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本編
69話 お風呂と戦場と その23
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「へー、やっぱりタロウさんも違うんだねー」
「そうなんだよー」
「でもいいよねー、早くやりたいなー」
「ねっ、なんかカッコいいよね」
「うん、御洒落な感じするー」
「そうするのは私達の腕しだいださ」
「そうだね、そうだね、お洒落で上品な感じがいいなー」
ガラス鏡店の裏の店、昨日、タロウとイフナースがシゲシゲと探索したその屋敷の二階に今日は少女達の楽し気な声が響いている、雨は昨日のように午後になっても降り止まず、冷たい冷気が開け放たれた木窓からゆっくりと漂い入り、埃に塗れたその部屋を湿気と共にさらに冷やしていた、しかし、ジャネットら商会の重鎮達はどこ吹く風とまるで気にしていない様子でキャッキャッと活気に満ちている、
「はいはい、で、どうかしら?」
そこへ、三階からエレインとオリビアが下りて来た、昨日あまりにも埃っぽかった為換気の為に窓という窓を開け放って来たのである、
「どうって、面白そうですよ」
「はい、楽しいですー」
アニタとパウラが満面の笑みである、エレインらが合流した所で商会設立時からの六人が揃った事になる、最近では珍しい事でもあった、商会ではカチャーら常勤の従業員が常に誰かしら居り、寮にも新人が入った、さらにテラがエレインの右腕として侍っている為、六人のみで集まる事がまずなかったのである、
「そうね、私もね昨日は久しぶりにウキウキしちゃって・・・」
エレインは柔らかい笑顔を見せた、
「えー、エレインさんがー」
「そうなんだー」
「珍しくない?」
「最近、固い顔しか見てないなー」
「ちょっと、それどういう意味ですの?」
「そのままだよー、深刻な顔でムーって感じでー」
パウラが顔を顰めて眉根を寄せる、
「あー、似てるかもー」
「ねっ、そうだよね」
「そうそうそんな感じー」
「・・・なんですってー」
エレインが四人を睨みつけると、アッハッハと四人は笑いだす、気の置けない友人達の何とも気持ちの良い掛け合いであった、エレインはどこかホッとしてしまう、仕事は万事順調であった、小さな諍いや少々の問題はあるものの、それは大した事ではない、テラやカチャー、マフダといった有能な従業員にも恵まれ、仕事は山積している有様である、誰に感謝するべきかと悩むほどに幸福な状態と言える、しかしながら、やはりこの場にいる仲間達との関係は得難いものであった、こうしてバタバタと忙しくしているのもジャネットの思い付きから始まって、何とかかんとか頑張ってきた成果である、エレインにしてもこの面子は特別なのであった、
「まったく、さて、どうしようかしらね」
エレインはわざとらしく大きな溜息を吐いて席に着いた、オリビアもその隣りに腰を下ろす、六人が囲むテーブルには数枚の黒板が置かれ、それには昨晩タロウから教授された喫茶店と惣菜の案、その後のあれもやりたいこれも出来るとワイワイと騒ぎながら書き付けた取り留めのない文言が並んでいた、
「まずは、キッサテン?」
「そうね、アニタさんとバウラさんは理解出来た?」
「はい、勿論です」
「完璧です」
昨日その場にいなかった二人であるが、学園でジャネットとコソコソと話し込み、話しの大筋はしっかりと頭に入っている、二人もまたそれは素晴らしい店だと乗り気であった、
「そっ、そうなると・・・キッサテンから?」
「そうだね、でね、タロウさんが美味しいお茶が大事って言ってたね」
「それなんだけど、学園のお茶って美味しかったよね、お祭りのやつ」
「うん、美味しかった、あれはお金取れると思う」
