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本編
69話 お風呂と戦場と その20
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「すると、あれか、茶会を街中で楽しむ感じか?」
タロウが説明を終えると、イフナースが口を開いた、厨房で片付をしていたソフィアとティルがいつの間にやら食堂に戻っており、ティルは若干不安そうに席に着いている、ニコリーネと同じくイフナースの手前どうしたものかと落ち着かないのであろう、
「そうですね、なので・・・例えばだけどジャネットさんね、学園が終わった後で友達とゆっくりだべりたいって事ない?」
「あります、大好きです」
ジャネットが若干興奮して大声となった、タロウの言う喫茶店の説明にこれこそが求めていたものだと顔を輝かせ、それはケイスやエレインも同様で、テラはなるほど面白いかもなと思考を巡らせる、グルジアもまたこれは受けるかもなと感心していた、
「だよねー、他にもほら、仕事を終えて一息吐きたい時とか、街中・・・市場かな?で仲の良い人にあった時とかに、じゃ、どっかで話すかって事とかさ」
タロウがどうやら真意は伝わったらしいと笑顔を見せる、カトカやサビナもなるほどいいかもなと笑顔を見せ、アフラは便利そうだなと想像していた、
「ですね、ですね、毎日行きます」
ジャネットの快活な言葉にうんうんと頷く顔が幾つかあった、
「それはそれ、財布と相談になるだろうけどさ、でね、この商業形態、業態って呼ぶけどね、それがこの時間帯には合っていると思うのよ」
と先程の半円をコツコツと白墨で叩く、
「確かに・・・合いますね・・・」
テラが小さく呟いた、
「でしょ、商品的にも隣りの店舗の物と、もう少し複雑な物?ガラス鏡の店のチーズケーキとかも出せるし、それに合うお茶とかね」
「はい、食べたいです」
サレバがジャネットに負けじと声を上げた、新入生組はイフナースの存在もありニコリーネに負けないくらい小さくなっていたが、どうやらその緊張がやっと解けたらしい、
「でしょう・・・ただ・・・」
とタロウは振り返ると、
「さらにね、エレインさんの案も入れたいんだな・・・」
と声を一段落とした、どういう事かと一同は小首を傾げる、エレインは、
「えっと、それはほら、あくまでその・・・」
と思わず遠慮がちに声を上げてしまった、
「いや、そこ大事、でね、世の奥様方と独身男性に向けた商品ってのもある」
「奥様と独身男性?」
ユーリが思わず問い返した、どう聞いても相反する単語である、
「うん、奥様方と独身男性」
「そりゃまた妙な取り合わせだな」
イフナースも眉を顰めた、
「そうですか?でも、実は簡単でしてね、例えば・・・うん、君達が好きな揚げ物、油料理だね、それとかホワイトシチューとかそういうのを店で買って家で食べられるとしたらどう?」
タロウの質問に一同は、ん?と疑問符を顔に浮かべる、しかしすぐに、
「あっ、それいいですね」
とサビナが反応し、
「はい、嬉しいかもです」
カトカも同調した、
「そういう事、俺が知る限りだと街中の店ってそのお店では食べれるけど、持ち帰れないでしょ」
「あっ、そういう事ですか・・・」
さらにゾーイが理解したらしく、アフラもなるほどと頷く、
「俺の国だと惣菜って呼んでたかな、店で買って自宅で食べる?パンとかはそれが普通でしょ、でも、スープとか揚げ物とかでそういう形態のお店ってないんじゃないかな?」
「・・・確かに・・・」
「聞いた事ないですね・・・」
「うん、屋台の串焼きとかは持ち帰るけど・・・」
「あれはだって食べ歩き用だよね」
「うん、そんな感じ」
ザワザワと騒がしくなる、
「そうか、それで奥様方と独身男性か」
イフナースがフンと鼻で笑う、
