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本編
71話 晩餐会、そして その32
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イザークがレモンを手にしてムゥと唸り、イフナースがシゲシゲとアロエを弄繰り回している、
「そういう訳でね、イザーク殿の領地、そちらでこの二種、他にもあるのですが、それの栽培を手掛けられたらと思うのですよ」
とタロウは締め括った、タロウが話し始めるとこれはとイザークはマリアを呼び寄せ、代わりにエレインとマリエッテが双六に参加している、エレインはマリエッテにサイコロを振らせてはキャーキャーと楽しそうで、イージスもミナもキャッキャッと歓声を上げていた、
「確かに・・・いや、そうですね、私共の領地は暖かいです、今も・・・この時期でもこちらの秋程度に温暖であると・・・思いますが」
とイザークはマリアを伺い、マリアも確かにと頷いた、
「であれば、まぁ、何とかなるかと・・・やってみなければわからないですが・・・その上でなんですが、レモンに関しては実際に収穫できるのは数年後になります、こちらでいうミカンと同じ種類の果物ですので、実を付けるまでには相応の時間が必要となります」
「なるほど、確かにミカンに似ていますね」
「はい、なので気長に御協力頂ければと思うのです」
「・・・分かりました、誰でもない相談役の依頼となれば我が領地の全力を持って対応させて頂きます」
またなんとも重く硬い言葉である、なるほどイザークは武人であるが事務的な真面目さを持つ人物であるらしい、タロウは、
「ありがとうございます、ついてはなんですが、紹介状を頂きたいのです」
「紹介状?」
「はい、現地を確認したいと思うのですね、私も王国内は方々に足を運んでいるのですが、スヒーダムには行ったことがありませんで、主要街路から若干外れた場所と聞きましたが」
「確かに、主要街路の周辺は他領になっております、道路は通じているのですが舗装はされておりません」
「ですね、恐らくそうなのかなと、昔、放浪しておった時に主要街路沿いに歩いておりまして、記憶にある限りスヒーダムという領地の名が無くて、申し訳ない、恐らく目と鼻の先迄はお邪魔していたと思います」
「それはそれは、となると、あれですか、すぐに立たれるのですか?」
「えぇ、紹介状を頂ければすぐにでも、現地を確認し転送陣を設置出来ればと思います」
「なるほど・・・しかし、王都からでも7日はみないとですよ」
「あぁ、二日もあれば充分ですよ」
「ヘ?」
と初めてイザークは間の抜けた顔を晒し、マリアも何を言っているのかと不思議そうである、
「何か?」
とタロウは小首を傾げ、アッ、失礼と微笑むと、
「まぁ、ほら、私は何かと器用な質でして・・・一度行った事のある、印象的な場所であれば転送陣のように飛べるのです」
突然の告白である、イザークとマリアはエッと絶句し、イフナースもヘーと感心してしまう、タロウの空間魔法については少しばかり耳にし、直接目にする事は無かったが、近くで体感もしていた、しかしそれがまさかそれほど適当な感じで使える魔法とは思ってもいなかったのだ、
「あっ、内緒ですよ、王族の人達に良いように使われてしまう」
タロウがニヤリと誤魔化すも、ヘッ抜かしてろ、とイフナースが鼻で笑い、夫婦は思わず苦笑いである、
「なので、まぁ、動けば早いです、もしくは転送陣を設置して、そうですね、この屋敷と結んでおきましょう、そうすれば紹介状も必要無いかな?」
「えっと、それは・・・」
「ほら、私と一緒にイザーク様かマリアさんかが転送陣を使って同行して貰えば話しが早いでしょ」
アッと二人は同時に呟き、その通りだとコクコクと頷いた、
「そういう事です」