「確かに、オリビア、あれってどうなの?なんか違う?」
「違いませんよ、物は変わらないです、淹れ方に一工夫ありますね」
「そうなんだー、全然違ったー」
「うん、学園で飲むからかなー、雰囲気が違うからかなーって思ったけど」
「それもあるだろね」
「あると思う」
「雰囲気かー、大事だねー」
「そうね、だからこの店もその雰囲気を重視する必要があるわよね」
エレインが雨模様を通した頼りない陽光を何とか照り返す室内を見渡した、装飾品と呼ばれる品は全く無い、黒ずんだ木の壁がただ静かに六人を囲っている、木である為寒々しい印象は薄いが、とても美味しく茶を飲める雰囲気では無いように思う、それは室内の寒さも影響していた、本格的な冬になり寒気は陰気を伴うもので、暖炉に火を入れれば少しはマシになるだろうと思うが、今日はそこまでの準備はしていない、
「そだねー、そうなると雰囲気作り?」
「ですわね、やはり明るく楽しい場所でないとお茶も楽しめないでしょ」
「そうなるなー」
ケイスが別の黒板を持ち出して雰囲気作りと書き付ける、昨晩の討論の折、やはり実際の建物を見ないと何とも言えないとジャネット達は結論付け、エレインはそれもそうだとこうして創業者の六人が学園終わりに集まっている、実に素早い対応で、テラはこの腰の軽さが重要なのだよなと傍で見ていて微笑んでしまった、そのテラも出来れば顔を出したかったが、今日の午後からの来客が貴族であった為、こちらの打合せは任せてしまった状態である、また、テラは少女達のこの活力と欲望こそがこの商会の原動力にもなっていると感じていた、ここは変に口を出さず任せてしまうのが良いであろうなと達観しており、どのような結果になるか、それを楽しみにしている節もあった、
「でも、上品なのが良いと思うよ、イフ・・・じゃなかったイース様のお部屋みたいにさ」
「あー、それ分かるー」
「あっ、椅子だ、あの椅子も欲しい」
「そうだねー、あれは違うよねー」
「ブラスさんに頼めばいいんじゃない?どうせ、あれでしょ、改修お願いするんでしょ?」
「そのつもりですね、一緒に頼みましょうか」
「だねだね、あの椅子は病みつきになるよ」
「うん、お尻が痛くならないんだもん凄いよね」
「じゃ、椅子と・・・そっか、改修するんであれば、貴族様風にしちゃいます?」
「それも考えてました、でも、木壁なのよね・・・」
「塗ればいいよ、あっ、お風呂みたいにさ、タイル画とか?」
「何それ?」
「あー、アニタとパウラは見てないかー・・・」
ジャネットが厭らしく微笑む、
「何だよそれー」
「ほら、寮の改築でお風呂が出来てー、その壁にねタイルで絵を描いてるんだよ、ミナっちとニコさんとレインちゃんで、すんごい明るくて可愛いの」
「へー・・・いいなー、見たいなー」
「なら来ればいいよ、ついでにお風呂入っていけば?」
「そんな勝手に決めてー」
「大丈夫だよ、昨日は学園長とかブノワトねーさんも入ったし、あたしらも毎日入ってるし、昨日はシャワーだけだったけど、お陰でほら臭くないんだよー」
ジャネットが胸元をアニタに近づけるが、
「ちょっとジャネット、気持ち悪い」
「あっ、ヒドー、それ酷いー」
「シャワーってなにさ?」
「あのねー」
「はいはい、遊んでないで、でも、タイル画はどうかしら?」
「駄目?」
「うーん・・・あれを見る限り楽しいけど・・・」
「そうですね、厨房とかの壁ならと思います」
「それいいわね」
「はい、一階の感じだと調理しているのが丸見えなので、少しでも清潔に見せたいかなって」
「そだねー、そっか、タイル画だと清潔には見えるね」
「確かに上品かって言われると・・・」
「難しいですね」
「だね、じゃ、タイル画は厨房に・・・するとやっぱりこの部屋とかは塗る?」
