セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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71話 晩餐会、そして その35

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それから暫くして、

「へー・・・それはまた大変な事になったわねー」

ソフィアのあからさまにすっとぼけた声が寮の食堂に響いた、

「そんな事言って、少しは聞いてたんじゃないですか?」

ブノワトがムッと口を尖らせる、

「そうですよ、だって、タロウさんが出入りしてたじゃないですかー」

その隣りのブラスも非難の声を上げざるを得なかった、共に広場での広報に衝撃を受けつつ、ここは恐らくより事情に詳しいであろうと思われるタロウを訪ねて来たのである、勿論フィロメナとヒセラ、レネイの姿もあった、五人は何とも深刻な様子で、さらにマフダとリーニーも事務所で広報の内容を聞き、不安そうに帯同している、

「それはそうだけど・・・まぁ、薄っすらとは聞いたかな?そんな感じ?」

ソフィアは湯呑を口にし適当に答えた、いつだったかパトリシアからチラリとは耳にしており、成程、タロウとクロノス、イフナースがバタバタと騒がしい訳だわと呑気に受け取った記憶がある、どうやら今日の広報で正式に通知されたらしい、よく聞けばどこでもないこのモニケンダムが狙われているらしく、そして荒野が主戦場になるらしいとの事で、そこまで発表されるものなんだなーと感心していたりした、

「あの・・・ホントの所はどうなんですか?」

フィロメナがおずおずと切り出す、ブラスがこういう事はタロウさんに聞くのが早いと言い出し、それもそうかもしれないと一緒に来たのであるが、その肝心のタロウが戻っておらず、寮ではソフィアとティルとミーンが夕食の支度をしていた、いつも通りのその光景に少しばかり違和感を感じてしまうが、その違和感はソフィア達では無く自分の中にある焦りと不安から来るものである事をフィロメナは気付けないでいたりする、

「ホントの所って言われても・・・」

ソフィアは普段通りに力の抜けた困ったような笑みを浮かべた、ブラスやフィロメナが勘繰るような事の真相は一切知らされていない、知ろうともしていなかった、危機意識が鈍ったのかなとソフィアは思う、

「うーん・・・じゃ、あれだ、ユーリに聞いてみる?私よりかは詳しい筈よ」

とソフィアは天井を仰いだ、三階の研究所を視線で指しているのである、

「ユーリ先生ですか?」

「うん、今日もほら、たぶんだけど、学園でも同じような連絡があったんじゃないのかな?なんか、サビナさん達も学園に集められたらしいし」

「それはまた・・・あー、そっか、学園は学園でそうなると動きますからね・・・」

とブラスが腕を組んで頷く、先の大戦時の記憶が呼び起される、ブラスが学生であった頃は大戦の真っ只中で、ブラスは学業をこなしつつ午後からは無償労働に明け暮れていた、それに不満を感じる事は無く、不平を口にした事も無い、まして前線の話しが聞けるし、家業以外の大人達とも知り合えた為大変に為になったと感じている、実際に楽しかった記憶はあれど、苦しかった記憶は無い、親父達は便乗値上げがどうとか、避難民の問題がどうのと言い争っていた様子であったが、青年であったブラスにとってはそれらはそれほど気にならなかった、

「そうなの?」

「はい、ほら、学生は兵役が免除されますから、でもその分・・・なんて言うかより酷使・・・ではないですね、より・・・うん、裏方仕事をやります、でも、あれは・・・この街がそういう街だったからで、今回はどうなるんだろ?」