タロウがニコリと微笑む、何とも頓狂な話しであった、イザークは会議を終えてさて一度王城に戻るかと腰を上げた所にアフラに呼び止められた、そして事情を聞くに何やらエレインが倒れ、マリア達がこちらに来ているらしい、それは一大事と気が逸るが、アフラ曰くどうやらそれほどでもないとの事で、それは良かったと安堵したら今度はタロウが何やら用事があるらしい、アフラとしてはそちらが本命らしく、イザークとしても王家の相談役となったタロウから名指しされたとなれば確かにそちらの方が一大事であろうと覚悟を決めてアフラについて来た、而してタロウから語られたのが目新しい果物と植物の栽培に関する事で、よくよく聞くに確かに自領であるスヒーダムであれば栽培できるかもしれない内容で、いやタロウの弁を信じれば王都以北では育たない植物らしい、冬に弱いのだと言う、またアロエに関してはマリア曰く同じものが菜園に植えてあるとのことで、より正確に言えば何種類かある筈だと首を傾げた、その特徴的な刺々しい大きな花が奇抜で美しいのだとか、タロウはなるほど観賞用として入って来たのですねとニコリと微笑んでいた、そこまでは良い、理解できる、が、その後がこれである、タロウが常識外れな人物である事は会議の席でもクロノスやイフナースの様子からも理解できたが、すっとぼけた顔で口にする事が何とも理解に難しかった、特に転送陣に関してはここ数日毎日のように使っている為こういうものだとやっと慣れた所である、そしてどうやらタロウはその利便性を遥かに超えた魔法を使えるらしい、一体この男はなんなのかと混乱するしかなった、
「ふん、好き勝手言いやがって」
イフナースがポンとアロエの葉をテーブルに投げた、
「そうですか?」
「だろうがよ、まったく・・・まぁいい、イザーク、そういう訳だ、俺としてもそのレモンは気に入っている、このアロエとやらも一度しっかり医者に分析させよう、まぁ、それで何が分るかは知らんが、火傷や切り傷の治りが早いとなれば軍でも使いたい」
「そう・・・ですね、はい、確かに」
「で、ついでなんですが、スヒーダムの領内の調査もさせて頂ければと思うのです」
「調査ですか?」
「はい、私の知識に依存する事が多いので少々頼りないですが、他にも料理に使える食材や薬に使える植物が無いかと思いまして」
まぁとマリアが目を丸くし、
「他にもあるんですか?」
とイザークの手前控え目であったのだが、思わず口を挟んでしまう、
「はい、私が方々歩き回っていたのはそれが目的でして、どうにもほら、この国は食材が少ない、香辛料も無いですし、野菜の種類も少ないです、何とも寂しくて」
「コウシンリョウ・・・」
「あれか、ティルの報告書にあったな、何と言った?」
「生姜とニンニクですか?」
「それだ、そんなに美味いのか?」
「美味いですよ」
ニヤリとタロウが微笑む、ムッとイフナースは視線を強くし、
「待て、あれだな、他にもあった、なんだ、ほれ、あの町で食った・・・シナピスとピパーか?」
「それもありましたね、あれも香辛料と呼ばれる品です」
「なるほど・・・確かにあれは美味かった・・・」
「でしょう?」
「そうか、思い出した、シナピスは栽培できそうだが、ピパーが難しいんだったか、逆か?」
「合ってます、どちらも苗を確保してありますので、スヒーダムで栽培しても良いですね」
「だな、うん、そうか、そうなるとだ」
とどうやらイフナースは乗り気になったらしい、
「イザーク、いや、タロウだな、お前早くスヒーダムに行って転送陣を仕掛けて来い」
「そのつもりですよ、ですが、その前に次期領主様に確認しませんと」
「イザーク、そういう事だ許可しろ」
「えっ・・・あっはい、それは勿論ですが・・・」
理解は出来るのであるが、あまりに突飛な事で呆けてしまうイザークと、何が何やらと目を回すマリアであった、
「あっ、なら、ほれ、ついでだ軍団基地にも転送陣を仕掛けて来い」
イフナースがそれもあったとタロウを睨む、
「軍団基地ですか?」
「おう、話しただろ計画は既に出来ている、各軍団基地を王都を中心において結んでおきたい、連絡が早くなる、特に軍事行動に於いては最重要事だ、何をするにも手間が減る、リンドに転送陣自体の作成は依頼しているんだが、その設置まで手が回っていなくてな、リンドもアフラも忙しいし、文官に任せるとどうなるかわからん、先日の会議でも話題に出ただろう、どうだ?可能か?」
「そう言えばそうでしたね・・・」
「だろ?段取りは組んでいたのだが、実行に移すのが遅くなっていてな、ほれ、お前の言っていたより小規模な転送陣も良いのだが、やはり人が通れる大きさはいざというとき役に立つ、どうしたもんだかと悩んでいたのだ」
「そういう事であれば・・・まぁ・・・しかし、王都の軍団基地以外は行った事がないので」
「主要街路は歩いたのだろう?」
「おおよそ」
