セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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67話 祭りを生み出すという事 その6

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翌日、

「こう?こう?」

「うん、そんな感じ、上手だぞ、ミナ」

「えへへー、嬉しー」

「なるほど・・・確かに上品に見えるな、ミナでも」

「ムー、お嬢様イジワルー」

「なんじゃ、褒めたのだぞ」

「ほめてないー」

「いいや、褒めたのだ」

「ブー」

ミナが頬を膨らませるが笑顔であり、二人の様子に大人達も微笑んでしまう、午前の早い時間からレアンとマルヘリート、ライニールは勿論としてメイドが二人、さらにユスティーナとレイナウトまでもが寮に顔を出した、食事会の折にレアンがどうしてもとタロウに頼み込んだ食事の作法の勉強の為である、さらにエレインとカチャーとリーニーが同席しており、今日はマフダが事務所の留守番のようでついでにサビナと何やら打ち合わせをしていた、さらにミーンとティルも同席しており、レインもちょこんと混ざっている、ニコリーネは食堂の端に居場所を定め邪魔をしないように小さくなっていた、

「どうだ?そうやって食べるとドーナッツも御馳走みたいに感じるだろ?」

タロウがニコニコとミナに問うた、食堂のテーブル上には子供達とユスティーナ、レイナウトの前に食事会で供した形で食器が並べられ、その皿に盛られたのはドーナッツであった、最初ミナは歓声を上げてドーナッツを手掴みにしようとしたのであるが、タロウが慌てて押し留めナイフと4本フォークでもって食べる方法を教え込む、それをレアン達は熱心に眺め、ライニールとメイド達、商会の面々も一々黒板に記している、

「ドーナッツは御馳走でしょー」

しかしミナはムゥとタロウを見上げた、

「あー・・・それもそうだがな、ほら、イース様の所で食べたみたいにより美味しく感じないか?」

「美味しいけどー、ドーナッツは美味しいもん」

「・・・だからー」

「でも、お手々が汚れないからいいー」

ミナが一転笑顔を見せた、

「おっ、そういう事だ」

「うふふー、でしょー」

とミナは切り分けたドーナッツの一欠けらを頬張る、実に嬉しそうな笑顔となった、

「なるほど・・・確かに上品ですわね」

「はい、こうなるとパンもこうして食べるのが良いかなと思ってしまいます」

「そうじゃのう・・・しかし、少々堅苦し過ぎないか?」

エレインとユスティーナ、レイナウトが感心しつつ首を傾げた、

「そうですね、パンも勿論このように食しても良いかと思います、ですが、そこが難しい所でして」

タロウが顔を上げて一同に向かうと、

「まず、ドーナッツは油で揚げた料理です、そういう料理は時間が経っても油が染み込んでいますので手で触ると手がベタベタになるでしょう?」

「確かにな」

「それはあります」

「なので、食事の作法、あー・・・私はテーブルマナーと呼んでおりますが、それに準じればまず手が汚れる料理に関しては食器を活用して、比較的に汚れる事の無いパン等は手掴みで食べる・・・しかしそれもその前に手をしっかりとおしぼりで綺麗にするのが前提です」

「そこじゃ、それほどに手間を掛ける必要があるのか?」

レイナウトが顔を顰めた、今日のレイナウトは以前のそれと同じく好々爺とした態度であった、昨日の荒野の一件もあって思うところもあるのであろうが、孫娘と同席している事もあり、柔和な表情を維持している、

「はい、それが大事なのです、まずですね」

とタロウは衛生観念について滔々と語り始めた、タロウの常識からすればこの王国のあらゆる事が不潔である、これはタロウが人一倍潔癖症であるからでは無い、街中を見れば分る通りに川は排泄物で汚れ、井戸水でさえ煮沸しなければ到底口に出来ず、さらに手を洗うという習慣も無い、それは用を足した後でも一緒である、褒める事があるとすれば手拭いを常備している事であろうか、これは大人達であれば常識で子供でも普通に持っている、しかし、その手拭いも決して清潔なものでは無く、男性の持つそれは真っ黒く薄汚れていたり、女性の持つそれでも基本的には襤褸であったりする、衣服を使い倒した先の最終的な形がそれになるのであった、そしてタロウはそういった習慣的な不衛生さから説明し、清潔にする事の有用性に話しを移す、流行り病について、赤痢について、他不衛生さから来る不利益を口にした、

