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本編
66話 歴史は密議で作られる その8
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その頃ガラス鏡店の厨房である、朝から料理人とミーンとティルは忙しく動いており、ガラス鏡店も営業している為、コーバとベーチェはそちらに従事し、イフナースのメイド達は日常業務と会場の準備に忙しかった、
「こんなもんでいいのかな?」
料理人が手にしたボウルをミーンとティルに差し出した、本日の料理はタロウが大筋を決めたが、その調理に関しては三人に任せると言い切った、昨晩の打合せ後の事である、料理人としては突然はしごを外された感もあったが、ティルが笑顔でありがとうございますと実にあっさりとその大任を受け、ミーンもその重圧を知ってか知らずかやる気を見せていた、若い二人のその良く言えば前向きで挑戦的、悪く言えば世間知らずで無謀な様子に中年に差し掛かっている料理人としては何とも苦い顔をしてしまう、しかし、タロウは二人に対して全幅の信頼を寄せているようで、料理人にもまた、昨日の調理の段階で事あるごとに流石だとか熟練者は違うねとか何とも背中がむず痒くなってしまう言葉を使っていた、どうやらタロウとはそういうふうに人を使う人なのであろう、料理人としてはそう瞬時に判断し、ここは二人を見習って自分もタロウから教わった技術を昇華させる良い機会であるなと思い直したのであった、
「はい、見た目はいいですね」
「試しましょう」
二人はすぐにスプーンを手に取るとボウルに差し入れる、
「うん、良い味です」
「ですね、これならば昨日のソースにも負けてません」
二人は笑顔を向けた、
「ありがとう、じゃ、これはこれで、次は・・・」
と料理人は周囲を確認した、仕込みが大変な料理はこれで粗方終わりであった、朝からスープを仕込み、ティルが是非出したいと言っていた料理も何とか形になっている、初めての調理であったが出来上がったそれは素晴らしい品となった、さらに肉類と魚の仕込みも終え、後は焼くだけとなっている、蒸し器の使い方も昨日の時点で習得し、蒸し器は今大量の蒸しパンを抱え込んで熱くなっている、
「取り合えずこんなもんですかね・・・」
ミーンが作業台に並んだ品々を見渡す、
「そう・・・だね、うん、ティルさん一旦確認を」
「はい」
ティルが壁際のテーブルに向かう、そこに掲げられた黒板には本日予定している料理とその内容、準備事項が記載されていた、
「ふー・・・少し息を抜かないとな・・・」
料理人は手を拭いながら一息吐いた、ティルが黒板と作業テーブルを見比べており、一つ一つにウンウンと頷いている様子で、
「そうですね・・・どうしましょう、お茶でも淹れましょうか」
「そう・・・だね、確認が終わってからでいいかな?まだ落ち着くのは早いと思う」
料理人はニコリと微笑む、料理人は王城で修行した生粋の職人であった、しかしこちらに派遣され、左遷なのであろうかと少し悩みもしたが、イフナースの件を正式に耳にし、さらにティルから上がってくる報告書をいの一番に確認する重責を任されるに至って、これほど重要な役目であったとはと心を入れ替えて職務に精励している、さらに、昨日のタロウの指導によって、料理そのものの概念を大きく変えざるを得なかった、今まで自分が作ってきた料理がいかに雑なものかを思い知り、と同時に一つの料理では無く、一つの皿に集中するというその思考に大いに感銘を受けた、王城の料理では皿に大量に盛り付けそれを食卓で取り分けるのが当然であったのであるが、そうなると料理とは鍋の中で完結するべきもので、さらに個々人が調味料を使って味を調節する、それは個々人の好みに合わせる為と理解はしている、しかし、タロウの料理は大きく違った、彼の概念は言うなれば皿に盛られて完成する料理であったのである、それにハタと気付いた瞬間にこれこそが料理なのかもしれないと悟るに至った、皿の中で全てが完結するのである、中央に盛られた料理とそれを彩る、この彩るという表現もまた斬新なものであったが、その彩る調味料によって食す者は調味料に手を伸ばす無駄な動きが無くなり、その絵画的な美しさを楽しむ、それはそのまま会話も盛り上がるという事でもあった、料理が話題の中心になり、列席者の口が軽く明るくなる、貴族の食事会にしろ晩餐会にしろ大事な点はここであった、食事で仲を取り持ち、その上で会話を弾ませる、タロウが何度か口にしたもてなすという行為そのものの内、料理が担う事ができる役割を知る事になったのだ、
