セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

70話 公爵様を迎えて その7

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先程の御前会議は最終的にタロウの悩みながらの訥々と口にした具申が受け入れられる事となった、ボニファース自らが大局を見てこの戦を再構築しようと言い出し、ロキュスや重鎮達、アンドリースとメインデルトも否とは言えない、ましてより大規模な計画の策定が必要と高揚しているようで、私共も是非加わりたいと各軍団長も乗り気であった、王国ではいまだ戦争と政治を切り離して考える事が当たり前のようでタロウの提言はその二つをない交ぜにしつつも、将来の展望をも含めたものであった為、軍人も政治家も発奮せざるを得なかった様子である、タロウはやれやれと一息吐いた、どうやら受け入れられたらしく、それなりの仕事が出来たかなと若干不安は感じつつも安堵した、そして会議を終えると、イフナースがニヤニヤとその頭は何だと厳めしい面々が揃う前でタロウを茶化し始め、ボニファースまでも気になっていたと割って入った、メインデルトも口を出す、ロキュスはタロウの頭をジロジロと観察する有様で、これはあれですと、タロウは簡単にその仕組みを解説すると、それは面白いとイフナースは自分もやると言い出し、であればとクロノスまでが賛同し、いや、お前らはこれから大事な会議だろうとタロウは渋るが、ボニファースがよいよいそちらもそちらで興味があると言い出したもんだからイフナースとクロノスは堂々と正装のままに寮に来たのであった、二人を止められるのはあの場にあってもボニファースだけである、他の列席者は軽く顔を顰めるが、どうやらそれ以上に興味が勝ったらしい、メインデルトまでがそういう事ならリンドがいれば何とでもなると、それはそれでどうかと思う発言で、それは言い過ぎだと流石にクロノスが非難するが、ボニファースがそうかもしれんなと微笑んでいた、どうやらクロノスには英雄と王太子としての責務意外は期待されていない様子であった、それこそそれはそれでどうなんだとタロウは思うが、クロノスは特に気にしていないらしい、まぁ、その実力を持ってすれば一騎当千、万夫不当である事だけは確かで、正直今回の侵攻もクロノスとルーツ、リンドとアフラがいれば撃退は容易であろうとタロウは考えており、その四人にイフナースが加わればより簡単になる事だけは確実な状況である、そして現在、寮の食堂で女性達に囲まれたタロウは、

「あー・・・じゃ、丁度良いな」

と一計を思いついた、

「何がよ」

ユーリがさて今日の本題に入れるかしらと黒板を揃えつつ問い質す、

「うん、あれだ、どうだろう、ここは一つさ、実験体が二つ手に入った事だし、男女の頭の違いってやつを知るのも良いかもな」

「何それ?」

「?お前さんでもわからんか?」

「・・・何となくは分かるけど・・・」

「結構違うもんなんだぞ、ま、そこも含めてさ、ほら調髪ってやつは実は頭の形も大事でね、そこを少し実感してみよう」

とタロウはニヤリと微笑む、女性達は何を言い出すのやらと眉根を寄せ、ユスティーナやレアンもどういう事かしらと首を傾げている、そこへ、

「これでいいのか?」

とイフナースとクロノスが肩と頭にタオルを巻いて脱衣室から戻って来た、タロウが整髪する前に軽くお湯で濡らして来いと指示した為でアフラとソフィアがその介助に同行した、普段の服装であれば好きにすればと突き放すソフィアであったが、正装の二人では難儀する事もあろうとの配慮である、

「おう、ついでだ、少し刈るぞ」

タロウがニヤリと振り返る、

「何を」

「髪だ」

「あん?そこまでは頼んでいないだろう」

「別にいいだろ、男前にしてやるよ」

「充分男前のつもりだが」

「それを更に男前にしてやると言うのだ、お姫様が惚れ直すぞ」

「いや、大丈夫か?」

「任せろ」

タロウは二人を強引の鏡の前に座らせた、お姫様とはパトリシア王太子妃の事よねとユスティーナとレアンとマルヘリートは顔を見合わせている、

「でだ、ユーリ、ソフィア、調髪を頼む」

「あー・・・はいはい、でも、あれよ、男の髪は苦手よ」

「私もだわ・・・」

とユーリもソフィアも不満気な口振りであるが、その顔は厭らしく歪んでいた、クロノスにもイフナースにも恨みは無いが、普段の鬱憤は溜まっている、ここは一つ意趣返しでは無いが、楽しませて貰っても罰は当たるまい、

