954 / 1,147
本編
71話 晩餐会、そして その35
しおりを挟む
それから暫くして、
「へー・・・それはまた大変な事になったわねー」
ソフィアのあからさまにすっとぼけた声が寮の食堂に響いた、
「そんな事言って、少しは聞いてたんじゃないですか?」
ブノワトがムッと口を尖らせる、
「そうですよ、だって、タロウさんが出入りしてたじゃないですかー」
その隣りのブラスも非難の声を上げざるを得なかった、共に広場での広報に衝撃を受けつつ、ここは恐らくより事情に詳しいであろうと思われるタロウを訪ねて来たのである、勿論フィロメナとヒセラ、レネイの姿もあった、五人は何とも深刻な様子で、さらにマフダとリーニーも事務所で広報の内容を聞き、不安そうに帯同している、
「それはそうだけど・・・まぁ、薄っすらとは聞いたかな?そんな感じ?」
ソフィアは湯呑を口にし適当に答えた、いつだったかパトリシアからチラリとは耳にしており、成程、タロウとクロノス、イフナースがバタバタと騒がしい訳だわと呑気に受け取った記憶がある、どうやら今日の広報で正式に通知されたらしい、よく聞けばどこでもないこのモニケンダムが狙われているらしく、そして荒野が主戦場になるらしいとの事で、そこまで発表されるものなんだなーと感心していたりした、
「あの・・・ホントの所はどうなんですか?」
フィロメナがおずおずと切り出す、ブラスがこういう事はタロウさんに聞くのが早いと言い出し、それもそうかもしれないと一緒に来たのであるが、その肝心のタロウが戻っておらず、寮ではソフィアとティルとミーンが夕食の支度をしていた、いつも通りのその光景に少しばかり違和感を感じてしまうが、その違和感はソフィア達では無く自分の中にある焦りと不安から来るものである事をフィロメナは気付けないでいたりする、
「ホントの所って言われても・・・」
ソフィアは普段通りに力の抜けた困ったような笑みを浮かべた、ブラスやフィロメナが勘繰るような事の真相は一切知らされていない、知ろうともしていなかった、危機意識が鈍ったのかなとソフィアは思う、
「うーん・・・じゃ、あれだ、ユーリに聞いてみる?私よりかは詳しい筈よ」
とソフィアは天井を仰いだ、三階の研究所を視線で指しているのである、
「ユーリ先生ですか?」
「うん、今日もほら、たぶんだけど、学園でも同じような連絡があったんじゃないのかな?なんか、サビナさん達も学園に集められたらしいし」
「それはまた・・・あー、そっか、学園は学園でそうなると動きますからね・・・」
とブラスが腕を組んで頷く、先の大戦時の記憶が呼び起される、ブラスが学生であった頃は大戦の真っ只中で、ブラスは学業をこなしつつ午後からは無償労働に明け暮れていた、それに不満を感じる事は無く、不平を口にした事も無い、まして前線の話しが聞けるし、家業以外の大人達とも知り合えた為大変に為になったと感じている、実際に楽しかった記憶はあれど、苦しかった記憶は無い、親父達は便乗値上げがどうとか、避難民の問題がどうのと言い争っていた様子であったが、青年であったブラスにとってはそれらはそれほど気にならなかった、
「そうなの?」
「はい、ほら、学生は兵役が免除されますから、でもその分・・・なんて言うかより酷使・・・ではないですね、より・・・うん、裏方仕事をやります、でも、あれは・・・この街がそういう街だったからで、今回はどうなるんだろ?」
ブラスがブノワトを伺う、ブノワトもまた同じような境遇で、荷物運びやら事務員やらといいように扱われていたりする、
「どうなるんだろって言われてもなー、だって、荒野でしょ、また、あれ?運送の手伝い?」
「たぶんな」
「なら別に、私はだって、それなりにやってたわよ、褒められたし」
「それは俺だって、だけどさ・・・」
「なにさ?」
「今度のはほら、この街が狙われてるんだろ?そうなると、城壁も無いし・・・なぁ・・・」
「それもそうよねー」
ソフィアは変わらずのほほんと呟く、しかしそれなりにどうしたものかと思考を巡らせてはいた、恐らくであるが、広報を耳にした者は家やら職場やらで似たような会話をしていると想像される、そして共通するのは戦争に対する不安であろう、こればかりはいくら話し合っても解消される事は無い、まして時間が解決する事でもなかった、この場合時間はより不安を増強させ、何らかの出来事、明確な勝利であったり、もしくは敗北であったりを目の当たりにしない限り続くものである、
