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本編
64話 縁は衣の元味の元 その11
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その後、アフラはソフィアと共に厨房へ入り、タロウはクロノスとイフナースに取っ捕まって食堂のテーブルを囲んでいる、ブラス達はそのまま内庭で作業中であった、
「これも美味いな・・・」
「うん、あれだな、チーズケーキとも違うし、ロールケーキとも違う・・・まさにパンだが・・・味付けが違うだけか?」
「そうですね、砂糖を使ってないのでパンですね、甘くすれば菓子と言い張れます、実際に甘くした蒸しパンの方が人気あるかな?俺の国では」
三人の前には昨日の蒸しパンが供されていた、茶請け代わりにとソフィアが置いていったもので、昨晩の余りものといっては聞こえが悪いが余りものである、しかし、一晩経っても十分に柔らかく美味しいと感じる品ではあった、無論出来立てには遠く及ばないにしてもである、
「その蒸し器とやらも買ってこい」
クロノスはまったくとタロウを睨みつける、
「あー・・・あったかな?ほら、買い出しの時もさ、買って来た分で終わりじゃなかったかな?向こうではそれほど活用してないみたいだったし、俺としては大発見だったんだがな・・・」
「む・・・そう言えばそんな事を言っていたな」
クロノスは蒸しパンを二つ平らげ理解を示す、確かに帝国での買い出しの折りにタロウは他の面々の相手をしつつ、何やら見付けてはしゃいでいた、それが蒸し器なのであろう、その時にはそこまで頭が回らなかったが、こうしてその道具の活用事例を見せられればタロウをしてはしゃいだ理由も理解できる、
「まぁ、今日行ってあれば買ってくるよ」
タロウは何とも簡単に答える、全くもって子供のお使い程度の感覚であった、
「そうだな、ついでに酒も頼むよ、軍団長共に飲まれてしまってな、陛下もロキュスにも飲まれてしまった、メインデルトが泣いてたな」
「あー・・・そうなるだろうな、どうせ自慢したんだろ?」
「その通りだ、自慢せずしてどうする」
「お前な、それは飲まれたんじゃなくて、飲ませたんだろ」
「それもその通りだ、あっという間に空になったよ、まったく、そう言えば、酒造りの件はどうなっている?」
「別に何もしていないぞ、さっき、フィロメナさんが遊びに来たけどな、その話しにはならなかったな」
「フィロメナ・・・あー、あれか遊女屋の女将?」
「うん、いつでも来てくれって笑ってたぞ、貴賓室とやらを押さえてあるからルーツの名前を出せば通してくれるってよ」
「ルーツ?」
「だいぶ前からそうなっているらしいぞ、流石ルーツだな」
アッハッハとタロウは明るく笑った、
「あいつは・・・まぁ、そういうものか・・・どこまで根を張っているんだか・・・」
「あいつらしいよ」
タロウとクロノスは嫌そうな笑みを浮かべる、
「そうだ、俺も連れていけ」
蒸しパンの三つめを口に放り込んだイフナースが茶と共に飲み込んで割って入った、
「・・・私としては構いませんが・・・」
タロウは若干顔を顰めた、と同時にその気持ちも良く分かるかなと思う、なにしろ敵地に潜入し、その実情を探るという完全な軍事行動の筈が、話題に上るのは酒だ調理道具だである、さらに王城では珍しい布やら宝飾品も話題となっているであろう、何しろかの地ではクロノスとメインデルトは遠慮無しにあれだこれだと目に付く物を手あたり次第に購入し、ルーツや学園長もこれはと思う物を買い込んでいる、
「思い出した、お前、金はどうしたのだ?」
クロノスは今更な事を問い質す、
「どうしたって・・・向こうの金の事か?」
「当然だろ、あんだけ買い込んで、それもそれなりの品ばかりだろ?戻ってから気になってな」
「遅いよ、あの場で気付けよ」
「いや、お前が遠慮するなと言ったのだろう」
「そう言われたら遠慮するのが当たり前だろうが」
「知るか、遠慮するなとは遠慮するなという意味だ」
「そりゃそうだな」
イフナースがうんうんと頷く、
「・・・まったく、貴族様はこれだから・・・俺は庶民なの、遠慮するなと言ってもだ、多少は遠慮するものだろうが」
