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本編

61話 計略と唄う妖鳥 その18

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「なに?わざわざ捕ってきたの?」

一通り説明して席に着いたタロウにソフィアは溜息交じりで問いかける、件のメダカの水槽には大人達が群がっており、ミナもキャーキャーと騒がしい、

「そうだよ、なかなかいいものだろう?」

「それはそうだけど・・・」

「まっ、眺めて楽しむものだからさ、邪魔だったか?」

「それは気にしてないわ、でも、ミナに出来るの?お世話係?」

「どうだろな、レインにやらせてもいいし、俺がいれば俺がやるし」

「ふーん、ま、いいわ、様子を見ましょうか」

「そうして貰えるとありがたい」

ニヤリと微笑むタロウと始めてしまったんだから仕方ないかと早々に諦めるソフィアである、そこへ、

「そっか、アンタに頼めばいいのよね」

とユーリがテーブルに戻って来た、

「何をだ?」

「浄化槽のスライムとヒトデ、シジミもあれでいいはずよね」

ユーリはストンと腰を下ろす、

「あー、それもあったわねー」

「そうよ、冒険者に頼もうかなって思ってたところだったから、あんた、お願いできる?」

「いいぞ、スライムは見かけなかったがヒトデはうようよいたからな、淡水のヒトデは初めて見たよ」

「タンスイ?」

「あー、湖に住むヒトデ?俺の国だとヒトデは海にしかいなかったんだよ」

「へー、そういうもの?」

「そういうもの、さっきも言ったがさ、今日は近くの湖に流れ込んでる小川で捕ってきたんだが、湖の方はやたらとヒトデが多かったな、スライムも探せばいるだろうし黒いスライムだっけ?」

とタロウは肩肘を着いて答える、

「そうね、丸っと頼むわ、時期はブラスさんと調整しなきゃね」

「了解」

あっさりと依頼しあっさりと受ける二人であった、

「するとあれかな、繁殖も可能なのか?」

学園長と事務長も戻って来た、

「はい、環境を整えれば年中卵を生むと思いますね」

「ほう、それは面白い、しかし、その環境じゃな?」

「そうですね、暖かくすればいいというわけでは無いですから、まぁ、これは、観賞の為の仕掛けと考えて下さい、繁殖だのは様子を見ましょう」

「鑑賞か・・・なるほど、眺めているだけで気持ちが良いかもしれんな・・・」

事務長も改めて振り返る、水槽ではダナがミナと一緒に上から覗き込んでおり、レインはどうやらメダカよりもタニシに興味が移っている様子である、

「うむ、いや、興味深い、これもまた研究したいと思うが、今日はあれじゃな」

学園長は若干後ろ髪を引かれながらも席に着く、

「ダナさん、お仕事ですよ」

事務長も席に着きつつダナを呼びつけた、ダナは渋々と席に戻り、本題である学園祭に関する打合せが始まる、ユーリが黒板に書かれた事項をまとめつつ説明し、ソフィアがそれに注釈を付ける形で進んだ、ダナは黒板を広げて書記役である、

「なるほど・・・面白い・・・うん」

黒板に書かれた事は一通りまとめ終わり、学園長は腕を組んで感心する、

「そうですね、祭りの概念とは若干異なると思いますが、街の人達への宣伝と考えるとこれは是非実行するべきかと思います」

事務長の冷静な意見である、

「ですね、で、あくまで・・・そうですね、研究室の展示は研究室に、生徒達の出し物は生徒達が自主的に動けるようにするべきかと思います、ここで上げたのはあくまでこういう例があると提示するに留めて・・・ですが、恐らくこれの中から選ぶ形になるのかなと思いますね・・・なにせ初めての事ですから」

「そうだのう、それは致し方なかろう・・・」

「はい、それと、全体を巻き込む形の催事は事務員・・・できればこちらも生徒に任せたい所ですが、難しい面もあると思います、そうなると、事務員や教師陣も動かなければなりません、ま、どのような催事にするかを各研究所なり教室なりで決めてから調整していくのが現実的かと思います」

「そうなると、早めに動かなければな・・・うん、明日にも会議を持つか」

「そうですね、準備期間を考えて・・・開催日は、きりの良い日として来月の1日と2日を考えていたのだがどうだろうか?」

「2日もやります?」

「うむ、ほれ、街の祭りと違って飲んで騒いで終わりではないからな、のんびりと楽しんで貰うには一日では足りないだろうとも思ってな」

「なるほど・・・そうなると、中身の濃いものを提供したいですね」

「そうなるな」

学園長はフヌーと鼻息を吐き出し、ユーリはそれであれば、黒板に書かれた事も無駄にはならないかなと首を傾げる、何せ、昨夜は大変に盛り上がりあれもやりたいこれもできると騒がしかったのだ、案の基礎となる部分を提供したタロウが呆れる程にである、

「そうだ・・・その、別の件、領主様達を呼び込む事・・・これはどうしたものかな・・・」

「それもありましたね・・・というかそっちが問題でした・・・」

昨日出された案はあくまで学園祭、文化祭となれば何ができるかを討論したものである、本来の目的としている王家と領主の仲を取り持つという為の案では無い、

「それであれば」

とタロウが口を開いた、それまでタロウは特に口出しする事は無く、静かに状況を伺っていた、

「なにかあるかな?」

学園長がスッとタロウへ視線を向ける、

「はい、えっとですね・・・こことここかな?それとこれもいいかも」

タロウはダナの前に並んだ黒板を指差し、

「あくまで例えばですが、これは屋台の品評会、こっちはメイドさんの接客技術の披露となってます、ユーリの言う全体を巻き込んだ形の催事なのですが、これの審査員として、街の有力者・・・ま、領主様の御一家・・・それと、まぁ、有力者ですね、詳しく無いので具体名は難しいですが、そういう方を来賓として迎えるのですよ」

