743 / 1,050
本編
64話 縁は衣の元味の元 その13
しおりを挟む
それから公務時間終了の鐘が響くと、生徒達はバタバタと寮へ戻って来た、それはいつもの光景であるがやはりどこか気合の入りようが異なるようで、早速と食堂を占拠すると、
「ハンバーグをどうやって提供するかなんだよねー」
「お皿必要?」
「そうなんだよ、でも、屋台でお皿か・・・」
「スポンジケーキの時のトレーがありますけど、ハンバーグは油汚れが気になりますよね・・・」
「あー、そうだよね・・・」
「薄パンで包む?」
「そうなるのかなー、食べやすくはなるよね」
「じゃ、やっぱり薄パンで包みましょうよ、で、食べ歩きが出来るように」
「屋台だとそうなるよね」
「串に差すのはどうなのかな?」
「串焼き?」
「ボロボロにならない?」
「やってみないとでしょ」
「そうだね・・・ソフィアさんに昨日聞いたけど、肉だけだと固まらないから小麦粉とか入れてるって」
「卵の黄身もですよ」
ジャネットとアニタとパウラ、そこにルルも加わって黒板を前にして真剣な顔であり、別のテーブルでは、
「蒸しパンだけだと寂しいよね」
「十分美味しいと思いますよ」
「・・・そうですけど・・・ちょっと寂しい・・・」
「うん、その通りだよ」
「じゃあ、やっぱりプリンにする?」
「容器の確保が大変ですよ」
「それとスプーンも欲しくなります」
「そうだよねー」
グルジアとケイスとレスタが同じように黒板を間に置いてうんうんと知恵を絞っている、ミナはグルジア達と共に席についており、レインは聞き耳を立てながらも興味が無さそうに書に向かっていた、タロウがイフナースらの修練の為に荒野へ向かい、風呂場での作業は今日は終了となっていた、
「プリンがいいなー、ミナ、好きー」
「そうだねー、プリン美味しいもんねー」
「プリンを手で持てるようにするにはどうしたらいいでしょう?」
「お隣のお店みたく、薄いパンで包みます?」
お隣のお店とは六花商会の店の事であろう、
「それも考えてみたんだけどね・・・あれだとカスタードと変わらないんだよね、味としては」
「それもそうか・・・あのプルプルした感じがいいんですよね、プリンて・・・」
「そうなのよ、そこを楽しみたいのよ、スプーンで掬って食べれるのがいいのよね」
「じゃ、ちゃんとお皿とテーブルを用意して、お茶も出したくなりますよね・・・屋台の形に拘らなくてもいいのではないですか?」
「そうなる?」
「そうだよねー・・・そうなると・・・ユーリ先生にも確認しなきゃなんですけど、よく考えれば学園全体?を使う感じになるのよね、学園祭って、だから教室をお店に見立てる事も出来るかなって思うんだけど・・・そうなるとほら、机をテーブル代わりにして、で、調理場・・・メイドさんの実習室を借りれないかなって、そっちで調理して教室に持ち込んでもいいのかなって思ったりもして」
「なるほど・・・そっか、そういう事か・・・」
グルジアを中心としている三人であるが、ケイスが参謀役となっており、レスタも時折口を挟んでいる、昨日の夕食後、生徒達は相談の場を設け、ジャネット達は肉挽き機を使った料理を、グルジア達は蒸し器を使った料理を提供する事として同意した、エレインが少々腑抜けになりながらもその仲を取り持った形になる、料理を限定していないのはエレインの経験上必ずしもソフィアが披露した品がそのまま商品になる事は少なかったからであった、特に食卓に並べる料理と屋台で供される料理はどうしても乖離するもので、さらに若人の好みで味も変わる為である、
「そうすればお皿も洗えますし、お茶も提供できますね」
「それもそうね、うん、そうすると、プリンとお茶はいいとして蒸しパンよね、つまみやすいように小さくしてみたらどうかしら」
グルジアは黒板に案を書き付けていく、
「それいいですね、大きいとお腹いっぱいになっちゃう」
「だねだね、御夕飯の時はいいけど、お茶請けだと大きいですよね」
