775 / 1,150
本編
66話 歴史は密議で作られる その2
しおりを挟む
「これは面白い・・・」
「うわっ、美味しい・・・」
「確かに、うん、美味しい」
「不思議な感覚ー」
「じゃなー」
それからタロウは二つほど綿飴を作ったのであるが、タロウ自身はまるで納得のいく代物では無かった、回転が少ないのか、飴玉ではやはりこの程度なのかと首を捻る、本来であればザラメを使うべきであるが、そのザラメを作るのが大変に難しい、少なくとも王国では不可能であろうし、帝国でも難しかろうなと思う、しかし、その場の他の者には十分に好評であった、串の先にミナの拳大程度にちんまりと形成されたそれを、一本目のそれはミナがあっという間に食べ尽くしてしまったが、二本目三本目のそれを軽くちぎって口に運び、飴玉とは大きく異なる食感に歓声を上げた、やはり口に入れた瞬間に口中で蕩けるように無くなる楽しさと、味は飴玉のそれと大きくは変わらないがそこはしっかりとした甘みが舌に残り、その見た目も相俟って皆目を白黒させて楽しんだ、
「飴をね、熱で柔らかくしてこの穴から出すんだな、原理は簡単なんだよ、原理は」
「なるほど・・・」
「へー、いや、妙な道具だなって思ってましたけど・・・」
「そうなると穴を大きくするか・・・数を増やすか・・・どうかなー・・・」
「あっ、改良ですよね」
「うん、穴はこれで良いと思うんだけど・・・穴の数を増やしてみるか」
「そうですね、あと、飴の容量も増やしてみましょう、回転数も激しくしてみますか?」
「これ以上出来る?」
「足踏み式のものであれば、向こうの方が勢いはいいですよ」
「そっか、出来るのであればやってみても・・・赤い魔法石少し増やしてみてもいいかな」
「熱も大事ですよね」
「そういう事・・・」
古い回転機構から囲いを外してじっくりと打合せに入るタロウとリノルト、さらにエレインとリーニーも額を寄せている、エレインはこれは売れると直感し、リーニーも興奮の為か鼻息を荒くして覗き込んでいる、
「まっ、これの改良は頼むよ、何個か作ってもらってそれで試してみよう」
「分かりました、穴の数と大きさと、容量と、はい、やってみます」
リノルトはニヤリと微笑む、先日椅子の改良の折りにタロウからついでに作ってみてと気軽に依頼されたその品は、正直何に使う物かまるで分らなかった、しかし、タロウのいう事でもあるしと、昨日の内に手慰みで作ってみたのであるが、それがこうして未知の料理に使われたのである、リノルトとしては驚愕するしかなく、その綿飴も口にしたが、リノルトの人生で、いや、王国人でもこのような食感と味を体験したのはこの場にいる人間だけであろう、
「うん、あとは・・・」
「タロウさん、是非、うちで取り扱わせてください」
エレインが真剣な瞳でタロウを見上げる、
「それは構わないよ、俺の国ではね、屋台とかで売ってるような商品でね、子供に大人気なんだな」
タロウはあっさりと答える、
「ありがとうございます、では、リノルトさん、費用はこちらで」
「あー、それは全然気にしないで下さい、タロウさんから前払いで貰ってます」
「それは違うだろ」
「違いませんよ、これもあれの料金分です」
「そうか?」
「はい、十分過ぎるほどなので」
「まぁ、そういうなら、まぁ」
「タローもっと欲しいー」
真面目な話しに更ける四人にミナが割って入った、
「えっ・・・まぁいいけど、じゃ、ほら、やってみるか?」
「いいの?」
ミナがピョンと飛び跳ねた、
「出来るぞ、難しくないが、簡単ではないな」
ニヤリとタロウが微笑み、囲いを付け直す、
「あの、私もいいですか?」
リーニーもおずおずとタロウに近寄った、
「ん、勿論だよ、飴ってまだある?」
「あります」
マフダが叫んで事務所に走った、先日作った分で従業員から死守し、ソフィアに御礼として渡した分以外に事務所用にと確保していた飴玉が隠してある、この辺の抜け目なさが姉妹の多いマフダならではであった、
「じゃ、火の取り扱いには気をつけて、この魔法石の使い方って分かる?」
