セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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70話 公爵様を迎えて その49

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「そろそろ離してやりなさい」

ソフィアがもうとミナの頭にポンと手を置いた、

「やだー、逃げないように捕まえとけって言ったー」

ミナはムゥとソフィアを見上げる、ミナに取りつかれたままのタロウは軽くソフィアを見上げて言葉も無い、

「もう逃げないわよ、でしょ?」

ソフィアがやれやれとタロウを見下ろすと、タロウは小さく頷き項垂れた、

「あら・・・ほら、ミナ、タロウさんも疲れてるみたいだし、大丈夫でしょ」

「そうなのー?」

「そうよ、見てみなさい、心底疲れたって顔してるわよ」

「えー、そうかなー」

ミナがうんしょとタロウの頭を天井に向ける、力なくそれに従うタロウである、小さい両手でいびつに歪めらた上下逆のその顔に、

「あははー、変な顔ー、ほら、ソフィー見てー、変な顔ー」

ミナはキャッキャッと笑いだし、食堂の他の面々はタロウさんも大変だなとほくそ笑んだ、

「こら、その辺にしときなさい」

「えー・・・ムー、わかったー」

ミナは不承不承と納得したようで、うんしょとタロウの背から降りた、北ヘルデルでの会合を終え、ユスティーナらはホクホクと嬉しそうに屋敷に戻った、寮で出迎えたエレインらと興奮気味に話し込むのをライニールがこの後の予定もありますと何とかまとめて引き上げる、大した予定では無いのだがこうでも言わないと夕食を共にする雰囲気をソフィアが醸しておりそれはそれで申し訳ないだろうとの配慮であった、タロウ以上にライニールも疲れ切っていた様子であるが、そこは仕事と歯を食いしばったのであろう、その様子に従者も大変だなとタロウは項垂れつつライニールに小さな親近感をおぼえてしまった、

「・・・わかってくれて、うれしいよ・・・」

タロウは力なく呟く、

「もう、なによ、そんなに疲れたの?」

今度はタロウが叱責される番らしい、ソフィアはいい加減にしろとその腰に手を当てる、

「そりゃ・・・だって・・・さ・・・苦手な人の相手は・・・精神的にくる・・・もんだぞ・・・」

タロウは何とか呟いてフーと大袈裟に溜息を吐く、

「何言ってるのよ、前の時は平気だったでしょ」

「・・・前って?」

「ほら、異国の貴重な反物の時・・・」

「・・・あー・・・でもさ、あれはだってさ・・・そういう感じだったわけだし」

「何が違うのよ、しっかりなさい」

「・・・できれば・・・してる・・・」

「まったく、まぁいいわ、ほら、支度が終わっているからね、準備なさい」

ソフィアがこれ以上は埒が明かないとパンパンと手を叩いた、食堂内の生徒達はハーイと明るく答え、ミナもお片付けーとテーブルに向かう、ソフィアはそのままさっさと厨房へ戻った、

「えっと・・・大丈夫ですか?」

タロウの側に座っていたレスタが心配そうに声をかける、

「ん?・・・大丈夫、全然大丈夫」

タロウは力なく微笑むが、レスタはこりゃ駄目そうだなと苦笑いを浮かべてしまった、

「ほっといていいわよ、レスタさん、こいつはこういう奴なのよ」

それをユーリが見咎めた、

「そうなんですか?」

「そうよ、第一男ってやつはね、変に優しくしてもつけあがるだけなんだから、偶にはいいでしょ、最近調子乗ってたし」

散々な言いようである、別に調子に乗っていた訳では無いと思うとタロウは反論しかけ、しかし、ここで何か言うと余計に体力を消耗しそうだと黙する事を選んだ、単純にめんどくさかった事もある、