タロウは口をへの字に曲げる、クロノスは貴族出身で、イフナースはその貴族を束ねる王族である、メインデルトも生粋の貴族であった、どうやらそこでタロウとの常識の齟齬があったらしい、
「ならそう言えよ」
「まったくだ」
クロノスは悪びれる様子は無く、イフナースは逆にタロウが悪いとばかりにクロノスの味方になる、
「そうかいそうかい、悪かったよ」
タロウはそんな二人を斜めに睨んで茶に手を伸ばした、
「で、金はどうしたんだ?」
とクロノスは話題を戻した、
「何だ?必要なのか?」
「まぁな、本格的にルーツ達に潜入させる事が決定してな、要塞の監視も合わせてだが、そろそろ、あれだろ、皇帝様とやらが要塞に到着する頃合いだろ?」
「あー、かもしれんな」
とタロウはまったく頭の片隅にも無かった事を思い出す、確かに日程的には明日明後日には皇帝一行は要塞に入る頃合いであった、別に急ぎの道程でもなかろうし、道中で視察をする場合もあるであろうが、あの地には為政者として見るべきものは少ないであろう、となると場合によっては今日にも到着していたとしても不思議ではない、
「都市国家の商人にも協力者を確保してな、例の報告書を翻訳した奴なんだが、そいつと共に潜入させる事になったんだ」
「ありゃ・・・その商人大丈夫か?」
「身元はしっかりしているよ、こっちの商会に婿に入った男でな、王家との縁が作れるとなれば喜んでって事らしい・・・」
「・・・そういう事なら大丈夫かな?」
「まぁな、俺も会ったが悪い人物には見えなかったし、ルーツも信用できると言っていた」
「へー、あいつが言うならいいか」
「うん、信用していいだろう、ただ、帝国の金が無いって事でな」
「それでか・・・理解した」
タロウはニヤリと微笑む、何をするにしても結局先立つものは金である、その気になれば都市国家を通じて帝国の金を調達する事も可能であろうが、それでは恐らくかなりの手間と時間と手間賃がかかるであろう、となれば、今現在それを潤沢に持っているであろう人物に無心するのは賢いやり方である、
「ちょっと、待って・・・あっ、いや、お前さん達ならいいか」
タロウは少し考えて懐に手を入れた、そして、すぐさまその懐には収まらないであろう巨大な革袋をぬっと引き出しテーブルに置く、ゴチャリと景気の良い金属音を立ててその革袋はテーブル上でだらしない姿となる、
「・・・なんだそれは・・・」
イフナースはその革袋よりもタロウの所業に目を奪われ、
「いいのか?」
クロノスは何の遠慮も無く革袋に手を伸ばす、
「あぁ、構わん、好きに使え、金貨ばかりだから、使いにくいが・・・商人がいるのであれば向こうの常識で動くだろうさ」
「そうか」
クロノスはその革袋を覗き込む、中身は全て金貨であるらしい、その数枚を取り出ししげしげと観察し、イフナースにも手渡す、
「・・・この顔は?」
「皇帝様の顔ですよ」
「ほう・・・それはまた・・・」
イフナースは表に裏にとその金貨を観察した、タロウの言う皇帝の顔とやらが刻まれており、その顔を囲むように帝国の言葉で何やら刻まれている、それが表面であるとすればその裏面には建物であろうか神殿のような建造物とそれを取り巻く蛇の柄が刻まれていた、
「これは?」
「その中央にあるのがこれを作った土地・・・というか造幣局?造幣所でいいのかな?それの紋章的なもので、周りの蛇は皇帝の象徴ですね」
「蛇が象徴とは聞いたが、金貨にまで彫っているのか・・・」
「そのようです、向こうでは皇帝が変わる度に硬貨を作り直すんですが、そうやって、皇帝の顔と名前、それと象徴も変ることがあるのでそれも、そうやって硬貨に彫って喧伝しているのですね、硬貨はほら金持ちだろうが貧乏人だろうが誰もが使うものでしょ、だから皇帝が変ったこととその顔を知らせる為の工夫・・・かな?面白いですよね、造幣局はその責任を明確にする為でしょう、金貨も銀貨も水増しが簡単な鉱物なので、不正があったら回収する為・・・かなと思います、実際にそうなった事があるのかどうかは知りませんし、金と銀の含有量も皇帝が変わると変わるらしいので、詳しくはその商人か、現地の両替商にでも聞いて下さい」