とタロウは赤い魔法石の使用方法から懇切丁寧に解説を始めた、エレインとリーニーはふんふんと頷き、ミナは串を手にしてまだかなーとタロウを見上げている、奥様達はもう少しその様子を眺めていたかったらしいがもう店舗の開店時間である、名残惜しそうにぞろぞろと店舗に向かった、
「こんな感じ、で、上から見てると分かるんだけど、このね、囲いの内側に糸がまとわりついてくるんだな、それを串の先で集める感じかな」
「なるほど・・・」
「まぁ、見てれば分るよ」
マフダが飴の詰まった壺を片手に戻ってきて、タロウは早速と先程同様に飴玉を設置する、
「じゃ、俺が回すから、ミナ、やってみ?」
「わかったー」
リーニーが用意した椅子に飛び乗ってミナが串を振り回す、
「こりゃ、危ない」
「うー・・・」
タロウが慌ててミナの手を押さえ、ミナは怒られると瞬時に顔を暗くするが、
「慌てないでいいぞ、ゆっくりでいいからな」
タロウはミナの目を見つめて言い含めると、
「うん、えっと、慌てないで、ゆっくり?」
「そっ、それと串を持って振り回しちゃ駄目だ、危ないからな」
「うん、わかった」
「よし、いいぞ、じゃ、回すぞー」
「うん」
ミナはパッと顔を明るくして真剣な瞳を囲いに向ける、エレインとリーニーも覆いかぶさるように見つめ、レインとニコリーネもその隙間から覗こうとするが難しく、マフダも背が足らない為にむーと顔を顰めて三人の背を羨ましそうに眺めている、
「あっ、これ?これ?」
「出て来た?」
「でたー、糸みたいー、毛糸ー、細いー、モヤモヤー」
「おう、それだ」
「へー、すごい・・・」
「うん、これは興味深い・・・」
「これをどうするの?どうやるの?」
「串の先でクルクルって巻き取るんだよ」
「わかったー」
どこまで理解しているのかは分らないがミナは串を突っ込むと、
「わっ、くっついたー」
「だろ、それを先の方にまとめるんだ」
「わっ、わっ、難しいー」
「だろー」
「うん、でもたのしいー」
「そっか、そっか」
暫くしてミナが串を持ち上げると、その串には満遍なく綿飴が絡まっており、さらにその小さな手にも綿飴が纏わりついている、とても先程タロウが作ったものと同じ物とは言えない有様で、
「わっ、何か、変だー」
それでもミナは嬉しそうに自分の手と棒を見て満面の笑みである、
「あー、やっぱりそうなるよなー、ミナ、へたっちょー」
「えー、初めてだもん」
「そりゃそうだな、慣れればもう少し上手くなるぞ、ほら、お姉ちゃん達と交代だ」
「うー、これ食べれる?」
「勿論だぞ、手についたのが旨いんだ」
「ホント?」
「あー・・・半分ウソー」
「えーっ、タロウ嘘つきー」
「あっはっは、大人は嘘つきなんだよー、ほら、どけて、折角作ったんだからしっかり食べなさい」
「うん」
ミナは大きく頷いて椅子から下りた、代わってエレインが串を構えると、
「失礼します、こちらでしたか・・・」
アフラがヒョイと顔を出す、
「わっ、あっ、すいません、お迎えもしませんで」
エレインが慌てて振り向いた、
「いえっ、こちらこそ勝手に入ってしまいました、何やらタロウさんがバタバタやっていたとユーリ先生に伺いまして」
アフラが申し訳なさそうにスッと居住まいを正す、
「もうそんな時間?」
タロウはそう言えばと頭をかいた、
「そうですね、午前の早い時間とお伝えしたと思います」
アフラがニコリと微笑む、
「そうだよね、じゃ、ごめん、これはこれで置いておくから、お好きにどうぞ、火事には気をつけてね、それと、昼頃に取りに来るかもだから、そん時までかな」
タロウはその場をリノルトに代わり、
「ミナー、お仕事だからちょっと行ってくるぞー、一旦戻るかもだけど、食事会にはいるからな、泣くなよー」
「わかったー、お仕事?」
ミナは自分の手にかじりついており、串に着いた分はレインとニコリーネとマフダがつまみながら食べている、それはそれで楽しそうであった、
「そっ、お仕事、今日も美味しい御馳走だからな、おめかしするように」
「わかったー、おめかしするー、おしとやかにするー」
