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本編
67話 祭りを生み出すという事 その7
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その後、掃除を終えたソフィアが合流し、タロウは実際にやってみて下さいと丸投げする事にした、そして自分の話したことはあくまで自分の理想とする所であり、皆さんが思う上品な作法を組み込むことによって独自のものを作る必要があるとも申し添えた、一同は何とも他人任せな事だと鼻白むが、タロウとしては自分が伝えた新しい文化なり事物なりが他者の価値観と混ざりあい昇華する事こそが重要だと考えており、それはこちら側に来てからの楽しみの一つとなっている、
「うふふー、ドーナッツー」
「食べ過ぎじゃないの?」
「えー、まだ二個目だよー」
「なら良いけど、食べ過ぎないようにね」
「わかってるー」
タロウが話している間、ミナはつまらなそうにテーブルに顎を乗せていたが、実践する事となりメイド達が新たな皿にドーナッツを盛り、食器が並べられるとパッと背筋を伸ばした、
「何だ、急に元気になったのか?」
「ブー、タロウの話しは長いからつまらないのー」
「あっ、はっきり言ったなこのー」
「難しいからいいのー」
「それは確かにそうだけどさ・・・まぁ、そうだよな」
タロウは呆れたように微笑むが、ミナであればそうであろうと思うし、それで良いとも思う、その隣ではメイド達が皿の配置を考察しており、ライニールとレアンとユスティーナ、そこにマルヘリートも加わり黒板を確認しながら熱心に話し込んでいる、ミーンとティルも何やら相談中で、エレイン達もまたあーだこーだと議論が盛り上がっている、それなりに学ぶべき事があったようだなとタロウはほくそ笑んだ、言葉だけで伝える事が難しい部分もあったが、それぞれに得る物はあったようで、今後どのように活かされるのか期待が持てるというものである、そして、
「タロウ殿、すまんが少しいいか?」
どうやら一段落着いたようだとレイナウトがタロウを呼びつけた、はいはいとタロウが向かうと、どうやら内密の話しであるらしい、すっと階段に視線を向ける、以前グルジアと話したように二階で話したいとの意思表示であった、タロウはなるほどと理解を示し、そっと二人は二階へ上がり、暖炉前のテーブルに着いた、一階のワチャワチャとした女声が響いてくるが内容までは分らない、こちらの声も押さえる限り向こうに届くことは無いであろうと思われる、
「すまんな、いや、面白い講釈であった、食事の作法等と軽く考えておったが、奥深いものかもしれんな・・・特にもてなすという価値観だな・・・うん、これは重要だ・・・」
レイナウトが溜息交じりに口を開く、しっかりとタロウの思うところは伝わっているらしい、
「そうですね、ですが一度形を作って慣れてしまえば難しくは無いですよ、それと行き過ぎたもてなしは逆に場を壊します、新しすぎても駄目で、騒がしければ良い訳ではないですから、その塩梅が・・・それこそがまた難しいのですが・・・」
タロウはニコリと微笑む、
「そうか・・・ふふっ、そうかもしれん・・・」
レイナウトも柔らかく微笑んだ、昨日迄タロウに向けていた厳めしい顔と冷徹な視線ではない、そして、何やら考え込んでいる様子で、こめかみの辺りを人差し指で二三度掻くと、
「ふむ、腹を割って話したい、お前さんはどちら側なのだ?」
とスッと顔を上げタロウを正面から睨む、その表情は柔和なままであったが視線は為政者のものに変わっていた、
「・・・質問の意図が分かりませんが・・・」
タロウはさてどう答えるのが波風を立てない方策かと考え始める、レイナウトの視線を正面から受け止め、眉間にクッと力が入った、
「王か、この街か、それともアイスル地方か、クロノスとの友誼は理解出来る、貴様がこの地の出身でないことも思い出した、その上でだ、何をもって協力し、何処に信義を置いているのかを確認したい」
「信義ですか・・・」
「そうだ、昨日までの話しを聞く限り、貴様はどうも陛下に取り込まれている訳では無い様子だしな、協力者の立場を堅持しようとしているのであろう、それが気楽なのは分かるが、しかしだ、それはいざとなったら簡単に切り捨てられるという事だ、貴様なら理解していよう、どっちつかず・・・言うなれば互いに都合の良い立ち位置など存在しない、人とはな、使うか使われるかでしかないのだ、そしてその用が済んでも内側の者であれば大事にされる事もあろうが、外側の者は捨てられるものでな・・・儂もそういう風に人を使ってきた、それが敵味方、身内とそれ以外への明確な区別だからだが・・・つまり、今のままでは貴様は使い捨てられかねんぞ、まして、有能に過ぎる、そういう者は身内にならないのであれば疎まれ邪魔にされ、最悪抹殺されるものだ、違うか?」
「・・・確かに、理解しております」
「そうか、では、どうする、賢い妻も、可愛い娘もおるのだろう」
「そこを心配して頂けるのは嬉しいですね、為政者とは思えません」
「ぬかせ、儂は貴様の事を心配しておるのだ」
「そのようで」
二人はニヤリと微笑む、タロウはどうやらレイナウトの根底には王家への不信が深く根強く渦巻いているのだなと感じる、それ故にタロウを案じての言葉なのであろう、
「・・・そうですね・・・昨日もクロノスに言われてましてね・・・公爵様のように私の身を心配する内容ではないですが、軍と政の手前、何らかの役職に・・・肩書を付けると・・・そう宣告されました、仕方ないと受け取る事としています」
「そうか・・・そうであろうな、それなら当面は安泰かな?」
「であれば嬉しいのですが、しかし、そこには責任も伴いましょう、責任の無い肩書など無意味です、そうそうに疎まれましょうな」
「それが分っているのであればしっかりと立場を確立するべきであろう」
「そうですね、ですが・・・まぁ、生きるだけであれば妻子を連れて田舎に籠りますよ」
「周りが放っておかんぞ」
「どうでしょう・・・私の友の一人は・・・俗に英雄の一人ですが、それは今、田舎で悠々自適・・・かどうかは分かりませんがそれなりにやっている様子です」
「・・・それは貴様ほどに有能か?」
「どうでしょう、しかしクロノスと同じ、彼を討ち倒せる者を私は知りません、それを望むなら万の軍が必要でしょう」
「・・・それほどか・・・いや、儂も前線に居らなんだからな、正直貴様の事も英雄達の真の実力も理解しておらん」
「そうでしょうね・・・私が言える事があるとすれば、とある人物からは魔王が6人に増えたと・・・」
「・・・それは・・・つまり?」
「はい、魔王を打倒せし者、祖は魔王となる、その人の家に伝わる格言だそうで、本来であればまた意味が違うだろうなと私は解釈しておるのですが・・・ほら、魔王の定義が曖昧でしょう、私共から見たら確かにかつての敵は魔王と称すべき存在でしたが、かの大陸では、先日お話しした魔族の国ですね、そこでかの魔王は王の一人に過ぎませんでした」
「それこそ解釈の問題だ」
「はい、そのように申しております」
「そうか・・・なるほど、故に王家はクロノスを取り込み、あれに栄光を被せたのか?その魔王の力とやらを管理する為に・・・」
「それも少々違います、あー・・・少しばかりグチャグチャとした話しです、王女様が近衛時代のクロノスを見染めたのが発端だとか・・・クロノス以外の名を隠すように進言したのは私ですし」
「なんと、王女はパトリシア姫殿下か、あれは政略結婚ではないのか?」
「御存知ありませんか?」
「いや、芝居では確かにそうなっているが、あれが真なのか?」
「はい、隣りで見てました、その芝居にもよるかと思いますが、熱心であったのは姫様の方で、クロノスは何とも対処に困っておりましたね、仲間はからかっておりました、ささっと手を出せよって、クロノスは難しい顔で黙り込むばかりで、男色の噂も立ちましたが・・・後から姫様本人だと聞いた時には本当に度肝を抜かれましたよ、それでは手を出せないなと・・・ふふっ、懐かしい限りです」
「・・・それはまた・・・陛下もよく許したな・・・」
「丁度良かったのでしょう」
「かもしらん」
レイナウトはフムと黙り込んだ、視線を落とし何やら考え込む、どうやらボニファースの人物像を修正する必要があるらしい、レイナウトが知る限り、ボニファースもその先代も暴力的で高圧的な人物であった、それは自分で指摘しているようにレイナウトが外側の人間であったからであろうか、故に当たりは常に厳しく尊大で、不愉快であったのだ、先日もそうで、ボニファースはあくまで上位の支配者としてレイナウトとカラミッドに対していた、しかし、王という立場を考えればそれは当然の事であり、自分達は立場上どうやっても臣下なのである、まして内容が内容であり、こちらの情報もある程度握られていた、強硬になるのも当然であろう、
「少し話しがズレましたが・・・私としてはクロノスを信用しておりますし、陛下も良き為政者であると思います、まぁ、その良いか悪いかは後の時代の学者が決める事と思いますが、先日の会談も陛下は大変に楽しみにされておりました、公爵であれば話しが通じると笑っておられ、伯爵の統治手腕も評価している様子です」
「そうなのか?」
レイナウトはスッと顔を上げる、意外そうな顔であった、
「はい、私もクロノスもその点は同意見でした、商会に潜り込んで前線に入り込む先代公爵なんてそんなものは物語にも存在しませんし、モニケンダムのこの発展も伯爵の独特の政の成果でしょう、それ故に今回は特に危機的状態ではありますが、何事にも一長一短はあります」
「イッチョウイッタン?」
「はい、良い面もあれば悪い面もある、その例えです」
「ふむ、貴様は時々良く分からん言葉を使うな」
「王国人ではありませんから」
「それもそうだ・・・すると・・・やはり貴様は王につくか?」
「現時点では、しかし、それもこの騒乱までかなと考えます」
「それ以後は?」
「考えておりません」
「・・・難しかろう、こうして貴様の実力を知る者が増えれば放っておくことは出来ない」
「そうですね、ですが、逆にそれは手出しが難しい事を知る者が多いという事です」
「そっ・・・そういう事か・・・」
「はい、なので・・・自分の身、無論妻も娘も守る事は出来るかなと考えます、お節介な友人も多いですしね私も妻も」
「そうか・・・なれば良かろう・・・いらぬ心配であったな」
「いいえ、そんな事はありません、大変嬉しいです」
「ふん、出来ればヘルデルに迎えたいとも思ったのだが、どうだ?」
「光栄と思いますが、今はまだ、それと妻はヘルデルの近くの田舎生まれです、ユーリもそうですが」
「そうであったな・・・するとあれか、貴様達が田舎に引き込んでからでも勧誘の芽はあるのかな?」
「それはどうでしょう、その時にならなければ分かりません」
それもそうかとレイナウトはニヤリと微笑む、そして、フムと視線を落とすと、スッと顔を上げ、
「もう一つ、今回の件は儂からも心から礼を言いたい、明日からの偵察任務の結果にもよるが・・・いや、あの巨岩の件もあるな、荒野が宝の山に変わり、やがて農地にも出来るとなるといよいよこの街が、この地方が重要になる」
「そうですね、それもあくまで帝国を退け、何らかの妥協点を見出してからになります、そして、忘れてはならないのは・・・向こうは強大です、正面切っての会戦では勝ち目は無いと思います、お互い総力戦となれば尚・・・現時点では先手を取れる位置にありますが、いざ動き出したらどう転ぶかは分かりません」
