、三階の研究所に入った瞬間に気付いた何かうるさいなと感じたそれはどうやらこの雨音であったらしい、
「そんな・・・」
「ふふっ、それにこっちは寒いわね」
「そうよねー、全然違うわね」
王妃二人もソフィアの意図に気付いたらしい、見事に話しを合わせて軽く微笑む、
「でも、私雨は好きなのよ、ほら、街中が綺麗になるでしょ」
「確かにね、王都はどうしても埃っぽくって臭いから」
「ねー、こっちはその点いいわよね、やっぱり川のお陰かしら?」
「ですね、でも、その代わりに川は汚いんですよ」
「そういうものよ、王都なんて馬車に乗らないと街歩きも出来ないのよ」
「あっ、それ分かります、昔散策しようとしてえらい目に遭いました」
「でしょー」
ニコニコと微笑む三人を、エルマはポカンと見つめてしまう、そして確かになと理解した、まずここが王都ではない事である、
「だから・・・そうね、そのうちあれでしょ、晴れる日もあるんでしょ、そしたら街を歩いてみるのもいいわよ、この街は城壁が無いから息苦しくないのよ」
「そうよね、それに道が綺麗でね、市場も活気があるし、子供達も多くて」
「えっ・・・えっと、お二人が歩かれたのですか?」
エルマがおずおずと問い質す、
「そうよ、お祭りのときだったけど」
「あっ、あれは駄目、泥祭りは駄目」
「あー、ありましたねー」
「ホント駄目、あっ、この間のお祭りは良かったわ、あの光柱のと、学園の」
「そうね、あれは楽しかったわ、学園のは勉強になったわね」
「お祭り・・・ですか?」
「そうなんです、この街ってね、いろんな地域の人が集まってできた街らしくて、祭りが多かったんですって、でも毎日のように祭りがあるもんだから、月に一度にまとめろって領主様がしかりつけたらしくて、なもんで、月に一回はなんだかんだで街を上げてのお祭りがあるんです、あっ、今月は来月と一緒なのかな?ほら、年末と年始の祭り?」
「あら、そうだったんですか」
「もー、マルルースそう聞いたでしょ」
「そう?」
「そうよ」
王妃二人が顔を見合わせ、エルマはへーと素直に感心してしまった、
「まっ、私もほら、半年くらい前にこっちに来たばかりなので、その毎月のお祭りを全部見たわけではないのですが、そんな感じです」
「そう・・・なんですね・・・」
「そうなの、でね、そっか、先に言えば良かったわね、イフナースが病床にあった事は聞いてるでしょ」
マルルースが優しくエルマを見つめる、エルマはコクリと頷いた、
「そのイフナースを治療したのがソフィアさんなの」
エッとエルマはソフィアを見つめ、
「私は大した事はしてないですよ」
と苦笑いで謙遜するソフィアである、
「そんな事ないでしょ、あなたがいなければイフナースはまだ床の中だわ」
「そうよね・・・ホントにそう、エルマ、ソフィアさんはね、ある意味でこの王国を救ってくれた方なのよ」
「言い過ぎですって」
「あら、謙遜も過ぎると嫌味に聞こえますよ」
「また、そんな事言ってー」
「素直に褒められておきなさい」
「そうかもですけどー」
「はいはい、だからね、そのソフィアさんがなんとかできそうって言ってるんだから、任せてみなさい、良くなることはあっても悪くなることはないわよ、いい、イフナースが5年も苦しんだ病をあっという間に治したんだから、下手な医者よりも信用していいわ」
「そうね、それにね、あなたを呼ぼうと思い立った美容の技術、あなたも体験してみなさい、絶対気に入るわ」
「そうね、その通りよ」
「でしょー、ほら、この爪を見て、この肌も、10歳は若返ったんだから」
「あら、それで足りるかしら?・・・私は10歳くらいだけど・・・エフェリーン姉様は15歳くらい?」
「まっ・・・マルルースその辺にしておきなさい」
「勿論ですわ姉様」
ウフフと微笑みつつ睨み合う王妃二人である、エルマは唖然と二人を見つめ、ソフィアは何を言っているんだかと苦笑いを浮かべる、
「・・・まぁ・・・そういう事だから・・・信じていいのよ」
「はっ・・・はい」
マルルースの優しく真摯な視線にエルマは思わず頷いた、