「なるほど・・・そういう事なのか・・・確かに面白い・・・」
「うん、興味深いな・・・」
二人は素直に感心して金貨を見つめる、
「ま、そんだけあれば贅沢できるでしょ」
タロウはニヤリと微笑む、
「だな、しかし、どうやって手に入れたんだ?」
クロノスはジロリとタロウを睨む、
「どうやって・・・聞くの?」
「駄目か?」
「別に良いけど、ほれ、例の報告書な、それの噂を聞いて探りに行ったついでに皇帝の宝物庫とやらから貰ってきたのさ」
タロウはあっさりと告白する、
「おいおい・・・」
「それは・・・」
と二人は流石に目を眇めた、
「何だよ、あの報告書だって金を払えば手に入るって代物じゃないぞ」
「そりゃそうだがさ」
イフナースは眉間に皺を寄せるが、
「・・・まぁ、それでこっちに有利に動けるのだから・・・文句も言えんか・・・」
クロノスは諸々を察して黙する事にしたらしい、クロノスが知る限りタロウがその気になれば忍び込めない場所は無い、魔王との決戦の折にもルーツと組んでその魔王の居場所を特定したのはタロウである、そのお陰で英雄六人は生き残り、それ以上に被害も出たが、タロウがいなければその作戦自体も立案すら出来なかったであろう、
「そう思ってくれ、別にあれだ、こっちでの生活には困ってないし、金を集めて喜ぶ趣味は無い、困ったらお前に泣き付くよ」
タロウもまた渋い顔で答える、タロウとしては自分の行為を空き巣であり泥棒である事は理解しているし、その後ろめたさもしっかりと感じている、できればそのような事はしたくないとも思うが、状況が状況であった、まずは帝国の首都で耳にした王国への侵攻の真偽を確かめ、ついでに宝物庫とは名ばかりの金庫で眠っている大量の金を活動資金として頂戴したのである、王国の為というよりも、ソフィアやミナや自分の為なのであるが、その行為自体を正当化する気はさらさら無かった、罪を償う気も当然毛ほども無かったが、
「・・・分かった、逆にあれだ、気兼ねなく使えるな」
イフナースも渋い顔を崩さないままに全てを飲み込む事としたようで、
「であれば、俺も見に行きたいぞ、その町とやらをさ」
と話題を変えた、
「お前はそれよりも魔法の修練だ、リンドに聞いてるぞ」
クロノスがギロリと睨む、
「そう・・・だがさ・・・」
「確かに、もしあれでしたら短期間で終える事も出来ますが?」
「待て、タロウそれは駄目だ」
「そこまで過保護にせんでもいいだろう」
「そういう問題ではない、お前イフナースに恨まれたら王国に居場所が無くなるぞ」
「恨むって・・・」
「そんなにきついのか?」
「きついなんてもんじゃない、今のお前では死ぬぞ」
「・・・そんなにか・・・」
「あぁ、少なくとも俺は10日はタロウを本気で殺そうと思ったもんだ」
「えっ、そうなの?」
「そうだぞ、飄々としてたのはルーツとゲインだけだったろうが、俺もユーリもソフィアもミナが居なかったらお前を殺してるわ」
「いや・・・お前そりゃ・・・だってさ・・・」
「他の連中だってそうだったんだよ、お前は加減が分かってない」
「・・・分ったよ・・・」
そこまで恨まれていたのかとタロウは後ろ頭をボリボリとかいた、そこまで追い込んだつもりは無かったがと数年も前の出来事を少しばかり反省する、そこへ、
「はい、出来たわよ」
ソフィアとアフラが食堂へ入ってくる、肉の焼けた香ばしい匂いが食堂に流れ込んだ、
「ほう・・・早いな」
クロノスは革袋をサッと片付け、
「昼から肉料理とは嬉しいな」
イフナースもニヤリと微笑む、
「そうねー、ま、試食だからね、どうぞ」
ソフィアは二人にハンバーグを供し、二人は遠慮無く添えられたフォークに手を伸ばす、そして同時に歓声を上げた、
「これは凄いな・・・」
「あぁ・・・美味い・・・」
「良いお肉だからね、くず肉でもいいんでしょうけど、やっぱりあれね、良いお肉だとより美味しくなるのね」
「なるほど・・・うん、タロウ、肉挽き機か、忘れるなよ」
「分かってるよ、まったく」
タロウはやれやれと溜息を吐き、クロノスとイフナースはあっという間に拳大のハンバーグを平らげた、アフラはニコニコと楽しそうにその様を見つめ、ソフィアは今日もハンバーグでいいかしらと首を傾げるのであった。
