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67話 祭りを生み出すという事 その11

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その頃学園である、今日と明日は授業は休止となり学園祭の準備に充てられる事となった、これもまた前例の無い事であったりする、学生達は素直に喜んだが、講師の中には堂々と不満を表明する者もあり、それを宥めたのが事務長であった、面白い点はその明確に反対した講師は領主派閥の講師では無く、派閥に属しない者であった事であろうか、故に事務長でも抑える事が出来たのであるが、いつぞやのライニールの激励が功を奏した模様で、イグレシア学部長を中心とした領主派閥は逆に熱心に取り組んでいたりもする、恐らくここで何らかの成果なり実績なりを示さないと学園長に遅れを取ると判断したのであろう、学園長と事務長はその判断の良し悪しは別にして意外な反応だと素直に喜んでいたりする、

「ふんふん、なるほど、なるほど・・・」

学園長は各教室、各研究室を勝手気ままに歩きつつ状況を楽しんでいた、今、学園長の前にあるのは試作された蒸しパンとカスタードプリンである、

「あっ、学園長先生だー」

そこへサレバが駆け込んできた、その部屋は自称農学女子連合の準備室となっており、普段であれば生活科のメイド達が調理やお茶の実習を行う、簡単な厨房となっている、

「遅いぞー」

コミンが大声で叱責する、

「ごめんごめん、ブタさん可愛いんだもん、ウシもお乳がいっぱいでるんだよー、あれは凄いよー」

まるで反省する事無くサレバは作業の輪に加わった、

「こら、ちゃんと手を洗って、ソフィアさんに言われたでしょー」

「洗って来たよー、もー、で、で?」

「でってアンタねー」

コミンがサレバを睨みつけるがサレバは上機嫌のままに落ち着きが無い、

「まぁまぁ、試作が出来た所です、学園長にも召し上がってもらいましょう」

グルジアがニコニコと皿に蒸しパンを並べており、その隣ではレスタが布で手を包んで蒸し器から湯気の立つ湯呑を取り出している、中身はプリンであった、蒸しパンは学園長が食事会で食べたそれと比べかなり小さいものであった、これでは一口で丸飲みにできるなと感じられる大きさで、プリンに関しては見た目だけでは黄色い液体のような何かである、スライムのようだなと学園長は首を傾げた、初めて見る種類の料理と思われる品である、蒸し料理全般がそうだと言われればそうなのであるが、

「ほう、良いのかな?」

「はい、今日はまず試食からと思っておりました、私達は何度か頂いたのですが、他の者は今日が初めてなのです」

グルジアが笑顔で答える、見れば第二女子寮以外の生徒は興味津々といった感じで皿を見つめている、調理も勿論手伝ったのであるが、それだけで味を知る事は出来ようはずも無く、蒸し器を見るのも使うのも今日が初めてである、

「なるほどのう」

「で、なんですが、まずは少し細工を・・・」

グルジアは串を取り出すと、それに蒸しパンを三つずつ刺していく、コミンも手伝い、他の女生徒もそれに倣って手を動かした、

「それは?」

「はい、屋台だとやっぱり串焼きかなって、食べ歩きとかしたいでしょうし、何より食べやすくなるかなって」

蒸しパンを小さくして食べやすくするのは当初から案として存在した、それをサレバとコミンとレスタが食事会本番の日の寮の夕食で試作し、ジャネット達にもこれは食べやすいと好評であった、形はそれで決まったのであるが、今度はやはり器の問題が発生する、ケイスが初めての屋台の折には小さなトレーで提供した事を話し、それを使わせて貰おうとの案もあったが、より簡便にする為に串に刺す事としたのである、なにより片付けの問題もある、プリンで湯呑を使う為、そちらの洗浄の手間もある、出来るだけ手間を減らしたいのであった、

「ほう・・・これは面白い・・・」

グルジアは手早く作業を終えると、そこに蜂蜜の壺を添え、さらに何やら見慣れない液体入りの壺も取り出す、

「こちらは蜂蜜か・・・こっちは?」

「リンゴのソースです、コミンさんとサレバさんの田舎の名物だそうで、美味しいですよ」

コミンがニコリと笑顔となるが、サレバはまるで聞いていない様子で他の生徒を捕まえて牛がどうの豚がどうのと忙しい、その生徒も農学の生徒なのであるが、どうやら新しい家畜よりもこちらが優先だと先に戻ったらしく、サレバは講師陣と共に最後まで残っていたらしい、それはそれで生徒達としては気になる所であるが、まぁサレバならそうなるだろうなと大目に見る事としている、一月も付き合っていないがサレバの悪意の無い行動力は皆が認める所であり、それは場合によっては虐めや排斥の要因にもなるであろうが、それよりも数の少ない女生徒としての結束の方が強く、サレバの奔放さはコミンが側にいなくてもなんとかかんとか受け入れられているようだ、

「何か違うのか?」

学園長がコミンに問うと、

「はい、えっとですね、リンゴを2種類使ってまして、1つは磨り潰してしまうんですが、もう1つは細かく切って形を残してあるんです、で黒糖は少な目が美味しいんですよ、で、秘伝の薬草を加えるのが地元流ってやつです」

嬉々として答えるコミンに学園長はなるほどと微笑む、こうして地方出身者の郷土料理を目にし、それを口にできるのもまた学園としては有益なのかもしれないなと考えた、かつては自身も各地を回ってその土地の料理を楽しんだのだが、その中には食べる対象に無かった食材も多い、やや不気味に見えるそれも口に入れてしまえばそれなりに美味しく何事も試すのが大事だと心底思ったものである、

「良いな、うん、良いぞ、これこそが文化の交流であろう、うん、実はな・・・」

学園長が饒舌になるが、どうやら女生徒達は誰も聞いていない様子で、それよりも今目の前に出来あがった初めて見る料理に集中していた、

「はい、では、お好みで蜂蜜か、リンゴのソースか、付けて食べてみて下さい、付け過ぎると垂れちゃうから気を付けて下さいね」

グルジアも学園長はそっちのけで場を仕切る、どうやらレスタが学園長に捕まったらしいが、レスタは笑顔でコクコクと学園長の言葉に頷いており、グルジアは可哀そうだけど任せたと、心の中で謝った、レスタ本人は何気に楽しかったりする、先日のアバカスの時には慣れなかった為に恐怖心が先に立っていたが、どうやらやっと学園長には慣れたらしい、

「でな、蜂の子なるものもまた珍味でな」

「わっ・・・美味しい・・・」

「うん、柔らかい・・・」

「えっ、これパン?」

「パンって言っていいの?」

「材料は同じだからねー」

「そうだよね・・・フワフワ?」

「フワフワだ・・・」

「蜂蜜もリンゴも合うね・・・」

「そりゃだって、これには味が無い・・・訳ではないけど薄いじゃん」

「そうだね、でも、何も付けなくても美味しいよ」

「うん、うん」

学園長の熱の籠った講義の隣で女生徒達はそれぞれに蒸しパンを頬張る、

「どう?」

グルジアとコミンがニマニマと反応を伺うと、

「グルジア、これ絶対売れる」

先輩の一人が黄色い声を上げた、年齢的にはグルジアの方が上になるが、グルジアは自分の年齢を公表していない、それはこの場にいる全員がそうである、学園に入学する年齢が特に決められていない為で、しかし、あからさまに幼いレスタは女生徒達からは大変に可愛がられていたりする、その頭脳の冴えに気付く者はまだ居なかった、

「でしょー」

「足んない、もっと食べたい」

「だよねー」

「うん、ならさ、もっと、大きくしてもいいんじゃない?」

「あー、私もそれ思った」

「数を増やす?」

「それもいいけど、お高くなるんじゃない?」

「あー、それもあるのか・・・お安くしてみんなに食べて欲しいよねー」

「子供でも食べれるようにしてあげたい」

「そうだよねー」

「子供でも足りなくない?」

「他の屋台も出るんだし、この程度でいいんじゃないの?」

「それもそっか・・・うー、でもなー、もう一本欲しくなる・・・」

「じゃ、量を増やすか、4個か5個?」

「選べるようにすれば?お客さんの前で串に刺すんでしょ」

「そのつもりだけど・・・そうしようか」

「うん、3個を基準にして、もっと欲しい人は予め多めに?」

「だったら2本買えば?一々聞くのもめんどいよ」

「そうなるよねー」

「ソースも・・・もう一種類くらい欲しくない?」

「蜂蜜で充分じゃないの?」

「そうかなー」

すっかりと食べきった串を手にして女生徒達は活発に意見を交換しあう、寮生以外の生徒としてはグルジア達が噂の第二女子寮生である事は勿論知っており、その隣の店舗にも何度か足を運んでいる、その為グルジアとサレバが商品は任せろと言った際には何の疑問も無く任せてしまっていた、而して今日初めてその試食をしたのであるが、それは予想以上に珍奇で目新しく、また味も良い、これは売れるし自分も欲しいと期待以上の商品に興奮を隠さない、

「でな、熊の肝じゃな、あれも美味いのだ」

学園長も気持ちよくレスタを相手にしており、レスタもまた笑顔で学園長を見上げていた、どうやら学園長はレスタに任せてしまって良いらしい、するとそこへ、

「わっ、甘い匂いだー」

事務員の一人がヒョコッと顔を出し、その顔は笑顔であったがすぐに、

「あっ、学園長いた」

ビタッと足を停めた、何だと皆の視線が集まるが、学園長はそのままレスタを相手にしており、

「学園長」

事務員の金切声が響く、ビクッと学園長は肩を揺らしてやっと振り向く、

「探しましたよ、もー」

事務員は腰に手を当てて御立腹の様子である、

「はて・・・どうかしたかな?」

学園長は先程迄の饒舌はどこへやらと不安そうに問い返した、

「どうもこうも無いです、事務室に来てください」

「じゃから、何が・・・」

「神殿の人達が来てるんです、事務長が応対してますが学園長を出せってなってます」

「そりゃまた、どうして」

「知りません、取り合えず来てください」

「しかしだな・・・神殿であろう・・・」

「そうです」

「儂が出てどうなる」

「知りません」

「なら・・・」

「なら、じゃないです、急いで下さい」

「しかしじゃな・・・」

「しかしでもないです」

事務員はズカズカと学園長に歩み寄り、その腕をしっかりと抱えて引き摺るように廊下に向かう、

「あー、では、またな、当日を楽しみにしておるぞ」

引き摺られながらか細い声が響く、そして、その姿がすっかりと消えると、

「なんだったんだ・・・」

「ねー」

「レスタさんお疲れー」

「そだねー」

「レスタさんも食べようよ、プリンだっけ?」

「カスタードプリンですよー」

「これはスプーンが必要よね」

「そうみたいね、グルジアさんもコミンさんも頂きましょうよ、サレバはいいか」

「なっ、なんでさー」

学園長の身を案じる者は誰も居らず、レスタを労わる女生徒達と、真顔でからかわれるサレバであった。
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