「そだな、じゃ、リノルトさん、さっきの件、お願い」
「はい、明日には仕上がります」
「そこまで急がなくていいよ」
「いえ、急いでください」
エレインがキッとリノルトを睨んだ、これにはリノルトがまず驚くが、まぁ気持ちは分かるかなと半笑いで了承する、
「ん、じゃ」
とタロウはアフラを伴ってそそくさと寮に戻り、そのまま三階へ向かう、そこではカトカとサビナとゾーイが待ち受けており、三人揃って何とも難しい顔であった、
「あら、おはようどしたの?」
タロウが思わず首を傾げると、
「素直じゃないのよー」
ユーリがふらりと研究室から出て来た、
「そう言いますけどー」
「そうですよー、昨日の今日ですよー」
「まったくです」
三人は一斉に不満の声を上げる、
「ありゃ・・・別にいいんじゃないの?折角だもん」
タロウはサンダルを締め直しながら適当に答え、
「そうよー、第一あんたらはほら、名誉男爵様になるんだから、その準備も必要でしょ」
ユーリはニヤニヤと微笑む、
「そうですね、それもありました、もう少し落ち着いてからと思っておりましたが、それも見越して対応が必要でしたね」
アフラが事務的に答える、
「・・・忘れてた・・・」
「・・・それどころじゃないような・・・」
「・・・大変だ・・・ハー」
一斉に溜息を吐く三人である、
「アッハッハ、まぁ、そういう事もあるもんよ、第一サビナ先生としても知っておいて損はないでしょ」
「そりゃそうですけど・・・」
「所長は本当にあれでいいんですか?」
「そりゃもう、私の正装はあれだもん」
「一人だけずるいですよ」
「あらー、なら今から魔法使いになるのかしら?そうすればあれで済みますのよカトカさーん」
「・・・今更何を言っているんですか・・・」
「ねー、今更よねー」
「もう」
ブーブーと不満気な三人と余裕の笑みを浮かべるユーリである、昨日の食事会の後、今日の食事会に出席する面々が居残って打合せとなったのであるが、そこでまず問題とされたのがタロウの衣服であった、昨日タロウは普段通りの適当な衣服であったのだが、それでは駄目だろうとイフナースが言い出し、それもそうだと賛同の声が上がる、しかし、タロウは訪問着も正装も持っていなかった、正確には仕立てた記憶はあるし着た記憶もあるが、どこにあるのかを覚えていないし気にもしていない、故に急遽ゾーイが北ヘルデルに走りクロノスに助力を願うと、アフラがすっ飛んで来て、タロウの服装について議論が交わされた、そこで、取り合えずタロウにはブレフト同様にこざっぱりとした従者向けの衣装が用意される事となった、そして、アフラはパトリシアからの提案という形でカトカ達三人の訪問着も用意すると言い出した、これには三人は勿体ないと遠慮したのであるが、ユーリとイフナースがそれは大事だとパトリシアの提案にのり、こうして翌日には四人揃って北ヘルデルに向かう事となったのである、
「あっ、そう言えば、あんた、何やってたの?」
ユーリがニヤニヤ笑いをタロウに向けた、
「ん?あぁ、リノルトさんがね、依頼した物を作ってくれたからねー、それで新しい料理?」
「新しい?」
「料理?」
アフラを含めた五人がピクリと反応する、
「そだよー、今日の食事会に間に合えばいいかなーって感じだったけど、何とかなったね、ちょっとだけ御洒落になるかなー」
タロウはのほほんと答えるも、
「また?」
ユーリがキッと睨みつけ、
「それはいったいどのような?」
アフラも先程のあれがそうだったのかとタロウを伺う、
「どのようなって・・・まぁ、今日の食事会を楽しみにしておきなさいよ、出す予定だからさ」
タロウはニマニマと微笑み、
「転送室でいいの?」
とあっさりと話題を切り上げた、
「あっ、はい」
アフラが先に立って転送室へ向かうと、一人残ったユーリは、
「まったく・・・事の重大性が分かっているのかしらあの男は・・・」
とその背が消えた廊下を睨んで溜息を吐くのであった。
「うわっ、美味しい・・・」
「確かに、うん、美味しい」
「不思議な感覚ー」
「じゃなー」
