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本編
61話 計略と唄う妖鳥 その15
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「この粉は何?」
「小麦粉ですね」
「なんで?味しないでしょ」
「アメとアメがくっつかないようにだそうです」
「へー、あ、そっか、これミズアメと黒糖だから、ベタベタしてるんだ」
「みたいです」
「ふーん、考えてるわねー、これは何味?」
「アンズです」
「あら、珍しいわね」
「ですね、こっちがリンゴでこっちが果物とか入れてないそのままのやつです」
「そのままでも美味しいの?」
「そりゃもう、黒糖の味が出てて私は好きですね」
「そっか、そりゃそうだ」
ユーリがブドウ味の飴玉を口中で転がしながら、テーブル上に並んだ壺を覗き込んでカトカの解説に一々感心して頷いている、
「これは?」
「はい、試しに作ってみました、黒糖だけを使ったアメですね」
「へー、ミズアメ無しってこと?」
「はい、なので、固まりにはならないんですよ、こんな感じでベタッとしてます、タロウさんはこれはこれでありだろって言ってましたね、でも、これを乾燥させて砕くと黒糖ですからね、なら黒糖そのまま舐めたほうが良い感じです」
「味は?」
「変わってないです、少しあれですアメに近いですけどね、これを作るならミズアメを入れてちゃんとアメにした方がいいかなーって感じで・・・好みでしょうけど」
「そりゃそうだ・・・ふーん」
とユーリは腕を組んでカロカロと口中のブドウの飴玉を舌の上で転がし歯にぶつけてその感触を楽しむ、飴玉は黒糖と水飴の甘さによりブドウの酸味が絶妙に引き立てられ、さらにブドウの香りも鼻腔に抜けてくる、甘みを楽しむよりもブドウを楽しむ品だなとユーリは感じていた、
「この丸いのは?」
「切ったやつを丸めたんです、柔らかい内に」
「へー」
「熱いから板でこう挟んで左右に潰すように揺り動かして」
カトカが身振り手振りで説明する、
「ふーん、形も自在って事ね・・・」
「はい、タロウさん曰く、いろんな形を作れる職人もいるらしいです、それこそ、お魚とかワンコとかニャンコとか、達人になるとドラゴンを作るとか・・・まるで想像できないんですが・・・自分には無理だったってタロウさんは言ってました」
「職人ねー」
「えへへー、これー、ミナが作ったのー」
そこへミナがヒョイと顔を出した、手にしているのは真っ白い板状の飴に串を差したものであるらしい、
「それは何?」
「えっとね、えっとね、ニャンコの型を使ったのー、タロウが大したもんだって褒めてくれたー」
ミナはニパーと輝く笑顔をユーリへ向ける、
「へー、これもアメ?」
「はい、ミナちゃんがニャンコ作りたいって言って、できるぞーってタロウさんが、で、焼き菓子の型で抜いたのですね」
「白いのは?」
「これも面白いですよ、ミズアメと同じように伸ばしたり畳んだりして大きく練ると、この色になるんです、綺麗ですよね、輝きが違います」
「確かにね・・・あれか、空気を入れるってやつ?」
「それですね」
「ふーん・・・なに?ミナくれるの?」
「・・・なんでー?」
ニヤリと微笑むユーリにミナはキョトンと問い返す、
「なんでって、頂戴、それ、美味しそう」
「ダメー、これはミナのお宝なの、ミナが作ったのー、大事に食べるのー」
ミナは危険を感じたのかそう叫んで暖炉の前に走り去った、
「ありゃ、まぁいっか、しっかし、アンタらもよくやるわねー」
ユーリは一通り感心し終え溜息交じりとなる、テーブル上の壺には件の飴玉が溢れる程に詰められており、その壺が八つは並んでいるだろうか、それのほかにもミナが自慢していた平べったく串に刺さった飴もボウルの中に乱雑に詰められている、
