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本編
63話 荒野の果てには その6
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「これは・・・」
「うわ、すげぇな・・・」
「うむ、恐ろしい」
「これはなんだ・・・蛇でいいのか?」
先頭を歩く騎馬隊が過ぎると、皇帝の乗る輿が市場に差し掛かる、一行はその異様を目にして言葉も無い、いや、正確には驚くしか無く呆れるしか無い、その輿を引くのが二頭の巨大な蛇であったのだ、
「どういうことじゃ」
学園長がタロウを見上げる、民衆の歓声はいよいよ大きくなり、その歓声の中その大蛇もどういうわけだか誇らしげに見える、そして最も恐ろしいと王国の面々が感じたのが、その大蛇を民衆が喜んで受け入れている点である、
「どういうことと言われましても、帝国の・・・いや、現皇帝一族の象徴が蛇なのですよ、それも王国ではまず見ない巨大なね・・・なので、その蛇に輿を引かせるのが当然・・・当然は違うかな、権威の主張かな?・・・なのです」
タロウは冷静に答える、
「そうか・・・しかし、なんだ、大人でも一呑みにされそうな巨体じゃな・・・」
「そうですね、でかいですねー」
大蛇はまさに巨大であった、顔の大きさは成人男性の倍はあり、その喉元まで裂けた口に馬と同様の轡を咥え、チロチロと大人の足程に太い舌と鈍く光る牙を覗かせている、その頭には御者台であろう木製の足場が乗せられており、漆黒の衣に身を包んだ小柄な御者を乗せていた、その御者の手には鞭が握られており、時折大蛇の鼻っ面に鞭が飛ぶ、そして長く太い胴が延々と続く、先を行く騎馬隊の列とほぼ同じくらいの長さであり、そのあまりの太さと大きさにズリズリと本来聞こえるはずの無い蛇特有の歩行音と言うべきか、這いずる音までが振動として伝わってきた、
「あっ、あれが皇帝です」
タロウが輿を指差す、大蛇に視線を取られる一同は慌ててそちらへ視線を向けた、
「・・・派手・・・じゃなー」
「うえ、趣味ワリィ」
「だな・・・」
「・・・醜悪・・・」
「確かに」
その輿は豪華絢爛と評するに値する、巨大な天幕は恐らくシルクであろうか独特の白さを輝かせ、その天幕を支える数本の柱は全て金色に光り輝いている、蛇から長く伸びた縄がその輿に繋がっており、六輪の巨大な車輪がそれを支えていた、その中央、三段程高い座に見たことも無い獣の毛皮を敷いた寝台があり、そこに悠揚と寝そべっているのがその皇帝であろう、浅黒い肌に金糸と銀糸で細かい装飾が施された独特の装束をまとい、宝石が散りばめられた冠を着けている、そして、その足元には禿頭の美しい女性とこれも禿頭の麗しい男性が複数人、皇帝のその姿を真似るように寝そべっていた、共に首輪を着けており、その首輪からは長い縄が伸びている、恐らく輿のどこかに結び付けられているのであろう、そして両者ともに全裸である、何の意味があるのかわからないし、冬の始まりで秋の終わりである今この時にその姿はあまりにも寒々しく滑稽であった、
「あれが、イウス・サンクタム帝国、王国語に訳せば・・・神聖法帝国・・・かな?と思います、その主、ジウス・アンドロイス・シェザーレ・ミドレンシア5世、民衆からはジウス皇帝、もしくはミドレンシア5世と呼ばれていますね」
「ほう・・・」
「・・・ん?」
「若いな」
「そうか?」
「確かに若いように見えるが・・・」
一同が目を凝らすが若干距離がある為その皇帝とやらをしっかりと確認する事は出来なかった、なにせ、輿もまた大きいのである、広いと感じた街路のほぼ全てを覆う程の大きさで、さらに正面からならば視認できたであろうが、天幕によってその姿は微妙に隠されている、