「であれば、近いぞ、後で地図で確認しろ、お前さんの作った地図に比べたらちんけだがな、場所の把握は出来よう、何、主要街路は軍事目的で作った代物だ、軍団基地と繋いでいない訳がない、お前なら理解できるだろ」
「まぁ・・・そうでしょうね」
「うん、イザークそういう訳だ、西と南それぞれの軍団基地に転送陣を置くぞ」
「・・・それは・・・はい、そう計画してはおりましたが・・・はい」
とイザークは今一つ会話について行けていなかったが、ゆっくりと理解して何とか頷いた、しかし便利どころか都合が良すぎるように聞こえる、
「いや、正直な、ここの伯爵はまだいいが、公爵の所に設置するとなると不愉快であったのだ、あの糞親父に好きに使われるのもしゃくでな」
「また、そんな事を言ってー」
「そんな事とはなんだ、あれはあれで狐と熊だぞ、腹の中で何を考えているのか分かったものではない」
「それは理解してますよ」
「だろう?まぁいい、リンド・・・は王城か、アフラはまだいるか」
と扉の脇に控えているメイドに声を掛けた、メイドは一礼して退室する、
「そうなると・・・あれだな、御夫人、例の避難民対策だな、あれにも少しばかり余裕が生まれるかもしれん」
とイフナースはマリアを見据える、エッとマリアが背筋を伸ばした、まさかイフナースから避難民対策の言葉が出てくるとは思ってもいなかったのだ、
「ほれ、現時点では中央の軍団基地と、西の軍団基地に人を集める予定であろう?」
「・・・はっ、はい、その予定です」
「で、中央から西へは徒歩での移動の筈だな」
「はい、その予定です、ですが、あの計画は実行されないのが最良とされておりまして・・・」
「それは理解している、だが、転送陣を置いてしまえば西の軍団基地を中心としてもいいかもしれん、それと食糧だ、南の軍団基地から西に送るのが大分楽になる、王都で準備しているものもな、ああ、まだほれ、実際に物が集まっていないのは知っているが、輸送にかかる費用を考えなくても良くなるぞ、時間も手間も大きく節約できる」
「確かに、はい、確かにその通りです・・・と思います」
「だろ?・・・うん、タロウ、そう言う訳だ、いつ動ける?」
「あー・・・明日にも、転送陣はもう作ってあるのですか?」
「それもアフラが把握していよう」
「分かりました、アフラさんに確認で」
とタロウは話しが早いなと微笑む、この思い立った瞬間に段取りを組んでしまえるのが専制君主制の最も良い点であろう、これが議会制民主主義であれば軍を巻き込んだ大事である、まず議題を出し喧々諤々と討論しなければならない、そして結論が出る頃には手遅れとなる事もある、この場にあってはその専制君主制の中心であるボニファースを差し置いての決定である点が若干気になるが、そこはその息子であり次期君主である予定のイフナースが言い出した事であった、覆ることもないであろうし、邪魔する者もいないはずである、何より事前に計画されていた事を前倒しにするだけであったりする、
「それでいい、となるとだ・・・」
とイフナースはフムと沈思する、イザークは目を丸くしてその様子を見つめてしまっていた、イフナースとの付き合いは短く、その容姿から若干軽んじられる事もある、特に数か月前までは病床にあった人間である、その人物がこれほど回転が早く、また決断力に優れていたのかと素直に驚いていた、
「あれだな、クロノスの言っていた、あれも使えるな・・・」
「あれですか?」
「あれだ」
「どれのあれです?」
「お前なー」
とイフナースはタロウを睨みつけ、タロウは苦笑いを浮かべる、そこへ扉が開きアフラが一礼して入ってきた、さらに、
「はい、出来ましたよー」
とソフィアとティルとミーンが部屋に入ってきた、エッと驚く一同である、すぐさま、
「なに?何が出来たのー」
とミナが寝台から飛び降りソフィアに駆け寄った、流石に双六には飽きて来たらしい、イージスもレインもウーンと伸びをして、マリエッテはそれを真似て腕を大きく振り回している、エレインがもぅと嬉しそうであった、
「蜂蜜レモンのソーダ水、それと、お湯割り?」
「やったー、蜂蜜レモンー、ミナ、あれ好きー」
「はいはい、試しに作ってみただけだからねー、でも美味しいわよー」
「ホント?」
「ホント、さっ、どうぞ・・・ってあれね、座る所ないわね、ミナ、寝台汚しちゃ駄目よ」
「うん、分かってるー」
「返事だけはいいんだから、はい、イザーク君も、エレインさんもどうぞ、あっ、マリエッテちゃんは駄目ね」
