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本編
66話 歴史は密議で作られる その2
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「これは面白い・・・」
「うわっ、美味しい・・・」
「確かに、うん、美味しい」
「不思議な感覚ー」
「じゃなー」
それからタロウは二つほど綿飴を作ったのであるが、タロウ自身はまるで納得のいく代物では無かった、回転が少ないのか、飴玉ではやはりこの程度なのかと首を捻る、本来であればザラメを使うべきであるが、そのザラメを作るのが大変に難しい、少なくとも王国では不可能であろうし、帝国でも難しかろうなと思う、しかし、その場の他の者には十分に好評であった、串の先にミナの拳大程度にちんまりと形成されたそれを、一本目のそれはミナがあっという間に食べ尽くしてしまったが、二本目三本目のそれを軽くちぎって口に運び、飴玉とは大きく異なる食感に歓声を上げた、やはり口に入れた瞬間に口中で蕩けるように無くなる楽しさと、味は飴玉のそれと大きくは変わらないがそこはしっかりとした甘みが舌に残り、その見た目も相俟って皆目を白黒させて楽しんだ、
「飴をね、熱で柔らかくしてこの穴から出すんだな、原理は簡単なんだよ、原理は」
「なるほど・・・」
「へー、いや、妙な道具だなって思ってましたけど・・・」
「そうなると穴を大きくするか・・・数を増やすか・・・どうかなー・・・」
「あっ、改良ですよね」
「うん、穴はこれで良いと思うんだけど・・・穴の数を増やしてみるか」
「そうですね、あと、飴の容量も増やしてみましょう、回転数も激しくしてみますか?」
「これ以上出来る?」
「足踏み式のものであれば、向こうの方が勢いはいいですよ」
「そっか、出来るのであればやってみても・・・赤い魔法石少し増やしてみてもいいかな」
「熱も大事ですよね」
「そういう事・・・」
古い回転機構から囲いを外してじっくりと打合せに入るタロウとリノルト、さらにエレインとリーニーも額を寄せている、エレインはこれは売れると直感し、リーニーも興奮の為か鼻息を荒くして覗き込んでいる、
「まっ、これの改良は頼むよ、何個か作ってもらってそれで試してみよう」
「分かりました、穴の数と大きさと、容量と、はい、やってみます」
リノルトはニヤリと微笑む、先日椅子の改良の折りにタロウからついでに作ってみてと気軽に依頼されたその品は、正直何に使う物かまるで分らなかった、しかし、タロウのいう事でもあるしと、昨日の内に手慰みで作ってみたのであるが、それがこうして未知の料理に使われたのである、リノルトとしては驚愕するしかなく、その綿飴も口にしたが、リノルトの人生で、いや、王国人でもこのような食感と味を体験したのはこの場にいる人間だけであろう、
「うん、あとは・・・」
「タロウさん、是非、うちで取り扱わせてください」
エレインが真剣な瞳でタロウを見上げる、
「それは構わないよ、俺の国ではね、屋台とかで売ってるような商品でね、子供に大人気なんだな」
タロウはあっさりと答える、
「ありがとうございます、では、リノルトさん、費用はこちらで」
「あー、それは全然気にしないで下さい、タロウさんから前払いで貰ってます」
「それは違うだろ」
「違いませんよ、これもあれの料金分です」
「そうか?」
「はい、十分過ぎるほどなので」
「まぁ、そういうなら、まぁ」
「タローもっと欲しいー」
真面目な話しに更ける四人にミナが割って入った、
「えっ・・・まぁいいけど、じゃ、ほら、やってみるか?」
「いいの?」
ミナがピョンと飛び跳ねた、
「出来るぞ、難しくないが、簡単ではないな」
ニヤリとタロウが微笑み、囲いを付け直す、
「あの、私もいいですか?」
リーニーもおずおずとタロウに近寄った、
「ん、勿論だよ、飴ってまだある?」
「あります」
マフダが叫んで事務所に走った、先日作った分で従業員から死守し、ソフィアに御礼として渡した分以外に事務所用にと確保していた飴玉が隠してある、この辺の抜け目なさが姉妹の多いマフダならではであった、
「じゃ、火の取り扱いには気をつけて、この魔法石の使い方って分かる?」
とタロウは赤い魔法石の使用方法から懇切丁寧に解説を始めた、エレインとリーニーはふんふんと頷き、ミナは串を手にしてまだかなーとタロウを見上げている、奥様達はもう少しその様子を眺めていたかったらしいがもう店舗の開店時間である、名残惜しそうにぞろぞろと店舗に向かった、