「そういう事です、まぁ、独身女性も勿論含まれるんですが、恐らく買っていくのは料理なんぞしない出来ないやる気の無い男共が多くて、で、奥様方にはちょっと手を抜きたい日とか、少し贅沢したいなーって日に買ってもらう?そんな感じになるでしょうね」
「それいいわね」
ソフィアが珍しく口を開いた、主婦としては実にありがたい言葉なのであろう、
「だろ」
タロウがニヤリと微笑む、
「それはあれですか?蒸しパンとかでもですか?」
「勿論、蒸しパンもいいだろうね、他にはなんだろ、確か餃子も教えたんだっけか・・・あっ、じゃあ、あれだ、半調理品とかもいいかもね」
「何それ?」
「これは簡単、買って帰って家で焼く?もしくは煮る?餃子はほら、言わば薄いパンに包まれていた料理だからね、焼く前の状態で売って、家に帰って調理する、だから半調理品」
アーっと納得の静かな嬌声が食堂に響いた、
「これは奥様達用だよね、餃子もだし・・・なんだろ、揚げ物は難しいから、うどんかな、君らで言うシロメン?家で茹でれば食べられる感じ」
「それは受けます」
「でしょー、で、そういった惣菜とか半調理品、それをこの午後から売り出す」
タロウは半円の外側に頂点から終点まで線を書き足した、
「市場帰りの奥様とか、仕事帰りの独身者狙いだね、この店で惣菜を買って、で、パンを買って帰れば家で夕食を済ませられるだろ、多分だけど店で食べるよりか安く・・・なるかどうかは値付け次第かな?」
「えっと、その容器とかはどうするんですか?」
「それも簡単でね、丁度良い鍋とか壺とかを売ればいいよ、一人用とか家族用とかで、で、次来るときはそれを持ってきてもらって、それに入れて料理だけの値段を貰う、勿論家から持って来た鍋とかでもいいと思うしね、ようはそういう習慣に慣れて貰う事、そうすると毎日のように固定客が付くだろうね」
タロウが何とも簡単に答えると、オーッと小さな歓声が響き、
「確かに・・・」
「でも、鍋を持ち歩くの?」
「それはシチューの時だけでしょ」
「揚げ物だったら藁箱でいけるよね」
「うん、それと蒸しパンも」
「ハンバーグは難しそう」
「それは薄パンで挟むしかないかも」
「固定客って魅力的な名前だねー」
「それは一番大事ですよ」
商会の重鎮達が騒ぎ始め、
「便利そうですね」
「うん、そうだよね、部屋で食べたいよね」
「確かに、今でこそこっちでやっかいになってますけど、本来は」
「宿舎で食べなきゃだしね」
「近くの食堂も飽きるんだよなー」
「そうなんですか?」
とカトカとサビナとゾーイも真剣な瞳である、三人は宿舎住まいである、本来であれば共同炊事場や近くの食堂で食事を済ませるのが当然であった、やはり食事は生活の中でも最重要事である、それは日々の活力源である事は勿論の事、楽しみの一つであった、それが気軽に手の込んだ料理を自宅で楽しめるとなれば、画期的な事と女性達は受け止めたらしい、
「しかし、それがエレイン嬢のあれとどう関わる?」
イフナースが不思議そうに問い質す、途端に食堂は静まり返ってしまった、
「はい、奥様の手間を省く・・・これ大事です」
タロウが端的に答えると、
「確かにねー、少しは、楽になるかもね」
ソフィアが少しはを強調してのほほんと微笑んだ、
「だろ?夕飯の手間が半分か無しになるんだぜ、例えそれが数日に一度の贅沢だとしても、これは精神的にも肉体的にも一息吐けると思うよ、だって油料理なんて家で調理しないでしょ、扱いは難しいし慣れるまでが大変、火事の心配もある、何より油は高価だからね、だから、買って帰るのが当たり前になるかもしれないし、そうなると・・・あっ、お父さんがね、給料日の日とかに買って帰るとか、そういう楽しみもできるだろうね」
「そういう意味か・・・」
「そういう意味です」
イフナースは今一つ納得できないまでも理解したフリをし、タロウがニコリと微笑む、