「・・・タロウ、なんだあれは?」
ルーツが半眼で天幕越しに皇帝を睨みつつ、タロウの袖を引っ張った、
「あー・・・やっぱり分るか?」
タロウはニヤリと微笑む、
「そりゃお前、俺にかかればさ・・・って」
ルーツがタロウへ視線を向ける、
「うん、あれはほら、偽物だ」
エッと一同の顔がタロウへ向いた、
「だろうな・・・そうなると・・・実物はいるのかな?」
とルーツがつま先立ちになって行列の後方を覗くが輿が邪魔になってまるで見えない、
「どういう事だ?」
クロノスがタロウに詰め寄る、
「あー、簡単ですよ、あんな感じで目立つ事をするときは、偽物と擦り替わるのです、影武者ってやつで」
「カゲムシャ?」
「あー・・・偽物とか替え玉とか身代わりとか、ようはあれです、暗殺の心配があったり、不意に襲われる事もあるでしょう、そういった時の・・・」
「なるほど、確かに身代わりだな」
学園長がうんうんと頷く、
「はい、以前も話しましたが皇帝は敵が多いです、こっちに手を着けるまでは一族内で争っていましたからね、なもんで暗殺の懸念があります、少し離れた所から弓矢で狙われることもありますし、面と向かって襲ってくる事も場合によってはあるでしょうね、なので、こういう時は偽物に擦り替わるのですよ」
「それはまた・・・」
「周到というか、用心深いというか・・・」
「いや、王国でもあったぞ、陛下の曾祖父の時代には身代わりが3人はいたと聞く、王国がしっかりと確立してからは暗殺の恐れは少なくなったが、それでも毒見役はいるであろう?」
「あー、確かにそうですね」
「なるほど、そう考えると、必要なのか・・・」
クロノスとメインデルトが静かに頷いている、
「ですが、あくまであれは身代わりなので、本物がどこかに居る筈なんですよねー」
タロウはのんびりと呟きルーツと同じように列の後方を確認する、巨大な輿が漸く一行の眼前を通り過ぎ、民衆の歓声も最高潮を過ぎた、
「あれじゃないか?」
ルーツがタロウへ目配せする、
「どれだ?」
「ほれ、騎士団の三列目、中央付近」
輿の後には騎士団が続いていた、その鎧は先の騎士団と変わらないもので、恐らく前方と先触れを合わせて王国で言う近衛騎士団なのであろう、
「おっ、流石ルーツ、目ざといねー」
タロウがニヤリと微笑む、
「確定かな?」
「うん、俺とお前で意見が同じであれば確定でいいだろう」
「だな」
ルーツは満足そうに微笑み、ヒデオンに何やら耳打ちする、ヒデオンもつま先立ちとなり、半眼でもってその騎士団の一人を注視した、
「どういう事だ?」
「そのままですよ、後ろの騎士団の三列目ど真ん中の騎士が皇帝その人です」
タロウは指差すと問題であろうなと目線と言葉で説明する、クロノスらもつま先立ちでそちらを伺った、件の騎士は先程の身代わりと同じように肌は浅黒く兜によってその髪は見えないが恐らく黒であろう、そして若い、二十代後半であろうか三十まではいっていないと見える、回りの騎士達と並んでも見劣りしない体躯で、精悍な顔を毅然と正面に向け厳しい瞳である、
「あちゃー、あの周りの騎士達も大したもんだぞ、お前さんでもただの殴り合いなら負けるかもな」
ルーツがニヤリと半眼のままクロノスをからかう、
「なに?そりゃすごいな、あれかゲインでも無理か?」
クロノスも騎士団を注視しながらニヤリと答えた、
「あー、ゲインの方がなんぼか上だ、それでも、サシなら勝てるが・・・あんなにいたら無理だな・・・」
「そうか・・・フフッ、そうでなければな」
クロノスはニヤニヤと騎士団を眺める、