「こんな感じ、で、上から見てると分かるんだけど、このね、囲いの内側に糸がまとわりついてくるんだな、それを串の先で集める感じかな」
「なるほど・・・」
「まぁ、見てれば分るよ」
マフダが飴の詰まった壺を片手に戻ってきて、タロウは早速と先程同様に飴玉を設置する、
「じゃ、俺が回すから、ミナ、やってみ?」
「わかったー」
リーニーが用意した椅子に飛び乗ってミナが串を振り回す、
「こりゃ、危ない」
「うー・・・」
タロウが慌ててミナの手を押さえ、ミナは怒られると瞬時に顔を暗くするが、
「慌てないでいいぞ、ゆっくりでいいからな」
タロウはミナの目を見つめて言い含めると、
「うん、えっと、慌てないで、ゆっくり?」
「そっ、それと串を持って振り回しちゃ駄目だ、危ないからな」
「うん、わかった」
「よし、いいぞ、じゃ、回すぞー」
「うん」
ミナはパッと顔を明るくして真剣な瞳を囲いに向ける、エレインとリーニーも覆いかぶさるように見つめ、レインとニコリーネもその隙間から覗こうとするが難しく、マフダも背が足らない為にむーと顔を顰めて三人の背を羨ましそうに眺めている、
「あっ、これ?これ?」
「出て来た?」
「でたー、糸みたいー、毛糸ー、細いー、モヤモヤー」
「おう、それだ」
「へー、すごい・・・」
「うん、これは興味深い・・・」
「これをどうするの?どうやるの?」
「串の先でクルクルって巻き取るんだよ」
「わかったー」
どこまで理解しているのかは分らないがミナは串を突っ込むと、
「わっ、くっついたー」
「だろ、それを先の方にまとめるんだ」
「わっ、わっ、難しいー」
「だろー」
「うん、でもたのしいー」
「そっか、そっか」
暫くしてミナが串を持ち上げると、その串には満遍なく綿飴が絡まっており、さらにその小さな手にも綿飴が纏わりついている、とても先程タロウが作ったものと同じ物とは言えない有様で、
「わっ、何か、変だー」
それでもミナは嬉しそうに自分の手と棒を見て満面の笑みである、
「あー、やっぱりそうなるよなー、ミナ、へたっちょー」
「えー、初めてだもん」
「そりゃそうだな、慣れればもう少し上手くなるぞ、ほら、お姉ちゃん達と交代だ」
「うー、これ食べれる?」
「勿論だぞ、手についたのが旨いんだ」
「ホント?」
「あー・・・半分ウソー」
「えーっ、タロウ嘘つきー」
「あっはっは、大人は嘘つきなんだよー、ほら、どけて、折角作ったんだからしっかり食べなさい」
「うん」
ミナは大きく頷いて椅子から下りた、代わってエレインが串を構えると、
「失礼します、こちらでしたか・・・」
アフラがヒョイと顔を出す、
「わっ、あっ、すいません、お迎えもしませんで」
エレインが慌てて振り向いた、
「いえっ、こちらこそ勝手に入ってしまいました、何やらタロウさんがバタバタやっていたとユーリ先生に伺いまして」
アフラが申し訳なさそうにスッと居住まいを正す、
「もうそんな時間?」
タロウはそう言えばと頭をかいた、
「そうですね、午前の早い時間とお伝えしたと思います」
アフラがニコリと微笑む、
「そうだよね、じゃ、ごめん、これはこれで置いておくから、お好きにどうぞ、火事には気をつけてね、それと、昼頃に取りに来るかもだから、そん時までかな」
タロウはその場をリノルトに代わり、
「ミナー、お仕事だからちょっと行ってくるぞー、一旦戻るかもだけど、食事会にはいるからな、泣くなよー」
「わかったー、お仕事?」
ミナは自分の手にかじりついており、串に着いた分はレインとニコリーネとマフダがつまみながら食べている、それはそれで楽しそうであった、
「そっ、お仕事、今日も美味しい御馳走だからな、おめかしするように」
「わかったー、おめかしするー、おしとやかにするー」
「そだな、じゃ、リノルトさん、さっきの件、お願い」
「はい、明日には仕上がります」
「そこまで急がなくていいよ」
「いえ、急いでください」
エレインがキッとリノルトを睨んだ、これにはリノルトがまず驚くが、まぁ気持ちは分かるかなと半笑いで了承する、
「ん、じゃ」
とタロウはアフラを伴ってそそくさと寮に戻り、そのまま三階へ向かう、そこではカトカとサビナとゾーイが待ち受けており、三人揃って何とも難しい顔であった、
「あら、おはようどしたの?」
タロウが思わず首を傾げると、
「素直じゃないのよー」
