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本編
71話 晩餐会、そして その12
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クンラートはこれは良いかもなと上機嫌であった、その立場もあって自分が動けばほぼ必ず晩餐会は開催されるもので、めんどくさい事にはヘルデル領内で家臣の元へ視察だなんだで赴いた程度でも、仕事を済ませた後は晩餐会と題する食事会が催されている、まだ公爵位では無かった子供の頃には華やかで大人達の集まる特別な会なのだろうと純粋に憧れていたのであるが、それも一度参加してみれば何の意味があるのかと首を捻らざるを得ない内容で、クンラートはレイナウトに一体何を目的としているのかと素直に問い質した事もある、レイナウトはこういうものなのだから慣れろとしか言わず、而して公爵位を継いだ後には自分が主賓とされちやほやされる事になるのであるが、かと言ってその食事会は食事を楽しむ訳でも無く、挨拶を交わすと言っても数える程度しか言葉は交わさず、次から次へと入れ替わる人の顔を全て覚える事なぞ出来る筈も無い、武人気質とレイナウトからも評されるクンラートである、まったく意味の無い行事であると、その本質を理解して、しかし仕事であるとは割り切って主賓を務める事が多かった、しかし、そこは無骨で愛想の無いクンラートである、その不機嫌さはどうしても表に出てしまっているようで、さらにクンラートは食事には大して興味の無い人間である、美味い料理である事は理解できるがそんなものは腹に貯まればそれで良いと心底考えており、酒は好むが見知らぬ相手のつまらない挨拶を聞きながら嗜むのは興が削がれる、ゆえにサッサと食事を終わらせてそそくさと自室か屋敷に戻るのが常であり、それ故に晩餐会嫌いの公爵とヘルデル周辺の貴族達には陰口を叩かれる事もあった、しかし、
「そうだ、そちらの鉱山技師を派遣する事は可能か?」
カラミッドが顔合わせと称して連れて来たのはこれが三組目である、一組目は代替わりをした二組の子爵、次はカラミッドが新しく取り立てた男爵の二組、そして三組目がカラミッドと同格になる伯爵家の長男坊であった、伯爵であるその父親も寄り添っており、その長男坊は幼い顔にあからさまな緊張感を滲ませて固まっている、その伯爵である父親もまた久しぶりに会ったクンラートを前にして何とも厳しい顔となっていた、クンラートはフフンと余裕の笑みで二人に対する、聞けば成人となる年齢になり、ついては騎士として軍事経験を積まさせたいとの事であった、なるほどとクンラートは長男坊を上から下まで眺め回すと、背後の近衛を振り仰ぎ、どうだ?と一言問いかける、近衛はニヤリと微笑み、私が鍛えたいですなと野太い声で短く答えた、クンラートはフハッと笑い、だそうだ、それで良ければ近衛に入れ、とあっさりと受け入れる、これには長男坊は目を回すしか無く、その父親も呆然としてしまった、近衛師団に名を連ねる事は武人として最高の栄誉とされており、本来であれば近衛に入るには騎士団でその実力を認められ、実戦かもしくはそれに近い実績を積まなければならない筈で、しかしクンラートは、なに、近衛もな人が足りんのだ、と微笑み、それにな、どうやら若い者を最初から鍛えた方がより精強になると気付いてな、今後は近衛にも経験の浅い者を突っ込む事としたのだよ、とその内実をあっけらかんと説明する、なるほどと父親は納得するが、その長男は混乱したままである、クンラートはまぁそういう事だ、事務処理等必要だがそれは頼むと背後の従者に伝え、話題を変えた、
「鉱山技師ですか?」
これはまた大きく話しが変わったものだと思いつつ、その父親が背筋を伸ばす、隣りに座るカラミッドはどうやら荒野の開発に関わる事かとすぐに察した、
「うむ、でな」
とクンラートは続け、そこにリシャルトがスッと近付きカラミッドに耳打ちする、カラミッドは小さく頷くと会話を遮らないように腰を上げ、場を移した、そしてリシャルトの案内が室内に響き、従者とメイドが一組ずつ会場へと誘っていく、そしてその半分が移動した頃合いでも、クンラートと伯爵の会話は終わりそうに無かった、カラミッドはそういう事ならと残った者のなかで高位の者から移動させるようにと指示する、これもまた難しかったりもする、何よりも公爵とほぼ同格のイフナースの存在や、爵位はあれどあくまで司法長官として招かれているローデヴェイク、学園長も立場を見れば高位に当たるが爵位を持っている訳ではない、その点では実は事務長の方が地位は高かったりする、リシャルトとしてはさて腕の見せ所かと悩み始めるが、しかし室内の雰囲気を見る限りどうやらそういった事にはあまり感心が無さそうで、それよりもさっさと移動したいとの思いが渦巻いている様子である、であればとリシャルトは順番を気にせず次々と案内する事とした、タロウも言っていたが、これは初めての試みである、少しばかり拙くても良しとする他なく、その反省は次に活かす他無い、もしかしたら全員を一挙に移動させ、指定した席に着いてもらった方が良かったかなと考えるも、それも今更であった、これもタロウ曰く、特別感を演出するにはこうするのが良いと思うとの事で、カラミッドもレイナウトも確かに丁寧で良いかもしれんと採用された段取りである、リシャルトは次々と従者とメイドに指示を出し、客達はその指示に静かに従っていた、
「まぁ、そういう事だ、詳細はまた別途打合せしたいのだが、その時はカラミッドも交えてになる、しかし、向こう数十年の事業になろう、また・・・いや、正確な情報はまた後程だ」
クンラートはムフーと満足そうに鼻息を吐き出した、伯爵はその熱量に目を丸くしつつもその内容を聞くにこれは確かに大事業だと理解を示し、その長男もまたいきなり政の世界に放り込まれたようで混乱しつつも高揚感に身を委ねる、何しろ父親からは公爵は大変に気難しく、お会いして挨拶をするだけでも貴重な事だと言い聞かされており、晩餐会となるとそれが当然であろうなとすっかり油断していたのだ、少しばかりカッコつけてその記憶に残れば幸いと考えており、父親もまたその程度の認識であったのである、それが恐らく見習いから始める事になるとは思うが、近衛師団への入団が決まったようで、さらには政治の話しである、それもかなり大規模な内容であった、二人共に光栄な事と高揚するのも無理は無い、
「でだ・・・いや、喋りつかれたな」
クンラートはそろそろ酒が欲しいかなと顔を上げた、どうやら大部分の参加者が会場へ移っており、見れば薄く開かれた木窓の外はすっかり暗い、
「さて・・・カラミッドと親父がな、今日の食事は素晴らしいと自画自賛しておってな・・・」
とクンラートがさらににこやかに話し始めた瞬間、その視線が鋭いものとなり一人の貴族風の男に突き刺さる、急に黙り込んだクンラートに二人はハテと不思議そうにその顔を見つめ、思わずその視線を追って振り返った、どうやらそこにはメイドに従う若い貴族の姿があり、夫婦であろうか何ともお似合いの二人であった、しかし、伯爵親子から見てもその男の方は若干の違和感がある、それは怪しいと感じる違和感では無い、スッと伸びた背筋と優雅な足運び、そして遠目に見る限りであるが、その面相は美しく、スラリと伸びた背の高さが無ければ男装した女性かと思えるほどで、さらにそれらが絶妙に合わさったが故か、大変な気品を醸し出している、ホウ・・・と伯爵は感心してしまった、田舎ではまず見る事の出来ない、洗練された歩き姿なのである、次の瞬間、
「貴様、何者だ!!」
クンラートが叫びドカリと音を立てて立ち上がる、ヒッと悲鳴を上げてしまう伯爵親子と、身を竦める従者、近衛も弛緩しかけた緊張感を取り戻し、クンラートと共にその男を睨みつける、前室内はピタリと時間が停まったかのように静寂に包まれた、まさに凍り付いたとの表現が正しい、しかし、その男は何事か呟き、笑顔を向ける、そして、
「私の事でしょうか、公爵閣下」
と優雅に腰を追った、その様はこれぞ貴族の模範とする美しい所作であったが、それに気付く者はない、
「そうだ、貴様だ」
クンラートはさらに怒声を上げてズカズカとイフナースに歩み寄る、これはいかんとレイナウトとカラミッドが駆け出し、近衛の二人もここは押さえるべきかとクンラートを追った、しかし、間に合わない、クンラートは頭を垂れるイフナースの直前で足を止めその頭を見下ろす、これはまずいと誰もが思ったその刹那、
「失礼、私の同伴者が何かありましたでしょうか」
二人の間を割って入ったのが誰でもないエレインであった、エッと男達は目を見開き、ユスティーナとレアン、マルヘリートも言葉を無くす、
「同伴者?貴様はなんだ」
「なんだと問われても困ります、私はエレイン・アル・ライダー、ライダー子爵家のものです、公爵閣下、お見知り置きを」
優雅に頭を垂れすぐさま顔を上げるエレインであった、その背に守られる形になったイフナースはオッと驚きつつも面白そうだとこちらもゆっくりと顔を上げる、
「ほう、ライダー子爵家の小娘の同伴者?その男がか?」
「はい、その通りでございます」
「嘘を言え、貴様、女の影に隠れるか」
「女の影とは笑止、公爵閣下と言えど、ライダー子爵家に害を成すとなれば黙っておれる訳もありません」
「なに?子爵風情が何を言う」
「子爵風情ですと?部下がなければ何も成せないのが貴族というもの、例え公爵であっても王族であっても下位貴族を大事にせぬ者は大成できませんよ」
「なんと・・・貴様、誰に何を言っているのか分かっているのか」
「勿論です、ヘルデル領主、コーレイン公爵家当主に申し上げております」
エレインは毅然と言い放つ、その視線はクンラートから外す事は無く、クンラートもまた怒気を滾らせた視線でもってエレインを見下ろしている、
「・・・フン、カラミッド、なんだこの女は、どういう事だ」
クンラートは埒が明かないとカラミッドを睨みつけた、カラミッドはこめかみを伝わる冷たい汗を感じつつ、どうしたものかと言葉を探す、そこに、
「フッ、だからお前さんは駄目なんだ、兄貴にも言われただろう」
涼やかであるが嫌味含みの一言が一同の耳に入る、なに?と居並ぶ一同の視線が声の主に向かった、イフナースである、
「エレイン嬢、すまんな、言い忘れていた事がある」
イフナースはソッとエレインの肩に触れた、それは小さく震えており、振り返ったその瞳は恐怖と緊張の為か潤んでいる、
「大丈夫、心配するな」
イフナースはそのままエレインをゆっくりと傍らに追いやり、
「久しぶりだなクンラート、いや、ここは公爵閣下と呼ぶべきか?」
と微笑む、
「・・・やはりか・・・やはり、貴様か・・・」
クンラートはジットリとイフナースを見下ろした、
「おう、貴様だよ」
「そうか・・・病は癒えたのだな・・・フンッ・・・背も伸びた、痩せぎすなのは変わらんな、ついでに女のようなそのツラもな」
「まぁな、見ての通りだよ」
「そうか・・・そうであったか・・・」
クンラートがズイッと一歩イフナースに近づいた、これはと背後の近衛が遮ろうとするが、クンラートはそれを片手で制すると、
「嬉しいぞ、殿下」
と右手を差し出す、
「あぁ、俺もだ」
とイフナースはその手を取り、互いの前腕部を握る熱い握手を交わすのであった。
「そうだ、そちらの鉱山技師を派遣する事は可能か?」
カラミッドが顔合わせと称して連れて来たのはこれが三組目である、一組目は代替わりをした二組の子爵、次はカラミッドが新しく取り立てた男爵の二組、そして三組目がカラミッドと同格になる伯爵家の長男坊であった、伯爵であるその父親も寄り添っており、その長男坊は幼い顔にあからさまな緊張感を滲ませて固まっている、その伯爵である父親もまた久しぶりに会ったクンラートを前にして何とも厳しい顔となっていた、クンラートはフフンと余裕の笑みで二人に対する、聞けば成人となる年齢になり、ついては騎士として軍事経験を積まさせたいとの事であった、なるほどとクンラートは長男坊を上から下まで眺め回すと、背後の近衛を振り仰ぎ、どうだ?と一言問いかける、近衛はニヤリと微笑み、私が鍛えたいですなと野太い声で短く答えた、クンラートはフハッと笑い、だそうだ、それで良ければ近衛に入れ、とあっさりと受け入れる、これには長男坊は目を回すしか無く、その父親も呆然としてしまった、近衛師団に名を連ねる事は武人として最高の栄誉とされており、本来であれば近衛に入るには騎士団でその実力を認められ、実戦かもしくはそれに近い実績を積まなければならない筈で、しかしクンラートは、なに、近衛もな人が足りんのだ、と微笑み、それにな、どうやら若い者を最初から鍛えた方がより精強になると気付いてな、今後は近衛にも経験の浅い者を突っ込む事としたのだよ、とその内実をあっけらかんと説明する、なるほどと父親は納得するが、その長男は混乱したままである、クンラートはまぁそういう事だ、事務処理等必要だがそれは頼むと背後の従者に伝え、話題を変えた、
「鉱山技師ですか?」
これはまた大きく話しが変わったものだと思いつつ、その父親が背筋を伸ばす、隣りに座るカラミッドはどうやら荒野の開発に関わる事かとすぐに察した、
「うむ、でな」
とクンラートは続け、そこにリシャルトがスッと近付きカラミッドに耳打ちする、カラミッドは小さく頷くと会話を遮らないように腰を上げ、場を移した、そしてリシャルトの案内が室内に響き、従者とメイドが一組ずつ会場へと誘っていく、そしてその半分が移動した頃合いでも、クンラートと伯爵の会話は終わりそうに無かった、カラミッドはそういう事ならと残った者のなかで高位の者から移動させるようにと指示する、これもまた難しかったりもする、何よりも公爵とほぼ同格のイフナースの存在や、爵位はあれどあくまで司法長官として招かれているローデヴェイク、学園長も立場を見れば高位に当たるが爵位を持っている訳ではない、その点では実は事務長の方が地位は高かったりする、リシャルトとしてはさて腕の見せ所かと悩み始めるが、しかし室内の雰囲気を見る限りどうやらそういった事にはあまり感心が無さそうで、それよりもさっさと移動したいとの思いが渦巻いている様子である、であればとリシャルトは順番を気にせず次々と案内する事とした、タロウも言っていたが、これは初めての試みである、少しばかり拙くても良しとする他なく、その反省は次に活かす他無い、もしかしたら全員を一挙に移動させ、指定した席に着いてもらった方が良かったかなと考えるも、それも今更であった、これもタロウ曰く、特別感を演出するにはこうするのが良いと思うとの事で、カラミッドもレイナウトも確かに丁寧で良いかもしれんと採用された段取りである、リシャルトは次々と従者とメイドに指示を出し、客達はその指示に静かに従っていた、
「まぁ、そういう事だ、詳細はまた別途打合せしたいのだが、その時はカラミッドも交えてになる、しかし、向こう数十年の事業になろう、また・・・いや、正確な情報はまた後程だ」
クンラートはムフーと満足そうに鼻息を吐き出した、伯爵はその熱量に目を丸くしつつもその内容を聞くにこれは確かに大事業だと理解を示し、その長男もまたいきなり政の世界に放り込まれたようで混乱しつつも高揚感に身を委ねる、何しろ父親からは公爵は大変に気難しく、お会いして挨拶をするだけでも貴重な事だと言い聞かされており、晩餐会となるとそれが当然であろうなとすっかり油断していたのだ、少しばかりカッコつけてその記憶に残れば幸いと考えており、父親もまたその程度の認識であったのである、それが恐らく見習いから始める事になるとは思うが、近衛師団への入団が決まったようで、さらには政治の話しである、それもかなり大規模な内容であった、二人共に光栄な事と高揚するのも無理は無い、
「でだ・・・いや、喋りつかれたな」
クンラートはそろそろ酒が欲しいかなと顔を上げた、どうやら大部分の参加者が会場へ移っており、見れば薄く開かれた木窓の外はすっかり暗い、
「さて・・・カラミッドと親父がな、今日の食事は素晴らしいと自画自賛しておってな・・・」
とクンラートがさらににこやかに話し始めた瞬間、その視線が鋭いものとなり一人の貴族風の男に突き刺さる、急に黙り込んだクンラートに二人はハテと不思議そうにその顔を見つめ、思わずその視線を追って振り返った、どうやらそこにはメイドに従う若い貴族の姿があり、夫婦であろうか何ともお似合いの二人であった、しかし、伯爵親子から見てもその男の方は若干の違和感がある、それは怪しいと感じる違和感では無い、スッと伸びた背筋と優雅な足運び、そして遠目に見る限りであるが、その面相は美しく、スラリと伸びた背の高さが無ければ男装した女性かと思えるほどで、さらにそれらが絶妙に合わさったが故か、大変な気品を醸し出している、ホウ・・・と伯爵は感心してしまった、田舎ではまず見る事の出来ない、洗練された歩き姿なのである、次の瞬間、
「貴様、何者だ!!」
クンラートが叫びドカリと音を立てて立ち上がる、ヒッと悲鳴を上げてしまう伯爵親子と、身を竦める従者、近衛も弛緩しかけた緊張感を取り戻し、クンラートと共にその男を睨みつける、前室内はピタリと時間が停まったかのように静寂に包まれた、まさに凍り付いたとの表現が正しい、しかし、その男は何事か呟き、笑顔を向ける、そして、
「私の事でしょうか、公爵閣下」
と優雅に腰を追った、その様はこれぞ貴族の模範とする美しい所作であったが、それに気付く者はない、
「そうだ、貴様だ」
クンラートはさらに怒声を上げてズカズカとイフナースに歩み寄る、これはいかんとレイナウトとカラミッドが駆け出し、近衛の二人もここは押さえるべきかとクンラートを追った、しかし、間に合わない、クンラートは頭を垂れるイフナースの直前で足を止めその頭を見下ろす、これはまずいと誰もが思ったその刹那、
「失礼、私の同伴者が何かありましたでしょうか」
二人の間を割って入ったのが誰でもないエレインであった、エッと男達は目を見開き、ユスティーナとレアン、マルヘリートも言葉を無くす、
「同伴者?貴様はなんだ」
「なんだと問われても困ります、私はエレイン・アル・ライダー、ライダー子爵家のものです、公爵閣下、お見知り置きを」
優雅に頭を垂れすぐさま顔を上げるエレインであった、その背に守られる形になったイフナースはオッと驚きつつも面白そうだとこちらもゆっくりと顔を上げる、
「ほう、ライダー子爵家の小娘の同伴者?その男がか?」
「はい、その通りでございます」
「嘘を言え、貴様、女の影に隠れるか」
「女の影とは笑止、公爵閣下と言えど、ライダー子爵家に害を成すとなれば黙っておれる訳もありません」
「なに?子爵風情が何を言う」
「子爵風情ですと?部下がなければ何も成せないのが貴族というもの、例え公爵であっても王族であっても下位貴族を大事にせぬ者は大成できませんよ」
「なんと・・・貴様、誰に何を言っているのか分かっているのか」
「勿論です、ヘルデル領主、コーレイン公爵家当主に申し上げております」
エレインは毅然と言い放つ、その視線はクンラートから外す事は無く、クンラートもまた怒気を滾らせた視線でもってエレインを見下ろしている、
「・・・フン、カラミッド、なんだこの女は、どういう事だ」
クンラートは埒が明かないとカラミッドを睨みつけた、カラミッドはこめかみを伝わる冷たい汗を感じつつ、どうしたものかと言葉を探す、そこに、
「フッ、だからお前さんは駄目なんだ、兄貴にも言われただろう」
涼やかであるが嫌味含みの一言が一同の耳に入る、なに?と居並ぶ一同の視線が声の主に向かった、イフナースである、
「エレイン嬢、すまんな、言い忘れていた事がある」
イフナースはソッとエレインの肩に触れた、それは小さく震えており、振り返ったその瞳は恐怖と緊張の為か潤んでいる、
「大丈夫、心配するな」
イフナースはそのままエレインをゆっくりと傍らに追いやり、
「久しぶりだなクンラート、いや、ここは公爵閣下と呼ぶべきか?」
と微笑む、
「・・・やはりか・・・やはり、貴様か・・・」
クンラートはジットリとイフナースを見下ろした、
「おう、貴様だよ」
「そうか・・・病は癒えたのだな・・・フンッ・・・背も伸びた、痩せぎすなのは変わらんな、ついでに女のようなそのツラもな」
「まぁな、見ての通りだよ」
「そうか・・・そうであったか・・・」
クンラートがズイッと一歩イフナースに近づいた、これはと背後の近衛が遮ろうとするが、クンラートはそれを片手で制すると、
「嬉しいぞ、殿下」
と右手を差し出す、
「あぁ、俺もだ」
とイフナースはその手を取り、互いの前腕部を握る熱い握手を交わすのであった。
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