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本編
60話 光と影の季節 その17
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「ちょっとだけー」
「ダメー、サレバはさっき食べたでしょー」
「えー、ミナちゃん、ケチー」
「ケチじゃない、これはミナのなのー」
「それは知ってるからお願いしてるんでしょー」
「みんなで食べたら無くなっちゃうでしょー」
「そりゃそうだ」
「でも、やめられないなー」
「ねー」
「ミナっちー、私ももうちょっと欲しいなー」
「ジャネットもダメー、食べすぎー」
「私まだ貰ってないです」
「ニコはいいよ、手出して」
「あっ、ニコリーネさんには優しいー」
「いいの、ニコはミナのシショーなのー」
「えー、ミナちゃんいけずー」
「いけずじゃないー」
すっかり機嫌を良くしたミナはまだ泣きはらした赤い目のままで、しかし満面の笑顔を浮かべ、砂糖の入った革袋を胸に抱き食堂の面々に自慢した、当然、皆なんだなんだと集まってくる、なにしろ先ほどまでワーワーギャーギャーと食堂にまで響くほどミナの泣き声はうるさかったのだ、それがタロウが戻ってあっという間にこれである、食堂の面々はまったくと呆れつつミナの得意そうな顔に小さく安堵した、
「お疲れ様ー」
そこへ、エレインとテラとオリビアが入ってくる、オリビアはいつも通りのすまし顔であるが、エレインとテラの顔には若干の疲労感があった、
「あっ、お疲れ様っす、どうでした?」
ジャネットが小指を舐めつつ振り返る、
「どうと言われてもあれだけど、取り合えず明日が本番ねー」
エレインはやれやれと腰を下ろし、テラも溜息を吐いて腰を下ろす、オリビアも一度厨房を伺ってから席に着いた、商会では公務時間終了の鐘の音が響くと同時にガラス鏡に関連した職人達が集まった、ブラスは寮での仕事を終えるとそのまま事務所に入り、ブノワトやコッキー、リノルトといった馴染みの顔とその親方達も顔を出す、テラも今日の午後と明日の午前中は予約を入れておらず、同席する事としていた、本来の予定としては明日のガラス鏡協会発足に向けての打合せであった、協会の運用方針は決定しているし、ギルドにも認められているが、改めて意識を共有する事を目的としており、またガラス鏡に触れたギルド関係者の反応等を聴衆する為でもある、エレインとしては協会の運営等初めての事である、その為ギルドの重鎮でもある親方達の意見を改めて伺いたいとも思っての事であった、しかし、今朝の騒ぎもあってまず初めにブラスから報告されたのがタロウの口にした問題点であった、親方としてその道の専門家であるエトやロブとディモはそういう事もあるであろうなとタロウの懸念に理解を示し、ブラスもまた木質に関しては厳選して使用しているが、タロウの言う湿気を自分の言葉で水気と言い換えてそういう事もあるであろうことを認めるに至る、こうなると、困ってしまうのはエレインであり商会であった、販売を始めた瞬間に発覚した瑕疵と表現して間違いない問題である、さらに納品した商品は数は少ないと言えど、その納品先が王族と領主なのである、少しばかり急ぎ過ぎたかと、エレインは酷く落ち込んでしまった、しかし、
「そうですね、そういう事もあると思います、ここは正直にお話しまして、あまりにも酷い品は交換する事にしましょう」
テラがあっさりと解決策を口にした、テラもまた朝からタロウの懸念を耳にしている、エレインと二人で取り合えずブラスに後事を託して仕事に就いたのである、タロウはその際に、
「なに、これからの商品だろ?至らない部分は幾らでもあるものさ、最初から完成された品などありえんだろう」
何ともノホホンと放った一言であった、テラは何を他人事のようにと大変に立腹したのであるが、冷静に考えればタロウの言葉は実に正しい、さらに、タロウが手にしている製品として完成された手鏡の素晴らしさを見れば、自分達のガラス鏡がまだ作り始めたばかりの発展途上にも至っていない品である事を思い知った、
「それでいいのかしら?・・・」
エレインが消沈して自信無さげに呟く、俯き顔色を無くしたエレインを見て、集まった面々はそこで初めてエレインがまだ年若い娘なのだと認識した、エレインは常に冷静で毅然としていた、貴族らしい振る舞いを彼らの前では崩す事は無かったのである、