「これも美味いな・・・」
「うん、あれだな、チーズケーキとも違うし、ロールケーキとも違う・・・まさにパンだが・・・味付けが違うだけか?」
「そうですね、砂糖を使ってないのでパンですね、甘くすれば菓子と言い張れます、実際に甘くした蒸しパンの方が人気あるかな?俺の国では」
三人の前には昨日の蒸しパンが供されていた、茶請け代わりにとソフィアが置いていったもので、昨晩の余りものといっては聞こえが悪いが余りものである、しかし、一晩経っても十分に柔らかく美味しいと感じる品ではあった、無論出来立てには遠く及ばないにしてもである、
「その蒸し器とやらも買ってこい」
クロノスはまったくとタロウを睨みつける、
「あー・・・あったかな?ほら、買い出しの時もさ、買って来た分で終わりじゃなかったかな?向こうではそれほど活用してないみたいだったし、俺としては大発見だったんだがな・・・」
「む・・・そう言えばそんな事を言っていたな」
クロノスは蒸しパンを二つ平らげ理解を示す、確かに帝国での買い出しの折りにタロウは他の面々の相手をしつつ、何やら見付けてはしゃいでいた、それが蒸し器なのであろう、その時にはそこまで頭が回らなかったが、こうしてその道具の活用事例を見せられればタロウをしてはしゃいだ理由も理解できる、
「まぁ、今日行ってあれば買ってくるよ」
タロウは何とも簡単に答える、全くもって子供のお使い程度の感覚であった、
「そうだな、ついでに酒も頼むよ、軍団長共に飲まれてしまってな、陛下もロキュスにも飲まれてしまった、メインデルトが泣いてたな」
「あー・・・そうなるだろうな、どうせ自慢したんだろ?」
「その通りだ、自慢せずしてどうする」
「お前な、それは飲まれたんじゃなくて、飲ませたんだろ」
「それもその通りだ、あっという間に空になったよ、まったく、そう言えば、酒造りの件はどうなっている?」
「別に何もしていないぞ、さっき、フィロメナさんが遊びに来たけどな、その話しにはならなかったな」
「フィロメナ・・・あー、あれか遊女屋の女将?」
「うん、いつでも来てくれって笑ってたぞ、貴賓室とやらを押さえてあるからルーツの名前を出せば通してくれるってよ」
「ルーツ?」
「だいぶ前からそうなっているらしいぞ、流石ルーツだな」
アッハッハとタロウは明るく笑った、
「あいつは・・・まぁ、そういうものか・・・どこまで根を張っているんだか・・・」
「あいつらしいよ」
タロウとクロノスは嫌そうな笑みを浮かべる、
「そうだ、俺も連れていけ」
蒸しパンの三つめを口に放り込んだイフナースが茶と共に飲み込んで割って入った、
「・・・私としては構いませんが・・・」
タロウは若干顔を顰めた、と同時にその気持ちも良く分かるかなと思う、なにしろ敵地に潜入し、その実情を探るという完全な軍事行動の筈が、話題に上るのは酒だ調理道具だである、さらに王城では珍しい布やら宝飾品も話題となっているであろう、何しろかの地ではクロノスとメインデルトは遠慮無しにあれだこれだと目に付く物を手あたり次第に購入し、ルーツや学園長もこれはと思う物を買い込んでいる、
「思い出した、お前、金はどうしたのだ?」
クロノスは今更な事を問い質す、
「どうしたって・・・向こうの金の事か?」
「当然だろ、あんだけ買い込んで、それもそれなりの品ばかりだろ?戻ってから気になってな」
「遅いよ、あの場で気付けよ」
「いや、お前が遠慮するなと言ったのだろう」
「そう言われたら遠慮するのが当たり前だろうが」
「知るか、遠慮するなとは遠慮するなという意味だ」
「そりゃそうだな」
イフナースがうんうんと頷く、
「・・・まったく、貴族様はこれだから・・・俺は庶民なの、遠慮するなと言ってもだ、多少は遠慮するものだろうが」
タロウは口をへの字に曲げる、クロノスは貴族出身で、イフナースはその貴族を束ねる王族である、メインデルトも生粋の貴族であった、どうやらそこでタロウとの常識の齟齬があったらしい、
「ならそう言えよ」
「まったくだ」
クロノスは悪びれる様子は無く、イフナースは逆にタロウが悪いとばかりにクロノスの味方になる、
「そうかいそうかい、悪かったよ」
