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本編
70話 公爵様を迎えて その2
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「これ、これ、見える?」
「おおっ・・・チッコイなー」
「でしょー」
「へー、魚って卵で増えるんだー」
「そうなのよー」
「知らなかったな・・・」
「ですねー、考えた事も無かったし」
「うん、へー・・・すげー」
「だねー」
水槽の隣りに置いた手桶を覗き込むジャネットとルルである、ミナが自慢気に胸を張り、他の面々はニコニコと朝食を摂りながらその様子を眺めていた、
「タロウがねー、ちゃんとお世話したからだぞーって」
「そうなんだ・・・ミナっちエライ」
「でしょー」
「うん、メダカもなんか大きくなっているような感じがあります」
「そうなのー、ケンコーなんだってー、タロウが言ってたー」
「そっかー、ミナっち凄いなー」
「むふふー、驚いたかー」
「うん、驚いた」
「ですねー」
このやり取りはなんのかんので三度目である、早起き組にあたるオリビアとテラとニコリーネが一回目、次の組となったケイスとサレバとコミンにグルジアとレスタ、そこにソフィアも加わっての二回目、そしてジャネットとルルで三回目であった、ここにエレインとユーリが洗顔を済ませて下りてくれば四回目の同じ景色が繰り返されるであろう、
「今日は朝から元気なんですね」
テラが微笑む、
「そだねー、慣れたんだろうね、雨に・・・」
タロウは白湯を片手にさて今日はどうしたものかと考えつつ答えた、
「そういうもんなんですか?」
「そういうもんだと思うよ、もしくは・・・まぁ、子供だからね、ダルイのは少々あるだろうけど・・・甘えてグダグダしていただけかもしれないし」
「それが正解かしら・・・」
「だね」
大人二人が優しくミナを見つめる、テラの指摘の通りミナは昨日迄の不調はどこへやらと快活で、起きて来た者を捕まえてはキャーキャーと騒がしく、ソフィアから一喝されてやっと食事に取りかかったかと思いきや、こうして三回目の大騒ぎである、ソフィアに怒られるなーと二人は思うも、そのソフィアもまったくと横目に睨んだだけで食事を続けていた、何気に今日の朝食は豪華である、タロウからの助言で昨日作った鳥ガラのスープで小麦粥を作ってみたのだが、これがまた絶品であった、ミナの大騒ぎで二の次になってしまっているが、本来であればこの品が話題の中心になっていた筈である、
「えっと・・・あれですか?このまま育つものなんですか?」
ケイスがそろそろとタロウを伺う、その隣りではサレバとコミンがガツガツと小麦粥を貪っていた、
「ん?あぁ、たぶんね、育つと思うよ」
「えっ、そんな簡単に・・・」
「割と簡単らしいよ、ただ、ほら、ああして別にしてるのはメダカはお馬鹿さんだからね、自分で生んだ卵を餌と勘違いして食べちゃうからなんだな」
「えっ・・・」
「それはまた・・・」
「嫌な話しですね」
ケイスが目を細め、レスタとテラが眉根を寄せる、
「まぁね、あとほら、生まれた子供も小さいからね、大人から見ると餌になっちゃうらしい、あの小さい卵から小さいメダカが出てくるんだけど、そりゃ餌に見えるよね」
タロウがニヤリと微笑むも、
「・・・タロウ・・・」
ソフィアがジロリとタロウを睨む、
「ん?」
タロウがソフィアを伺うと、
「それ、食事時にする話し?」
「・・・あっ・・・駄目か?」
「駄目だわね」
「そっか、まぁ、そんなもんだ」
タロウは苦笑いで誤魔化すが、ケイスとテラは確かになと渋い顔となっており、二人は食事を終えていたが、サレバとコミンはガツガツと続けており、レスタはまぁそういう事もあるだろうなと気にはしていないらしい、食が細いのかゆっくりと楽しんでいるのかレスタの食事は遅いが手が止まる事は無さそうで、タロウは取り合えずまぁいいかとホッと安堵した、