ユーリがふらりと研究室から出て来た、
「そう言いますけどー」
「そうですよー、昨日の今日ですよー」
「まったくです」
三人は一斉に不満の声を上げる、
「ありゃ・・・別にいいんじゃないの?折角だもん」
タロウはサンダルを締め直しながら適当に答え、
「そうよー、第一あんたらはほら、名誉男爵様になるんだから、その準備も必要でしょ」
ユーリはニヤニヤと微笑む、
「そうですね、それもありました、もう少し落ち着いてからと思っておりましたが、それも見越して対応が必要でしたね」
アフラが事務的に答える、
「・・・忘れてた・・・」
「・・・それどころじゃないような・・・」
「・・・大変だ・・・ハー」
一斉に溜息を吐く三人である、
「アッハッハ、まぁ、そういう事もあるもんよ、第一サビナ先生としても知っておいて損はないでしょ」
「そりゃそうですけど・・・」
「所長は本当にあれでいいんですか?」
「そりゃもう、私の正装はあれだもん」
「一人だけずるいですよ」
「あらー、なら今から魔法使いになるのかしら?そうすればあれで済みますのよカトカさーん」
「・・・今更何を言っているんですか・・・」
「ねー、今更よねー」
「もう」
ブーブーと不満気な三人と余裕の笑みを浮かべるユーリである、昨日の食事会の後、今日の食事会に出席する面々が居残って打合せとなったのであるが、そこでまず問題とされたのがタロウの衣服であった、昨日タロウは普段通りの適当な衣服であったのだが、それでは駄目だろうとイフナースが言い出し、それもそうだと賛同の声が上がる、しかし、タロウは訪問着も正装も持っていなかった、正確には仕立てた記憶はあるし着た記憶もあるが、どこにあるのかを覚えていないし気にもしていない、故に急遽ゾーイが北ヘルデルに走りクロノスに助力を願うと、アフラがすっ飛んで来て、タロウの服装について議論が交わされた、そこで、取り合えずタロウにはブレフト同様にこざっぱりとした従者向けの衣装が用意される事となった、そして、アフラはパトリシアからの提案という形でカトカ達三人の訪問着も用意すると言い出した、これには三人は勿体ないと遠慮したのであるが、ユーリとイフナースがそれは大事だとパトリシアの提案にのり、こうして翌日には四人揃って北ヘルデルに向かう事となったのである、
「あっ、そう言えば、あんた、何やってたの?」
ユーリがニヤニヤ笑いをタロウに向けた、
「ん?あぁ、リノルトさんがね、依頼した物を作ってくれたからねー、それで新しい料理?」
「新しい?」
「料理?」
アフラを含めた五人がピクリと反応する、
「そだよー、今日の食事会に間に合えばいいかなーって感じだったけど、何とかなったね、ちょっとだけ御洒落になるかなー」
タロウはのほほんと答えるも、
「また?」
ユーリがキッと睨みつけ、
「それはいったいどのような?」
アフラも先程のあれがそうだったのかとタロウを伺う、
「どのようなって・・・まぁ、今日の食事会を楽しみにしておきなさいよ、出す予定だからさ」
タロウはニマニマと微笑み、
「転送室でいいの?」
とあっさりと話題を切り上げた、
「あっ、はい」
アフラが先に立って転送室へ向かうと、一人残ったユーリは、
「まったく・・・事の重大性が分かっているのかしらあの男は・・・」
とその背が消えた廊下を睨んで溜息を吐くのであった。
「うわっ、美味しい・・・」
「確かに、うん、美味しい」
「不思議な感覚ー」
「じゃなー」
それからタロウは二つほど綿飴を作ったのであるが、タロウ自身はまるで納得のいく代物では無かった、回転が少ないのか、飴玉ではやはりこの程度なのかと首を捻る、本来であればザラメを使うべきであるが、そのザラメを作るのが大変に難しい、少なくとも王国では不可能であろうし、帝国でも難しかろうなと思う、しかし、その場の他の者には十分に好評であった、串の先にミナの拳大程度にちんまりと形成されたそれを、一本目のそれはミナがあっという間に食べ尽くしてしまったが、二本目三本目のそれを軽くちぎって口に運び、飴玉とは大きく異なる食感に歓声を上げた、やはり口に入れた瞬間に口中で蕩けるように無くなる楽しさと、味は飴玉のそれと大きくは変わらないがそこはしっかりとした甘みが舌に残り、その見た目も相俟って皆目を白黒させて楽しんだ、
「飴をね、熱で柔らかくしてこの穴から出すんだな、原理は簡単なんだよ、原理は」
「なるほど・・・」
「へー、いや、妙な道具だなって思ってましたけど・・・」