「まぁ、現時点で、あくまで住み込みの従業員がいない事を前提にして案を出してみた感じです、他にも細かい点、例えば喫茶店に関しては一階で買って、二階で食べる?で、二階にはメイドさんを二人くらいかな?配置すればメイドさんの給仕も楽しめる?ちょっとした贅沢感が出るでしょ、他には雑貨屋は勿論だし、朝の商売を切り捨てて住み込みの従業員を考えなければ三階を託児所にもできるよね」
「タクジショ?」
「子供を預けて置ける場所、これもエレインさんとしては重要な点だよね、もし商売にしようとするならもう少し大きい所じゃないと駄目だと思うけど、従業員さんだけに絞れば三階のこの部屋は託児所として充分な広さがあると思うよ」
「そう思われますか?」
エレインが不安そうにタロウを伺う、エレインは自身が思いついていた子供を預かるという仕組みについて懐疑的であった、今日はなんとはなしに口にしてしまっていたが、以前に従業員に確認した時もその賛否は別れている、商売云々は抜きにして幼児を他人に預けるという行為についてどうしても不安感が先に立つのである、
「うん、俺の国では普通にあったよ」
「えっ、そうなんですか?」
エレインは目を丸くし、他の面々も言葉も無い様子である、
「そうだね、でも、あまりに小さい子供は無理だったかな?それも場所によるのかな?詳しく無いんだけどもさ、それでもね、普通に子供を預けてお仕事して、でお仕事帰りに子供と一緒に家に帰るってのはよくあるみたいよ」
「すごい・・・」
「うん、なんかカッコイイね、そういうの」
「そう?但し、ちゃんと専属の職員さんというのかな?子供の世話をする人はいて、そうなるとある程度子供の数が集まらないと費用に大して効果が薄い?職員さんも職員さんで給料が発生するからね、大事な仕事だしね、その兼ね合いが大変だと思う」
「そこですね」
テラが神妙に頷く、エレインの意見には賛同しているテラであったが、実際に運用するとなると人件費が問題になるであろうと考えていた、たかだか4・5人の子供を預かる為に大人を一人雇うのである、そこまでする必要があるのかと、そこまでして利益をだせるのかが問題であろう、
「そうだね、それとただ預かっているだけではね、その間に簡単な勉強も必要に思うし、絶対にほら、泣き出しちゃうし喧嘩にもなるだろうね、バタバタとうるさいし・・・」
タロウはチラリとミナを伺う、妙に静かだなと思っていたらミナは見事に寝息を立てていた、寝台の中心で大の字になっておりレインがなんとも窮屈そうに端に追いやられている、それはいつもの光景ではあったが、
「そうですね・・・」
「だから」
タロウはニコリと微笑むと、
「フィロメナさんの経験が欲しいかなって」
「フィロメナさんですか?」
「うん、怖くてうるさい方?」
「またそんな言い方をして・・・」
「アッハッハ、まぁ、ほら、それで分かるんだからエレインさんもそう見てるって事でしょ、王都で孤児院の世話係?だか後援だかをしているらしいからね、その知恵を借りるか、子供を相手にしている人を紹介してもらうか、いづれにしても折角の縁だしね、学園長には悪いけど老人の知恵を頼るのも大事だよ」
タロウがニヤニヤとエレインを伺い、エレインは確かにそうかもしれないと頷いた、
「なによりね、人ってやつは頼られると嬉しいものでね、特に老人はそれが顕著だよ」
「・・・その、あまり老人である事を協調するのは・・・」
「あっ、失礼だね、ま、こんな所かな・・・まとめるとー」
タロウは黒板に向き直り、カッカッと子気味よく白墨を鳴らす、
「そこそこ興味深いな・・・」
イフナースはフンと鼻を鳴らした、期待した程では無かったが、なるほどタロウの案はそれなりに見所があると思えた、どうにも女性側に立った意見が多いと感じられ、それは相手がそうであるからかと納得する、
「そうですね、パトリシア様にも報告しておきます」
「頼む」
イフナースはさてもう少し話しがしたいかなとタロウを睨み、タロウはこんなもんかなと振り返ると、
