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本編
71話 晩餐会、そして その38
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「何を言っている、まったくお陰でこっちは忙しかったんだよ、で、タロウ、イフナースの修行の方、どう思う?」
とクロノスは真面目な顔である、あっこれはふざけては駄目な雰囲気だなと大人達はゆっくりと腰を下ろした、
「ん?充分だと思うよ、完璧とは言えないけどね、使える状態には仕上がっている」
タロウが静かに答えた、天幕での打合せの後、タロウはアフラと共にイフナースの修行の成果を確認している、初日以降なんだかんだでアフラとリンドに任せっきりになっていたのであるが、どうやらタロウの考える程度には制御できるようになっているらしい、大したもんだとタロウは素直にイフナースを褒め、アフラとリンドの地道な努力を讃えている、
「そうか、そうなると・・・あれか、転送陣の起動も任せられるか?」
「恐らくな、あれもほれ、大量に一気に流すのが良くないのであって、その塩梅が分ればいいだけだ、知ってるだろ?」
「勿論だ、そうなると・・・」
クロノスは背後のリンドを振り仰ぎ、リンドは小さく頷く、
「イフナース、どうする、人事の問題がでてきていてな、お前、王都に常駐するか?」
「はっ?」
とイフナースは不思議そうに目を丸くした、突然の事であり、何故そうなるのかがまるで理解できない、
「はっ、じゃねえよ、あれを使える人材がおらんのだ、使える者はな、誰であっても扱き使う、陛下とも話してそうなった」
「待て、聞いてないぞ」
「だから、今言ってるんだよ」
どうやらクロノスは若干御立腹らしい、普段の自信と余裕に溢れ、他人をすぐに茶化しだす悪癖が微塵も感じられられない、その背後のリンドも厳しい顔つきで、これは少しばかり雲行きが怪しいなと研究所の面々は顔を見合わせ、イザークもゆっくりと背筋を伸ばしている、
「・・・あのな・・・」
クロノスは鼻息を荒くしてジットリとイフナースを睨みつけ、しかし、ここは言葉を選ぶべきかと黙り込む、
「あっ、じゃ、私達は席を外しますね」
とユーリがこれは場違いであろうなとグラスを片手に腰を上げ、サビナ達もそれが良さそうだと腰を上げる、
「ん・・・悪いな、いや、ユーリお前は残れ」
エッと固まるユーリである、何気にクロノスは怒ると怖い、普段から適当にからかってはいるが、それはクロノスがそれを許容し、またそういう仲でもある為だからで、冒険者時代にまだそれほど仲が良く無かった頃はよく怒鳴られていたものである、特にユーリもソフィアもあくまで冒険者でしかなく、タロウに至っては口は達者で知識はあるが経験が無いのはまるわかりで、クロノスから見ればこと戦争に関してはまるっきりの素人であった、命を懸けた戦場という場にあって、その適当さには我慢出来なかったのである、
「すいません、では私達は・・・」
とサビナとカトカ、ゾーイが小さく一礼し食堂へ下りた、グラスはしっかり手にしているあたり、流石ユーリの弟子である、
「なんだよ・・・めんどくさい」
イフナースがグラスを呷って目を細める、
「・・・二点ある」
クロノスは自分の膝に肘を置いて手を組んだ、あー・・・これは本格的な説教になるなとユーリとタロウは覚悟を決め、イザークはいよいよ顔を強張らせてしまった、
「今日のあれだ、タロウの扱いに関してだ」
「それは別に構わんだろ」
「いや、違う、はっきり言うが、軍に関する事でこいつを頼りすぎるのは駄目だ、危険な上に適当過ぎる」
本人を前にしてクロノスはハッキリと言い切った、えーとタロウは口を尖らせるも、まぁクロノスがそう考えているのであればこちらとしても都合が良いかと思い直す、タロウ自身も協力するにやぶさかではないが、積極的では無かった、特に軍事に関しては距離を置きたいと考えている、ガッツリと首を突っ込んでしまってはいるのであるが、