「で・・・あっ、次に来るのが・・・あれが恐らく王国で言う軍団長・・・軍団長よりも一階級上かな?向こうの言葉でプラエファクタスとういう役職です」
「ほう・・・」
騎士団の後方、馬車に立ち、皇帝の身代わりと違って穏やかな笑顔で手を振っている中年をタロウが視線で差す、
「あれはなんじゃ、見たことも無い獣だ」
その馬車は二頭の獣で引かれていた、灰色の鎧のような革をまとい、その鼻先には二本の巨大な角が生えている、そしてこちらにも黒衣の小柄な御者が鞭を片手にその背に乗っている、
「サイという動物です、見た目通り力もあるし勇猛ですね」
「なんと、いや素晴らしいな、近くで見てみたい」
「あー、止めて下さいよ、行列を邪魔したら問答無用で殺されます」
「だろうな・・・いや、しかし、凄いな、あれも飼えるのか?」
「無理ですね、先の蛇もですが、御者がいるでしょ」
「おう、確かに」
「あれが南方の民族らしいのですが、動物を操る事に長けた部族らしいです、彼らの妙技を持ってやっと言いなりになっているらしいので、飼育は難しいですし、買えるのかな?売っていると聞いた事はないですね」
「むぅ、残念じゃ、あれもあれか食えば美味いのか?」
「すいません、そこまでは分らないです」
「そうか、そうか、いや、素晴らしい」
学園長の興味がサイに向かっている中、クロノスらは皇帝その人から、サイの引く車に乗る男の品評へと移っている、
「あの男もやれそうか?」
「だな・・・随分と愛想がいいが・・・うん、戦場で生きてきた男ってやつだ・・・」
「・・・そうか、タロウ、あの男の情報はあるか?」
「あー、名前は確かバルフレード・ジルタ・ベリアヌス、少し発音が違うかもしれんが、そんな感じだな、で、プラエファクタスってのが王国の言葉だとなんだろう、軍団長を統べる軍団長って感じで、彼は確か全軍団の内の半分を指揮できる筈だな」
「となると、15万の軍勢を操れるって事か」
「そうなりますね、しかし、今回はその一個軍団しか用意してないでしょうからら・・・いや、そこはあれだ、実際の開戦を待たないとどうなるかはわかりませんね、しかし、彼がいるのであれば・・・しかし、わざわざ来たのかな?戦好きなだけかもな・・・」
「なんだ、お前でもやつが居たことを知らなかったのか?やつの事は聞いてないぞ」
「そりゃだって、皇帝にピッタリ張り付いているわけではないからな・・・細かい事は勘弁してくれよ」
「軍の指揮官が細かい事かよ」
「そりゃそうだけどさ、あっ、で、次に続いているのが軍団長、帝国語でゼネラルですね、こっちは王国と一緒、軍団長と同格と見て良いかと思います」
と行列は続いていく、クロノスらはその様をじっくりと見物し、タロウは逐一飛んで来るその質問に細かく答えていく、そして、
「こんなもんですかね、後は、一般兵と輜重隊かな?まぁ、こんなもんでしょう」
見るべきものは見たとタロウは判断する、実際見物客達もその半数は仕事に戻り、買い物客もまた市場に戻っていた、残っているのは単に街路の向こう側に渡りたい者か、よほどの兵隊好きだけのようである、ヤキモキしている者、ボーッと眺める者、楽しそうにニヤついている者等となる、
「だな、じゃ、一度整理するか・・・」
クロノスはうーんと頭をかきむしる、
「それがよさそうだ、タロウ、お前の知識は重要だ、改めて確認したい」
メインデルトの真剣な瞳がタロウへ向けられる、敵の姿を確認し、軍人として感じる事があるのであろう、やっと帝国の進軍が真実であり、またその力は王国のそれを遥かに凌駕するであろうと確信するに至った、
「ですね、では・・・牛と豚を食べながらにしますか・・・腰を下ろすところはあるかな?」