「そうだ、ショウガとニンニクを見せて下さい」
サレバが会話の流れをまるで無視して顔を上げた、すっかりと小麦粥を平らげており、目玉焼きと干し肉の焼き物も胃に収めたようである、そしてとても満足そうな顔であった、
「ん?あっ、そだね、食糧庫に置いてあるよ」
「見てもいいですか?」
「勿論」
「食べてもいいですか?」
「あー・・・生でも食べれるけど・・・気を付けてな、刺激が強いし匂いも強い、少量を舐める程度ならいいと思う、齧ったりしたら駄目だよ、どっちも辛いだけだから」
「えっ、生でもいけるの?あれ?」
ソフィアが意外そうに話しに加わった、テラとケイスもレスタも興味があるのかタロウを見つめている、ニコリーネまでもが顔を上げた、
「うん、少量ならね、醤油・・・こっちで言う魚醤にね、少し混ぜると美味しいんだよな、それで・・・」
とタロウは少し考える、それで刺身を食べると旨いんだと続けてもこの場にいる誰も理解できないだろう、刺身の説明の為に生の魚を食べる事を説明しなければならなくなり、恐らくそこで嫌悪感が先に立つであろうなと考える、極端に魚食が少ない文化にあって、さらに火を通さずにその肉を食べると言ったところで理解される筈も無く、生肉というイメージが先行するとそこに生まれるのは嫌悪と忌避である、こちらの人々は食材に火を通す事を調理する事と考えており、生で食するのは精々野菜であった、それもこれでもかと洗いまくってやっと安心して食している、タロウから見ると野菜の栄養分が損なわれるだろうなーと思える程で、それはそれで正しい事ではあった、主に寄生虫対策である、それでも虫下しを定期的に口にしているのは不衛生である事が第一の問題なのであるが、それは別としてタロウの国の料理でも野菜の無駄な水分を絞ったりして酢の物を作る事がある、タロウはそれを見るたびに流れ出したそれこそを摂取する為の野菜なのではなかろうかと首を捻ったものであった、
「まぁ、あれだ、うん、サレバさんはあれでしょ、育てる方に興味があるんでしょ」
と話題を変えた、
「はい、やらせて下さい、やります」
いつも通りの強気で前向きな言葉である、コミンがまったくもうとサレバを睨む、
「そだね、どっちも比較的に楽・・・な筈・・・問題は気温だね、この辺でもいけるとは思うけど試してみないとな、他に問題があるとすれば転作かな・・・まぁ、それは追々だね」
「はい、やっぱり春になってからですか?」
「そだね、他のも基本的に同じ」
「他の?」
と一同の視線がタロウに集中した、
「そっ、前にも言ったでしょ、いろいろと仕入れて来たって」
「はい、聞いてます、教えて下さい、見せて下さい」
サレバが勢いよく立ち上がった、コミンが慌てて押さえつけようとするが間に合っていない、
「ふふっ、そだね、その内ね」
タロウが厭らしく微笑むと、
「またそれ?」
ソフィアが目を細めた、自分のそれはすっかりと棚に上げている、ユーリの指摘を待つ事も無くソフィアも何気に勿体ぶって他人の反応を楽しむ癖があり、どうやらそれはタロウの影響によるものが大と言って差し支えないであろう、
「そりゃだってさ・・・一度披露しちゃったらあれだぞ、処理が追い付かないぞ」
「処理ってなによ」
「処理は処理だよ、それぞれがそれぞれに持ち味があって良い食材だからね、ちゃんと一つ一つに馴染んでいかないと、まだほら、牛とか豚も食べてないだろ君達は」
「あっ、それもありました」
「だろ、この4種、牛のミルクを合わせれば5種類、それとサレバさんのシナモン、カシアだっけ?それも手つかずだし、あっ、モヤシは良い感じになってるか、他には・・・ヘチマもあったね、あれは食材としてもそこそこだし、何より評判良いしね・・・食材だけでもこんだけあるんだよ、ちゃんと対応しながら・・・と言っても野菜関係は春を待たなきゃだけどさ」
ヘチマのたわしは好評であった、風呂場では勿論、厨房でも遠慮なく皿洗いに使用されており、ソフィアなどはさっさと教えてくれればいいのにとミーンとティルにブー垂れたほどである、