「どういう意味だ」
「そのままだよ、こいつはな、博識だし、便利だ、適当だがやる事はやる、挙句に異常だ、特に魔法に関してはな、無論他にもあるが、とにかく異質で、尋常ではない、それはお前も理解していると思うがな」
何て言い草だとタロウは瞑目する、一言も言い返せないのが何とも悲しい、
「陛下もな、あれを子飼いにするのは無理だと明言している、俺もそう思う、故に王族の相談役なのだ、王国の相談役ではない、この意味はお前であれば分かるだろ」
「・・・確かにそうだがさ・・・」
「そこに意味があるんだよ、考えろ、陛下はな、王族が個人を頼みにするのは構わないが、王国が個人に裁量を委ねるような事態や、個人の力量で差配される事はあってはならない、そう考えていらっしゃるんだ、だから、王族の相談役なんだよ」
へーなるほどなーとユーリは理解し、イザークもそういう事なのかと腑に落ちた、確かにタロウは王族の相談役との肩書で、それはあくまで肩書であって役職では無く、他にも数人いる相談役と同格な訳で、さらには王国の相談役も実は別に存在する、しかし彼らはしっかりとした役職があり仕事があり正規の肩書を持っている、王国の相談役として名が上がる時にはあくまで専門家としての意見聴取に留まっていた筈であった、
「・・・理解はしているよ」
「だろうな、お前さんはガキの頃から叩き込まれているだろうからな・・・で、もう一点だ、こっちのが重要なんだが、軍はな、あくまで組織として動かなければならん、個人を軸にした戦術や戦略など以ての外だ」
「それも理解しているよ」
「いいや、していない、今日のあれはなんだ、まんまこいつの異常さに乗っかった策ではないか、メインデルトもアンドリースも呆れていたぞ、お前の手前誰も何も言わなかったし、確かにあらゆる意味で便利にはなる、文句の付けようもない、だがな、個人に頼りすぎるのだ、そうならないようにリンドもロキュスも動いていたものを、引っかき回した事になるのだぞ」
ヘー、あの先生やる事やってたんだーとユーリとタロウは驚いた、そう言えば暫く顔を見ていない、どうやら王都で頑張っているらしい、まぁ、転送陣やら光柱やらと研究材料は大量に持ち帰っている、それらを弄繰り回すだけでも時間は足りない事であろう、
「だから、それはだな」
「言い分は分かる、こいつの目的も聞いた、軍としても有難い事この上無い、しかしだ、何度も言うが軍は組織で動くのだ、それを一番上のお前が引っかき回すのは駄目だ、今日の提言でリンドはまだしもロキュスの顔を潰す事になり、軍団長の指示も計画もひっくり返す事になる、これはな、その下の官僚、事務官、将兵に至る迄不信感を与えかねない、それほどの愚行なのだ、いいか、これがな、例えばイザークがこういう案もあると言い出しならまだ話しは違う、お前が言い出したのが問題なんだ、戦の中心で、総大将たるお前が思い付きで作戦を変える男だとなったら、誰もお前の言う事を真に受けなくなる、それどころか無視する事もあるだろう、迅速に動くべき時にも動けなくなる、その経験はあるだろ、お前でも」
「・・・そうだが・・・」
「いいか、お前の立場は魔族大戦時の兄貴の腰巾着では無いんだよ、一国の命運を背負っているんだ、責任が大きく異なる、それを忘れるな」
クロノスとしては珍しい理屈っぽい説教であった、ユーリはあらこいう怒り方も出来るんだとクロノスその人の成長に感心してしまう、その昔は感情に任せて怒鳴り散らしていた記憶があった、どうやらクロノスも為政者として大人として鍛えられたらしい、
「・・・まぁ・・・確かにな・・・」
イフナースはフンと鼻息を吐き出して、渋々と認めたらしい、確かに今日は少々浮ついていた、いや、ここ数日、なんだかんだと忙しく、周囲が見えていなかったかもしれない、エレインの一件然り、今日のこれ然りである、
