セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

文字の大きさ
上 下
699 / 1,161
本編

61話 計略と唄う妖鳥 その21

しおりを挟む
「すげー、フカフカだ・・・」

「うん、綿の入った高級品だな、手触りも格別だ、これ生地から違うな」

「背もたれも柔らかい、いいのかな、こんな恰好で」

「少しあれだな、気後れするな・・・」

「うん、汚したくないな」

「この燭台、銀だな・・・」

「見ろ、宝石が埋まってる」

「うわ・・・凄い作りだ・・・」

「良い装飾だな・・・デニス、良く見ておけ、これこそお前に必要だろう」

「ホントだ・・・良く出来ている・・・細かいな」

中央隣のテーブルに腰を下ろした職人達は、コソコソと話し込んでいる、それは実に職人らしい視線であった、座した長椅子の作りや、木と大理石を組み合わせた低めのテーブル、その上にあって彼らを照らす燭台、果ては陽を受けて怪しく輝くステンドグラス等、目に映る物全てが上質で豪奢な作りであり、彼ら年若い職人から見ても一流の仕事である事が明白であり、どうしても職人としてそれらを観察してしまうのであった、

「この絨毯までフカフカだよ」

「まったくだ、これ材料分かるか?」

「分らん、こんなに毛並みの良い獣等いるのかな?」

「勉強になるな・・・」

「うん、これだけでも来た甲斐があるってもんだ」

「まったくだ」

宴も始まっておらず、遊女達も案内を終えると一旦支度に戻っている、本来の楽しみはまだまだこれからなのであるが、職人達は勿論であるが、教導団の男達も贅を尽くしたその淫靡な空間に包まれただけで、ソワソワと落ち着きが無くなり嬉しそうにコソコソと話しては抑えた声で笑い合っている、そこへ、

「おう、揃ってるか」

ノシノシと男が二人遊女の案内で入ってくる、

「会長、御無沙汰しております」

教導団が一斉に立ち上がり、職人達も思わず腰を上げるが知らない顔である、

「あー、構うな、構うな、楽にしとけ」

男はルーツであった、供にしているのは現場隊長のモーゼスである、ルーツはサッと手を上げ、モーゼスも男達に視線で座れと指示する、男達は素直に腰を下ろし、職人達も訳も分からず腰を下ろした、

「おう、タロウ、生きてたか」

ルーツはそのままノシノシとタロウとクロノスの座る中央へ歩み寄る、モーゼスはやれやれと苦笑いを浮かべて近場の席へと足を向けた、

「お前もな、羽振り良いんだろ?」

タロウがニヤリとルーツを見上げる、

「まぁな、お前さんのお陰でなんとかやってるよ」

「なんだ、お前にしては殊勝だな」

「うるせぇ、これでも商会長様だからな、それなりの礼儀ってものを覚えたんだよ」

ガッハッハと機嫌良く笑いルーツはタロウの隣に腰を下ろすと、

「何年ぶりだ?生きているのは分かっちゃいたが、顔を合わせるのは久しぶりだ、変わらねぇな」

タロウの肩へ腕を回す、

「暑苦しいな、なんだお前、男に走ったのか?あまりにもモテなくて」

「あん、何言ってんだ、俺は各街に二人は囲ってるんだぞ、お前こそあの男女とガキの相手で腐ってるんじゃねぇだろうな」

ガッハッハと大笑するとルーツは座り直し、

「いや、元気そうで何よりだ、でっ、大将、まだ始めてなかったのか?」

ルーツはニヤリとクロノスへ視線を向ける、

「まだだよ、主役が来てない」

「ありゃ、イース様だっけ?」

「まぁな、遅れてくるとは演出を良く分かっているなあいつは・・・」

ニヤリと笑うクロノスである、

「で、そいつらは?」

ルーツがジロリと職人達を睨みつけた、片目を閉じてのそれであるが、片目であっても、いやそうであるが故に蝋燭の灯りを受けてギラリと音がするほどの強い視線である、職人達は思わず脊髄反射で背筋を伸ばす、

