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本編
66話 歴史は密議で作られる その6
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その後、三階の研究所は興奮したカトカによってひっかき回され、やっと事の重要性に気付いたユーリは学園に走り、丁度よそ行き用に身形を整えていた学園長を捕まえて戻って来た、
「なるほど・・・なるほど・・・」
学園長はアバカスを左に黒板を右に置いてカトカの説明に耳を傾ける、
「以上となりますが、どうお考えになりますか」
カトカは落ち着いて静かに問う、先程までの狂奔はすっかりと鳴りを潜め、しかし、小さく燃える興奮は未だ心中を騒がせている、サビナとゾーイも慣れない訪問着のままに巻き込まれたのであるが、先程までの浮かれた気持ちはすっかりと抜け落ち真面目な視線を学園長に向けていた、
「・・・うん、素晴らしい・・・確かにその通りなのじゃな・・・」
学園長は腕を組んでうんうんと頷くと、
「これを、レスタさん、あなたが発案したと・・・」
学園長の強い視線がレスタに向かう、レスタは三階に来てからほぼ一言も発さず小さな身体をさらに小さくして俯いていた、カトカの勢いに完全に飲まれてしまい、カトカが研究所の面々に説明している間も学園長に説明している間も、時折カトカが確認する事に黙って頷くしかなかった様子である、
「・・・えっと・・・はい・・・」
静まり返った研究所内に食堂で騒ぐミナの声が微かに響き、レスタはここは自分が口を開かないと駄目なのだなと覚悟を決め、そっと顔を上げると何とか呟いた、しかし、視線はまだ俯いたままで全身は強張っている、
「そうか・・・そうか・・・」
学園長はジッとレスタを見つめ、
「うむ、そうすると、あれか、ブラスさんに製作は依頼したのじゃな」
とカトカに向き直る、
「はい、10玉のと5玉のを、取り合えず試作を依頼しております」
「そうか、それが来てからでも良いと思うが・・・うん、いや、良いぞ、うん、実に良い」
静かであった学園長が一転顔を紅潮させ、
「では、レスタさん、その試作が出来てからで良いのだが、実際に使ってみよう、でな、やはり、10玉のアバカスでは要領を得ない、5玉のアバカスでもって、この技術をしっかりと確立する必要がある」
「・・・」
再び学園長がレスタを睨むも、レスタは小さく俯いた状態に戻っていた、レスタとしては何となく思いついた事を口にしただけだったのであるが、こんな大事になるとは思っておらず、ユーリや研究所の三人に関してはだいぶ慣れた方であるが、やはり学園長は馴染みが薄い、挙句男性で学園の一番偉い人なのである、人見知りで人一倍奥ゆかしいレスタとしてしてはカトカの興奮にも付いていくのに必死であったが、学園長のそれは恐怖以外の何者でもなかった、
「でな、儂が思うに計算方法じゃな、これをより分かりやすくする必要がある、作業そのものは遥かに簡便になると思うが、やや特殊なものになるかもしれん、というか、特殊じゃな、10玉であればただ弾けばいいだけじゃが、5玉となると少々の訓練が必要になるし、慣れも大事だ、だから、それを補う必要があるのと、なにより実務的な側面でもって最適な使い方が事例として必要になろう、しかし、儂が思うに慣れればこれは実に良いものだと思う、これは比較検討が必要であるが、そうだな、アバカスそのものを小さく出来るし、それと、あれだ、視認性も上がろう、10玉ではぱっと見では分らん部分もあるが、5玉であれば判別が容易、うん、しかし、それも実物があればじゃな、うん」
学園長が紅潮した顔のまま捲し立てるもレスタは何とも反応のしようが無い、黙して俯いたままである、しかし同時に頭は回転もしていた、学園長の語る事は実に理に適っている、自分はそこまでは考えておらず、単に10玉のアバカスを玉が多いなーと感じ、少なくする事は出来るのかなと少しばかり考えただけであったのだ、
「あー・・・学園長・・・」
そこでやっとユーリがレスタの置かれた状況と態度からその性格を思い出す、ユーリが見る限り新入生の中にあってレスタは常に影に隠れて小さくなっているように見えた、常に明るく活動的なサレバとそれに振り回されるように付き合いの良いコミン、グルジアは大人として中心的な存在となり、ルルはジャネット達と一緒になって騒いでいるのが目につく、しかし、レスタはそうした連中をニコニコと笑顔で見守っているようであった、別に疎まれている訳でも邪見にされている訳でもないのであるが、自分から積極的に動く質ではないのであろう、