「えへへ、昨日作った水飴は全部使っちゃいました、黒糖も追加で事務所から持って来ましたね」
カトカが照れ笑いを浮かべる、
「褒めてるわけじゃないわよ、呆れてんの」
「酷いなー」
ニヤニヤとカトカは微笑みを崩さない、その背後では、
「そうなりますと、ミズアメですわね」
「そうなんです、そちらが若干手間かと思います、タロウさんは他の作り方もあるって言ってましたけど、そっちの方が手間だとは言ってました」
「それは聞きましたわね、そちらも気になりますが・・・あっ、これ、日持ちはするんですの?」
「結構持つぞってタロウさんは言ってました、水分が少ないので腐りにくいそうです、でも、カビには注意ってことでした」
「それは素晴らしい・・・」
「ですね、でも、さっさと食べたほうがいいとも言ってました、なので、季節によりますけど10日程度が目安になるかと・・・勿論検証は必要と思います」
「それでも十分ですよ、ヘルデル辺りであれば十分持ちます、お土産になりますよ」
「そうですねー」
「うーん、入れ物はどうしましょう・・・藁箱に詰めるのは・・・壺が良いのかしら?」
「布袋でも良いかもしれませんよ・・・」
エレインとテラが仕事を終えてそそくさと顔を出し、早速と商品化を見越した打合せである、ジャネット達経営陣に加えグルジアも額を寄せている、どういうわけだかレインも楽しそうにその輪に加わっており、ニコリーネも同じテーブルで嬉しそうに串に刺さった飴を舐めている、マフダとリーニー、アニタとパウラはエレインとテラに代わって帰宅した、その手にはしっかりと土産を持っておりホクホクと笑顔での帰宅となった、
「しかし・・・」
「なんです?」
「美味しいですわね、リンゴ味」
「ブドウの方が美味しいですよ」
「それは好みでしょ」
「そうですけどー、この酸っぱい感じがいいです、甘みとの調和が堪らないです」
「それは同意する」
「でしょー」
「あら、じゃ次はブドウかしら、あれね、ずっと美味しいのが良いわね」
「そうなんですよー、タロウさんが噛んじゃ駄目って言ったときはどういう事かと思いました」
「私もー、でも小さくなったら噛んじゃうよ」
「あー、ガリガリ言ってたのはアンタか」
「バレた?」
「うん、響いてたよ」
「それはそれで美味しかった」
「そう?」
「うん、口の中に甘いのとすっぱいのが広がって幸せだった」
「そっか、それもありか・・・小さくなったら飲んじゃってたな」
「いつの間にか無くなってますよね」
「そうそう、それと、何かしながらでも食べれます、皆作業しながら食べてました」
「それもいいわね」
「ソフィアさんに笑われちゃいましたけど、甘いものばかり食べると舌がバカになるわよーって」
「それはまた古い言葉ですね」
「おばあちゃんによく言われたなー」
「私もー」
「ねー」
「そうだ、明日ユスティーナ様にお会いするからお持ちしましょうか、ティルさんには報告書と一緒に届けて貰いましょう」
「そうですね、生産はどうします?本格的に始めます?」
「そうね、明日・・・ミズアメから作らないとですわね、マフダさんとリーニーさんにお願いしましょう」
「明日お休みでしょ?私らも午後から手伝うよ」
「あら、休みの日は休まないとですよ」
「結構楽しかったから別にいいよー、ミズアメも人手があると楽だろうしね、何気にあたしら遊んでるし、他の連中が稼ぎたいって頑張ってるからね」
「あら・・・じゃ、お願いしましょうか」
「うん、材料は・・・あっ、カブが無いよね」
「買ってきてもらいましょうか」
「だねー」