「ん、この街の友人達だよ、お前のとこと違って堅苦しく無くてな、気楽で良いんだ」

「ほう・・・」

ルーツはクロノスの説明に短く答えるが尚、その視線を職人達から外す事は無い、

「ルーツ、その辺にしとけ、何もないだろ」

タロウも職人達の緊張した様子に気付き、ルーツを窘める、

「ん、そうか?」

ルーツは一度タロウの顔を伺って、視線を外すと背もたれに身を預けた、

「ほれ、お前の所にも一台やっただろ、湯沸し器」

クロノスがまったくと鼻息を荒くする、

「ん、あれはいいな、重宝してるよ」

「あれを作った職人だよ、元はタロウの案だったかな?」

「まぁな、俺はあそこまで上手くは作れなかったが、やはり本職は大したもんだよ、な?」

「いや、はい、すいません、何とかかんとかです・・・」

タロウに微笑みかけられたリノルトは緊張したままどもりつつも何とか答えた、

「ほう・・・そうか、あれは良いな、新商品はどうなっている?」

ルーツが目を丸くしてリノルトへ問う、今度は先程の視線ではない、実に柔らかく楽しそうな視線であった、

「はっ、はい、先日試作品を御確認頂きました、現在量産しております、数が揃い次第納品致します」

しかし、リノルトは背筋を伸ばしたままに固い言葉である、周りの職人達も本能的な脂汗をそのこめかみに感じ、不動であった、

「そうか、それは楽しみだ、大将、2台ほどこっちにもよこせ」

「あん?先に正規軍だろ」

「金ならちゃんと払うからさ」

「それは当然だ、じゃ、リノルト、2台追加だ・・・そうだな、追加分の手数料って事で値段は倍にしていい、支払いはリューク商会だ、金は一括で払うが請求書は二枚書いてくれ」

「待て、そこまでは言ってないぞ」

「何言ってる、折角和やかだったのに、見ろ、汗までかいてるぞ、お前のせいだ、慰謝料と思え」

「慰謝料ってなんだよ、俺は何もしてないだろ」

「しただろが」

タロウもルーツを非難する、

「それはお前、礼儀ってやつでさ」

「聞いたこと無い礼儀だな」

「まったくだよ、あーお前ら、紹介しておく、こいつがルーク、リューク商会の会長で、今日来てる男共の雇い主だ、見た通りのはぐれ者でな、無駄に緊張しなくていいぞ」

クロノスがジロリと職人達を斜めに睨む、職人達はそう言われてもなと視線だけでお互いを確認しあい、ブラスがそういう事ならと愛想笑いを浮かべながらゆっくりと背を丸めた、それが契機となって、他の面々も吐息を吐いて力を抜く、

「そうだ、で、例の視察の件だがな」

ルーツはそんな職人達にはまるで無関心で別の話題を持ち出した、

「どうかしたか?」

「一人追加したい、話しを聞く限りかなりの大事なんだろ?俺の片腕を連れていきたいんだが」

とタロウを交えクロノスとルーツは真面目な口調となっている、職人達はホッとしつつも、やはりクロノス周りの人間は得体が知れないとその認識を再び改めたのであった、そして、遅れて来たであろう教導団の男が数人入って来て、やがて、

「おう、集まってるな」

イフナースが満面の笑みを浮かべて会場入りした、リンドとブレフト、エフモントを連れている、教導団の男達は当然のように起立し、これには職人達も慌てる事無く立ち上がった、そして、クロノスも腰を上げ、タロウとルーツも続く、