「えっと、その、こう聞いては良くないと思うんですが」
とフィロメナが上目遣いでソフィアを伺う、
「なに?」
「あの・・・クロノス殿下やイース様はどのように・・・その、仰っているのかなって・・・」
フィロメナは遠慮勝ちに二人の名を出した、エッとマフダとリーニーが目を丸くしている、フィロメナら遊女である三人は以前に二人を接待しており、その際にその正体も明言されている、その職業上客の名を店以外で出す事は御法度なのであるが、ここは背に腹は代えられなかった、ザワザワと落ち着かない心中がフィロメナの慎重な思考に若干狂いを齎しているようであった、
「あー・・・そっか、フィロメナさんは知っているのよね」
「そうですね・・・」
「なら、本人に聞く?」
「そんな、それこそ、邪魔をしてしまっては申し訳ないですよ・・・お忙しいでしょうし」
「そうね、忙しいわよねー」
とソフィアは首を傾げた、少なくとも今日会ったイフナースは暇そうであった、まぁ、タロウとイザークを連れ出して何やら始めたらしく、忙しくはなったのであろうが、それにしても余裕が感じられる程で、しかし、ソフィアとしては戦端が開かれていない状況で総大将になるであろうイフナースが忙しくしていてもそれはそれで問題であろうな、などと考える、まぁ、軍人共の考え方もやり方も傍で見ていて何となくは分かるが、完全には理解していない、軍人とは効率を求めるものだとタロウは知った風な事を言っていたが、だからなんだとしか思えなかった、
「・・・ですよね・・・」
「そうよ、だからまぁ、あれよ、私らはほら・・・取り合えず落ち着いて下手に騒がないことがまず第一でしょ」
ソフィアは何か言う事があるかなと思いつつ、動き出した口そのままに言葉を発し、あぁ確かにそうかもしれないと納得する、自分で言っておいて自分で納得したのだ、人とは時々こういう事があるもので、
「そうよ、だって、軍団が三つも集まるんでしょ、で、公爵様の軍団も来ると、で、クロノスにイフーナス殿下でしょ、錚々たる面子じゃない、何も慌てる事じゃないわよ、その荒野で決着をつければいいだけなんだから、でしょ?」
と余裕の笑みを浮かべるソフィアであった、ブラスとブノワトは顔を見合わせ、遊女達もマフダもリーニーもそんな簡単に言われてもなと眉を顰める、
「もう、あー、ほら、あんたらはだって実際に戦争に行った事がないからだろうし・・・その相手の国?もよくわかんないんだけど、でもね、私が思うに・・・うん、クロノス一人いればね、まぁ、なんとかなるわよ、あれはほら、別格だから」
「別格ですか?」
「そうよ、別格、英雄だなんだって言われてるけどその通りなんだわ、それとイフナース殿下もね、色々あったけど、それなりの人だしね、それにちゃんと軍団も数を揃えるって事なんだから、ちゃんと考えているのよ、それにね、一番大事な事が抜けてるわね」
「一番大事?」
「そうよ、ほら、前の戦争の時って、いつのまにやら始まって、気付いた時には領土を奪われていたでしょ?」
「そう・・・ですね・・・」
「でしょ、それが今回はちゃんと攻められる前に対応できているんだもん、この街が狙わているのは確かに問題だし、怖い事なんだけど、それをね、ちゃんと防ごうとしているし、そう動いているんだわ、これはつまりね、なんとかなるって事なのよ」
ソフィアは理解しろとばかりに七人をゆっくりと見渡した、ブラスは確かにそうかもなと頷くが、他の女性達はやはり不安そうな顔に変わりは無い、その不安は無理解である事が大きいのであろう、戦争の恐怖は聞き知っており、それによる混乱は子供の頃から身に染みている、大人になってそれなりに対応できると自負しており、また対応を求められるのは理解しているが、何をして良いのかも分からない、やるべき事があるのではないかという焦りと、何をすればいいのかが分からないという無知、そして戦争そのものへの忌避感が不安を冗長させている、ソフィアはどれだけ理屈を捏ねても難しいのであろうなと首を傾げた、この場にあって悠揚と構えているのは自分だけである、それも致し方無い事ではあった、