タロウはしかしどこまでも飄々としている、どうやら駐屯地まで行く必要は無くなったと気軽に市場へ身体を向けた。
「うわ、すげぇな・・・」
「うむ、恐ろしい」
「これはなんだ・・・蛇でいいのか?」
先頭を歩く騎馬隊が過ぎると、皇帝の乗る輿が市場に差し掛かる、一行はその異様を目にして言葉も無い、いや、正確には驚くしか無く呆れるしか無い、その輿を引くのが二頭の巨大な蛇であったのだ、
「どういうことじゃ」
学園長がタロウを見上げる、民衆の歓声はいよいよ大きくなり、その歓声の中その大蛇もどういうわけだか誇らしげに見える、そして最も恐ろしいと王国の面々が感じたのが、その大蛇を民衆が喜んで受け入れている点である、
「どういうことと言われましても、帝国の・・・いや、現皇帝一族の象徴が蛇なのですよ、それも王国ではまず見ない巨大なね・・・なので、その蛇に輿を引かせるのが当然・・・当然は違うかな、権威の主張かな?・・・なのです」
タロウは冷静に答える、
「そうか・・・しかし、なんだ、大人でも一呑みにされそうな巨体じゃな・・・」
「そうですね、でかいですねー」
大蛇はまさに巨大であった、顔の大きさは成人男性の倍はあり、その喉元まで裂けた口に馬と同様の轡を咥え、チロチロと大人の足程に太い舌と鈍く光る牙を覗かせている、その頭には御者台であろう木製の足場が乗せられており、漆黒の衣に身を包んだ小柄な御者を乗せていた、その御者の手には鞭が握られており、時折大蛇の鼻っ面に鞭が飛ぶ、そして長く太い胴が延々と続く、先を行く騎馬隊の列とほぼ同じくらいの長さであり、そのあまりの太さと大きさにズリズリと本来聞こえるはずの無い蛇特有の歩行音と言うべきか、這いずる音までが振動として伝わってきた、
「あっ、あれが皇帝です」
タロウが輿を指差す、大蛇に視線を取られる一同は慌ててそちらへ視線を向けた、
「・・・派手・・・じゃなー」
「うえ、趣味ワリィ」
「だな・・・」
「・・・醜悪・・・」
「確かに」
その輿は豪華絢爛と評するに値する、巨大な天幕は恐らくシルクであろうか独特の白さを輝かせ、その天幕を支える数本の柱は全て金色に光り輝いている、蛇から長く伸びた縄がその輿に繋がっており、六輪の巨大な車輪がそれを支えていた、その中央、三段程高い座に見たことも無い獣の毛皮を敷いた寝台があり、そこに悠揚と寝そべっているのがその皇帝であろう、浅黒い肌に金糸と銀糸で細かい装飾が施された独特の装束をまとい、宝石が散りばめられた冠を着けている、そして、その足元には禿頭の美しい女性とこれも禿頭の麗しい男性が複数人、皇帝のその姿を真似るように寝そべっていた、共に首輪を着けており、その首輪からは長い縄が伸びている、恐らく輿のどこかに結び付けられているのであろう、そして両者ともに全裸である、何の意味があるのかわからないし、冬の始まりで秋の終わりである今この時にその姿はあまりにも寒々しく滑稽であった、
「あれが、イウス・サンクタム帝国、王国語に訳せば・・・神聖法帝国・・・かな?と思います、その主、ジウス・アンドロイス・シェザーレ・ミドレンシア5世、民衆からはジウス皇帝、もしくはミドレンシア5世と呼ばれていますね」
「ほう・・・」
「・・・ん?」
「若いな」
「そうか?」
「確かに若いように見えるが・・・」
一同が目を凝らすが若干距離がある為その皇帝とやらをしっかりと確認する事は出来なかった、なにせ、輿もまた大きいのである、広いと感じた街路のほぼ全てを覆う程の大きさで、さらに正面からならば視認できたであろうが、天幕によってその姿は微妙に隠されている、
「・・・タロウ、なんだあれは?」
ルーツが半眼で天幕越しに皇帝を睨みつつ、タロウの袖を引っ張った、
