セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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67話 祭りを生み出すという事 その16

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翌朝、公務時間開始の鐘とほぼ同時にブラスが勝手口を叩いた、昨日で寮の改築工事はほぼ終えており、今日は残材整理と納品である、ソフィアに迎えられ、挨拶もそこそこにタロウが内庭へ顔を出す、ミナとレイン、ニコリーネも続いた、

「これになりますが、どうですか?」

職人達が片付け作業にかかる中、ブラスは荷車に被せられた筵を外した、

「おー・・・良い感じじゃない?」

「良い感じー?」

「うん、駄目か?」

「分かんなーい」

「正直だなー」

タロウがしげしげとそれを見つめ、ミナが当然のように騒ぎ立てる、荷台にデンと乗っていたのは真新しい寝台である、タロウから注文されていた品で、ヘッケル工務店としては専門外の品であったが、ここ数か月の無理難題に答えていく内に、木製品で作れないものは無いとの自負が芽生え、さらにソフィアやタロウからの依頼となれば答えないわけにはいかず、かと言ってやはり家具は家具職人の領分という事もあり、そちらの経験のある職人を中心にして作られた品であった、

「一応、御依頼通りになっておりますが、どうしましょう、中に入れます?落ち着いて確認頂いても良いかなって思いますけど」

「そうだね・・・食堂に入れる・・・大きいかな?」

「どうでしょう、入れてみてもいいかと思いますが・・・」

「やめとくか、なにかと来客が多いからなあそこは、こっちの宿舎に取り合えず、一階であれば、まだ置けるし」

「はい、では」

ブラスが職人を呼びつけ二人がかりで寝台は宿舎へ運び込まれた、タロウは食堂から木箱を抱えて戻り、ミナ達は何を始めるのかと楽しそうにワチャワチャしている、

「こんなもんで、ソフィアさんにはさっき渡したので、研究所さんに納品すれば取り合えず納品分は終わりですかね」

ブラスはこれで一仕事終了かなと一息ついた、ソフィアには挨拶と同時に大量の蒸し器を渡している、ソフィアは歓喜の声を上げ、それは厨房の作業机に塔を築いていた、

「そっか、先に上に行く?あー、学園祭の準備で誰も居ないかもな・・・ミナー、ユーリかサビナさんか居たら呼んできて」

「わかったー」

ミナがダダッと寮へ走る、

「あっ、すいません」

「いいよ、で、こっちは一応合わせてみるか」

タロウは木箱からスプリングを取り出すこちらの言葉で捩じりバネと呼ばれる代物で、以前に大量に作ってもらっており、手が空いている時に適当に組み合わせてはその具合を確かめていた、恐らくタロウの想定する使い方には耐えられるであろう、

「あっ、で、これってどう使うんです?」

ブラスが興味津々と言った顔で木箱を覗き、レインとニコリーネも覗き込む、

「うん、簡単なんだけどね、どうやって固定しようかと悩んでたんだ・・・やっぱり、ちゃんと組んで乗っけるのが一番いいのかな、これも要検討なんだけどね」

タロウが取り出した捩じりバネは細長い革に整然と縫い付けられており、それだけ見ればけったいな帯のように見えた、タロウはそれを寝台の床板に並べ、こんなもんかなと確認している、他の三人はなにを目的としているのかまるで理解できず首を傾げてしまった、

「えっと、これって?」

「ん?」

素直に問うブラスに対し、タロウは不思議そうに顔を上げ、

「あー・・・言ってなかったね、こうやってバネを並べたいんだよ、この寝台に隙間なく・・・隙間なくは言い過ぎかな、バネの間隔はこれでいいと思うんだけど、バネが勝手に動かないようにある程度固定したいんだよね、だから、革に縫い付けてあるんだよ」

「へー・・・えっ、もしかして・・・」

「もしかして・・・」

「もしかするのか?」

三人は同時にその用途に感づいたらしい、

「そっ、たぶんそのもしかして、こっちの寝台は固くてね、藁は衛生的にはあまり良くないし、これは気持ち良く寝れるぞ」

タロウがニヤーと微笑んだ、そこへ、

「カトカいたー」

ミナが駆け込んで来て、カトカがハァハァと息を切らして着いてきている、どうやら律儀にミナを追って走って来たらしい、大した距離でもないが、常時走り回るミナと、基本机に向かっているカトカでは持久力に違いがあるのは致し方ない、