「仕方あるまい・・・」
「うむ、テラさんの意見が正しいと思えるな・・・」
「話せば分かると思うけどな・・・駄目かな?」
重鎮達はテラの案に概ね賛成のようで、ブノワトもうーんと首を傾げながらパトリシアやユスティーナの顔を思い出す、少なくともエレインがちゃんと説明すれば笑って許してくれそうではあった、
「そうでしょうが・・・これ以上甘えるのは何とも・・・」
エレインはしかしどこか納得していない様子である、何気にエレインは完璧主義者であったりする、さらに王族にしろ領主にしろ様々な面で目を掛けて貰っているのだ、これ以上その好意を甘受する訳にもいかないだろうと、独立心溢れる矜持も鎌首をもたげている、しかし、
「いいえ、ここは甘えましょう」
と、テラは言い切った、さらにブラスがテーブルに置いた好きに使っていいとタロウから譲渡された手鏡に手を伸ばし、
「タロウさんもブラスさんも仰っていたように、このような素晴らしい製品が実際に存在するのです、私達がこれ以上のものを作れば良いのですよ・・・簡単な事です、さらに言えば実に純粋で単純です、しかし、とてつもなく難しくて長い道のりになると思います、ですが、会長・・・私達には超優秀な職人さん達がついております、出来ないわけがないです」
集まった職人達のその魂に訴えかける力強い言葉であった、これには親方達は照れくさそうに渋面を見せ、ブノワトとコッキーはテラさんはそういう風に見てくれていたんだとはにかんだ笑みを隠せない、
「・・・そうですね・・・そうです、より良い品を作りましょう・・・皆さん御助力をお願いできますでしょうか・・・」
エレインが顔を上げて一同を見渡す、ここで後ろ向きな事を言う者はここには居なかった、皆、それぞれに微苦笑しながらも任せろと力強い言葉をエレインへ贈る、こうして、タロウから伝えられた問題点は皆に共有され、ではどうすれば良いかと活発な議論が交わされた、さらに明日に控えた協会発足に向けての意見交換も行われ、より結束を強めることとなる、エレインは一仕事増えたとはいえ、これは自分がやらなければならない責任であると気合を入れ直し、テラもまた何事も順調に動いている時こそ注意するべきだと心持ちを新たにした、
「じゃ、大丈夫そうです?」
ジャネットはさらに曖昧な質問を重ねる、ジャネットとしては登園前のピリついた二人の様子を気にしており、タロウさんも悪い意味で言ったわけではないのだろうなと学園でも授業に身が入らなかったのだ、それはオリビアやケイスも同様であった、
「そうね、タロウさんにはお礼を言わないと・・・」
「はい、問題が発生してから頭を下げるよりも、先に頭を下げておいた方が騒動は小さくて済むものです、保証も併せて提案しますので納得頂けるかと・・・」
「・・・それもそうね」
「はい」
エレインとテラの疲れていても落ち着いた様子にジャネット達は取り合えず安堵する、今日は何とも騒がしい日であった、朝からエレインとテラは顔を青くし、学園から戻ったらミナが厨房で喚いている、それらの原因はタロウなのであるが、やはりソフィアの旦那ともなればその存在だけで一騒ぎ起こすのであろう、ジャネットとケイスはそれも致し方ないのであろうなと顔を見合わせた、そして、
「あっ、ミナっちー、エレインさんとテラさんとオリビアにも見せてあげてよー」
ジャネットがミナをけしかける、
「いいよー、エレイン様ー、これー、タロウのお土産なのー、アマーイのよー」
「甘い?」
ミナがサレバ達を置き去りにしてエレインの座るテーブルに革袋を乗せた、
「ちょっとだけだからねー」
ニマーと三人を見上げるミナである、
「ミナっち、ケチだー」
「うー、サレバはもう食べたでしょー」
「いいじゃん、いっぱいあるんだからー」
「ルルもダメー」
「えー、ちょっとだけー」
サレバやルルはもう砂糖に関しては対して興味を持っていない、それよりもミナをからかって遊ぶ方が楽しい様子であった、エレイン達は革袋を覗き込む、中身は白い粉であった、粉と言うよりも砂かしらと三人は首を傾げる、そして本能的な反応なのであろうかその白く輝く姿は何とも魅力的に輝いて見えた、
「ちょっと舐めてみて、甘いのよ、甘いだけなのー」
