セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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61話 計略と唄う妖鳥 その22

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それから次々と料理が運ばれ、演台では弦楽器の演奏が始まった、高齢の女性の手になるその穏やかな音色が柔らかく会場を包み込み、先程迄の幾分か緊張した空気を解き解していく、

「ほう、旨そうだな」

クロノスの隣に席を定めたイフナースが並んだ料理を見渡して快哉を上げた、

「悪く無いな」

クロノスもニヤリと微笑む、テーブル上には鳥の丸焼きに恐らく鹿肉であろう焼いた肉の塊、根菜類の煮物と干し肉の欠片が浮かぶ汁物と、酒の入った杯の置く場を探さなければならないほどの皿が並んだ、

「さっ、場所開けてー」

そこへフィロメナと二人の遊女が笑顔を浮かべて近寄る、

「おっ、来たな、ほれ、座れ」

ルーツが下卑た笑顔を浮かべて腰をずらす、遊女達はお邪魔しまーすと明るい声を上げてストンとそこへ収まった、

「はい、じゃ、私がフィロメナで、こっちがヒセラ、こっちがシャンタルよ、よろしくねー」

キャッキャッと楽しげな雰囲気を作るフィロメナである、見れば他のテーブルにも2・3人の遊女が座り込み、給仕係が次々と酒を運んでいる、

「モニケンダムにこんな良い店があったとは知らなかったよ」

クロノスが酒を呷りつつニヤリと微笑む、

「あら、嬉しい、お兄さんは他の店にはよく行かれるの?」

「まぁな、あっちこっちと行ってるよ、付き合い半分仕事半分だがな」

「嘘つけ、お前遊女屋大好きだろうが」

「お前程じゃねぇよ」

「そうなの?、他のお店はどんな感じ?私ここら辺の店しか知らないから、教えて欲しいなー」

「そうか?そうだなー、俺が行った店だと・・・」

クロノスとルーツは慣れたものである、大して酔ってもいない内から機嫌良く口が回っており、今一つ慣れていないイフナースは取り合えずと酒を舐めながらその様子を楽しそうに眺め、タロウもまた腹が減ったとヒセラが切り分けた肉料理に舌鼓を打つ、

「えーそうなるとさー、王都はやっぱり別格なのかしら?」

「だなー、ここも負けてないと思うがどうだ?」

「負けてはいないな、辺境にしては金を掛けているのは分かる」

クロノスとルーツは楽しそうに笑いつつ肉料理を口に運び、指を舐めた、

「ん、調理はこっちのが良いかもな・・・」

「確かに、これは旨いな、なんか違うのか?」

「ふふーん、それは教えられませーん、うちの売りはねー、鳥料理と吟遊詩人の演奏なんだから、セイレーンの名前は伊達じゃないのよー」

嬉しそうに微笑むフィロメナである、

「あっ、ほら、お兄さんも、エールにする?ワインもありますよー」

シャンタルがイフナースの杯が空いたのに気付く、

「ん、同じものを、旨いなこの酒は」

「ありがとう、ここのお酒はフィロメナねーさんと会長が試して美味しいお酒だけ集めてるんだから」

「へー、なんだ、一々試しているのか?」

「勿論よ、お酒は樽毎に味が違うからねー、うふふ、これもこだわりなのよ」

シャンタルがニヤリと微笑み、フィロメナもどんなもんだと微笑む、

「確かに旨いな、おれも同じのを」

クロノスが杯を飲み干してズイッとフィロメナに差し出す、

「はーい、そっちのお兄さんは?」

「あぁ、頼む」

「俺も、あっ、ワインにしてくれ」

ルーツも杯を空け、タロウも慌てて飲み干した、タロウにしてみればこちらの酒にはだいぶ慣れたのであるが、それでもやはり常温で飲むエールには今一つ違和感がある、味云々は勿論であるが、酒としては水っぽく、アルコールもそれほど強く無い、地方によってはパンを流し込むスープ代わりにしている文化もあり、酒という非日常を楽しむ嗜好品というよりも日常的に飲用する飲み物としての側面が強かった、そうかと思って痛飲すると確実に酔ってしまう、何とも曖昧な飲み物だなとタロウは感じている、故に、ワインの方がまだタロウにとっては酒として認識できるものであったりしていた、