「そのようだな・・・」
レイナウトは視線を落とした、何度目かになる沈思をタロウは沈黙で見守った、
「ふん、貴様には何らかの形で報いる事は約束しよう、カラミッドにも今日の話しは伝える、あれも貴様の妻には恩があると言っていた、ユスティーナもだが、レアンもな、二人の事は儂も心配しておったのだ、別人のようだ、良い意味でな」
「それは妻に、娘には・・・言っても分らんでしょうね」
「それは致し方あるまい、しかし、あれはあれだろう?お前の胸にしがみ付いていた赤子だろ?」
「はい、その通りです」
「将来が楽しみだな・・・そうか、貴様では無くそちらを懐柔するのが手かな?レアンとマルヘリートに引き込ませるか・・・」
「それはまた・・・時間のかかりそうな計画ですね、あれに理解できればいいのですが・・・」
「フハッ、かもしれん」
二人は明るく笑い合う、階下では時折ミナとレアンの嬌声が響き、ソフィアの叱りつける声もそれに混じっている、
「うむ、では陛下とも話さねばならんな・・・」
「それが宜しいかと、少なくとも先日の陛下のお言葉は本心であると思います、あの方は王国全体を見ていらっしゃる」
「そう思うか?」
「はい、そしてイフナース殿下も、若いながら・・・いえ、それ故に・・・閣下から見ればまだまだでしょうが」
「ふん、若者は皆そうだがな、しかし、だからこそ出来る事もある、年齢も経験も関係無い、必要な時に必要な事を必要なだけ出来る者、それが為政者に求められる資質だ」
「そうですね、どうやらその点でも陛下と同じお考えのようですね」
「そうなのか?」
「そのようです」
「ムゥ・・・それはそれで・・・不敬だが少々不愉快な気がするな」
「では、どうしましょう・・・また、私が食事会を催しましょうか、ゆっくりとお話し下さい」
「それは楽しそうだ・・・いや、駄目だな、先日もそうであったが結局料理と音楽を楽しむだけであった、他の話しは殆どしていないのだ、そうだ、それが問題だぞ、あの食事会は」
「それは失礼を・・・御指摘ありがとうございます、貴重な御意見、今後に活かしたいと思います」
「うむ、それでいい」
レイナウトは満足そうに鼻息を吐き出し、タロウはニコリと微笑んで柔らかく受け取った。
「うふふー、ドーナッツー」
「食べ過ぎじゃないの?」
「えー、まだ二個目だよー」
「なら良いけど、食べ過ぎないようにね」
「わかってるー」
タロウが話している間、ミナはつまらなそうにテーブルに顎を乗せていたが、実践する事となりメイド達が新たな皿にドーナッツを盛り、食器が並べられるとパッと背筋を伸ばした、
「何だ、急に元気になったのか?」
「ブー、タロウの話しは長いからつまらないのー」
「あっ、はっきり言ったなこのー」
「難しいからいいのー」
「それは確かにそうだけどさ・・・まぁ、そうだよな」
タロウは呆れたように微笑むが、ミナであればそうであろうと思うし、それで良いとも思う、その隣ではメイド達が皿の配置を考察しており、ライニールとレアンとユスティーナ、そこにマルヘリートも加わり黒板を確認しながら熱心に話し込んでいる、ミーンとティルも何やら相談中で、エレイン達もまたあーだこーだと議論が盛り上がっている、それなりに学ぶべき事があったようだなとタロウはほくそ笑んだ、言葉だけで伝える事が難しい部分もあったが、それぞれに得る物はあったようで、今後どのように活かされるのか期待が持てるというものである、そして、
「タロウ殿、すまんが少しいいか?」
どうやら一段落着いたようだとレイナウトがタロウを呼びつけた、はいはいとタロウが向かうと、どうやら内密の話しであるらしい、すっと階段に視線を向ける、以前グルジアと話したように二階で話したいとの意思表示であった、タロウはなるほどと理解を示し、そっと二人は二階へ上がり、暖炉前のテーブルに着いた、一階のワチャワチャとした女声が響いてくるが内容までは分らない、こちらの声も押さえる限り向こうに届くことは無いであろうと思われる、
「すまんな、いや、面白い講釈であった、食事の作法等と軽く考えておったが、奥深いものかもしれんな・・・特にもてなすという価値観だな・・・うん、これは重要だ・・・」
レイナウトが溜息交じりに口を開く、しっかりとタロウの思うところは伝わっているらしい、
「そうですね、ですが一度形を作って慣れてしまえば難しくは無いですよ、それと行き過ぎたもてなしは逆に場を壊します、新しすぎても駄目で、騒がしければ良い訳ではないですから、その塩梅が・・・それこそがまた難しいのですが・・・」
タロウはニコリと微笑む、
「そうか・・・ふふっ、そうかもしれん・・・」
レイナウトも柔らかく微笑んだ、昨日迄タロウに向けていた厳めしい顔と冷徹な視線ではない、そして、何やら考え込んでいる様子で、こめかみの辺りを人差し指で二三度掻くと、
「ふむ、腹を割って話したい、お前さんはどちら側なのだ?」
とスッと顔を上げタロウを正面から睨む、その表情は柔和なままであったが視線は為政者のものに変わっていた、
「・・・質問の意図が分かりませんが・・・」
タロウはさてどう答えるのが波風を立てない方策かと考え始める、レイナウトの視線を正面から受け止め、眉間にクッと力が入った、
「王か、この街か、それともアイスル地方か、クロノスとの友誼は理解出来る、貴様がこの地の出身でないことも思い出した、その上でだ、何をもって協力し、何処に信義を置いているのかを確認したい」
「信義ですか・・・」
「そうだ、昨日までの話しを聞く限り、貴様はどうも陛下に取り込まれている訳では無い様子だしな、協力者の立場を堅持しようとしているのであろう、それが気楽なのは分かるが、しかしだ、それはいざとなったら簡単に切り捨てられるという事だ、貴様なら理解していよう、どっちつかず・・・言うなれば互いに都合の良い立ち位置など存在しない、人とはな、使うか使われるかでしかないのだ、そしてその用が済んでも内側の者であれば大事にされる事もあろうが、外側の者は捨てられるものでな・・・儂もそういう風に人を使ってきた、それが敵味方、身内とそれ以外への明確な区別だからだが・・・つまり、今のままでは貴様は使い捨てられかねんぞ、まして、有能に過ぎる、そういう者は身内にならないのであれば疎まれ邪魔にされ、最悪抹殺されるものだ、違うか?」
「・・・確かに、理解しております」
「そうか、では、どうする、賢い妻も、可愛い娘もおるのだろう」
「そこを心配して頂けるのは嬉しいですね、為政者とは思えません」
「ぬかせ、儂は貴様の事を心配しておるのだ」
「そのようで」
二人はニヤリと微笑む、タロウはどうやらレイナウトの根底には王家への不信が深く根強く渦巻いているのだなと感じる、それ故にタロウを案じての言葉なのであろう、
「・・・そうですね・・・昨日もクロノスに言われてましてね・・・公爵様のように私の身を心配する内容ではないですが、軍と政の手前、何らかの役職に・・・肩書を付けると・・・そう宣告されました、仕方ないと受け取る事としています」
「そうか・・・そうであろうな、それなら当面は安泰かな?」
「であれば嬉しいのですが、しかし、そこには責任も伴いましょう、責任の無い肩書など無意味です、そうそうに疎まれましょうな」
「それが分っているのであればしっかりと立場を確立するべきであろう」
「そうですね、ですが・・・まぁ、生きるだけであれば妻子を連れて田舎に籠りますよ」
「周りが放っておかんぞ」
「どうでしょう・・・私の友の一人は・・・俗に英雄の一人ですが、それは今、田舎で悠々自適・・・かどうかは分かりませんがそれなりにやっている様子です」
「・・・それは貴様ほどに有能か?」
「どうでしょう、しかしクロノスと同じ、彼を討ち倒せる者を私は知りません、それを望むなら万の軍が必要でしょう」
「・・・それほどか・・・いや、儂も前線に居らなんだからな、正直貴様の事も英雄達の真の実力も理解しておらん」
「そうでしょうね・・・私が言える事があるとすれば、とある人物からは魔王が6人に増えたと・・・」
「・・・それは・・・つまり?」
「はい、魔王を打倒せし者、祖は魔王となる、その人の家に伝わる格言だそうで、本来であればまた意味が違うだろうなと私は解釈しておるのですが・・・ほら、魔王の定義が曖昧でしょう、私共から見たら確かにかつての敵は魔王と称すべき存在でしたが、かの大陸では、先日お話しした魔族の国ですね、そこでかの魔王は王の一人に過ぎませんでした」
「それこそ解釈の問題だ」
「はい、そのように申しております」
「そうか・・・なるほど、故に王家はクロノスを取り込み、あれに栄光を被せたのか?その魔王の力とやらを管理する為に・・・」
「それも少々違います、あー・・・少しばかりグチャグチャとした話しです、王女様が近衛時代のクロノスを見染めたのが発端だとか・・・クロノス以外の名を隠すように進言したのは私ですし」
「なんと、王女はパトリシア姫殿下か、あれは政略結婚ではないのか?」
「御存知ありませんか?」
「いや、芝居では確かにそうなっているが、あれが真なのか?」
「はい、隣りで見てました、その芝居にもよるかと思いますが、熱心であったのは姫様の方で、クロノスは何とも対処に困っておりましたね、仲間はからかっておりました、ささっと手を出せよって、クロノスは難しい顔で黙り込むばかりで、男色の噂も立ちましたが・・・後から姫様本人だと聞いた時には本当に度肝を抜かれましたよ、それでは手を出せないなと・・・ふふっ、懐かしい限りです」
「・・・それはまた・・・陛下もよく許したな・・・」
「丁度良かったのでしょう」
「かもしらん」
レイナウトはフムと黙り込んだ、視線を落とし何やら考え込む、どうやらボニファースの人物像を修正する必要があるらしい、レイナウトが知る限り、ボニファースもその先代も暴力的で高圧的な人物であった、それは自分で指摘しているようにレイナウトが外側の人間であったからであろうか、故に当たりは常に厳しく尊大で、不愉快であったのだ、先日もそうで、ボニファースはあくまで上位の支配者としてレイナウトとカラミッドに対していた、しかし、王という立場を考えればそれは当然の事であり、自分達は立場上どうやっても臣下なのである、まして内容が内容であり、こちらの情報もある程度握られていた、強硬になるのも当然であろう、
「少し話しがズレましたが・・・私としてはクロノスを信用しておりますし、陛下も良き為政者であると思います、まぁ、その良いか悪いかは後の時代の学者が決める事と思いますが、先日の会談も陛下は大変に楽しみにされておりました、公爵であれば話しが通じると笑っておられ、伯爵の統治手腕も評価している様子です」
「そうなのか?」
レイナウトはスッと顔を上げる、意外そうな顔であった、
「はい、私もクロノスもその点は同意見でした、商会に潜り込んで前線に入り込む先代公爵なんてそんなものは物語にも存在しませんし、モニケンダムのこの発展も伯爵の独特の政の成果でしょう、それ故に今回は特に危機的状態ではありますが、何事にも一長一短はあります」
「イッチョウイッタン?」
「はい、良い面もあれば悪い面もある、その例えです」
「ふむ、貴様は時々良く分からん言葉を使うな」
「王国人ではありませんから」
「それもそうだ・・・すると・・・やはり貴様は王につくか?」
「現時点では、しかし、それもこの騒乱までかなと考えます」
「それ以後は?」
「考えておりません」
「・・・難しかろう、こうして貴様の実力を知る者が増えれば放っておくことは出来ない」
「そうですね、ですが、逆にそれは手出しが難しい事を知る者が多いという事です」
「そっ・・・そういう事か・・・」
「はい、なので・・・自分の身、無論妻も娘も守る事は出来るかなと考えます、お節介な友人も多いですしね私も妻も」
「そうか・・・なれば良かろう・・・いらぬ心配であったな」
「いいえ、そんな事はありません、大変嬉しいです」
「ふん、出来ればヘルデルに迎えたいとも思ったのだが、どうだ?」
「光栄と思いますが、今はまだ、それと妻はヘルデルの近くの田舎生まれです、ユーリもそうですが」
「そうであったな・・・するとあれか、貴様達が田舎に引き込んでからでも勧誘の芽はあるのかな?」
「それはどうでしょう、その時にならなければ分かりません」
それもそうかとレイナウトはニヤリと微笑む、そして、フムと視線を落とすと、スッと顔を上げ、
「もう一つ、今回の件は儂からも心から礼を言いたい、明日からの偵察任務の結果にもよるが・・・いや、あの巨岩の件もあるな、荒野が宝の山に変わり、やがて農地にも出来るとなるといよいよこの街が、この地方が重要になる」
「そうですね、それもあくまで帝国を退け、何らかの妥協点を見出してからになります、そして、忘れてはならないのは・・・向こうは強大です、正面切っての会戦では勝ち目は無いと思います、お互い総力戦となれば尚・・・現時点では先手を取れる位置にありますが、いざ動き出したらどう転ぶかは分かりません」
「そのようだな・・・」
レイナウトは視線を落とした、何度目かになる沈思をタロウは沈黙で見守った、
「ふん、貴様には何らかの形で報いる事は約束しよう、カラミッドにも今日の話しは伝える、あれも貴様の妻には恩があると言っていた、ユスティーナもだが、レアンもな、二人の事は儂も心配しておったのだ、別人のようだ、良い意味でな」
「それは妻に、娘には・・・言っても分らんでしょうね」
「それは致し方あるまい、しかし、あれはあれだろう?お前の胸にしがみ付いていた赤子だろ?」
「はい、その通りです」
「将来が楽しみだな・・・そうか、貴様では無くそちらを懐柔するのが手かな?レアンとマルヘリートに引き込ませるか・・・」
「それはまた・・・時間のかかりそうな計画ですね、あれに理解できればいいのですが・・・」
「フハッ、かもしれん」
二人は明るく笑い合う、階下では時折ミナとレアンの嬌声が響き、ソフィアの叱りつける声もそれに混じっている、
「うむ、では陛下とも話さねばならんな・・・」
「それが宜しいかと、少なくとも先日の陛下のお言葉は本心であると思います、あの方は王国全体を見ていらっしゃる」
「そう思うか?」
「はい、そしてイフナース殿下も、若いながら・・・いえ、それ故に・・・閣下から見ればまだまだでしょうが」
「ふん、若者は皆そうだがな、しかし、だからこそ出来る事もある、年齢も経験も関係無い、必要な時に必要な事を必要なだけ出来る者、それが為政者に求められる資質だ」
「そうですね、どうやらその点でも陛下と同じお考えのようですね」
「そうなのか?」
「そのようです」
「ムゥ・・・それはそれで・・・不敬だが少々不愉快な気がするな」
「では、どうしましょう・・・また、私が食事会を催しましょうか、ゆっくりとお話し下さい」
「それは楽しそうだ・・・いや、駄目だな、先日もそうであったが結局料理と音楽を楽しむだけであった、他の話しは殆どしていないのだ、そうだ、それが問題だぞ、あの食事会は」
「それは失礼を・・・御指摘ありがとうございます、貴重な御意見、今後に活かしたいと思います」
「うむ、それでいい」
レイナウトは満足そうに鼻息を吐き出し、タロウはニコリと微笑んで柔らかく受け取った。
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