「だから、何度も言うけど、慌てない、騒がない、まずはそこからね、でしょ?」
「そうですね、領主様もそう仰ってました」
ブラスがスッと顔を上げた、
「でしょ、下手に騒ぐと混乱の元だしね、それこそ、まだ敵の一人も見えてないのに勝手に被害を受ける事になるわよ、笑い話にもならないわ、そんなのは、向こうが攻めてきたと思ったら、モニケンダムは焼野原になってましたじゃ、向こうさんも何しに来たんだか分からないでしょ」
「それは言い過ぎですよ・・・」
「そう?でもね、たぶんだけど、その混乱こそが問題なの、領主様も言ってなかった?」
「言ってました」
「でしょ、そういう事よ、だから、まずは・・・そうね、偉い人達の言う事をちゃんと聞く事ね、別にあれでしょ、男達を徴兵しようとかって事じゃないんでしょ」
「今の所は・・・はい」
「でしょ、なら大丈夫よ、いよいよやばくなったら逃げるしかないんだし、荒野での戦闘であればこっちに来るまでに時間がかかるだろうしね、逃げる時間はたっぷりあるでしょ、なに、命があればね、なんとかなるんだわ」
アッハッハとソフィアは笑い飛ばすが、誰もニコリともしていない、まったくとソフィアを眉を顰める、どうやら言葉だけではどうにもならないらしい、その癖こうやって雁首揃えて相談に来るのである、ここはより堅実で身近な解決策として愚痴にして発散させるのが良いかと方策を巡らすも、フィロメナ達はその吐き出すべき愚痴も今のところは無い訳で、恐らく溜息が木霊する井戸端会議にしかならない、発散するものが無いのである、不安は意識を退行させるもので、上手く行かない、あいつが駄目だ、これがつまらない、そういった愚痴は実は前向きな思考の過程に精製されるものであったりする、
「・・・ソフィアさんならそうでしょうけど・・・」
マフダが消え入りそうな声で呟いた、
「うん、そんな事になったら・・・」
リーニーがそっとマフダを伺う、
「確かにね、私達はちょっとね」
レネイも同意のようであった、それぞれに若干意見は異なるであろうが、共通する思いは同じであろう、特にレネイやフィロメナ達は遊女である、逃げ出した先でまた遊女をやるのか、はたまた娼婦になるかの選択しかなく、マフダはまだ技術があるが、リーニーにはまだ胸を張って何かが出来ると言える自信が無かったりする、挙句先日から革命的な服飾やら化粧やら美容やらと大変に楽しく充実していた、その空間が失われる喪失感をも想像してしまう、考えれば考えるほど泥沼のように暗い思考に捕らわれてしまうのだ、しかし、
「大丈夫よ、そうなったら私が食わせてあげるから」
ソフィアがまったくと呆れた笑みを浮かべている、エッとソフィアを見つめる七人であった、
「これでもね、元冒険者なのよ、山でも森でも食うに困る事は無いんだから、そう思いなさい」
ソフィアはそう続けてニンマリと微笑むが、そういう事かな?と首を傾げてしまう女性達と、どうしてこうも逞しいかなと苦笑いを浮かべるブラスであった。
「へー・・・それはまた大変な事になったわねー」
ソフィアのあからさまにすっとぼけた声が寮の食堂に響いた、
「そんな事言って、少しは聞いてたんじゃないですか?」
ブノワトがムッと口を尖らせる、
「そうですよ、だって、タロウさんが出入りしてたじゃないですかー」
その隣りのブラスも非難の声を上げざるを得なかった、共に広場での広報に衝撃を受けつつ、ここは恐らくより事情に詳しいであろうと思われるタロウを訪ねて来たのである、勿論フィロメナとヒセラ、レネイの姿もあった、五人は何とも深刻な様子で、さらにマフダとリーニーも事務所で広報の内容を聞き、不安そうに帯同している、
「それはそうだけど・・・まぁ、薄っすらとは聞いたかな?そんな感じ?」
ソフィアは湯呑を口にし適当に答えた、いつだったかパトリシアからチラリとは耳にしており、成程、タロウとクロノス、イフナースがバタバタと騒がしい訳だわと呑気に受け取った記憶がある、どうやら今日の広報で正式に通知されたらしい、よく聞けばどこでもないこのモニケンダムが狙われているらしく、そして荒野が主戦場になるらしいとの事で、そこまで発表されるものなんだなーと感心していたりした、