「以上だね、後は皆さんでどうぞ」
ニコリと微笑み白墨を置くのであった。
タロウが説明を終えると、イフナースが口を開いた、厨房で片付をしていたソフィアとティルがいつの間にやら食堂に戻っており、ティルは若干不安そうに席に着いている、ニコリーネと同じくイフナースの手前どうしたものかと落ち着かないのであろう、
「そうですね、なので・・・例えばだけどジャネットさんね、学園が終わった後で友達とゆっくりだべりたいって事ない?」
「あります、大好きです」
ジャネットが若干興奮して大声となった、タロウの言う喫茶店の説明にこれこそが求めていたものだと顔を輝かせ、それはケイスやエレインも同様で、テラはなるほど面白いかもなと思考を巡らせる、グルジアもまたこれは受けるかもなと感心していた、
「だよねー、他にもほら、仕事を終えて一息吐きたい時とか、街中・・・市場かな?で仲の良い人にあった時とかに、じゃ、どっかで話すかって事とかさ」
タロウがどうやら真意は伝わったらしいと笑顔を見せる、カトカやサビナもなるほどいいかもなと笑顔を見せ、アフラは便利そうだなと想像していた、
「ですね、ですね、毎日行きます」
ジャネットの快活な言葉にうんうんと頷く顔が幾つかあった、
「それはそれ、財布と相談になるだろうけどさ、でね、この商業形態、業態って呼ぶけどね、それがこの時間帯には合っていると思うのよ」
と先程の半円をコツコツと白墨で叩く、
「確かに・・・合いますね・・・」
テラが小さく呟いた、
「でしょ、商品的にも隣りの店舗の物と、もう少し複雑な物?ガラス鏡の店のチーズケーキとかも出せるし、それに合うお茶とかね」
「はい、食べたいです」
サレバがジャネットに負けじと声を上げた、新入生組はイフナースの存在もありニコリーネに負けないくらい小さくなっていたが、どうやらその緊張がやっと解けたらしい、
「でしょう・・・ただ・・・」
とタロウは振り返ると、
「さらにね、エレインさんの案も入れたいんだな・・・」
と声を一段落とした、どういう事かと一同は小首を傾げる、エレインは、
「えっと、それはほら、あくまでその・・・」
と思わず遠慮がちに声を上げてしまった、
「いや、そこ大事、でね、世の奥様方と独身男性に向けた商品ってのもある」
「奥様と独身男性?」
ユーリが思わず問い返した、どう聞いても相反する単語である、
「うん、奥様方と独身男性」
「そりゃまた妙な取り合わせだな」
イフナースも眉を顰めた、
「そうですか?でも、実は簡単でしてね、例えば・・・うん、君達が好きな揚げ物、油料理だね、それとかホワイトシチューとかそういうのを店で買って家で食べられるとしたらどう?」
タロウの質問に一同は、ん?と疑問符を顔に浮かべる、しかしすぐに、
「あっ、それいいですね」
とサビナが反応し、
「はい、嬉しいかもです」
カトカも同調した、
「そういう事、俺が知る限りだと街中の店ってそのお店では食べれるけど、持ち帰れないでしょ」
「あっ、そういう事ですか・・・」
さらにゾーイが理解したらしく、アフラもなるほどと頷く、
「俺の国だと惣菜って呼んでたかな、店で買って自宅で食べる?パンとかはそれが普通でしょ、でも、スープとか揚げ物とかでそういう形態のお店ってないんじゃないかな?」
「・・・確かに・・・」
「聞いた事ないですね・・・」
「うん、屋台の串焼きとかは持ち帰るけど・・・」
「あれはだって食べ歩き用だよね」
「うん、そんな感じ」
ザワザワと騒がしくなる、
「そうか、それで奥様方と独身男性か」
イフナースがフンと鼻で笑う、
「そういう事です、まぁ、独身女性も勿論含まれるんですが、恐らく買っていくのは料理なんぞしない出来ないやる気の無い男共が多くて、で、奥様方にはちょっと手を抜きたい日とか、少し贅沢したいなーって日に買ってもらう?そんな感じになるでしょうね」
「それいいわね」