「おい、本当に大丈夫か?」

クロノスが不安気にタロウを見上げ、イフナースもこれは少しばかり軽々であったかと鏡越しにタロウを睨む、

「大丈夫、ユーリとソフィアの腕を信じろ、ついでに俺の経験もだな」

「・・・お前の経験とやらが一番分からんな」

「剃るのは駄目だぞ」

二人はそれでも愛馬に足をかけたからなと覚悟を決めたらしい、実に男らしい事である、

「でだ、まずは」

とタロウはユーリに二人の頭を弄りながら詳細な指示を出す、ソフィアは調髪するならシーツが欲しいわねと倉庫に走った、ユーリはフンフンと真面目に頷いており、女性達も何が始まるのかとその様子を静かに注視している、

「了解、でもいいの?」

「大丈夫、カッコよくなるぞ」

「本当だろうな?」

「おう任せろ」

こうして王子様と英雄様をモデルにした何とも贅沢な実地実験が始まったのであった。



「わっ・・・確かに・・・」

「はい、違います」

「・・・カッコイイ・・・」

先に仕上がったのはイフナースである、イフナースの髪質はサラサラとしたストレートで味のあるくすんだ金髪であった、タロウはであればとモデルにしたのは某なんとかハザードのレオンである、後頭部を軽く刈り上げ側面も大胆に切り落とし頭頂部は長髪を維持しつつ軽く切りそろえて真ん中で分けている、ユーリの手により大胆に切り落とされていく髪をイフナースは不安そうに見つめていたが、

「・・・悪くないな・・・」

とシゲシゲと鏡に映る顔を角度を変えて覗き込んでいる、それを遠目に見ている女性達であったが、その立場を忘れてボウッと見つめていた、元来美形なイフナースである、適当に伸ばした髪であってもその美しさは損なわれる事が無かったが、こうしてスッキリしつつも整った髪型になればその美しさはさらに協調されるもので、王太子に対して失礼があってはならないと固くなっていた女性達でさえ、思わずその心情が零れ出てしまった、