「・・・なんと・・・」

「興味深いですわね・・・」

「はい、あの、それは本当なのですか?」

「信じられません」

目を丸くし驚愕する一同、レインはさもあらんと鼻で笑っており、ミナは聞いてはいるが理解できず、タロウを無視して嬉しそうにドーナッツを食べきってしまい、もっと食べたいなーとレアンの前のドーナッツを見つめている、

「事実です」

タロウはハッキリと言い切った、これは冒険者時代にもユーリやソフィア、クロノスを相手にして口を酸っぱくして教え込んだ事である、しかし、中々理解されず、ソフィアでさえ他国、特に森の民であるエルフの生活を目にしてやっとそういう事かと理解できる程で、やはり子供の頃からの習慣は中々抜けないものであるらしい、

「なので、まず手を清潔に保つ事、これが肝要、と同時に口に入れる物、食べ物ですね、これには直接触れないようにする事、では何故パンは直接触ってもいいのかとなると思いますが、これはまず手を清潔にして、その上でパンは基本的に乾燥してます、さらに高温で焼いている為に雑菌が付着していない、故に手でちぎって食べるのをまぁ良しとするか程度に考えて下さい」

「すまん、そのザッキンとはなんだ?」

ミナ意外の面子は真面目に耳を傾けている様子で、耳慣れない単語にはすぐに質問が出る、

「はい、難しく説明する事も可能ですが、簡単に言いますと、黴とか病気の元になる目に見えない程小さい生物です、大量に様々な種類があります、中には良い雑菌もおりますが、限定的と言えます」

「なに?」

これには一同は目を丸くし、レインだけが悪くない表現だと頷いている、

「目に見えないのですか?」

「はい」

「それほど小さい?」

「はい」

「生物なの?」

「生物として扱って良いと思います」

「それが病気の原因?」

「ものによりますね」

「そんなに種類があるのですか?」

「ありますね」

「信じられない」

「事実です」

「そう言われても・・・」

「はい、その気持ちは分かります」

タロウは小さく頷いた、

「実際に目にすれば違うのですが・・・私ではなんとも難しいです、ですが・・・そうですね、例えばオーガとかそれ以上に大きい魔物が存在する事は分るでしょ、それと同じで小さな生物もいるとお考え下さい、で、あまりにも小さいもので目に見えず、挙句、私達のこの手のひら、ここに付着してます」

タロウは両手を一同に開いて見せる、

「洗えば良いのであろう」

「はい、その通りです、ですが、石鹸で洗ってもお湯で流しても、死滅させるのは難しいです、そしてそれは手だけではなく、顔にも体中の全て、勿論足にも付着してます、これを全部一度にやっつける事は不可能なのですね、なので、そういうものだとして付き合っていく、ですが、それが口から入るのはあまり宜しくない、その程度に考えて下さい、で、それらを一時的にでも減ずる為のおしぼりで、手を洗うという習慣なのです」

「なるほど・・・そうなるのか・・・」

「しかし・・・」

「うむ、あまりにその突飛にすぎないか?」

レイナウトは難しい顔となり、他の面々も顔を顰めている、

「そうですね、なので、まぁ、この清潔に関する事は今日の本題からはややズレた所にある事なので、そういうものだと頭の片隅に置いておく程度で良いと思います、実際に目に見えない物に関しては何とも難しいです、対処のしようがない、そういうものです」

タロウは予想通りの反応にニヤリと微笑む、この反応は過去にも経験がある、そして恐らくこの社会が順調に発展し、数百年後の学者達が発見して漸く理解できる状態になるはずで、しかしそれでもそれが人体に悪影響も恩恵もあると認識されるにはさらなる時間が必要になるであろう、つまり現時点でいくら力説しても誰にも理解されないだろうなとタロウは考えており、その通りになっているのであった、

「はい、じゃ、話しを戻しますね、ナイフとフォークの使い方は御理解頂けたと思います、で、私としては」

とタロウは本題に回帰した、今日の目的は食事の作法の講習であり、タロウが先の食事会でやろうとして出来なかった事を知りたいとの要望もあった為集まっている、そこで、タロウはまずは食器の取り扱いに関して提言する事とした、

「理想なのですが、現状、この三種の道具で料理を頂いています、ですが、先日もそうなのですが、同じ食器を使いますと前の料理のソースとかが微量であったとしても次の料理に付着してしまうのですね」

「それは致し方ないであろう」

「はい、確かに致し方無いと思います、ですが、それはちょっと寂しい・・・先日の料理はそうでもないのですが、ソースをたっぷりと使った料理の場合、次の料理にそのソースが混じるのは料理人としてはどうかな・・・って感じなのです、料理人は一皿一皿に情熱を傾けます、その一皿で完結し、満足頂くために心血を注ぐ、そこに他の味が混ざるのは・・・あまり宜しくないですね」

「そこまで拘るのか?」

「はい、拘ります、なので、本来ですと皿ごとに食器を交換したりします」

「なんと・・・」

「それは凄いな」

「そうなんです、なので、このように」

タロウは眼前の皿の脇に銀食器を並べると、

「食器の配置をこのようにして、この外側の食器から使うようにするんですね、で一皿ずつ食器もお下げしていくのです」

「・・・それはまた・・・」

「けったいじゃな」

「片付けが大変そう・・・」

「そう思われるでしょう、なんですが、思い出して欲しいのが、先の食事会では、一皿目、野菜の皿の折に使用されたのはナイフとフォークのみ、二皿目はスープなのでスプーンのみ、次の皿も実はナイフとフォークしか使わず、場合によってはフォークのみで召し上がったのではないですか?」

「・・・確かにそうだ・・・」

「そう・・・ですわね」

食事会に出席した面々は腕を組んで思い出す、それぞれの味も同時に思い出されるがそれと同時に自分達が使っていたのはナイフとフォークが中心で、品によってはフォークのみで済ませたはずであった、

「はい、なので、このように考えます、これは料理と連動する必要があるのですが、フォークのみで食べれるように一皿目を盛り付け、それはフォークのみで食べて頂く、次のスープは勿論スプーンで、次の料理はナイフとフォーク・・・そういった感じで、料理を供する側が食べやすいように料理そのものも配慮してあげる事も大事となるのです、すると食器の数はある程度制限できますし、無論次の皿に前の皿の味が移る事はありません」

「・・・そこまでやるのか・・・」

レイナウトが呆気に取られ、他の面々も険しい顔は変わらない、しかしタロウはニコリと微笑み、

「但しここで注意するべき大前提があります、それは・・・」

タロウは少し考え、

「お客様をもてなす、そしてお客様はその趣向に乗る、食事の作法とは、お互いに気持ちよくかつ楽しく会話をする為の舞台と思って下さい、なので、もてなす側はあらゆることに気を使い、もてなされる側もまたその気遣いにある程度従順に従う、そこには互いの敬意が必要になります、もてなす側は整った環境と美味しい料理でそれを表現し、もてなされる側は態度と姿勢でもってそれを受け取る・・・何とも難しい表現になりますが、まさにこれが敬意を表するという事かなと考えます、まぁ、簡単に言えばですよ、楽しい雰囲気や明るい会話は互いに勝手にやっていては醸成できないものです、そうでしょう?いくら仲の良い相手であってもです、その場の全員が協力して盛り上げる必要が出てきます、一人が不愉快そうにしているとそれだけで楽しい気分ではなくなりますからね、そういうものです、で、この舞台装置として用意された料理も食器もその気持ちの良い空間を作るための道具にすぎません、どこまでいっても主役は招く側と招かれた側です、道具ではないです、それを見失ってはいけません」

「それは・・・」

「確かにそうよね」

レイナウトとユスティーナは納得したようで、ライニールは確かにと頷いている、他の面々もなるほどと理解したようだ、

「では次に」

とタロウは料理の順番に関する事、スープにはスープ用の、肉料理にはそれ用の食器が必要である事、白いシーツは当然としてランチョンマットなる品がある事、大皿料理を出したい場合の一工夫等々を説明し、それらに対する活発な質問に丁寧に答えていくのであった。
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