「あー・・・やっぱり分るか?」
タロウはニヤリと微笑む、
「そりゃお前、俺にかかればさ・・・って」
ルーツがタロウへ視線を向ける、
「うん、あれはほら、偽物だ」
エッと一同の顔がタロウへ向いた、
「だろうな・・・そうなると・・・実物はいるのかな?」
とルーツがつま先立ちになって行列の後方を覗くが輿が邪魔になってまるで見えない、
「どういう事だ?」
クロノスがタロウに詰め寄る、
「あー、簡単ですよ、あんな感じで目立つ事をするときは、偽物と擦り替わるのです、影武者ってやつで」
「カゲムシャ?」
「あー・・・偽物とか替え玉とか身代わりとか、ようはあれです、暗殺の心配があったり、不意に襲われる事もあるでしょう、そういった時の・・・」
「なるほど、確かに身代わりだな」
学園長がうんうんと頷く、
「はい、以前も話しましたが皇帝は敵が多いです、こっちに手を着けるまでは一族内で争っていましたからね、なもんで暗殺の懸念があります、少し離れた所から弓矢で狙われることもありますし、面と向かって襲ってくる事も場合によってはあるでしょうね、なので、こういう時は偽物に擦り替わるのですよ」
「それはまた・・・」
「周到というか、用心深いというか・・・」
「いや、王国でもあったぞ、陛下の曾祖父の時代には身代わりが3人はいたと聞く、王国がしっかりと確立してからは暗殺の恐れは少なくなったが、それでも毒見役はいるであろう?」
「あー、確かにそうですね」
「なるほど、そう考えると、必要なのか・・・」
クロノスとメインデルトが静かに頷いている、
「ですが、あくまであれは身代わりなので、本物がどこかに居る筈なんですよねー」
タロウはのんびりと呟きルーツと同じように列の後方を確認する、巨大な輿が漸く一行の眼前を通り過ぎ、民衆の歓声も最高潮を過ぎた、
「あれじゃないか?」
ルーツがタロウへ目配せする、
「どれだ?」
「ほれ、騎士団の三列目、中央付近」
輿の後には騎士団が続いていた、その鎧は先の騎士団と変わらないもので、恐らく前方と先触れを合わせて王国で言う近衛騎士団なのであろう、
「おっ、流石ルーツ、目ざといねー」
タロウがニヤリと微笑む、
「確定かな?」
「うん、俺とお前で意見が同じであれば確定でいいだろう」
「だな」
ルーツは満足そうに微笑み、ヒデオンに何やら耳打ちする、ヒデオンもつま先立ちとなり、半眼でもってその騎士団の一人を注視した、
「どういう事だ?」
「そのままですよ、後ろの騎士団の三列目ど真ん中の騎士が皇帝その人です」
タロウは指差すと問題であろうなと目線と言葉で説明する、クロノスらもつま先立ちでそちらを伺った、件の騎士は先程の身代わりと同じように肌は浅黒く兜によってその髪は見えないが恐らく黒であろう、そして若い、二十代後半であろうか三十まではいっていないと見える、回りの騎士達と並んでも見劣りしない体躯で、精悍な顔を毅然と正面に向け厳しい瞳である、
「あちゃー、あの周りの騎士達も大したもんだぞ、お前さんでもただの殴り合いなら負けるかもな」
ルーツがニヤリと半眼のままクロノスをからかう、
「なに?そりゃすごいな、あれかゲインでも無理か?」
クロノスも騎士団を注視しながらニヤリと答えた、
「あー、ゲインの方がなんぼか上だ、それでも、サシなら勝てるが・・・あんなにいたら無理だな・・・」
「そうか・・・フフッ、そうでなければな」
クロノスはニヤニヤと騎士団を眺める、
「で・・・あっ、次に来るのが・・・あれが恐らく王国で言う軍団長・・・軍団長よりも一階級上かな?向こうの言葉でプラエファクタスとういう役職です」
「ほう・・・」
騎士団の後方、馬車に立ち、皇帝の身代わりと違って穏やかな笑顔で手を振っている中年をタロウが視線で差す、
