セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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61話 計略と唄う妖鳥 その14

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それから公務時間終了の鐘が響くと同時に、

「もどったー」

今度は階段からミナがバタバタと駆け下りてきて食堂に誰もいない事を見るとすぐさま厨房に飛び込む、

「あら、お帰り、どうだったー」

ソフィアが手を止めて振り返る、ミーンとティルも同様に振り返った、

「広かったー、でも、お馬さんいなかったー」

「そっかー、いなかったかー」

「でも面白かったー」

「そうなの?」

「うん、タロウがこれなら十分だーって、ガクエンチョーセンセーも喜んでたー」

「そっか、それは良かったわ」

先程の突発的な打合せの後、タロウはミナとレインを連れ学園長とユーリの案内の下、学園の使っていないという厩舎の下見に向かった、学園はかつては城であった建築物である、故に城として必要な設備は完備されており、軍馬を管理する為の厩舎は当然として、乗馬の訓練として使われていたであろう広場も併設されていた、それらはやや時代的に古い設えであったが使用に関しては何の問題もない、現状は厩舎はその半分を倉庫として使用しており、広場は第三修練場とその名を変えている、それは致し方の無い事と言えるであろう、

「はい、お疲れー」

タロウがノソリと厨房へ顔を出す、

「お疲れさん、使えそうだった?」

「うん、なんだ、あれか?学園って城かなんかだったのか?」

タロウが思いもよらなかったと不思議そうに問いかける、

「そうみたいよー、ユーリが言ってたかなー、あっ、ミーンさんどんなもんなの?」

とソフィアは学園の卒業生であるミーンに水を向けた、

「あっ、はい、らしいです、歴史の授業で習いました、王国とアイセル公との戦争で王国が勝って、で、モニケンダムは城を明け渡したとかなんとか、そんな感じです」

「へー、そういう事かー、でも、それをそのまま学園にするって王国も思い切った事したもんだなー」

「そうですね、はい、当時の王国はモニケンダムは外敵が少ないから城はいらんだろうってなったらしいです、城壁も無いですしね」

「あっ、そうだよねー、こんな大きい街なのに珍しいなーって思ってたんだよ、そっか、東は荒野だし、南は山で西と北は王国だもんな、攻めてくる敵もいないのか」

「そうらしいですね」

タロウはフーンと首を捻る、タロウが知る限り王国の主だった都市には外壁がある、王都に関しては三重の壁が雄々しく屹立しており、実に邪魔くさい、あんなでかい壁を建てたら日当たりが悪いだろうなと眺めた事を思い出す、

「まっ、いいでしょ、ほれ、なんかやるんでしょ、みんな楽しみにしてたわよ」

ソフィアがニヤリと話題を変えた、

「ん、そうだな、じゃ、やるか、ミーンさんにティルさん、手伝う?」

「勿論です」

「はい、当然です」

二人は鼻息を荒くする、

「ありゃ、そんなに気負わなくても・・・」

タロウは若干引き気味になるが、

「あんたねー、昨日あんな事言っておいて、お嬢様達が飛びつかないわけがないでしょ」

ソフィアは呆れて溜息を吐く、そこへ、

「もう始まった?」

ジャネットがハァハァと意気を荒げて厨房へ駆け込んできた、

「まだよ、これからー」

ソフィアはほら見なさいとタロウを斜めに睨む、

「ありゃ、そんなに大事か?」

「大事ですよ」

「大事です」

「良かった、これから?これから?」

「何がー?」

ミーンとティルは熱の籠った視線をタロウへ向け、ジャネットはホッと安堵している、ミナは急に騒がしくなったと訳が分からずソフィアを見上げた、

「そっかー、でも、そこまで期待されると・・・あれだな、素直に教えるのもつまらんかな?」

タロウが首を捻った瞬間に、エーッと女性達の非難の声が上がり、

「あんたね、そうやって意地の悪い事言ってると、本気で嫌われるわよ」

ジロリとソフィアに睨まれた、

「あー、それは良くないな、うん、じゃ、やるか、えっと、道具借りるぞ」

「お好きにどうぞ」

「ん、じゃ、すり鉢あるか?それと鍋と、コンロは・・・」

「持ってきます」

ジャネットが叫ぶ、

「ん、頼む、あっ、この紫の大理石だっけ?これ借りるぞ」

「どうぞー」

「他には・・・まっいいか、よし食堂だ」

はい、ととても素直で明るい声が厨房を満たした。



「で、こんな感じに煮詰まったら良い感じかな?簡単だろ?」

タロウが居並ぶ女性達を見渡した、参加者はミーンとティルの他にエレイン以外の寮の生徒達、マフダとリーニー、アニタとパウラも当然のように顔を出し、カトカとゾーイにサビナも参加している、タロウがゆっくりとかき回してる鍋の中身は黒糖と昨日作った水飴と少量の水であった、

「確かに、これだけですか?」

鍋を覗き込むミーンが顔を上げた、

「うん、これはね、昨日の水飴がキモってやつでね、ま、ここからが大変なんだがさ、はい、焦げないようにかき回してて」

とタロウは手にしたヘラを隣に立っているパウラに渡す、

「で、そっちはどんなもん?」

「はい、だいぶ粉っぽくなっていると思いますけど」

後ろのテーブルではすり鉢で乾燥果物を粉にしていた、リンゴとブドウである、

「種は細かく取った方がいいかな、粉になってしまったら仕方ないけどね」

「はい、それは取ってました」

「おう、流石マフダさんだねー、商会の開発部だっけ、大したもんだ、あっ、水分はどう?」

「少々残ってますね、どうでしょう?」

タロウの調子の良い誉め言葉にマフダは軽く頬を赤らめつつ俯いて答えた、

「これくらいなら大丈夫かな?」

タロウは二つのすり鉢を確認する、マフダとリーニーがゴリゴリと熱心に作業を続けていた為、それらは見事に粉末となっていた、しかし乾燥果物には若干の湿り気が残っていたのであろう、ダマになっている部分もある、

「じゃ、こっからが大事だから、皆さん注目だよー」

タロウは鍋を確認してこんなもんかなとコンロの火を止めると、鍋の中身を紫大理石にトロリと垂らす、女性達の視線が集まる中それはジンワリと広がっていった、

「おっ、思った以上に良い色だねー」

タロウは満足そうに微笑んだ、若干濃い琥珀色である、既に甘い香りに満ちていた食堂により甘い香りが渦を巻く、

「スライムみたい・・・」

「あー、分かるー」

「これだけでも美味しそうですよ」

「確かに」

「美味しいだろうね」

「うん」

「タロー、まだー」

「まーだ、これからが大事なの、で、この状態で様子を見ながら冷ましていくんだけど、こんな感じで串でひっくり返しながら、串がなかったらヘラでもなんでもいいからね、道具は使いやすいのを使うのが賢者と言うものだねぇー」

とタロウは用意していた串をその液体の端から滑らせ液体を持ち上げる、紫大理石に触れた部分は硬化が始まっているのか薄い膜のように変化していた、

「おおっ、固まってますね」

「うん、へー、すごいこうなるんだ」

「なるほど、もしかしてこのまま固まるのですか?」

「あー、カトカさん、先に言ったら寂しいよおじさんは」

「あっ、駄目でした?」

「駄目じゃないけどねー」

タロウは軽口を叩きながらその物体をひっくり返したり重ねたりして粗熱をとっていく、

「うん、で、こんな感じで固くなってきたら、ここからが大事、まだ熱いから手袋必須ね、火傷しちゃうから」

タロウは布袋から今日買ってきた厚手の布手袋を取り出し装着すると、その塊を捏ね始める、

「アッツ・・・こんなに熱いのか、そりゃそうか・・」

「シロメンみたい・・・」

「シロメンってこうやって作るんですか?」

「そこはパンみたいでいいんじゃない?」

「・・・そだね・・・」

記録係のミーンとティルが囁き合う、今日は研究所組や商会の商品開発部もいる為厳密に計量しながらの作業となっている、タロウはそれには特に口を挟まなかった、作業開始前はあくまで実験だし試作だと予防線的な言い訳はうるさかったが、

「うん、良い感じだと思う、で、ここにだ、リンゴ・・・ブドウがいいか分かりやすい」

塊の中央にくぼみを作るとそこへ干しブドウの粉末を投入し、さらに捏ねていく、塊は見る間に紫色に染まっていった、

「わっ、綺麗だね」

「うん、ブドウの色だ」

「そりゃそうだ」

「まったくだ」

遠慮のない感想の中、

「よし、ここからが早業だよー」

タロウは塊を細い棒状に形成し、その端から小さな塊へと包丁で切り分けると、次々と小麦粉の入ったボウルに投入する、

「すぐに固まっちゃうからね、手早く迅速に」

解説を呟きつつタロウは、あっという間に作業を終えた、残ったのは小麦粉の中で紫色に輝く小さな粒である、

「ん、どうかなー」

タロウは女性達の視線が集まる中、その一つをヒョイと口に運ぶ、そして、

「ん・・・これは・・・」

と一転その顔を顰め、口元を押さえた、エッと視線が集まる、タロウは苦しそうにその顔を歪め、あからさまに右往左往し、倒れるように腹を押さえて蹲った、

「わっ、大丈夫ですか?」

「ソフィアさん呼びます?」

「どうしたんですか?」

「毒でも入ってた?」

「まさか・・・だって・・・」

女性達が色めき立ち、ミナが慌てて駆け寄った、突然の事に泣きそうな顔である、タロウは、

「・・・すげー、旨い・・・これは予想以上の出来だ・・・」

視線が集まる中ニヤリとミナに笑いかけ、何事もなかったかのようにスッと立ち上がる、そして、

「ほれ、ミナ、食ってみろ旨いぞ、但し、噛んじゃ駄目だ、舌の上で転がすようにな」

その一粒をミナに差し出した、ミナは、

「むー、タローのバカー」

思いっきり叫んでパクリとその手にかぶりつく、

「なんだとー」

タロウはニヤーと厭らしい笑みを浮かべる、

「あー、タロウさん、そういうのはどうかと思いますよ」

サビナがどうしてこうユーリの周りの人間は一癖あるのかと呆れ顔となり、

「確かに、大人としてどうですかね」

カトカも実に魅力的な瞳でタロウを睨む、

「そういう事ですか・・・まったく、性格の悪い」

流石のゾーイも悪態を吐かざるを得ない、そして、

「これ、おいしー、ブドウだー、あまーい、それとすっぱい、おいしー」

呆れて白けた雰囲気をミナの嬌声が引き裂いた、タロウは、

「だろう、ほれ、試してみ、かみ砕いちゃ駄目だぞ、舌の上で転がすのが上品な食べ方だ」

自分に向けられる辛辣な視線にニヤニヤと下品な笑みを浮かべ、同じ注意を繰り返すと、飴玉の入ったボウルを軽く揺すってテーブルの中央に置くのであった。
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