取り合えず問題の抽出は終わり、どうするかの結論は出ないままであったが、明日の予定は立ったらしい、そこへ、
「準備できたぞー、片付けろー」
タロウが両手に皿を持って入ってきた、バタバタと腰を上げてテーブルの清掃を始める面々である、そうしてその日の夕食が始まった。
夕食後である、ミナとレインはタロウと共に宿舎に帰り、食堂内には二つの壺から発生した光柱の光の下に生徒達と研究所組、テラとニコリーネ、それにティルも面白そうだからと同席していた、
「じゃ、ソフィアお願い」
リンゴの飴を摘まんで口に放り込みつつユーリはさっさと席に着いた、参加者全員が飴をその口に含んでおり、ニコリーネは余程気に入ったのか串にささったそれをこれみよがしに舐めている、
「ちょっと、私がやるの?」
ソフィアは当然非難の声を上げる、
「だって、あんたが言い出した事でしょ、私は昨日から頭を使いすぎて疲れてるんだから」
「それはあんたの問題でしょ」
「私だけの問題だったらいいんだけどねー」
ユーリはどうでもいいと遠い目で天井を見上げた、
「まったく、じゃ、どうしようかしら」
プリプリとソフィアは席を立ち黒板に向かう、一同は食事中に相談事があるから知恵を貸してとユーリに誘われ、これはまた何かあるのかと楽しみにしていた、その為ユーリの態度に不愉快そうに眉を顰めるが、事情の半分程度を理解している研究所組は苦笑いを浮かべるしかない、
「では、まずは・・・なんだけど」
ソフィアは白墨を手にして黒板を鳴らし、
「これの意見が欲しいのよ」
と振り返った、黒板には学園の祭りと殴り書きされている、
「えっ・・・どういう事ですか?」
ジャネットがまず声を上げた、当然の反応であろう、そして、主に生徒達から似たような質問の声が上がる、
「はいはい、えっとね、あー・・・今日学園長とユーリが来てね、で、祭りをやりたいって事になったのよ、ほら、来月お祭りは無いんでしょ?」
「あっ、はい、年末の祭りはありますけど・・・」
「あれはお祭りとは言えませんわね・・・」
「うん、年始のお祭りの方がお祭りらしいかな?」
ジャネットとエレイン、ケイスが口を開く、
「そうよね、で、学園長と事務長がね、光柱の件で味を占めたらしくてさ、で、もっとこう学園を街の人達に知ってもらう為に何か無いかって・・・それを私に相談するのもどうかと思うけどねー」
とソフィアは溜息を吐く、殆ど嘘であった、昼頃の打合せで口裏を合わせる為に創作された言い訳である、
「それは・・・」
「確かに・・・光柱の時は盛況でしたよね・・・」
「うん、お祭り騒ぎ・・・以上だったよね」
どうやらこの創作は言い訳として十分に機能したらしい、誰も疑わずに納得している、
「そうよね、だから、学園長が何か無いかって聞くから、私が祭りをやればって言っちゃったのよ、口を滑らせたわ、黙ってれば良かった」
再び溜息交じりのソフィアである、
「それいいですね」
「はい、楽しそうです」
「学園のお祭りか・・・」
「どうなるんだろう?」
「面白そうじゃない?」
「面白いだろうけど・・・大変そう」
「そりゃそうだよ」
と趣旨を理解した面々はワイワイと騒がしくなる、テラは随分と思い切った事をと感心し、ニコリーネやティルも笑顔を浮かべて肯定的であった、
「そっか、ま、楽しそうなのは分かるんだけど・・・」
さてどうするかとソフィアが黒板に向かった所で、タロウがフラリと戻ってくる、
「ありゃ、始めてた?」
タロウは食堂の端にその席を定めた、
「まぁね、でね、みんなの意見が欲しいのが・・・何が出来るかって事なのよ、私はほら学園で何やってるかなんて知らないからね、今日は完全にまとめ役よ、だから・・・というか祭りってなんなのかしらね」
