セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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65話 密談に向けて その15

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そろそろ陽が赤くなるであろう夕刻、街行く人は静かに帰宅の途にあり、その中にあってその一団は何とも奇妙に見えた、貴族風の淑女とその従者であろう老女と子供が楽しそうに笑顔を浮かべ、その周りには年若い女性達がこちらも笑顔ではしゃいでいる、その先頭を歩くのは幼女であった、

「お食事ー、お食事ー」

と何が嬉しいのか分らないが、遠慮なく大声を上げて意気揚々と大股で歩いている、

「こら、恥ずかしいから黙りなさい」

それを止めようと、その母親であろう女性が駆け寄るが、

「えー、いいでしょー」

「良くないの、うるさいでしょ」

「えー、でもー」

「でもじゃない、もう、口答えするんじゃありません」

「ぶー」

幼女は不満げな顔で女性を見上げる、女性はまったくと溜息を一つ吐いてその手をとった、

「はい、これでいいでしょ、ゆっくり歩きましょうね」

「うー、わかったー」

幼女はしかしすぐに女性の手をしっかりと握り、ニパーと輝く笑顔を女性に向けた、その一団はこの時間帯、この街路にはあまりにも似つかわしくなかったが、それを気にする者は特に無く、ましてその一団にしても気にする事は無い、それ以上にこれから向かう先での体験に想いを馳せており、そしてそれが彼女達の話題の中心でもあった、

「食事会ってどんな感じなんです?」

「どんなって・・・一緒に食事をする・・・会?」

「答えになってないですよー」

「そりゃだって、貴族様のそれと商会のそれでは違うでしょ」

「やっぱり違うんだー」

「そりゃ違うわよ、向こうはお仕事、こっちもお仕事半分かな?そんな感じだし」

「そうなのかー、流石ねーさんだー、博識ー」

「ちょっと馬鹿にしてるように聞こえるわよ」

「そんな事無いですよー、ねー」

「そうですよ、他に聞ける人がいないんですもん」

「そりゃそうかもだけどさー」

「でも、あれです、夕ご飯を食べに出かけるって初めてかも・・・」

「あっ、それ、あたしもー」

「だよねー、お祭りの時くらいかな?」

「あれ、結婚披露宴に呼ばれたことはあるー」

「へー、何それ?どんなの?」

「どんなって、お祭りと変わらないかな?近所のお兄さんが隣の村からお嫁さんを迎えて、お嫁さんを歓迎するってなって、お祭りみたいだったー」

「へー、そういう事もあるんだー」

「ですですー、楽しかったですよー」

キャッキャッと先を歩く若人の後には、

「転送陣使えば早かったわよね」

「そりゃそうですけど」

「偶にはいいじゃないですか、のんびりしてて、この時間帯結構好きですよ、私」

「あら・・・風流ねー」

「なんですそれ?」

「フウリュウ?ですか?」

「あー、昔タロウに教えて貰ったのよ、上品で・・・・」

「上品で?」

「何か・・・良い感じ?」

「なんですそれ?」

「そういう感じなのよ、別にいいでしょ」

「良くないですよ、折角だから教えて下さいよー」

「やだ、めんどくさい」

「そう言わないで」

「言うわよ」

「素直に忘れたって言えばいいじゃないですか」

「・・・それは許されないのよ・・・私にもね矜持ってものがあるんだから」

「やっすい矜持ですね」

「なっ、なにをー」

「何ですか?」

「・・・なんでもないわよ」

「ですよねー」

「ニヤニヤしてるんじゃないわよ、もう、そういうのを察するのも助手の仕事でしょ」

「仕事終わっているんで助手じゃないです」

「まっ・・・なんて冷たい事を言うのかしらこの子は・・・」

「温かいですよ、これ着ます?」

「・・・そういう惚け方はどうかしら?」

「駄目ですか?」

「私は好きですよ」

「私もです」

「なっ、なによ、三人して、結託したなぁ」

「その通りです」

「今更ですよ」

妙齢のご婦人達がこちらもいつも通りに奇妙な会話を繰り返し、着いていくのであった。



「あー、ライニールさんだー」

屋敷に着いた一行を迎えたのは門衛ではなく、丁度屋敷から出て来たライニール一行であった、ミナは大声を上げるとソフィアの手を離れ、ソフィアがアッと思う間もなく駆け出す、

「これはミナちゃん、御機嫌用」

ライニールはどこか疲れた顔でミナを見下ろし、他の面々も何者かとミナを見下ろす、

「ゴキゲンヨー、どうしたのー、お嬢様はー?」

「今日は来てませんよ、ミナちゃんはどうしたのです?」

「えへへー、お食事なのー、皆でお呼ばれしたのー」

「・・・あー・・・そういう事ですか・・・」

輝くようなミナの笑顔に、ライニールはなるほどそういう事かと全てを察した、

「すいません、騒がせて」

そこへソフィアが駆け寄ると、

「これはソフィアさんも、なるほど皆さんでいらっしゃったのですね」

ライニールがニコリと微笑み、その後ろの集団に小さく会釈を贈る、

「そうなんですよ、まったく、めんどくさいったら」

ソフィアがミナの頭を押さえつけ、ミナはムーとソフィアを見上げる、

「タロウさんに伺いました、明日に向けての練習とか」

「あら・・・そうなんですか?」

「はい、下見の為にお邪魔したのですが、上手い事巻き込まれてしまいまして・・・」

苦笑いとなるライニールに、

「それは、申し訳ありません」

ソフィアが慌てて謝罪するも、

「そんな、こちらこそ得難い体験でした、こちらの従者殿がまったく新しい歓待であるとおっしゃられてまして、正にその通りでした、私どもとしてもこのようなもてなし方があるのだと・・・大変勉強になりました」

ライニールの言葉に他の従者もうんうんと頷いている、

「あら・・・そうですか?」

ソフィアがミナの両肩を押さえて不思議そうに首を傾げる、

「はい、明日の本番・・・とタロウさんはおっしゃっておりましたが、明日が楽しみです、御館様にもお嬢様にも良い報告が出来ます」

「なら良いのですが・・・」

「では、すいません、この辺で」

ライニールは丁寧にソフィアに頭を垂れ、従者達もここはライニールに倣うべきだなと頭を垂れるとソフィア達一行とは逆方向に足を向けた、領主邸に戻るのであろう、ソフィアも頭を垂れて見送ると、

「ライニールさんですか?」

追い付いたエレインがそっとソフィアに問う、

「そうみたいね、どうやらタロウに巻き込まれたみたい」

「あら・・・」

「まっ、ライニールさんなら大丈夫でしょ」

「そう・・・ですね」

何が大丈夫かは良く分からないが、ソフィアがそう言うのであればエレインとしてもそれ以上何があるわけでもない、エレインが門衛に挨拶し、一行はすんなりと屋敷に入る、すると、

「あっ、いらっしゃいましたねー」

ティルが丁度厨房から出て来た所のようで、明るく一行と鉢合わせた、

「お疲れ様、どのような感じです?」

曖昧に状況を確認するエレインに、

「あー・・・何とかかんとかです、でも」

「でも?」

「いい感じです、上確認してきますね、少々お待ち下さい」

ティルはそう言い置いてバタバタと階段へ向かった、

「あら・・・どういう事なのかしら?」

エレインは首を傾げるもここはまず待つのが正しいであろう、他の面々もまだ好き勝手にしゃべっており楽しそうではある、

「じゃ、こちらへ、折角だからお店で待ちますか」

エレインは一行をガラス鏡店に通すと、早速とミナは鏡に向かって走り出し、イージスもミナにつられて全身鏡に向かう、そこで二人は見事に鏡を遊び道具にし始め、乳母に抱かれたマリエッテは壁画に向かって手を伸ばしている、女生徒達としても一度は来ているが、やはり物珍しさが先に立つ、エレインに了解を取るとそれぞれに店の中を散策し始めた、

「そうだ、お仕事の方って上手くいっているの?」

応接席に着いたマリアがエレインに確認する、寮では仕事の話しをする事はまず無い、そういう環境でも雰囲気でもないのである、しかしここでは違った、マリアとしては妹の大事な事業である、気にならない訳が無かった、

「そう・・・ですね、はい、こちらも向こうのお店も順調です、色々とありますが、それはほら、そういうもので、その為に従業員がいるのだとテラさんも言ってますから、そういうものかと・・・」

エレインも腰を落ち着けて答える、その視線は乳母とマリエッテに向かっていた、一緒に遊びたいなとその静かな願望が目線に表れている、

「そう・・・そうよね、商会だってそんな簡単なものではないわよね」

「はい、特にこのお店は商品が高額ですし、客層も気の抜けない方々ばかりなので、テラさんにおんぶにだっこ・・・なんですよね、まだ始めたばかりとはいえ・・・」

「そりゃそうでしょ、あなたがこちらでどれだけの研鑽を積んだのかは分かりませんが、大人として、社会人としてマダマダですよ」

急なお説教にエレインは少しばかり驚きつつ渋い顔となってしまう、

「でもね、そんなあなたを頼りにしている人達がいるし、テラさんもそうだし、オリビアやジャネットさん達も助けてくれるのでしょう、何よりソフィアさんやユーリ先生には感謝しなければなりませんよ」

「・・・はい、それはもう、身に染みて・・・いえ、心の底からそう思っております」

エレインは神妙に答える、背後に控えるオリビアが薄く微笑んだ様子であった、そこへ、

「こちらでしたか」

テラがヒョイと顔を出した、

「お疲れ様」

エレインが腰を上げるが、テラが軽くそれを制して、

「申し訳ありません、もう少々お待ち下さい」

と笑顔を見せる、

「あら・・・テラさんもなに?向こう側になったの?」

「向こう側って、向こうもこっちも無いですよ、ブレフトさん達が準備中なんです、素晴らしい趣向なので、期待して下さい」

「まぁ・・・どういうものかしら?」

「ふふっ、そうですね、貴族の食事会とはかくあるべしといった感じらしいです、ブレフトさんに言わせると」

「ブレフトさんがですか?」

「はい、それとライニールさんも、すっかり感心してました、戻って奥様とお嬢様に報告しないとって鼻息を荒くしてましたね」

「それはまた・・・先程行き違いましたが、確かに嬉しそうな顔ではありましたね、疲れてましたけど・・・」

「そうなんですよ、なので、でも、タロウさん曰く、今日はあくまで練習だからって事でしたけどね」

「そうよね、あっ、タロウさんは?」

「厨房ですね、調理している筈です、お声がけします?」

「邪魔になるようなら、無理には、こちらで待ちますね、皆さんも楽しまれているようですし」

エレインは店内を見渡す、そこでは生徒達も研究所の面々もそれぞれに商品を眺めて楽しんでいる様子であった、珍しくもソフィアも姿見を前にして何やらレインと話し込んでいる、ニコリーネは自作の壁画を見上げており、何やら思うところがあるのであろう、その瞳は先程までの浮かれたものから真剣な芸術家のそれに代わっているように見える、

「分かりました、では、準備が出来次第お呼びします」

テラは丁度良かったなと笑みを浮かべてそそくさと退室し、

「何でも出来る人はどうしても忙しくなるものよね」

その背を見つめてマリアが微笑む、

「そうですね、得難いことです」

しみじみと呟くエレインであった。
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