「なんじゃ?」
「興奮しすぎですよ、気持ちは分かりますし、私もそうでしたから・・・ですけど・・・」
集団にあって一人が興奮しすぎると周りの人物は何故か落ち着くもので、今まさにユーリはさっきまでは私もこうだったなと小さく反省するほどに落ち着きを取り戻し、そして、レスタと学園長の様子を隣で見る限り、それは生徒を叱責する先生そのままの姿であり、とても褒めているとも論理的な話しをしているとも見えない有様であった、
「ごめんね、レスタさん、私ももう少し冷静に対処するべきだったわ」
ユーリは小さく謝罪すると、
「でも、それだけ画期的な事だと思うのよね、うん、あなた、凄いわよ」
ニコリと笑顔を見せる、
「・・・あの・・・はい、すいません」
レスタはゆっくりと顔を上げてユーリを見上げる、怯えた様な瞳であったが、若干肩の力が抜けたようでもあった、
「あやまらないの、褒めてるんだから」
ユーリは優しい口調を心掛け、
「で、どうします、学園長、これはその試作が出来るまで一旦保留にします?」
「むっ・・・うむ、儂としてもそれが良いと思う、何より実際に使ってみないと分らん」
「ですよね・・・そうなると、ブラスさんはいつできるって言ってた?」
「あー、すいません、確認してないです」
「そっか、でも、造作そのものは難しく無いわよね」
ユーリはテーブル上のアバカスに手を伸ばす、数本の串と木枠、それと玉があれば作れる品で、その木製の玉は何とも不揃いである、それでも十分に役目は果たせるのであろう、学園長曰く帝国ではこれが当たり前に店先で使われていたとの事で、それはすなわち大量に生産できるという事でもあった、
「あっ、どうじゃ、それを壊して5玉にしてみるか」
学園長がユーリの手元に視線を向ける、
「えっ・・・いいんですか?」
「おう、なに、事務室にあと3つはあるからな」
「・・・先に言って下さいよ、それ」
「べつに言う必要は無かろう、どれ」
学園長はアバカスを受け取ると、どうやって壊すべきかと各部を見渡し、簡単に木枠を外してみせた、
「あら、簡単そうですね」
サビナが軽く驚く、
「じゃのう」
学園長はニヤリと微笑み玉を外すと適当に並べ、木枠を付け直す、
「で、じゃ、こういう事かな?」
玉が半減したそれは何とも寂しそうに見えるが、学園長はそのうちの左端の玉を一つ左に寄せ、残りの四つを右に寄せる、
「ふむ、で、真ん中で計算する感じじゃな」
玉を一つ二つと真ん中に揃えるように指先で弾くが、そこはそのような用途では作られていない為、簡単に右端、左端にと寄ってしまう、
「あー、そうなりますよね・・・」
カトカが首を傾ける、他の面々も学園長の手元を覗き込む、レスタもやっと首を伸ばしてその作業を見つめている、
「うむ、これはほれ、真ん中が盛り上がっておるからな、端に寄せる為の構造じゃ、反対・・・は難しいか・・・いや、こうなるとじゃ、この盛り上がりを無くして、直線にすれば楽になるのではないかな」
「そのようですね・・・」
「それはほら道具の工夫の問題ですよ」
「それが大事じゃろ、そこが第一点、で、実際に計算するとなると」
学園長はぶつぶつと数字を唱え、もどかしい手付きで玉を中央付近に集める、
「うむ、なるほど・・・確かにこれは良いな・・・」
「ですね」
「うん、見やすいと思います」
「あー、でも、5の玉と1の玉の判別を明確にしたいですね」
「おう、そうじゃな、どうだ、5の玉を赤く色づけるのは?」
「その色剝げません?使っているうちに」
「それはやってみなければ分らんじゃろう」
「そうですけど、どうせなら木の色で変えるとか?」
「手垢で真っ黒になるぞ」
「そんな事言ったら赤だってそうですよ」
「・・・かもしらん」
アバカスを囲んでうんうんと唸る大人達を見て、レスタは、
「あの・・・」
と小さく声を上げた、
「なに?」
一斉に五人の視線がレスタに向かう、瞬間レスタは再び小さくなってしまった、
「あー、ごめんなさい、怒ってる訳じゃないんだから、分かるでしょ」