「えっと、大丈夫かと思います、量的なものは致し方無いと思いますが、作りすぎくらいがいいのかなって思います」
そこへティルが戻って来た、
「そうだね・・・うん、じゃ、少し休もうか」
「はい」
三人は茶道具の置いてある壁際の椅子に腰を下ろした、昨日と比べタロウがいない為実質的に手が一つ足りていない、故に朝からずっと動きっぱなしであったのだ、ガラス鏡店で供するチーズケーキもある為、昨日よりも各段に忙しかったりもした、
「ふー・・・」
ヤレヤレと三人は一息吐いて茶に手を伸ばす、喉を潤してそこで初めて喉が渇いていた事に気付く有様であった、
「後は・・・スープですね」
「そうだね、しかし、このスープは素晴らしいね」
「はい、ビックリしました」
コトコト煮られる鍋に三人の視線が向かう、昨日と同じコンソメスープであった、
「美味しいですよねー」
「だねー・・・でも・・・」
「うん、ソフィアさんが嫌がるのは分かるなー」
ミーンとティルが苦笑いを浮かべた、
「しかし、美味いんだよな・・・」
「そうなんですよねー」
昨日の食事会の後、会場ではそのまま打合せが持たれた、寮に戻る女生徒達を警護した近衛が戻ると、タロウはメイドさんや近衛達も料理を食べるべきだと唐突に言い放った、これにはイフナースと従者の長であるブレフトがそこまでは必要無いと明確に反対したのであるが、タロウはもてなす者がその料理の味を知らなくてはもてなす事に価値を感じられない、いかに美味しく素晴らしい料理を提供しているか、それをしっかりと思い知り、胸を張って供する事がもてなしの最も重要な点だと、それまでの飄々とした態度から一転し強い口調でイフナースとブレフトを諭した、これにはイフナースもブレフトも反論する事が出来なかったらしい、料理人は後からその事を耳にし、タロウに感謝しつつも一体どこでそのような考えに至ったのであろうかと困惑するしかなかった、タロウの弁は情理的に優しく、と同時に求める物の高さが感じられるもので、常々自分も同じような事を考えてはいた、しかし、自分が供する相手は王族である、静かに付き従うしか自分には出来なかったのだ、而して、流石に会場では難しかったが控えの間でより簡単な食事会が開かれ、メイド達と近衛、無論自分も含めて昨日の料理と同じ物を口にしている、さらにその場にはタロウも腰を落ち着けた、タロウはその場で俺もまだ食べてないんだよと率先して手を伸ばし、自ら腕を振るった料理を美味い美味いと平らげ、近衛は当然としてメイド達も負けるものかと手を動かし、そこは先程の食事会よりも普段の食事会のような様相であったが、皆、満足して笑い合ってしまった、これは料理人の職人人生の中でまず無かったことである、その笑顔には遠慮も過剰な褒め言葉も無く、実に純粋な喜びが見て取れた、料理人冥利に尽きるとはこういう事かと心底感じた夜であった、
「それに見た目も素晴らしい・・・戻って同僚達に教えたいが・・・」
「今日はまだ駄目ですよー」
「そうだな、今日のもまた昨日とは違うからな、まだこれからだ」
料理人は大きく溜息を吐いた、
「ふふっ、そうだ、親父達ってどんな感じなんですか?」
ティルが意地悪そうに料理人を見つめる、ティルの父親とその料理人は同じ職場の先輩と後輩であった、ティルは報告書を送ってはいるが王城での具体的な反応は耳にしていない、イフナースやアフラ、王妃達から直接に好評である事は聞いているが、そこまでである、
「どんな感じって、あれ?報告書の事?」
「はい、王妃様からお褒めの言葉を頂くんですけど、厨房の人達としてはどうなのかなって?」
「あー、うん、良い感じかな・・・だけど・・・うん、困ってる感じ?」
料理人はどう説明するべきかと首を傾げる、自身は転送陣を使って日に一度は王城で打合せをしているのであるが、そこでの同僚や上司の反応は難しいものであった、彼らはどうしても大皿料理に固執している感があり、油料理に関してもあまり積極的では無い、油が高額である為と温度を保つ為に一工夫必要である為で、王や王妃には好評であったが調理の現場では好意的に受け入れられていない、さらに先日紹介された蒸し器についても同様で、こちらは単に使い慣れていない為だと思われるが、いずれにしても急激な変化や新しい技術に対して保守的になる者は多く、若い料理人はそうでもないのであるが、上司や年齢の高い者ほどなにかと難癖をつけようとしているように見えた、そしてそれは自分もそうであったと思う、昨日のタロウの指導によって目を開かされたと感じたが、それが無ければ恐らく上司達の意見に今でも迎合していた事であろう、