「エッ、駄目なんですか?」
エレインが悲しそうにソフィアを見上げた、ブーとマリエッテがエレインが受け取ったグラスに手を伸ばしている、
「駄目、小さすぎるからね、蜂蜜が駄目なのよ、もう少し大きくなってから」
「エー」
とエレインはマリアを見るが、マリアはその通りと頷いており、その背後の乳母もコクコクと頷いている、
「そういう事、はい、大人はあれね、お湯割りの方がいいかもね」
とソフィアは見事に決めつけた、ティルとミーンが応接席のそれぞれに湯気の立つ湯呑を給仕する、そして、
「ん、美味しいー」
「ホントだー、甘いのにスッパイ」
「ねー、ソウゾウドーリの味ー」
ミナが満面の笑みで歓声を上げ、イージスも嬉しそうに頬を膨らませている、
「あー・・・なんだ・・・あれだな、完全に・・・こういうのはなんて言うんだ?」
「話の腰を折られたって感じですか?」
「だな・・・」
すっかり毒気を抜かれてしまったイフナースが湯呑に口をつけ、タロウはまぁそういう事もあるだろうなと微笑む、その隣で、
「これは美味しい・・・」
「はい、なんて爽やかな香り、温かいのにサッパリしてます、甘みも強調されて素晴らしい」
「ですよねー」
とイザークとマリア、ソフィアは盛り上がっており、乳母も湯呑を覗いて目を丸くしていた、そこへ、
「お呼びと伺いましたが」
アフラがスッとイフナースに近寄る、
「おう、あっ・・・あれだな、ここではなんだな・・・向こうの天幕にはまだ誰ぞいるか?」
「はい、アンドリース軍団長、メインデルト軍団長が現場を視察しておると思います」
「そうか、タロウ、イザーク、戻るぞ」
勢いよく腰を上げるイフナースに、ハイハイとめんどくさそうに続くタロウと、これはいかんとカップを一気に煽って、アッツと悲鳴を上げてしまうイザークであった。
「そういう訳でね、イザーク殿の領地、そちらでこの二種、他にもあるのですが、それの栽培を手掛けられたらと思うのですよ」
とタロウは締め括った、タロウが話し始めるとこれはとイザークはマリアを呼び寄せ、代わりにエレインとマリエッテが双六に参加している、エレインはマリエッテにサイコロを振らせてはキャーキャーと楽しそうで、イージスもミナもキャッキャッと歓声を上げていた、
「確かに・・・いや、そうですね、私共の領地は暖かいです、今も・・・この時期でもこちらの秋程度に温暖であると・・・思いますが」
とイザークはマリアを伺い、マリアも確かにと頷いた、
「であれば、まぁ、何とかなるかと・・・やってみなければわからないですが・・・その上でなんですが、レモンに関しては実際に収穫できるのは数年後になります、こちらでいうミカンと同じ種類の果物ですので、実を付けるまでには相応の時間が必要となります」
「なるほど、確かにミカンに似ていますね」
「はい、なので気長に御協力頂ければと思うのです」
「・・・分かりました、誰でもない相談役の依頼となれば我が領地の全力を持って対応させて頂きます」
またなんとも重く硬い言葉である、なるほどイザークは武人であるが事務的な真面目さを持つ人物であるらしい、タロウは、
「ありがとうございます、ついてはなんですが、紹介状を頂きたいのです」
「紹介状?」
「はい、現地を確認したいと思うのですね、私も王国内は方々に足を運んでいるのですが、スヒーダムには行ったことがありませんで、主要街路から若干外れた場所と聞きましたが」
「確かに、主要街路の周辺は他領になっております、道路は通じているのですが舗装はされておりません」
「ですね、恐らくそうなのかなと、昔、放浪しておった時に主要街路沿いに歩いておりまして、記憶にある限りスヒーダムという領地の名が無くて、申し訳ない、恐らく目と鼻の先迄はお邪魔していたと思います」
「それはそれは、となると、あれですか、すぐに立たれるのですか?」
「えぇ、紹介状を頂ければすぐにでも、現地を確認し転送陣を設置出来ればと思います」
「なるほど・・・しかし、王都からでも7日はみないとですよ」
「あぁ、二日もあれば充分ですよ」
「ヘ?」
と初めてイザークは間の抜けた顔を晒し、マリアも何を言っているのかと不思議そうである、
「何か?」
とタロウは小首を傾げ、アッ、失礼と微笑むと、
「まぁ、ほら、私は何かと器用な質でして・・・一度行った事のある、印象的な場所であれば転送陣のように飛べるのです」
