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本編
69話 お風呂と戦場と その3
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「それで、どういう事なのだ」
レアンはジッと対面するソフィアとユーリを睨みつけ、ユスティーナとマルヘリートはまったくもうと困り顔である、レアンの背後に立つライニールも渋い顔であった、ミナはブーとつまらなそうに寝台の上でゴロゴロしながら成り行きを見つめており、レインは我関せずと知らんぷりである、
「どういうと言われてもねー」
ユーリはどうしたものかと斜め上を見上げて右頬をかいた、今日は朝から学園に向かい、学園祭の片付やら学園長との打合せやらだなーと仕事を始めようとした瞬間にカトカが呼びに来て、ソフィアに事情を聞くに至り、まぁ、レアンお嬢様が怒るのも無理はないかなと思ってしまう、
「そうねー・・・」
ソフィアは結局自分は韜晦する事とした、こういうめんどくさい事はユーリにぶん投げるのが一番である、クロノスとの関係を正直に説明する事は、自分の出自と正体を明かす事に繋がる、それは避けたいとソフィアは考えており、ユーリも同意見で、故にレアンに説明する事はその大半が嘘になるであろう、そして嘘というものは往々にして綻びやすく、壊れやすい、嘘を吐くのは馬鹿のやる事と子供の頃から躾けられているが、それは単に馬鹿は簡単に嘘を弄し、その嘘を低能ゆえに維持できないからである、賢い者の使う嘘は硬く含蓄があり有用で、故にそれは方便として語り継がれたりもする、何と都合の良い概念であろうか、
「まったく、何故教えてくれなかったのだ、クロノス殿下にウルジュラ王妃様ですぞ、どれだけの非礼があったかを考えると背筋が寒くなる、クレオノート家は田舎の伯爵家と馬鹿にされるのは構わない、しかし、王族や公爵家に対する礼儀は弁えておる、知っていればこそ、出来たこともあろう」
レアンは噴飯やるかたなしと声を荒げた、而してその言い分を聞くに、どうやら王族との不仲を根源とした怒りでは無く、王族との接触があったにも関わらず何もしていないばかりかまともな礼儀も尽くしていないと、友好的な関係を構築できなかった事を悔んでいるように聞こえた、ユーリはあら・・・と思い、ユスティーナとライニールの様子を伺う、二人は困り顔である事はそのままであったが、特にレアンの意見に反対する事はないらしい、ユーリとしてはまず王族とかつてのアイセル地方の各領主とのわだかまりこそを問題と思ったのである、その方向に話しが向いた場合、事と次第によっては折角築いたレアンやユスティーナとの関係も崩れてしまいかねず、かと言って見事なまでに政治の話しであって、平民である一講師や一寮母がどうこうできる事では無い、ユーリとしてはソフィアに一任されつつもさてどうやって誤魔化そうかと思案しており、どうやらそれは最も穏便な策を選択する事で収まりそうだなと内心で小さく安堵した、出来るだけ話しを大きくせず、まして政治を絡めないようにすればレアンの憤りもある程度収まりそうである、
「そう・・・ですね・・・あー・・・」
しかしユーリは難しそうに首を捻り、悩む振りをする、レアンはその様子をジッと見つめ、他の三人は申し訳なさそうに押し黙った、
「まずは・・・そうですね、私の事から、ソフィアもそうなんですが、冒険者であった事は以前お話ししましたよね」
「うむ、聞いておる、同じ村の出自で二人で村を出たのであったな」
「その通りです、で、ヘルデルを中心に動いていたのですが、先の大戦が本格的になってきました、そして私達は傭兵では無かったのですが、冒険者として軍に雇われまして」
