上 下
693 / 1,050
本編

61話 計略と唄う妖鳥 その15

しおりを挟む
「この粉は何?」

「小麦粉ですね」

「なんで?味しないでしょ」

「アメとアメがくっつかないようにだそうです」

「へー、あ、そっか、これミズアメと黒糖だから、ベタベタしてるんだ」

「みたいです」

「ふーん、考えてるわねー、これは何味?」

「アンズです」

「あら、珍しいわね」

「ですね、こっちがリンゴでこっちが果物とか入れてないそのままのやつです」

「そのままでも美味しいの?」

「そりゃもう、黒糖の味が出てて私は好きですね」

「そっか、そりゃそうだ」

ユーリがブドウ味の飴玉を口中で転がしながら、テーブル上に並んだ壺を覗き込んでカトカの解説に一々感心して頷いている、

「これは?」

「はい、試しに作ってみました、黒糖だけを使ったアメですね」

「へー、ミズアメ無しってこと?」

「はい、なので、固まりにはならないんですよ、こんな感じでベタッとしてます、タロウさんはこれはこれでありだろって言ってましたね、でも、これを乾燥させて砕くと黒糖ですからね、なら黒糖そのまま舐めたほうが良い感じです」

「味は?」

「変わってないです、少しあれですアメに近いですけどね、これを作るならミズアメを入れてちゃんとアメにした方がいいかなーって感じで・・・好みでしょうけど」

「そりゃそうだ・・・ふーん」

とユーリは腕を組んでカロカロと口中のブドウの飴玉を舌の上で転がし歯にぶつけてその感触を楽しむ、飴玉は黒糖と水飴の甘さによりブドウの酸味が絶妙に引き立てられ、さらにブドウの香りも鼻腔に抜けてくる、甘みを楽しむよりもブドウを楽しむ品だなとユーリは感じていた、

「この丸いのは?」

「切ったやつを丸めたんです、柔らかい内に」

「へー」

「熱いから板でこう挟んで左右に潰すように揺り動かして」

カトカが身振り手振りで説明する、

「ふーん、形も自在って事ね・・・」

「はい、タロウさん曰く、いろんな形を作れる職人もいるらしいです、それこそ、お魚とかワンコとかニャンコとか、達人になるとドラゴンを作るとか・・・まるで想像できないんですが・・・自分には無理だったってタロウさんは言ってました」

「職人ねー」

「えへへー、これー、ミナが作ったのー」

そこへミナがヒョイと顔を出した、手にしているのは真っ白い板状の飴に串を差したものであるらしい、

「それは何?」

「えっとね、えっとね、ニャンコの型を使ったのー、タロウが大したもんだって褒めてくれたー」

ミナはニパーと輝く笑顔をユーリへ向ける、

「へー、これもアメ?」

「はい、ミナちゃんがニャンコ作りたいって言って、できるぞーってタロウさんが、で、焼き菓子の型で抜いたのですね」

「白いのは?」

「これも面白いですよ、ミズアメと同じように伸ばしたり畳んだりして大きく練ると、この色になるんです、綺麗ですよね、輝きが違います」

「確かにね・・・あれか、空気を入れるってやつ?」

「それですね」

「ふーん・・・なに?ミナくれるの?」

「・・・なんでー?」

ニヤリと微笑むユーリにミナはキョトンと問い返す、

「なんでって、頂戴、それ、美味しそう」

「ダメー、これはミナのお宝なの、ミナが作ったのー、大事に食べるのー」

ミナは危険を感じたのかそう叫んで暖炉の前に走り去った、

「ありゃ、まぁいっか、しっかし、アンタらもよくやるわねー」

ユーリは一通り感心し終え溜息交じりとなる、テーブル上の壺には件の飴玉が溢れる程に詰められており、その壺が八つは並んでいるだろうか、それのほかにもミナが自慢していた平べったく串に刺さった飴もボウルの中に乱雑に詰められている、

「えへへ、昨日作った水飴は全部使っちゃいました、黒糖も追加で事務所から持って来ましたね」

カトカが照れ笑いを浮かべる、

「褒めてるわけじゃないわよ、呆れてんの」

「酷いなー」

ニヤニヤとカトカは微笑みを崩さない、その背後では、

「そうなりますと、ミズアメですわね」

「そうなんです、そちらが若干手間かと思います、タロウさんは他の作り方もあるって言ってましたけど、そっちの方が手間だとは言ってました」

「それは聞きましたわね、そちらも気になりますが・・・あっ、これ、日持ちはするんですの?」

「結構持つぞってタロウさんは言ってました、水分が少ないので腐りにくいそうです、でも、カビには注意ってことでした」

「それは素晴らしい・・・」

「ですね、でも、さっさと食べたほうがいいとも言ってました、なので、季節によりますけど10日程度が目安になるかと・・・勿論検証は必要と思います」

「それでも十分ですよ、ヘルデル辺りであれば十分持ちます、お土産になりますよ」

「そうですねー」

「うーん、入れ物はどうしましょう・・・藁箱に詰めるのは・・・壺が良いのかしら?」

「布袋でも良いかもしれませんよ・・・」

エレインとテラが仕事を終えてそそくさと顔を出し、早速と商品化を見越した打合せである、ジャネット達経営陣に加えグルジアも額を寄せている、どういうわけだかレインも楽しそうにその輪に加わっており、ニコリーネも同じテーブルで嬉しそうに串に刺さった飴を舐めている、マフダとリーニー、アニタとパウラはエレインとテラに代わって帰宅した、その手にはしっかりと土産を持っておりホクホクと笑顔での帰宅となった、

「しかし・・・」

「なんです?」

「美味しいですわね、リンゴ味」

「ブドウの方が美味しいですよ」

「それは好みでしょ」

「そうですけどー、この酸っぱい感じがいいです、甘みとの調和が堪らないです」

「それは同意する」

「でしょー」

「あら、じゃ次はブドウかしら、あれね、ずっと美味しいのが良いわね」

「そうなんですよー、タロウさんが噛んじゃ駄目って言ったときはどういう事かと思いました」

「私もー、でも小さくなったら噛んじゃうよ」

「あー、ガリガリ言ってたのはアンタか」

「バレた?」

「うん、響いてたよ」

「それはそれで美味しかった」

「そう?」

「うん、口の中に甘いのとすっぱいのが広がって幸せだった」

「そっか、それもありか・・・小さくなったら飲んじゃってたな」

「いつの間にか無くなってますよね」

「そうそう、それと、何かしながらでも食べれます、皆作業しながら食べてました」

「それもいいわね」

「ソフィアさんに笑われちゃいましたけど、甘いものばかり食べると舌がバカになるわよーって」

「それはまた古い言葉ですね」

「おばあちゃんによく言われたなー」

「私もー」

「ねー」

「そうだ、明日ユスティーナ様にお会いするからお持ちしましょうか、ティルさんには報告書と一緒に届けて貰いましょう」

「そうですね、生産はどうします?本格的に始めます?」

「そうね、明日・・・ミズアメから作らないとですわね、マフダさんとリーニーさんにお願いしましょう」

「明日お休みでしょ?私らも午後から手伝うよ」

「あら、休みの日は休まないとですよ」

「結構楽しかったから別にいいよー、ミズアメも人手があると楽だろうしね、何気にあたしら遊んでるし、他の連中が稼ぎたいって頑張ってるからね」

「あら・・・じゃ、お願いしましょうか」

「うん、材料は・・・あっ、カブが無いよね」

「買ってきてもらいましょうか」

「だねー」

取り合えず問題の抽出は終わり、どうするかの結論は出ないままであったが、明日の予定は立ったらしい、そこへ、

「準備できたぞー、片付けろー」

タロウが両手に皿を持って入ってきた、バタバタと腰を上げてテーブルの清掃を始める面々である、そうしてその日の夕食が始まった。



夕食後である、ミナとレインはタロウと共に宿舎に帰り、食堂内には二つの壺から発生した光柱の光の下に生徒達と研究所組、テラとニコリーネ、それにティルも面白そうだからと同席していた、

「じゃ、ソフィアお願い」

リンゴの飴を摘まんで口に放り込みつつユーリはさっさと席に着いた、参加者全員が飴をその口に含んでおり、ニコリーネは余程気に入ったのか串にささったそれをこれみよがしに舐めている、