「それは・・・それでどうかと・・・」

レスタはさらに苦笑いを濃くする、

「いいの、ほっときなさい、なんだったらミナをけしかければいいんだから、ねっ、ミナ」

ユーリがミナにニヤリと意地悪そうに笑いかけ、

「なに?なにがー」

とミナがダダッとユーリに駆け寄った、

「んー、タロウがね、元気が無いからね、あんた、なんとかしなさい」

「えー・・・なんとかってなにー?」

不思議そうに首を傾げるミナである、

「あー・・・なんだろ・・・取り合えず、殴る蹴る?」

何とも暴力的な単語にそれを耳にした全員がそれはどうかと顔を上げ、タロウもやっとおいおいと振り返る、

「いいの?」

しかしミナはピョンと飛び跳ねた、

「いいわよー、ミナはクロノスよりも強いもんねー」

「うん、強いよー、ミナとレインはサイキョーなのー」

「でしょー、だったらタロウよりも強いもんねー」

「勿論」

「ん、じゃ、ヤレ」

「わかったー」

ミナがムフッと微笑み両手を構えてタロウに向き直った瞬間、

「わかった、元気になった、うん、全然平気」

これは教育上宜しくないとタロウはサッと腰を上げた、

「エー、嘘だー」

ミナが叫び、

「あー、絶対嘘」

ユーリがミナに同調する、

「いや、ホント、ホントに元気、うん、さて夕食はなにかなー、楽しみだなー、レスタさん今日は何か聞いた?」

空々しいまでの見事なカラ元気である、

「えっ、あっ、はい、そのハンバーグだそうで・・・昨日のお肉の・・・」

「あっ、そうだよね、あのな、牛と豚の肉を使ったハンバーグをな、合いびき肉って言うんだよ、旨いぞー」

「それ昨日も聞きました」

「そだっけ?」

「はい、美味しそうだなーってみんなで・・・ね?」

とレスタが周りを見渡すと、ウンウンと頷く者が大多数である、

「そっか、話したか・・・」

そこでどうやら最後の活力を使い切ったらしい、タロウはゆっくりと座り直してしまう、途端、

「ヤレー」

ユーリの号令が響き、

「覚悟しろー」

ミナがタロウに飛び掛かる、

「勘弁してくれー」

タロウの叫びが食堂に大きく響き渡った。



夕食を終え一息吐けた、合いびき肉のハンバーグは絶賛され、やはり鹿や猪とはまるで違うと称賛の嵐となった、昨日のお肉祭りも大変に好評であったのだが、ハンバーグ独特の食感の柔らかさと食べやすさはまた焼いただけの肉とは大きく異なるもので、結局一人当たり大人の拳大のそれを三つは平らげている、若いとはいえ大したもんだとタロウは呆れつつも嬉しく眺めてしまった、

「で、明日の準備はどうするの?」

ソフィアが片付けを終えて今日も取り合えずこれで終わりかしらねと腰を落ち着けた、そうなると明日の事が気になるもので、タロウに何とはなしに問いかける、ミナとレイン、ニコリーネとテラが入浴中であり、他の面々は夕食前に広げていた木簡やら黒板を再び広げて真剣に読み込んでいる、今日まとめられた資料であった、チャイナドレスから化粧、髪型、昨日年長者達が実践した脱毛処理に関する事と、文章にしてみればそれは実に膨大であり、さらには美容に関する事となれば年頃の娘達なら気にならない訳が無い、皆実に真剣な瞳である、

「あー・・・そうだよね」

とタロウはウーンと考え込む、先程までの疲れはハンバーグのお陰もあってか大分癒された、我が事ながらなんとも現金なものである、美味い料理はやはり活力の元なんだなと実感するに至り、そしてやはり精神的な疲労は肉体的なそれとは比べ物にならないなと再認識した、数年振りに感じる疲労感である、こちらに来てからは肉体的な疲労で身体が動かなくなることは数度あったが、それも瞬時に回復する術を身に着けており、しかし、精神的な疲労を回復する手段に関してはまるで対処した事は無かった、どうやらそれだけ好き放題やってきたという事らしい、ユーリの言う調子にのっているの一言はあながち間違っていないのかもしれないなと、冷静になるタロウであった、

「朝からって話しはしてるよね?」

タロウは確認とばかりに問い直す、

「聞いてるわよ、あっ、ティルさんも座んなさい」

厨房から出てきたばかりのティルを捕まえるソフィアである、一緒に出てきたグルジアは勉強以上に熱心に額を寄せる一団に吸い込まれていった、と同時にエレインがどうやら三人の様子に気付いて腰を上げる、