「それがいいと思います、ブラスさんと相談しましょう」
「お金かかりそう・・・」
「そこは何とかなりますよ」
「お嬢様、やり過ぎるとテラさんに怒られます」
「そうですけど、今はまだ案出しです、切り詰めるのは後ですわ」
「左様ですか」
「左様だねー、で、雰囲気大事・・・お茶も大事・・・そうだ、料理はどうする?」
「ドーナッツは確定?」
「勿論、あと、ハンバーグ?」
「お茶には合わないよ」
「それもそうか、じゃ、あれだ、ロールケーキ」
「確かに・・・そっか、甘いものがいいのか」
「ワタアメを御洒落に出来ないかな?」
「あー・・・ロールケーキにちょっと乗ってたら可愛くない?」
「それいいね」
「だしょー」
「プリンは絶対でしょ」
「それもあった、そっか、屋台で出す品に限定しなくていいのか」
「そうなるね」
「じゃ、あれだ、あのスペシャルセットだせるんじゃん」
「スペシャルって・・・あぁ、あの全部盛り?」
「うん、あれ」
「冷たいからなー・・・果物も無いし・・・」
「干し果物なら良い感じに店に出始めたよー」
「じゃ、ソース作る?」
「そだねー、干しぶどうのソースとか・・・」
「美味しそー」
「またお高くなるなー」
「それもそうか・・・でも、大量に作ればいいんじゃない?」
と和気藹々と案出しは進んでいく、より具体的な点が取り沙汰され、現時点で出来る事と出来そうな事、やりたい事の方向性が徐々に形となっていった、そして、
「人はどうするの?」
ケイスが最も懸念していた疑問を口にした、タロウが二階にメイドさんを置けばと軽く発言していた事が脳裏を過ぎる、実際に学園祭のメイド科の出し物も大変に好評であったらしい、平民からすれば未熟ながらも若く溌剌としたメイド達から給仕される事に特別感があり、また上質な対応はやはり貴族の雰囲気も楽しめ、さらにグルジアらの蒸しパンとプリンも華を添えた、学園祭二日目には行列が出来る程に混雑していたほどである、
「そうね、そこが重要なのですよ・・・」
エレインは声を一段落として、黒板を見つめる、一同はあらと思ってエレインを伺うと、
「今のところの人員配置としてね・・・アニタさんとパウラさんにこちらの店を任せようかと思ってました」
エレインは神妙な口振りで切り出した、エッと不安そうな視線がエレインに集まる、
「まずね、寮の隣りの店は寮の新人さん達を正式に雇用しようかと思ってました、まだ確認はとってないですけど、皆さん前向きですし・・・今も普通に出入りしてしまってますからね」
エレインはどうかしらと顔を上げる、それぞれに思う所があるのであろうが、誰も口を開く事は無かった、
「で、こちらの店はほら、アニタさん達の寮と近いでしょ?」
「・・・そうですね、はい、近いですね・・・」
アニタがパウラに確認しながら答える、パウラもうんうんと頷いている、確かにアニタ達の寮と近く、エレインらの第二女子寮に行くよりも通い安い立地であったりする、
「だから、あの寮から来てる従業員は丸っとこっちで仕事してもらって、そうなると、オリビアの友人達もここでメイドの仕事が出来るのよね」
「そうですね」
オリビアが静かに頷いた、生徒従業員の中にはオリビアと仲の良い生活科の者もおり、オリビアと相性が良い為か、メイドとして常に気をつかっている為か何とも慇懃でとっつきづらい面々ではあったが、仕事は真面目に熟す優秀な人材であった、
「その上で、そちらの寮で仕事をしたい人?既存の従業員もだけど、新しい人も入れやすいし・・・そういう人もこちらであれば近いしね、より働き安くなるし・・・」
「それは・・・」
「うん、嬉しいかも」