「そうなると穴を大きくするか・・・数を増やすか・・・どうかなー・・・」
「あっ、改良ですよね」
「うん、穴はこれで良いと思うんだけど・・・穴の数を増やしてみるか」
「そうですね、あと、飴の容量も増やしてみましょう、回転数も激しくしてみますか?」
「これ以上出来る?」
「足踏み式のものであれば、向こうの方が勢いはいいですよ」
「そっか、出来るのであればやってみても・・・赤い魔法石少し増やしてみてもいいかな」
「熱も大事ですよね」
「そういう事・・・」
古い回転機構から囲いを外してじっくりと打合せに入るタロウとリノルト、さらにエレインとリーニーも額を寄せている、エレインはこれは売れると直感し、リーニーも興奮の為か鼻息を荒くして覗き込んでいる、
「まっ、これの改良は頼むよ、何個か作ってもらってそれで試してみよう」
「分かりました、穴の数と大きさと、容量と、はい、やってみます」
リノルトはニヤリと微笑む、先日椅子の改良の折りにタロウからついでに作ってみてと気軽に依頼されたその品は、正直何に使う物かまるで分らなかった、しかし、タロウのいう事でもあるしと、昨日の内に手慰みで作ってみたのであるが、それがこうして未知の料理に使われたのである、リノルトとしては驚愕するしかなく、その綿飴も口にしたが、リノルトの人生で、いや、王国人でもこのような食感と味を体験したのはこの場にいる人間だけであろう、
「うん、あとは・・・」
「タロウさん、是非、うちで取り扱わせてください」
エレインが真剣な瞳でタロウを見上げる、
「それは構わないよ、俺の国ではね、屋台とかで売ってるような商品でね、子供に大人気なんだな」
タロウはあっさりと答える、
「ありがとうございます、では、リノルトさん、費用はこちらで」
「あー、それは全然気にしないで下さい、タロウさんから前払いで貰ってます」
「それは違うだろ」
「違いませんよ、これもあれの料金分です」
「そうか?」
「はい、十分過ぎるほどなので」
「まぁ、そういうなら、まぁ」
「タローもっと欲しいー」
真面目な話しに更ける四人にミナが割って入った、
「えっ・・・まぁいいけど、じゃ、ほら、やってみるか?」
「いいの?」
ミナがピョンと飛び跳ねた、
「出来るぞ、難しくないが、簡単ではないな」
ニヤリとタロウが微笑み、囲いを付け直す、
「あの、私もいいですか?」
リーニーもおずおずとタロウに近寄った、
「ん、勿論だよ、飴ってまだある?」
「あります」
マフダが叫んで事務所に走った、先日作った分で従業員から死守し、ソフィアに御礼として渡した分以外に事務所用にと確保していた飴玉が隠してある、この辺の抜け目なさが姉妹の多いマフダならではであった、
「じゃ、火の取り扱いには気をつけて、この魔法石の使い方って分かる?」
とタロウは赤い魔法石の使用方法から懇切丁寧に解説を始めた、エレインとリーニーはふんふんと頷き、ミナは串を手にしてまだかなーとタロウを見上げている、奥様達はもう少しその様子を眺めていたかったらしいがもう店舗の開店時間である、名残惜しそうにぞろぞろと店舗に向かった、
「こんな感じ、で、上から見てると分かるんだけど、このね、囲いの内側に糸がまとわりついてくるんだな、それを串の先で集める感じかな」
「なるほど・・・」
「まぁ、見てれば分るよ」
マフダが飴の詰まった壺を片手に戻ってきて、タロウは早速と先程同様に飴玉を設置する、
「じゃ、俺が回すから、ミナ、やってみ?」
「わかったー」
リーニーが用意した椅子に飛び乗ってミナが串を振り回す、
「こりゃ、危ない」
「うー・・・」
タロウが慌ててミナの手を押さえ、ミナは怒られると瞬時に顔を暗くするが、
「慌てないでいいぞ、ゆっくりでいいからな」
タロウはミナの目を見つめて言い含めると、
「うん、えっと、慌てないで、ゆっくり?」
「そっ、それと串を持って振り回しちゃ駄目だ、危ないからな」
「うん、わかった」
「よし、いいぞ、じゃ、回すぞー」
「うん」
ミナはパッと顔を明るくして真剣な瞳を囲いに向ける、エレインとリーニーも覆いかぶさるように見つめ、レインとニコリーネもその隙間から覗こうとするが難しく、マフダも背が足らない為にむーと顔を顰めて三人の背を羨ましそうに眺めている、
「あっ、これ?これ?」
「出て来た?」
「でたー、糸みたいー、毛糸ー、細いー、モヤモヤー」
「おう、それだ」
「へー、すごい・・・」
「うん、これは興味深い・・・」
「これをどうするの?どうやるの?」