「それも聞いておる、冒険者の採用はかの大戦の大きな転換だったとマリレーナ先生にも聞いておる」
マリレーナとはクレオノート家の住み込み家庭教師である、つまりレアンの恩師であった、
「しっかり勉強なされておりますね」
ユーリはニコリと微笑み、レアンは当然だとばかりに鼻息を荒くした、
「まぁ、簡単に言えばそこでクロノス・・・当時はクロノス・スイランズと名乗っておりましたが、ほら、演劇等で没落しただの冒険者だっただのと取り沙汰されるでしょ、それは全くの真実でして、その時のクロノスと知り合いましてね」
「・・・そうなのか?」
「そうなんです、で、何とかかんとか戦争は終わりまして、クロノスは魔王を倒し、私もソフィアもタロウも何とかかんとか生き延びて・・・その後ですね、クロノスがあれよあれよという間に王妃様と結婚してしまって、で、私はそのままクロノスに雇われまして、ソフィアとタロウは旅に出た・・・そんな感じです」
「つまりあれか、冒険者時代からの友誼というわけか」
レアンが若干落ち着いたようで再確認し、ユスティーナやマルヘリートもなるほどと納得している、ここまでに嘘があるとすればユーリ達三人が消えた英雄と呼ばれる五人の内の三人である事くらいで、それも嘘では無く言葉にしていないだけである、騙しているのではなく隠蔽しているだけであった、
「そうなりますね、で、私はほら、ソフィアと一緒に学園長とも知己があったのですよ、子供の頃に勉強を教えてもらったことがあって、それで、冒険者の経験を活かして講師をやれと、学園長から誘われましてね、クロノスからもこっちはもういいから好きにしろと・・・まぁ、適当な事を言われてこっちに来ました、で、暫くしてからソフィアが田舎に戻ったと聞きまして、こっちに連れて来た、そんな感じです」
「・・・そんな簡単なものか?」
「簡単か難解かは解釈の問題です、こればかりは事実なので、細かい点を話しだすと長いし面倒なので、まぁそんな感じです」
ユーリはニコリと微笑み、茶に手を伸ばす、
「・・・それが、クロノス殿下との付き合いと・・・」
ユスティーナもやや唖然としてユーリを見つめている、
「そうなります、なのでまぁ・・・クロノスとしては、こちらではほら、スイランズと名乗ってましたが、それは婿入り前の家門名ですね、一応お忍びとして時折遊びに来てましたけど、時折かな?よく来ますからねあの大男は、そりゃ目立ちますね」
「そこだ、ちょくちょくと御姿を見かけたと思うのだが、どうやってこちら迄来られていたのだ?北ヘルデルとなると早馬でも七日はかかる、英雄とはいえ政務もあろう、見る限り御立派な人物である、仕事を投げ出して遊びに来ていたという事なのか?」
「御立派・・・まぁ、そう見えるわね」
ユーリはニヤリとほくそ笑み、ソフィアも確かに見た目は立派よねと言葉にしないが顔を顰めてしまう、
「なんだ?おかしいか?」
レアンはキッとユーリを睨んだ、
「そりゃだって、私もソフィアも冒険者時代から知ってますからね、いくらでもほら、今では言えない事・・・裏話ってやつですね、それをもう沢山知ってますから・・・まぁ、もう笑い話で済ませる事が出来る程度なんですが・・・本物の伯爵令嬢様に御立派なんて言われたら・・・笑っちゃいますよ」
ユーリはニコニコと茶を含んだ、
「むぅ、しかし、それでも英雄であろう」
「それは確かに、なんせ魔王を倒しちゃったんですもの、私達もその時はね、まさかそうなるとは思ってもいなくて」
「最後の戦いにも参加したのか?」
「あー・・・一緒には攻め込んでないです、女と子連れはいらないってクロノスに邪魔者扱いされてね、それでも城壁の外側で王国軍と走り回ってましたけど・・・」
ここら辺から嘘になって来る、ソフィアは前にもこれで逃げていたなと思い出した、ユーリと共に事前に準備していた隠蔽工作用の物語である、