「はいはい、ワインも美味しいわよー」

シャンタルが杯を回収して席を立つ、

「あっ、そうだ、ちょっと気になってるんだけど、聞いていい?」

フィロメナがニコニコと上目遣いでイフナースを見つめる、

「ん?なんだ?」

「えっと、もしかして甘いもの好きなんですか?」

「・・・?いや、そりゃ好きと言えば好きだが・・・どうしてだ?」

「ほら、あの馬小屋のお店で見かけた事があったかなーって」

「馬小屋?」

イフナースは何のことかと首を傾げる、

「あー、あれだろ、ほれ、寮の隣のエレインの店だ」

クロノスがシャンタルが持って来た杯を受け取り答える、

「あぁ、そうか、あれは確かに馬小屋だなー・・・、うん、確かに、先日までは良く行っていたよ」

「だよねー、私もねー、仕事前に寄る事が多くてねー、あそこで妹が仕事してるもんだからね」

「何言ってるのよ、最近食べ過ぎて贅肉が付いたってぼやいてたじゃないさ、ドーナッツ美味しいもんねー」

「あー、ヒセラー、そういう事言うと怖いわよー」

「あらー、ごめーん」

ヒセラを睨みつけるフィロメナと笑ってそっぽを向くヒセラである、

「へー、そうなのか、確かにあれは旨いよな」

とそれなりに盛り上がりるその隣のテーブルでは、

「ほら、ちゃんとお野菜も食べないとー」

「そうよねー、お兄さんからも言わないとですよー」

「そうだな、食え」

「そうだ、食え」

「なんだよもー」

「あはは、可愛いー」

デニスが遊女達におもちゃ扱いされており、ブラス達も調子に乗ってからかっている、

「えー、でも職人さんなんでしょ、何作ってるの?」

「あー、俺は大工で、こいつは鍛冶屋、そっちの二人はガラス屋だ」

「わ、すごーい、へー、デニスきゅんもガラス職人なの?」

「おう、こいつは大したもんだぞ、ガラスペンって知ってるか?」

「あっ、あれよね、ガラス鏡店にあったやつ」

「あったあった、凄いキレーだったー」

「あれはコイツが作ったんだ」

「エー、ホントー、スゴーイ」

「そして聞いて驚け、俺はあれの台座を作ったんだよ」

「・・・へー・・・」

「いや、あれだって大したもんだろ」

「ガラスペンの方が凄かったなー」

「ねー、お披露目会の時は買えなかったからねー、親父が店に飾りたいって言ってたなー」

「そうなのか?」

「うん、だってカッコイイし、綺麗だしね」

「そうそう、で、知的な感じもするしー」

「だろう、あの台座がな」

「台座はあれね、もう少しこう凝った感じにした方がいいかなー」

「でもあれはあれで、ほら、下手に豪華にしてもガラスペンが目立たなくならない?」

「そう、それ、そこが問題なのだ」

ブラスがビシリと遊女を指差し、何もそんなに張り切るなよとバーレントとリノルトは呆れ顔で、デニスはクイクイとエールを空けている、他のテーブルもそれぞれに歓声が上がったり遊女達の笑い声が響いていた、やがてだいぶ酔いが進み料理の半分程度が胃に消えたあたりで、

「おし、イース、行くぞ」

とクロノスはイフナースを誘って腰を上げると、教導団のテーブルへ向かった、男達は歓声を持ってそれを迎え、遊女達は何が起こったのかと驚いて見上げしまう、

「大人気だな」

ルーツがニヤリと微笑む、

「だな、流石英雄様だ」

「そりゃな、魔王を討ち取った張本人と王子様だ、さて俺は・・・」

とルーツも腰を上げると、クロノスらとは逆方向、遊女達が酒を取りに向かう壁際の背の高い席へと向かう、酒樽の前ではリズモンドが店全体の様子を見ながら酒を自ら注いでいる、これは中々に珍しい事であるのだが、それだけ気を遣っているという事なのであろう、