「分かればいい、策の変更自体はよくある事だし、いざとなったらタロウに頼むかと俺もリンドも考えてはいた」
エッとタロウが顔を上げ、
「なんだよ、だったら同じだろ」
とイフナースがクロノスを睨む、
「同じなものか、やるだけやってどうしようもなくなったらって事だよ、最終手段は常に用意しておくものだ、こいつはな最終手段なんだ」
エッと再びタロウは驚いた、そういう扱いだったのかと口をへの字に曲げてしまう、
「・・・それはそれでどうかしら・・・」
ユーリも思わず呟いてしまう、しかし、
「まぁ・・・あんたの気持ちは分かるけど・・・」
とクロノスの一睨みで黙り込む、
「ふー・・・まぁ、そういう訳でな、説教は得意じゃない、この程度にしておくが・・・あれだ、お前、少し落ち着きが無いぞ、どうかしたか?」
クロノスはスッと肩の力を抜き背筋を伸ばした、
「それは・・・まずな・・・」
イフナースは素直に認めざるを得ない、自分も今さっきそう感じた事なのである、
「まぁ・・・第六がこっちに着いたらちゃんとした副官を選べ、なんなら俺から推挙してもいい、やはり軍関係の副官がいないとどうしてもな、ブレフトだけでは難しいだろ」
「それは前にも言われている」
「だな、まぁ、それまでは少し自重しろ、その程度が丁度いいもんだ、俺もな、リンドによく怒鳴られたもんだよ」
リンドがニヤリと微笑む、その笑みにイフナースは苦笑いで答えた、リンドも怒ったら怖そうだなーとユーリとタロウは目を細める、
「まぁ・・・こうやって叱ってくれる人がいるのはありがたいんだがな・・・そうだ、イザークお前少しの間イフナースに付いてくれ」
突然の指名にエッと驚くイザークであった、
「お前さんも暇じゃないのは知っているが他に良さそうなのがおらん、お前さんなら実戦も事務も把握している、なに、後任が決まるまでの10日かその程度だ、どうせあれだ、転送陣の設置やら何やらでタロウとイフナースに付きっきりになるだろ、こいつの暴走を諫めろ」
「ハッ、はい、命令とあれば・・・ですが、軍団長の許可を得ませんと・・・」
「俺から話しておく、なにイフナースと仕事をするときだけだ、通達も出しておく、足を引っ張れってのは表現が違うが、丁度良い重しになれ、お前さんなら出来るだろ」
ジッとイザークを睨むクロノスである、その無言の圧力にイザークはこれは本気のようだと理解し、
「ハッ、確かに承りました」
バッと立ち上がり軍人式の敬礼である、
「ヨシッ、それでいい、イフナース、暫くはイザークを頼れ、こいつが何か言い出しても一旦イザークと相談しろ、決して逸るな、お前の為にならん」
こいつとはタロウの事であろう、俺ってそんなに信用ないのかなとタロウは首を傾げるが、ユーリはニヤニヤと微笑んでいる、
「・・・わかった、そうしよう」
イフナースは静かに頷いた、イフナースも確かに自分が足りない事は自覚している、少しばかり調子に乗っていたのも事実で、それは恐らく体調の良さとか魔法修行が上手く行っている事から来ているのであろうかとも思う、そしてまたやたらと持ち上げられてしまっていることもあった、荒野での騒動以降顔を合わせるあらゆる人物から祝福の言葉を贈られ、チヤホヤされてしまっていた、確かにここはより自重し、慎重にならなければならかったと思う、その隣りでユーリは随分素直な王子様だなと片眉を上げた、ボニファースもそうなのであるがどうにも王族の方々は思慮深い、その立場も重責もあっての事であろう、それはそれで王国民としては大変に結構な事である、能天気で奔放、さらに暴力的な王様なんぞ目も当てられない、クロノスでさえその環境に感化されたのかリンドの教育の賜物か随分と理知的になっている、環境が人を育てるのであろうか、大変に興味深いなと無礼な事を考えてしまった、
「うん、でだ、ここからは相談だ」
とクロノスは視線でイザークに座るように促し、イザークは即座に着席する、軍人だなーとタロウはのほほんとしていると、