ユーリがこれはこれでめんどくさいなと苦笑いとなってしまう、ここまで奥手で謙虚過ぎると会話も難しいのだなと呆れてもいた、ジャネットやサレバの図々しさを少し別けて貰った方がいいかしら等とつまらない事を考えてしまう、
「あっ、はい、御免なさい」
レスタはユルユルと顔を上げ、しかし、大人達の視線は自分に向いたままである、再び俯きかげんになるが、意を決して、
「・・・あの、その、真ん中にですね・・・仕切りがあると楽になるかもって・・・思いまして・・・」
おずおずと口にしたのは改善案であった、エッと大人達は驚き、その視線がアバカスに戻る、
「・・・そうか、仕切り・・・何かあるか?」
「はい、えっと、定規あったかな」
「あります」
カトカがバタバタと作業テーブルに走り、すぐに棒状の定規を学園長に差し出す、
「これを中央に置くのか?」
学園長が確認すると、レスタはコクリと頷き、学園長も頷き返すとアバカスに定規を当て、少々使いづらい感はあるがそのまま再び玉を弾く、定規に当たってコンと気持ちの良い音が響いた、
「これだ・・・」
「うん、分かりやすい・・・」
「そうだね・・・うわっ・・・レスタさん・・・あなた天才だわ・・・」
「うむ、素晴らしい・・・」
大人達の絶賛の溜息が響いた、
「えっと・・・計算できますよね・・・」
レスタが不安そうに学園長の手元を見つめる、
「出来るぞ、うん、それに分かりやすい」
「そうですね、慣れは必要でしょうが」
「10玉よりも遥かに便利ですよ」
「この形で作り直しましょう」
「そうじゃな、作りそのものは大きく・・・いや、中央の膨らみを無くして、真ん中に仕切りを入れて」
「はい、左側に玉を1つ、右側に4つ」
カトカが黒板に追記する、
「うむ、レスタさん、これは歴史に残るぞ、何と名付けよう・・・レスタ式アバカスかな?」
「気が早いですよ」
「何を言う、今儂らは大発明に協力したのじゃ、レスタさん、家名はなんという?」
「・・・ベルメル・・・です」
「では、ベルメル式アバカスかな、どちらが良い?」
「・・・えっと・・・」
「いや、面倒じゃ、この計算機をベルメルと名付けよう、いや、レスタかな、いや、ベルメルの方がそれっぽい、どうだ?」
「・・・何とも・・・」
そんな事を言われてもなと実に困った顔となるレスタと、再びの興奮に身を捩る学園長、ユーリ達もまた確かにこれは歴史的な発明かもしれないと息を飲むのであった。
「なるほど・・・なるほど・・・」
学園長はアバカスを左に黒板を右に置いてカトカの説明に耳を傾ける、
「以上となりますが、どうお考えになりますか」
カトカは落ち着いて静かに問う、先程までの狂奔はすっかりと鳴りを潜め、しかし、小さく燃える興奮は未だ心中を騒がせている、サビナとゾーイも慣れない訪問着のままに巻き込まれたのであるが、先程までの浮かれた気持ちはすっかりと抜け落ち真面目な視線を学園長に向けていた、
「・・・うん、素晴らしい・・・確かにその通りなのじゃな・・・」
学園長は腕を組んでうんうんと頷くと、
「これを、レスタさん、あなたが発案したと・・・」
学園長の強い視線がレスタに向かう、レスタは三階に来てからほぼ一言も発さず小さな身体をさらに小さくして俯いていた、カトカの勢いに完全に飲まれてしまい、カトカが研究所の面々に説明している間も学園長に説明している間も、時折カトカが確認する事に黙って頷くしかなかった様子である、
「・・・えっと・・・はい・・・」
静まり返った研究所内に食堂で騒ぐミナの声が微かに響き、レスタはここは自分が口を開かないと駄目なのだなと覚悟を決め、そっと顔を上げると何とか呟いた、しかし、視線はまだ俯いたままで全身は強張っている、
「そうか・・・そうか・・・」
学園長はジッとレスタを見つめ、
「うむ、そうすると、あれか、ブラスさんに製作は依頼したのじゃな」
とカトカに向き直る、
「はい、10玉のと5玉のを、取り合えず試作を依頼しております」
「そうか、それが来てからでも良いと思うが・・・うん、いや、良いぞ、うん、実に良い」
静かであった学園長が一転顔を紅潮させ、
「では、レスタさん、その試作が出来てからで良いのだが、実際に使ってみよう、でな、やはり、10玉のアバカスでは要領を得ない、5玉のアバカスでもって、この技術をしっかりと確立する必要がある」
「・・・」