「あっ、おはよう、カトカさん」

「おっ、おはよう・・・ございます」

カトカは苦しそうにしつつも笑みを浮かべる、

「じゃ、ブラスさん、そっち終わったらこっちも見てみる?」

「あっ、はい、じゃ、えっと、アバカスの試作品です、食堂にお持ちしますね」

「ありがとうございます、出来たんですね」

カトカはパッと表情を明るくした、何気に心待ちにしていたのである、と同時にすでに改良案も出ている、納品と同時に再注文となる予定で、それはそれで少々はしたないかしら等と考えるが、お互い仕事なのだ、気にする事は無いであろう、

「はい、ご注文通りかと思います、では向こうで」

ブラスが寮を指差すと、カトカもウキウキと軽い足取りで宿舎を離れる、

「よし、じゃ、こっちをやるか、ニコリーネさんちょっと手伝って、いろいろやってみよう」

「ミナはー?ミナも手伝うー」

「勿論だよ、じゃ、どうしようかな、バネを並べて貰って、革はあるから・・・裁縫道具は、上にあるか」

そうしてうっすらと目的とする事は理解できるが、はて、どうなるものか不安に思いつつ、ニコリーネはタロウの指揮の下作業にかかり、ミナは騒ぎながら、レインはレインでここまでする必要があるのかと不満そうな顔で手を動かし始めるのであった。



「へー、面白いわねー」

「そうなんですよ、これは発明です、レスタさんは天才ですよ」

「そうかもねー」

カトカとソフィアはブラスが製作した2種類のアバカスを手にして笑顔を見せた、10玉と5玉のそれである、ブラスとしては素直に喜ばしい事なのであるが、納品と同時にさらに改良品の注文を受けてしまい、素直に喜ぶべきかと迷ってしまう、単に5玉のアバカスに仕切りとなる板を挟めるだけなのであるが、改良されるとしてももう少し先かなと高を括っており、まさか納品と同時に再発注とは思っていなかったのだ、

「そうですね・・・使って貰ってからかなって思うんですが、玉の大きさとか枠の大きさとか、そういう点も確認して頂けたらと思います」

ブラスが黒板を片手に呟くように伝える、

「あっ、それもありますね」

「はい、内のと、義姉さん・・・アンベル義姉さんですね、が、使ってみたんですが、好評は好評でしたね、ただ、玉が大きいかもって事と、全体的にもう少し小さい方が使いやすいとか、まぁ、試作品なんで取り合えずお持ちしました、改良点はやっぱり使ってみないとって思いまして・・・」

ブラスはどこか不安そうである、ブノワトもアンベルもブラスには容赦が無い、言いたい放題に言われており、あの勢いでカトカに責められたら別の喜びに目覚めそうな感覚があった、それはそれで幸せと言うべきか否か、難しい所である、

「10玉のはこれで良いと思いますが、5玉の方は改良していく予定です・・・そっか、ブノワトさんとかにも意見を貰えばいいのか・・・」

「そうねぇ、テラさんとかオリビアさんとかも勘定は得意でしょ、仕事だし」

「それは話してました、二人とも乗り気でしたね、なので・・・うん、レスタさんと使い方を確立して、学園長とも話して、で、実務で使って貰って・・・うん、面白くなりそうです」

カトカはニコニコと満面の笑みを浮かべる、随分と先は長そうな口振りであるが、それは既に想定済みの事で、王国には無かった新しい技術を作り上げる工程を夢想するだけで心が躍ってしまうのだ、これが普通の人であればめんどくさくなって陰鬱になるのかもしれない、もしくはそこまで想定する事すら出来ないであろう、

「大したものね・・・」

「そうですね」

ソフィアとブラスはどこか呆れたような顔になる、やはりこのカトカと言う人物もどこか違うらしい、そういう観点で見ると、この寮に関わる大人は一般的には変人と称されるであろう人物が多かった、ソフィアしかりユーリしかりタロウしかりである、どうやらカトカも知らず知らずのうちに毒されているのかもしれない、それが幸か不幸かは分らない、それを判断するのは当の本人で、しかし、自分の変化を判断できる程自分を客観視できる人物も稀なものだ、

「あっ、そうだ、タロウさんから聞いた?」

ソフィアが話題を変えた、アバカスの納品は一段落したと見ての事である、

「何をですか?すいません、寝台の納品だけでした、さっきは」

「そっか、あれ、ユーリがね、文化祭が終わってから、この寮の視察?っていうか紹介?って感じで偉い人達に水回りとか浄化槽とか見せたいんだってさ」

「へー・・・あっ、でもそれ必要かもですね、エーリク先生も完成したらゆっくり見せろって騒いでました」

「そうよね、だから、ちゃんと時間を作って、で、何日かに別けて?ほら、領主様とかクロノスとか、学園もそれに追加になるのか」

「えっ、領主様にクロノス様ですか・・・確かに、そっちの方が重要ですよね、すっかり頭に無かったです」

「そうなのよ、だから、トイレもまだ使ってないのよね、ほら、一度使うと匂いが酷いからってタロウがまだ駄目って言ってね」

「それは・・・折角完成したのに・・・」

「ねー、でも、まぁ、言ってる意味は分かるしね、でも、スライムの餌として生ゴミは突っ込んでるのよ、浄化槽には」

「そうなんですか?あっ、でもそうですよね、餌が無いと駄目ですよね」

「そうなのよ、私としてもさっさと使いたいんだけどね、お風呂もまだだし、折角出来たのにね、困ったもんだわ・・・で、そのお披露目会?って言う程のものではないと思うけど、それにブラスさんも顔を出して欲しいってユーリが言っててね、どうかしら?」

「俺ですか?あー・・・大丈夫ですけど、俺いります?」

「そりゃだって、施工したのはブラスさんでしょ、専門的な細かい話しは私達には無理よ、タロウさんだって専門家って訳じゃないし」

「そうでしょうけど・・・でも、そうですね、折角ですしね、はい、俺で良ければお手伝いします」

「ありがとう、正確な日時が出たら連絡するわね、忙しいでしょうけどお願いね」

「はい、そうなると・・・うちの親とか職人達とかメーデルさんとか、フローケルの所にも見せたいですね・・・ほら、連中も気になってるみたいですから」

「あら・・・じゃ、ユーリに話しておくはね、確かに後から見に来られるよりも先に見せちゃった方が早いわよね」

「そうですね、宜しくお願いします」

さらに二人は細かい打合せを始める、その隣でカトカは一人パチパチとアバカスを弾いていた、ブラスが作ったそれは予想以上の出来栄えで、帝国から齎されたそれよりも格段に使いやすいように思える、それは贔屓目から来るのかなとカトカはほくそ笑んだ、いずれにしろ満足行く出来栄えである事は確かで、可能であれば今日にもレスタと共に色々とやってみたいと考えるが、今日明日明後日はレスタも忙しいであろう、文化祭が終わってから本格的に動こうかしらと自然と口角が上がってしまう、実に楽しそうだ、しかし、

「あー・・・カトカさん」

ソフィアに突然名を呼ばれ、カトカはハッと顔を上げた、

「なんか怖いわよ・・・」

眉間に皺を寄せたソフィアが心配そうにしており、ブラスも特に何も口にしないが怪訝そうである、

「へっ、何かしました?」

「だって・・・ブツブツ言いながらにやけちゃって・・・そんなに嬉しかったのそれ?」

「あっ」

カトカは瞬時に顔を真っ赤に染めて俯いた、どうやら久しぶりにやってしまったらしい、どうにも自分は集中すると独り言が口を吐き、挙句ニヤニヤ笑うらしかった、学生の頃も何度か指摘され、子供の時にも親から怖いわよと注意された事がある、最近では特に指摘される事は無かったが、単にそれはユーリやサビナがその奇行に慣れたのか、どうでもいいと無視しているか、単に気付いていなかったのかのいずれかであろう、自分では注意しているつもりであるが、どうやらこの悪癖は治っていなかったらしい、

「まぁ、気持ちは分かるけどね」

「すいません・・・」

カトカは俯いたまま小さくなった、今すぐ逃げ出したいと心の底から思う、

「でも・・・可愛いから許す、ね?」

ソフィアがブラスに同意を求め、ブラスもどう答えるべきかと苦笑いを浮かべつつ、コクコクと頷くのであった。
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