「あっ、エレインさんもお願い」

タロウがニコリと微笑む、エレインも笑顔で答えるとソフィアの隣りに腰掛けた、

「でだ、予定としては変わらないんだけど、午前の早い時間から向こうに行って、あっ・・・奥様はあっちにいっちゃうのか・・・そうなると少し変わるかな?」

タロウが大きく首を傾げた、

「やっぱり変更あった?」

ソフィアがニヤリと微笑む、今日のパトリシアの話しを思い出すに、明日はユスティーナもマルヘリートも忙しい筈で、そうなると晩餐会の準備もまた変更がある筈であった、貴族の流儀は知らないが、しかし中心人物の一人であるユスティーナが不在となれば段取りが変わるのも当然であろう、

「あー・・・多分ね、何とかなるとは思うけど・・・それは俺の関与できる事じゃないかな・・・まぁ、お嬢様はいるだろうからそういう名目にすればいいさ」

「ならいいけど、どうする?ミナも手伝わせる?」

「・・・できるのか?」

「大丈夫だと思うわよ、それにミナをほっておくと後がうるさいし」

「それもそっか・・・じゃ、ミナとレインを連れて行って、そっちはそれで・・・あっ、藁箱は?」

「予定通りです、少し多めに用意しました」

エレインがニコリと微笑む、

「ありがとう、じゃ、それは行くときに持って行って、あっ、ゾーイさんかな?カトカさんかな?」

タロウが振り返ると、研究所組は疲労か食べ過ぎか、そのどちらもあってか見事に全員がだらしなく伸びている、しかしゾーイとカトカは同時にサッと姿勢を正し、曖昧な笑みを浮かべていた、異性であるタロウの視線が届かない事からすっかりと油断していたのであろう、

「皿は明日の朝でいいよね?」

タロウはそんな二人を気にする素振りを見せずに問いかける、

「はい、木箱に入れてあります、緩衝材?もたっぷりと」

ゾーイが答え、

「準備万端です」

カトカも笑顔を見せた、

「ありがとう、そうなると」

タロウが笑顔を見せて向き直ると、再びだらしなく脱力する二人である、ユーリとサビナは別に見栄を張らなくてもと湯呑を片手に二人を薄目で睨むが、二人にしてみればただの条件反射であったりする、なにも非難される謂れは無い、

「メーデルさんとフローケルさんは現場に直接だから・・・あとはあれとあれはあるし・・・」

タロウは部屋の隅に追いやられてしまった木箱と革袋を確認し、

「下準備は大丈夫そうかな・・・段取りに関しては」

「私とティルさんとミーンさんで料理ね」

「そうなる、俺も最初はそっちで指示を出して、会場設営はほら、向こうの仕事、ライニールさんがいないと思うけど、リシャルトさんがやるだろうし」

「あー・・・あの人苦手なのよねー」

ソフィアがリシャルトって誰だっけと悩んですぐに思い出した、ライニールと違って伯爵家の従者らしい従者であるリシャルトである、接点が少ない為その人となりもよく知らない、その為かあまり印象はよろしくない、

「大丈夫だぞ、話せばわかる・・・ような気がする」

「そう?」

「たぶんね、まぁ、料理に関してはそんなに口出ししないだろうからさ、で、料理なんだけど」

とタロウは構想の幾つかを口にし、それだけでは駄目かなと黒板をエレインから預かって書き留めた、

「なるほど・・・手間だわね・・・」

「そう言うなよ、美味いのは知ってるだろ」

「知ってるけど、量はどんなもん?」

「大量」

「それはわかるわよ」

「だよな、まぁ、向こうの料理人さんもメイドさんもいるしね、分量的なものはお任せだな・・・料理もね、中心となるものはやっぱり向こうにお任せだから、まぁ、なんとかなるよ」

「そうかもね」

「そういう事、でだ・・・道具も明日届くし・・・うん、まぁ、あれだ、朝から動けば何とかなるさ」

タロウは黒板を見つめて大きく頷いた、

「そっ、ならいいわ」

ソフィアも納得できたのかフンッと小さく鼻息を吐き出し、ティルも何とかなりそうかなと黒板を覗く、ティルが懸念しているのは慣れない厨房に立つ事ぐらいであり、ソフィアとミーンが側にいればなんでもできるであろうとの自負もあった、こちらに世話になってだいぶ調理の腕も上がっていると思う、特殊な調理をする事が多い為、なんでもやってやろうとの度胸もついていた、

「・・・あっ、でね、話しは変わるんだけど」

とタロウは白墨を置くと、

「双六・・・もういいか、ノシなんだけどさ」

と見事に話題を変えてエレインを見つめるタロウであった。
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