再び学園長がレスタを睨むも、レスタは小さく俯いた状態に戻っていた、レスタとしては何となく思いついた事を口にしただけだったのであるが、こんな大事になるとは思っておらず、ユーリや研究所の三人に関してはだいぶ慣れた方であるが、やはり学園長は馴染みが薄い、挙句男性で学園の一番偉い人なのである、人見知りで人一倍奥ゆかしいレスタとしてしてはカトカの興奮にも付いていくのに必死であったが、学園長のそれは恐怖以外の何者でもなかった、
「でな、儂が思うに計算方法じゃな、これをより分かりやすくする必要がある、作業そのものは遥かに簡便になると思うが、やや特殊なものになるかもしれん、というか、特殊じゃな、10玉であればただ弾けばいいだけじゃが、5玉となると少々の訓練が必要になるし、慣れも大事だ、だから、それを補う必要があるのと、なにより実務的な側面でもって最適な使い方が事例として必要になろう、しかし、儂が思うに慣れればこれは実に良いものだと思う、これは比較検討が必要であるが、そうだな、アバカスそのものを小さく出来るし、それと、あれだ、視認性も上がろう、10玉ではぱっと見では分らん部分もあるが、5玉であれば判別が容易、うん、しかし、それも実物があればじゃな、うん」
学園長が紅潮した顔のまま捲し立てるもレスタは何とも反応のしようが無い、黙して俯いたままである、しかし同時に頭は回転もしていた、学園長の語る事は実に理に適っている、自分はそこまでは考えておらず、単に10玉のアバカスを玉が多いなーと感じ、少なくする事は出来るのかなと少しばかり考えただけであったのだ、
「あー・・・学園長・・・」
そこでやっとユーリがレスタの置かれた状況と態度からその性格を思い出す、ユーリが見る限り新入生の中にあってレスタは常に影に隠れて小さくなっているように見えた、常に明るく活動的なサレバとそれに振り回されるように付き合いの良いコミン、グルジアは大人として中心的な存在となり、ルルはジャネット達と一緒になって騒いでいるのが目につく、しかし、レスタはそうした連中をニコニコと笑顔で見守っているようであった、別に疎まれている訳でも邪見にされている訳でもないのであるが、自分から積極的に動く質ではないのであろう、
「なんじゃ?」
「興奮しすぎですよ、気持ちは分かりますし、私もそうでしたから・・・ですけど・・・」
集団にあって一人が興奮しすぎると周りの人物は何故か落ち着くもので、今まさにユーリはさっきまでは私もこうだったなと小さく反省するほどに落ち着きを取り戻し、そして、レスタと学園長の様子を隣で見る限り、それは生徒を叱責する先生そのままの姿であり、とても褒めているとも論理的な話しをしているとも見えない有様であった、
「ごめんね、レスタさん、私ももう少し冷静に対処するべきだったわ」
ユーリは小さく謝罪すると、
「でも、それだけ画期的な事だと思うのよね、うん、あなた、凄いわよ」
ニコリと笑顔を見せる、
「・・・あの・・・はい、すいません」
レスタはゆっくりと顔を上げてユーリを見上げる、怯えた様な瞳であったが、若干肩の力が抜けたようでもあった、
「あやまらないの、褒めてるんだから」
ユーリは優しい口調を心掛け、
「で、どうします、学園長、これはその試作が出来るまで一旦保留にします?」
「むっ・・・うむ、儂としてもそれが良いと思う、何より実際に使ってみないと分らん」
「ですよね・・・そうなると、ブラスさんはいつできるって言ってた?」
「あー、すいません、確認してないです」
「そっか、でも、造作そのものは難しく無いわよね」
ユーリはテーブル上のアバカスに手を伸ばす、数本の串と木枠、それと玉があれば作れる品で、その木製の玉は何とも不揃いである、それでも十分に役目は果たせるのであろう、学園長曰く帝国ではこれが当たり前に店先で使われていたとの事で、それはすなわち大量に生産できるという事でもあった、
「あっ、どうじゃ、それを壊して5玉にしてみるか」
学園長がユーリの手元に視線を向ける、
「えっ・・・いいんですか?」
「おう、なに、事務室にあと3つはあるからな」
「・・・先に言って下さいよ、それ」
「べつに言う必要は無かろう、どれ」
学園長はアバカスを受け取ると、どうやって壊すべきかと各部を見渡し、簡単に木枠を外してみせた、
「あら、簡単そうですね」
サビナが軽く驚く、
「じゃのう」
学園長はニヤリと微笑み玉を外すと適当に並べ、木枠を付け直す、