「そだねー、それに調理も早いと思うし」
「タロウさんが甘くしても美味しいぞって言ってましたよね」
「やってみる?」
「ミナ、甘いの好きー」
「だよね、私も好きよ」
「ケイス分かってるー」
「むふふ、ミナちゃんの好みは把握済みなのよー」
「そなのー?」
「勿論だよー」
「そうだ、お皿って借りれます?用意します?」
「それも確認だわね、学園のを拝借できれば簡単よね」
「管理は事務員さんかな?」
「メイド科の先生かも」
「あー・・・ユーリ先生に聞いてみましょう」
「そうですね、他には・・・」
「メイド科さんの出し物と競合しないかしら?」
「あー、それもありますよねー」
「要調整かな・・・」
とミナを上手にあやしながらも具体的に話しを進める三人である、学園ではまだ学園祭そのものの準備作業は行われていない、現時点では各研究所、各教室、各団体で計画が練られている段階で、ジャネット達が所属する戦術科第二はジャネットが取りまとめ役になり、屋台を出店する事には決まったが、その詳細はジャネットに一任され、グルジア達の農学女子連合もグルジアが目新しい商品があるとの一言で一旦グルジアに任せる事となっていた、本来であればこの打合せも学園で行うべきなのであろうが、参加者が増えればそれだけ案が増え、結局まとまらない場合がある、ジャネットもグルジアもその点を考慮し、原案となるべく叩き台が必要と身近な人物を集めて会合を行っているのであった、その頃事務所では、
「ホントに使ってもいいんですか?」
「そうね、商売に出来る程育てられればって思うけど・・・どうかしら?」
「頑張ります、出来ます」
「元気だけはいいんだから・・・」
「むー、出来るでしょ、私とコミンがいれば何でも出来るー」
「はいはい、頑張りましょうねー」
「もう・・・でも、あれですね、一度タロウさんに相談したいですよね、現場を見て貰いたいです」
「そうですわね、タロウさんは午後は忙しいらしいから、夕食前に見て貰いましょうか」
「そうですね、あとは、道具と」
「毎朝の作業ですよね、ミナちゃんとレインちゃんが真面目にやってましたけど」
「タロウさんは日に一度くらいで良いって言ってましたから、学園帰りに私がやります、別に朝でなくてもいいはずだって言ってましたし」
「そうですか・・・なら、宜しいかと」
事務所の地下室でエレインとオリビア、珍しい事にサレバとコミンが蝋燭を片手に打合せ中である、サレバが昨日の夕食後タロウからもやしの詳細を聞き出し、それをなんとはなしに聞いていたエレインがそういう事なら事務所の地下室を使ってもいいわよと、口を出したのであった、サレバは狂喜乱舞しコミンも素直に喜んだ、
「そうなると・・・暖かくする必要があるわよね」
とエレインは首を傾げる、タロウ曰く、もやしを生産するにあたっては日の光は不要で、綺麗な水と寒くない程度の暖かさが必要との事であった、その寒くない程度の暖かさとはとエレインもサレバも首を傾げるしかなかったが、水飴を作った際にも保温の必要性は説明されており、さらにサレバも農家の娘である、大豆の栽培も勿論経験しており、確かに大豆は春を超えてから植え付けるのが良しとされていたと思い出す、もやしにしても同じなのであろう、結局は土の中で育つ大豆を無理矢理育てて食べるという食物なのだ、寒いよりかいくらかでも暖かい方が育つのは自明の理である、而して若干不安に感じるのが地下室の暖かさであった、エレインは地下室であればある程度暖かいような気がすると呟き、タロウも冬場は地下の方が良いかもねとのんびりと助言を口にする、そして実際に地下室に下りてみれば、確かに外よりは幾分か暖かくは感じた、それが風が無いだけでそう感じるのか、実際に暖かいのかの判断はサレバには出来なかったが、その地下室は日差しが入らない点では好条件であり、一定の気温を保つという点でも条件に合っているように思える、さらに広い、木箱と冷凍箱が階段脇に並んでいるが、それ以外はガランと寂しい程である、しかし、暖かさを感じる程では無い、これから本格的な冬になれば逆に暖かいと感じる事もあるであろうが、それは冬の寒さと比較して暖かいのであって、大豆が発芽するのに適した暖かさかと言われれば疑問符しかなかった、