アニタとパウラはそういう事かと理解を示す、アニタらの寮は大人数である為それほど互いに干渉する事は無かったが、やはり仕事をしている者とそうでない者には若干の壁があった、六花商会で雇用を増やせば、寮の全員が仕事に関わる事は難しいであろうが、多少なりともそのやっかみという名の壁が緩和されるかもしれない、
「そうよね、だから、アニタさんとパウラさんにはこちらの店の生徒従業員の管理?勿論全体の管理はテラさんになって、御婦人方の方はまた別の人に頼むんだけどね、御婦人組もこちらの方が通い安い人が多そうだし・・・それはまた別で相談するんだけど、勿論人を増やすことも考えてました、それで・・・まぁ、その形が仕事をしやすいのかなって思っててね」
「なるほどね、良いと思う」
ジャネットがニコリと微笑む、
「あら、ジャネットさんが一番嫌がるかと思ってましたわ」
「そう?でも、向こうの寮でもね、仕事したいって言ってるのは聞いてるしー、私もケイスも最近お店に出てないからね、腕がなまってるからなー」
「そうだねー、お店の仕事忘れちゃったかも」
ケイスもニコリと微笑む、どうやらジャネットと同意見らしい、二人共に経営者として日に幾ばくかの給金を貰っており、それもあってか他の従業員に遠慮して店番は控えているのであった、
「でもそうなると・・・」
ジャネットはニヤリとアニタとパウラを見つめ、
「責任重大だなー、大丈夫かなー」
「なっ、大丈夫よ、私は駄目だけど、パウラがいるし」
「えっ、私?」
「そうよ、あんたがしっかりしてればいいのよ」
「ちょっ、それは駄目、私しっかりしてない」
「うん、知ってる」
「どっちよ」
「どっちもー」
「うわっ、適当だ、エレイン様、こりゃ駄目だ」
「あー・・・そのようね・・・考え直そうかしら・・・」
「えっ、そうなの?」
「良かったー」
「良くないわよ、それまでにしっかりしなさい」
エレインの怒声にえーとアニタとパウラの悲鳴が響き、ジャネットとケイスは遠慮無く笑い声を上げた、エレインもすぐに笑顔を浮かべるとどうやらこの案は受け入れらたらしいと小さく安堵するのであった。
「そうなんだよー」
「でもいいよねー、早くやりたいなー」
「ねっ、なんかカッコいいよね」
「うん、御洒落な感じするー」
「そうするのは私達の腕しだいださ」
「そうだね、そうだね、お洒落で上品な感じがいいなー」
ガラス鏡店の裏の店、昨日、タロウとイフナースがシゲシゲと探索したその屋敷の二階に今日は少女達の楽し気な声が響いている、雨は昨日のように午後になっても降り止まず、冷たい冷気が開け放たれた木窓からゆっくりと漂い入り、埃に塗れたその部屋を湿気と共にさらに冷やしていた、しかし、ジャネットら商会の重鎮達はどこ吹く風とまるで気にしていない様子でキャッキャッと活気に満ちている、
「はいはい、で、どうかしら?」
そこへ、三階からエレインとオリビアが下りて来た、昨日あまりにも埃っぽかった為換気の為に窓という窓を開け放って来たのである、
「どうって、面白そうですよ」
「はい、楽しいですー」
アニタとパウラが満面の笑みである、エレインらが合流した所で商会設立時からの六人が揃った事になる、最近では珍しい事でもあった、商会ではカチャーら常勤の従業員が常に誰かしら居り、寮にも新人が入った、さらにテラがエレインの右腕として侍っている為、六人のみで集まる事がまずなかったのである、
「そうね、私もね昨日は久しぶりにウキウキしちゃって・・・」
エレインは柔らかい笑顔を見せた、
「えー、エレインさんがー」
「そうなんだー」
「珍しくない?」
「最近、固い顔しか見てないなー」
「ちょっと、それどういう意味ですの?」
「そのままだよー、深刻な顔でムーって感じでー」
パウラが顔を顰めて眉根を寄せる、
「あー、似てるかもー」
「ねっ、そうだよね」
「そうそうそんな感じー」
「・・・なんですってー」