ブラスがブノワトを伺う、ブノワトもまた同じような境遇で、荷物運びやら事務員やらといいように扱われていたりする、

「どうなるんだろって言われてもなー、だって、荒野でしょ、また、あれ?運送の手伝い?」

「たぶんな」

「なら別に、私はだって、それなりにやってたわよ、褒められたし」

「それは俺だって、だけどさ・・・」

「なにさ?」

「今度のはほら、この街が狙われてるんだろ?そうなると、城壁も無いし・・・なぁ・・・」

「それもそうよねー」

ソフィアは変わらずのほほんと呟く、しかしそれなりにどうしたものかと思考を巡らせてはいた、恐らくであるが、広報を耳にした者は家やら職場やらで似たような会話をしていると想像される、そして共通するのは戦争に対する不安であろう、こればかりはいくら話し合っても解消される事は無い、まして時間が解決する事でもなかった、この場合時間はより不安を増強させ、何らかの出来事、明確な勝利であったり、もしくは敗北であったりを目の当たりにしない限り続くものである、

「えっと、その、こう聞いては良くないと思うんですが」

とフィロメナが上目遣いでソフィアを伺う、

「なに?」

「あの・・・クロノス殿下やイース様はどのように・・・その、仰っているのかなって・・・」

フィロメナは遠慮勝ちに二人の名を出した、エッとマフダとリーニーが目を丸くしている、フィロメナら遊女である三人は以前に二人を接待しており、その際にその正体も明言されている、その職業上客の名を店以外で出す事は御法度なのであるが、ここは背に腹は代えられなかった、ザワザワと落ち着かない心中がフィロメナの慎重な思考に若干狂いを齎しているようであった、

「あー・・・そっか、フィロメナさんは知っているのよね」

「そうですね・・・」

「なら、本人に聞く?」

「そんな、それこそ、邪魔をしてしまっては申し訳ないですよ・・・お忙しいでしょうし」

「そうね、忙しいわよねー」

とソフィアは首を傾げた、少なくとも今日会ったイフナースは暇そうであった、まぁ、タロウとイザークを連れ出して何やら始めたらしく、忙しくはなったのであろうが、それにしても余裕が感じられる程で、しかし、ソフィアとしては戦端が開かれていない状況で総大将になるであろうイフナースが忙しくしていてもそれはそれで問題であろうな、などと考える、まぁ、軍人共の考え方もやり方も傍で見ていて何となくは分かるが、完全には理解していない、軍人とは効率を求めるものだとタロウは知った風な事を言っていたが、だからなんだとしか思えなかった、

「・・・ですよね・・・」

「そうよ、だからまぁ、あれよ、私らはほら・・・取り合えず落ち着いて下手に騒がないことがまず第一でしょ」

ソフィアは何か言う事があるかなと思いつつ、動き出した口そのままに言葉を発し、あぁ確かにそうかもしれないと納得する、自分で言っておいて自分で納得したのだ、人とは時々こういう事があるもので、

「そうよ、だって、軍団が三つも集まるんでしょ、で、公爵様の軍団も来ると、で、クロノスにイフーナス殿下でしょ、錚々たる面子じゃない、何も慌てる事じゃないわよ、その荒野で決着をつければいいだけなんだから、でしょ?」

と余裕の笑みを浮かべるソフィアであった、ブラスとブノワトは顔を見合わせ、遊女達もマフダもリーニーもそんな簡単に言われてもなと眉を顰める、

「もう、あー、ほら、あんたらはだって実際に戦争に行った事がないからだろうし・・・その相手の国?もよくわかんないんだけど、でもね、私が思うに・・・うん、クロノス一人いればね、まぁ、なんとかなるわよ、あれはほら、別格だから」

「別格ですか?」

「そうよ、別格、英雄だなんだって言われてるけどその通りなんだわ、それとイフナース殿下もね、色々あったけど、それなりの人だしね、それにちゃんと軍団も数を揃えるって事なんだから、ちゃんと考えているのよ、それにね、一番大事な事が抜けてるわね」

「一番大事?」

「そうよ、ほら、前の戦争の時って、いつのまにやら始まって、気付いた時には領土を奪われていたでしょ?」

「そう・・・ですね・・・」

「でしょ、それが今回はちゃんと攻められる前に対応できているんだもん、この街が狙わているのは確かに問題だし、怖い事なんだけど、それをね、ちゃんと防ごうとしているし、そう動いているんだわ、これはつまりね、なんとかなるって事なのよ」