「あの・・・ホントの所はどうなんですか?」
フィロメナがおずおずと切り出す、ブラスがこういう事はタロウさんに聞くのが早いと言い出し、それもそうかもしれないと一緒に来たのであるが、その肝心のタロウが戻っておらず、寮ではソフィアとティルとミーンが夕食の支度をしていた、いつも通りのその光景に少しばかり違和感を感じてしまうが、その違和感はソフィア達では無く自分の中にある焦りと不安から来るものである事をフィロメナは気付けないでいたりする、
「ホントの所って言われても・・・」
ソフィアは普段通りに力の抜けた困ったような笑みを浮かべた、ブラスやフィロメナが勘繰るような事の真相は一切知らされていない、知ろうともしていなかった、危機意識が鈍ったのかなとソフィアは思う、
「うーん・・・じゃ、あれだ、ユーリに聞いてみる?私よりかは詳しい筈よ」
とソフィアは天井を仰いだ、三階の研究所を視線で指しているのである、
「ユーリ先生ですか?」
「うん、今日もほら、たぶんだけど、学園でも同じような連絡があったんじゃないのかな?なんか、サビナさん達も学園に集められたらしいし」
「それはまた・・・あー、そっか、学園は学園でそうなると動きますからね・・・」
とブラスが腕を組んで頷く、先の大戦時の記憶が呼び起される、ブラスが学生であった頃は大戦の真っ只中で、ブラスは学業をこなしつつ午後からは無償労働に明け暮れていた、それに不満を感じる事は無く、不平を口にした事も無い、まして前線の話しが聞けるし、家業以外の大人達とも知り合えた為大変に為になったと感じている、実際に楽しかった記憶はあれど、苦しかった記憶は無い、親父達は便乗値上げがどうとか、避難民の問題がどうのと言い争っていた様子であったが、青年であったブラスにとってはそれらはそれほど気にならなかった、
「そうなの?」
「はい、ほら、学生は兵役が免除されますから、でもその分・・・なんて言うかより酷使・・・ではないですね、より・・・うん、裏方仕事をやります、でも、あれは・・・この街がそういう街だったからで、今回はどうなるんだろ?」
ブラスがブノワトを伺う、ブノワトもまた同じような境遇で、荷物運びやら事務員やらといいように扱われていたりする、
「どうなるんだろって言われてもなー、だって、荒野でしょ、また、あれ?運送の手伝い?」
「たぶんな」
「なら別に、私はだって、それなりにやってたわよ、褒められたし」
「それは俺だって、だけどさ・・・」
「なにさ?」
「今度のはほら、この街が狙われてるんだろ?そうなると、城壁も無いし・・・なぁ・・・」
「それもそうよねー」
ソフィアは変わらずのほほんと呟く、しかしそれなりにどうしたものかと思考を巡らせてはいた、恐らくであるが、広報を耳にした者は家やら職場やらで似たような会話をしていると想像される、そして共通するのは戦争に対する不安であろう、こればかりはいくら話し合っても解消される事は無い、まして時間が解決する事でもなかった、この場合時間はより不安を増強させ、何らかの出来事、明確な勝利であったり、もしくは敗北であったりを目の当たりにしない限り続くものである、
「えっと、その、こう聞いては良くないと思うんですが」
とフィロメナが上目遣いでソフィアを伺う、
「なに?」
「あの・・・クロノス殿下やイース様はどのように・・・その、仰っているのかなって・・・」
フィロメナは遠慮勝ちに二人の名を出した、エッとマフダとリーニーが目を丸くしている、フィロメナら遊女である三人は以前に二人を接待しており、その際にその正体も明言されている、その職業上客の名を店以外で出す事は御法度なのであるが、ここは背に腹は代えられなかった、ザワザワと落ち着かない心中がフィロメナの慎重な思考に若干狂いを齎しているようであった、
「あー・・・そっか、フィロメナさんは知っているのよね」
「そうですね・・・」
「なら、本人に聞く?」
「そんな、それこそ、邪魔をしてしまっては申し訳ないですよ・・・お忙しいでしょうし」
「そうね、忙しいわよねー」