「あれはなんじゃ、見たことも無い獣だ」
その馬車は二頭の獣で引かれていた、灰色の鎧のような革をまとい、その鼻先には二本の巨大な角が生えている、そしてこちらにも黒衣の小柄な御者が鞭を片手にその背に乗っている、
「サイという動物です、見た目通り力もあるし勇猛ですね」
「なんと、いや素晴らしいな、近くで見てみたい」
「あー、止めて下さいよ、行列を邪魔したら問答無用で殺されます」
「だろうな・・・いや、しかし、凄いな、あれも飼えるのか?」
「無理ですね、先の蛇もですが、御者がいるでしょ」
「おう、確かに」
「あれが南方の民族らしいのですが、動物を操る事に長けた部族らしいです、彼らの妙技を持ってやっと言いなりになっているらしいので、飼育は難しいですし、買えるのかな?売っていると聞いた事はないですね」
「むぅ、残念じゃ、あれもあれか食えば美味いのか?」
「すいません、そこまでは分らないです」
「そうか、そうか、いや、素晴らしい」
学園長の興味がサイに向かっている中、クロノスらは皇帝その人から、サイの引く車に乗る男の品評へと移っている、
「あの男もやれそうか?」
「だな・・・随分と愛想がいいが・・・うん、戦場で生きてきた男ってやつだ・・・」
「・・・そうか、タロウ、あの男の情報はあるか?」
「あー、名前は確かバルフレード・ジルタ・ベリアヌス、少し発音が違うかもしれんが、そんな感じだな、で、プラエファクタスってのが王国の言葉だとなんだろう、軍団長を統べる軍団長って感じで、彼は確か全軍団の内の半分を指揮できる筈だな」
「となると、15万の軍勢を操れるって事か」
「そうなりますね、しかし、今回はその一個軍団しか用意してないでしょうからら・・・いや、そこはあれだ、実際の開戦を待たないとどうなるかはわかりませんね、しかし、彼がいるのであれば・・・しかし、わざわざ来たのかな?戦好きなだけかもな・・・」
「なんだ、お前でもやつが居たことを知らなかったのか?やつの事は聞いてないぞ」
「そりゃだって、皇帝にピッタリ張り付いているわけではないからな・・・細かい事は勘弁してくれよ」
「軍の指揮官が細かい事かよ」
「そりゃそうだけどさ、あっ、で、次に続いているのが軍団長、帝国語でゼネラルですね、こっちは王国と一緒、軍団長と同格と見て良いかと思います」
と行列は続いていく、クロノスらはその様をじっくりと見物し、タロウは逐一飛んで来るその質問に細かく答えていく、そして、
「こんなもんですかね、後は、一般兵と輜重隊かな?まぁ、こんなもんでしょう」
見るべきものは見たとタロウは判断する、実際見物客達もその半数は仕事に戻り、買い物客もまた市場に戻っていた、残っているのは単に街路の向こう側に渡りたい者か、よほどの兵隊好きだけのようである、ヤキモキしている者、ボーッと眺める者、楽しそうにニヤついている者等となる、
「だな、じゃ、一度整理するか・・・」
クロノスはうーんと頭をかきむしる、
「それがよさそうだ、タロウ、お前の知識は重要だ、改めて確認したい」
メインデルトの真剣な瞳がタロウへ向けられる、敵の姿を確認し、軍人として感じる事があるのであろう、やっと帝国の進軍が真実であり、またその力は王国のそれを遥かに凌駕するであろうと確信するに至った、
「ですね、では・・・牛と豚を食べながらにしますか・・・腰を下ろすところはあるかな?」
タロウはしかしどこまでも飄々としている、どうやら駐屯地まで行く必要は無くなったと気軽に市場へ身体を向けた。
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