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61話 計略と唄う妖鳥 その8

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「まったく、何をやってるの!!」

井戸の傍らで四人の男は服を脱いで土埃を落とし、流石に何かあったと降りて来たカトカが寮から持って来た手拭いでその顔や腕を拭い清める、

「そうは言ってもさ・・・ほら・・・」

ユーリの怒鳴り声にタロウは何とも小さくなるしかない、

「ほらって何よ、あんたねー、私やクロノスならいざ知らず、殿下や陛下に何かあったらどうするつもりだったのよ」

さらに激高するユーリである、クロノスは俺はいいのかよと苦笑いを浮かべ、イフナースもその剣幕に苦笑いを浮かべるしかない、そして最も大事なボニファースであるが、取り巻きと共に先程の爆発跡を見分している、傍から見れば楽しそうなほどであった、

「いや・・・俺もだって・・・こうなるとは思わなくてさ・・・」

「だからってやれば良いってもんじゃないでしょ、状況を考えなさい状況をー」

「だってさ・・・」

「だってもくそも無いわよ、反省しなさい、バカタレが」

言いたい放題のユーリにタロウは一応反省はしているし、何よりも一番死にかけたのは俺なのだがと、内心で思いつつも口にする事は無かった、

「まぁまぁ、誰も怪我は無かったようですし、取り合えずは・・・」

事務長がやんわりとユーリを宥める、

「そうですが、まかり間違ったらどうなっていたか、まったく」

プリプリと怒りの収まらないユーリである、ユーリとしては先程の会議の鬱憤もある、あれほどの大事を自分やソフィアには隠していたのだ、それはユーリ自身も意識してはいなかったが静かな怒りとなって澱んでいたのであろう、

「しかし、あれはどういう事だったのだ?」

クロノスがこんなもんかと埃を払った服に袖を通す、

「あぁ、えっとな・・・うん、見せるのが早いと思う」

「見せる?」

「うん、取り合えず、ちょっと待ってくれ」

タロウがバリバリと髪をかきむしると土埃が舞った、これには他の三人も身を反らし、ユーリは露骨に二三歩後退る、そして、何とかクロノスらは埃を落とし、タロウも取り合えず見られる恰好にはなった、そこへ、

「どういう事なのかな?」

ロキュスと学園長が楽しそうに近寄ってくる、

「はい、あー、じゃ、向こうで説明しますね、ただ・・・」

「ただ?」

「少し考えたのですが、もしかしたら・・・はい、この荒野の成り立ちが分かるかもしれません」

「なに?」

視線が一気にタロウに集まる、

「なので・・・そっか、別にあれですか、機密を知られてはまずい人物はここにはいないですよね・・・たぶん」

「まぁ・・・」

「そうだな・・・」

とロキュスと学園長は振り返った、この場にいるのはこの国の重鎮ばかりである、機密にもよると思うが、黙するように言えば悪戯に喧伝する者はいないであろう、

「そこそこ・・・そうですね、かなりの大事ですので」

とタロウは頭をかいた、髪の中にまで入った砂はそうそう取れるものではない、皮膚に食い込む砂の感触を感じ不快そうに口元を歪める、

「それは大丈夫だろ、しかし、そんなにか?」

クロノスが目を細めた、

「まぁな、じゃ、向こうで」

とタロウは現場に向かう、砂の小山の周りではボニファースやアンドリースが適当に談笑していた、どうやら一番腰を抜かしたのがメインデルトであるらしい、二人は遠慮なくメインデルトをからかっており、メインデルトは実に不満そうにしている、

「すいません、お待たせしました、というか、すいません、お騒がせしまして」

タロウは改めて一同に深々と頭を下げる、

「いや、良い、よい刺激になった、少々効き過ぎた者もおったようだがな」

アッハッハとボニファースは笑い、メインデルトがまったくと毒づく、しかし、

「で、どういう事なのだ?説明は可能なのか?」

ボニファースは一転静かにタロウを睨んだ、

「はい、まずは・・・うん、あー・・・ありますねー」

タロウは左目を閉じて砂の小山を見下ろし、

「すいません、もう少し気になることがありまして、調査を続けさせて下さい」

タロウの嘆願にボニファースは頷かざるを得ない、

「ありがとうございます、では、すいません、爆発する事はないと思いますが、少々離れていただければと思います、砂が舞うかもしれません」

と一同に距離をとるようにとお願いする、

「一人でいいのか?」

「あー・・・手伝って貰えると嬉しい」

分かったとクロノスが残り、他の面々は施設の傍まで遠ざかる、先程の爆発もある為、かなり警戒しての事であった、

「では、お前さんはそこにいてくれ」

タロウはクロノスを小山の傍らに止め置き、自分は砂山に足を踏み入れる、砂は柔らかくタロウの足はくるぶし程度まで埋まっている様子で歩き難そうであった、

「大丈夫か?」

「おう、この程度なら平気だ・・・で、たぶんこの辺かな?」

タロウは周囲を見渡して小山の中心辺りまで歩を進めると両膝と右手を着く、

「おい、大丈夫だろうな」

クロノスは大きく叫び、避難した面々も訝しそうにタロウを眺める、

「大丈夫だ、うん、もう少し」

どうやらタロウは魔法を使っているらしい、それは外見的にはまるで変化の無いものであった、やがて、

「まずはこれだ」

左手で砂の中から何かを掴みあげると、

「クロノス、受け取れ、重いぞ」

とその塊を投げてよこした、クロノスは慌てて受け取る、

「なんだ・・・えっ・・・お前、これ?」

「うん、分かるか?」

「分らないわけがないだろう馬鹿にしてるのか?」

「そうか、他にも出てくるぞ」

「待て、ユーリ、籠か何かを頼む」

クロノスが慌てて大声を上げる、

「なんで?」

ユーリが大声で答えると、

「なんでもなにもない、これが見えるか、金塊だ」

クロノスが右手で掲げた塊は陽の光を受けてギラリと輝く、

「なっ・・・なに・・・」

一同の驚愕の声が荒野に響き渡った。



「つまり、どういう事だ?」

小山の傍らにはいくつもの籠が置かれ、その中には色とりどりの鉱物が収められている、最も目立つのはやはり金鉱石で、銀鉱石もある、さらに、鉄、銅、恐らく鉛、素人目には判別のつかない宝石の類もある、それらは大小様々な大きさであり、最も大きいのは無色の魔法石であった、

「えっとですね・・・これは仮説です、それでも宜しいですか?」

タロウは流石に疲れたのかその籠の傍らに腰を下ろし、一同は籠を囲んで鉱石を一つ一つ手に取って確認している、

「かまわん、話せ」

ボニファースもこの異常な状況に興奮しつつも疑わしい目をタロウに向けた、

「はい、えっとですね、まずはこの土地が生まれたであろう原因について、なんですが・・・」

タロウが悩みながら説明を始めたのは、先の会議でも報告にあった荒野の中心にあるという湖とかつてあった都市の事である、

「で、どのような魔法が使われたのか・・・ずっと、考えておりましてね」

とタロウは一度口を噤んだ、皆静かに耳を傾けており、一陣の風が砂埃をまとって一同の間を通り抜けていった、

「恐らくですが、鉱物資源を集める魔法・・・を使ったのではないかと、これを見て思いまして・・・どうでしょう、ロキュス参謀、そのような魔法はあり得るでしょうか?」

タロウに突然質問されロキュスはムゥと唸る他ない、しかし、ボニファースや他の面々の手前もある、

「すまんがそのような魔法は聞いたことがない、第一、魔法とは何らかの現象を魔力によって引き起こす事だ、その基本を守った場合、鉱物資源を集める・・・うん、いや、あり得るのか?わからん」

ロキュスは何とかその考えを正直に言葉にした、実に悔しそうに眉を顰める、

「そうですか・・・ユーリはどう思う?」

タロウは今度はユーリを見上げる、

「なによ、こっちに振るの?でも・・・もしかしたらこれが元なんじゃない?一番大きいし、魔法関連で何かを発現するとしたらこれよね」

ユーリは巨大な無色の魔法石を見下ろす、それは赤色の魔法石の原石と同じく無骨な塊であった、モニケンダムの地下で採取されたそれのように美しい結晶の形では無い、これはまた研究が捗るなとユーリは内心でニヤリと微笑む、

「そう思うか?・・・うん、恐らくそれが正解なんだろうな、その無色の魔法石が中心になってこの巨石が形成されているみたいでな、その周りに鉱物が集まっているんだよ」

「まて、もしかして、この荒野の巨石全てがか?」

「たぶん・・・だから、なんていうかあまりにもその規模が大きすぎる、街を破壊してその周辺を荒れ地に変える程の魔力・・・どうやればそんな事が出来るんだか・・・想像も難しい・・・」

「お前でもか・・・」

クロノスが何とも困った顔でタロウを見下ろした、

「まぁ、俺だって・・・なんでもかんでも出来る訳じゃないよ、しかし・・・」

とタロウはゆっくりと立ち上がると、荒野を見渡し、

「うん、全てが全てではないですが・・・ものによるのかな?・・・巨石の中でも特に巨大なものの中は鉱物資源が詰まってますね・・・小さいものでも魔法石は内在している様子です、小さいと言ってもでかいですけど・・・そちらにも・・・うん、感知は難しいですが鉱物は入っているでしょうね、微量でしょうけど・・・しかし、これはとんでもない資源ですよ」

「それは、本当か?」

ボニファースが悲鳴のような声を上げた、

「はい、確実にあります、そして、恐らくですがこれは金鉱山を掘るよりも楽かもしれません・・・他の鉱物も採れますし・・・どうします?」

タロウが振り返る、どうしますってと一同は困惑するしかない、あまりにも非現実的な事実を受け止める事が出来ず思考が追いつかない、なにせ先程までは学園長が得意げに耕作は難しく、精々家畜の放牧に使える程度の土地と説明するくらいに、この土地は荒野の名に恥じない扱いであったのだ、それが一時も経たずに大量の資源が埋もれただだっ広い鉱山と化したのである、

「まって、あんたこれによく気付いたわね、どうゆう事?」

「あぁ、微量な魔力が走ってたんだ、その魔法石を中心にしてな、見えなかったか?」

「見えるも何も・・・そっか、石に魔力が走ってるなんて・・・考えたことも無かったわね、見えるかしら?」

「どうだろう、お前さんなら見えると思うが・・・で、その魔力と反対の方向性をぶつけてみたんだよ、やや強すぎたみたいでさ、それで爆発してしまった、上手くやればあぁはならないだろうな」

「なるほど、それって集積の方向性?」

「恐らく、お前さんとソフィアがやってるのも大したもんだと思ったが、これはこれで凄いよな」

「こっちの方が遥かに凄いでしょ・・・しっかし、この魔法石ホントに万能ね、怖いくらいだわ」

「確かにな・・・扱いを間違えるとこうなるんだろうな・・・これはやり過ぎに見えるけど・・・」

タロウとユーリの会話を男達は静かに傾聴する、もうすっかりとわざわざここに来た理由を忘れていた、

「陛下、ここは一度持ち帰りましょう、この場で対応策を練る事は難しいと思います」

ヨリックがボニファースに進言する、これには他の面々も同意のようである、

「うむ、そうだな、タロウ、この鉱物は預かって良いか?」

「勿論です、お詫び・・・いや、すいません、おこがましいですね、ま、私の見解は以上です、何かありましたらお声がけ下さい」

タロウは砂まみれの頭をボリボリとかいた、当然砂がバラバラと落ちる、

「そうしよう、ロキュス、パウロ、一旦戻って落ち着こう、皆もここでの事は口外するな、絶対にだ」

ハッと了解の声が上がる、こうしてその日のあまりにも濃い半日が終わりを迎えたのであった。
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