それからタロウは二つほど綿飴を作ったのであるが、タロウ自身はまるで納得のいく代物では無かった、回転が少ないのか、飴玉ではやはりこの程度なのかと首を捻る、本来であればザラメを使うべきであるが、そのザラメを作るのが大変に難しい、少なくとも王国では不可能であろうし、帝国でも難しかろうなと思う、しかし、その場の他の者には十分に好評であった、串の先にミナの拳大程度にちんまりと形成されたそれを、一本目のそれはミナがあっという間に食べ尽くしてしまったが、二本目三本目のそれを軽くちぎって口に運び、飴玉とは大きく異なる食感に歓声を上げた、やはり口に入れた瞬間に口中で蕩けるように無くなる楽しさと、味は飴玉のそれと大きくは変わらないがそこはしっかりとした甘みが舌に残り、その見た目も相俟って皆目を白黒させて楽しんだ、
「飴をね、熱で柔らかくしてこの穴から出すんだな、原理は簡単なんだよ、原理は」
「なるほど・・・」
「へー、いや、妙な道具だなって思ってましたけど・・・」
「そうなると穴を大きくするか・・・数を増やすか・・・どうかなー・・・」
「あっ、改良ですよね」
「うん、穴はこれで良いと思うんだけど・・・穴の数を増やしてみるか」
「そうですね、あと、飴の容量も増やしてみましょう、回転数も激しくしてみますか?」
「これ以上出来る?」
「足踏み式のものであれば、向こうの方が勢いはいいですよ」
「そっか、出来るのであればやってみても・・・赤い魔法石少し増やしてみてもいいかな」
「熱も大事ですよね」
「そういう事・・・」
古い回転機構から囲いを外してじっくりと打合せに入るタロウとリノルト、さらにエレインとリーニーも額を寄せている、エレインはこれは売れると直感し、リーニーも興奮の為か鼻息を荒くして覗き込んでいる、
「まっ、これの改良は頼むよ、何個か作ってもらってそれで試してみよう」
「分かりました、穴の数と大きさと、容量と、はい、やってみます」
リノルトはニヤリと微笑む、先日椅子の改良の折りにタロウからついでに作ってみてと気軽に依頼されたその品は、正直何に使う物かまるで分らなかった、しかし、タロウのいう事でもあるしと、昨日の内に手慰みで作ってみたのであるが、それがこうして未知の料理に使われたのである、リノルトとしては驚愕するしかなく、その綿飴も口にしたが、リノルトの人生で、いや、王国人でもこのような食感と味を体験したのはこの場にいる人間だけであろう、
「うん、あとは・・・」
「タロウさん、是非、うちで取り扱わせてください」
エレインが真剣な瞳でタロウを見上げる、
「それは構わないよ、俺の国ではね、屋台とかで売ってるような商品でね、子供に大人気なんだな」
タロウはあっさりと答える、
「ありがとうございます、では、リノルトさん、費用はこちらで」
「あー、それは全然気にしないで下さい、タロウさんから前払いで貰ってます」
「それは違うだろ」
「違いませんよ、これもあれの料金分です」
「そうか?」
「はい、十分過ぎるほどなので」
「まぁ、そういうなら、まぁ」
「タローもっと欲しいー」
真面目な話しに更ける四人にミナが割って入った、
「えっ・・・まぁいいけど、じゃ、ほら、やってみるか?」
「いいの?」
ミナがピョンと飛び跳ねた、
「出来るぞ、難しくないが、簡単ではないな」
ニヤリとタロウが微笑み、囲いを付け直す、
「あの、私もいいですか?」
リーニーもおずおずとタロウに近寄った、
「ん、勿論だよ、飴ってまだある?」
「あります」
マフダが叫んで事務所に走った、先日作った分で従業員から死守し、ソフィアに御礼として渡した分以外に事務所用にと確保していた飴玉が隠してある、この辺の抜け目なさが姉妹の多いマフダならではであった、
「じゃ、火の取り扱いには気をつけて、この魔法石の使い方って分かる?」
とタロウは赤い魔法石の使用方法から懇切丁寧に解説を始めた、エレインとリーニーはふんふんと頷き、ミナは串を手にしてまだかなーとタロウを見上げている、奥様達はもう少しその様子を眺めていたかったらしいがもう店舗の開店時間である、名残惜しそうにぞろぞろと店舗に向かった、