「宜しい、あっ、そうだ、あなた豊穣神の信徒だったわよね」
エフェリーンがそう言えばと軽く口を開く、エッとソフィアは思わずエフェリーンを見つめ、レインがピクリと肩を震わせた、
「あのね、裏山にね」
とエフェリーンが続けるのを、
「王妃様!!」
ソフィアが大声で制止してしまう、ビクリと肩を震わせソフィアへ顔を向けるエフェリーンに、
「申し訳ありません、大声を・・・ですが、その件は御内密に何卒・・・」
ソフィアはゆっくりと噛み締めるように告げた、その真剣な眼差しと口調に、
「そう・・・ね、ごめんなさい、軽率だったかしら」
エフェリーンは不満そうであったが渋々と謝罪する、
「すいません、なにぶん・・・はい、騒ぎになりますと、王国をひっくり返しかねない事でありますから・・・」
「・・・確かにね、エルマ、忘れて頂戴・・・で、なんでしたっけ」
と誤魔化すように微笑むエフェリーンである、
「あー、ほら、こっちに長居をするかどうかかしら」
マルルースが慌てて答える、
「そう、それよ、どうかしら、そういう訳でね、イフナースはすっかり元気なのよ、で、色々あってこっちに屋敷もあるの、あなた一人を泊めるのなんて簡単なのよ」
「そういう事ね」
王妃二人がなんとか落ち着きをみせて優しい笑みを浮かべ、ソフィアはホッと安堵し木窓をゆっくりと閉じる、何事かと顔を上げたウルジュラとミナもすぐに双六に戻ったようで、リーニーとカトカはすっかり手を止めて見守っていた、書記係として席を占めているが現時点では特に技術的な話題になっておらず、白墨も黒板もその役目を果たしていない、アフラは静かに壁際に控えており、そしてレインは難しい顔で首を傾けている、
「えっと・・・すいません、その・・・何から何まで・・・お世話になるのは・・・」
エルマはしかしやはりどこか遠慮気味であった、それは不安半分、申し訳なさ半分といった所で、正直な所踏ん切りがつかないのであった、そこへ、
「申し訳ありません」
エレインがドタバタと玄関から顔を出した、
「あら、エレインさん、忙しいようね」
マルルースがニコリと微笑み、
「そうね、もうすっかり元気になったのかしら?」
エフェリーンも優しく微笑む、
「お二人を差し置いて仕事など、失礼の段どうか御容赦を」
勢いよく頭を下げるエレインに、
「何を言っているの、事情はアフラから聞いてますよ」
「そうです、あれね、イフナースも駄目ね、女性の扱い方を教えないと」
「まったくだわ」
フンスと鼻息を荒くする二人にエレインはゆっくりと頭を上げ、
「その・・・私が不甲斐ないと・・・昨日も姉に叱られた所です・・・殿下にも御迷惑をおかけして・・・」
「いいのよ、さっ、座りなさい、こちらエルマよ、エルマ、こちらがエレインさんね、色々とお世話になっているの」
エルマはゆっくりと会釈をするも、エレインは、
「そんな、お世話になっているのはこちらです」
「はいはい、分かったから、座りなさい、そうだ、エレインさん、ニコリーネはまだこちらで世話になっているのよね」
「あっ、はい、ニコリーネさんはお部屋でお仕事中と思いますが、お呼びしましょうか」
「いいの、あれはパトリシアのお気に入りなんだから好きにさせておきなさい、となると、エレインさんの事務所にはお部屋は余っているの?」
「えっ、はい、個人部屋はありますが・・・お泊りになるのであれば殿下のお屋敷が宜しいかと思いますが」
「そうじゃなくて、どうかしら、イフナースの屋敷が嫌ならエレインさんの所にお世話になるのは?」
「それもいいかもですね」
ソフィアが適当に微笑みつつエレインに湯呑を供した、エレインはすいませんと小さく会釈をして席に着く、エルマが再び何が何やらと混乱していると、バタバタと階段が騒がしくなる、何事かと面々が階段を注視するとイフナースがヒョイと顔を出した、そして、見つめる一同の視線を一身に受けその顔を瞬時に強張らせると、
「たばかったなー、タローーーー!!」
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