「審査員か・・・」

「はい、そうすれば祭りを楽しみながら、有力者さん達を巻き込む形になります、有力者様達もただ見に来るだけではなく、あくまで来賓として扱われるのであれば悪い気はしないでしょうしね」

「なるほど、来賓客ですか」

「はい、少々あれです、ちゃんと来賓として扱う必要がありましょうが、そこはそれ、メイド科さん?でいいのかな、そういう生徒達もいるのであれば、その人達の活躍の場ということで・・・そこで少し悪巧みになりますが、領主様と、陛下・・・は難しいでしょうが、殿下を同席させてしまうのですよ、来賓の審査員として」

「それは・・・」

「難しいでしょう、断られてしまいます」

「事前に知っていればでしょ?」

タロウはニヤリとほくそ笑み、

「だから悪巧みなのですよ、殿下の参加は当日のその場まで伏せておけば宜しい、特別な珍客として招きましたとかなんとか言って、当日その場でドーンと発表するわけです、そして領主様達と同列に生徒達や平民達の前に並べてしまえば、その場で公然と言い争う事などできません、祭りですし、折角楽しんでいるのですから・・・それをぶち壊すような事にはなりますまい、それに、より盛り上がるでしょうしねその場は・・・」

「・・・それは・・・・」

「確かに悪巧みだわねー」

ユーリも眉根を寄せた、

「なので・・・そうですね、祭りを2日間開くのであれば尚都合が良いです、1日目はゆっくりと見物して頂く、領主様にですね、で、2日目にこういった参加型の企画を執り行う、恐らく真面目に文化祭を作った場合眺めるだけでも結構な時間がかかりますから、で、こういう流れを作れば、領主様も勿論殿下も急に引き合わされてもその場を壊す事は無く、まして、一緒に楽しんで頂けるのではないかなと考えます、ま、殿下は楽しむでしょうね、ここで考える事は領主様のその心持ちだけでしょうが」

ダナがどういう事かと顔を上げた、諸々の事情をダナは聞いていない、今日はあくまで書記係として連れて来られただけであったりする、

「なるほど・・・しかし・・・」

「はい、うーん・・・何とも・・・」

学園長と事務長は共に腕を組んで瞑目する、タロウの言う悪巧みは確かに有効そうではある、流石のカラミッドも街の住人がいる前で殿下と明確に敵対する事は無いであろうし、ここでいう殿下がクロノスの事かイフナースの事かは明確にしないが、どちらであっても状況は理解している、その為カラミッドの存在を当たり前のように扱う事であろう、そして、その後にボニファースとの謁見の場を作れば良い、その場に誘うのはクロノスなりイフナースなりの手腕の見せどころとなるのであろうか、

「それに、まぁ、ここまでお膳立てして駄目ならあれですよ、堂々と領主邸の門を叩かせれば良いのですよクロノスあたりに、本来政治の話しは政治家どうしで交わすものです、こちらとしてはこれだけ頑張ったと胸を張れます、上の人達も十分評価してくれますよ」

タロウが悩む二人に明るく笑いかける、

「そうかな?」

学園長がゆっくりと目を開く、

「はい、出来るだけ温和な状態で話したいというのがあの人達の御要望でしょうからね、しかし、その内容を知ればその重要性はすぐに理解されましょう、会談の場も大事ですが、問題はその中身です、領主様はそれなりの人物なのでしょう?」

「それは、まぁな」

「うむ、話せば分かるし、味方にしておいて損は無い人物ではある、為政者としても優秀と思う」

「ではそのお人柄に掛けましょうか・・・時間もありませんしね・・・」

「確かにな・・・」

「うむ、そうだな、上と早急に相談しよう」

学園長と事務長は取り合えずこれで動くかと覚悟を決めたらしい、ダナはタロウの言葉に切迫した何かを感じて不安そうにしており、ソフィアもまた荒野の件は聞いているが帝国の件は聞いていない、その為、そんなに緊急の事かしらと不思議そうにしている、

「では、ダナさん、すまんが戻ってまとめてくれるか、儂も手伝う」

「あっ、はい、分かりました」

「そうですね、早速取り掛かりましょう、単純に学園の祭りと考えれば大変に楽しいものになるでしょうし」

事務長は柔らかい笑みをダナに向ける、ダナはその言外に香る違和感を感じながらもここは変に勘繰ると危ないなとその本能に従い黙する事とした、

「ん、じゃ、私は取り合えず楽しみにしてますね、アメを包みます、皆さんで楽しんで下さい」

ソフィアがニコリと笑顔を浮かべて腰を上げる、こうなってしまえば自分が関わる事は少ないであろう、後は学園の問題であり、生徒の努力を気長に眺めていれば良い、どうせなんだかんだと手伝う事もあるであろうが、それに関してはいつも通りにからかい半分で楽しめばよかろう、

「おう、すまんな、ソフィアさん、じゃ、今のうちに一つ」

学園長が壺に手を伸ばし、

「む、では儂も」

と事務長も手を伸ばす、

「じゃ」

とダナも手を伸ばした、そして、各種類を適当に詰めた壺を片手に事務長はホクホクと笑顔で、学園長はメダカの水槽に心を惹かれつつ、ダナはまた面倒な事になっているなこれは、とその内心をざわつかせて学園に戻るのであった。
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