「そうですかー、残念です」
ティルはしょんぼりと俯く、
「いや、大丈夫、この食事会の形式を知れば皆考えを変えると思う、なにより料理そのものの価値感が大きく変わるからね、今までと同じではいられないよ」
「ですよね」
「うん、それにあのスープも、何より今日はほら・・・」
「そうなんですよねー」
「そうなんだよー」
二人は同時に溜息を吐いた、イフナース主催の食事会も大仕事なのであるが、そこに不随してさらに大きな仕事も舞い込んでしまっており、それは今朝ブレフトから伝えられたのであるが、それはあまりにもと怖気づくほどであった、そこへ、
「お疲れさまー」
タロウがヒョイと顔を出す、
「あっ、お疲れ様です」
ミーンとティルが慌てて立ち上がり、料理人も腰を浮かせた、
「一休み?下ごしらえは終わった感じ?」
タロウはニコニコと荷物を手にして入って来る、
「はい、えっと、あの・・・」
「そうですね、小休止です」
ティルが自分が答えるべきではないと料理人に目配せし、料理人が小さく答えた、
「そっか、悪いね、休んでる所、で、申し訳ないんだけど、最後の料理にね追加したいものが出来たんだよ」
「追加ですか?」
「そっ、今日完成したばかりなんだ、改良の余地はあるんだけど、十分使えるね」
「最後となると」
「そっ、甘いもの」
タロウはニヤリと微笑む、
「えっ、何ですか?」
「またですか?」
女性二人は歓喜の声を上げ、料理人は次は何だと眉を顰めた、
「そうだよー、これがあればちょっと見た目が良くなるかな、エレインさんも夢中になってたよ」
「えっ、会長もですか?」
「うん、だから、まぁ、こっちでも出来ると思うからやってみよう、作れるのは実証済みだし、慣れれば簡単だから」
タロウは手にした木箱を回転機構の隣に置くと、
「少し待っててなー」
と木箱から何やら出し始め、嬉しそうにタロウの傍に駆け寄る二人と、この人は一体どういう人なのかと困惑するしかない料理人であった。
「こんなもんでいいのかな?」
料理人が手にしたボウルをミーンとティルに差し出した、本日の料理はタロウが大筋を決めたが、その調理に関しては三人に任せると言い切った、昨晩の打合せ後の事である、料理人としては突然はしごを外された感もあったが、ティルが笑顔でありがとうございますと実にあっさりとその大任を受け、ミーンもその重圧を知ってか知らずかやる気を見せていた、若い二人のその良く言えば前向きで挑戦的、悪く言えば世間知らずで無謀な様子に中年に差し掛かっている料理人としては何とも苦い顔をしてしまう、しかし、タロウは二人に対して全幅の信頼を寄せているようで、料理人にもまた、昨日の調理の段階で事あるごとに流石だとか熟練者は違うねとか何とも背中がむず痒くなってしまう言葉を使っていた、どうやらタロウとはそういうふうに人を使う人なのであろう、料理人としてはそう瞬時に判断し、ここは二人を見習って自分もタロウから教わった技術を昇華させる良い機会であるなと思い直したのであった、
「はい、見た目はいいですね」
「試しましょう」
二人はすぐにスプーンを手に取るとボウルに差し入れる、
「うん、良い味です」
「ですね、これならば昨日のソースにも負けてません」
二人は笑顔を向けた、
「ありがとう、じゃ、これはこれで、次は・・・」
と料理人は周囲を確認した、仕込みが大変な料理はこれで粗方終わりであった、朝からスープを仕込み、ティルが是非出したいと言っていた料理も何とか形になっている、初めての調理であったが出来上がったそれは素晴らしい品となった、さらに肉類と魚の仕込みも終え、後は焼くだけとなっている、蒸し器の使い方も昨日の時点で習得し、蒸し器は今大量の蒸しパンを抱え込んで熱くなっている、
「取り合えずこんなもんですかね・・・」
ミーンが作業台に並んだ品々を見渡す、
「そう・・・だね、うん、ティルさん一旦確認を」
「はい」
ティルが壁際のテーブルに向かう、そこに掲げられた黒板には本日予定している料理とその内容、準備事項が記載されていた、