突然の告白である、イザークとマリアはエッと絶句し、イフナースもヘーと感心してしまう、タロウの空間魔法については少しばかり耳にし、直接目にする事は無かったが、近くで体感もしていた、しかしそれがまさかそれほど適当な感じで使える魔法とは思ってもいなかったのだ、
「あっ、内緒ですよ、王族の人達に良いように使われてしまう」
タロウがニヤリと誤魔化すも、ヘッ抜かしてろ、とイフナースが鼻で笑い、夫婦は思わず苦笑いである、
「なので、まぁ、動けば早いです、もしくは転送陣を設置して、そうですね、この屋敷と結んでおきましょう、そうすれば紹介状も必要無いかな?」
「えっと、それは・・・」
「ほら、私と一緒にイザーク様かマリアさんかが転送陣を使って同行して貰えば話しが早いでしょ」
アッと二人は同時に呟き、その通りだとコクコクと頷いた、
「そういう事です」
タロウがニコリと微笑む、何とも頓狂な話しであった、イザークは会議を終えてさて一度王城に戻るかと腰を上げた所にアフラに呼び止められた、そして事情を聞くに何やらエレインが倒れ、マリア達がこちらに来ているらしい、それは一大事と気が逸るが、アフラ曰くどうやらそれほどでもないとの事で、それは良かったと安堵したら今度はタロウが何やら用事があるらしい、アフラとしてはそちらが本命らしく、イザークとしても王家の相談役となったタロウから名指しされたとなれば確かにそちらの方が一大事であろうと覚悟を決めてアフラについて来た、而してタロウから語られたのが目新しい果物と植物の栽培に関する事で、よくよく聞くに確かに自領であるスヒーダムであれば栽培できるかもしれない内容で、いやタロウの弁を信じれば王都以北では育たない植物らしい、冬に弱いのだと言う、またアロエに関してはマリア曰く同じものが菜園に植えてあるとのことで、より正確に言えば何種類かある筈だと首を傾げた、その特徴的な刺々しい大きな花が奇抜で美しいのだとか、タロウはなるほど観賞用として入って来たのですねとニコリと微笑んでいた、そこまでは良い、理解できる、が、その後がこれである、タロウが常識外れな人物である事は会議の席でもクロノスやイフナースの様子からも理解できたが、すっとぼけた顔で口にする事が何とも理解に難しかった、特に転送陣に関してはここ数日毎日のように使っている為こういうものだとやっと慣れた所である、そしてどうやらタロウはその利便性を遥かに超えた魔法を使えるらしい、一体この男はなんなのかと混乱するしかなった、
「ふん、好き勝手言いやがって」
イフナースがポンとアロエの葉をテーブルに投げた、
「そうですか?」
「だろうがよ、まったく・・・まぁいい、イザーク、そういう訳だ、俺としてもそのレモンは気に入っている、このアロエとやらも一度しっかり医者に分析させよう、まぁ、それで何が分るかは知らんが、火傷や切り傷の治りが早いとなれば軍でも使いたい」
「そう・・・ですね、はい、確かに」
「で、ついでなんですが、スヒーダムの領内の調査もさせて頂ければと思うのです」
「調査ですか?」
「はい、私の知識に依存する事が多いので少々頼りないですが、他にも料理に使える食材や薬に使える植物が無いかと思いまして」
まぁとマリアが目を丸くし、
「他にもあるんですか?」
とイザークの手前控え目であったのだが、思わず口を挟んでしまう、
「はい、私が方々歩き回っていたのはそれが目的でして、どうにもほら、この国は食材が少ない、香辛料も無いですし、野菜の種類も少ないです、何とも寂しくて」
「コウシンリョウ・・・」
「あれか、ティルの報告書にあったな、何と言った?」
「生姜とニンニクですか?」
「それだ、そんなに美味いのか?」
「美味いですよ」
ニヤリとタロウが微笑む、ムッとイフナースは視線を強くし、
「待て、あれだな、他にもあった、なんだ、ほれ、あの町で食った・・・シナピスとピパーか?」
「それもありましたね、あれも香辛料と呼ばれる品です」
「なるほど・・・確かにあれは美味かった・・・」
「でしょう?」
「そうか、思い出した、シナピスは栽培できそうだが、ピパーが難しいんだったか、逆か?」
「合ってます、どちらも苗を確保してありますので、スヒーダムで栽培しても良いですね」
「だな、うん、そうか、そうなるとだ」
とどうやらイフナースは乗り気になったらしい、
「イザーク、いや、タロウだな、お前早くスヒーダムに行って転送陣を仕掛けて来い」