「タロウ、ユーリ、人材の確保が急務なのだ、知恵を貸せ」
クロノスの強い視線が二人を襲い、今度はこっちかよと嫌そうに顔を歪める二人であった。
とクロノスは真面目な顔である、あっこれはふざけては駄目な雰囲気だなと大人達はゆっくりと腰を下ろした、
「ん?充分だと思うよ、完璧とは言えないけどね、使える状態には仕上がっている」
タロウが静かに答えた、天幕での打合せの後、タロウはアフラと共にイフナースの修行の成果を確認している、初日以降なんだかんだでアフラとリンドに任せっきりになっていたのであるが、どうやらタロウの考える程度には制御できるようになっているらしい、大したもんだとタロウは素直にイフナースを褒め、アフラとリンドの地道な努力を讃えている、
「そうか、そうなると・・・あれか、転送陣の起動も任せられるか?」
「恐らくな、あれもほれ、大量に一気に流すのが良くないのであって、その塩梅が分ればいいだけだ、知ってるだろ?」
「勿論だ、そうなると・・・」
クロノスは背後のリンドを振り仰ぎ、リンドは小さく頷く、
「イフナース、どうする、人事の問題がでてきていてな、お前、王都に常駐するか?」
「はっ?」
とイフナースは不思議そうに目を丸くした、突然の事であり、何故そうなるのかがまるで理解できない、
「はっ、じゃねえよ、あれを使える人材がおらんのだ、使える者はな、誰であっても扱き使う、陛下とも話してそうなった」
「待て、聞いてないぞ」
「だから、今言ってるんだよ」
どうやらクロノスは若干御立腹らしい、普段の自信と余裕に溢れ、他人をすぐに茶化しだす悪癖が微塵も感じられられない、その背後のリンドも厳しい顔つきで、これは少しばかり雲行きが怪しいなと研究所の面々は顔を見合わせ、イザークもゆっくりと背筋を伸ばしている、
「・・・あのな・・・」
クロノスは鼻息を荒くしてジットリとイフナースを睨みつけ、しかし、ここは言葉を選ぶべきかと黙り込む、
「あっ、じゃ、私達は席を外しますね」
とユーリがこれは場違いであろうなとグラスを片手に腰を上げ、サビナ達もそれが良さそうだと腰を上げる、
「ん・・・悪いな、いや、ユーリお前は残れ」
エッと固まるユーリである、何気にクロノスは怒ると怖い、普段から適当にからかってはいるが、それはクロノスがそれを許容し、またそういう仲でもある為だからで、冒険者時代にまだそれほど仲が良く無かった頃はよく怒鳴られていたものである、特にユーリもソフィアもあくまで冒険者でしかなく、タロウに至っては口は達者で知識はあるが経験が無いのはまるわかりで、クロノスから見ればこと戦争に関してはまるっきりの素人であった、命を懸けた戦場という場にあって、その適当さには我慢出来なかったのである、
「すいません、では私達は・・・」
とサビナとカトカ、ゾーイが小さく一礼し食堂へ下りた、グラスはしっかり手にしているあたり、流石ユーリの弟子である、
「なんだよ・・・めんどくさい」
イフナースがグラスを呷って目を細める、
「・・・二点ある」
クロノスは自分の膝に肘を置いて手を組んだ、あー・・・これは本格的な説教になるなとユーリとタロウは覚悟を決め、イザークはいよいよ顔を強張らせてしまった、
「今日のあれだ、タロウの扱いに関してだ」
「それは別に構わんだろ」
「いや、違う、はっきり言うが、軍に関する事でこいつを頼りすぎるのは駄目だ、危険な上に適当過ぎる」
本人を前にしてクロノスはハッキリと言い切った、えーとタロウは口を尖らせるも、まぁクロノスがそう考えているのであればこちらとしても都合が良いかと思い直す、タロウ自身も協力するにやぶさかではないが、積極的では無かった、特に軍事に関しては距離を置きたいと考えている、ガッツリと首を突っ込んでしまってはいるのであるが、
「どういう意味だ」
「そのままだよ、こいつはな、博識だし、便利だ、適当だがやる事はやる、挙句に異常だ、特に魔法に関してはな、無論他にもあるが、とにかく異質で、尋常ではない、それはお前も理解していると思うがな」