「その時の話を聞いてみたい、どうであった?」
「どうって・・・そうねぇ・・・普通の戦場と変わらないと思いますよ、普通の戦場は知らないですけどね、最後の最後は相手が魔族ってだけで、やる事に大きな違いは無いらしくて、冒険者部隊は森の中に配置されて魔族が逃げ込まないようにしてましたね、出来るだけ海の方に追いやってここから出て行けって感じで」
「その、あれか、クロノス殿下が旗を掲げたのは見たのか?」
レアンはどうやら当初の怒りはどこへやらと身を乗り出してユーリの昔話に興味津々となっており、ユスティーナもマルヘリートも黙して集中している、先の大戦でその中心にいた人物に話しを聞けるのは何気に貴重な事で、それが普段から懇意にしている相手となると気安さもあって引き込まれてしまっている、
「あー、あれですね、演劇とかではよくそう描かれていますよねー」
とユーリはウーンと首を捻った、その言葉通り演劇の最高潮でクロノスは王国の旗を手にし、魔王の首を高々と掲げて勝鬨の声を上げる、実際にもその行為は行われていた、演劇の過剰な演出ではなく、史実に基づく姿である、しかしユーリはその瞬間の光景を目にしていなかった、何しろそのクロノスの背後にあって、やっと終わったと屋上に続く階段にぶっ倒れていたのである、ソフィアも同様でタロウもやれやれとミナと共に腰を下ろしており、元気なのはクロノスとゲイン、ルーツであり、ゲインとルーツは他の敵が向かってこないようにと律儀に警戒していた、つまりその大事なまさに歴史的な一大事をクロノス以外の英雄は立ち合いこそすれ目にしていないのである、歴史の裏にある姿とは得てしてそういうものなのであろう、
「私達は森の中でしたからね、実は、終わったって聞いたのも暫く後でしたよ、逃げてくる魔族の始末に忙しくて・・・それだけが心残りと言えばそうかもですね」
ユーリはニコリと誤魔化した、話しの辻褄合わせとしては上等な部類であろう、
「そうか、それは残念・・・」
レアンはそれで納得したらしい、ユスティーナもなるほどそういうものかと理解を示し、マルヘリートは素直に感心してユーリを見つめている、
「まぁ、そんな感じで、クロノスとはまぁ、友人です、より・・・そうですね、戦友と言えばかっこいいでしょうかね・・・お嬢様と一緒ですよ、友人という意味であれば、なので責めれられても困ります、お嬢様には失礼な言い方になりますが、ほら、貴族様もですけど王族はもっと・・・こう、あれです、我儘で自分勝手な人達ですから、お忍びって言っておけばなんとかなると思っているんですよね、困ったもんです」
ユーリはアッハッハと笑い、対する四人は渋面となるしかない、実はそのお忍びという言い訳が一番めんどくさいのである、今現在もレイナウトとマルヘリートはそのお忍びの最中であったりする、本来二人はヘルデルを離れて良い立場では無く、今回の訪問はカラミッドからの要請に答えたまでの事で、予定では三日もあれば充分と思っていたが毎日忙しい上に楽しく、随分と長い逗留になっている、それは構わないのであるが、貴族のお忍びとなると、ようは貴族ではあるがそれ以上は聞くな、少々の無礼は許すが後々に影響するぞとの暗黙の相互了解の上で成り立つもので、貴族からしても大変に厄介な約束事であったりする、故に表面上は仲良く取り繕い、必要以上の詮索はしないもので、それ故にクロノスやウルジュラの正体をレアンもユスティーナも深く探る事は無かったのであった、藪をつついて蛇を出すどころか藪をつついて政争になりかねないからで、特に今回の件に関してはユスティーナもライニールもその点を危惧していた、確かに挨拶を交わしたこともあるが、クロノス達はあからさまにお忍びとは言わずともその雰囲気を醸し出しており、大人である二人はそういう事であろうなと全てを察して対応していたのである、それはレアンも同じで、しかし、レアンはやはり幼い、クロノスとウルジュラの正体を知るに当たってどうしてもその暗黙の了解では納得できなかったのだ、マルヘリートも全ての事情は把握していなくてもそういう事であろうと公爵令嬢らしく飲み込んでいる、