「そう言われたらそうだけど・・・」
「そう言う事、冬はまだまだこれからなんだからゆっくりじっくりいこうよ、で、モヤシの方はどう?」
「はい、順調・・・ですよね?」
とサレバはテラに問うた、商会の地下での栽培は自分はあくまで助手であるとその立場を思い出したのであろう、エレインや他の従業員、特に御婦人方には先生と呼ばれてチヤホヤされていたりもするが、それはサレバとコミンが子供にしか見えず、猫可愛がりされている為で、これはやり過ぎだとサレバですら遠慮するほどであったりする、
「そうですね、隣りの店舗を閉めてますから、その空いた時間で作業してるんですよ」
テラがまったくと微笑みつつ言葉を継いだ、雨の為に店舗営業が出来ない状態が続いている、店を開ける事も可能であるが、売上は見込めないであろう、一部それでも売って欲しいとの声がある事はあったが、それは商会迄は届いていない、特に事務長や生徒達の一部は毎日のように隣りの店舗で何かしら買い込んでは帰宅途中に貪る事が日課になってしまっており、あの店が無いと今一つ調子が出ないと不満を漏らしていた、しかしエレインはこれは丁度良いかしらと御夫人方を動員してモヤシの栽培に力を入れていた、イフナースからの注文もあった為、何気に大々的にやっているのである、御夫人達も偶にはこういう作業も楽しいものだと乗り気であり、若干安く調整されているがしっかりと給金も発生する為店よりこっちが楽で良いと言い出す者もいる程で、地下室も空いた空間が多い為何とかなっている、まだ出荷出来る程には育っていないが、急遽運び込まれた棚やテーブル一面に並べられた栽培用のトレーは中々に壮観なのであった、
「そっか、それは良かった、温度とかは大丈夫?」
「それは気にしてました、昼であれば松明やら人が集まっているから暖かくなっているやらで何とかなっていると思うのですが、そろそろ夜は厳しいですかね?」
「そうだと思うよ・・・うん、だからサビナさんに頼んで陶器板のあれを手配してもらおうかと考えてはいたんだけどね、それにも使いたいし」
「それですか?」
「うん、それ」
タロウの視線の先には水槽があった、ジャネット達はすでに席に着いて美味い美味いと食事を楽しんでおり、ミナもいつの間にやら食事を再開している、落ち着きがないのはいつもの事であるが、今日は特に落ち着きがない、そわそわと階段を気にしているのがまるわかりであった、
「ほら、あれも温かい方が良いだろうからね、卵が孵ったら少しは気をつかわないとな、折角だしね」
「なるほど・・・そうなんですね」
「そうなんです、じゃ、俺は出かけるよ」
とタロウは腰を上げた、エーッとサレバが悲鳴を上げる、他にも野菜があるとタロウは明言しているのだ、不満に思うのも無理は無い、
「ふふっ、まぁ、ゆっくり生姜とにんにくを見ておいてよ、あれは肉料理にも使えるからさ」
「そうなの?」
「そうなんですか?」
ソフィアがタロウを見上げ、サレバがピョンと飛び跳ねた、
「そうだよ、ミーンさんとティルさんには話してあるから、今日はそうだな、鳥肉の生姜焼き?とか、鳥肉のにんにく炒めとか・・・旨いぞ」
「あら、そういうことなら・・・今日は二人に任せようかしら・・・」
ソフィアがふむとそっぽを向いた、
「あー・・・ソフィアさん、怠け癖がついた?」
「ちょ、何よそれ」
「そのまま、やっぱりあれだな、必要だな」
「何がよ」
「寮母検定・・・」
「あっ、あのねー」
とソフィアが叫んだ所に、
「おはようございます」
とエレインがスッキリとした顔で階段を下りて来た、さらに、
「おあよー」
とこっちは顔を洗ってもおらずボリボリと腹をかく実にだらしない姿のユーリがのそりとついて来ている、おはようございますと食堂内の返事が響く中、
「エレイン様ー、メダカー、タマゴー、見てー」
とミナがダダッとエレインの脚に縋りつき、どうやら四回目のそれが始まりそうで、