エレインが四人を睨みつけると、アッハッハと四人は笑いだす、気の置けない友人達の何とも気持ちの良い掛け合いであった、エレインはどこかホッとしてしまう、仕事は万事順調であった、小さな諍いや少々の問題はあるものの、それは大した事ではない、テラやカチャー、マフダといった有能な従業員にも恵まれ、仕事は山積している有様である、誰に感謝するべきかと悩むほどに幸福な状態と言える、しかしながら、やはりこの場にいる仲間達との関係は得難いものであった、こうしてバタバタと忙しくしているのもジャネットの思い付きから始まって、何とかかんとか頑張ってきた成果である、エレインにしてもこの面子は特別なのであった、
「まったく、さて、どうしようかしらね」
エレインはわざとらしく大きな溜息を吐いて席に着いた、オリビアもその隣りに腰を下ろす、六人が囲むテーブルには数枚の黒板が置かれ、それには昨晩タロウから教授された喫茶店と惣菜の案、その後のあれもやりたいこれも出来るとワイワイと騒ぎながら書き付けた取り留めのない文言が並んでいた、
「まずは、キッサテン?」
「そうね、アニタさんとバウラさんは理解出来た?」
「はい、勿論です」
「完璧です」
昨日その場にいなかった二人であるが、学園でジャネットとコソコソと話し込み、話しの大筋はしっかりと頭に入っている、二人もまたそれは素晴らしい店だと乗り気であった、
「そっ、そうなると・・・キッサテンから?」
「そうだね、でね、タロウさんが美味しいお茶が大事って言ってたね」
「それなんだけど、学園のお茶って美味しかったよね、お祭りのやつ」
「うん、美味しかった、あれはお金取れると思う」
「確かに、オリビア、あれってどうなの?なんか違う?」
「違いませんよ、物は変わらないです、淹れ方に一工夫ありますね」
「そうなんだー、全然違ったー」
「うん、学園で飲むからかなー、雰囲気が違うからかなーって思ったけど」
「それもあるだろね」
「あると思う」
「雰囲気かー、大事だねー」
「そうね、だからこの店もその雰囲気を重視する必要があるわよね」
エレインが雨模様を通した頼りない陽光を何とか照り返す室内を見渡した、装飾品と呼ばれる品は全く無い、黒ずんだ木の壁がただ静かに六人を囲っている、木である為寒々しい印象は薄いが、とても美味しく茶を飲める雰囲気では無いように思う、それは室内の寒さも影響していた、本格的な冬になり寒気は陰気を伴うもので、暖炉に火を入れれば少しはマシになるだろうと思うが、今日はそこまでの準備はしていない、
「そだねー、そうなると雰囲気作り?」
「ですわね、やはり明るく楽しい場所でないとお茶も楽しめないでしょ」
「そうなるなー」
ケイスが別の黒板を持ち出して雰囲気作りと書き付ける、昨晩の討論の折、やはり実際の建物を見ないと何とも言えないとジャネット達は結論付け、エレインはそれもそうだとこうして創業者の六人が学園終わりに集まっている、実に素早い対応で、テラはこの腰の軽さが重要なのだよなと傍で見ていて微笑んでしまった、そのテラも出来れば顔を出したかったが、今日の午後からの来客が貴族であった為、こちらの打合せは任せてしまった状態である、また、テラは少女達のこの活力と欲望こそがこの商会の原動力にもなっていると感じていた、ここは変に口を出さず任せてしまうのが良いであろうなと達観しており、どのような結果になるか、それを楽しみにしている節もあった、
「でも、上品なのが良いと思うよ、イフ・・・じゃなかったイース様のお部屋みたいにさ」
「あー、それ分かるー」
「あっ、椅子だ、あの椅子も欲しい」
「そうだねー、あれは違うよねー」
「ブラスさんに頼めばいいんじゃない?どうせ、あれでしょ、改修お願いするんでしょ?」
「そのつもりですね、一緒に頼みましょうか」