「サビナ先生が陶器板を貸してくれるって言ってましたけど、それだけだと寒いでしょうか?」
「そうね・・・それもやってみなきゃよね、ここで火を焚くのは勘弁だしね」
「棚とか欲しくなるかな?」
「それなら今日頼んだわよ」
「エッ、ホントですか?」
「ブラスさんと打合せがあってね、二段の簡単なやつだけど、作業台があったらいいなって思ってね」
「何から何まで嬉しいです、会長ー」
サレバは軽く小躍りしてしまう、
「そうね、でも、売る時は商会を通す事、それと、栽培方法も暫くは秘密、いいわね」
エレインがジロリとサレバを睨む、
「当然です、当たり前です、ありがとうございます」
サレバは一人キャッキャとはしゃいでいた、エレインは大丈夫かしらと首を傾げ、コミンはもーと膨れっ面になる、オリビアはいつものようにすました顔であったが、
「そうなると、壺ですか?」
と前向きな言葉であった、
「そうね、料理用の平たいトレーでも良いってタロウさんは言ってましたわね、そっちの方が育ち具合が分かりやすいかもって」
「はい、そうなんです、で、大量に作るんであればそれ用に容器を作った方がいいかもなって」
「それはここでモヤシを作れるかどうかちゃんと検証してからにしましょう、逸る気持ちも分かりますが、料理と違って結果がすぐに見えませんしね、実際に育てる際にはリーニーさんにも協力させますし、マフダさんは・・・手が回らないかな?」
「何かありましたか?」
「色々ね、マフダさんも本格的に忙しくなりそうだし・・・まぁ、ここでやる分には問題はないでしょう」
「そうですね」
そこへ、
「こちらでしたか」
カチャーが一階への階段からそっと下りて来た、
「どうしたの?」
「マフダさん達が戻りましたので、報告に」
「あら、早いわね」
「そうですね、新商品はそれほどでも無かったそうです」
「そうなのね、じゃ、こっちはいいかしら?」
エレインが振り向く、
「はい、宜しくお願いします」
サレバは甲高い声で答えた、
「ふふっ、コミンさんも宜しくね」
「勿論です」
暗がりの中小柄な二人は自信満々の顔をエレインに向ける、
「そうね、じゃ、ついでに上も見てく?」
「何かあるんですか?」
「マフダさんとリーニーさんにね、新しい下着の市場調査に行って貰ったのよ」
「えー、そうなんですか?見たいです」
「そうよね、じゃ、ここは後でタロウさんと来ましょう」
そして五人は連れ立って一階の事務所に入る、事務所では早速とマフダとリーニー、ドリカとマフレナが荷物を開けて下着を並べていた、先月のそれと違いジャネットとテラが不在の為、ジャネットと体格の近いリーニーとテラに体格の近いドリカ、マフレナは如何にも貴族のメイドとしてすました顔で参加していた、店の対応を見る為である、
「お疲れ様、どうだった?」
エレインがニコヤカに微笑みかけると、
「はい、新商品は各店で一つか二つですねー」
マフダがヒョイと顔を上げる、
「そうなのね、他には?」
「各店共に盛況でした、先月よりも売り場が増えてましたし、ガラス鏡を置いてる店もありました」
「あら・・・それは嬉しいわね」
「はい、貴族向けの高級店なんですけど、マフレナさんが正体バレちゃって」
マフダがニヤリと微笑む、
「それは仕方ないよ、だって、知り合いの店なんだもん」
マフレナが憤然と言い返す、
「市場調査って事もバレちゃいました」
「あら・・・」
「なんか、お茶を出すからゆっくりしていけって」
「へー」
「そしたらマフレナさんが袖の下はいらないですーって」
「あの店主困った顔してたわねー」
「そりゃそうよ、あくまで調査なんだから、厳密にしないとでしょ」
