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本編
67話 祭りを生み出すという事 その12
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さらに別の教室では、
「あら、マフダさんにカチャーさんも来てたの?」
「あっ、すいません、その・・・」
「あー、責めてるわけじゃないのよ、逆、ありがとね、忙しい所」
「そんな、その楽しいです、はい」
マフダが柔らかい笑顔となり、カチャーも顔を上げて小さく会釈を返した、その部屋は生活科が主に使用している教室である、ユーリがどんなもんかなと顔を出すと、中にはメイド達と事務員が巨大な板に向かっており、サビナとマフダとカチャーの姿があった、
「で、どんなもん?」
ユーリが笑顔を返しつつサビナを捕まえる、
「始まったばかりですよ、さっきまで下着に群がって大変だったんです、もー」
サビナはプリプリとお冠のようである、
「あら・・・まぁ、そういう事もあるわよ」
ユーリはニヤリと微笑む、講師職を求め、ほぼそれが実現するであろうとなっているサビナにとって良い経験となったようだ、ユーリが思うに生徒達は決して自分の思い通りには動かない、生徒は兵士でも無ければ大人でも無く社会人でも無いのだ、こうしろああしろと口を酸っぱくしようが怒鳴りつけようがやらない事はやらないし、かと思えばやるなと言う事は率先してやるもので、ユーリは講師となって改めて若者の考えなしの傍若無人さを知る事となり、自分はどうであったかなと邂逅している、ユーリは学園長であるパウロにしか師事していないが、その際にはソフィアや他の子供達と共に素直な生徒であったと自分では思う、しかし、当時のパウロがどう見ていたかまでは知りえない、手間を掛けさせた記憶は無いが、所詮短い期間であり親の目のすぐ届くところという事もあり自信は無かった、ただ、自分達以上に学園長の奔放ぶりに手を焼いた記憶があり、大人を知るには良い教師であったなと述懐するに至っている、授業よりもその行動から学んだ事が多いような気がするのだ、その良し悪しは置いておいて、
「そうですね、覚悟はしてます」
しかしサビナはキリッと生活科のメイド達を睨みつける、メイド達は苦笑いとなり、また、大人である事務員達も申し訳なさそうな顔となる、なにせ先程サビナから思いっきり怒鳴りつけられたのだ、それほどまでに六花商会の協力を得て運び込まれた下着類は魅力的で、今日の本分を忘れる程にワーギャーと熱中してしまった、やはり下着掲示板で情報を仕入れてはいるが、実際に店頭で見る機会は少ない、店舗に向かったとしても、店員の目もあり、衣服を購入するという行為にも不慣れな為である、衣服は自分で作るのが当たり前で、購入するとしてもその経験が少ないのだ、そうなると何件か回ってみようと思っても結局一件目で購入してしまい、それで満足して帰宅する事となる、そうなると結局実際に目にするのはその店に並ぶ品だけになる、こうしてお薦めとされる品の全てを確認する事は勿論出来ない、而していざ実物を見比べる事が出来るとなれば生徒達はおろか事務員達も興奮してしまうのは致し方の無い事であり、実際にそうなってしまった、反省する事はするが、こればかりは自制するのは難しかった、サビナの怒声が室内に轟くまではである、
「ならいいわ、で、こっちは結局下着にしたの?」
「そうですね、それとなめらかクリームは実際に作って提供しようかと考えます」
「やっぱり?」
「はい、ありがたい事に結構な人数が集まりましたので、交代交代で対応すれば祭りも楽しめますしね、季節柄欲しくなる人は多いでしょうし」
「そうよねー、カトカみたいな娘、結構いるもんね、あかぎれでヒーヒー言ってる人とかね」
「そうなんです、なので、美容と服飾の二本立てになりますね」
「あら・・・豪勢ね」
「まったくです」
サビナはニヤリと微笑む、その二本立てにする為に、メイド達と事務員は二つの板に木簡を配置していた、一つには下着類の基本的な説明から、下着掲示板に掲示されたそのものを六花商会から仮受ける形で掲示し、もう一つにはうるおいクリームの作り方から使い方までを記載する予定である、