「・・・母上の言う通りでしたか・・・」
レアンは静かに呟いた、やっと溜飲が下がったのであろう、
「そうね・・・でも、そうなるとちゃんと御挨拶をしたいと思うのですけど、如何なものかしら・・・」
ユスティーナが静かに問いかける、
「そう・・・ですね、はい、はっきり申し上げますと・・・いや、これ以上は私では難しいです」
ユーリはカラミッドらとの関係を口にしようとして押し留まった、そこから先は貴族の世界で政の世界でもある、自分が口出しして良いものではない、
「なので・・・はい、ウルジュラ様にはそうですね、お茶会等に誘いたいと、そのようにお話しするのが宜しいかなと・・・すいません、その辺の作法は不案内でして、貴族様のやり方としてはどんなもんなのか・・・取次は可能ですが・・・すいません、やはり少しばかり何ともしようがないですか・・・ね・・・」
「ユラ様来るのー?」
寝台の上でつまらなそうにしていたミナがピョコンと半身を上げた、
「ユラ様?」
「うん、ユラ様ー、ミナのお友達なのー」
「むっ、そうか、ミナも全てを知っていたのだな」
「なにをー?」
「なにをではない、まったく、めんどくさい大人達ばかりか、子供までもめんどくさい」
レアンは再びプリプリと怒りだすが先程のそれとは違い、明るい怒り方で、ようは戯れのそれであった、
「あー、一番めんどくさい人が何か言ってるー」
「なっ、なにをー」
ミナの実に素直な的を射た言葉にユスティーナもマルヘリートもライニールまでもが思わずブフッと吹き出し、ユーリとソフィアも苦笑いを浮かべるのであった。
レアンはジッと対面するソフィアとユーリを睨みつけ、ユスティーナとマルヘリートはまったくもうと困り顔である、レアンの背後に立つライニールも渋い顔であった、ミナはブーとつまらなそうに寝台の上でゴロゴロしながら成り行きを見つめており、レインは我関せずと知らんぷりである、
「どういうと言われてもねー」
ユーリはどうしたものかと斜め上を見上げて右頬をかいた、今日は朝から学園に向かい、学園祭の片付やら学園長との打合せやらだなーと仕事を始めようとした瞬間にカトカが呼びに来て、ソフィアに事情を聞くに至り、まぁ、レアンお嬢様が怒るのも無理はないかなと思ってしまう、
「そうねー・・・」
ソフィアは結局自分は韜晦する事とした、こういうめんどくさい事はユーリにぶん投げるのが一番である、クロノスとの関係を正直に説明する事は、自分の出自と正体を明かす事に繋がる、それは避けたいとソフィアは考えており、ユーリも同意見で、故にレアンに説明する事はその大半が嘘になるであろう、そして嘘というものは往々にして綻びやすく、壊れやすい、嘘を吐くのは馬鹿のやる事と子供の頃から躾けられているが、それは単に馬鹿は簡単に嘘を弄し、その嘘を低能ゆえに維持できないからである、賢い者の使う嘘は硬く含蓄があり有用で、故にそれは方便として語り継がれたりもする、何と都合の良い概念であろうか、
「まったく、何故教えてくれなかったのだ、クロノス殿下にウルジュラ王妃様ですぞ、どれだけの非礼があったかを考えると背筋が寒くなる、クレオノート家は田舎の伯爵家と馬鹿にされるのは構わない、しかし、王族や公爵家に対する礼儀は弁えておる、知っていればこそ、出来たこともあろう」