とソフィアは首を傾げた、少なくとも今日会ったイフナースは暇そうであった、まぁ、タロウとイザークを連れ出して何やら始めたらしく、忙しくはなったのであろうが、それにしても余裕が感じられる程で、しかし、ソフィアとしては戦端が開かれていない状況で総大将になるであろうイフナースが忙しくしていてもそれはそれで問題であろうな、などと考える、まぁ、軍人共の考え方もやり方も傍で見ていて何となくは分かるが、完全には理解していない、軍人とは効率を求めるものだとタロウは知った風な事を言っていたが、だからなんだとしか思えなかった、
「・・・ですよね・・・」
「そうよ、だからまぁ、あれよ、私らはほら・・・取り合えず落ち着いて下手に騒がないことがまず第一でしょ」
ソフィアは何か言う事があるかなと思いつつ、動き出した口そのままに言葉を発し、あぁ確かにそうかもしれないと納得する、自分で言っておいて自分で納得したのだ、人とは時々こういう事があるもので、
「そうよ、だって、軍団が三つも集まるんでしょ、で、公爵様の軍団も来ると、で、クロノスにイフーナス殿下でしょ、錚々たる面子じゃない、何も慌てる事じゃないわよ、その荒野で決着をつければいいだけなんだから、でしょ?」
と余裕の笑みを浮かべるソフィアであった、ブラスとブノワトは顔を見合わせ、遊女達もマフダもリーニーもそんな簡単に言われてもなと眉を顰める、
「もう、あー、ほら、あんたらはだって実際に戦争に行った事がないからだろうし・・・その相手の国?もよくわかんないんだけど、でもね、私が思うに・・・うん、クロノス一人いればね、まぁ、なんとかなるわよ、あれはほら、別格だから」
「別格ですか?」
「そうよ、別格、英雄だなんだって言われてるけどその通りなんだわ、それとイフナース殿下もね、色々あったけど、それなりの人だしね、それにちゃんと軍団も数を揃えるって事なんだから、ちゃんと考えているのよ、それにね、一番大事な事が抜けてるわね」
「一番大事?」
「そうよ、ほら、前の戦争の時って、いつのまにやら始まって、気付いた時には領土を奪われていたでしょ?」
「そう・・・ですね・・・」
「でしょ、それが今回はちゃんと攻められる前に対応できているんだもん、この街が狙わているのは確かに問題だし、怖い事なんだけど、それをね、ちゃんと防ごうとしているし、そう動いているんだわ、これはつまりね、なんとかなるって事なのよ」
ソフィアは理解しろとばかりに七人をゆっくりと見渡した、ブラスは確かにそうかもなと頷くが、他の女性達はやはり不安そうな顔に変わりは無い、その不安は無理解である事が大きいのであろう、戦争の恐怖は聞き知っており、それによる混乱は子供の頃から身に染みている、大人になってそれなりに対応できると自負しており、また対応を求められるのは理解しているが、何をして良いのかも分からない、やるべき事があるのではないかという焦りと、何をすればいいのかが分からないという無知、そして戦争そのものへの忌避感が不安を冗長させている、ソフィアはどれだけ理屈を捏ねても難しいのであろうなと首を傾げた、この場にあって悠揚と構えているのは自分だけである、それも致し方無い事ではあった、
「だから、何度も言うけど、慌てない、騒がない、まずはそこからね、でしょ?」
「そうですね、領主様もそう仰ってました」
ブラスがスッと顔を上げた、
「でしょ、下手に騒ぐと混乱の元だしね、それこそ、まだ敵の一人も見えてないのに勝手に被害を受ける事になるわよ、笑い話にもならないわ、そんなのは、向こうが攻めてきたと思ったら、モニケンダムは焼野原になってましたじゃ、向こうさんも何しに来たんだか分からないでしょ」
「それは言い過ぎですよ・・・」
「そう?でもね、たぶんだけど、その混乱こそが問題なの、領主様も言ってなかった?」
「言ってました」
「でしょ、そういう事よ、だから、まずは・・・そうね、偉い人達の言う事をちゃんと聞く事ね、別にあれでしょ、男達を徴兵しようとかって事じゃないんでしょ」
「今の所は・・・はい」
「でしょ、なら大丈夫よ、いよいよやばくなったら逃げるしかないんだし、荒野での戦闘であればこっちに来るまでに時間がかかるだろうしね、逃げる時間はたっぷりあるでしょ、なに、命があればね、なんとかなるんだわ」