「女性受けしそうね・・・」
「そうですね、まぁ・・・なんとかなりそうです、こっちは」
「そっ、じゃ、私も動くかー・・・」
「そっちはどうです?」
「カトカとゾーイに頼んだわ」
「ありゃ・・・まぁ、そうなりますか・・・」
「そうよー、こっちはね、掲示物とかは特に無いし、道具をかき集めればそれでいいしね、事務員さんと用務員さんが良い感じの台を作ってくれてるし、至れり尽くせりってやつね」
「まぁそうなりますよね」
「そういう事、あれね、普段から真面目にやってるとこういう時楽よね」
「それはだって、あれがあったからですよ、もし無かったら・・・人前に出せる研究って何かありましたっけ?」
「・・・無いわね」
「ですよねー」
「でも、あれのお陰って事もあるのよね、この騒動も」
「そうですか?・・・そうかもな・・・」
「でしょー、だって・・・まぁいいけど・・・」
「そうですね、今更って感じですね」
二人の言うあれとは光柱の事であろう、様々な事情が重なり学園祭等という真の意味で馬鹿騒ぎする為だけの催し物をやる事になったのであるが、よくよく考えればイフナースの一件が無ければこの騒ぎもまた違う形になっていたかもしれない、場合によっては無かったであろう、自分が言い出したのかタロウが言い出したのかはもうすっかり忘れているが、ユーリとしてはこの祭りの前の活気を好意的に受け止めていた、どうやら学生達はその主旨を理解しているかどうかは置いておいて、祭りを開催するという事に前向きになった様子で、当初はほぼほぼめんどくさいとの意見が締めていたようであるが、数日の間にあれもやりたいこれもできると事務員や講師を困らせる程に積極的になったそうである、ユーリが直接対応する事は無かったが、学園長や事務員から報告され、これはこれで良かったかもなと思う事にしていた、その真の目的は既に果たされているのも気が楽になった要因かもしれない、何しろ大人数の前でカラミッドとクロノスを引き合わせようとしていたのだ、絶対に問題が起こるであろうなとユーリは言い出しっぺの一人であるにも関わらず不安を感じていたのである、実際にそうなったとしたら場合によっては歴史に残る珍事になっていたかもしれず、そこからさらに大事へと発展したかもしれない、それを考えるとレイナウトがこちらに遊びに来ていて本当に良かったと心の底から思うのであった、
「ん、じゃ、他行くわ、マフダさんもカチャーさんもありがとねー」
ユーリはメイド達と作業をしている二人にヒラヒラと手を降って退室した、二人は顔を上げて笑顔を浮かべて会釈で答える、ユーリは祭りの責任者の一人となっており、各教室を回って準備の様子を確認して回っていた、不測の事態もあり得るし、無理をする連中も出てくるであろう、予定と違う事をやりだす者もいるであろうし、ただ遊んでいる者も確実に存在する、全ての生徒が活躍する事等無理であるのは分かっているが、そこはやはり組織として動く事を学ぶには丁度良い機会であろうとユーリは考えてもいた、教育者としての経験は二年にも満たないのであるが、やはり学園で行う行事からはすべからく何かしらを学んで欲しいと思っている、但し、各研究所の発表に関してはまるで無関心であった、そちらは各責任者である講師がその名の下に責任をとるべき事であり、ユーリが口を出す必要は無いし、してはならない、故にサビナに対しても状況を確認しただけで口を出す事は無かったのであった、ユーリにとってはサビナはもう独り立ちしたようなものである、後は先輩として偉そうにしてやろうと目論んでいるが、それはもう少し先の事となるであろう、
「ユーリ先生、丁度良かった」
さて次はとユーリが事務室の前を通りかかると学園長と事務長が何とも渋い顔でユーリを呼び止めた、その傍の事務員も不安そうに顔を曇らせている、
「はい・・・なんです、二人して・・・」
その顔を一目見て、ユーリはこれは何かあったなと察した、それほどに二人の顔は暗い、
「あー・・・神殿の奴ら、いや、神殿の方々がな・・・」
学園長が渋い顔で口を開く、
「神殿?」
ユーリはあーこれはめんどくさい案件だと二人同様に瞬時に陰鬱としてしまった、神殿が絡んで良い事があったためしが無い、
「うむ、何やら広報で聞いたと言って押しかけて来おってな、神殿を差し置いて祭りの名を使うのは冒涜だとかなんとかと言い出しておって・・・」
「何ですそれ?」
「分らん・・・」
大きく鼻息を吐き出す学園長と難しい顔のまま腕を組んで俯く事務長である、百戦錬磨の二人をしてこれほどに困らせるとは神殿も大したもんだとユーリは思う、勿論そのような感想を口にする事は無かったが、
「挙句、領主様に問い質すとか言い出してな、それで・・・」
と学園長は廊下の先へ視線を向けた、その先は正門に続いており、その神殿の連中はすでにこの場を去ったという事であろう、
「それはまた・・・しかし、祭りに関しては領主様の了解を得ているわけですし、商工ギルドも乗り気だったのでしょう」
「それは確かです」
事務長が重い口を開く、若干掠れた声であった、
「であれば・・・問題は、あっ・・・」
ユーリは口元に手を置いてまずいかなと顔を逸らせた、
「そうなのじゃ、例のあれでこれでな・・・領主様がどうお考えか今一つ定かでは無くてな・・・」
「ですよねー・・・」
ユーリもこれは問題だなと二人の懸念を理解した、何も二人は神殿連中に詰められたから消沈している訳では無い、二人はここ数日の政治的な企みを把握しており、まして学園長はその場にも居たのだ、カラミッドの心証は事の起こり前と比べれば確実に悪い方向に傾いている事であろう、なにしろ見事に罠に嵌めた張本人が二人ここにいるのである、
「でも・・・どう考えても連中は領主様の意向でこちらに来た訳では無いらしいのですよ」
「ムッ・・・確かにそうじゃな・・・」
「はい、先程聞きましたら学園祭の件は昨日の広報官の通達で知ったとか・・・学生から聞いていた者もおるでしょうが・・・領主様の不興を買ったのであればその広報も無かったのではないかと思うのですが・・・」
「いや、それは忘れていただけかもしれん」
「広報を止める暇も無い程ですか?」
「頭に無かったであろうと思うぞ、そんな些細な事とは比べる事も出来ない事件・・・立ち会った儂がそう言ってはいかんのだが」
「そうですよね・・・うん、だって、であればあれですよ、神殿の人達とリシャルトさんあたりが乗り込んできたのではないですか?イグレシア学部長を同席させる感じで・・・」
「・・・それもありそうじゃな・・・」
「となると、先程のあれは神殿側の暴走?」
「暴走というのはどうだろうかな、連中本気であったぞ」
「本気の暴走では?」
「いくらなんでもな・・・いや、連中の言う通り、祭りという催しは神殿の専売的名目ではある、田舎ではそうでも無いが、ここでは特にその意識が強いのだろう、それを何の根回しも無く、数日後にやると発表されれば・・・」
「根回しはしてありますよ」
「・・・そうであったか?」
「はい、ギルドのついでに各神殿を回りました、その際には特に何も無かったのですよ、それどころかまるで無関心でした、相手によっては好意的な程だったのですが・・・なので広報で知ったと言われたときには、どうしたものかとこっちの思考が止まりましたね」
「・・・それではまたどうして・・・」
「あー・・・もしかしたら何らかの誘いを待っていたとか?」
「そんな事・・・」
「いえ、あるかもしれません、商工ギルドには屋台の出店関係で連絡しておりましたが、神殿には挨拶周り以外では何の声も掛けてませんから」
「しかしだな、何だ、祭りで一儲けさせろと今になって口出しするのか?」
「・・・つまりはそういう事かと・・・」
「あー、あり得ますね、だって・・・」
「はい、神殿の大事な収入源は祭りの寄進ですから」
「しかしだな、信仰とはなんの縁も所縁も無い学園の、それも文化を標榜している祭りじゃぞ」
「祭りは祭りなのでしょう、何より儲かります」
「・・・そうですね、事前には微かに耳にして特段気にしていなかったが、正式に通知されて・・・すると、どうやら、どこの神殿も関わっておらず、誘いも無い」
「さらに、街中では何気に楽しみにしている者も多い・・・良い意味で噂になっております、先の光柱の一件も記憶に新しいですし、何かやるみたいだぞと期待感があるみたいです」
「となると・・・これは儲かると踏んだか・・・な・・・」
事務長とユーリがめんどくさそうに溜息を吐き出し、
「そういう理屈か・・・」