「ありゃ」

一人残されたタロウはどうしたものかと片眉を上げるが、そこへすかさず、

「タロウさんですよね」

とフィロメナがニコリと微笑む、

「ん?そうだがどうかしたか?」

タロウはワインを呷る、これもまたタロウの好みの酒ではなかった、少なくともタロウが馴染みとするワインとは大きく異なり、香りは少なく、味もまた酸味と渋みが強い、アルコールも薄く、不味いブドウジュースにウィスキーを少量混ぜたような代物であった、それでもワインはワインである、先程のエールよりかはだいぶマシだなとタロウは感じていた、

「今朝マフダに聞きました、お世話になっております」

さらにニコリと笑顔を見せるフィロメナと、

「えっ、あっ、そうか、聞いた聞いた、寮母さんの旦那さんですよね、わっ、嬉しい、会えると思わなかったー」

ヒセラがポンと手を叩いてピョンと背筋を伸ばした、シャンタルは何のことやらと首を傾げている、

「はっ?・・・マフダさんと知り合いなのか?」

タロウは不思議そうに問い返す、

「そりゃだって、私達の大事な妹ですもの、エレインさんにもお世話になってますけど、そのエレインさんが寮母さんには頭が上がらないって言ってましたから、そしたら、ね?」

「うん、今朝なんかみんなで取り合いになりました、アメでしたっけ?凄い美味しいですよね、びっくりしました」

「へー、マフダさんのお姉さんだったのか・・・世間は狭いなー」

「そうですねー、あの、マフダが寮母さんの旦那さんに教えて貰ったって喜んでまして、タロウさんってほらこの辺では珍しい名前でしょ、だからすぐに分りました、奥様にもちゃんとお礼を言わないとって思ってたんですけど、お会いできて嬉しいです」

ニコリと柔らかい笑顔を向けるフィロメナとヒセラにタロウは随分と礼儀正しいなと感心しつつ、

「あー、礼はしなくていいよ、ソフィア・・・嫁さんもほらあれはあれで楽しんでいるみたいだからさ」

タロウはニコリと笑顔を返した、

「そう言わないで下さいよー、あっそうだ、あれこういう店で出してもいいですか?」

「ん?あれって・・・昨日のアメダマか?それは構わんが・・・エレインさんのところでも作るんじゃないのかな?そこら辺の力関係は良く分からんが・・・まぁ、どこでも作れるっちゃ作れるし、慣れれば簡単だと思うけど、結構難しいぞ」

「それは聞きました、頑張れば作れるってマフダが言ってましたから、うふ、ありがとうございます」

急にフィロメナがしな垂れかかる、

「好きにしたらいいよ、あの程度は大した事じゃない」

タロウはビクリと硬直するが逃げ出す事は無く、フィロメナの柔らかい胸の感触を左腕に感じた、

「ありがとうございます、あれはあれです、お客様用というよりもお店の子に食べさせたいかなって、思ってました」

「そうだよねー、うん、元気になるもん」

「えー、そんなに美味しいの?」

「勿論だよ、絶対気に入る、今朝だっていつの間にやら全部無くなってたんだから、私なんか3つしか食べてないのに」

「えっ、私は1つだけだったわよ」

「あー、あれは噛んじゃ駄目だぞ、ゆっくり舐めるもんだ、急いで食べたら味を楽しめないだろ」

「それは聞きましたけど、姉妹が多いと取り合いなんですよ」

「そうそう、正に戦争だよねー」

「そりゃ騒がしそうだなー・・・そうなると・・・」

タロウはニヤリと微笑みつつ、さらにニヤリと悪い笑みを浮かべた。
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