ソフィアが珍しく口を開いた、主婦としては実にありがたい言葉なのであろう、
「だろ」
タロウがニヤリと微笑む、
「それはあれですか?蒸しパンとかでもですか?」
「勿論、蒸しパンもいいだろうね、他にはなんだろ、確か餃子も教えたんだっけか・・・あっ、じゃあ、あれだ、半調理品とかもいいかもね」
「何それ?」
「これは簡単、買って帰って家で焼く?もしくは煮る?餃子はほら、言わば薄いパンに包まれていた料理だからね、焼く前の状態で売って、家に帰って調理する、だから半調理品」
アーっと納得の静かな嬌声が食堂に響いた、
「これは奥様達用だよね、餃子もだし・・・なんだろ、揚げ物は難しいから、うどんかな、君らで言うシロメン?家で茹でれば食べられる感じ」
「それは受けます」
「でしょー、で、そういった惣菜とか半調理品、それをこの午後から売り出す」
タロウは半円の外側に頂点から終点まで線を書き足した、
「市場帰りの奥様とか、仕事帰りの独身者狙いだね、この店で惣菜を買って、で、パンを買って帰れば家で夕食を済ませられるだろ、多分だけど店で食べるよりか安く・・・なるかどうかは値付け次第かな?」
「えっと、その容器とかはどうするんですか?」
「それも簡単でね、丁度良い鍋とか壺とかを売ればいいよ、一人用とか家族用とかで、で、次来るときはそれを持ってきてもらって、それに入れて料理だけの値段を貰う、勿論家から持って来た鍋とかでもいいと思うしね、ようはそういう習慣に慣れて貰う事、そうすると毎日のように固定客が付くだろうね」
タロウが何とも簡単に答えると、オーッと小さな歓声が響き、
「確かに・・・」
「でも、鍋を持ち歩くの?」
「それはシチューの時だけでしょ」
「揚げ物だったら藁箱でいけるよね」
「うん、それと蒸しパンも」
「ハンバーグは難しそう」
「それは薄パンで挟むしかないかも」
「固定客って魅力的な名前だねー」
「それは一番大事ですよ」
商会の重鎮達が騒ぎ始め、
「便利そうですね」
「うん、そうだよね、部屋で食べたいよね」
「確かに、今でこそこっちでやっかいになってますけど、本来は」
「宿舎で食べなきゃだしね」
「近くの食堂も飽きるんだよなー」
「そうなんですか?」
とカトカとサビナとゾーイも真剣な瞳である、三人は宿舎住まいである、本来であれば共同炊事場や近くの食堂で食事を済ませるのが当然であった、やはり食事は生活の中でも最重要事である、それは日々の活力源である事は勿論の事、楽しみの一つであった、それが気軽に手の込んだ料理を自宅で楽しめるとなれば、画期的な事と女性達は受け止めたらしい、
「しかし、それがエレイン嬢のあれとどう関わる?」
イフナースが不思議そうに問い質す、途端に食堂は静まり返ってしまった、
「はい、奥様の手間を省く・・・これ大事です」
タロウが端的に答えると、
「確かにねー、少しは、楽になるかもね」
ソフィアが少しはを強調してのほほんと微笑んだ、
「だろ?夕飯の手間が半分か無しになるんだぜ、例えそれが数日に一度の贅沢だとしても、これは精神的にも肉体的にも一息吐けると思うよ、だって油料理なんて家で調理しないでしょ、扱いは難しいし慣れるまでが大変、火事の心配もある、何より油は高価だからね、だから、買って帰るのが当たり前になるかもしれないし、そうなると・・・あっ、お父さんがね、給料日の日とかに買って帰るとか、そういう楽しみもできるだろうね」
「そういう意味か・・・」
「そういう意味です」
イフナースは今一つ納得できないまでも理解したフリをし、タロウがニコリと微笑む、
「まぁ、現時点で、あくまで住み込みの従業員がいない事を前提にして案を出してみた感じです、他にも細かい点、例えば喫茶店に関しては一階で買って、二階で食べる?で、二階にはメイドさんを二人くらいかな?配置すればメイドさんの給仕も楽しめる?ちょっとした贅沢感が出るでしょ、他には雑貨屋は勿論だし、朝の商売を切り捨てて住み込みの従業員を考えなければ三階を託児所にもできるよね」