「ふー・・・少し息を抜かないとな・・・」
料理人は手を拭いながら一息吐いた、ティルが黒板と作業テーブルを見比べており、一つ一つにウンウンと頷いている様子で、
「そうですね・・・どうしましょう、お茶でも淹れましょうか」
「そう・・・だね、確認が終わってからでいいかな?まだ落ち着くのは早いと思う」
料理人はニコリと微笑む、料理人は王城で修行した生粋の職人であった、しかしこちらに派遣され、左遷なのであろうかと少し悩みもしたが、イフナースの件を正式に耳にし、さらにティルから上がってくる報告書をいの一番に確認する重責を任されるに至って、これほど重要な役目であったとはと心を入れ替えて職務に精励している、さらに、昨日のタロウの指導によって、料理そのものの概念を大きく変えざるを得なかった、今まで自分が作ってきた料理がいかに雑なものかを思い知り、と同時に一つの料理では無く、一つの皿に集中するというその思考に大いに感銘を受けた、王城の料理では皿に大量に盛り付けそれを食卓で取り分けるのが当然であったのであるが、そうなると料理とは鍋の中で完結するべきもので、さらに個々人が調味料を使って味を調節する、それは個々人の好みに合わせる為と理解はしている、しかし、タロウの料理は大きく違った、彼の概念は言うなれば皿に盛られて完成する料理であったのである、それにハタと気付いた瞬間にこれこそが料理なのかもしれないと悟るに至った、皿の中で全てが完結するのである、中央に盛られた料理とそれを彩る、この彩るという表現もまた斬新なものであったが、その彩る調味料によって食す者は調味料に手を伸ばす無駄な動きが無くなり、その絵画的な美しさを楽しむ、それはそのまま会話も盛り上がるという事でもあった、料理が話題の中心になり、列席者の口が軽く明るくなる、貴族の食事会にしろ晩餐会にしろ大事な点はここであった、食事で仲を取り持ち、その上で会話を弾ませる、タロウが何度か口にしたもてなすという行為そのものの内、料理が担う事ができる役割を知る事になったのだ、
「えっと、大丈夫かと思います、量的なものは致し方無いと思いますが、作りすぎくらいがいいのかなって思います」
そこへティルが戻って来た、
「そうだね・・・うん、じゃ、少し休もうか」
「はい」
三人は茶道具の置いてある壁際の椅子に腰を下ろした、昨日と比べタロウがいない為実質的に手が一つ足りていない、故に朝からずっと動きっぱなしであったのだ、ガラス鏡店で供するチーズケーキもある為、昨日よりも各段に忙しかったりもした、
「ふー・・・」
ヤレヤレと三人は一息吐いて茶に手を伸ばす、喉を潤してそこで初めて喉が渇いていた事に気付く有様であった、
「後は・・・スープですね」
「そうだね、しかし、このスープは素晴らしいね」
「はい、ビックリしました」
コトコト煮られる鍋に三人の視線が向かう、昨日と同じコンソメスープであった、
「美味しいですよねー」
「だねー・・・でも・・・」
「うん、ソフィアさんが嫌がるのは分かるなー」
ミーンとティルが苦笑いを浮かべた、
「しかし、美味いんだよな・・・」
「そうなんですよねー」
昨日の食事会の後、会場ではそのまま打合せが持たれた、寮に戻る女生徒達を警護した近衛が戻ると、タロウはメイドさんや近衛達も料理を食べるべきだと唐突に言い放った、これにはイフナースと従者の長であるブレフトがそこまでは必要無いと明確に反対したのであるが、タロウはもてなす者がその料理の味を知らなくてはもてなす事に価値を感じられない、いかに美味しく素晴らしい料理を提供しているか、それをしっかりと思い知り、胸を張って供する事がもてなしの最も重要な点だと、それまでの飄々とした態度から一転し強い口調でイフナースとブレフトを諭した、これにはイフナースもブレフトも反論する事が出来なかったらしい、料理人は後からその事を耳にし、タロウに感謝しつつも一体どこでそのような考えに至ったのであろうかと困惑するしかなかった、タロウの弁は情理的に優しく、と同時に求める物の高さが感じられるもので、常々自分も同じような事を考えてはいた、しかし、自分が供する相手は王族である、静かに付き従うしか自分には出来なかったのだ、而して、流石に会場では難しかったが控えの間でより簡単な食事会が開かれ、メイド達と近衛、無論自分も含めて昨日の料理と同じ物を口にしている、さらにその場にはタロウも腰を落ち着けた、タロウはその場で俺もまだ食べてないんだよと率先して手を伸ばし、自ら腕を振るった料理を美味い美味いと平らげ、近衛は当然としてメイド達も負けるものかと手を動かし、そこは先程の食事会よりも普段の食事会のような様相であったが、皆、満足して笑い合ってしまった、これは料理人の職人人生の中でまず無かったことである、その笑顔には遠慮も過剰な褒め言葉も無く、実に純粋な喜びが見て取れた、料理人冥利に尽きるとはこういう事かと心底感じた夜であった、