「ちょっと、私がやるの?」

ソフィアは当然非難の声を上げる、

「だって、あんたが言い出した事でしょ、私は昨日から頭を使いすぎて疲れてるんだから」

「それはあんたの問題でしょ」

「私だけの問題だったらいいんだけどねー」

ユーリはどうでもいいと遠い目で天井を見上げた、

「まったく、じゃ、どうしようかしら」

プリプリとソフィアは席を立ち黒板に向かう、一同は食事中に相談事があるから知恵を貸してとユーリに誘われ、これはまた何かあるのかと楽しみにしていた、その為ユーリの態度に不愉快そうに眉を顰めるが、事情の半分程度を理解している研究所組は苦笑いを浮かべるしかない、

「では、まずは・・・なんだけど」

ソフィアは白墨を手にして黒板を鳴らし、

「これの意見が欲しいのよ」

と振り返った、黒板には学園の祭りと殴り書きされている、

「えっ・・・どういう事ですか?」

ジャネットがまず声を上げた、当然の反応であろう、そして、主に生徒達から似たような質問の声が上がる、

「はいはい、えっとね、あー・・・今日学園長とユーリが来てね、で、祭りをやりたいって事になったのよ、ほら、来月お祭りは無いんでしょ?」

「あっ、はい、年末の祭りはありますけど・・・」

「あれはお祭りとは言えませんわね・・・」

「うん、年始のお祭りの方がお祭りらしいかな?」

ジャネットとエレイン、ケイスが口を開く、

「そうよね、で、学園長と事務長がね、光柱の件で味を占めたらしくてさ、で、もっとこう学園を街の人達に知ってもらう為に何か無いかって・・・それを私に相談するのもどうかと思うけどねー」

とソフィアは溜息を吐く、殆ど嘘であった、昼頃の打合せで口裏を合わせる為に創作された言い訳である、

「それは・・・」

「確かに・・・光柱の時は盛況でしたよね・・・」

「うん、お祭り騒ぎ・・・以上だったよね」

どうやらこの創作は言い訳として十分に機能したらしい、誰も疑わずに納得している、

「そうよね、だから、学園長が何か無いかって聞くから、私が祭りをやればって言っちゃったのよ、口を滑らせたわ、黙ってれば良かった」

再び溜息交じりのソフィアである、

「それいいですね」

「はい、楽しそうです」

「学園のお祭りか・・・」

「どうなるんだろう?」

「面白そうじゃない?」

「面白いだろうけど・・・大変そう」

「そりゃそうだよ」

と趣旨を理解した面々はワイワイと騒がしくなる、テラは随分と思い切った事をと感心し、ニコリーネやティルも笑顔を浮かべて肯定的であった、

「そっか、ま、楽しそうなのは分かるんだけど・・・」

さてどうするかとソフィアが黒板に向かった所で、タロウがフラリと戻ってくる、

「ありゃ、始めてた?」

タロウは食堂の端にその席を定めた、

「まぁね、でね、みんなの意見が欲しいのが・・・何が出来るかって事なのよ、私はほら学園で何やってるかなんて知らないからね、今日は完全にまとめ役よ、だから・・・というか祭りってなんなのかしらね」

ムーと大きく首を傾げるソフィアに、そう言われると祭りとは何だろうと一同も同時に首を傾げるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!

ree
ファンタジー
 波乱万丈な人生を送ってきたアラフォー主婦の檜山梨沙。  生活費を切り詰めつつ、細々と趣味を矜持し、細やかなに愉しみながら過ごしていた彼女だったが、突然余命宣告を受ける。  夫や娘は全く関心を示さず、心配もされず、ヤケになった彼女は家を飛び出す。  神様の力でいつの間にか目の前に中世のような風景が広がっていて、そこには普通の人間の他に、二足歩行の耳や尻尾が生えている兎人間?鱗の生えたトカゲ人間?3メートルを超えるでかい人間?その逆の1メートルでずんぐりとした人間?達が暮らしていた。  これは不遇な境遇ながらも健気に生きてきた彼女に与えられたご褒美であり、この世界に齎された奇跡でもある。  ハンドメイドの趣味を超えて、世界に認められるアクセサリー屋になった彼女の軌跡。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT
ファンタジー
 神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。  神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。      現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。  スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。  しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。    これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...