レアンは噴飯やるかたなしと声を荒げた、而してその言い分を聞くに、どうやら王族との不仲を根源とした怒りでは無く、王族との接触があったにも関わらず何もしていないばかりかまともな礼儀も尽くしていないと、友好的な関係を構築できなかった事を悔んでいるように聞こえた、ユーリはあら・・・と思い、ユスティーナとライニールの様子を伺う、二人は困り顔である事はそのままであったが、特にレアンの意見に反対する事はないらしい、ユーリとしてはまず王族とかつてのアイセル地方の各領主とのわだかまりこそを問題と思ったのである、その方向に話しが向いた場合、事と次第によっては折角築いたレアンやユスティーナとの関係も崩れてしまいかねず、かと言って見事なまでに政治の話しであって、平民である一講師や一寮母がどうこうできる事では無い、ユーリとしてはソフィアに一任されつつもさてどうやって誤魔化そうかと思案しており、どうやらそれは最も穏便な策を選択する事で収まりそうだなと内心で小さく安堵した、出来るだけ話しを大きくせず、まして政治を絡めないようにすればレアンの憤りもある程度収まりそうである、
「そう・・・ですね・・・あー・・・」
しかしユーリは難しそうに首を捻り、悩む振りをする、レアンはその様子をジッと見つめ、他の三人は申し訳なさそうに押し黙った、
「まずは・・・そうですね、私の事から、ソフィアもそうなんですが、冒険者であった事は以前お話ししましたよね」
「うむ、聞いておる、同じ村の出自で二人で村を出たのであったな」
「その通りです、で、ヘルデルを中心に動いていたのですが、先の大戦が本格的になってきました、そして私達は傭兵では無かったのですが、冒険者として軍に雇われまして」
「それも聞いておる、冒険者の採用はかの大戦の大きな転換だったとマリレーナ先生にも聞いておる」
マリレーナとはクレオノート家の住み込み家庭教師である、つまりレアンの恩師であった、
「しっかり勉強なされておりますね」
ユーリはニコリと微笑み、レアンは当然だとばかりに鼻息を荒くした、
「まぁ、簡単に言えばそこでクロノス・・・当時はクロノス・スイランズと名乗っておりましたが、ほら、演劇等で没落しただの冒険者だっただのと取り沙汰されるでしょ、それは全くの真実でして、その時のクロノスと知り合いましてね」
「・・・そうなのか?」
「そうなんです、で、何とかかんとか戦争は終わりまして、クロノスは魔王を倒し、私もソフィアもタロウも何とかかんとか生き延びて・・・その後ですね、クロノスがあれよあれよという間に王妃様と結婚してしまって、で、私はそのままクロノスに雇われまして、ソフィアとタロウは旅に出た・・・そんな感じです」
「つまりあれか、冒険者時代からの友誼というわけか」
レアンが若干落ち着いたようで再確認し、ユスティーナやマルヘリートもなるほどと納得している、ここまでに嘘があるとすればユーリ達三人が消えた英雄と呼ばれる五人の内の三人である事くらいで、それも嘘では無く言葉にしていないだけである、騙しているのではなく隠蔽しているだけであった、
「そうなりますね、で、私はほら、ソフィアと一緒に学園長とも知己があったのですよ、子供の頃に勉強を教えてもらったことがあって、それで、冒険者の経験を活かして講師をやれと、学園長から誘われましてね、クロノスからもこっちはもういいから好きにしろと・・・まぁ、適当な事を言われてこっちに来ました、で、暫くしてからソフィアが田舎に戻ったと聞きまして、こっちに連れて来た、そんな感じです」
「・・・そんな簡単なものか?」
「簡単か難解かは解釈の問題です、こればかりは事実なので、細かい点を話しだすと長いし面倒なので、まぁそんな感じです」
ユーリはニコリと微笑み、茶に手を伸ばす、
「・・・それが、クロノス殿下との付き合いと・・・」
ユスティーナもやや唖然としてユーリを見つめている、