「こんな感じ、で、上から見てると分かるんだけど、このね、囲いの内側に糸がまとわりついてくるんだな、それを串の先で集める感じかな」
「なるほど・・・」
「まぁ、見てれば分るよ」
マフダが飴の詰まった壺を片手に戻ってきて、タロウは早速と先程同様に飴玉を設置する、
「じゃ、俺が回すから、ミナ、やってみ?」
「わかったー」
リーニーが用意した椅子に飛び乗ってミナが串を振り回す、
「こりゃ、危ない」
「うー・・・」
タロウが慌ててミナの手を押さえ、ミナは怒られると瞬時に顔を暗くするが、
「慌てないでいいぞ、ゆっくりでいいからな」
タロウはミナの目を見つめて言い含めると、
「うん、えっと、慌てないで、ゆっくり?」
「そっ、それと串を持って振り回しちゃ駄目だ、危ないからな」
「うん、わかった」
「よし、いいぞ、じゃ、回すぞー」
「うん」
ミナはパッと顔を明るくして真剣な瞳を囲いに向ける、エレインとリーニーも覆いかぶさるように見つめ、レインとニコリーネもその隙間から覗こうとするが難しく、マフダも背が足らない為にむーと顔を顰めて三人の背を羨ましそうに眺めている、
「あっ、これ?これ?」
「出て来た?」
「でたー、糸みたいー、毛糸ー、細いー、モヤモヤー」
「おう、それだ」
「へー、すごい・・・」
「うん、これは興味深い・・・」
「これをどうするの?どうやるの?」
「串の先でクルクルって巻き取るんだよ」
「わかったー」
どこまで理解しているのかは分らないがミナは串を突っ込むと、
「わっ、くっついたー」
「だろ、それを先の方にまとめるんだ」
「わっ、わっ、難しいー」
「だろー」
「うん、でもたのしいー」
「そっか、そっか」
暫くしてミナが串を持ち上げると、その串には満遍なく綿飴が絡まっており、さらにその小さな手にも綿飴が纏わりついている、とても先程タロウが作ったものと同じ物とは言えない有様で、
「わっ、何か、変だー」
それでもミナは嬉しそうに自分の手と棒を見て満面の笑みである、
「あー、やっぱりそうなるよなー、ミナ、へたっちょー」
「えー、初めてだもん」
「そりゃそうだな、慣れればもう少し上手くなるぞ、ほら、お姉ちゃん達と交代だ」
「うー、これ食べれる?」
「勿論だぞ、手についたのが旨いんだ」
「ホント?」
「あー・・・半分ウソー」
「えーっ、タロウ嘘つきー」
「あっはっは、大人は嘘つきなんだよー、ほら、どけて、折角作ったんだからしっかり食べなさい」
「うん」
ミナは大きく頷いて椅子から下りた、代わってエレインが串を構えると、
「失礼します、こちらでしたか・・・」
アフラがヒョイと顔を出す、
「わっ、あっ、すいません、お迎えもしませんで」
エレインが慌てて振り向いた、
「いえっ、こちらこそ勝手に入ってしまいました、何やらタロウさんがバタバタやっていたとユーリ先生に伺いまして」
アフラが申し訳なさそうにスッと居住まいを正す、
「もうそんな時間?」
タロウはそう言えばと頭をかいた、
「そうですね、午前の早い時間とお伝えしたと思います」
アフラがニコリと微笑む、
「そうだよね、じゃ、ごめん、これはこれで置いておくから、お好きにどうぞ、火事には気をつけてね、それと、昼頃に取りに来るかもだから、そん時までかな」
タロウはその場をリノルトに代わり、
「ミナー、お仕事だからちょっと行ってくるぞー、一旦戻るかもだけど、食事会にはいるからな、泣くなよー」
「わかったー、お仕事?」
ミナは自分の手にかじりついており、串に着いた分はレインとニコリーネとマフダがつまみながら食べている、それはそれで楽しそうであった、
「そっ、お仕事、今日も美味しい御馳走だからな、おめかしするように」
「わかったー、おめかしするー、おしとやかにするー」
「そだな、じゃ、リノルトさん、さっきの件、お願い」
「はい、明日には仕上がります」
「そこまで急がなくていいよ」
「いえ、急いでください」
エレインがキッとリノルトを睨んだ、これにはリノルトがまず驚くが、まぁ気持ちは分かるかなと半笑いで了承する、
「ん、じゃ」
とタロウはアフラを伴ってそそくさと寮に戻り、そのまま三階へ向かう、そこではカトカとサビナとゾーイが待ち受けており、三人揃って何とも難しい顔であった、
「あら、おはようどしたの?」
タロウが思わず首を傾げると、
「素直じゃないのよー」
ユーリがふらりと研究室から出て来た、
「そう言いますけどー」
「そうですよー、昨日の今日ですよー」
「まったくです」
三人は一斉に不満の声を上げる、
「ありゃ・・・別にいいんじゃないの?折角だもん」
タロウはサンダルを締め直しながら適当に答え、
「そうよー、第一あんたらはほら、名誉男爵様になるんだから、その準備も必要でしょ」
ユーリはニヤニヤと微笑む、
「そうですね、それもありました、もう少し落ち着いてからと思っておりましたが、それも見越して対応が必要でしたね」
アフラが事務的に答える、
「・・・忘れてた・・・」
「・・・それどころじゃないような・・・」
「・・・大変だ・・・ハー」
一斉に溜息を吐く三人である、
「アッハッハ、まぁ、そういう事もあるもんよ、第一サビナ先生としても知っておいて損はないでしょ」
「そりゃそうですけど・・・」
「所長は本当にあれでいいんですか?」
「そりゃもう、私の正装はあれだもん」
「一人だけずるいですよ」
「あらー、なら今から魔法使いになるのかしら?そうすればあれで済みますのよカトカさーん」
「・・・今更何を言っているんですか・・・」
「ねー、今更よねー」
「もう」
ブーブーと不満気な三人と余裕の笑みを浮かべるユーリである、昨日の食事会の後、今日の食事会に出席する面々が居残って打合せとなったのであるが、そこでまず問題とされたのがタロウの衣服であった、昨日タロウは普段通りの適当な衣服であったのだが、それでは駄目だろうとイフナースが言い出し、それもそうだと賛同の声が上がる、しかし、タロウは訪問着も正装も持っていなかった、正確には仕立てた記憶はあるし着た記憶もあるが、どこにあるのかを覚えていないし気にもしていない、故に急遽ゾーイが北ヘルデルに走りクロノスに助力を願うと、アフラがすっ飛んで来て、タロウの服装について議論が交わされた、そこで、取り合えずタロウにはブレフト同様にこざっぱりとした従者向けの衣装が用意される事となった、そして、アフラはパトリシアからの提案という形でカトカ達三人の訪問着も用意すると言い出した、これには三人は勿体ないと遠慮したのであるが、ユーリとイフナースがそれは大事だとパトリシアの提案にのり、こうして翌日には四人揃って北ヘルデルに向かう事となったのである、
「あっ、そう言えば、あんた、何やってたの?」
ユーリがニヤニヤ笑いをタロウに向けた、
「ん?あぁ、リノルトさんがね、依頼した物を作ってくれたからねー、それで新しい料理?」
「新しい?」
「料理?」
アフラを含めた五人がピクリと反応する、
「そだよー、今日の食事会に間に合えばいいかなーって感じだったけど、何とかなったね、ちょっとだけ御洒落になるかなー」
タロウはのほほんと答えるも、
「また?」
ユーリがキッと睨みつけ、
「それはいったいどのような?」
アフラも先程のあれがそうだったのかとタロウを伺う、
「どのようなって・・・まぁ、今日の食事会を楽しみにしておきなさいよ、出す予定だからさ」
タロウはニマニマと微笑み、
「転送室でいいの?」
とあっさりと話題を切り上げた、
「あっ、はい」
アフラが先に立って転送室へ向かうと、一人残ったユーリは、
「まったく・・・事の重大性が分かっているのかしらあの男は・・・」
とその背が消えた廊下を睨んで溜息を吐くのであった。
1
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説

伝説の鍛冶屋ダナイ~聖剣を作るように頼まれて転生したらガチムチドワーフでした~
えながゆうき
ファンタジー
「来るべき戦いに備えて聖剣を作って欲しい」
女神様からのお願いを引き受けて異世界転生してみると、何とガチムチドワーフだった!?