学園長も納得いかないまでも理解するしかない、事務員はそんな三人の様子に偉い人達も大変なんだなとしみじみと感じ入るのであった。
「あら、マフダさんにカチャーさんも来てたの?」
「あっ、すいません、その・・・」
「あー、責めてるわけじゃないのよ、逆、ありがとね、忙しい所」
「そんな、その楽しいです、はい」
マフダが柔らかい笑顔となり、カチャーも顔を上げて小さく会釈を返した、その部屋は生活科が主に使用している教室である、ユーリがどんなもんかなと顔を出すと、中にはメイド達と事務員が巨大な板に向かっており、サビナとマフダとカチャーの姿があった、
「で、どんなもん?」
ユーリが笑顔を返しつつサビナを捕まえる、
「始まったばかりですよ、さっきまで下着に群がって大変だったんです、もー」
サビナはプリプリとお冠のようである、
「あら・・・まぁ、そういう事もあるわよ」
ユーリはニヤリと微笑む、講師職を求め、ほぼそれが実現するであろうとなっているサビナにとって良い経験となったようだ、ユーリが思うに生徒達は決して自分の思い通りには動かない、生徒は兵士でも無ければ大人でも無く社会人でも無いのだ、こうしろああしろと口を酸っぱくしようが怒鳴りつけようがやらない事はやらないし、かと思えばやるなと言う事は率先してやるもので、ユーリは講師となって改めて若者の考えなしの傍若無人さを知る事となり、自分はどうであったかなと邂逅している、ユーリは学園長であるパウロにしか師事していないが、その際にはソフィアや他の子供達と共に素直な生徒であったと自分では思う、しかし、当時のパウロがどう見ていたかまでは知りえない、手間を掛けさせた記憶は無いが、所詮短い期間であり親の目のすぐ届くところという事もあり自信は無かった、ただ、自分達以上に学園長の奔放ぶりに手を焼いた記憶があり、大人を知るには良い教師であったなと述懐するに至っている、授業よりもその行動から学んだ事が多いような気がするのだ、その良し悪しは置いておいて、
「そうですね、覚悟はしてます」
しかしサビナはキリッと生活科のメイド達を睨みつける、メイド達は苦笑いとなり、また、大人である事務員達も申し訳なさそうな顔となる、なにせ先程サビナから思いっきり怒鳴りつけられたのだ、それほどまでに六花商会の協力を得て運び込まれた下着類は魅力的で、今日の本分を忘れる程にワーギャーと熱中してしまった、やはり下着掲示板で情報を仕入れてはいるが、実際に店頭で見る機会は少ない、店舗に向かったとしても、店員の目もあり、衣服を購入するという行為にも不慣れな為である、衣服は自分で作るのが当たり前で、購入するとしてもその経験が少ないのだ、そうなると何件か回ってみようと思っても結局一件目で購入してしまい、それで満足して帰宅する事となる、そうなると結局実際に目にするのはその店に並ぶ品だけになる、こうしてお薦めとされる品の全てを確認する事は勿論出来ない、而していざ実物を見比べる事が出来るとなれば生徒達はおろか事務員達も興奮してしまうのは致し方の無い事であり、実際にそうなってしまった、反省する事はするが、こればかりは自制するのは難しかった、サビナの怒声が室内に轟くまではである、
「ならいいわ、で、こっちは結局下着にしたの?」
「そうですね、それとなめらかクリームは実際に作って提供しようかと考えます」
「やっぱり?」
「はい、ありがたい事に結構な人数が集まりましたので、交代交代で対応すれば祭りも楽しめますしね、季節柄欲しくなる人は多いでしょうし」
「そうよねー、カトカみたいな娘、結構いるもんね、あかぎれでヒーヒー言ってる人とかね」
「そうなんです、なので、美容と服飾の二本立てになりますね」
「あら・・・豪勢ね」
「まったくです」
サビナはニヤリと微笑む、その二本立てにする為に、メイド達と事務員は二つの板に木簡を配置していた、一つには下着類の基本的な説明から、下着掲示板に掲示されたそのものを六花商会から仮受ける形で掲示し、もう一つにはうるおいクリームの作り方から使い方までを記載する予定である、
「女性受けしそうね・・・」
「そうですね、まぁ・・・なんとかなりそうです、こっちは」
「そっ、じゃ、私も動くかー・・・」
「そっちはどうです?」
「カトカとゾーイに頼んだわ」
「ありゃ・・・まぁ、そうなりますか・・・」