「だろ、これなら・・・そうだな、大概の女性であれば優しく微笑むだけで落せるぞ」

タロウが鏡越しにニヤリと微笑むが、

「何言ってるのよ、女はそんなに甘く無いわ」

ユーリがピシャリと言い放つ、

「そうか?だってお前、王子様だぞ、それでこの顔でこの髪だぞ、これで落ちない女ってどうなのよ」

「・・・そこまで言われると・・・落ちるかしら・・・」

「だろー」

「若い子ならね」

「歳いってもいけるさ」

「そう?」

「場合によっては男もいけるぞ」

「あら・・・それは・・・そうなの?」

「・・・知らん」

「あのねー」

「・・・適当言いやがって、お前らは」

イフナースがタロウとユーリを鏡越しに睨むが満更でもなさそうであった、

「でだ、これにね」

とタロウは櫛を取り出して向かって右側に下ろした髪を後方に流し、

「あっ・・・ごめん、カトカさん、髪留め貸して」

と振り向いた、カトカはエッと思いつつ立ち上がり自分のでいいのかなと悩むが、待たせては失礼かと髪に刺さっていた髪留めを外してそのまま差し出した、

「ごめんね、すぐ、返すから」

タロウはそれで後方に流した髪の中程を留めると、

「うん、これでもいいんだよね、どうです?」

「・・・悪くないな、しかし、髪留めが目立つな・・・」

「ですね、髪色に合ってないんですよ、なので」

と髪留めを外すとそのままカトカに返し、鏡の前の壺に手を伸ばすと、

「これです、詳細は先程話した品なので、これをこっち側に塗りまして、固めます」

「なるほど・・・こういう使い方もできるという事か・・・」

「そうなります」

タロウはそのまま片側のみをなめらかクリームで固めると、

「うん、お洒落ですね、全然違う」

「確かに・・・うん、どうだ、エレイン嬢、少しは違うか」

イフナースがそこでやっと振り向いた、エレインはエッと驚いて腰を上げかけるが、正面からイフナースと目が合ってしまい、顔を赤くして固まってしまう、

「なんだ、駄目か?」

言葉を返せないエレインにイフナースは口をへの字に曲げるが、

「イース様、カッコイイー」

ミナがピョンと飛び跳ねた、

「おっ、そうか?」

「うん、可愛くなったー、あと、綺麗になったー」

「おいおい、それは男に言う褒め言葉ではないぞ」

「えー、でもー、カッコイイーよー、ねー」

ミナが誰彼かまわず同意を得ようとするが、小さく頷く顔はあってもやはり恐れ多いのか言葉を発する者はいない、

「・・・えっと、はい、とてもお似合いです」

しかし、やっとエレインが蚊の鳴くような声で答えた、

「そうか、まぁ、良い、うん、悪くない」

イフナースはそれで満足したのか鏡に向き直り、

「しかしあれだな、確かに少し若返ったような感があるか・・・」

「ですね、まぁ、充分お若いですから、もし兵に舐められるような事があれば、俺のように髪を全部後ろに流してしまうのも良いですよ、そうすると老けて見えます、威圧感も出ますね、若干ですが」

「なるほど・・・確かにそう言っていたな・・・なるほど・・・うん、髪か・・・なるほど、ここまで変わるとは正直思わなかったが・・・悪くは無いな・・・」

「ですね、定期的に手入れが必要になりますが、まぁ・・・月に一度か二度かな?揃えるように切ればそれで充分です、側仕えの方にこの髪型を覚えて貰って、維持するようにするのが最良かと・・・他にも様々な髪型はあります、女性のそれに負けないくらいにね、なので・・・頻繁に変えるのもどうかとは思いますが、お洒落を楽しむという点では重要ですね、先程のように真ん中で分けてあげただけでも違いますし、片側を抑えるだけでも全然違います、ほかにも・・・まぁ、色々試してみて下さい」

「だな・・・うん、いいぞ、気に入った」

どうやらイフナースは満足したらしい、タロウはニヤリと微笑むと、

「で、なんですが、ユーリ気付いたか?」

「何を?」

ユーリは素直に問い返す、ヤレヤレと一息吐いて、隣りのクロノスの頭に苦戦しているソフィアの様子を伺っていた所である、

「形の違い」

「あー、言ってたやつ?そこまでは・・・どうかしら・・・」

「そっか、まずな、失礼しますね、殿下」

とタロウは遠慮なぞ微塵も見せずにイフナースの頭に手を置くと、

「まずね、男性の頭はこう、中央に向かって盛り上がっている・・・人によってはまさにとがっているんだな」

急に学術的な事を言い出したタロウに女性達はエッと驚く、

「触ってみると分かるんだけどね、で、前のこの部分も男の場合は少し盛り上がって感じられる、さらに骨の厚みも実感できると思う、対して女性の場合は全体的になだらかで、後頭部、ここね、ここが膨れている感じかな?丸みを帯びているって表現が適切か・・・つまりね、男女の差はやっぱり頭の形にも表れているって事、男はゴツゴツしていて、女性は柔らかい感じ・・・かな?」

と振り向いた、

「ちょっ・・・いいの?」

「何が?」

「殿下よ」

「あっ・・・」

タロウが鏡越しにイフナースを見ると、イフナースは渋い顔でタロウの手を頭に乗せている、

「・・・よいよい、これも愛馬に足をかけた俺が悪い、なんだ?男の頭に興味があるのか?」

「そうですね、調髪に関してはその頭の形も実は重要でしてね」

タロウは誤魔化し笑いを浮かべ、愛馬に足をかけるとは乗りかかった舟の意だったかなと思いつつ、

「だから、良い機会だから、一つ比べてみよう、さらに言えば個人個人でも結構違うから、ここに、細面の美男子と、無骨なケダモノがいるからね、その二つを比べてみて、その上で君達もお互いの頭の形を比べてみてよ」

と解説を続けた、

「おい」

しかし、今度はクロノスが非難の声を上げる、

「なんだ?」

「その無骨なケダモノとは俺の事か?」

「・・・間違ってないだろ・・・」

「間違ってないな」

「間違ってはいないわね」

「あのなー」

とクロノスが三人を睨もうとした瞬間、

「こら動くな」

ソフィアの一喝がクロノスをピタリと押し留めるのであった。
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