「だねだね、あの椅子は病みつきになるよ」
「うん、お尻が痛くならないんだもん凄いよね」
「じゃ、椅子と・・・そっか、改修するんであれば、貴族様風にしちゃいます?」
「それも考えてました、でも、木壁なのよね・・・」
「塗ればいいよ、あっ、お風呂みたいにさ、タイル画とか?」
「何それ?」
「あー、アニタとパウラは見てないかー・・・」
ジャネットが厭らしく微笑む、
「何だよそれー」
「ほら、寮の改築でお風呂が出来てー、その壁にねタイルで絵を描いてるんだよ、ミナっちとニコさんとレインちゃんで、すんごい明るくて可愛いの」
「へー・・・いいなー、見たいなー」
「なら来ればいいよ、ついでにお風呂入っていけば?」
「そんな勝手に決めてー」
「大丈夫だよ、昨日は学園長とかブノワトねーさんも入ったし、あたしらも毎日入ってるし、昨日はシャワーだけだったけど、お陰でほら臭くないんだよー」
ジャネットが胸元をアニタに近づけるが、
「ちょっとジャネット、気持ち悪い」
「あっ、ヒドー、それ酷いー」
「シャワーってなにさ?」
「あのねー」
「はいはい、遊んでないで、でも、タイル画はどうかしら?」
「駄目?」
「うーん・・・あれを見る限り楽しいけど・・・」
「そうですね、厨房とかの壁ならと思います」
「それいいわね」
「はい、一階の感じだと調理しているのが丸見えなので、少しでも清潔に見せたいかなって」
「そだねー、そっか、タイル画だと清潔には見えるね」
「確かに上品かって言われると・・・」
「難しいですね」
「だね、じゃ、タイル画は厨房に・・・するとやっぱりこの部屋とかは塗る?」
「それがいいと思います、ブラスさんと相談しましょう」
「お金かかりそう・・・」
「そこは何とかなりますよ」
「お嬢様、やり過ぎるとテラさんに怒られます」
「そうですけど、今はまだ案出しです、切り詰めるのは後ですわ」
「左様ですか」
「左様だねー、で、雰囲気大事・・・お茶も大事・・・そうだ、料理はどうする?」
「ドーナッツは確定?」
「勿論、あと、ハンバーグ?」
「お茶には合わないよ」
「それもそうか、じゃ、あれだ、ロールケーキ」
「確かに・・・そっか、甘いものがいいのか」
「ワタアメを御洒落に出来ないかな?」
「あー・・・ロールケーキにちょっと乗ってたら可愛くない?」
「それいいね」
「だしょー」
「プリンは絶対でしょ」
「それもあった、そっか、屋台で出す品に限定しなくていいのか」
「そうなるね」
「じゃ、あれだ、あのスペシャルセットだせるんじゃん」
「スペシャルって・・・あぁ、あの全部盛り?」
「うん、あれ」
「冷たいからなー・・・果物も無いし・・・」
「干し果物なら良い感じに店に出始めたよー」
「じゃ、ソース作る?」
「そだねー、干しぶどうのソースとか・・・」
「美味しそー」
「またお高くなるなー」
「それもそうか・・・でも、大量に作ればいいんじゃない?」
と和気藹々と案出しは進んでいく、より具体的な点が取り沙汰され、現時点で出来る事と出来そうな事、やりたい事の方向性が徐々に形となっていった、そして、
「人はどうするの?」
ケイスが最も懸念していた疑問を口にした、タロウが二階にメイドさんを置けばと軽く発言していた事が脳裏を過ぎる、実際に学園祭のメイド科の出し物も大変に好評であったらしい、平民からすれば未熟ながらも若く溌剌としたメイド達から給仕される事に特別感があり、また上質な対応はやはり貴族の雰囲気も楽しめ、さらにグルジアらの蒸しパンとプリンも華を添えた、学園祭二日目には行列が出来る程に混雑していたほどである、
「そうね、そこが重要なのですよ・・・」
エレインは声を一段落として、黒板を見つめる、一同はあらと思ってエレインを伺うと、