ムーと大きく首を傾げるソフィアに、そう言われると祭りとは何だろうと一同も同時に首を傾げるのであった。
「小麦粉ですね」
「なんで?味しないでしょ」
「アメとアメがくっつかないようにだそうです」
「へー、あ、そっか、これミズアメと黒糖だから、ベタベタしてるんだ」
「みたいです」
「ふーん、考えてるわねー、これは何味?」
「アンズです」
「あら、珍しいわね」
「ですね、こっちがリンゴでこっちが果物とか入れてないそのままのやつです」
「そのままでも美味しいの?」
「そりゃもう、黒糖の味が出てて私は好きですね」
「そっか、そりゃそうだ」
ユーリがブドウ味の飴玉を口中で転がしながら、テーブル上に並んだ壺を覗き込んでカトカの解説に一々感心して頷いている、
「これは?」
「はい、試しに作ってみました、黒糖だけを使ったアメですね」
「へー、ミズアメ無しってこと?」
「はい、なので、固まりにはならないんですよ、こんな感じでベタッとしてます、タロウさんはこれはこれでありだろって言ってましたね、でも、これを乾燥させて砕くと黒糖ですからね、なら黒糖そのまま舐めたほうが良い感じです」
「味は?」
「変わってないです、少しあれですアメに近いですけどね、これを作るならミズアメを入れてちゃんとアメにした方がいいかなーって感じで・・・好みでしょうけど」
「そりゃそうだ・・・ふーん」
とユーリは腕を組んでカロカロと口中のブドウの飴玉を舌の上で転がし歯にぶつけてその感触を楽しむ、飴玉は黒糖と水飴の甘さによりブドウの酸味が絶妙に引き立てられ、さらにブドウの香りも鼻腔に抜けてくる、甘みを楽しむよりもブドウを楽しむ品だなとユーリは感じていた、
「この丸いのは?」
「切ったやつを丸めたんです、柔らかい内に」
「へー」
「熱いから板でこう挟んで左右に潰すように揺り動かして」
カトカが身振り手振りで説明する、
「ふーん、形も自在って事ね・・・」
「はい、タロウさん曰く、いろんな形を作れる職人もいるらしいです、それこそ、お魚とかワンコとかニャンコとか、達人になるとドラゴンを作るとか・・・まるで想像できないんですが・・・自分には無理だったってタロウさんは言ってました」
「職人ねー」
「えへへー、これー、ミナが作ったのー」
そこへミナがヒョイと顔を出した、手にしているのは真っ白い板状の飴に串を差したものであるらしい、
「それは何?」
「えっとね、えっとね、ニャンコの型を使ったのー、タロウが大したもんだって褒めてくれたー」
ミナはニパーと輝く笑顔をユーリへ向ける、
「へー、これもアメ?」
「はい、ミナちゃんがニャンコ作りたいって言って、できるぞーってタロウさんが、で、焼き菓子の型で抜いたのですね」
「白いのは?」
「これも面白いですよ、ミズアメと同じように伸ばしたり畳んだりして大きく練ると、この色になるんです、綺麗ですよね、輝きが違います」
「確かにね・・・あれか、空気を入れるってやつ?」
「それですね」
「ふーん・・・なに?ミナくれるの?」
「・・・なんでー?」
ニヤリと微笑むユーリにミナはキョトンと問い返す、
「なんでって、頂戴、それ、美味しそう」
「ダメー、これはミナのお宝なの、ミナが作ったのー、大事に食べるのー」
ミナは危険を感じたのかそう叫んで暖炉の前に走り去った、
「ありゃ、まぁいっか、しっかし、アンタらもよくやるわねー」
ユーリは一通り感心し終え溜息交じりとなる、テーブル上の壺には件の飴玉が溢れる程に詰められており、その壺が八つは並んでいるだろうか、それのほかにもミナが自慢していた平べったく串に刺さった飴もボウルの中に乱雑に詰められている、
「えへへ、昨日作った水飴は全部使っちゃいました、黒糖も追加で事務所から持って来ましたね」
カトカが照れ笑いを浮かべる、
「褒めてるわけじゃないわよ、呆れてんの」
「酷いなー」
ニヤニヤとカトカは微笑みを崩さない、その背後では、
「そうなりますと、ミズアメですわね」
「そうなんです、そちらが若干手間かと思います、タロウさんは他の作り方もあるって言ってましたけど、そっちの方が手間だとは言ってました」
「それは聞きましたわね、そちらも気になりますが・・・あっ、これ、日持ちはするんですの?」
「結構持つぞってタロウさんは言ってました、水分が少ないので腐りにくいそうです、でも、カビには注意ってことでした」
「それは素晴らしい・・・」
「ですね、でも、さっさと食べたほうがいいとも言ってました、なので、季節によりますけど10日程度が目安になるかと・・・勿論検証は必要と思います」
「それでも十分ですよ、ヘルデル辺りであれば十分持ちます、お土産になりますよ」
「そうですねー」
「うーん、入れ物はどうしましょう・・・藁箱に詰めるのは・・・壺が良いのかしら?」
「布袋でも良いかもしれませんよ・・・」
エレインとテラが仕事を終えてそそくさと顔を出し、早速と商品化を見越した打合せである、ジャネット達経営陣に加えグルジアも額を寄せている、どういうわけだかレインも楽しそうにその輪に加わっており、ニコリーネも同じテーブルで嬉しそうに串に刺さった飴を舐めている、マフダとリーニー、アニタとパウラはエレインとテラに代わって帰宅した、その手にはしっかりと土産を持っておりホクホクと笑顔での帰宅となった、
「しかし・・・」
「なんです?」
「美味しいですわね、リンゴ味」
「ブドウの方が美味しいですよ」
「それは好みでしょ」
「そうですけどー、この酸っぱい感じがいいです、甘みとの調和が堪らないです」
「それは同意する」
「でしょー」
「あら、じゃ次はブドウかしら、あれね、ずっと美味しいのが良いわね」
「そうなんですよー、タロウさんが噛んじゃ駄目って言ったときはどういう事かと思いました」
「私もー、でも小さくなったら噛んじゃうよ」
「あー、ガリガリ言ってたのはアンタか」
「バレた?」
「うん、響いてたよ」
「それはそれで美味しかった」
「そう?」
「うん、口の中に甘いのとすっぱいのが広がって幸せだった」
「そっか、それもありか・・・小さくなったら飲んじゃってたな」
「いつの間にか無くなってますよね」
「そうそう、それと、何かしながらでも食べれます、皆作業しながら食べてました」
「それもいいわね」
「ソフィアさんに笑われちゃいましたけど、甘いものばかり食べると舌がバカになるわよーって」
「それはまた古い言葉ですね」
「おばあちゃんによく言われたなー」
「私もー」
「ねー」
「そうだ、明日ユスティーナ様にお会いするからお持ちしましょうか、ティルさんには報告書と一緒に届けて貰いましょう」
「そうですね、生産はどうします?本格的に始めます?」
「そうね、明日・・・ミズアメから作らないとですわね、マフダさんとリーニーさんにお願いしましょう」
「明日お休みでしょ?私らも午後から手伝うよ」
「あら、休みの日は休まないとですよ」
「結構楽しかったから別にいいよー、ミズアメも人手があると楽だろうしね、何気にあたしら遊んでるし、他の連中が稼ぎたいって頑張ってるからね」
「あら・・・じゃ、お願いしましょうか」
「うん、材料は・・・あっ、カブが無いよね」
「買ってきてもらいましょうか」
「だねー」
取り合えず問題の抽出は終わり、どうするかの結論は出ないままであったが、明日の予定は立ったらしい、そこへ、
「準備できたぞー、片付けろー」
タロウが両手に皿を持って入ってきた、バタバタと腰を上げてテーブルの清掃を始める面々である、そうしてその日の夕食が始まった。