「変に真面目なんだよなー」
ドリカにからかわれるもマフレナは手を腰に当てて踏ん反り返り、
「こっちも向こうも仕事でしょ、そこはキッチリやらないとでしょ」
「そうだけどねー」
ニヤニヤとドリカは微笑む、
「はいはい、で、何か良いのあった?」
「そうですね、これとか、これ、それと・・・金具が新しいのがありました、使いやすそうですね、他には・・・」
「お店の人の対応が良くなっているように思いました」
リーニーも口を挟む、
「あら、そうなの?」
「はい、なんというか皆さん優しい感じ?」
「丁寧な感じよね」
「それです、それ」
「へー、じゃ、それもまとめておいてくれる?主観で構わないし、そうするしか無いけどね」
「はい、勿論です」
四人は楽しそうにしかし若干意地悪く微笑む、カチャーも手伝いに加わり、サレバとコミンは直接手を伸ばさないまでも下着を眺めて楽しそうにキャッキャッとはしゃいでいる、エレインはまとめ終ったらパトリシア様と王妃様、ユスティーナ様とギルドに報告かしらね、と段取りを考え、何気に手間が多い事に気付き溜息を吐くのであった。
「ハンバーグをどうやって提供するかなんだよねー」
「お皿必要?」
「そうなんだよ、でも、屋台でお皿か・・・」
「スポンジケーキの時のトレーがありますけど、ハンバーグは油汚れが気になりますよね・・・」
「あー、そうだよね・・・」
「薄パンで包む?」
「そうなるのかなー、食べやすくはなるよね」
「じゃ、やっぱり薄パンで包みましょうよ、で、食べ歩きが出来るように」
「屋台だとそうなるよね」
「串に差すのはどうなのかな?」
「串焼き?」
「ボロボロにならない?」
「やってみないとでしょ」
「そうだね・・・ソフィアさんに昨日聞いたけど、肉だけだと固まらないから小麦粉とか入れてるって」
「卵の黄身もですよ」
ジャネットとアニタとパウラ、そこにルルも加わって黒板を前にして真剣な顔であり、別のテーブルでは、
「蒸しパンだけだと寂しいよね」
「十分美味しいと思いますよ」
「・・・そうですけど・・・ちょっと寂しい・・・」
「うん、その通りだよ」
「じゃあ、やっぱりプリンにする?」
「容器の確保が大変ですよ」
「それとスプーンも欲しくなります」
「そうだよねー」
グルジアとケイスとレスタが同じように黒板を間に置いてうんうんと知恵を絞っている、ミナはグルジア達と共に席についており、レインは聞き耳を立てながらも興味が無さそうに書に向かっていた、タロウがイフナースらの修練の為に荒野へ向かい、風呂場での作業は今日は終了となっていた、
「プリンがいいなー、ミナ、好きー」
「そうだねー、プリン美味しいもんねー」
「プリンを手で持てるようにするにはどうしたらいいでしょう?」
「お隣のお店みたく、薄いパンで包みます?」
お隣のお店とは六花商会の店の事であろう、
「それも考えてみたんだけどね・・・あれだとカスタードと変わらないんだよね、味としては」
「それもそうか・・・あのプルプルした感じがいいんですよね、プリンて・・・」
「そうなのよ、そこを楽しみたいのよ、スプーンで掬って食べれるのがいいのよね」
「じゃ、ちゃんとお皿とテーブルを用意して、お茶も出したくなりますよね・・・屋台の形に拘らなくてもいいのではないですか?」
「そうなる?」
「そうだよねー・・・そうなると・・・ユーリ先生にも確認しなきゃなんですけど、よく考えれば学園全体?を使う感じになるのよね、学園祭って、だから教室をお店に見立てる事も出来るかなって思うんだけど・・・そうなるとほら、机をテーブル代わりにして、で、調理場・・・メイドさんの実習室を借りれないかなって、そっちで調理して教室に持ち込んでもいいのかなって思ったりもして」
「なるほど・・・そっか、そういう事か・・・」