「今のところの人員配置としてね・・・アニタさんとパウラさんにこちらの店を任せようかと思ってました」
エレインは神妙な口振りで切り出した、エッと不安そうな視線がエレインに集まる、
「まずね、寮の隣りの店は寮の新人さん達を正式に雇用しようかと思ってました、まだ確認はとってないですけど、皆さん前向きですし・・・今も普通に出入りしてしまってますからね」
エレインはどうかしらと顔を上げる、それぞれに思う所があるのであろうが、誰も口を開く事は無かった、
「で、こちらの店はほら、アニタさん達の寮と近いでしょ?」
「・・・そうですね、はい、近いですね・・・」
アニタがパウラに確認しながら答える、パウラもうんうんと頷いている、確かにアニタ達の寮と近く、エレインらの第二女子寮に行くよりも通い安い立地であったりする、
「だから、あの寮から来てる従業員は丸っとこっちで仕事してもらって、そうなると、オリビアの友人達もここでメイドの仕事が出来るのよね」
「そうですね」
オリビアが静かに頷いた、生徒従業員の中にはオリビアと仲の良い生活科の者もおり、オリビアと相性が良い為か、メイドとして常に気をつかっている為か何とも慇懃でとっつきづらい面々ではあったが、仕事は真面目に熟す優秀な人材であった、
「その上で、そちらの寮で仕事をしたい人?既存の従業員もだけど、新しい人も入れやすいし・・・そういう人もこちらであれば近いしね、より働き安くなるし・・・」
「それは・・・」
「うん、嬉しいかも」
アニタとパウラはそういう事かと理解を示す、アニタらの寮は大人数である為それほど互いに干渉する事は無かったが、やはり仕事をしている者とそうでない者には若干の壁があった、六花商会で雇用を増やせば、寮の全員が仕事に関わる事は難しいであろうが、多少なりともそのやっかみという名の壁が緩和されるかもしれない、
「そうよね、だから、アニタさんとパウラさんにはこちらの店の生徒従業員の管理?勿論全体の管理はテラさんになって、御婦人方の方はまた別の人に頼むんだけどね、御婦人組もこちらの方が通い安い人が多そうだし・・・それはまた別で相談するんだけど、勿論人を増やすことも考えてました、それで・・・まぁ、その形が仕事をしやすいのかなって思っててね」
「なるほどね、良いと思う」
ジャネットがニコリと微笑む、
「あら、ジャネットさんが一番嫌がるかと思ってましたわ」
「そう?でも、向こうの寮でもね、仕事したいって言ってるのは聞いてるしー、私もケイスも最近お店に出てないからね、腕がなまってるからなー」
「そうだねー、お店の仕事忘れちゃったかも」
ケイスもニコリと微笑む、どうやらジャネットと同意見らしい、二人共に経営者として日に幾ばくかの給金を貰っており、それもあってか他の従業員に遠慮して店番は控えているのであった、
「でもそうなると・・・」
ジャネットはニヤリとアニタとパウラを見つめ、
「責任重大だなー、大丈夫かなー」
「なっ、大丈夫よ、私は駄目だけど、パウラがいるし」
「えっ、私?」
「そうよ、あんたがしっかりしてればいいのよ」
「ちょっ、それは駄目、私しっかりしてない」
「うん、知ってる」
「どっちよ」
「どっちもー」
「うわっ、適当だ、エレイン様、こりゃ駄目だ」
「あー・・・そのようね・・・考え直そうかしら・・・」
「えっ、そうなの?」
「良かったー」
「良くないわよ、それまでにしっかりしなさい」
エレインの怒声にえーとアニタとパウラの悲鳴が響き、ジャネットとケイスは遠慮無く笑い声を上げた、エレインもすぐに笑顔を浮かべるとどうやらこの案は受け入れらたらしいと小さく安堵するのであった。
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