何て言い草だとタロウは瞑目する、一言も言い返せないのが何とも悲しい、
「陛下もな、あれを子飼いにするのは無理だと明言している、俺もそう思う、故に王族の相談役なのだ、王国の相談役ではない、この意味はお前であれば分かるだろ」
「・・・確かにそうだがさ・・・」
「そこに意味があるんだよ、考えろ、陛下はな、王族が個人を頼みにするのは構わないが、王国が個人に裁量を委ねるような事態や、個人の力量で差配される事はあってはならない、そう考えていらっしゃるんだ、だから、王族の相談役なんだよ」
へーなるほどなーとユーリは理解し、イザークもそういう事なのかと腑に落ちた、確かにタロウは王族の相談役との肩書で、それはあくまで肩書であって役職では無く、他にも数人いる相談役と同格な訳で、さらには王国の相談役も実は別に存在する、しかし彼らはしっかりとした役職があり仕事があり正規の肩書を持っている、王国の相談役として名が上がる時にはあくまで専門家としての意見聴取に留まっていた筈であった、
「・・・理解はしているよ」
「だろうな、お前さんはガキの頃から叩き込まれているだろうからな・・・で、もう一点だ、こっちのが重要なんだが、軍はな、あくまで組織として動かなければならん、個人を軸にした戦術や戦略など以ての外だ」
「それも理解しているよ」
「いいや、していない、今日のあれはなんだ、まんまこいつの異常さに乗っかった策ではないか、メインデルトもアンドリースも呆れていたぞ、お前の手前誰も何も言わなかったし、確かにあらゆる意味で便利にはなる、文句の付けようもない、だがな、個人に頼りすぎるのだ、そうならないようにリンドもロキュスも動いていたものを、引っかき回した事になるのだぞ」
ヘー、あの先生やる事やってたんだーとユーリとタロウは驚いた、そう言えば暫く顔を見ていない、どうやら王都で頑張っているらしい、まぁ、転送陣やら光柱やらと研究材料は大量に持ち帰っている、それらを弄繰り回すだけでも時間は足りない事であろう、
「だから、それはだな」
「言い分は分かる、こいつの目的も聞いた、軍としても有難い事この上無い、しかしだ、何度も言うが軍は組織で動くのだ、それを一番上のお前が引っかき回すのは駄目だ、今日の提言でリンドはまだしもロキュスの顔を潰す事になり、軍団長の指示も計画もひっくり返す事になる、これはな、その下の官僚、事務官、将兵に至る迄不信感を与えかねない、それほどの愚行なのだ、いいか、これがな、例えばイザークがこういう案もあると言い出しならまだ話しは違う、お前が言い出したのが問題なんだ、戦の中心で、総大将たるお前が思い付きで作戦を変える男だとなったら、誰もお前の言う事を真に受けなくなる、それどころか無視する事もあるだろう、迅速に動くべき時にも動けなくなる、その経験はあるだろ、お前でも」
「・・・そうだが・・・」
「いいか、お前の立場は魔族大戦時の兄貴の腰巾着では無いんだよ、一国の命運を背負っているんだ、責任が大きく異なる、それを忘れるな」
クロノスとしては珍しい理屈っぽい説教であった、ユーリはあらこいう怒り方も出来るんだとクロノスその人の成長に感心してしまう、その昔は感情に任せて怒鳴り散らしていた記憶があった、どうやらクロノスも為政者として大人として鍛えられたらしい、
「・・・まぁ・・・確かにな・・・」
イフナースはフンと鼻息を吐き出して、渋々と認めたらしい、確かに今日は少々浮ついていた、いや、ここ数日、なんだかんだと忙しく、周囲が見えていなかったかもしれない、エレインの一件然り、今日のこれ然りである、
「分かればいい、策の変更自体はよくある事だし、いざとなったらタロウに頼むかと俺もリンドも考えてはいた」
エッとタロウが顔を上げ、
「なんだよ、だったら同じだろ」
とイフナースがクロノスを睨む、
「同じなものか、やるだけやってどうしようもなくなったらって事だよ、最終手段は常に用意しておくものだ、こいつはな最終手段なんだ」