ソフィアは理解しろとばかりに七人をゆっくりと見渡した、ブラスは確かにそうかもなと頷くが、他の女性達はやはり不安そうな顔に変わりは無い、その不安は無理解である事が大きいのであろう、戦争の恐怖は聞き知っており、それによる混乱は子供の頃から身に染みている、大人になってそれなりに対応できると自負しており、また対応を求められるのは理解しているが、何をして良いのかも分からない、やるべき事があるのではないかという焦りと、何をすればいいのかが分からないという無知、そして戦争そのものへの忌避感が不安を冗長させている、ソフィアはどれだけ理屈を捏ねても難しいのであろうなと首を傾げた、この場にあって悠揚と構えているのは自分だけである、それも致し方無い事ではあった、

「だから、何度も言うけど、慌てない、騒がない、まずはそこからね、でしょ?」

「そうですね、領主様もそう仰ってました」

ブラスがスッと顔を上げた、

「でしょ、下手に騒ぐと混乱の元だしね、それこそ、まだ敵の一人も見えてないのに勝手に被害を受ける事になるわよ、笑い話にもならないわ、そんなのは、向こうが攻めてきたと思ったら、モニケンダムは焼野原になってましたじゃ、向こうさんも何しに来たんだか分からないでしょ」

「それは言い過ぎですよ・・・」

「そう?でもね、たぶんだけど、その混乱こそが問題なの、領主様も言ってなかった?」

「言ってました」

「でしょ、そういう事よ、だから、まずは・・・そうね、偉い人達の言う事をちゃんと聞く事ね、別にあれでしょ、男達を徴兵しようとかって事じゃないんでしょ」

「今の所は・・・はい」

「でしょ、なら大丈夫よ、いよいよやばくなったら逃げるしかないんだし、荒野での戦闘であればこっちに来るまでに時間がかかるだろうしね、逃げる時間はたっぷりあるでしょ、なに、命があればね、なんとかなるんだわ」

アッハッハとソフィアは笑い飛ばすが、誰もニコリともしていない、まったくとソフィアを眉を顰める、どうやら言葉だけではどうにもならないらしい、その癖こうやって雁首揃えて相談に来るのである、ここはより堅実で身近な解決策として愚痴にして発散させるのが良いかと方策を巡らすも、フィロメナ達はその吐き出すべき愚痴も今のところは無い訳で、恐らく溜息が木霊する井戸端会議にしかならない、発散するものが無いのである、不安は意識を退行させるもので、上手く行かない、あいつが駄目だ、これがつまらない、そういった愚痴は実は前向きな思考の過程に精製されるものであったりする、

「・・・ソフィアさんならそうでしょうけど・・・」

マフダが消え入りそうな声で呟いた、

「うん、そんな事になったら・・・」

リーニーがそっとマフダを伺う、

「確かにね、私達はちょっとね」

レネイも同意のようであった、それぞれに若干意見は異なるであろうが、共通する思いは同じであろう、特にレネイやフィロメナ達は遊女である、逃げ出した先でまた遊女をやるのか、はたまた娼婦になるかの選択しかなく、マフダはまだ技術があるが、リーニーにはまだ胸を張って何かが出来ると言える自信が無かったりする、挙句先日から革命的な服飾やら化粧やら美容やらと大変に楽しく充実していた、その空間が失われる喪失感をも想像してしまう、考えれば考えるほど泥沼のように暗い思考に捕らわれてしまうのだ、しかし、

「大丈夫よ、そうなったら私が食わせてあげるから」

ソフィアがまったくと呆れた笑みを浮かべている、エッとソフィアを見つめる七人であった、

「これでもね、元冒険者なのよ、山でも森でも食うに困る事は無いんだから、そう思いなさい」

ソフィアはそう続けてニンマリと微笑むが、そういう事かな?と首を傾げてしまう女性達と、どうしてこうも逞しいかなと苦笑いを浮かべるブラスであった。
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