妖怪ゴブリンを何とか倒したダナイは、聖剣作成の依頼を果たすため、まずは鍛冶屋に弟子入りすることにした。
しかし、お金が心許ないことに気づき、まずは冒険者としてお金を稼ぐことに。
だがそこに待ち受けていたのは、ちょっとしたハプニングとエルフの美女!?
職人としての誇りを胸に、今日もダナイの鎚がうなりを上げる!
例え魔道具作りや錬金術に手を出そうが、心は一つ聖剣作り!
※小説家になろう、カクヨム、ノベリズムでも同じものを公開してます。
前世で若くして病死した私は、今世の持病を治して長生きしたいです[ぜんわか]
ルリコ
ファンタジー
2月初めより1日おき更新。
病弱令嬢が魔法で持病を治すために奔走!
元病院の住人が転生したら、今回も持病持ちだった。
それでも長生きしたい__。
どうやら、治すために必要な光属性の最上級魔法、それを使える魔法師はいない。
でも私、光属性持ちだから!(ガッツポーズ)
主人公が持つのは、魔法と、前世のラノベ由来の令嬢知識と、本家伯爵家の権力。
これは、精神力の強さで渡り歩く主人公の人生を賭けた生存大作戦だ。
ーーーーー
病弱主人公ということもあり、流血表現や急な失神等ある予定です。
タグの「学園」は3章より。
最初の1、2話は、その後と文体が違いますので3話までは一気読みされることをオススメいたします。
お気に入り登録、いいね、布教よろしくお願いします!
※カクヨム様でも遅れて連載始めました。
現在5500pv、119フォロワー、☆79、310いいね、15応援コメント。
https://kakuyomu.jp/works/1681809
ポイント表
初日:626pt (お気に入り7)
2024/07/03:1057pt (お気に入り8)
2024/07/09:2222pt (お気に入り10)
2024/08/08:5156pt (お気に入り15)
2024/10/15:10238pt (お気に入り21/カクヨム版12)
次は20000ptの大台で。たぶん2章完結するころには達成しているはず。
2025/02/27:10万文字突破!

形成級メイクで異世界転生してしまった〜まじか最高!〜
ななこ
ファンタジー
ぱっちり二重、艶やかな唇、薄く色付いた頬、乳白色の肌、細身すぎないプロポーション。
全部努力の賜物だけどほんとの姿じゃない。
神様は勘違いしていたらしい。
形成級ナチュラルメイクのこの顔面が、素の顔だと!!
……ラッキーサイコー!!!
すっぴんが地味系女子だった主人公OL(二十代後半)が、全身形成級の姿が素の姿となった美少女冒険者(16歳)になり異世界を謳歌する話。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜
長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。
コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。
ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。
実際の所、そこは異世界だった。
勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。
奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。
特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。
実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。
主人公 高校2年 高遠 奏 呼び名 カナデっち。奏。
クラスメイトのギャル 水木 紗耶香 呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。
主人公の幼馴染 片桐 浩太 呼び名 コウタ コータ君
(なろうでも別名義で公開)
タイトル微妙に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる