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本編
63話 荒野の果てには その11
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それから学園長とサビナは一旦研究所へ戻り、資料のまとめ作業の打合せに入った、学園長も興奮の頂点は過ぎ、だいぶ落ち着いて話せる状態となっている、サビナとしてはこの状態でいてくれたら相談もしやすいのにと何とも不満感が残る騒ぎであった、そして厨房では、
「では、始めます」
「始めるー」
「はい、宜しくお願いします」
「まったく、今度は何よ」
「さっさと始めるのじゃー」
タロウがいつもの三人とソフィアを加えた四人を前にして買い物籠に手を突っ込んでいる、
「ふふん、ソフィア君、日々料理に勤しんでいる貴殿に素晴らしい品を進呈しよう」
なんとも勿体ぶった物言いである、ソフィアは軽くカチンと来てしまう、好きでやっている部分もあるが上から目線で褒められるのは大変に癪に障るもので、
「あん?なに?喧嘩売ってるの?」
と即座に買い言葉が口を吐く、ニコリーネはエッと驚いてしまうが、
「なんだよー、ホントにあれだぞ、ちょっとだけど楽になるんだからさ、目くじら立てるなよ」
タロウはニヤニヤと微笑み、
「あー、むかつくわねー、何よその言い草はー」
「だから、見てなって、ティルさんやらに教える料理も少なくなってきたんだろ?これなら応用も効くからさ」
タロウは適当に誤魔化しつつ買い物袋から葉っぱに包まれた物体をヒョイヒョイと取り出す、
「これは?」
「お肉だよー」
ミナがその一つを手に取ってソフィアに渡した、
「お肉?こんなに?」
ソフィアは別に買ってこなくてもと言いかけて黙り込んだ、すっかりとティルに頼んで王城やらイフナースの所から食材をわけてもらうのに慣れてしまい、ミナやレインに買い物を頼む事も少なくなってしまっていたのだ、ふと、それは駄目な行為だよなと自制心が鎌首をもたげる、
「ふふん、でな、買って来たのは安い肉ばかりなんだよ」
タロウは包みを開けつつ説明する、曰く、今日買って来たのは鹿肉と猪肉の固い部分、そのまま焼いても噛みちぎるのは難しく、安く大量に買える部位ばかりらしい、
「それでどうするの?また煮込む?3日煮込めなんて言わないでしょうね」
ソフィアは嫌そうに目を細めた、放浪の旅を終えた後、田舎に戻った一月も無い期間でタロウはあれだこれだと様々な料理を実践し、その中で最もソフィアが無駄だなと感じた料理がスジ肉を3日の間煮込むという煮物であった、その間常に火を維持する訳ではなく、寝ている間は火を止めるのであるが、それとて日中は火を付けなければならない、出来た料理は確かに美味いものであったが、その労力に合っているかと言われれば大変に疑問に思う品であった、
「あー、あれは大変じゃったな」
「レインもそう思う?」
「そりゃな、確かに美味い煮込みであったが・・・」
レインもどうやらソフィアと同意見らしい、
「まぁまぁ、そういう事もあるけどさ、今回は簡単だよ」
タロウはその安い肉を全て調理台に並べると、
「で、さらに用意するのがこちら」
と勿体ぶって昨日の木箱の中から何やらゴソゴソと取り出すと、ドンと作業台に置いた実に重々しい音である、
「なにこれ?」
「仰々しいのう」
「なんか・・・万力ですか?」
「カッコイイー」
四者四様の反応に、
「ふふん、これは・・・何て言うんだろう?」
タロウはそれに手を置いたまま見つめてしまう、
「知らないで買って来たの?」
「あー、ほら、むこうの国ではちゃんと名前があるぞ、ただこっちでは何と言うのかなって、肉挽き機でいいのかな?俺はミンサーって呼んでたけど」
「どっちでもいいじゃろ」
「いいじゃろー」
「そうか?じゃ肉挽き機でいいか」
「肉挽き機?」
「うん、構造は割と簡単なんだけどな、取り合えずソフィー、軽くこれを洗って油を引きたいんだが」
「はいはい」
とソフィアが油壺を取り出し、タロウはその機械を分解していく、その機械はニコリーネの第一印象が最も的を得た形状である、鉄製の円筒に重そうな台座が付き、円筒部分の上部は開口され前であろうか後ろであろうか取っ手が付いておりそれはカラカラと回転する様子である、その反対側には丸い穴が等間隔で開けられている、見た目だけではとてもその用途を言い当てるのは難しい代物であった、
「一応初めて使うからね、一旦中を清掃してからだな、ニコ君、この肉を大雑把でいいからザク切りにしてくれるか?」
と指示を出しつつ自分は機械の洗浄に入る、お茶用に沸かしてあったお湯をタライに張り、そこへ鉄製の部品を沈め、軽く洗った後に内部を油で滑らせると組み立て直す、
「これでいいかな?」
「そっちは?」
「こんなもんでいいの?」
ニコリーネだけでは不安だろうとソフィアも肉の裁断に協力している、
「いいぞー、うん、そんなもんだ」
タロウは、では、と組み立て直した肉挽き機をテーブルに置くと、それの前に皿を設置する、
「じゃ、どうしようかな、俺が押さえておくから、ミナ、この取っ手をグルグル回してみ」
「わかったー、これ?」
「それ、でお肉を頂戴」
「はい、どうぞ」
ニコリーネから肉を受け取るとタロウは上部の開口部から円筒状の本体へ細切れとなった肉を詰める、三人の視線が集まる中、
「よし、いいぞ、ミナ、ゆっくりでいいからな、回すのだ」
「回すのだ」
タロウはその肉引き機の根本を押さえミナが取っ手に力を掛ける、ゆっくりと取っ手が回りだし、あっという間も無く、
「あっ、出た・・・」
「あら、凄い」
「へー、こうなるのか」
「何がー、何がー」
三人の反応にミナは慌てて手を止めてしまう、見ると皿の上には長細く形成された肉の塊が肉挽き機の先からだらしなく垂れ下がっている、
「ん、良い感じだぞ、ミナ、もう少し回してみて」
「わかったー」
再び取っ手を操るミナである、しかしそれもあっという間に手応えが無くなりスカスカと回りだした、
「はい、止めー」
「出来た?」
「出来たぞー」
タロウは吐き出された肉の束を皿と包丁でもって器用に削ぎ落すと、
「はい、これが挽肉です、びっくりするほど細かくなっているからな、どうだ、凄いだろ」
ニヤリと四人へ見せつける、
「へー・・・」
「凄いですね・・・」
「ムー」
「あれだな・・・」
「大騒ぎした割には・・・って感じ?」
「そうですねー」
しかし四人の反応は薄いものであった、
「なんだよー、駄目かー」
「駄目じゃないけど」
「はい、これなら・・・」
「包丁でも出来そうな」
「今一つ、つまんない」
言いたい放題なとても誠実で正直な女性達である、
「あー、まぁいい、これで作りたい料理があるんだよー」
とタロウはここからが勝負だとばかりに気持ちを切り替えまな板に向かう、そして、
「出来ました」
「出来ましたー」
「どれどれ」
「いい匂いですねー」
結局その調理はソフィアも手伝い、昼前だというのに厨房内には焼いた肉の香ばしい香りが充満する、タロウの手にする皿の上には丸く形成された肉の塊が二つ鎮座している、先程の挽肉に塩と卵黄を加えぐちゃぐちゃと捏ね回し、さっと形成して焼いた品であった、
「では、試してみて下さい」
タロウは皿を作業台に置くとフォークを配る、
「食べていいの?」
「いいぞ、喧嘩するなよ、試食だからなー」
「わかったー」
ミナが早速とフォークを伸ばし、レインとニコリーネもそれに続く、そしてその一片を口に運んだ、途端、
「んー、美味しいー」
「ほう、これは良いの」
「うん、柔らかいねー、美味しー」
「食べやすいのう」
「うん、お肉なのに疲れないー」
とどうやら好評のようである、ソフィアも手を伸ばし、タロウもどれどれと口に運ぶ、
「あら・・・いいわね」
「うん、上出来だ、この汁気が良いんだよ」
「あっ、確かに、お肉なのに水っぽい?脂っぽいのかな?」
「あれだ肉汁ってやつだな、この料理の一番の売りだな」
「へー・・・肉汁ねー」
「美味しいよー、タロウ、凄いー」
「うむ、素晴らしい味だな、肉汁か覚えたぞ」
ニヤリと微笑むタロウとこれは良いと争って手を伸ばす女性達である、
「ふふん、どうだー、成功したろう?」
「何よ、まったく偉そうに」
得意気に微笑むタロウをソフィアは睨むも、
「まっ、美味しい事は美味しいわね」
と素直に認めざるを得なかった、
「だねー、美味しいー、もっと食べたい」
「うむ、試食では足りんのう」
「そだねー」
あっという間に皿は空になっている、
「そっかー、材料はあるからな、ま、夕食はこれで決まりだろ?」
「決まりだねー」
「決まりじゃなー」
「はいはい、じゃ今日はこれにするけど、これはあれ?ティルさんとかに教えてもいいの?」
「構わんぞ、ただ肉挽き機が無いと駄目かもだから、それが問題かな」
「・・・それもそうだわね」
「うん、包丁で細かく刻むこともできるだろうけど、ここまで細かくするのは大変だからね、もう一台あるからさ、リノルトさんに同じの作らせようかと思ってたんだ」
「それはいいかもね、今日来るんでしょ」
「その予定」
「うー、お腹空いたー」
ミナが寂しそうにソフィアを見上げる、少量の肉料理が胃を刺激したのであろう、
「じゃのう」
レインも同意のようで、ニコリーネも物足りない顔でフォークを口に咥えている、
「あー、アメでも舐めてなさい」
「うー、お肉がいいー」
「じゃ、ドーナッツで我慢しなさい」
「いいの?」
パッと明るい顔となるミナである、ドーナッツに負ける肉料理というのも寂しい限りであるが、本格的に料理を始めるには早い時間でもあった、
「仕方ないわね、あー、待ってお金あげるから」
ソフィアは懐から硬貨の入った布袋をレインに手渡し、
「二つまでよ、いいわね」
とミナを見下ろす、
「わかったー、2つまでー、タロウは?ソフィーも食べる?」
「私はいらないかな?タロウさんは?」
「俺もいいよ、ゆっくり食べてきなさい」
「わかったー、レイン、ニコ、行こー」
ミナはバタバタと玄関へ駆け出し、レインとニコも折角だしなとそれに続く、
「で、どういう事なの?」
「どうもこうも無いよ、くず肉を美味しく食べる方法だな、実際美味かったろ?」
「そうね、確かに美味しいわね、こんな道具あったのね」
「まぁな、でだ、さっきのは肉と塩と卵黄だけで焼いたんだけど、玉ねぎを入れても美味しいし、パン粉を混ぜるのもいいかな、それとチーズとか入れても美味いぞ、チーズは塊で入れるんだけどな、カツのように揚げ物にするのも美味い、それはそれで別の名前になるんだけど、他には・・・美味しい肉を使えば当然それだけ旨くなる」
「そうなの?」
「そりゃそうだろ、くず肉でこれだけ旨いんだ、美味い肉を使えばより美味くなるさ、で、コツとしては脂身を加える事かな?さっきの肉汁なんかの旨さの元だな」
「ふーん、やっぱりあれは脂なのね」
「多分ね、それでもサッパリと食べれただろう?赤身肉の旨さと脂の旨さのいいとこどりだな・・・あー、腸詰とかも出来るな、忘れてた」
「腸詰?」
「うん、こっちでは見ないよね、山羊とか羊とかの腸に詰めるんだよ、挽肉を、味付けしてもいいししなくても十分美味いな」
「何それ、めんどくさそう」
「そのまま燻製にして保存食にもなるんだよ、食べやすいし保存もしやすい、作るのは面倒だけど、調理は比較的簡単かな?」
「・・・詳しく聞きたいわね」
「おっ、ソフィア先生が本気になったか?」
「言ってなさいよ、正直私としてもね、ネタが無くなってきた所だから助かるわ」
「だろう?さっきもそう言ったじゃないのさ」
「うるさいわねー、で、どうやるの?」
「ふふん、その前に、まずこの機械だがな、構造を理解しないと掃除もできないだろ、単純なんだが厳密なんだ、できれば一度使ったらこまめに清掃した方がいいね、それと鉄製だからね錆無いようにするのが大事、それと・・・」
と夫婦は仲睦まじく作業台に向かい、どうやらその日の夕食は決まった様子であった。
「では、始めます」
「始めるー」
「はい、宜しくお願いします」
「まったく、今度は何よ」
「さっさと始めるのじゃー」
タロウがいつもの三人とソフィアを加えた四人を前にして買い物籠に手を突っ込んでいる、
「ふふん、ソフィア君、日々料理に勤しんでいる貴殿に素晴らしい品を進呈しよう」
なんとも勿体ぶった物言いである、ソフィアは軽くカチンと来てしまう、好きでやっている部分もあるが上から目線で褒められるのは大変に癪に障るもので、
「あん?なに?喧嘩売ってるの?」
と即座に買い言葉が口を吐く、ニコリーネはエッと驚いてしまうが、
「なんだよー、ホントにあれだぞ、ちょっとだけど楽になるんだからさ、目くじら立てるなよ」
タロウはニヤニヤと微笑み、
「あー、むかつくわねー、何よその言い草はー」
「だから、見てなって、ティルさんやらに教える料理も少なくなってきたんだろ?これなら応用も効くからさ」
タロウは適当に誤魔化しつつ買い物袋から葉っぱに包まれた物体をヒョイヒョイと取り出す、
「これは?」
「お肉だよー」
ミナがその一つを手に取ってソフィアに渡した、
「お肉?こんなに?」
ソフィアは別に買ってこなくてもと言いかけて黙り込んだ、すっかりとティルに頼んで王城やらイフナースの所から食材をわけてもらうのに慣れてしまい、ミナやレインに買い物を頼む事も少なくなってしまっていたのだ、ふと、それは駄目な行為だよなと自制心が鎌首をもたげる、
「ふふん、でな、買って来たのは安い肉ばかりなんだよ」
タロウは包みを開けつつ説明する、曰く、今日買って来たのは鹿肉と猪肉の固い部分、そのまま焼いても噛みちぎるのは難しく、安く大量に買える部位ばかりらしい、
「それでどうするの?また煮込む?3日煮込めなんて言わないでしょうね」
ソフィアは嫌そうに目を細めた、放浪の旅を終えた後、田舎に戻った一月も無い期間でタロウはあれだこれだと様々な料理を実践し、その中で最もソフィアが無駄だなと感じた料理がスジ肉を3日の間煮込むという煮物であった、その間常に火を維持する訳ではなく、寝ている間は火を止めるのであるが、それとて日中は火を付けなければならない、出来た料理は確かに美味いものであったが、その労力に合っているかと言われれば大変に疑問に思う品であった、
「あー、あれは大変じゃったな」
「レインもそう思う?」
「そりゃな、確かに美味い煮込みであったが・・・」
レインもどうやらソフィアと同意見らしい、
「まぁまぁ、そういう事もあるけどさ、今回は簡単だよ」
タロウはその安い肉を全て調理台に並べると、
「で、さらに用意するのがこちら」
と勿体ぶって昨日の木箱の中から何やらゴソゴソと取り出すと、ドンと作業台に置いた実に重々しい音である、
「なにこれ?」
「仰々しいのう」
「なんか・・・万力ですか?」
「カッコイイー」
四者四様の反応に、
「ふふん、これは・・・何て言うんだろう?」
タロウはそれに手を置いたまま見つめてしまう、
「知らないで買って来たの?」
「あー、ほら、むこうの国ではちゃんと名前があるぞ、ただこっちでは何と言うのかなって、肉挽き機でいいのかな?俺はミンサーって呼んでたけど」
「どっちでもいいじゃろ」
「いいじゃろー」
「そうか?じゃ肉挽き機でいいか」
「肉挽き機?」
「うん、構造は割と簡単なんだけどな、取り合えずソフィー、軽くこれを洗って油を引きたいんだが」
「はいはい」
とソフィアが油壺を取り出し、タロウはその機械を分解していく、その機械はニコリーネの第一印象が最も的を得た形状である、鉄製の円筒に重そうな台座が付き、円筒部分の上部は開口され前であろうか後ろであろうか取っ手が付いておりそれはカラカラと回転する様子である、その反対側には丸い穴が等間隔で開けられている、見た目だけではとてもその用途を言い当てるのは難しい代物であった、
「一応初めて使うからね、一旦中を清掃してからだな、ニコ君、この肉を大雑把でいいからザク切りにしてくれるか?」
と指示を出しつつ自分は機械の洗浄に入る、お茶用に沸かしてあったお湯をタライに張り、そこへ鉄製の部品を沈め、軽く洗った後に内部を油で滑らせると組み立て直す、
「これでいいかな?」
「そっちは?」
「こんなもんでいいの?」
ニコリーネだけでは不安だろうとソフィアも肉の裁断に協力している、
「いいぞー、うん、そんなもんだ」
タロウは、では、と組み立て直した肉挽き機をテーブルに置くと、それの前に皿を設置する、
「じゃ、どうしようかな、俺が押さえておくから、ミナ、この取っ手をグルグル回してみ」
「わかったー、これ?」
「それ、でお肉を頂戴」
「はい、どうぞ」
ニコリーネから肉を受け取るとタロウは上部の開口部から円筒状の本体へ細切れとなった肉を詰める、三人の視線が集まる中、
「よし、いいぞ、ミナ、ゆっくりでいいからな、回すのだ」
「回すのだ」
タロウはその肉引き機の根本を押さえミナが取っ手に力を掛ける、ゆっくりと取っ手が回りだし、あっという間も無く、
「あっ、出た・・・」
「あら、凄い」
「へー、こうなるのか」
「何がー、何がー」
三人の反応にミナは慌てて手を止めてしまう、見ると皿の上には長細く形成された肉の塊が肉挽き機の先からだらしなく垂れ下がっている、
「ん、良い感じだぞ、ミナ、もう少し回してみて」
「わかったー」
再び取っ手を操るミナである、しかしそれもあっという間に手応えが無くなりスカスカと回りだした、
「はい、止めー」
「出来た?」
「出来たぞー」
タロウは吐き出された肉の束を皿と包丁でもって器用に削ぎ落すと、
「はい、これが挽肉です、びっくりするほど細かくなっているからな、どうだ、凄いだろ」
ニヤリと四人へ見せつける、
「へー・・・」
「凄いですね・・・」
「ムー」
「あれだな・・・」
「大騒ぎした割には・・・って感じ?」
「そうですねー」
しかし四人の反応は薄いものであった、
「なんだよー、駄目かー」
「駄目じゃないけど」
「はい、これなら・・・」
「包丁でも出来そうな」
「今一つ、つまんない」
言いたい放題なとても誠実で正直な女性達である、
「あー、まぁいい、これで作りたい料理があるんだよー」
とタロウはここからが勝負だとばかりに気持ちを切り替えまな板に向かう、そして、
「出来ました」
「出来ましたー」
「どれどれ」
「いい匂いですねー」
結局その調理はソフィアも手伝い、昼前だというのに厨房内には焼いた肉の香ばしい香りが充満する、タロウの手にする皿の上には丸く形成された肉の塊が二つ鎮座している、先程の挽肉に塩と卵黄を加えぐちゃぐちゃと捏ね回し、さっと形成して焼いた品であった、
「では、試してみて下さい」
タロウは皿を作業台に置くとフォークを配る、
「食べていいの?」
「いいぞ、喧嘩するなよ、試食だからなー」
「わかったー」
ミナが早速とフォークを伸ばし、レインとニコリーネもそれに続く、そしてその一片を口に運んだ、途端、
「んー、美味しいー」
「ほう、これは良いの」
「うん、柔らかいねー、美味しー」
「食べやすいのう」
「うん、お肉なのに疲れないー」
とどうやら好評のようである、ソフィアも手を伸ばし、タロウもどれどれと口に運ぶ、
「あら・・・いいわね」
「うん、上出来だ、この汁気が良いんだよ」
「あっ、確かに、お肉なのに水っぽい?脂っぽいのかな?」
「あれだ肉汁ってやつだな、この料理の一番の売りだな」
「へー・・・肉汁ねー」
「美味しいよー、タロウ、凄いー」
「うむ、素晴らしい味だな、肉汁か覚えたぞ」
ニヤリと微笑むタロウとこれは良いと争って手を伸ばす女性達である、
「ふふん、どうだー、成功したろう?」
「何よ、まったく偉そうに」
得意気に微笑むタロウをソフィアは睨むも、