「そうなります、なのでまぁ・・・クロノスとしては、こちらではほら、スイランズと名乗ってましたが、それは婿入り前の家門名ですね、一応お忍びとして時折遊びに来てましたけど、時折かな?よく来ますからねあの大男は、そりゃ目立ちますね」
「そこだ、ちょくちょくと御姿を見かけたと思うのだが、どうやってこちら迄来られていたのだ?北ヘルデルとなると早馬でも七日はかかる、英雄とはいえ政務もあろう、見る限り御立派な人物である、仕事を投げ出して遊びに来ていたという事なのか?」
「御立派・・・まぁ、そう見えるわね」
ユーリはニヤリとほくそ笑み、ソフィアも確かに見た目は立派よねと言葉にしないが顔を顰めてしまう、
「なんだ?おかしいか?」
レアンはキッとユーリを睨んだ、
「そりゃだって、私もソフィアも冒険者時代から知ってますからね、いくらでもほら、今では言えない事・・・裏話ってやつですね、それをもう沢山知ってますから・・・まぁ、もう笑い話で済ませる事が出来る程度なんですが・・・本物の伯爵令嬢様に御立派なんて言われたら・・・笑っちゃいますよ」
ユーリはニコニコと茶を含んだ、
「むぅ、しかし、それでも英雄であろう」
「それは確かに、なんせ魔王を倒しちゃったんですもの、私達もその時はね、まさかそうなるとは思ってもいなくて」
「最後の戦いにも参加したのか?」
「あー・・・一緒には攻め込んでないです、女と子連れはいらないってクロノスに邪魔者扱いされてね、それでも城壁の外側で王国軍と走り回ってましたけど・・・」
ここら辺から嘘になって来る、ソフィアは前にもこれで逃げていたなと思い出した、ユーリと共に事前に準備していた隠蔽工作用の物語である、
「その時の話を聞いてみたい、どうであった?」
「どうって・・・そうねぇ・・・普通の戦場と変わらないと思いますよ、普通の戦場は知らないですけどね、最後の最後は相手が魔族ってだけで、やる事に大きな違いは無いらしくて、冒険者部隊は森の中に配置されて魔族が逃げ込まないようにしてましたね、出来るだけ海の方に追いやってここから出て行けって感じで」
「その、あれか、クロノス殿下が旗を掲げたのは見たのか?」
レアンはどうやら当初の怒りはどこへやらと身を乗り出してユーリの昔話に興味津々となっており、ユスティーナもマルヘリートも黙して集中している、先の大戦でその中心にいた人物に話しを聞けるのは何気に貴重な事で、それが普段から懇意にしている相手となると気安さもあって引き込まれてしまっている、
「あー、あれですね、演劇とかではよくそう描かれていますよねー」
とユーリはウーンと首を捻った、その言葉通り演劇の最高潮でクロノスは王国の旗を手にし、魔王の首を高々と掲げて勝鬨の声を上げる、実際にもその行為は行われていた、演劇の過剰な演出ではなく、史実に基づく姿である、しかしユーリはその瞬間の光景を目にしていなかった、何しろそのクロノスの背後にあって、やっと終わったと屋上に続く階段にぶっ倒れていたのである、ソフィアも同様でタロウもやれやれとミナと共に腰を下ろしており、元気なのはクロノスとゲイン、ルーツであり、ゲインとルーツは他の敵が向かってこないようにと律儀に警戒していた、つまりその大事なまさに歴史的な一大事をクロノス以外の英雄は立ち合いこそすれ目にしていないのである、歴史の裏にある姿とは得てしてそういうものなのであろう、
「私達は森の中でしたからね、実は、終わったって聞いたのも暫く後でしたよ、逃げてくる魔族の始末に忙しくて・・・それだけが心残りと言えばそうかもですね」
ユーリはニコリと誤魔化した、話しの辻褄合わせとしては上等な部類であろう、
「そうか、それは残念・・・」