エッと再びタロウは驚いた、そういう扱いだったのかと口をへの字に曲げてしまう、
「・・・それはそれでどうかしら・・・」
ユーリも思わず呟いてしまう、しかし、
「まぁ・・・あんたの気持ちは分かるけど・・・」
とクロノスの一睨みで黙り込む、
「ふー・・・まぁ、そういう訳でな、説教は得意じゃない、この程度にしておくが・・・あれだ、お前、少し落ち着きが無いぞ、どうかしたか?」
クロノスはスッと肩の力を抜き背筋を伸ばした、
「それは・・・まずな・・・」
イフナースは素直に認めざるを得ない、自分も今さっきそう感じた事なのである、
「まぁ・・・第六がこっちに着いたらちゃんとした副官を選べ、なんなら俺から推挙してもいい、やはり軍関係の副官がいないとどうしてもな、ブレフトだけでは難しいだろ」
「それは前にも言われている」
「だな、まぁ、それまでは少し自重しろ、その程度が丁度いいもんだ、俺もな、リンドによく怒鳴られたもんだよ」
リンドがニヤリと微笑む、その笑みにイフナースは苦笑いで答えた、リンドも怒ったら怖そうだなーとユーリとタロウは目を細める、
「まぁ・・・こうやって叱ってくれる人がいるのはありがたいんだがな・・・そうだ、イザークお前少しの間イフナースに付いてくれ」
突然の指名にエッと驚くイザークであった、
「お前さんも暇じゃないのは知っているが他に良さそうなのがおらん、お前さんなら実戦も事務も把握している、なに、後任が決まるまでの10日かその程度だ、どうせあれだ、転送陣の設置やら何やらでタロウとイフナースに付きっきりになるだろ、こいつの暴走を諫めろ」
「ハッ、はい、命令とあれば・・・ですが、軍団長の許可を得ませんと・・・」
「俺から話しておく、なにイフナースと仕事をするときだけだ、通達も出しておく、足を引っ張れってのは表現が違うが、丁度良い重しになれ、お前さんなら出来るだろ」
ジッとイザークを睨むクロノスである、その無言の圧力にイザークはこれは本気のようだと理解し、
「ハッ、確かに承りました」
バッと立ち上がり軍人式の敬礼である、
「ヨシッ、それでいい、イフナース、暫くはイザークを頼れ、こいつが何か言い出しても一旦イザークと相談しろ、決して逸るな、お前の為にならん」
こいつとはタロウの事であろう、俺ってそんなに信用ないのかなとタロウは首を傾げるが、ユーリはニヤニヤと微笑んでいる、
「・・・わかった、そうしよう」
イフナースは静かに頷いた、イフナースも確かに自分が足りない事は自覚している、少しばかり調子に乗っていたのも事実で、それは恐らく体調の良さとか魔法修行が上手く行っている事から来ているのであろうかとも思う、そしてまたやたらと持ち上げられてしまっていることもあった、荒野での騒動以降顔を合わせるあらゆる人物から祝福の言葉を贈られ、チヤホヤされてしまっていた、確かにここはより自重し、慎重にならなければならかったと思う、その隣りでユーリは随分素直な王子様だなと片眉を上げた、ボニファースもそうなのであるがどうにも王族の方々は思慮深い、その立場も重責もあっての事であろう、それはそれで王国民としては大変に結構な事である、能天気で奔放、さらに暴力的な王様なんぞ目も当てられない、クロノスでさえその環境に感化されたのかリンドの教育の賜物か随分と理知的になっている、環境が人を育てるのであろうか、大変に興味深いなと無礼な事を考えてしまった、
「うん、でだ、ここからは相談だ」
とクロノスは視線でイザークに座るように促し、イザークは即座に着席する、軍人だなーとタロウはのほほんとしていると、
「タロウ、ユーリ、人材の確保が急務なのだ、知恵を貸せ」
クロノスの強い視線が二人を襲い、今度はこっちかよと嫌そうに顔を歪める二人であった。
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