タロウはそんな二人を斜めに睨んで茶に手を伸ばした、
「で、金はどうしたんだ?」
とクロノスは話題を戻した、
「何だ?必要なのか?」
「まぁな、本格的にルーツ達に潜入させる事が決定してな、要塞の監視も合わせてだが、そろそろ、あれだろ、皇帝様とやらが要塞に到着する頃合いだろ?」
「あー、かもしれんな」
とタロウはまったく頭の片隅にも無かった事を思い出す、確かに日程的には明日明後日には皇帝一行は要塞に入る頃合いであった、別に急ぎの道程でもなかろうし、道中で視察をする場合もあるであろうが、あの地には為政者として見るべきものは少ないであろう、となると場合によっては今日にも到着していたとしても不思議ではない、
「都市国家の商人にも協力者を確保してな、例の報告書を翻訳した奴なんだが、そいつと共に潜入させる事になったんだ」
「ありゃ・・・その商人大丈夫か?」
「身元はしっかりしているよ、こっちの商会に婿に入った男でな、王家との縁が作れるとなれば喜んでって事らしい・・・」
「・・・そういう事なら大丈夫かな?」
「まぁな、俺も会ったが悪い人物には見えなかったし、ルーツも信用できると言っていた」
「へー、あいつが言うならいいか」
「うん、信用していいだろう、ただ、帝国の金が無いって事でな」
「それでか・・・理解した」
タロウはニヤリと微笑む、何をするにしても結局先立つものは金である、その気になれば都市国家を通じて帝国の金を調達する事も可能であろうが、それでは恐らくかなりの手間と時間と手間賃がかかるであろう、となれば、今現在それを潤沢に持っているであろう人物に無心するのは賢いやり方である、
「ちょっと、待って・・・あっ、いや、お前さん達ならいいか」
タロウは少し考えて懐に手を入れた、そして、すぐさまその懐には収まらないであろう巨大な革袋をぬっと引き出しテーブルに置く、ゴチャリと景気の良い金属音を立ててその革袋はテーブル上でだらしない姿となる、
「・・・なんだそれは・・・」
イフナースはその革袋よりもタロウの所業に目を奪われ、
「いいのか?」
クロノスは何の遠慮も無く革袋に手を伸ばす、
「あぁ、構わん、好きに使え、金貨ばかりだから、使いにくいが・・・商人がいるのであれば向こうの常識で動くだろうさ」
「そうか」
クロノスはその革袋を覗き込む、中身は全て金貨であるらしい、その数枚を取り出ししげしげと観察し、イフナースにも手渡す、
「・・・この顔は?」
「皇帝様の顔ですよ」
「ほう・・・それはまた・・・」
イフナースは表に裏にとその金貨を観察した、タロウの言う皇帝の顔とやらが刻まれており、その顔を囲むように帝国の言葉で何やら刻まれている、それが表面であるとすればその裏面には建物であろうか神殿のような建造物とそれを取り巻く蛇の柄が刻まれていた、
「これは?」
「その中央にあるのがこれを作った土地・・・というか造幣局?造幣所でいいのかな?それの紋章的なもので、周りの蛇は皇帝の象徴ですね」
「蛇が象徴とは聞いたが、金貨にまで彫っているのか・・・」
「そのようです、向こうでは皇帝が変わる度に硬貨を作り直すんですが、そうやって、皇帝の顔と名前、それと象徴も変ることがあるのでそれも、そうやって硬貨に彫って喧伝しているのですね、硬貨はほら金持ちだろうが貧乏人だろうが誰もが使うものでしょ、だから皇帝が変ったこととその顔を知らせる為の工夫・・・かな?面白いですよね、造幣局はその責任を明確にする為でしょう、金貨も銀貨も水増しが簡単な鉱物なので、不正があったら回収する為・・・かなと思います、実際にそうなった事があるのかどうかは知りませんし、金と銀の含有量も皇帝が変わると変わるらしいので、詳しくはその商人か、現地の両替商にでも聞いて下さい」
「なるほど・・・そういう事なのか・・・確かに面白い・・・」
「うん、興味深いな・・・」
二人は素直に感心して金貨を見つめる、
「ま、そんだけあれば贅沢できるでしょ」
タロウはニヤリと微笑む、
「だな、しかし、どうやって手に入れたんだ?」
クロノスはジロリとタロウを睨む、
「どうやって・・・聞くの?」
「駄目か?」