レアンはそれで納得したらしい、ユスティーナもなるほどそういうものかと理解を示し、マルヘリートは素直に感心してユーリを見つめている、
「まぁ、そんな感じで、クロノスとはまぁ、友人です、より・・・そうですね、戦友と言えばかっこいいでしょうかね・・・お嬢様と一緒ですよ、友人という意味であれば、なので責めれられても困ります、お嬢様には失礼な言い方になりますが、ほら、貴族様もですけど王族はもっと・・・こう、あれです、我儘で自分勝手な人達ですから、お忍びって言っておけばなんとかなると思っているんですよね、困ったもんです」
ユーリはアッハッハと笑い、対する四人は渋面となるしかない、実はそのお忍びという言い訳が一番めんどくさいのである、今現在もレイナウトとマルヘリートはそのお忍びの最中であったりする、本来二人はヘルデルを離れて良い立場では無く、今回の訪問はカラミッドからの要請に答えたまでの事で、予定では三日もあれば充分と思っていたが毎日忙しい上に楽しく、随分と長い逗留になっている、それは構わないのであるが、貴族のお忍びとなると、ようは貴族ではあるがそれ以上は聞くな、少々の無礼は許すが後々に影響するぞとの暗黙の相互了解の上で成り立つもので、貴族からしても大変に厄介な約束事であったりする、故に表面上は仲良く取り繕い、必要以上の詮索はしないもので、それ故にクロノスやウルジュラの正体をレアンもユスティーナも深く探る事は無かったのであった、藪をつついて蛇を出すどころか藪をつついて政争になりかねないからで、特に今回の件に関してはユスティーナもライニールもその点を危惧していた、確かに挨拶を交わしたこともあるが、クロノス達はあからさまにお忍びとは言わずともその雰囲気を醸し出しており、大人である二人はそういう事であろうなと全てを察して対応していたのである、それはレアンも同じで、しかし、レアンはやはり幼い、クロノスとウルジュラの正体を知るに当たってどうしてもその暗黙の了解では納得できなかったのだ、マルヘリートも全ての事情は把握していなくてもそういう事であろうと公爵令嬢らしく飲み込んでいる、
「・・・母上の言う通りでしたか・・・」
レアンは静かに呟いた、やっと溜飲が下がったのであろう、
「そうね・・・でも、そうなるとちゃんと御挨拶をしたいと思うのですけど、如何なものかしら・・・」
ユスティーナが静かに問いかける、
「そう・・・ですね、はい、はっきり申し上げますと・・・いや、これ以上は私では難しいです」
ユーリはカラミッドらとの関係を口にしようとして押し留まった、そこから先は貴族の世界で政の世界でもある、自分が口出しして良いものではない、
「なので・・・はい、ウルジュラ様にはそうですね、お茶会等に誘いたいと、そのようにお話しするのが宜しいかなと・・・すいません、その辺の作法は不案内でして、貴族様のやり方としてはどんなもんなのか・・・取次は可能ですが・・・すいません、やはり少しばかり何ともしようがないですか・・・ね・・・」
「ユラ様来るのー?」
寝台の上でつまらなそうにしていたミナがピョコンと半身を上げた、
「ユラ様?」
「うん、ユラ様ー、ミナのお友達なのー」
「むっ、そうか、ミナも全てを知っていたのだな」
「なにをー?」
「なにをではない、まったく、めんどくさい大人達ばかりか、子供までもめんどくさい」
レアンは再びプリプリと怒りだすが先程のそれとは違い、明るい怒り方で、ようは戯れのそれであった、
「あー、一番めんどくさい人が何か言ってるー」
「なっ、なにをー」
ミナの実に素直な的を射た言葉にユスティーナもマルヘリートもライニールまでもが思わずブフッと吹き出し、ユーリとソフィアも苦笑いを浮かべるのであった。
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