「タクジショ?」
「子供を預けて置ける場所、これもエレインさんとしては重要な点だよね、もし商売にしようとするならもう少し大きい所じゃないと駄目だと思うけど、従業員さんだけに絞れば三階のこの部屋は託児所として充分な広さがあると思うよ」
「そう思われますか?」
エレインが不安そうにタロウを伺う、エレインは自身が思いついていた子供を預かるという仕組みについて懐疑的であった、今日はなんとはなしに口にしてしまっていたが、以前に従業員に確認した時もその賛否は別れている、商売云々は抜きにして幼児を他人に預けるという行為についてどうしても不安感が先に立つのである、
「うん、俺の国では普通にあったよ」
「えっ、そうなんですか?」
エレインは目を丸くし、他の面々も言葉も無い様子である、
「そうだね、でも、あまりに小さい子供は無理だったかな?それも場所によるのかな?詳しく無いんだけどもさ、それでもね、普通に子供を預けてお仕事して、でお仕事帰りに子供と一緒に家に帰るってのはよくあるみたいよ」
「すごい・・・」
「うん、なんかカッコイイね、そういうの」
「そう?但し、ちゃんと専属の職員さんというのかな?子供の世話をする人はいて、そうなるとある程度子供の数が集まらないと費用に大して効果が薄い?職員さんも職員さんで給料が発生するからね、大事な仕事だしね、その兼ね合いが大変だと思う」
「そこですね」
テラが神妙に頷く、エレインの意見には賛同しているテラであったが、実際に運用するとなると人件費が問題になるであろうと考えていた、たかだか4・5人の子供を預かる為に大人を一人雇うのである、そこまでする必要があるのかと、そこまでして利益をだせるのかが問題であろう、
「そうだね、それとただ預かっているだけではね、その間に簡単な勉強も必要に思うし、絶対にほら、泣き出しちゃうし喧嘩にもなるだろうね、バタバタとうるさいし・・・」
タロウはチラリとミナを伺う、妙に静かだなと思っていたらミナは見事に寝息を立てていた、寝台の中心で大の字になっておりレインがなんとも窮屈そうに端に追いやられている、それはいつもの光景ではあったが、
「そうですね・・・」
「だから」
タロウはニコリと微笑むと、
「フィロメナさんの経験が欲しいかなって」
「フィロメナさんですか?」
「うん、怖くてうるさい方?」
「またそんな言い方をして・・・」
「アッハッハ、まぁ、ほら、それで分かるんだからエレインさんもそう見てるって事でしょ、王都で孤児院の世話係?だか後援だかをしているらしいからね、その知恵を借りるか、子供を相手にしている人を紹介してもらうか、いづれにしても折角の縁だしね、学園長には悪いけど老人の知恵を頼るのも大事だよ」
タロウがニヤニヤとエレインを伺い、エレインは確かにそうかもしれないと頷いた、
「なによりね、人ってやつは頼られると嬉しいものでね、特に老人はそれが顕著だよ」
「・・・その、あまり老人である事を協調するのは・・・」
「あっ、失礼だね、ま、こんな所かな・・・まとめるとー」
タロウは黒板に向き直り、カッカッと子気味よく白墨を鳴らす、
「そこそこ興味深いな・・・」
イフナースはフンと鼻を鳴らした、期待した程では無かったが、なるほどタロウの案はそれなりに見所があると思えた、どうにも女性側に立った意見が多いと感じられ、それは相手がそうであるからかと納得する、
「そうですね、パトリシア様にも報告しておきます」
「頼む」
イフナースはさてもう少し話しがしたいかなとタロウを睨み、タロウはこんなもんかなと振り返ると、
「以上だね、後は皆さんでどうぞ」
ニコリと微笑み白墨を置くのであった。
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