「なんだ、今日は堅苦しいものではないのであろう?」

イフナースはその有様に眉根を寄せる、

「そのつもりだがな、そうはいかんだろ、ルーツ、そっちは全員揃ったのか?」

「ん?エフモント、どうだ?」

クロノスの確認をルーツはそのままエフモントに投げた、エフモントは全員揃っておりますと笑顔を見せる、

「らしい」

「そうか、じゃ、これで全員だな、イース、こちらへ、杯を配れ、早速始めよう」

起立したままの男達に遊女が静かに、しかし、素早く杯を配り、イフナースも杯を手にして部屋の中央へ立つ、イフナースは兵士としては小柄な方である、一般的には十分に背は高いのであるが、病の為に痩身であり、必然的に小柄に見えてしまう、まして、クロノスを含め教導団の男達は皆大柄で筋骨も逞しい、さらにその連中が背筋を伸ばして固まっているのであるからその威容に囲まれたイフナースがより小さく見えたとしても致し方の無い事であろう、であるが、その独特の存在感はやはり生粋の王族である、視線が違うわけでもない、顔のつくりが常人と異なるわけでも無い、手足が尋常に長いわけでもなく、そこら辺の少しばかり顔の良い青年と言われればそうであろうと納得するしかない見かけなのであるが、貴族の持つ高貴さは無駄な言葉を労せずとも感じられ、若くして戦場を駆け回った経験が確たる自信としてその内に存在するのであろう、兵士達に囲まれてもそれが当然と萎縮どころかよりその姿を大きく見せる、さらに、その隣には英雄たる人物が控えている、その無形であるが故に人を惹き付ける何かが今まさに、イフナースから無自覚に発せられていた、

「では、だ・・・」

クロノスがゴホンとわざとらしく咳払いをする、静かに物音ひとつ立てずに居並ぶ面々を見渡し、全ての者が杯を手にしたのを確認すると、

「まずは、確認だ、今日の俺はスイランズだ、そう呼ぶように、で、こいつはイースだ、そう呼ぶようにな」

ニヤリと微笑む、クロノスとしては笑いどころのつもりであったのだが、誰もニコリともしない、

「で、先に紹介しょう、こいつがタロウ、俺とルーツの仲間であった男だ、上にも下にも置かなくていいが、俺はかつての大戦の英雄の一人と思っている、そういう事だ、そういう扱いで頼むぞ」

教導団の男達も職人達もエッと驚いてタロウを見つめる、タロウはめんどくさいことをと目を細めた、

「で、職人達だ、お前らも顔を知ってるかもしれんが、お前らの連れ合いが世話になっている筈だな、ま、お前らと違って堅苦しくない友人と思っている、今日はこいつらを見習って軍人らしい態度は慎むように、折角の上手い酒とイイ女達だ、ゆっくり楽しもう」

ここもまた笑いどころであったのだろうが、男達はどうしたものかと口元を若干緩ませた程度で、職人達も困った笑みを浮かべるしかない、

「ん、俺からはこんなもんだ、イース」

クロノスはイフナースへ水を向けた、イフナースはニヤリと口の端を上げると、

「義兄からは以上だそうだ、が・・・そう言われてもな、堅苦しい事に変わりはない」

イフナースは微笑を浮かべて一同を見渡す、これも笑いどころであろう筈が厳めしい顔を崩す者は無い、

「まったく・・・では、命令だ、今日は楽しもう、色々あってな、俺は楽しむときには楽しむべきと思っておる、故に、羽目を外さない程度に楽しむ事を命じる、よいな?」

イフナースは再び一同を見渡すが、反応は少ない、イフナースは実に困ったとその視線をクロノスに向ける、

「ふん、では乾杯だ、今日の良き日に」

クロノスは仕方が無かろうとイフナースの後を継いで声を張り上げた、すると、

「王国に」

その声をかき消すように教導団の一人が大声を上げる、さらに、

「王太子に」

「キセノ軍団に」

「英雄達に」

次々と会場どころか屋敷を揺るがすほどの大声が轟き響いた、そして、

「ケルネーレス王太子に」

最後に叫ばれたその名にドヨリと会場はざわついた、しかし、

「おう、亡き兄ケルネーレスに、乾杯だ」

イフナースがジワリと溢れだす涙を感じつつ杯を掲げた、そして乾杯の斉唱が屋敷を揺らし、宴会は始まったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星
ファンタジー
魔力の溢れる世界。記憶を失った少女は最強魔導士に弟子入り! いずれ師匠を超える魔導士になると豪語する少女は、魔導を極めるため魔導学園へと入学する。しかし、平穏な学園生活を望む彼女の気持ちとは裏腹に様々な事件に巻き込まれて…!? 初めて出会う種族、友達、そして転生者。 思わぬ出会いの数々が、彼女を高みへと導いていく。 その中で明かされていく、少女の謎とは……そして、彼女は師匠をも超える魔導士に、なれるのか!? 最強の魔導士を目指す少女の、青春学園ファンタジーここに開幕! 毎日更新中です。 小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも連載しています!

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

処理中です...