「そうよー、こっちはね、掲示物とかは特に無いし、道具をかき集めればそれでいいしね、事務員さんと用務員さんが良い感じの台を作ってくれてるし、至れり尽くせりってやつね」
「まぁそうなりますよね」
「そういう事、あれね、普段から真面目にやってるとこういう時楽よね」
「それはだって、あれがあったからですよ、もし無かったら・・・人前に出せる研究って何かありましたっけ?」
「・・・無いわね」
「ですよねー」
「でも、あれのお陰って事もあるのよね、この騒動も」
「そうですか?・・・そうかもな・・・」
「でしょー、だって・・・まぁいいけど・・・」
「そうですね、今更って感じですね」
二人の言うあれとは光柱の事であろう、様々な事情が重なり学園祭等という真の意味で馬鹿騒ぎする為だけの催し物をやる事になったのであるが、よくよく考えればイフナースの一件が無ければこの騒ぎもまた違う形になっていたかもしれない、場合によっては無かったであろう、自分が言い出したのかタロウが言い出したのかはもうすっかり忘れているが、ユーリとしてはこの祭りの前の活気を好意的に受け止めていた、どうやら学生達はその主旨を理解しているかどうかは置いておいて、祭りを開催するという事に前向きになった様子で、当初はほぼほぼめんどくさいとの意見が締めていたようであるが、数日の間にあれもやりたいこれもできると事務員や講師を困らせる程に積極的になったそうである、ユーリが直接対応する事は無かったが、学園長や事務員から報告され、これはこれで良かったかもなと思う事にしていた、その真の目的は既に果たされているのも気が楽になった要因かもしれない、何しろ大人数の前でカラミッドとクロノスを引き合わせようとしていたのだ、絶対に問題が起こるであろうなとユーリは言い出しっぺの一人であるにも関わらず不安を感じていたのである、実際にそうなったとしたら場合によっては歴史に残る珍事になっていたかもしれず、そこからさらに大事へと発展したかもしれない、それを考えるとレイナウトがこちらに遊びに来ていて本当に良かったと心の底から思うのであった、
「ん、じゃ、他行くわ、マフダさんもカチャーさんもありがとねー」
ユーリはメイド達と作業をしている二人にヒラヒラと手を降って退室した、二人は顔を上げて笑顔を浮かべて会釈で答える、ユーリは祭りの責任者の一人となっており、各教室を回って準備の様子を確認して回っていた、不測の事態もあり得るし、無理をする連中も出てくるであろう、予定と違う事をやりだす者もいるであろうし、ただ遊んでいる者も確実に存在する、全ての生徒が活躍する事等無理であるのは分かっているが、そこはやはり組織として動く事を学ぶには丁度良い機会であろうとユーリは考えてもいた、教育者としての経験は二年にも満たないのであるが、やはり学園で行う行事からはすべからく何かしらを学んで欲しいと思っている、但し、各研究所の発表に関してはまるで無関心であった、そちらは各責任者である講師がその名の下に責任をとるべき事であり、ユーリが口を出す必要は無いし、してはならない、故にサビナに対しても状況を確認しただけで口を出す事は無かったのであった、ユーリにとってはサビナはもう独り立ちしたようなものである、後は先輩として偉そうにしてやろうと目論んでいるが、それはもう少し先の事となるであろう、
「ユーリ先生、丁度良かった」
さて次はとユーリが事務室の前を通りかかると学園長と事務長が何とも渋い顔でユーリを呼び止めた、その傍の事務員も不安そうに顔を曇らせている、
「はい・・・なんです、二人して・・・」
その顔を一目見て、ユーリはこれは何かあったなと察した、それほどに二人の顔は暗い、
「あー・・・神殿の奴ら、いや、神殿の方々がな・・・」
学園長が渋い顔で口を開く、
「神殿?」
ユーリはあーこれはめんどくさい案件だと二人同様に瞬時に陰鬱としてしまった、神殿が絡んで良い事があったためしが無い、
「うむ、何やら広報で聞いたと言って押しかけて来おってな、神殿を差し置いて祭りの名を使うのは冒涜だとかなんとかと言い出しておって・・・」
「何ですそれ?」
「分らん・・・」