「あー・・・ミナー、ソフィアに怒られるぞー」
とタロウはミナを茶化しつつ階段を上がるのであった。
「おおっ・・・チッコイなー」
「でしょー」
「へー、魚って卵で増えるんだー」
「そうなのよー」
「知らなかったな・・・」
「ですねー、考えた事も無かったし」
「うん、へー・・・すげー」
「だねー」
水槽の隣りに置いた手桶を覗き込むジャネットとルルである、ミナが自慢気に胸を張り、他の面々はニコニコと朝食を摂りながらその様子を眺めていた、
「タロウがねー、ちゃんとお世話したからだぞーって」
「そうなんだ・・・ミナっちエライ」
「でしょー」
「うん、メダカもなんか大きくなっているような感じがあります」
「そうなのー、ケンコーなんだってー、タロウが言ってたー」
「そっかー、ミナっち凄いなー」
「むふふー、驚いたかー」
「うん、驚いた」
「ですねー」
このやり取りはなんのかんので三度目である、早起き組にあたるオリビアとテラとニコリーネが一回目、次の組となったケイスとサレバとコミンにグルジアとレスタ、そこにソフィアも加わっての二回目、そしてジャネットとルルで三回目であった、ここにエレインとユーリが洗顔を済ませて下りてくれば四回目の同じ景色が繰り返されるであろう、
「今日は朝から元気なんですね」
テラが微笑む、
「そだねー、慣れたんだろうね、雨に・・・」
タロウは白湯を片手にさて今日はどうしたものかと考えつつ答えた、
「そういうもんなんですか?」
「そういうもんだと思うよ、もしくは・・・まぁ、子供だからね、ダルイのは少々あるだろうけど・・・甘えてグダグダしていただけかもしれないし」
「それが正解かしら・・・」
「だね」
大人二人が優しくミナを見つめる、テラの指摘の通りミナは昨日迄の不調はどこへやらと快活で、起きて来た者を捕まえてはキャーキャーと騒がしく、ソフィアから一喝されてやっと食事に取りかかったかと思いきや、こうして三回目の大騒ぎである、ソフィアに怒られるなーと二人は思うも、そのソフィアもまったくと横目に睨んだだけで食事を続けていた、何気に今日の朝食は豪華である、タロウからの助言で昨日作った鳥ガラのスープで小麦粥を作ってみたのだが、これがまた絶品であった、ミナの大騒ぎで二の次になってしまっているが、本来であればこの品が話題の中心になっていた筈である、
「えっと・・・あれですか?このまま育つものなんですか?」
ケイスがそろそろとタロウを伺う、その隣りではサレバとコミンがガツガツと小麦粥を貪っていた、
「ん?あぁ、たぶんね、育つと思うよ」
「えっ、そんな簡単に・・・」
「割と簡単らしいよ、ただ、ほら、ああして別にしてるのはメダカはお馬鹿さんだからね、自分で生んだ卵を餌と勘違いして食べちゃうからなんだな」
「えっ・・・」
「それはまた・・・」
「嫌な話しですね」
ケイスが目を細め、レスタとテラが眉根を寄せる、
「まぁね、あとほら、生まれた子供も小さいからね、大人から見ると餌になっちゃうらしい、あの小さい卵から小さいメダカが出てくるんだけど、そりゃ餌に見えるよね」
タロウがニヤリと微笑むも、
「・・・タロウ・・・」
ソフィアがジロリとタロウを睨む、
「ん?」
タロウがソフィアを伺うと、
「それ、食事時にする話し?」
「・・・あっ・・・駄目か?」
「駄目だわね」
「そっか、まぁ、そんなもんだ」
タロウは苦笑いで誤魔化すが、ケイスとテラは確かになと渋い顔となっており、二人は食事を終えていたが、サレバとコミンはガツガツと続けており、レスタはまぁそういう事もあるだろうなと気にはしていないらしい、食が細いのかゆっくりと楽しんでいるのかレスタの食事は遅いが手が止まる事は無さそうで、タロウは取り合えずまぁいいかとホッと安堵した、
「そうだ、ショウガとニンニクを見せて下さい」
サレバが会話の流れをまるで無視して顔を上げた、すっかりと小麦粥を平らげており、目玉焼きと干し肉の焼き物も胃に収めたようである、そしてとても満足そうな顔であった、