「そのつもりですよ、ですが、その前に次期領主様に確認しませんと」
「イザーク、そういう事だ許可しろ」
「えっ・・・あっはい、それは勿論ですが・・・」
理解は出来るのであるが、あまりに突飛な事で呆けてしまうイザークと、何が何やらと目を回すマリアであった、
「あっ、なら、ほれ、ついでだ軍団基地にも転送陣を仕掛けて来い」
イフナースがそれもあったとタロウを睨む、
「軍団基地ですか?」
「おう、話しただろ計画は既に出来ている、各軍団基地を王都を中心において結んでおきたい、連絡が早くなる、特に軍事行動に於いては最重要事だ、何をするにも手間が減る、リンドに転送陣自体の作成は依頼しているんだが、その設置まで手が回っていなくてな、リンドもアフラも忙しいし、文官に任せるとどうなるかわからん、先日の会議でも話題に出ただろう、どうだ?可能か?」
「そう言えばそうでしたね・・・」
「だろ?段取りは組んでいたのだが、実行に移すのが遅くなっていてな、ほれ、お前の言っていたより小規模な転送陣も良いのだが、やはり人が通れる大きさはいざというとき役に立つ、どうしたもんだかと悩んでいたのだ」
「そういう事であれば・・・まぁ・・・しかし、王都の軍団基地以外は行った事がないので」
「主要街路は歩いたのだろう?」
「おおよそ」
「であれば、近いぞ、後で地図で確認しろ、お前さんの作った地図に比べたらちんけだがな、場所の把握は出来よう、何、主要街路は軍事目的で作った代物だ、軍団基地と繋いでいない訳がない、お前なら理解できるだろ」
「まぁ・・・そうでしょうね」
「うん、イザークそういう訳だ、西と南それぞれの軍団基地に転送陣を置くぞ」
「・・・それは・・・はい、そう計画してはおりましたが・・・はい」
とイザークは今一つ会話について行けていなかったが、ゆっくりと理解して何とか頷いた、しかし便利どころか都合が良すぎるように聞こえる、
「いや、正直な、ここの伯爵はまだいいが、公爵の所に設置するとなると不愉快であったのだ、あの糞親父に好きに使われるのもしゃくでな」
「また、そんな事を言ってー」
「そんな事とはなんだ、あれはあれで狐と熊だぞ、腹の中で何を考えているのか分かったものではない」
「それは理解してますよ」
「だろう?まぁいい、リンド・・・は王城か、アフラはまだいるか」
と扉の脇に控えているメイドに声を掛けた、メイドは一礼して退室する、
「そうなると・・・あれだな、御夫人、例の避難民対策だな、あれにも少しばかり余裕が生まれるかもしれん」
とイフナースはマリアを見据える、エッとマリアが背筋を伸ばした、まさかイフナースから避難民対策の言葉が出てくるとは思ってもいなかったのだ、
「ほれ、現時点では中央の軍団基地と、西の軍団基地に人を集める予定であろう?」
「・・・はっ、はい、その予定です」
「で、中央から西へは徒歩での移動の筈だな」
「はい、その予定です、ですが、あの計画は実行されないのが最良とされておりまして・・・」
「それは理解している、だが、転送陣を置いてしまえば西の軍団基地を中心としてもいいかもしれん、それと食糧だ、南の軍団基地から西に送るのが大分楽になる、王都で準備しているものもな、ああ、まだほれ、実際に物が集まっていないのは知っているが、輸送にかかる費用を考えなくても良くなるぞ、時間も手間も大きく節約できる」
「確かに、はい、確かにその通りです・・・と思います」
「だろ?・・・うん、タロウ、そう言う訳だ、いつ動ける?」
「あー・・・明日にも、転送陣はもう作ってあるのですか?」
「それもアフラが把握していよう」
「分かりました、アフラさんに確認で」
とタロウは話しが早いなと微笑む、この思い立った瞬間に段取りを組んでしまえるのが専制君主制の最も良い点であろう、これが議会制民主主義であれば軍を巻き込んだ大事である、まず議題を出し喧々諤々と討論しなければならない、そして結論が出る頃には手遅れとなる事もある、この場にあってはその専制君主制の中心であるボニファースを差し置いての決定である点が若干気になるが、そこはその息子であり次期君主である予定のイフナースが言い出した事であった、覆ることもないであろうし、邪魔する者もいないはずである、何より事前に計画されていた事を前倒しにするだけであったりする、
「それでいい、となるとだ・・・」