ミナの満面の笑みを向けられ三人はそういうならと手を伸ばし一つまみを口に運んだ、そして、その反応は他の面々と大差は無い、ミナもニマニマと嬉しそうに見上げ、エレインは、
「これは・・・これは、どこで手に入りますの?」
とすっかり商売人のそれである、黒糖と違い甘みのみが感じられる砂糖である、瞬時に頭をよぎったのは屋台の商品の品質向上であった、
「えへへー、タロウのお土産なのー、遠い所でしか作ってないんだってー」
「えっ・・・そんな・・・」
そこへ、
「お疲れー」
研究所組が下りて来た、さらに、
「はいはい、夕飯の準備が出来たぞー」
タロウが両手に皿を持って入ってくる、
「えっ、タロウさんが支度をしていたのですか?」
エレインは思わず叫んでしまった、
「ん、どうかしたか?」
何食わぬ顔で皿を置くタロウである、今日は揚げ物料理三部作の締めであるカツであった、
「どうしたって・・・あのタロウさんにそんな事させるわけには・・・」
「そんな事とは聞き捨てならんな、お嬢様、料理は大事だぞ、人は食う為に仕事するんだ、違うか?ん?・・・」
タロウはニヤリと微笑み、
「故に食事こそが人生において最も大切な日々の行事なんだ、決して妥協してはならん、うん、さらにな、旨い料理は心と身体の栄養源だ、しっかり食っていろいろ頑張れ、腹が減っては戦が出来ぬ、良い言葉だろ?ふふん、さ、今日はチキンカツだぞー、死ぬほど食えよー」
快活に笑うタロウである、
「チキンカツ?」
「ん?あぁ、あれだ、鳥肉のカツだ、トンカツソースが無いのが寂しいが、塩でも旨いぞ」
「トンカツソース?」
耳慣れない単語がポンポンとタロウの口から飛び出してくる、腹が減ってはなんとかと言うのも初耳であった、タロウの国の言葉なのであろうか、言い得て妙だとカトカは腰を下ろしながら感心してしまう、
「ん、そのうち作るか、旨いぞ、トンカツソース」
ニヤリと口元で笑って厨房へ戻るタロウであった、そしてミーンとティルが配膳を始め、生徒達も慌ててテーブルを片付ける、編み物道具を散らかしたままであったのだ、
「・・・そっか、ソフィアさんの料理ってタロウさんが教えたって言ってたよね・・・」
「トンカツソース気になりますわね」
「うん、これは・・・」
「新しい料理の予感・・・」
エレインとジャネットの怪しく光る瞳が交錯した。
「ダメー、サレバはさっき食べたでしょー」
「えー、ミナちゃん、ケチー」
「ケチじゃない、これはミナのなのー」
「それは知ってるからお願いしてるんでしょー」
「みんなで食べたら無くなっちゃうでしょー」
「そりゃそうだ」
「でも、やめられないなー」
「ねー」
「ミナっちー、私ももうちょっと欲しいなー」
「ジャネットもダメー、食べすぎー」
「私まだ貰ってないです」
「ニコはいいよ、手出して」
「あっ、ニコリーネさんには優しいー」
「いいの、ニコはミナのシショーなのー」
「えー、ミナちゃんいけずー」
「いけずじゃないー」
すっかり機嫌を良くしたミナはまだ泣きはらした赤い目のままで、しかし満面の笑顔を浮かべ、砂糖の入った革袋を胸に抱き食堂の面々に自慢した、当然、皆なんだなんだと集まってくる、なにしろ先ほどまでワーワーギャーギャーと食堂にまで響くほどミナの泣き声はうるさかったのだ、それがタロウが戻ってあっという間にこれである、食堂の面々はまったくと呆れつつミナの得意そうな顔に小さく安堵した、
「お疲れ様ー」
そこへ、エレインとテラとオリビアが入ってくる、オリビアはいつも通りのすまし顔であるが、エレインとテラの顔には若干の疲労感があった、
「あっ、お疲れ様っす、どうでした?」
ジャネットが小指を舐めつつ振り返る、
「どうと言われてもあれだけど、取り合えず明日が本番ねー」
エレインはやれやれと腰を下ろし、テラも溜息を吐いて腰を下ろす、オリビアも一度厨房を伺ってから席に着いた、商会では公務時間終了の鐘の音が響くと同時にガラス鏡に関連した職人達が集まった、ブラスは寮での仕事を終えるとそのまま事務所に入り、ブノワトやコッキー、リノルトといった馴染みの顔とその親方達も顔を出す、テラも今日の午後と明日の午前中は予約を入れておらず、同席する事としていた、本来の予定としては明日のガラス鏡協会発足に向けての打合せであった、協会の運用方針は決定しているし、ギルドにも認められているが、改めて意識を共有する事を目的としており、またガラス鏡に触れたギルド関係者の反応等を聴衆する為でもある、エレインとしては協会の運営等初めての事である、その為ギルドの重鎮でもある親方達の意見を改めて伺いたいとも思っての事であった、しかし、今朝の騒ぎもあってまず初めにブラスから報告されたのがタロウの口にした問題点であった、親方としてその道の専門家であるエトやロブとディモはそういう事もあるであろうなとタロウの懸念に理解を示し、ブラスもまた木質に関しては厳選して使用しているが、タロウの言う湿気を自分の言葉で水気と言い換えてそういう事もあるであろうことを認めるに至る、こうなると、困ってしまうのはエレインであり商会であった、販売を始めた瞬間に発覚した瑕疵と表現して間違いない問題である、さらに納品した商品は数は少ないと言えど、その納品先が王族と領主なのである、少しばかり急ぎ過ぎたかと、エレインは酷く落ち込んでしまった、しかし、
「そうですね、そういう事もあると思います、ここは正直にお話しまして、あまりにも酷い品は交換する事にしましょう」
テラがあっさりと解決策を口にした、テラもまた朝からタロウの懸念を耳にしている、エレインと二人で取り合えずブラスに後事を託して仕事に就いたのである、タロウはその際に、
「なに、これからの商品だろ?至らない部分は幾らでもあるものさ、最初から完成された品などありえんだろう」
何ともノホホンと放った一言であった、テラは何を他人事のようにと大変に立腹したのであるが、冷静に考えればタロウの言葉は実に正しい、さらに、タロウが手にしている製品として完成された手鏡の素晴らしさを見れば、自分達のガラス鏡がまだ作り始めたばかりの発展途上にも至っていない品である事を思い知った、
「それでいいのかしら?・・・」
エレインが消沈して自信無さげに呟く、俯き顔色を無くしたエレインを見て、集まった面々はそこで初めてエレインがまだ年若い娘なのだと認識した、エレインは常に冷静で毅然としていた、貴族らしい振る舞いを彼らの前では崩す事は無かったのである、
「仕方あるまい・・・」
「うむ、テラさんの意見が正しいと思えるな・・・」
「話せば分かると思うけどな・・・駄目かな?」
重鎮達はテラの案に概ね賛成のようで、ブノワトもうーんと首を傾げながらパトリシアやユスティーナの顔を思い出す、少なくともエレインがちゃんと説明すれば笑って許してくれそうではあった、
「そうでしょうが・・・これ以上甘えるのは何とも・・・」
エレインはしかしどこか納得していない様子である、何気にエレインは完璧主義者であったりする、さらに王族にしろ領主にしろ様々な面で目を掛けて貰っているのだ、これ以上その好意を甘受する訳にもいかないだろうと、独立心溢れる矜持も鎌首をもたげている、しかし、
「いいえ、ここは甘えましょう」
と、テラは言い切った、さらにブラスがテーブルに置いた好きに使っていいとタロウから譲渡された手鏡に手を伸ばし、
「タロウさんもブラスさんも仰っていたように、このような素晴らしい製品が実際に存在するのです、私達がこれ以上のものを作れば良いのですよ・・・簡単な事です、さらに言えば実に純粋で単純です、しかし、とてつもなく難しくて長い道のりになると思います、ですが、会長・・・私達には超優秀な職人さん達がついております、出来ないわけがないです」
集まった職人達のその魂に訴えかける力強い言葉であった、これには親方達は照れくさそうに渋面を見せ、ブノワトとコッキーはテラさんはそういう風に見てくれていたんだとはにかんだ笑みを隠せない、
「・・・そうですね・・・そうです、より良い品を作りましょう・・・皆さん御助力をお願いできますでしょうか・・・」
エレインが顔を上げて一同を見渡す、ここで後ろ向きな事を言う者はここには居なかった、皆、それぞれに微苦笑しながらも任せろと力強い言葉をエレインへ贈る、こうして、タロウから伝えられた問題点は皆に共有され、ではどうすれば良いかと活発な議論が交わされた、さらに明日に控えた協会発足に向けての意見交換も行われ、より結束を強めることとなる、エレインは一仕事増えたとはいえ、これは自分がやらなければならない責任であると気合を入れ直し、テラもまた何事も順調に動いている時こそ注意するべきだと心持ちを新たにした、
「じゃ、大丈夫そうです?」