「それに見た目も素晴らしい・・・戻って同僚達に教えたいが・・・」
「今日はまだ駄目ですよー」
「そうだな、今日のもまた昨日とは違うからな、まだこれからだ」
料理人は大きく溜息を吐いた、
「ふふっ、そうだ、親父達ってどんな感じなんですか?」
ティルが意地悪そうに料理人を見つめる、ティルの父親とその料理人は同じ職場の先輩と後輩であった、ティルは報告書を送ってはいるが王城での具体的な反応は耳にしていない、イフナースやアフラ、王妃達から直接に好評である事は聞いているが、そこまでである、
「どんな感じって、あれ?報告書の事?」
「はい、王妃様からお褒めの言葉を頂くんですけど、厨房の人達としてはどうなのかなって?」
「あー、うん、良い感じかな・・・だけど・・・うん、困ってる感じ?」
料理人はどう説明するべきかと首を傾げる、自身は転送陣を使って日に一度は王城で打合せをしているのであるが、そこでの同僚や上司の反応は難しいものであった、彼らはどうしても大皿料理に固執している感があり、油料理に関してもあまり積極的では無い、油が高額である為と温度を保つ為に一工夫必要である為で、王や王妃には好評であったが調理の現場では好意的に受け入れられていない、さらに先日紹介された蒸し器についても同様で、こちらは単に使い慣れていない為だと思われるが、いずれにしても急激な変化や新しい技術に対して保守的になる者は多く、若い料理人はそうでもないのであるが、上司や年齢の高い者ほどなにかと難癖をつけようとしているように見えた、そしてそれは自分もそうであったと思う、昨日のタロウの指導によって目を開かされたと感じたが、それが無ければ恐らく上司達の意見に今でも迎合していた事であろう、
「そうですかー、残念です」
ティルはしょんぼりと俯く、
「いや、大丈夫、この食事会の形式を知れば皆考えを変えると思う、なにより料理そのものの価値感が大きく変わるからね、今までと同じではいられないよ」
「ですよね」
「うん、それにあのスープも、何より今日はほら・・・」
「そうなんですよねー」
「そうなんだよー」
二人は同時に溜息を吐いた、イフナース主催の食事会も大仕事なのであるが、そこに不随してさらに大きな仕事も舞い込んでしまっており、それは今朝ブレフトから伝えられたのであるが、それはあまりにもと怖気づくほどであった、そこへ、
「お疲れさまー」
タロウがヒョイと顔を出す、
「あっ、お疲れ様です」
ミーンとティルが慌てて立ち上がり、料理人も腰を浮かせた、
「一休み?下ごしらえは終わった感じ?」
タロウはニコニコと荷物を手にして入って来る、
「はい、えっと、あの・・・」
「そうですね、小休止です」
ティルが自分が答えるべきではないと料理人に目配せし、料理人が小さく答えた、
「そっか、悪いね、休んでる所、で、申し訳ないんだけど、最後の料理にね追加したいものが出来たんだよ」
「追加ですか?」
「そっ、今日完成したばかりなんだ、改良の余地はあるんだけど、十分使えるね」
「最後となると」
「そっ、甘いもの」
タロウはニヤリと微笑む、
「えっ、何ですか?」
「またですか?」
女性二人は歓喜の声を上げ、料理人は次は何だと眉を顰めた、
「そうだよー、これがあればちょっと見た目が良くなるかな、エレインさんも夢中になってたよ」
「えっ、会長もですか?」
「うん、だから、まぁ、こっちでも出来ると思うからやってみよう、作れるのは実証済みだし、慣れれば簡単だから」
タロウは手にした木箱を回転機構の隣に置くと、
「少し待っててなー」
と木箱から何やら出し始め、嬉しそうにタロウの傍に駆け寄る二人と、この人は一体どういう人なのかと困惑するしかない料理人であった。
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