「ん?あっ、そだね、食糧庫に置いてあるよ」
「見てもいいですか?」
「勿論」
「食べてもいいですか?」
「あー・・・生でも食べれるけど・・・気を付けてな、刺激が強いし匂いも強い、少量を舐める程度ならいいと思う、齧ったりしたら駄目だよ、どっちも辛いだけだから」
「えっ、生でもいけるの?あれ?」
ソフィアが意外そうに話しに加わった、テラとケイスもレスタも興味があるのかタロウを見つめている、ニコリーネまでもが顔を上げた、
「うん、少量ならね、醤油・・・こっちで言う魚醤にね、少し混ぜると美味しいんだよな、それで・・・」
とタロウは少し考える、それで刺身を食べると旨いんだと続けてもこの場にいる誰も理解できないだろう、刺身の説明の為に生の魚を食べる事を説明しなければならなくなり、恐らくそこで嫌悪感が先に立つであろうなと考える、極端に魚食が少ない文化にあって、さらに火を通さずにその肉を食べると言ったところで理解される筈も無く、生肉というイメージが先行するとそこに生まれるのは嫌悪と忌避である、こちらの人々は食材に火を通す事を調理する事と考えており、生で食するのは精々野菜であった、それもこれでもかと洗いまくってやっと安心して食している、タロウから見ると野菜の栄養分が損なわれるだろうなーと思える程で、それはそれで正しい事ではあった、主に寄生虫対策である、それでも虫下しを定期的に口にしているのは不衛生である事が第一の問題なのであるが、それは別としてタロウの国の料理でも野菜の無駄な水分を絞ったりして酢の物を作る事がある、タロウはそれを見るたびに流れ出したそれこそを摂取する為の野菜なのではなかろうかと首を捻ったものであった、
「まぁ、あれだ、うん、サレバさんはあれでしょ、育てる方に興味があるんでしょ」
と話題を変えた、
「はい、やらせて下さい、やります」
いつも通りの強気で前向きな言葉である、コミンがまったくもうとサレバを睨む、
「そだね、どっちも比較的に楽・・・な筈・・・問題は気温だね、この辺でもいけるとは思うけど試してみないとな、他に問題があるとすれば転作かな・・・まぁ、それは追々だね」
「はい、やっぱり春になってからですか?」
「そだね、他のも基本的に同じ」
「他の?」
と一同の視線がタロウに集中した、
「そっ、前にも言ったでしょ、いろいろと仕入れて来たって」
「はい、聞いてます、教えて下さい、見せて下さい」
サレバが勢いよく立ち上がった、コミンが慌てて押さえつけようとするが間に合っていない、
「ふふっ、そだね、その内ね」
タロウが厭らしく微笑むと、
「またそれ?」
ソフィアが目を細めた、自分のそれはすっかりと棚に上げている、ユーリの指摘を待つ事も無くソフィアも何気に勿体ぶって他人の反応を楽しむ癖があり、どうやらそれはタロウの影響によるものが大と言って差し支えないであろう、
「そりゃだってさ・・・一度披露しちゃったらあれだぞ、処理が追い付かないぞ」
「処理ってなによ」
「処理は処理だよ、それぞれがそれぞれに持ち味があって良い食材だからね、ちゃんと一つ一つに馴染んでいかないと、まだほら、牛とか豚も食べてないだろ君達は」
「あっ、それもありました」
「だろ、この4種、牛のミルクを合わせれば5種類、それとサレバさんのシナモン、カシアだっけ?それも手つかずだし、あっ、モヤシは良い感じになってるか、他には・・・ヘチマもあったね、あれは食材としてもそこそこだし、何より評判良いしね・・・食材だけでもこんだけあるんだよ、ちゃんと対応しながら・・・と言っても野菜関係は春を待たなきゃだけどさ」
ヘチマのたわしは好評であった、風呂場では勿論、厨房でも遠慮なく皿洗いに使用されており、ソフィアなどはさっさと教えてくれればいいのにとミーンとティルにブー垂れたほどである、
「そう言われたらそうだけど・・・」
「そう言う事、冬はまだまだこれからなんだからゆっくりじっくりいこうよ、で、モヤシの方はどう?」