「串の先でクルクルって巻き取るんだよ」
「わかったー」
どこまで理解しているのかは分らないがミナは串を突っ込むと、
「わっ、くっついたー」
「だろ、それを先の方にまとめるんだ」
「わっ、わっ、難しいー」
「だろー」
「うん、でもたのしいー」
「そっか、そっか」
暫くしてミナが串を持ち上げると、その串には満遍なく綿飴が絡まっており、さらにその小さな手にも綿飴が纏わりついている、とても先程タロウが作ったものと同じ物とは言えない有様で、
「わっ、何か、変だー」
それでもミナは嬉しそうに自分の手と棒を見て満面の笑みである、
「あー、やっぱりそうなるよなー、ミナ、へたっちょー」
「えー、初めてだもん」
「そりゃそうだな、慣れればもう少し上手くなるぞ、ほら、お姉ちゃん達と交代だ」
「うー、これ食べれる?」
「勿論だぞ、手についたのが旨いんだ」
「ホント?」
「あー・・・半分ウソー」
「えーっ、タロウ嘘つきー」
「あっはっは、大人は嘘つきなんだよー、ほら、どけて、折角作ったんだからしっかり食べなさい」
「うん」
ミナは大きく頷いて椅子から下りた、代わってエレインが串を構えると、
「失礼します、こちらでしたか・・・」
アフラがヒョイと顔を出す、
「わっ、あっ、すいません、お迎えもしませんで」
エレインが慌てて振り向いた、
「いえっ、こちらこそ勝手に入ってしまいました、何やらタロウさんがバタバタやっていたとユーリ先生に伺いまして」
アフラが申し訳なさそうにスッと居住まいを正す、
「もうそんな時間?」
タロウはそう言えばと頭をかいた、
「そうですね、午前の早い時間とお伝えしたと思います」
アフラがニコリと微笑む、
「そうだよね、じゃ、ごめん、これはこれで置いておくから、お好きにどうぞ、火事には気をつけてね、それと、昼頃に取りに来るかもだから、そん時までかな」
タロウはその場をリノルトに代わり、
「ミナー、お仕事だからちょっと行ってくるぞー、一旦戻るかもだけど、食事会にはいるからな、泣くなよー」
「わかったー、お仕事?」
ミナは自分の手にかじりついており、串に着いた分はレインとニコリーネとマフダがつまみながら食べている、それはそれで楽しそうであった、
「そっ、お仕事、今日も美味しい御馳走だからな、おめかしするように」
「わかったー、おめかしするー、おしとやかにするー」
「そだな、じゃ、リノルトさん、さっきの件、お願い」
「はい、明日には仕上がります」
「そこまで急がなくていいよ」
「いえ、急いでください」
エレインがキッとリノルトを睨んだ、これにはリノルトがまず驚くが、まぁ気持ちは分かるかなと半笑いで了承する、
「ん、じゃ」
とタロウはアフラを伴ってそそくさと寮に戻り、そのまま三階へ向かう、そこではカトカとサビナとゾーイが待ち受けており、三人揃って何とも難しい顔であった、
「あら、おはようどしたの?」
タロウが思わず首を傾げると、
「素直じゃないのよー」
ユーリがふらりと研究室から出て来た、
「そう言いますけどー」
「そうですよー、昨日の今日ですよー」
「まったくです」
三人は一斉に不満の声を上げる、
「ありゃ・・・別にいいんじゃないの?折角だもん」
タロウはサンダルを締め直しながら適当に答え、
「そうよー、第一あんたらはほら、名誉男爵様になるんだから、その準備も必要でしょ」
ユーリはニヤニヤと微笑む、
「そうですね、それもありました、もう少し落ち着いてからと思っておりましたが、それも見越して対応が必要でしたね」
アフラが事務的に答える、
「・・・忘れてた・・・」
「・・・それどころじゃないような・・・」
「・・・大変だ・・・ハー」
一斉に溜息を吐く三人である、
「アッハッハ、まぁ、そういう事もあるもんよ、第一サビナ先生としても知っておいて損はないでしょ」
「そりゃそうですけど・・・」
「所長は本当にあれでいいんですか?」
「そりゃもう、私の正装はあれだもん」
「一人だけずるいですよ」
「あらー、なら今から魔法使いになるのかしら?そうすればあれで済みますのよカトカさーん」
「・・・今更何を言っているんですか・・・」
「ねー、今更よねー」
「もう」