大きく鼻息を吐き出す学園長と難しい顔のまま腕を組んで俯く事務長である、百戦錬磨の二人をしてこれほどに困らせるとは神殿も大したもんだとユーリは思う、勿論そのような感想を口にする事は無かったが、
「挙句、領主様に問い質すとか言い出してな、それで・・・」
と学園長は廊下の先へ視線を向けた、その先は正門に続いており、その神殿の連中はすでにこの場を去ったという事であろう、
「それはまた・・・しかし、祭りに関しては領主様の了解を得ているわけですし、商工ギルドも乗り気だったのでしょう」
「それは確かです」
事務長が重い口を開く、若干掠れた声であった、
「であれば・・・問題は、あっ・・・」
ユーリは口元に手を置いてまずいかなと顔を逸らせた、
「そうなのじゃ、例のあれでこれでな・・・領主様がどうお考えか今一つ定かでは無くてな・・・」
「ですよねー・・・」
ユーリもこれは問題だなと二人の懸念を理解した、何も二人は神殿連中に詰められたから消沈している訳では無い、二人はここ数日の政治的な企みを把握しており、まして学園長はその場にも居たのだ、カラミッドの心証は事の起こり前と比べれば確実に悪い方向に傾いている事であろう、なにしろ見事に罠に嵌めた張本人が二人ここにいるのである、
「でも・・・どう考えても連中は領主様の意向でこちらに来た訳では無いらしいのですよ」
「ムッ・・・確かにそうじゃな・・・」
「はい、先程聞きましたら学園祭の件は昨日の広報官の通達で知ったとか・・・学生から聞いていた者もおるでしょうが・・・領主様の不興を買ったのであればその広報も無かったのではないかと思うのですが・・・」
「いや、それは忘れていただけかもしれん」
「広報を止める暇も無い程ですか?」
「頭に無かったであろうと思うぞ、そんな些細な事とは比べる事も出来ない事件・・・立ち会った儂がそう言ってはいかんのだが」
「そうですよね・・・うん、だって、であればあれですよ、神殿の人達とリシャルトさんあたりが乗り込んできたのではないですか?イグレシア学部長を同席させる感じで・・・」
「・・・それもありそうじゃな・・・」
「となると、先程のあれは神殿側の暴走?」
「暴走というのはどうだろうかな、連中本気であったぞ」
「本気の暴走では?」
「いくらなんでもな・・・いや、連中の言う通り、祭りという催しは神殿の専売的名目ではある、田舎ではそうでも無いが、ここでは特にその意識が強いのだろう、それを何の根回しも無く、数日後にやると発表されれば・・・」
「根回しはしてありますよ」
「・・・そうであったか?」
「はい、ギルドのついでに各神殿を回りました、その際には特に何も無かったのですよ、それどころかまるで無関心でした、相手によっては好意的な程だったのですが・・・なので広報で知ったと言われたときには、どうしたものかとこっちの思考が止まりましたね」
「・・・それではまたどうして・・・」
「あー・・・もしかしたら何らかの誘いを待っていたとか?」
「そんな事・・・」
「いえ、あるかもしれません、商工ギルドには屋台の出店関係で連絡しておりましたが、神殿には挨拶周り以外では何の声も掛けてませんから」
「しかしだな、何だ、祭りで一儲けさせろと今になって口出しするのか?」
「・・・つまりはそういう事かと・・・」
「あー、あり得ますね、だって・・・」
「はい、神殿の大事な収入源は祭りの寄進ですから」
「しかしだな、信仰とはなんの縁も所縁も無い学園の、それも文化を標榜している祭りじゃぞ」
「祭りは祭りなのでしょう、何より儲かります」
「・・・そうですね、事前には微かに耳にして特段気にしていなかったが、正式に通知されて・・・すると、どうやら、どこの神殿も関わっておらず、誘いも無い」
「さらに、街中では何気に楽しみにしている者も多い・・・良い意味で噂になっております、先の光柱の一件も記憶に新しいですし、何かやるみたいだぞと期待感があるみたいです」
「となると・・・これは儲かると踏んだか・・・な・・・」
事務長とユーリがめんどくさそうに溜息を吐き出し、
「そういう理屈か・・・」
学園長も納得いかないまでも理解するしかない、事務員はそんな三人の様子に偉い人達も大変なんだなとしみじみと感じ入るのであった。
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