「はい、順調・・・ですよね?」
とサレバはテラに問うた、商会の地下での栽培は自分はあくまで助手であるとその立場を思い出したのであろう、エレインや他の従業員、特に御婦人方には先生と呼ばれてチヤホヤされていたりもするが、それはサレバとコミンが子供にしか見えず、猫可愛がりされている為で、これはやり過ぎだとサレバですら遠慮するほどであったりする、
「そうですね、隣りの店舗を閉めてますから、その空いた時間で作業してるんですよ」
テラがまったくと微笑みつつ言葉を継いだ、雨の為に店舗営業が出来ない状態が続いている、店を開ける事も可能であるが、売上は見込めないであろう、一部それでも売って欲しいとの声がある事はあったが、それは商会迄は届いていない、特に事務長や生徒達の一部は毎日のように隣りの店舗で何かしら買い込んでは帰宅途中に貪る事が日課になってしまっており、あの店が無いと今一つ調子が出ないと不満を漏らしていた、しかしエレインはこれは丁度良いかしらと御夫人方を動員してモヤシの栽培に力を入れていた、イフナースからの注文もあった為、何気に大々的にやっているのである、御夫人達も偶にはこういう作業も楽しいものだと乗り気であり、若干安く調整されているがしっかりと給金も発生する為店よりこっちが楽で良いと言い出す者もいる程で、地下室も空いた空間が多い為何とかなっている、まだ出荷出来る程には育っていないが、急遽運び込まれた棚やテーブル一面に並べられた栽培用のトレーは中々に壮観なのであった、
「そっか、それは良かった、温度とかは大丈夫?」
「それは気にしてました、昼であれば松明やら人が集まっているから暖かくなっているやらで何とかなっていると思うのですが、そろそろ夜は厳しいですかね?」
「そうだと思うよ・・・うん、だからサビナさんに頼んで陶器板のあれを手配してもらおうかと考えてはいたんだけどね、それにも使いたいし」
「それですか?」
「うん、それ」
タロウの視線の先には水槽があった、ジャネット達はすでに席に着いて美味い美味いと食事を楽しんでおり、ミナもいつの間にやら食事を再開している、落ち着きがないのはいつもの事であるが、今日は特に落ち着きがない、そわそわと階段を気にしているのがまるわかりであった、
「ほら、あれも温かい方が良いだろうからね、卵が孵ったら少しは気をつかわないとな、折角だしね」
「なるほど・・・そうなんですね」
「そうなんです、じゃ、俺は出かけるよ」
とタロウは腰を上げた、エーッとサレバが悲鳴を上げる、他にも野菜があるとタロウは明言しているのだ、不満に思うのも無理は無い、
「ふふっ、まぁ、ゆっくり生姜とにんにくを見ておいてよ、あれは肉料理にも使えるからさ」
「そうなの?」
「そうなんですか?」
ソフィアがタロウを見上げ、サレバがピョンと飛び跳ねた、
「そうだよ、ミーンさんとティルさんには話してあるから、今日はそうだな、鳥肉の生姜焼き?とか、鳥肉のにんにく炒めとか・・・旨いぞ」
「あら、そういうことなら・・・今日は二人に任せようかしら・・・」
ソフィアがふむとそっぽを向いた、
「あー・・・ソフィアさん、怠け癖がついた?」
「ちょ、何よそれ」
「そのまま、やっぱりあれだな、必要だな」
「何がよ」
「寮母検定・・・」
「あっ、あのねー」
とソフィアが叫んだ所に、
「おはようございます」
とエレインがスッキリとした顔で階段を下りて来た、さらに、
「おあよー」
とこっちは顔を洗ってもおらずボリボリと腹をかく実にだらしない姿のユーリがのそりとついて来ている、おはようございますと食堂内の返事が響く中、
「エレイン様ー、メダカー、タマゴー、見てー」
とミナがダダッとエレインの脚に縋りつき、どうやら四回目のそれが始まりそうで、
「あー・・・ミナー、ソフィアに怒られるぞー」
とタロウはミナを茶化しつつ階段を上がるのであった。
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