グルジアを中心としている三人であるが、ケイスが参謀役となっており、レスタも時折口を挟んでいる、昨日の夕食後、生徒達は相談の場を設け、ジャネット達は肉挽き機を使った料理を、グルジア達は蒸し器を使った料理を提供する事として同意した、エレインが少々腑抜けになりながらもその仲を取り持った形になる、料理を限定していないのはエレインの経験上必ずしもソフィアが披露した品がそのまま商品になる事は少なかったからであった、特に食卓に並べる料理と屋台で供される料理はどうしても乖離するもので、さらに若人の好みで味も変わる為である、
「そうすればお皿も洗えますし、お茶も提供できますね」
「それもそうね、うん、そうすると、プリンとお茶はいいとして蒸しパンよね、つまみやすいように小さくしてみたらどうかしら」
グルジアは黒板に案を書き付けていく、
「それいいですね、大きいとお腹いっぱいになっちゃう」
「だねだね、御夕飯の時はいいけど、お茶請けだと大きいですよね」
「そだねー、それに調理も早いと思うし」
「タロウさんが甘くしても美味しいぞって言ってましたよね」
「やってみる?」
「ミナ、甘いの好きー」
「だよね、私も好きよ」
「ケイス分かってるー」
「むふふ、ミナちゃんの好みは把握済みなのよー」
「そなのー?」
「勿論だよー」
「そうだ、お皿って借りれます?用意します?」
「それも確認だわね、学園のを拝借できれば簡単よね」
「管理は事務員さんかな?」
「メイド科の先生かも」
「あー・・・ユーリ先生に聞いてみましょう」
「そうですね、他には・・・」
「メイド科さんの出し物と競合しないかしら?」
「あー、それもありますよねー」
「要調整かな・・・」
とミナを上手にあやしながらも具体的に話しを進める三人である、学園ではまだ学園祭そのものの準備作業は行われていない、現時点では各研究所、各教室、各団体で計画が練られている段階で、ジャネット達が所属する戦術科第二はジャネットが取りまとめ役になり、屋台を出店する事には決まったが、その詳細はジャネットに一任され、グルジア達の農学女子連合もグルジアが目新しい商品があるとの一言で一旦グルジアに任せる事となっていた、本来であればこの打合せも学園で行うべきなのであろうが、参加者が増えればそれだけ案が増え、結局まとまらない場合がある、ジャネットもグルジアもその点を考慮し、原案となるべく叩き台が必要と身近な人物を集めて会合を行っているのであった、その頃事務所では、
「ホントに使ってもいいんですか?」
「そうね、商売に出来る程育てられればって思うけど・・・どうかしら?」
「頑張ります、出来ます」
「元気だけはいいんだから・・・」
「むー、出来るでしょ、私とコミンがいれば何でも出来るー」
「はいはい、頑張りましょうねー」
「もう・・・でも、あれですね、一度タロウさんに相談したいですよね、現場を見て貰いたいです」
「そうですわね、タロウさんは午後は忙しいらしいから、夕食前に見て貰いましょうか」
「そうですね、あとは、道具と」
「毎朝の作業ですよね、ミナちゃんとレインちゃんが真面目にやってましたけど」
「タロウさんは日に一度くらいで良いって言ってましたから、学園帰りに私がやります、別に朝でなくてもいいはずだって言ってましたし」
「そうですか・・・なら、宜しいかと」
事務所の地下室でエレインとオリビア、珍しい事にサレバとコミンが蝋燭を片手に打合せ中である、サレバが昨日の夕食後タロウからもやしの詳細を聞き出し、それをなんとはなしに聞いていたエレインがそういう事なら事務所の地下室を使ってもいいわよと、口を出したのであった、サレバは狂喜乱舞しコミンも素直に喜んだ、
「そうなると・・・暖かくする必要があるわよね」
とエレインは首を傾げる、タロウ曰く、もやしを生産するにあたっては日の光は不要で、綺麗な水と寒くない程度の暖かさが必要との事であった、その寒くない程度の暖かさとはとエレインもサレバも首を傾げるしかなかったが、水飴を作った際にも保温の必要性は説明されており、さらにサレバも農家の娘である、大豆の栽培も勿論経験しており、確かに大豆は春を超えてから植え付けるのが良しとされていたと思い出す、もやしにしても同じなのであろう、結局は土の中で育つ大豆を無理矢理育てて食べるという食物なのだ、寒いよりかいくらかでも暖かい方が育つのは自明の理である、而して若干不安に感じるのが地下室の暖かさであった、エレインは地下室であればある程度暖かいような気がすると呟き、タロウも冬場は地下の方が良いかもねとのんびりと助言を口にする、そして実際に地下室に下りてみれば、確かに外よりは幾分か暖かくは感じた、それが風が無いだけでそう感じるのか、実際に暖かいのかの判断はサレバには出来なかったが、その地下室は日差しが入らない点では好条件であり、一定の気温を保つという点でも条件に合っているように思える、さらに広い、木箱と冷凍箱が階段脇に並んでいるが、それ以外はガランと寂しい程である、しかし、暖かさを感じる程では無い、これから本格的な冬になれば逆に暖かいと感じる事もあるであろうが、それは冬の寒さと比較して暖かいのであって、大豆が発芽するのに適した暖かさかと言われれば疑問符しかなかった、
「サビナ先生が陶器板を貸してくれるって言ってましたけど、それだけだと寒いでしょうか?」
「そうね・・・それもやってみなきゃよね、ここで火を焚くのは勘弁だしね」
「棚とか欲しくなるかな?」
「それなら今日頼んだわよ」
「エッ、ホントですか?」
「ブラスさんと打合せがあってね、二段の簡単なやつだけど、作業台があったらいいなって思ってね」
「何から何まで嬉しいです、会長ー」
サレバは軽く小躍りしてしまう、
「そうね、でも、売る時は商会を通す事、それと、栽培方法も暫くは秘密、いいわね」
エレインがジロリとサレバを睨む、
「当然です、当たり前です、ありがとうございます」
サレバは一人キャッキャとはしゃいでいた、エレインは大丈夫かしらと首を傾げ、コミンはもーと膨れっ面になる、オリビアはいつものようにすました顔であったが、
「そうなると、壺ですか?」
と前向きな言葉であった、
「そうね、料理用の平たいトレーでも良いってタロウさんは言ってましたわね、そっちの方が育ち具合が分かりやすいかもって」
「はい、そうなんです、で、大量に作るんであればそれ用に容器を作った方がいいかもなって」
「それはここでモヤシを作れるかどうかちゃんと検証してからにしましょう、逸る気持ちも分かりますが、料理と違って結果がすぐに見えませんしね、実際に育てる際にはリーニーさんにも協力させますし、マフダさんは・・・手が回らないかな?」
「何かありましたか?」
「色々ね、マフダさんも本格的に忙しくなりそうだし・・・まぁ、ここでやる分には問題はないでしょう」
「そうですね」
そこへ、
「こちらでしたか」
カチャーが一階への階段からそっと下りて来た、
「どうしたの?」
「マフダさん達が戻りましたので、報告に」
「あら、早いわね」
「そうですね、新商品はそれほどでも無かったそうです」
「そうなのね、じゃ、こっちはいいかしら?」
エレインが振り向く、
「はい、宜しくお願いします」
サレバは甲高い声で答えた、
「ふふっ、コミンさんも宜しくね」
「勿論です」
暗がりの中小柄な二人は自信満々の顔をエレインに向ける、
「そうね、じゃ、ついでに上も見てく?」
「何かあるんですか?」
「マフダさんとリーニーさんにね、新しい下着の市場調査に行って貰ったのよ」
「えー、そうなんですか?見たいです」
「そうよね、じゃ、ここは後でタロウさんと来ましょう」
そして五人は連れ立って一階の事務所に入る、事務所では早速とマフダとリーニー、ドリカとマフレナが荷物を開けて下着を並べていた、先月のそれと違いジャネットとテラが不在の為、ジャネットと体格の近いリーニーとテラに体格の近いドリカ、マフレナは如何にも貴族のメイドとしてすました顔で参加していた、店の対応を見る為である、