「別に良いけど、ほれ、例の報告書な、それの噂を聞いて探りに行ったついでに皇帝の宝物庫とやらから貰ってきたのさ」
タロウはあっさりと告白する、
「おいおい・・・」
「それは・・・」
と二人は流石に目を眇めた、
「何だよ、あの報告書だって金を払えば手に入るって代物じゃないぞ」
「そりゃそうだがさ」
イフナースは眉間に皺を寄せるが、
「・・・まぁ、それでこっちに有利に動けるのだから・・・文句も言えんか・・・」
クロノスは諸々を察して黙する事にしたらしい、クロノスが知る限りタロウがその気になれば忍び込めない場所は無い、魔王との決戦の折にもルーツと組んでその魔王の居場所を特定したのはタロウである、そのお陰で英雄六人は生き残り、それ以上に被害も出たが、タロウがいなければその作戦自体も立案すら出来なかったであろう、
「そう思ってくれ、別にあれだ、こっちでの生活には困ってないし、金を集めて喜ぶ趣味は無い、困ったらお前に泣き付くよ」
タロウもまた渋い顔で答える、タロウとしては自分の行為を空き巣であり泥棒である事は理解しているし、その後ろめたさもしっかりと感じている、できればそのような事はしたくないとも思うが、状況が状況であった、まずは帝国の首都で耳にした王国への侵攻の真偽を確かめ、ついでに宝物庫とは名ばかりの金庫で眠っている大量の金を活動資金として頂戴したのである、王国の為というよりも、ソフィアやミナや自分の為なのであるが、その行為自体を正当化する気はさらさら無かった、罪を償う気も当然毛ほども無かったが、
「・・・分かった、逆にあれだ、気兼ねなく使えるな」
イフナースも渋い顔を崩さないままに全てを飲み込む事としたようで、
「であれば、俺も見に行きたいぞ、その町とやらをさ」
と話題を変えた、
「お前はそれよりも魔法の修練だ、リンドに聞いてるぞ」
クロノスがギロリと睨む、
「そう・・・だがさ・・・」
「確かに、もしあれでしたら短期間で終える事も出来ますが?」
「待て、タロウそれは駄目だ」
「そこまで過保護にせんでもいいだろう」
「そういう問題ではない、お前イフナースに恨まれたら王国に居場所が無くなるぞ」
「恨むって・・・」
「そんなにきついのか?」
「きついなんてもんじゃない、今のお前では死ぬぞ」
「・・・そんなにか・・・」
「あぁ、少なくとも俺は10日はタロウを本気で殺そうと思ったもんだ」
「えっ、そうなの?」
「そうだぞ、飄々としてたのはルーツとゲインだけだったろうが、俺もユーリもソフィアもミナが居なかったらお前を殺してるわ」
「いや・・・お前そりゃ・・・だってさ・・・」
「他の連中だってそうだったんだよ、お前は加減が分かってない」
「・・・分ったよ・・・」
そこまで恨まれていたのかとタロウは後ろ頭をボリボリとかいた、そこまで追い込んだつもりは無かったがと数年も前の出来事を少しばかり反省する、そこへ、
「はい、出来たわよ」
ソフィアとアフラが食堂へ入ってくる、肉の焼けた香ばしい匂いが食堂に流れ込んだ、
「ほう・・・早いな」
クロノスは革袋をサッと片付け、
「昼から肉料理とは嬉しいな」
イフナースもニヤリと微笑む、
「そうねー、ま、試食だからね、どうぞ」
ソフィアは二人にハンバーグを供し、二人は遠慮無く添えられたフォークに手を伸ばす、そして同時に歓声を上げた、
「これは凄いな・・・」
「あぁ・・・美味い・・・」
「良いお肉だからね、くず肉でもいいんでしょうけど、やっぱりあれね、良いお肉だとより美味しくなるのね」
「なるほど・・・うん、タロウ、肉挽き機か、忘れるなよ」
「分かってるよ、まったく」
タロウはやれやれと溜息を吐き、クロノスとイフナースはあっという間に拳大のハンバーグを平らげた、アフラはニコニコと楽しそうにその様を見つめ、ソフィアは今日もハンバーグでいいかしらと首を傾げるのであった。
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「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
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