ブーブーと不満気な三人と余裕の笑みを浮かべるユーリである、昨日の食事会の後、今日の食事会に出席する面々が居残って打合せとなったのであるが、そこでまず問題とされたのがタロウの衣服であった、昨日タロウは普段通りの適当な衣服であったのだが、それでは駄目だろうとイフナースが言い出し、それもそうだと賛同の声が上がる、しかし、タロウは訪問着も正装も持っていなかった、正確には仕立てた記憶はあるし着た記憶もあるが、どこにあるのかを覚えていないし気にもしていない、故に急遽ゾーイが北ヘルデルに走りクロノスに助力を願うと、アフラがすっ飛んで来て、タロウの服装について議論が交わされた、そこで、取り合えずタロウにはブレフト同様にこざっぱりとした従者向けの衣装が用意される事となった、そして、アフラはパトリシアからの提案という形でカトカ達三人の訪問着も用意すると言い出した、これには三人は勿体ないと遠慮したのであるが、ユーリとイフナースがそれは大事だとパトリシアの提案にのり、こうして翌日には四人揃って北ヘルデルに向かう事となったのである、
「あっ、そう言えば、あんた、何やってたの?」
ユーリがニヤニヤ笑いをタロウに向けた、
「ん?あぁ、リノルトさんがね、依頼した物を作ってくれたからねー、それで新しい料理?」
「新しい?」
「料理?」
アフラを含めた五人がピクリと反応する、
「そだよー、今日の食事会に間に合えばいいかなーって感じだったけど、何とかなったね、ちょっとだけ御洒落になるかなー」
タロウはのほほんと答えるも、
「また?」
ユーリがキッと睨みつけ、
「それはいったいどのような?」
アフラも先程のあれがそうだったのかとタロウを伺う、
「どのようなって・・・まぁ、今日の食事会を楽しみにしておきなさいよ、出す予定だからさ」
タロウはニマニマと微笑み、
「転送室でいいの?」
とあっさりと話題を切り上げた、
「あっ、はい」
アフラが先に立って転送室へ向かうと、一人残ったユーリは、
「まったく・・・事の重大性が分かっているのかしらあの男は・・・」
とその背が消えた廊下を睨んで溜息を吐くのであった。
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異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
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蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
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「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
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形成級メイクで異世界転生してしまった〜まじか最高!〜
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ぱっちり二重、艶やかな唇、薄く色付いた頬、乳白色の肌、細身すぎないプロポーション。
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神様は勘違いしていたらしい。
形成級ナチュラルメイクのこの顔面が、素の顔だと!!
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すっぴんが地味系女子だった主人公OL(二十代後半)が、全身形成級の姿が素の姿となった美少女冒険者(16歳)になり異世界を謳歌する話。
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勇者パーティーをパワハラ追放された【自己評価の低い】支援魔術師、実は魔神に育てられた最強の男でした
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だが人々は知らなかった。実はハリトは生まれた時から、魔神ルシェルに徹底的に鍛えられた才人であることを。
そのため無能な勇者パーティーは段々と崩壊。逆にハリトの超絶サポートのお蔭で、Bランクパーティーは手柄を立てどんどん昇格しいく。
これは自己評価がやたら低い青年が、色んな人たちを助けて認められ、活躍していく物語である。「うわっ…皆からのオレの評価、高すぎ……」
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