とイフナースはフムと沈思する、イザークは目を丸くしてその様子を見つめてしまっていた、イフナースとの付き合いは短く、その容姿から若干軽んじられる事もある、特に数か月前までは病床にあった人間である、その人物がこれほど回転が早く、また決断力に優れていたのかと素直に驚いていた、
「あれだな、クロノスの言っていた、あれも使えるな・・・」
「あれですか?」
「あれだ」
「どれのあれです?」
「お前なー」
とイフナースはタロウを睨みつけ、タロウは苦笑いを浮かべる、そこへ扉が開きアフラが一礼して入ってきた、さらに、
「はい、出来ましたよー」
とソフィアとティルとミーンが部屋に入ってきた、エッと驚く一同である、すぐさま、
「なに?何が出来たのー」
とミナが寝台から飛び降りソフィアに駆け寄った、流石に双六には飽きて来たらしい、イージスもレインもウーンと伸びをして、マリエッテはそれを真似て腕を大きく振り回している、エレインがもぅと嬉しそうであった、
「蜂蜜レモンのソーダ水、それと、お湯割り?」
「やったー、蜂蜜レモンー、ミナ、あれ好きー」
「はいはい、試しに作ってみただけだからねー、でも美味しいわよー」
「ホント?」
「ホント、さっ、どうぞ・・・ってあれね、座る所ないわね、ミナ、寝台汚しちゃ駄目よ」
「うん、分かってるー」
「返事だけはいいんだから、はい、イザーク君も、エレインさんもどうぞ、あっ、マリエッテちゃんは駄目ね」
「エッ、駄目なんですか?」
エレインが悲しそうにソフィアを見上げた、ブーとマリエッテがエレインが受け取ったグラスに手を伸ばしている、
「駄目、小さすぎるからね、蜂蜜が駄目なのよ、もう少し大きくなってから」
「エー」
とエレインはマリアを見るが、マリアはその通りと頷いており、その背後の乳母もコクコクと頷いている、
「そういう事、はい、大人はあれね、お湯割りの方がいいかもね」
とソフィアは見事に決めつけた、ティルとミーンが応接席のそれぞれに湯気の立つ湯呑を給仕する、そして、
「ん、美味しいー」
「ホントだー、甘いのにスッパイ」
「ねー、ソウゾウドーリの味ー」
ミナが満面の笑みで歓声を上げ、イージスも嬉しそうに頬を膨らませている、
「あー・・・なんだ・・・あれだな、完全に・・・こういうのはなんて言うんだ?」
「話の腰を折られたって感じですか?」
「だな・・・」
すっかり毒気を抜かれてしまったイフナースが湯呑に口をつけ、タロウはまぁそういう事もあるだろうなと微笑む、その隣で、
「これは美味しい・・・」
「はい、なんて爽やかな香り、温かいのにサッパリしてます、甘みも強調されて素晴らしい」
「ですよねー」
とイザークとマリア、ソフィアは盛り上がっており、乳母も湯呑を覗いて目を丸くしていた、そこへ、
「お呼びと伺いましたが」
アフラがスッとイフナースに近寄る、
「おう、あっ・・・あれだな、ここではなんだな・・・向こうの天幕にはまだ誰ぞいるか?」
「はい、アンドリース軍団長、メインデルト軍団長が現場を視察しておると思います」
「そうか、タロウ、イザーク、戻るぞ」
勢いよく腰を上げるイフナースに、ハイハイとめんどくさそうに続くタロウと、これはいかんとカップを一気に煽って、アッツと悲鳴を上げてしまうイザークであった。
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頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました
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昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。
ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。
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のんびり書いていきたいと思います。
よければ感想等お願いします。
異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!
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