夕食後である、ミナとレインはタロウと共に宿舎に帰り、食堂内には二つの壺から発生した光柱の光の下に生徒達と研究所組、テラとニコリーネ、それにティルも面白そうだからと同席していた、
「じゃ、ソフィアお願い」
リンゴの飴を摘まんで口に放り込みつつユーリはさっさと席に着いた、参加者全員が飴をその口に含んでおり、ニコリーネは余程気に入ったのか串にささったそれをこれみよがしに舐めている、
「ちょっと、私がやるの?」
ソフィアは当然非難の声を上げる、
「だって、あんたが言い出した事でしょ、私は昨日から頭を使いすぎて疲れてるんだから」
「それはあんたの問題でしょ」
「私だけの問題だったらいいんだけどねー」
ユーリはどうでもいいと遠い目で天井を見上げた、
「まったく、じゃ、どうしようかしら」
プリプリとソフィアは席を立ち黒板に向かう、一同は食事中に相談事があるから知恵を貸してとユーリに誘われ、これはまた何かあるのかと楽しみにしていた、その為ユーリの態度に不愉快そうに眉を顰めるが、事情の半分程度を理解している研究所組は苦笑いを浮かべるしかない、
「では、まずは・・・なんだけど」
ソフィアは白墨を手にして黒板を鳴らし、
「これの意見が欲しいのよ」
と振り返った、黒板には学園の祭りと殴り書きされている、
「えっ・・・どういう事ですか?」
ジャネットがまず声を上げた、当然の反応であろう、そして、主に生徒達から似たような質問の声が上がる、
「はいはい、えっとね、あー・・・今日学園長とユーリが来てね、で、祭りをやりたいって事になったのよ、ほら、来月お祭りは無いんでしょ?」
「あっ、はい、年末の祭りはありますけど・・・」
「あれはお祭りとは言えませんわね・・・」
「うん、年始のお祭りの方がお祭りらしいかな?」
ジャネットとエレイン、ケイスが口を開く、
「そうよね、で、学園長と事務長がね、光柱の件で味を占めたらしくてさ、で、もっとこう学園を街の人達に知ってもらう為に何か無いかって・・・それを私に相談するのもどうかと思うけどねー」
とソフィアは溜息を吐く、殆ど嘘であった、昼頃の打合せで口裏を合わせる為に創作された言い訳である、
「それは・・・」
「確かに・・・光柱の時は盛況でしたよね・・・」
「うん、お祭り騒ぎ・・・以上だったよね」
どうやらこの創作は言い訳として十分に機能したらしい、誰も疑わずに納得している、
「そうよね、だから、学園長が何か無いかって聞くから、私が祭りをやればって言っちゃったのよ、口を滑らせたわ、黙ってれば良かった」
再び溜息交じりのソフィアである、
「それいいですね」
「はい、楽しそうです」
「学園のお祭りか・・・」
「どうなるんだろう?」
「面白そうじゃない?」
「面白いだろうけど・・・大変そう」
「そりゃそうだよ」
と趣旨を理解した面々はワイワイと騒がしくなる、テラは随分と思い切った事をと感心し、ニコリーネやティルも笑顔を浮かべて肯定的であった、
「そっか、ま、楽しそうなのは分かるんだけど・・・」
さてどうするかとソフィアが黒板に向かった所で、タロウがフラリと戻ってくる、
「ありゃ、始めてた?」
タロウは食堂の端にその席を定めた、
「まぁね、でね、みんなの意見が欲しいのが・・・何が出来るかって事なのよ、私はほら学園で何やってるかなんて知らないからね、今日は完全にまとめ役よ、だから・・・というか祭りってなんなのかしらね」
ムーと大きく首を傾げるソフィアに、そう言われると祭りとは何だろうと一同も同時に首を傾げるのであった。
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