「まっ、美味しい事は美味しいわね」
と素直に認めざるを得なかった、
「だねー、美味しいー、もっと食べたい」
「うむ、試食では足りんのう」
「そだねー」
あっという間に皿は空になっている、
「そっかー、材料はあるからな、ま、夕食はこれで決まりだろ?」
「決まりだねー」
「決まりじゃなー」
「はいはい、じゃ今日はこれにするけど、これはあれ?ティルさんとかに教えてもいいの?」
「構わんぞ、ただ肉挽き機が無いと駄目かもだから、それが問題かな」
「・・・それもそうだわね」
「うん、包丁で細かく刻むこともできるだろうけど、ここまで細かくするのは大変だからね、もう一台あるからさ、リノルトさんに同じの作らせようかと思ってたんだ」
「それはいいかもね、今日来るんでしょ」
「その予定」
「うー、お腹空いたー」
ミナが寂しそうにソフィアを見上げる、少量の肉料理が胃を刺激したのであろう、
「じゃのう」
レインも同意のようで、ニコリーネも物足りない顔でフォークを口に咥えている、
「あー、アメでも舐めてなさい」
「うー、お肉がいいー」
「じゃ、ドーナッツで我慢しなさい」
「いいの?」
パッと明るい顔となるミナである、ドーナッツに負ける肉料理というのも寂しい限りであるが、本格的に料理を始めるには早い時間でもあった、
「仕方ないわね、あー、待ってお金あげるから」
ソフィアは懐から硬貨の入った布袋をレインに手渡し、
「二つまでよ、いいわね」
とミナを見下ろす、
「わかったー、2つまでー、タロウは?ソフィーも食べる?」
「私はいらないかな?タロウさんは?」
「俺もいいよ、ゆっくり食べてきなさい」
「わかったー、レイン、ニコ、行こー」
ミナはバタバタと玄関へ駆け出し、レインとニコも折角だしなとそれに続く、
「で、どういう事なの?」
「どうもこうも無いよ、くず肉を美味しく食べる方法だな、実際美味かったろ?」
「そうね、確かに美味しいわね、こんな道具あったのね」
「まぁな、でだ、さっきのは肉と塩と卵黄だけで焼いたんだけど、玉ねぎを入れても美味しいし、パン粉を混ぜるのもいいかな、それとチーズとか入れても美味いぞ、チーズは塊で入れるんだけどな、カツのように揚げ物にするのも美味い、それはそれで別の名前になるんだけど、他には・・・美味しい肉を使えば当然それだけ旨くなる」
「そうなの?」
「そりゃそうだろ、くず肉でこれだけ旨いんだ、美味い肉を使えばより美味くなるさ、で、コツとしては脂身を加える事かな?さっきの肉汁なんかの旨さの元だな」
「ふーん、やっぱりあれは脂なのね」
「多分ね、それでもサッパリと食べれただろう?赤身肉の旨さと脂の旨さのいいとこどりだな・・・あー、腸詰とかも出来るな、忘れてた」
「腸詰?」
「うん、こっちでは見ないよね、山羊とか羊とかの腸に詰めるんだよ、挽肉を、味付けしてもいいししなくても十分美味いな」
「何それ、めんどくさそう」
「そのまま燻製にして保存食にもなるんだよ、食べやすいし保存もしやすい、作るのは面倒だけど、調理は比較的簡単かな?」
「・・・詳しく聞きたいわね」
「おっ、ソフィア先生が本気になったか?」
「言ってなさいよ、正直私としてもね、ネタが無くなってきた所だから助かるわ」
「だろう?さっきもそう言ったじゃないのさ」
「うるさいわねー、で、どうやるの?」
「ふふん、その前に、まずこの機械だがな、構造を理解しないと掃除もできないだろ、単純なんだが厳密なんだ、できれば一度使ったらこまめに清掃した方がいいね、それと鉄製だからね錆無いようにするのが大事、それと・・・」
と夫婦は仲睦まじく作業台に向かい、どうやらその日の夕食は決まった様子であった。
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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