「で、じゃ、こういう事かな?」
玉が半減したそれは何とも寂しそうに見えるが、学園長はそのうちの左端の玉を一つ左に寄せ、残りの四つを右に寄せる、
「ふむ、で、真ん中で計算する感じじゃな」
玉を一つ二つと真ん中に揃えるように指先で弾くが、そこはそのような用途では作られていない為、簡単に右端、左端にと寄ってしまう、
「あー、そうなりますよね・・・」
カトカが首を傾ける、他の面々も学園長の手元を覗き込む、レスタもやっと首を伸ばしてその作業を見つめている、
「うむ、これはほれ、真ん中が盛り上がっておるからな、端に寄せる為の構造じゃ、反対・・・は難しいか・・・いや、こうなるとじゃ、この盛り上がりを無くして、直線にすれば楽になるのではないかな」
「そのようですね・・・」
「それはほら道具の工夫の問題ですよ」
「それが大事じゃろ、そこが第一点、で、実際に計算するとなると」
学園長はぶつぶつと数字を唱え、もどかしい手付きで玉を中央付近に集める、
「うむ、なるほど・・・確かにこれは良いな・・・」
「ですね」
「うん、見やすいと思います」
「あー、でも、5の玉と1の玉の判別を明確にしたいですね」
「おう、そうじゃな、どうだ、5の玉を赤く色づけるのは?」
「その色剝げません?使っているうちに」
「それはやってみなければ分らんじゃろう」
「そうですけど、どうせなら木の色で変えるとか?」
「手垢で真っ黒になるぞ」
「そんな事言ったら赤だってそうですよ」
「・・・かもしらん」
アバカスを囲んでうんうんと唸る大人達を見て、レスタは、
「あの・・・」
と小さく声を上げた、
「なに?」
一斉に五人の視線がレスタに向かう、瞬間レスタは再び小さくなってしまった、
「あー、ごめんなさい、怒ってる訳じゃないんだから、分かるでしょ」
ユーリがこれはこれでめんどくさいなと苦笑いとなってしまう、ここまで奥手で謙虚過ぎると会話も難しいのだなと呆れてもいた、ジャネットやサレバの図々しさを少し別けて貰った方がいいかしら等とつまらない事を考えてしまう、
「あっ、はい、御免なさい」
レスタはユルユルと顔を上げ、しかし、大人達の視線は自分に向いたままである、再び俯きかげんになるが、意を決して、
「・・・あの、その、真ん中にですね・・・仕切りがあると楽になるかもって・・・思いまして・・・」
おずおずと口にしたのは改善案であった、エッと大人達は驚き、その視線がアバカスに戻る、
「・・・そうか、仕切り・・・何かあるか?」
「はい、えっと、定規あったかな」
「あります」
カトカがバタバタと作業テーブルに走り、すぐに棒状の定規を学園長に差し出す、
「これを中央に置くのか?」
学園長が確認すると、レスタはコクリと頷き、学園長も頷き返すとアバカスに定規を当て、少々使いづらい感はあるがそのまま再び玉を弾く、定規に当たってコンと気持ちの良い音が響いた、
「これだ・・・」
「うん、分かりやすい・・・」
「そうだね・・・うわっ・・・レスタさん・・・あなた天才だわ・・・」
「うむ、素晴らしい・・・」
大人達の絶賛の溜息が響いた、
「えっと・・・計算できますよね・・・」
レスタが不安そうに学園長の手元を見つめる、
「出来るぞ、うん、それに分かりやすい」
「そうですね、慣れは必要でしょうが」
「10玉よりも遥かに便利ですよ」
「この形で作り直しましょう」
「そうじゃな、作りそのものは大きく・・・いや、中央の膨らみを無くして、真ん中に仕切りを入れて」
「はい、左側に玉を1つ、右側に4つ」
カトカが黒板に追記する、
「うむ、レスタさん、これは歴史に残るぞ、何と名付けよう・・・レスタ式アバカスかな?」
「気が早いですよ」
「何を言う、今儂らは大発明に協力したのじゃ、レスタさん、家名はなんという?」
「・・・ベルメル・・・です」
「では、ベルメル式アバカスかな、どちらが良い?」
「・・・えっと・・・」
「いや、面倒じゃ、この計算機をベルメルと名付けよう、いや、レスタかな、いや、ベルメルの方がそれっぽい、どうだ?」
「・・・何とも・・・」
そんな事を言われてもなと実に困った顔となるレスタと、再びの興奮に身を捩る学園長、ユーリ達もまた確かにこれは歴史的な発明かもしれないと息を飲むのであった。
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