アッハッハとソフィアは笑い飛ばすが、誰もニコリともしていない、まったくとソフィアを眉を顰める、どうやら言葉だけではどうにもならないらしい、その癖こうやって雁首揃えて相談に来るのである、ここはより堅実で身近な解決策として愚痴にして発散させるのが良いかと方策を巡らすも、フィロメナ達はその吐き出すべき愚痴も今のところは無い訳で、恐らく溜息が木霊する井戸端会議にしかならない、発散するものが無いのである、不安は意識を退行させるもので、上手く行かない、あいつが駄目だ、これがつまらない、そういった愚痴は実は前向きな思考の過程に精製されるものであったりする、
「・・・ソフィアさんならそうでしょうけど・・・」
マフダが消え入りそうな声で呟いた、
「うん、そんな事になったら・・・」
リーニーがそっとマフダを伺う、
「確かにね、私達はちょっとね」
レネイも同意のようであった、それぞれに若干意見は異なるであろうが、共通する思いは同じであろう、特にレネイやフィロメナ達は遊女である、逃げ出した先でまた遊女をやるのか、はたまた娼婦になるかの選択しかなく、マフダはまだ技術があるが、リーニーにはまだ胸を張って何かが出来ると言える自信が無かったりする、挙句先日から革命的な服飾やら化粧やら美容やらと大変に楽しく充実していた、その空間が失われる喪失感をも想像してしまう、考えれば考えるほど泥沼のように暗い思考に捕らわれてしまうのだ、しかし、
「大丈夫よ、そうなったら私が食わせてあげるから」
ソフィアがまったくと呆れた笑みを浮かべている、エッとソフィアを見つめる七人であった、
「これでもね、元冒険者なのよ、山でも森でも食うに困る事は無いんだから、そう思いなさい」
ソフィアはそう続けてニンマリと微笑むが、そういう事かな?と首を傾げてしまう女性達と、どうしてこうも逞しいかなと苦笑いを浮かべるブラスであった。
1
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説

憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと
Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】
山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。
好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。
やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。
転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。
そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。
更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。
これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。
もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。
──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。
いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。
理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。
あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか?
----------
覗いて下さり、ありがとうございます!
10時19時投稿、全話予約投稿済みです。
5話くらいから話が動き出します。
✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる