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本編
71話 晩餐会、そして その7
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それからタロウが厨房に入り、本格的な調理が始まった、参加者が多い為その料理の分量も必然的に多くなる、その工程は料理長と段取り済みであったが、故に一見する限りは問題無く順調に進んでいるようで、厨房の半分を占める作業台に並べられた皿には事前に作り置きが可能な料理が並び、煮物や焼き物といった暖かい料理に関しては手をつけ始めた段階である、この辺は流石の料理人達であった、タロウも料理そのものの指導と調理方法を軽く指導しただけで、全体的な指揮は料理長に一任している、自分が下手に口を出しても混乱させるだけだろうなと配慮した為で、どうやらそれが正しいようである、そしてタロウは自分の任されたソース作りに取り掛かった、こればかりは言葉で説明しても難しかった為で、厨房の一角に材料を並べ料理人の一人がその手伝いにつき、コトコトと鍋を鳴らしていた、そこへ、
「盛況だな」
カラミッドとレイナウトが顔を出した、その後ろにはリシャルトの姿もある、料理人達と手伝いのメイド達は一斉に手を止めて一礼し、タロウもそれに倣って頭を垂れる、
「畏まるな、手を止める事はないぞ、邪魔をしたのはこちらだ」
カラミッドが続いて笑顔を見せた、皆その言葉を若干驚いたような顔で受け取りそしてすぐに作業は再開された、しかし料理長がすぐさま三人に近づくと、何かあったのかと不安そうである、何しろカラミッドが厨房に顔を出す事、それ自体が大変に珍しい、年に一度あるかないか、いやほぼ足を向けないのである、料理長の顔が若干青ざめてしまうのも無理はなかった、
「なんだお前まで、そんなに珍しかったか」
カラミッドがその顔を見て口をへの字に曲げ、リシャルトは仕方ないだろうなと苦笑いである、そう言う訳ではとさらに畏まる料理長であった、
「なに、ウシとブタじゃな、調理前の肉がどんなもんだか見ておきたくての、ほれ、儂としては知った顔をせねばならん、学園で実物は目にしているがな、そういう事だ」
カラミッドはにやりと微笑む、それは正に本心であり、さらには主催者としての立場もある、どうやら本日の料理は以前の食事会と同様かそれ以上に新しい物になるらしく、料理そのものはタロウに一任する事としていた為、やはり気になったのだ、リシャルトからもあの肉は美味そうだとまで言われている、そういう事ならと料理長は下準備を終え焼くだけの状態で並べられた肉の前に三人を誘った、丸焼きの肉はすでに窯の中である、じっくりと火を通している段階で、料理人が二人付きっきりで調理を続けていた、
「ほう・・・なるほど、立派な肉だな・・・」
「まったくだ、良い色をしている、確かに、鹿か猪か、似ているようで違うのだな・・・」
カラミッドとレイナウトは二つ並んだ肉の列を一目見てなるほどと頷く、二人もまた肉に関してはやはり食べ慣れている、その立場もあって歓待されるとなればやはり肉類でもてなされる事が多く、また歓待するとなればやはり肉料理は欠かせない、
「はい、タロウ殿曰く、こちらの牛の肉は生肉でも食せるとの事」
「なんと?」
「それはまことか?」
料理長の説明に二人は同時に目を剥いた、
「はい、ですが、それを広めるのはまだ先であろうとの事です、ほら、それができるとなると他の肉を生で食べる者もでるであろうからと」
「それはまた・・・」
「そうなのか?」
とレイナウトが振り向いた、厨房のやや離れた所で鍋に向かっていたタロウがその視線に気付いてニコリと微笑み頷いた、なんとも意地の悪い笑みである、
「むぅ・・・しかし・・・いや、興味はあるが・・・」
「はい、この場でも相応しくないであろうと思いましてしっかり焼く事にしております」
「だな、ふむ・・・そうか、しかし、あれだな、この肉が市場に出回るようになれば確かに良いかもしれぬ・・・」
「そうだのう・・・ヘルデルにも持っていきたいが・・・それは暫く先か・・・」
二人がじっくりと肉を見下ろしている所に、タロウが作業を料理人に任せてフラリと近寄った、そして、
「試食されますか?」
と何とも簡単に言い放つ、二人はエッと振り返り、リシャルトはオッと驚いた、リシャルトもすっかり油断してしまっていたのである、大量の肉を前にして確かに美味そうだなとすっかり小腹が空いた時間でもある、従者とはいえそこは健康的な中年男性であった、
「そうだ、ほら、料理人さん達もまだ試食はされていないでしょう?」
とタロウは料理長に確認する、料理長としてはそういうものだと若干の非難を視線に込めて答えとした、
「それはそれでね、ほら、料理をする人はね、どんだけ美味いものを提供しているのかを知っておくべきだと俺は思ってます、さらに味付けの加減もあるでしょ、今回は下味は塩だけで、ソースが別にあるとは言え・・・まぁ、そういうわけですから、折角領主様もいらっしゃったことですし、ここはほら、単純な塩味で試してみましょう、本来であれば隠れなければならない相手が同席しているのです、心苦しく感じる必要も無いです」
タロウは妙な理屈を捏ねて手前の薄く引いた肉に手を伸ばす、カラミッドとレイナウトは隠れる相手とは儂らの事かと、随分な言い草であるが、まぁそこまで明け透けに言われては非難のしようも無いなと苦笑いで顔を見合わせ、料理長はこれはどうしたものかとリシャルトに助けを求める、しかしそのリシャルトもまた、タロウにそこまで言われては口出しのしようが無かった、タロウは半ば強引に牛と豚の肉を手にしてまな板に向かい、慣れた手つきで岩塩を振りかける、やはりここは胡椒が欲しいんだがなーと思いつつ、傍の料理人に鉄板を用意させ、焼き始めた、ジュウジュウと良い音と肉の香りが厨房内に新たに加わる、そして、
「はい、小さく切りました、それぞれ別なので」
とタロウは何とも呑気に細切れになった肉を皿に盛り、ズイッとカラミッドとレイナウトに突き出す、
「ほう・・・良い香りじゃな」
「ですな、色味も随分違うように思えます」
カラミッドの指摘通り牛と豚では焼き上がりの色は大きく異なっていた、料理長もホウと二つを見比べ、料理人達も首を伸ばしている、
「そうなんですよ、なので、ほら、お客様に自慢するのにも知識は大事です、食している肉が何なのかを知らないでは、恥もかきましょう」
平然とタロウは屁理屈を口にした、レイナウトは確かに自分もそう言った筈だと笑ってしまう、先程の会談では随分と難しい内容であったが、タロウ本来のこの適当な上に大雑把な物言いは嫌いではない、
「うむ、では頂こう」
レイナウトは共に出されたフォークを手にし、カラミッドも手を伸ばさざるを得なかった、そして、その一欠けらを口にし、
「うむ、確かに美味いな」
「ですな、鹿でも猪でもない、これがウシか?」
「はい、で、こちらが豚です」
タロウは皿を素早く交換し、牛の皿をリシャルトと料理長に渡す、二人は遠慮がちであったが受け取らざるを得ず、その様子に、
「早く食べないと、暖かい内が美味しいですよ」
タロウはにんまりと微笑み、さらに、
「ほら、料理人さん達も手が止まってます、ここはみんなで試食して、勉強する事にしましょう」
と続けた、これには料理長も頷かざるを得ず、そうして突発的に始まった試食会は盛況であったのであるが、それはカラミッドの手前、大きな騒ぎになる事は無く、また、カラミッドとレイナウトはもっと食したいとその願望を素直に口にしたのであるが、タロウはそれを頑として断る有様で、リシャルトはまったくこの人はどうにも困ったものだと笑うわけにもいかず、さりとて叱責する事もできず、苦笑いを浮かべるしかなかったのであった。
そうこうしている内にライニールが駆け込んできた、曰く来客の一組目が到着したらしい、もうそんな時間であったかとカラミッドは慌てて厨房から駆け出し、リシャルトも後に続いた、会場を抜け玄関ホールに向かうとユスティーナが来客対応をしており、レアンとマルヘリートもその隣りで淑女然と畏まっている、
「おう、デルクか、すまんな、準備に忙しくてな」
カラミッドは気さくに微笑んだ、来客はデルク・ネイホフ男爵、カラミッドがとりたてた優秀な人物で現在は行政官として主に農村部を任せている、デルクは恭しく低頭しその連れ合いである夫人もまたゆっくりと頭を垂れた、
「リシャルト、前室であったか?準備は出来ていような?」
「はい、勿論です」
リシャルトがスッと普段は食堂して使用している部屋に入った、これもまたタロウが提案した普段の晩餐会とは異なる趣向の一つである、通例に倣えば来客はそのまま会場へ通され、指定された席について他の客を待つ、その間静かに待つのが当然とされており、しかし、顔見知りがいれば立ち話程度はできるもののそれもあまり行儀としては宜しくないとされていた、タロウは待っているのはそれはそれで苦痛なものでしょうと口にし、特に時間に関しては大変に緩いと言わざるを得ない王国文化である、早く来すぎる者とそうでない者との差は恐らくとんでもないもので、あくまで仕事と思えば耐えられないこともないであろうが、しかしそれでは来客に失礼である、無論、大概の招待客はカラミッドの部下か知己の者であって、そこまで考慮する必要も無いのであるが、折角の催事なのである、楽しませて損はないとタロウは言い切った、これにはレイナウトがその通りだなと微笑み、その提案通りに前室が準備される事となった、
「こちらへ、では、ユスティーナ様、レアン様、マルヘリート様、宜しくお願いいたします」
リシャルトがすぐに戻って、三人を先に誘った、ネイホフ夫妻はどういう事かとカラミッドを伺う、
「今日はな、色々とやってみようと思ってな、ほれ、中でゆっくりして欲しい、酒は無いが茶は用意しよう、折角だからな、ユスティーナと歓談しておれ」
カラミッドは部下であるデルクにニヤリと微笑む、デルクはこれはまた意外な事をと怪訝そうに眉を顰めた、どうやら今日のカラミッドは機嫌が良いらしい、伝え聞くになにやら忙しいらしく、また公爵の相手もしている筈で、それでこの笑顔はどういう事かと訝しむが、まぁ、機嫌が良いに越したことはないなと素直にその誘いに従い、前室に入った、
「さて、では、儂はそちらだな」
「はい、ここはお任せ下さい、段取り通りと致します、ライニール、名簿を」
リシャルトがここからが本番と気合を入れ直したようである、キリリと口元を引き締め、リシャルト本来の勤勉さを取り戻す、どうにもタロウ独特の奇妙な調子に飲まれてしまっており、若干弛緩した心持ちをそれではいかんと締め直した、
「うむ、任せた」
カラミッドもサッと前室に入った、中では早速とユスティーナがマルヘリートとデルクを紹介しており、デルクも夫人もまた大変に畏まっている、どうやら伯爵令嬢まで来ていたとは聞いていなかったらしい、カラミッドはさて今の内に話しておく事は何かあったかなと考える、農村を任せている男である、この時期であれば冬小麦の作付けやら獣や魔物の害の確認等を話題とするのが常で、しかしとカラミッドは先程食した肉を思い出す、まだ口中には後に食べた豚の脂の甘みが残っていた、これは早々に学園長と引き合わせ、ウシとブタの飼育について街を上げて取り組む必要があるなと再認識し、ズカズカとその五人に向かい歩を早めるのであった。
「盛況だな」
カラミッドとレイナウトが顔を出した、その後ろにはリシャルトの姿もある、料理人達と手伝いのメイド達は一斉に手を止めて一礼し、タロウもそれに倣って頭を垂れる、
「畏まるな、手を止める事はないぞ、邪魔をしたのはこちらだ」
カラミッドが続いて笑顔を見せた、皆その言葉を若干驚いたような顔で受け取りそしてすぐに作業は再開された、しかし料理長がすぐさま三人に近づくと、何かあったのかと不安そうである、何しろカラミッドが厨房に顔を出す事、それ自体が大変に珍しい、年に一度あるかないか、いやほぼ足を向けないのである、料理長の顔が若干青ざめてしまうのも無理はなかった、
「なんだお前まで、そんなに珍しかったか」
カラミッドがその顔を見て口をへの字に曲げ、リシャルトは仕方ないだろうなと苦笑いである、そう言う訳ではとさらに畏まる料理長であった、
「なに、ウシとブタじゃな、調理前の肉がどんなもんだか見ておきたくての、ほれ、儂としては知った顔をせねばならん、学園で実物は目にしているがな、そういう事だ」
カラミッドはにやりと微笑む、それは正に本心であり、さらには主催者としての立場もある、どうやら本日の料理は以前の食事会と同様かそれ以上に新しい物になるらしく、料理そのものはタロウに一任する事としていた為、やはり気になったのだ、リシャルトからもあの肉は美味そうだとまで言われている、そういう事ならと料理長は下準備を終え焼くだけの状態で並べられた肉の前に三人を誘った、丸焼きの肉はすでに窯の中である、じっくりと火を通している段階で、料理人が二人付きっきりで調理を続けていた、
「ほう・・・なるほど、立派な肉だな・・・」
「まったくだ、良い色をしている、確かに、鹿か猪か、似ているようで違うのだな・・・」
カラミッドとレイナウトは二つ並んだ肉の列を一目見てなるほどと頷く、二人もまた肉に関してはやはり食べ慣れている、その立場もあって歓待されるとなればやはり肉類でもてなされる事が多く、また歓待するとなればやはり肉料理は欠かせない、
「はい、タロウ殿曰く、こちらの牛の肉は生肉でも食せるとの事」
「なんと?」
「それはまことか?」
料理長の説明に二人は同時に目を剥いた、
「はい、ですが、それを広めるのはまだ先であろうとの事です、ほら、それができるとなると他の肉を生で食べる者もでるであろうからと」
「それはまた・・・」
「そうなのか?」
とレイナウトが振り向いた、厨房のやや離れた所で鍋に向かっていたタロウがその視線に気付いてニコリと微笑み頷いた、なんとも意地の悪い笑みである、
「むぅ・・・しかし・・・いや、興味はあるが・・・」
「はい、この場でも相応しくないであろうと思いましてしっかり焼く事にしております」
「だな、ふむ・・・そうか、しかし、あれだな、この肉が市場に出回るようになれば確かに良いかもしれぬ・・・」
「そうだのう・・・ヘルデルにも持っていきたいが・・・それは暫く先か・・・」
二人がじっくりと肉を見下ろしている所に、タロウが作業を料理人に任せてフラリと近寄った、そして、
「試食されますか?」
と何とも簡単に言い放つ、二人はエッと振り返り、リシャルトはオッと驚いた、リシャルトもすっかり油断してしまっていたのである、大量の肉を前にして確かに美味そうだなとすっかり小腹が空いた時間でもある、従者とはいえそこは健康的な中年男性であった、
「そうだ、ほら、料理人さん達もまだ試食はされていないでしょう?」
とタロウは料理長に確認する、料理長としてはそういうものだと若干の非難を視線に込めて答えとした、
「それはそれでね、ほら、料理をする人はね、どんだけ美味いものを提供しているのかを知っておくべきだと俺は思ってます、さらに味付けの加減もあるでしょ、今回は下味は塩だけで、ソースが別にあるとは言え・・・まぁ、そういうわけですから、折角領主様もいらっしゃったことですし、ここはほら、単純な塩味で試してみましょう、本来であれば隠れなければならない相手が同席しているのです、心苦しく感じる必要も無いです」
タロウは妙な理屈を捏ねて手前の薄く引いた肉に手を伸ばす、カラミッドとレイナウトは隠れる相手とは儂らの事かと、随分な言い草であるが、まぁそこまで明け透けに言われては非難のしようも無いなと苦笑いで顔を見合わせ、料理長はこれはどうしたものかとリシャルトに助けを求める、しかしそのリシャルトもまた、タロウにそこまで言われては口出しのしようが無かった、タロウは半ば強引に牛と豚の肉を手にしてまな板に向かい、慣れた手つきで岩塩を振りかける、やはりここは胡椒が欲しいんだがなーと思いつつ、傍の料理人に鉄板を用意させ、焼き始めた、ジュウジュウと良い音と肉の香りが厨房内に新たに加わる、そして、
「はい、小さく切りました、それぞれ別なので」
とタロウは何とも呑気に細切れになった肉を皿に盛り、ズイッとカラミッドとレイナウトに突き出す、
「ほう・・・良い香りじゃな」
「ですな、色味も随分違うように思えます」
カラミッドの指摘通り牛と豚では焼き上がりの色は大きく異なっていた、料理長もホウと二つを見比べ、料理人達も首を伸ばしている、
「そうなんですよ、なので、ほら、お客様に自慢するのにも知識は大事です、食している肉が何なのかを知らないでは、恥もかきましょう」
平然とタロウは屁理屈を口にした、レイナウトは確かに自分もそう言った筈だと笑ってしまう、先程の会談では随分と難しい内容であったが、タロウ本来のこの適当な上に大雑把な物言いは嫌いではない、
「うむ、では頂こう」
レイナウトは共に出されたフォークを手にし、カラミッドも手を伸ばさざるを得なかった、そして、その一欠けらを口にし、
「うむ、確かに美味いな」
「ですな、鹿でも猪でもない、これがウシか?」
「はい、で、こちらが豚です」
タロウは皿を素早く交換し、牛の皿をリシャルトと料理長に渡す、二人は遠慮がちであったが受け取らざるを得ず、その様子に、
「早く食べないと、暖かい内が美味しいですよ」
タロウはにんまりと微笑み、さらに、
「ほら、料理人さん達も手が止まってます、ここはみんなで試食して、勉強する事にしましょう」
と続けた、これには料理長も頷かざるを得ず、そうして突発的に始まった試食会は盛況であったのであるが、それはカラミッドの手前、大きな騒ぎになる事は無く、また、カラミッドとレイナウトはもっと食したいとその願望を素直に口にしたのであるが、タロウはそれを頑として断る有様で、リシャルトはまったくこの人はどうにも困ったものだと笑うわけにもいかず、さりとて叱責する事もできず、苦笑いを浮かべるしかなかったのであった。
そうこうしている内にライニールが駆け込んできた、曰く来客の一組目が到着したらしい、もうそんな時間であったかとカラミッドは慌てて厨房から駆け出し、リシャルトも後に続いた、会場を抜け玄関ホールに向かうとユスティーナが来客対応をしており、レアンとマルヘリートもその隣りで淑女然と畏まっている、
「おう、デルクか、すまんな、準備に忙しくてな」
カラミッドは気さくに微笑んだ、来客はデルク・ネイホフ男爵、カラミッドがとりたてた優秀な人物で現在は行政官として主に農村部を任せている、デルクは恭しく低頭しその連れ合いである夫人もまたゆっくりと頭を垂れた、
「リシャルト、前室であったか?準備は出来ていような?」
「はい、勿論です」
リシャルトがスッと普段は食堂して使用している部屋に入った、これもまたタロウが提案した普段の晩餐会とは異なる趣向の一つである、通例に倣えば来客はそのまま会場へ通され、指定された席について他の客を待つ、その間静かに待つのが当然とされており、しかし、顔見知りがいれば立ち話程度はできるもののそれもあまり行儀としては宜しくないとされていた、タロウは待っているのはそれはそれで苦痛なものでしょうと口にし、特に時間に関しては大変に緩いと言わざるを得ない王国文化である、早く来すぎる者とそうでない者との差は恐らくとんでもないもので、あくまで仕事と思えば耐えられないこともないであろうが、しかしそれでは来客に失礼である、無論、大概の招待客はカラミッドの部下か知己の者であって、そこまで考慮する必要も無いのであるが、折角の催事なのである、楽しませて損はないとタロウは言い切った、これにはレイナウトがその通りだなと微笑み、その提案通りに前室が準備される事となった、
「こちらへ、では、ユスティーナ様、レアン様、マルヘリート様、宜しくお願いいたします」
リシャルトがすぐに戻って、三人を先に誘った、ネイホフ夫妻はどういう事かとカラミッドを伺う、
「今日はな、色々とやってみようと思ってな、ほれ、中でゆっくりして欲しい、酒は無いが茶は用意しよう、折角だからな、ユスティーナと歓談しておれ」
カラミッドは部下であるデルクにニヤリと微笑む、デルクはこれはまた意外な事をと怪訝そうに眉を顰めた、どうやら今日のカラミッドは機嫌が良いらしい、伝え聞くになにやら忙しいらしく、また公爵の相手もしている筈で、それでこの笑顔はどういう事かと訝しむが、まぁ、機嫌が良いに越したことはないなと素直にその誘いに従い、前室に入った、
「さて、では、儂はそちらだな」
「はい、ここはお任せ下さい、段取り通りと致します、ライニール、名簿を」
リシャルトがここからが本番と気合を入れ直したようである、キリリと口元を引き締め、リシャルト本来の勤勉さを取り戻す、どうにもタロウ独特の奇妙な調子に飲まれてしまっており、若干弛緩した心持ちをそれではいかんと締め直した、
「うむ、任せた」
カラミッドもサッと前室に入った、中では早速とユスティーナがマルヘリートとデルクを紹介しており、デルクも夫人もまた大変に畏まっている、どうやら伯爵令嬢まで来ていたとは聞いていなかったらしい、カラミッドはさて今の内に話しておく事は何かあったかなと考える、農村を任せている男である、この時期であれば冬小麦の作付けやら獣や魔物の害の確認等を話題とするのが常で、しかしとカラミッドは先程食した肉を思い出す、まだ口中には後に食べた豚の脂の甘みが残っていた、これは早々に学園長と引き合わせ、ウシとブタの飼育について街を上げて取り組む必要があるなと再認識し、ズカズカとその五人に向かい歩を早めるのであった。
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