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本編
61話 計略と唄う妖鳥 その12
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翌日、
「戻ったー」
正午近くになり、ミナがバタバタと食堂へ駆け込むと、
「おう、やっとか」
クロノスが腕を組んで振り返り、
「ミナちゃん、お邪魔しておるぞ」
学園長がニコヤカな笑顔を見せる、クロノスの隣りにはリンドとアフラの姿もある、二人は共に柔らかい笑顔をミナに向けていた、そして、ソフィアもまたそのテーブルを囲んでいる、
「あれー、どうしたのー、なにしてるのー」
ミナは足を止めて当然の無垢な質問である、
「お仕事だよ」
「そうなの?」
「うむ、お仕事じゃ、重大じゃぞ」
「重大だな、タロウは?」
「帰って来たよー、タロー」
ミナはダダっと玄関へ戻る、すぐさま、
「あや、どうされましたお歴々で」
タロウがのそりと食堂に入ってきた、その手には壺であろうか、タライであろうか、何にしろ巨大なガラス製の水桶のような用途不明の何かを手にしている、
「お仕事だってー」
ミナがその足元でタロウを見上げ、
「こりゃ、タロウ、これはどうする」
レインが手にした革袋をめんどくさそうにタロウに突き出す、
「あっ、悪い、それはこっちに、で、お仕事?」
「お仕事だよ、なんだそれは」
クロノスはまた妙な事を始めたのかとその目を細め、ソフィアもジッとそのガラスの何かを見つめ、溜息を一つ吐くと、
「はいはい、取り合えずそれは置いておいて、こっちが優先よ」
とやれやれと腰を上げた、
「そうか?まぁ、そうだな」
タロウはテーブルによいせとそれを乗せるとレインから手渡された革袋をその隣りに静かに置いた、
「何これ?」
しかし、ソフィアはやはり興味があるのか問い質し、それは他の面々も同様なのであろう、興味深そうに見つめている、
「ん?情操教育」
「ジョウソウキョウイク?」
「うん、まぁ、見てろ、面白いから」
「またそんな事言って・・・」
「大丈夫、お前さんも気に入るぞ、たぶん」
「・・・その言葉は信用しない事にしているから」
「ありゃ、寂しいなー、なー、ミナー」
「うん、サビシー」
「ミナー、意味分かってるー?」
「何がー?」
キョトンとソフィアを見上げるミナであった、
「まぁいいわ、先にそっち済ませなさいな、忙しい人達が集まってるんだから」
「おう、で、どうされました?」
ソフィアに促されタロウはそそくさとテーブルを囲む、ミナは嬉しそうにガラスの壺を覗き込んでおり、レインもその隣でペタペタとその感触を試している、
「ん、陛下と打合せてな」
とクロノスが切り出した、
「で、例の視察について、可能であればそうしてくれとなった、で、確か下準備がどうのこうのと言っていただろう、それを聞きに来たんだよ」
「ありゃ、行くの?」
「勿論だ、敵を知り・・・だかなんだかと言ったのはお前だぞ、陛下はいたく気に入られたようでな、今日の打合せじゃ、三回も四回も口にしていた」
クロノスが嫌そうに眉をひそめ、リンドとアフラが苦笑いを浮かべる、
「それは、光栄の至り、そうなると・・・」
タロウはふむと腕を組む、ミナとレインはガラスのそれには飽きたのか革袋に手を伸ばしてその中身を取り出していた、中身は雑多である、小さな布袋が幾つか、それとガラスのグラスのようである、それなりの高級品であり、本来であれば木箱に入れて恭しく扱うべき品であろう、ソフィアは何を意図してこんなものをとしかめっ面となってしまうが、ミナは楽しそうにキャッキャッとはしゃいでいる、
「人数は?決まったのか?」
「勿論だ、俺とリンド、それとメインデルトとその従者、それとルーツも呼び出す」
「えっ、俺やお前さんもいいしルーツやリンドさんもいいが、メインデルトってあの軍団長様だろ?」
「そうだよ」
「大丈夫か?」
「今更なんだよ・・・まぁ、陛下が行くと言って聞かなくてな、それは流石に駄目だろってなったら、イフナースが自分が行くと言い出して、それも駄目だろってなって、メインデルトなんだよ、向こう側の人間もおらんと、お前と俺の虚言だと思われたらおしまいだろ?」
「ありゃ、そういうものか?」
「そうだろ、陛下はお前の事は高く買っているがさ、他の連中は懐疑的だ、ま、実際にその要塞やら、端の町やらを目にすれば少しは実感できるだろうが、それすら嘘だと言われたら俺は首をはねられるんだよ、お前は国外追放だ」
「・・・お前さんが強弁するからだろ、それは・・・」
「あぁでも言わないとお前の言う事など誰が信用するものかよ」
「あっ、ひでぇ・・・まっ、それもそうか」
「だろう?」
タロウは苦笑いを浮かべるしかなく、クロノスはまったくと鼻息を荒くした、
「ま、いいか、じゃ、そうだな・・・具体的には・・・」
とタロウはどうするのが一番安全かと悩み始める、議題となっているのは帝国の視察というよりも偵察であり、クロノスとイフナースに情報を提供した際に提案していた事である、タロウとしてもいくら言葉で説明したとして理解されないかもしれないと考えており、となれば、その問題の要塞と荒野の端にある街には連れていけるであろう事をクロノスとイフナースには説明していた、そうすれば帝国の生活や、軍隊そのものを知る事ができる、それは戦をする上では大変に重要な情報となるであろう事は確かである、しかしここでタロウは一つ嘘を吐いている、タロウは実際には自分の行った事のある地であれば自由に飛んでいけるのであるが、それを公言していないのだ、この場合要塞やその辺境の街と限定せずに、帝国の首都や魔王の国は勿論、彼が訪問した地すべてに瞬時に赴く事ができるのである、あまりにも便利過ぎる事と利用価値が高すぎる為に隠している事の一つであった、それでも、冒険者時代にはユーリと共に転送陣を開発しており、それは王国としても秘中の秘として有効活用されている、その例を出さなくてもやはり移動手段の簡略はそれだけで何をするにしても便利なのであった、
「服装と、髭かな?」
タロウはニヤリと悪そうな笑みを浮かべる、
「・・・髭?」
「うん、向こうは成人男性は髭を生やすのが礼儀・・・というよりもそれが成人男性の証なんだよ、髭の無い男は奴隷か男娼かガキ扱いだな」
「なんと・・・」
学園長が驚いて口を開く、リンドとアフラも意外そうな顔であった、
「それは、あれか、そういう文化か?それとも何か理由があるのか?」
目を爛々と輝かせてタロウを見つめる学園長である、
「あー、どうでしょう、そういう文化?が正しいのかな?と思います、明確な理由までは・・・」
タロウは若干驚いて答える、それほどに学園長の勢いは凄まじい、
「そうか、あのな、都市国家に赴いた際にも耳にしたのだ、内海を挟んだ南側の国ではな、髭もそうだが髪を切らない部族もいるらしい、さらに、女性達は常にフードで頭部を隠すと聞く、なんでも日差しが強過ぎる為だと聞いた、それこそ文化よな、その地で生きる為にそうせざるを得なかったのだろう、実に興味深い、うん、いや、そうか、その帝国でもそうなのだな、これは面白い」
一人上機嫌で饒舌となる、そして、
「殿下、ここは何卒私めも同行させて頂く事は出来ないでしょうか、一目、一目でよいから帝国のその生活を拝見したく思うのです」
学園長は今度はクロノスに直談判である、クロノスは恐らく予想していたのであろう、まったくと溜息を吐き、
「そうだな、実は陛下からもな、学園長にも声を掛けてみろと言われていた、あれの知見は有用だろうとの事でな」
「なんと、身に余る光栄であります殿下、ありがとうございます、これほどの栄誉がありましょうか」
年甲斐も無く喜ぶ学園長に大人達は苦笑いを浮かべ、ミナとレインはポカンとしている、
「そうしますと、まずは、髭ですな、他にはあるか、タロウ殿」
再び爛々と輝く瞳がタロウに向かう、
「・・・あっ、はい、服装はこちらで準備します、昨日まで私が来ていた服装ですね」
「そうか、あの珍妙な服だな、楽しみだ」
「他には・・・言葉はどうする?確か例の報告書は翻訳中と陛下がおっしゃっていたはず、向こうの言葉を使える者がいるのか?」
タロウはそういえばとクロノスを伺う、
「あぁ、それはほれ王都にいる都市国家の商人を呼び寄せたらしい、あいつらは内海周辺の言葉は使えるからな」
「そういう事か・・・となると、案内や通訳は俺だけの方が良さそうだな、その商人とやらを巻き込むのは・・・難しかろう・・・」
「そうなるな」
「うん、では、それはそれで・・・他には・・・」
とタロウは視線を反らして顎先を指先でかく、
「うん、長期滞在とはならんだろうから、見た目だけ何とかすれば何とかなるだろう、1日でいいんだろ?」
とクロノスに視線を向けた、
「それでよい、状況把握が先決だ、その後はまた考えよう・・・そうなると髭を伸ばさねばならんか、少し先になるかな?」
クロノスは頬と顎先を撫でつつ考える、今朝剃ったばかりであるが、若干のザラツキをその手に感じた、
「無精髭で十分さ、遠方から来た商人とでも言えば市井の者は怪しまないし、要塞でもそれで通せるだろう」
「商人に偽装するなら別に髭まではいらんのじゃないか?」
「商人だからだよ、他国の商人ならその国の風習に合わせるのが当然というものだろ」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ」
「仕方ない、じゃ、それで対応しよう、こっちの都合で悪いが四日後の28日に頼む、明後日に改めて打合せを持ちたいと思うがどうだ?」
「早すぎないか?」
「仕方なかろう、あれから王城は殺気立ってるし、軍団の連中も鼻息が荒くてな、正直困っているんだよ、メインデルトが実際に目にすれば、少しは落ち着くさ、それにあれの視点もまた貴重だと思うしな・・・いや、余計に猛り立つか・・・ま、何とかするか・・・」
「なるほど・・・了解した、では、明後日までに下準備はしておく、視察場所は要塞と端の町だな?」
「おう、それで頼む」
クロノスは一旦リンドへ目配せし、リンドは小さく頷く、
「じゃ、また来るよ」
クロノスはサッと腰を上げ、リンドとアフラも席を立つ、
「ありゃ、早いな」
「まぁな、誰かさんのお陰で忙しいんだよ、今日は戻って書類仕事だ、まったく・・・アフラ、陛下への報告とメインデルトに髭の件を伝えてくれ、ここでの話をそのまま話して良い、学園長からの件も同様に、ルーツは今日来ると言っていたよな」
クロノスはアフラに指示しリンドに確認すると、
「あっ、明日のあれは予定通りだ、ルーツも呼ぶからよろしくな」
振り返ってタロウに告げるとさっさと階段へ向かった、リンドとアフラも軽く会釈をしてその後に続く、
「それ俺のせいじゃねーだろうが・・・」
タロウが不愉快そうにその背を睨んだ、そこへ、
「ありゃお帰り?」
ユーリが階段から下りて来た、
「おう、こっちは終わった」
「そっ、まったく、忙しいったらないわ」
「まったくだ」
一人と三人は適当な会話を交わしてすれ違うと、
「戻ったのね、じゃ、学園長あの話しを」
と学園長の隣にストンと腰を下ろすユーリであった。
「戻ったー」
正午近くになり、ミナがバタバタと食堂へ駆け込むと、
「おう、やっとか」
クロノスが腕を組んで振り返り、
「ミナちゃん、お邪魔しておるぞ」
学園長がニコヤカな笑顔を見せる、クロノスの隣りにはリンドとアフラの姿もある、二人は共に柔らかい笑顔をミナに向けていた、そして、ソフィアもまたそのテーブルを囲んでいる、
「あれー、どうしたのー、なにしてるのー」
ミナは足を止めて当然の無垢な質問である、
「お仕事だよ」
「そうなの?」
「うむ、お仕事じゃ、重大じゃぞ」
「重大だな、タロウは?」
「帰って来たよー、タロー」
ミナはダダっと玄関へ戻る、すぐさま、
「あや、どうされましたお歴々で」
タロウがのそりと食堂に入ってきた、その手には壺であろうか、タライであろうか、何にしろ巨大なガラス製の水桶のような用途不明の何かを手にしている、
「お仕事だってー」
ミナがその足元でタロウを見上げ、
「こりゃ、タロウ、これはどうする」
レインが手にした革袋をめんどくさそうにタロウに突き出す、
「あっ、悪い、それはこっちに、で、お仕事?」
「お仕事だよ、なんだそれは」
クロノスはまた妙な事を始めたのかとその目を細め、ソフィアもジッとそのガラスの何かを見つめ、溜息を一つ吐くと、
「はいはい、取り合えずそれは置いておいて、こっちが優先よ」
とやれやれと腰を上げた、
「そうか?まぁ、そうだな」
タロウはテーブルによいせとそれを乗せるとレインから手渡された革袋をその隣りに静かに置いた、
「何これ?」
しかし、ソフィアはやはり興味があるのか問い質し、それは他の面々も同様なのであろう、興味深そうに見つめている、
「ん?情操教育」
「ジョウソウキョウイク?」
「うん、まぁ、見てろ、面白いから」
「またそんな事言って・・・」
「大丈夫、お前さんも気に入るぞ、たぶん」
「・・・その言葉は信用しない事にしているから」
「ありゃ、寂しいなー、なー、ミナー」
「うん、サビシー」
「ミナー、意味分かってるー?」
「何がー?」
キョトンとソフィアを見上げるミナであった、
「まぁいいわ、先にそっち済ませなさいな、忙しい人達が集まってるんだから」
「おう、で、どうされました?」
ソフィアに促されタロウはそそくさとテーブルを囲む、ミナは嬉しそうにガラスの壺を覗き込んでおり、レインもその隣でペタペタとその感触を試している、
「ん、陛下と打合せてな」
とクロノスが切り出した、
「で、例の視察について、可能であればそうしてくれとなった、で、確か下準備がどうのこうのと言っていただろう、それを聞きに来たんだよ」
「ありゃ、行くの?」
「勿論だ、敵を知り・・・だかなんだかと言ったのはお前だぞ、陛下はいたく気に入られたようでな、今日の打合せじゃ、三回も四回も口にしていた」
クロノスが嫌そうに眉をひそめ、リンドとアフラが苦笑いを浮かべる、
「それは、光栄の至り、そうなると・・・」
タロウはふむと腕を組む、ミナとレインはガラスのそれには飽きたのか革袋に手を伸ばしてその中身を取り出していた、中身は雑多である、小さな布袋が幾つか、それとガラスのグラスのようである、それなりの高級品であり、本来であれば木箱に入れて恭しく扱うべき品であろう、ソフィアは何を意図してこんなものをとしかめっ面となってしまうが、ミナは楽しそうにキャッキャッとはしゃいでいる、
「人数は?決まったのか?」
「勿論だ、俺とリンド、それとメインデルトとその従者、それとルーツも呼び出す」
「えっ、俺やお前さんもいいしルーツやリンドさんもいいが、メインデルトってあの軍団長様だろ?」
「そうだよ」
「大丈夫か?」
「今更なんだよ・・・まぁ、陛下が行くと言って聞かなくてな、それは流石に駄目だろってなったら、イフナースが自分が行くと言い出して、それも駄目だろってなって、メインデルトなんだよ、向こう側の人間もおらんと、お前と俺の虚言だと思われたらおしまいだろ?」
「ありゃ、そういうものか?」
「そうだろ、陛下はお前の事は高く買っているがさ、他の連中は懐疑的だ、ま、実際にその要塞やら、端の町やらを目にすれば少しは実感できるだろうが、それすら嘘だと言われたら俺は首をはねられるんだよ、お前は国外追放だ」
「・・・お前さんが強弁するからだろ、それは・・・」
「あぁでも言わないとお前の言う事など誰が信用するものかよ」
「あっ、ひでぇ・・・まっ、それもそうか」
「だろう?」
タロウは苦笑いを浮かべるしかなく、クロノスはまったくと鼻息を荒くした、
「ま、いいか、じゃ、そうだな・・・具体的には・・・」
とタロウはどうするのが一番安全かと悩み始める、議題となっているのは帝国の視察というよりも偵察であり、クロノスとイフナースに情報を提供した際に提案していた事である、タロウとしてもいくら言葉で説明したとして理解されないかもしれないと考えており、となれば、その問題の要塞と荒野の端にある街には連れていけるであろう事をクロノスとイフナースには説明していた、そうすれば帝国の生活や、軍隊そのものを知る事ができる、それは戦をする上では大変に重要な情報となるであろう事は確かである、しかしここでタロウは一つ嘘を吐いている、タロウは実際には自分の行った事のある地であれば自由に飛んでいけるのであるが、それを公言していないのだ、この場合要塞やその辺境の街と限定せずに、帝国の首都や魔王の国は勿論、彼が訪問した地すべてに瞬時に赴く事ができるのである、あまりにも便利過ぎる事と利用価値が高すぎる為に隠している事の一つであった、それでも、冒険者時代にはユーリと共に転送陣を開発しており、それは王国としても秘中の秘として有効活用されている、その例を出さなくてもやはり移動手段の簡略はそれだけで何をするにしても便利なのであった、
「服装と、髭かな?」
タロウはニヤリと悪そうな笑みを浮かべる、
「・・・髭?」
「うん、向こうは成人男性は髭を生やすのが礼儀・・・というよりもそれが成人男性の証なんだよ、髭の無い男は奴隷か男娼かガキ扱いだな」
「なんと・・・」
学園長が驚いて口を開く、リンドとアフラも意外そうな顔であった、
「それは、あれか、そういう文化か?それとも何か理由があるのか?」
目を爛々と輝かせてタロウを見つめる学園長である、
「あー、どうでしょう、そういう文化?が正しいのかな?と思います、明確な理由までは・・・」
タロウは若干驚いて答える、それほどに学園長の勢いは凄まじい、
「そうか、あのな、都市国家に赴いた際にも耳にしたのだ、内海を挟んだ南側の国ではな、髭もそうだが髪を切らない部族もいるらしい、さらに、女性達は常にフードで頭部を隠すと聞く、なんでも日差しが強過ぎる為だと聞いた、それこそ文化よな、その地で生きる為にそうせざるを得なかったのだろう、実に興味深い、うん、いや、そうか、その帝国でもそうなのだな、これは面白い」
一人上機嫌で饒舌となる、そして、
「殿下、ここは何卒私めも同行させて頂く事は出来ないでしょうか、一目、一目でよいから帝国のその生活を拝見したく思うのです」
学園長は今度はクロノスに直談判である、クロノスは恐らく予想していたのであろう、まったくと溜息を吐き、
「そうだな、実は陛下からもな、学園長にも声を掛けてみろと言われていた、あれの知見は有用だろうとの事でな」
「なんと、身に余る光栄であります殿下、ありがとうございます、これほどの栄誉がありましょうか」
年甲斐も無く喜ぶ学園長に大人達は苦笑いを浮かべ、ミナとレインはポカンとしている、
「そうしますと、まずは、髭ですな、他にはあるか、タロウ殿」
再び爛々と輝く瞳がタロウに向かう、
「・・・あっ、はい、服装はこちらで準備します、昨日まで私が来ていた服装ですね」
「そうか、あの珍妙な服だな、楽しみだ」
「他には・・・言葉はどうする?確か例の報告書は翻訳中と陛下がおっしゃっていたはず、向こうの言葉を使える者がいるのか?」
タロウはそういえばとクロノスを伺う、
「あぁ、それはほれ王都にいる都市国家の商人を呼び寄せたらしい、あいつらは内海周辺の言葉は使えるからな」
「そういう事か・・・となると、案内や通訳は俺だけの方が良さそうだな、その商人とやらを巻き込むのは・・・難しかろう・・・」
「そうなるな」
「うん、では、それはそれで・・・他には・・・」
とタロウは視線を反らして顎先を指先でかく、
「うん、長期滞在とはならんだろうから、見た目だけ何とかすれば何とかなるだろう、1日でいいんだろ?」
とクロノスに視線を向けた、
「それでよい、状況把握が先決だ、その後はまた考えよう・・・そうなると髭を伸ばさねばならんか、少し先になるかな?」
クロノスは頬と顎先を撫でつつ考える、今朝剃ったばかりであるが、若干のザラツキをその手に感じた、
「無精髭で十分さ、遠方から来た商人とでも言えば市井の者は怪しまないし、要塞でもそれで通せるだろう」
「商人に偽装するなら別に髭まではいらんのじゃないか?」
「商人だからだよ、他国の商人ならその国の風習に合わせるのが当然というものだろ」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ」
「仕方ない、じゃ、それで対応しよう、こっちの都合で悪いが四日後の28日に頼む、明後日に改めて打合せを持ちたいと思うがどうだ?」
「早すぎないか?」
「仕方なかろう、あれから王城は殺気立ってるし、軍団の連中も鼻息が荒くてな、正直困っているんだよ、メインデルトが実際に目にすれば、少しは落ち着くさ、それにあれの視点もまた貴重だと思うしな・・・いや、余計に猛り立つか・・・ま、何とかするか・・・」
「なるほど・・・了解した、では、明後日までに下準備はしておく、視察場所は要塞と端の町だな?」
「おう、それで頼む」
クロノスは一旦リンドへ目配せし、リンドは小さく頷く、
「じゃ、また来るよ」
クロノスはサッと腰を上げ、リンドとアフラも席を立つ、
「ありゃ、早いな」
「まぁな、誰かさんのお陰で忙しいんだよ、今日は戻って書類仕事だ、まったく・・・アフラ、陛下への報告とメインデルトに髭の件を伝えてくれ、ここでの話をそのまま話して良い、学園長からの件も同様に、ルーツは今日来ると言っていたよな」
クロノスはアフラに指示しリンドに確認すると、
「あっ、明日のあれは予定通りだ、ルーツも呼ぶからよろしくな」
振り返ってタロウに告げるとさっさと階段へ向かった、リンドとアフラも軽く会釈をしてその後に続く、
「それ俺のせいじゃねーだろうが・・・」
タロウが不愉快そうにその背を睨んだ、そこへ、
「ありゃお帰り?」
ユーリが階段から下りて来た、
「おう、こっちは終わった」
「そっ、まったく、忙しいったらないわ」
「まったくだ」
一人と三人は適当な会話を交わしてすれ違うと、
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父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
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