ジャネットはさらに曖昧な質問を重ねる、ジャネットとしては登園前のピリついた二人の様子を気にしており、タロウさんも悪い意味で言ったわけではないのだろうなと学園でも授業に身が入らなかったのだ、それはオリビアやケイスも同様であった、
「そうね、タロウさんにはお礼を言わないと・・・」
「はい、問題が発生してから頭を下げるよりも、先に頭を下げておいた方が騒動は小さくて済むものです、保証も併せて提案しますので納得頂けるかと・・・」
「・・・それもそうね」
「はい」
エレインとテラの疲れていても落ち着いた様子にジャネット達は取り合えず安堵する、今日は何とも騒がしい日であった、朝からエレインとテラは顔を青くし、学園から戻ったらミナが厨房で喚いている、それらの原因はタロウなのであるが、やはりソフィアの旦那ともなればその存在だけで一騒ぎ起こすのであろう、ジャネットとケイスはそれも致し方ないのであろうなと顔を見合わせた、そして、
「あっ、ミナっちー、エレインさんとテラさんとオリビアにも見せてあげてよー」
ジャネットがミナをけしかける、
「いいよー、エレイン様ー、これー、タロウのお土産なのー、アマーイのよー」
「甘い?」
ミナがサレバ達を置き去りにしてエレインの座るテーブルに革袋を乗せた、
「ちょっとだけだからねー」
ニマーと三人を見上げるミナである、
「ミナっち、ケチだー」
「うー、サレバはもう食べたでしょー」
「いいじゃん、いっぱいあるんだからー」
「ルルもダメー」
「えー、ちょっとだけー」
サレバやルルはもう砂糖に関しては対して興味を持っていない、それよりもミナをからかって遊ぶ方が楽しい様子であった、エレイン達は革袋を覗き込む、中身は白い粉であった、粉と言うよりも砂かしらと三人は首を傾げる、そして本能的な反応なのであろうかその白く輝く姿は何とも魅力的に輝いて見えた、
「ちょっと舐めてみて、甘いのよ、甘いだけなのー」
ミナの満面の笑みを向けられ三人はそういうならと手を伸ばし一つまみを口に運んだ、そして、その反応は他の面々と大差は無い、ミナもニマニマと嬉しそうに見上げ、エレインは、
「これは・・・これは、どこで手に入りますの?」
とすっかり商売人のそれである、黒糖と違い甘みのみが感じられる砂糖である、瞬時に頭をよぎったのは屋台の商品の品質向上であった、
「えへへー、タロウのお土産なのー、遠い所でしか作ってないんだってー」
「えっ・・・そんな・・・」
そこへ、
「お疲れー」
研究所組が下りて来た、さらに、
「はいはい、夕飯の準備が出来たぞー」
タロウが両手に皿を持って入ってくる、
「えっ、タロウさんが支度をしていたのですか?」
エレインは思わず叫んでしまった、
「ん、どうかしたか?」
何食わぬ顔で皿を置くタロウである、今日は揚げ物料理三部作の締めであるカツであった、
「どうしたって・・・あのタロウさんにそんな事させるわけには・・・」
「そんな事とは聞き捨てならんな、お嬢様、料理は大事だぞ、人は食う為に仕事するんだ、違うか?ん?・・・」
タロウはニヤリと微笑み、
「故に食事こそが人生において最も大切な日々の行事なんだ、決して妥協してはならん、うん、さらにな、旨い料理は心と身体の栄養源だ、しっかり食っていろいろ頑張れ、腹が減っては戦が出来ぬ、良い言葉だろ?ふふん、さ、今日はチキンカツだぞー、死ぬほど食えよー」
快活に笑うタロウである、
「チキンカツ?」
「ん?あぁ、あれだ、鳥肉のカツだ、トンカツソースが無いのが寂しいが、塩でも旨いぞ」
「トンカツソース?」
耳慣れない単語がポンポンとタロウの口から飛び出してくる、腹が減ってはなんとかと言うのも初耳であった、タロウの国の言葉なのであろうか、言い得て妙だとカトカは腰を下ろしながら感心してしまう、
「ん、そのうち作るか、旨いぞ、トンカツソース」
ニヤリと口元で笑って厨房へ戻るタロウであった、そしてミーンとティルが配膳を始め、生徒達も慌ててテーブルを片付ける、編み物道具を散らかしたままであったのだ、
「・・・そっか、ソフィアさんの料理ってタロウさんが教えたって言ってたよね・・・」
「トンカツソース気になりますわね」
「うん、これは・・・」
「新しい料理の予感・・・」
エレインとジャネットの怪しく光る瞳が交錯した。
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