「お疲れ様、どうだった?」
エレインがニコヤカに微笑みかけると、
「はい、新商品は各店で一つか二つですねー」
マフダがヒョイと顔を上げる、
「そうなのね、他には?」
「各店共に盛況でした、先月よりも売り場が増えてましたし、ガラス鏡を置いてる店もありました」
「あら・・・それは嬉しいわね」
「はい、貴族向けの高級店なんですけど、マフレナさんが正体バレちゃって」
マフダがニヤリと微笑む、
「それは仕方ないよ、だって、知り合いの店なんだもん」
マフレナが憤然と言い返す、
「市場調査って事もバレちゃいました」
「あら・・・」
「なんか、お茶を出すからゆっくりしていけって」
「へー」
「そしたらマフレナさんが袖の下はいらないですーって」
「あの店主困った顔してたわねー」
「そりゃそうよ、あくまで調査なんだから、厳密にしないとでしょ」
「変に真面目なんだよなー」
ドリカにからかわれるもマフレナは手を腰に当てて踏ん反り返り、
「こっちも向こうも仕事でしょ、そこはキッチリやらないとでしょ」
「そうだけどねー」
ニヤニヤとドリカは微笑む、
「はいはい、で、何か良いのあった?」
「そうですね、これとか、これ、それと・・・金具が新しいのがありました、使いやすそうですね、他には・・・」
「お店の人の対応が良くなっているように思いました」
リーニーも口を挟む、
「あら、そうなの?」
「はい、なんというか皆さん優しい感じ?」
「丁寧な感じよね」
「それです、それ」
「へー、じゃ、それもまとめておいてくれる?主観で構わないし、そうするしか無いけどね」
「はい、勿論です」
四人は楽しそうにしかし若干意地悪く微笑む、カチャーも手伝いに加わり、サレバとコミンは直接手を伸ばさないまでも下着を眺めて楽しそうにキャッキャッとはしゃいでいる、エレインはまとめ終ったらパトリシア様と王妃様、ユスティーナ様とギルドに報告かしらね、と段取りを考え、何気に手間が多い事に気付き溜息を吐くのであった。
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!
ree
ファンタジー
波乱万丈な人生を送ってきたアラフォー主婦の檜山梨沙。
生活費を切り詰めつつ、細々と趣味を矜持し、細やかなに愉しみながら過ごしていた彼女だったが、突然余命宣告を受ける。
夫や娘は全く関心を示さず、心配もされず、ヤケになった彼女は家を飛び出す。
神様の力でいつの間にか目の前に中世のような風景が広がっていて、そこには普通の人間の他に、二足歩行の耳や尻尾が生えている兎人間?鱗の生えたトカゲ人間?3メートルを超えるでかい人間?その逆の1メートルでずんぐりとした人間?達が暮らしていた。
これは不遇な境遇ながらも健気に生きてきた彼女に与えられたご褒美であり、この世界に齎された奇跡でもある。
ハンドメイドの趣味を超えて、世界に認められるアクセサリー屋になった彼女の軌跡。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。
KBT
ファンタジー
神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。
神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。
現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。
スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。
しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。
これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる