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本編
61話 計略と唄う妖鳥 その11
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夕食後、三階では研究所の四人が若干広くなった作業場で、壺を元にした光柱の灯りの下、水飴をグネグネと捏ねまわしている、
「・・・これ、何が面白いの?」
ユーリが素朴な疑問を口にする、しかし、その手は止まっていない、
「面白いかどうかよりも、美味しくなるんです」
カトカが真面目に答える、
「それは聞いた」
「なら、捏ねましょう」
「だけどさ・・・不毛じゃない?」
「それを言っては駄目です」
「だって、どうなのよ、錬金術師様としてはさ、捏ねまわした所で、変化があると思う?」
「・・・検証中です、今まさに・・・」
「あっそ・・・」
「でも楽しいですよ」
ゾーイはどうやらお気に入りらしい、ネチネチグニュグニュと串の先を蠢かせニヤついている、
「そうですね、私も好きです、なんか・・・」
サビナも同意のようである、
「なんか?」
「・・・集中できます、疲れた頭には良い刺激かも・・・」
「刺激・・・ねー」
「それ逆に駄目じゃないですか?」
「そう?」
「だって、疲れてるんであれば休む方が良くないですか?刺激があっては休まりませんよ」
「そうかもだけど・・・」
「考えなくていいから休まるんじゃないですか?」
「そういう事ですか・・・」
「確かに、考えなくていいのは良いかもね」
「所長までなんです?」
「いや、今日はねー、色々あったのよー」
「・・・そうですね・・・」
「ねー」
「何ですか三人揃って・・・」
サビナがやっと顔を上げた、御前会議はユーリのみが頭を悩ませている問題であったが、荒野での出来事にはゾーイとカトカも巻き込まれている、サビナは美容服飾研究会の為に学園に居た為、難を逃れたのであった、
「まっ、それを打合せしたいと思ったんだけどねー」
ユーリはブーブー言いつつも捏ねる作業に集中している、やがて、タロウがニヤニヤとムカつく顔で説明した通りに、水飴はより白濁し、粘度も増している様子であった、
「こんなもん?」
「もうちょっとじゃないですか?」
「タロウさんは捏ねれば捏ねる程美味しくなるって笑ってましたよ」
「ほんとかしら?」
「それも検証します?」
「味に関してはどうやって検証するのよ」
「味見でいいじゃないですか」
「酷く主観的な評価よね」
「それは仕方無いですよ」
「カトカ様のお言葉とは思えないわー」
「錬金と料理を一緒にしないで下さい」
「なによ、昨日ははしゃいでたじゃない」
「あれはあれです、だって、小麦とカブですよ、甘くなるなんて思いもしませんよ」
「それは同意する」
「でしょー」
「ですよね・・・これを煮詰めれば黒糖とかになるんでしょうか?」
「あれはだって、甜菜が元でしょ、あれは煮出して固めてるだけじゃなかった?」
「そうですね、こっちは少なくともあれよりは手間がかかっていますし、より技術的に高いですよ」
「いや、そうじゃなくて、あんな感じに粉っぽく出来るのかなって?あの白砂糖みたいに」
「あれはあれで別らしいわよ?」
「そうなんですか?」
「黒糖から作るって聞いたわよ、めんどくさいことこの上ないからやらないらしいわよ、あれが言うほどめんどくさいって事は本当にめんどくさいんじゃない?」
「へーへー、それも興味深いですよね」
「まったくだわ」
ブツブツと呟くような会話が続くがその手は止まらない、それなりにこの単純作業を楽しんでいるようには見える、そこへ、
「来たわよ・・・って、何やってるのよ、アンタら」
ソフィアがヒョイと顔を出し、タロウも顔を覗かせる、
「なにって・・・」
「検証です」
「はい、実に興味深い・・・」
「頭を休めてます」
四者四様の応えであった、
「まったく、で、さっきの話しの続きよね」
とソフィアはズカズカと四人に近寄り、適当に席を引いて腰掛ける、
「なんの話しだ?」
ソフィアに引っ張ってこられたタロウがめんどくさそうにソフィアに倣って腰を下ろした、
「なんのもかんのも無いわよ、荒野のあれの件」
ユーリはジロリとタロウを睨む、
「ありゃ、もうどうするか決まったのか?」
「うんにゃ、ソフィアと話した後でね、学園に行って学園長と事務長と対応協議って感じでね」
とユーリはもういいやと水飴を口に突っ込み、
「ん、ホントだ・・・甘さが良い感じ・・・」
思わず感想を口にする、
「で、どうなったのよ」
ソフィアが目を眇め、他の三人もそろそろかなと舐めてみたり光柱の光に透かしてみたりと真面目な打合せの雰囲気では無い、
「うん、学園長がね、陛下からある程度調査しておくようにって言われたらしくて、で、タロウさんのやった事?あれが誰にでも出来るかの確認と、巨石そのものの調査を頼まれたのよ」
「ありゃ・・・大事だな・・・」
タロウは他人事のように呟く、
「そうなのよ、で、どうなの?確かあんた、やり過ぎたみたいな事言ってなかった?」
「まぁな、加減が分からなくてな、でも・・・そうだな・・・俺が見るにカトカさんでもサビナさんでも出来るんじゃないか?」
タロウが首を傾げつつ答えると、カトカとサビナはエッと顔を上げる、
「そんなもん?」
「うん、ただ、練習は必要だと思うぞ、巨石の中心部に魔法石が埋まっているだろ、そこまで魔力を通すのが必要で、届いてしまえば、わりとゆるい?・・・ゆるいって表現も変だが、魔力そのものは少なくていいと思う」
「そっか・・・届かせるのが難しいのか・・・」
「そういう事、それも慣れというか練習が必要だと思う、魔力をこう・・・針か糸のように使える人がいればだな、どうだ?」
「・・・どうでしょう?」
「難しそうですね」
カトカとサビナが顔を見合わせる、二人は魔法に関しては学園でも優秀な部類であったが、得意としている訳ではない、
「なら、ゾーイさんかな?ゾーイさんなら簡単じゃないの?」
タロウはゾーイの実力はその魔力量によって察していた、リンドやアフラには及ばないが、魔法を好き放題使える程度に不自由しないであろうと推測している、
「簡単とは思えませんが・・・その、魔力を伸ばす・・・という事はやったことがない・・・ですね」
ゾーイも考えながら答える、ゾーイが知る限り魔法を使う際には魔力を手または手の上、杖の先といった極身近に集中させ、そこで発動させるものであって、その魔力そのものを遠くに伸ばすという概念には馴染みがない、実践に於いては魔法は発動してしまえばその術者の意思に関わらず効果を維持し続ける性質があり、その傍らで光り輝く光柱のように、どれだけ離れようが術者との繋がりは切れるものであった、故に魔法を学ぶ者はわざわざ遠くへ魔法として発動していない魔力を飛ばすことも伸ばすことも試した事も無ければ訓練をした事も無く、その必要も皆無であったのだ、
「そっか、でもまぁ、やれば出来るよ、うん」
タロウは何とも気楽に答える、
「適当ねぇ・・・まぁ、実際にやったあんたがそう言うならそうなんだろうけどさ」
ユーリは呆れ顔となり、ソフィアもまったくとタロウを睨む、
「だから、まぁ、訓練しだいだろ、魔力はそれほど必要としないしな、印象としては・・・岩の中心にある魔法石を魔力で掴んで方向性を逆にしてやるって感じかな?お前さんやソフィアなら余裕だろ?」
「そうだけど・・・一々私らが出張るのは違うし、あくまで将来的な対応も踏まえてよ、だって、金だの銀だのが大量に埋まってるのよ、掘らない手は無いってなるでしょ」
「そりゃそうだ」
タロウもこれには納得せざるを得ない、
「そうなると・・・現場でやってみるしかないわよね、どうだろう土属性との相性とかありそう?」
「それは関係無いな、魔力を伸ばす点に関しては言い切っていいと思う、ただ、その後?鉱石の類を今日のように掘り出すには土系統が得意なやつのほうが楽だろうな」
「・・・それもあったわね・・・」
「うん、だから、少し考えたんだが、あれを掘り出して平らな地面で砕くのがいいんじゃないかな・・・いや、危ないか・・・ほら、大きな鉱石はあぁやって掘り出せるんだが、細かいのも残っているだろうし、今日のやり方を踏襲するとなると無駄が多いと思うぞ、それと表面は砂になってたけど、あれだって資源としてみれば混じり気の無い砂だろ、コンクリだのガラスだのと使い道は多いぞ、ついでに言えばあれが層になっている感じで別の砂?変な言い方だな、他の鉱物がこう、層になっているみたいでな、ものによっては他の使い方もあるだろうな」
「えっと、それは鉱物が砂状になっているって解釈で良いのですか?」
カトカが目を光らせた、
「それでいいと思う、だから、今日は塊になっているのを取り出しただけでね、ちゃんとあの巨石を分析すれば砂鉄とか?石灰とか、それもかなり純粋な形で採れると思うよ、ただ、問題はあれだな、あんな感じにしちゃうと結局全部グチャグチャになるな・・・それが問題と言えば問題かな・・・だから・・・どうだろう、土系統が得意な奴にあの岩ごと掘り出してもらって、そのうえで作業?・・・魔法を使える前提で考えればそうなるし、そうでないとすればやっぱり人手を使って掘り出すか、あれの周りに穴を掘る?・・・何気に手間だな・・・」
「なるほど、確かにそうですね」
カトカは実際の爆発そのものには居合わせなかったがその跡は確認している、さらにその後の顛末も三階から除き見ていた、タロウがポイポイとクロノスに鉱石を投げているのも見ており、何をやっているんだと駆け下りそうになった程である、
「じゃ、やっぱり掘り出すのがいいのかしら・・・」
ユーリがうーんと首を捻る、口に突っ込んだ二本の串をピッピッと上下に動かし戯れる、
「調査となるとそれがいいだろうな、クロノスも出来なくはないって感じだったし、軍の工兵を引っ張ってくれば何とかなるだろ」
「かもね・・・」
とユーリは瞑目して右に左に首を捻った、こうなると領主との問題も絡んでくる、クロノスに言えば工兵を派遣して貰うのは難しくないであろうが、領主に対しては何らかの報告が必要になるであろう、あの地は名目上借りている場所である、自由に使って良いとは言われているが自由にし過ぎては領主の面子を潰すことになりかねない、ましてかの地がそこらの鉱山顔負けの資源を埋蔵しているとなれば、私欲の薄いクレオノート家と言えど目の色が変わる事は想像に難くない、それが当たり前で、そうならないとなれば為政者としてどうだろうかと疑わしいほどの聖人となる、
「明日、あらためてかな・・・うん、あんたからは他にある?」
ユーリが目を見開く、明日、陛下からの依頼の件も含め、学園長と事務長を交えて打合せの予定を組んでいる、そこでこの件も問題として取り上げられるのは目に見えていた、
「そうだな・・・」
うーんとタロウは腕を組み、
「まったく関係無いがいいか?」
「えっ・・・これ以上問題増やすの?」
ユーリは実に嫌そうな顔となる、
「いや、こっちは簡単、他の国でさ、良い家畜を見つけたもんで育てたいんだよ、で、学園でそういうのって対応できるか?」
あまりにも関係無さすぎる話題にユーリは眉根の皺を深くし、
「事の重大性をなんだと思っているの!!」
と思わず大声を上げてテーブルをドンと叩きつけた、カトカ達はビクリと肩を揺らし、ソフィアもそりゃ怒るわとタロウを冷ややかに見つめる、
「なんだよ、それはそれ、これはこれだ、分かってるよ」
「分かってないでしょ、まったく、こっちは朝から振り回されて、大変な状況なのよ、理解してるの」
「してるさ、だって、お前、それは全部俺が言い出したことだぞ」
「だったら、もう少し真剣になりなさい」
「なってもいいけど、そしたら全部俺がやる事になるぞ、それはお前らとしても駄目だろう、第一、昔お前らが止めろって言うから、こうやってめんどくさいと思いつつも抑え気味にやってるんだぞ」
「どこが抑え気味よ、あんたが絡むと一々一々大袈裟でめんどくさくなるのよ、緊張感というものを持ちなさいよ」
「持ってるけど、もう上の話しになっただろうが、俺が口出しするべきじゃないだろ、その為の根回しだろうが、これ以上やりようがあるものかよ」
ギャーギャーと怒鳴り合う二人である、ソフィアは特に止める事も無く他人事のように眺めており、カトカ達は水飴を口に咥えてどうしたものかと泣きそうな顔になるのであった。
「・・・これ、何が面白いの?」
ユーリが素朴な疑問を口にする、しかし、その手は止まっていない、
「面白いかどうかよりも、美味しくなるんです」
カトカが真面目に答える、
「それは聞いた」
「なら、捏ねましょう」
「だけどさ・・・不毛じゃない?」
「それを言っては駄目です」
「だって、どうなのよ、錬金術師様としてはさ、捏ねまわした所で、変化があると思う?」
「・・・検証中です、今まさに・・・」
「あっそ・・・」
「でも楽しいですよ」
ゾーイはどうやらお気に入りらしい、ネチネチグニュグニュと串の先を蠢かせニヤついている、
「そうですね、私も好きです、なんか・・・」
サビナも同意のようである、
「なんか?」
「・・・集中できます、疲れた頭には良い刺激かも・・・」
「刺激・・・ねー」
「それ逆に駄目じゃないですか?」
「そう?」
「だって、疲れてるんであれば休む方が良くないですか?刺激があっては休まりませんよ」
「そうかもだけど・・・」
「考えなくていいから休まるんじゃないですか?」
「そういう事ですか・・・」
「確かに、考えなくていいのは良いかもね」
「所長までなんです?」
「いや、今日はねー、色々あったのよー」
「・・・そうですね・・・」
「ねー」
「何ですか三人揃って・・・」
サビナがやっと顔を上げた、御前会議はユーリのみが頭を悩ませている問題であったが、荒野での出来事にはゾーイとカトカも巻き込まれている、サビナは美容服飾研究会の為に学園に居た為、難を逃れたのであった、
「まっ、それを打合せしたいと思ったんだけどねー」
ユーリはブーブー言いつつも捏ねる作業に集中している、やがて、タロウがニヤニヤとムカつく顔で説明した通りに、水飴はより白濁し、粘度も増している様子であった、
「こんなもん?」
「もうちょっとじゃないですか?」
「タロウさんは捏ねれば捏ねる程美味しくなるって笑ってましたよ」
「ほんとかしら?」
「それも検証します?」
「味に関してはどうやって検証するのよ」
「味見でいいじゃないですか」
「酷く主観的な評価よね」
「それは仕方無いですよ」
「カトカ様のお言葉とは思えないわー」
「錬金と料理を一緒にしないで下さい」
「なによ、昨日ははしゃいでたじゃない」
「あれはあれです、だって、小麦とカブですよ、甘くなるなんて思いもしませんよ」
「それは同意する」
「でしょー」
「ですよね・・・これを煮詰めれば黒糖とかになるんでしょうか?」
「あれはだって、甜菜が元でしょ、あれは煮出して固めてるだけじゃなかった?」
「そうですね、こっちは少なくともあれよりは手間がかかっていますし、より技術的に高いですよ」
「いや、そうじゃなくて、あんな感じに粉っぽく出来るのかなって?あの白砂糖みたいに」
「あれはあれで別らしいわよ?」
「そうなんですか?」
「黒糖から作るって聞いたわよ、めんどくさいことこの上ないからやらないらしいわよ、あれが言うほどめんどくさいって事は本当にめんどくさいんじゃない?」
「へーへー、それも興味深いですよね」
「まったくだわ」
ブツブツと呟くような会話が続くがその手は止まらない、それなりにこの単純作業を楽しんでいるようには見える、そこへ、
「来たわよ・・・って、何やってるのよ、アンタら」
ソフィアがヒョイと顔を出し、タロウも顔を覗かせる、
「なにって・・・」
「検証です」
「はい、実に興味深い・・・」
「頭を休めてます」
四者四様の応えであった、
「まったく、で、さっきの話しの続きよね」
とソフィアはズカズカと四人に近寄り、適当に席を引いて腰掛ける、
「なんの話しだ?」
ソフィアに引っ張ってこられたタロウがめんどくさそうにソフィアに倣って腰を下ろした、
「なんのもかんのも無いわよ、荒野のあれの件」
ユーリはジロリとタロウを睨む、
「ありゃ、もうどうするか決まったのか?」
「うんにゃ、ソフィアと話した後でね、学園に行って学園長と事務長と対応協議って感じでね」
とユーリはもういいやと水飴を口に突っ込み、
「ん、ホントだ・・・甘さが良い感じ・・・」
思わず感想を口にする、
「で、どうなったのよ」
ソフィアが目を眇め、他の三人もそろそろかなと舐めてみたり光柱の光に透かしてみたりと真面目な打合せの雰囲気では無い、
「うん、学園長がね、陛下からある程度調査しておくようにって言われたらしくて、で、タロウさんのやった事?あれが誰にでも出来るかの確認と、巨石そのものの調査を頼まれたのよ」
「ありゃ・・・大事だな・・・」
タロウは他人事のように呟く、
「そうなのよ、で、どうなの?確かあんた、やり過ぎたみたいな事言ってなかった?」
「まぁな、加減が分からなくてな、でも・・・そうだな・・・俺が見るにカトカさんでもサビナさんでも出来るんじゃないか?」
タロウが首を傾げつつ答えると、カトカとサビナはエッと顔を上げる、
「そんなもん?」
「うん、ただ、練習は必要だと思うぞ、巨石の中心部に魔法石が埋まっているだろ、そこまで魔力を通すのが必要で、届いてしまえば、わりとゆるい?・・・ゆるいって表現も変だが、魔力そのものは少なくていいと思う」
「そっか・・・届かせるのが難しいのか・・・」
「そういう事、それも慣れというか練習が必要だと思う、魔力をこう・・・針か糸のように使える人がいればだな、どうだ?」
「・・・どうでしょう?」
「難しそうですね」
カトカとサビナが顔を見合わせる、二人は魔法に関しては学園でも優秀な部類であったが、得意としている訳ではない、
「なら、ゾーイさんかな?ゾーイさんなら簡単じゃないの?」
タロウはゾーイの実力はその魔力量によって察していた、リンドやアフラには及ばないが、魔法を好き放題使える程度に不自由しないであろうと推測している、
「簡単とは思えませんが・・・その、魔力を伸ばす・・・という事はやったことがない・・・ですね」
ゾーイも考えながら答える、ゾーイが知る限り魔法を使う際には魔力を手または手の上、杖の先といった極身近に集中させ、そこで発動させるものであって、その魔力そのものを遠くに伸ばすという概念には馴染みがない、実践に於いては魔法は発動してしまえばその術者の意思に関わらず効果を維持し続ける性質があり、その傍らで光り輝く光柱のように、どれだけ離れようが術者との繋がりは切れるものであった、故に魔法を学ぶ者はわざわざ遠くへ魔法として発動していない魔力を飛ばすことも伸ばすことも試した事も無ければ訓練をした事も無く、その必要も皆無であったのだ、
「そっか、でもまぁ、やれば出来るよ、うん」
タロウは何とも気楽に答える、
「適当ねぇ・・・まぁ、実際にやったあんたがそう言うならそうなんだろうけどさ」
ユーリは呆れ顔となり、ソフィアもまったくとタロウを睨む、
「だから、まぁ、訓練しだいだろ、魔力はそれほど必要としないしな、印象としては・・・岩の中心にある魔法石を魔力で掴んで方向性を逆にしてやるって感じかな?お前さんやソフィアなら余裕だろ?」
「そうだけど・・・一々私らが出張るのは違うし、あくまで将来的な対応も踏まえてよ、だって、金だの銀だのが大量に埋まってるのよ、掘らない手は無いってなるでしょ」
「そりゃそうだ」
タロウもこれには納得せざるを得ない、
「そうなると・・・現場でやってみるしかないわよね、どうだろう土属性との相性とかありそう?」
「それは関係無いな、魔力を伸ばす点に関しては言い切っていいと思う、ただ、その後?鉱石の類を今日のように掘り出すには土系統が得意なやつのほうが楽だろうな」
「・・・それもあったわね・・・」
「うん、だから、少し考えたんだが、あれを掘り出して平らな地面で砕くのがいいんじゃないかな・・・いや、危ないか・・・ほら、大きな鉱石はあぁやって掘り出せるんだが、細かいのも残っているだろうし、今日のやり方を踏襲するとなると無駄が多いと思うぞ、それと表面は砂になってたけど、あれだって資源としてみれば混じり気の無い砂だろ、コンクリだのガラスだのと使い道は多いぞ、ついでに言えばあれが層になっている感じで別の砂?変な言い方だな、他の鉱物がこう、層になっているみたいでな、ものによっては他の使い方もあるだろうな」
「えっと、それは鉱物が砂状になっているって解釈で良いのですか?」
カトカが目を光らせた、
「それでいいと思う、だから、今日は塊になっているのを取り出しただけでね、ちゃんとあの巨石を分析すれば砂鉄とか?石灰とか、それもかなり純粋な形で採れると思うよ、ただ、問題はあれだな、あんな感じにしちゃうと結局全部グチャグチャになるな・・・それが問題と言えば問題かな・・・だから・・・どうだろう、土系統が得意な奴にあの岩ごと掘り出してもらって、そのうえで作業?・・・魔法を使える前提で考えればそうなるし、そうでないとすればやっぱり人手を使って掘り出すか、あれの周りに穴を掘る?・・・何気に手間だな・・・」
「なるほど、確かにそうですね」
カトカは実際の爆発そのものには居合わせなかったがその跡は確認している、さらにその後の顛末も三階から除き見ていた、タロウがポイポイとクロノスに鉱石を投げているのも見ており、何をやっているんだと駆け下りそうになった程である、
「じゃ、やっぱり掘り出すのがいいのかしら・・・」
ユーリがうーんと首を捻る、口に突っ込んだ二本の串をピッピッと上下に動かし戯れる、
「調査となるとそれがいいだろうな、クロノスも出来なくはないって感じだったし、軍の工兵を引っ張ってくれば何とかなるだろ」
「かもね・・・」
とユーリは瞑目して右に左に首を捻った、こうなると領主との問題も絡んでくる、クロノスに言えば工兵を派遣して貰うのは難しくないであろうが、領主に対しては何らかの報告が必要になるであろう、あの地は名目上借りている場所である、自由に使って良いとは言われているが自由にし過ぎては領主の面子を潰すことになりかねない、ましてかの地がそこらの鉱山顔負けの資源を埋蔵しているとなれば、私欲の薄いクレオノート家と言えど目の色が変わる事は想像に難くない、それが当たり前で、そうならないとなれば為政者としてどうだろうかと疑わしいほどの聖人となる、
「明日、あらためてかな・・・うん、あんたからは他にある?」
ユーリが目を見開く、明日、陛下からの依頼の件も含め、学園長と事務長を交えて打合せの予定を組んでいる、そこでこの件も問題として取り上げられるのは目に見えていた、
「そうだな・・・」
うーんとタロウは腕を組み、
「まったく関係無いがいいか?」
「えっ・・・これ以上問題増やすの?」
ユーリは実に嫌そうな顔となる、
「いや、こっちは簡単、他の国でさ、良い家畜を見つけたもんで育てたいんだよ、で、学園でそういうのって対応できるか?」
あまりにも関係無さすぎる話題にユーリは眉根の皺を深くし、
「事の重大性をなんだと思っているの!!」
と思わず大声を上げてテーブルをドンと叩きつけた、カトカ達はビクリと肩を揺らし、ソフィアもそりゃ怒るわとタロウを冷ややかに見つめる、
「なんだよ、それはそれ、これはこれだ、分かってるよ」
「分かってないでしょ、まったく、こっちは朝から振り回されて、大変な状況なのよ、理解してるの」
「してるさ、だって、お前、それは全部俺が言い出したことだぞ」
「だったら、もう少し真剣になりなさい」
「なってもいいけど、そしたら全部俺がやる事になるぞ、それはお前らとしても駄目だろう、第一、昔お前らが止めろって言うから、こうやってめんどくさいと思いつつも抑え気味にやってるんだぞ」
「どこが抑え気味よ、あんたが絡むと一々一々大袈裟でめんどくさくなるのよ、緊張感というものを持ちなさいよ」
「持ってるけど、もう上の話しになっただろうが、俺が口出しするべきじゃないだろ、その為の根回しだろうが、これ以上やりようがあるものかよ」
ギャーギャーと怒鳴り合う二人である、ソフィアは特に止める事も無く他人事のように眺めており、カトカ達は水飴を口に咥えてどうしたものかと泣きそうな顔になるのであった。
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