セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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60話 光と影の季節 その12

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タロウは淡々と語ると一旦口を閉じた、クロノスとリンドは静かに傾聴しており、イフナースとブレフトも最初こそ訝し気にタロウを睨んでいたが、どうやら噓でも創作でも無いらしいと判断するに至る、

「で、証拠といったらあれだがな」

タロウは左目を閉じて胸元に手を突っ込み、グイっとばかりに大きな革袋を取り出しドスンと床に置いた、これにはリンドも何だと驚き、イフナースとブレフトも目を丸くする、クロノスは相変わらず便利な奴だと目を細めた、

「昨日、ユーリにも渡したが赤い魔法石の原石だ、お前さんにも渡してくれと言われてな、研究中なんだろ?」

「それ全部か?」

クロノスがこれはと腰を上げテーブルを回り込み、リンドもそれに倣う、イフナースとブレフトもつられるように立ち上がった、

「全部だよ、但し、このままではあの兵器のようには使えん、他の用途もあるのだろうが現地では邪魔にされているくらいだからな、まさに研究が必要な代物だな」

タロウは袋を開けて四人に中身を見せる、

「ほう・・・確かに赤色の魔法石に見えるが・・・」

「はい、原石となると、これがこのまま採掘されるのですか?」

クロノスとリンドの質問に、

「そうらしい、俺が探りに行った鉱山は、鉄鉱山だったんだが鉄と一緒にこれが山と積まれていてな、これはと思って聞いてみたら綺麗なんだがそれ以外に使い道が無いらしくてな、宝石とも違って砕けやすくて脆いらしい、こっちで手に入った赤色の魔法石は丈夫だったが、恐らくなんらかの魔法のお陰かもしれない」

「なんだ、お前さんでも分らんのか?」

「そりゃ、だってさ、結果だけみて公式を導き出せは・・・酷な問答だろ?」

「・・・かもしらん」

タロウの答えにクロノスは口をへの字に曲げ、レインがニヤリと微笑む、

「でだ、結構重いぞ、取り合えず置いておく」

タロウはさらに胸元に手を突っ込むと、

「こっちも重要だな、あー、これを見ながら話した方が楽だったかな」

スルッと一本の巻物を取り出してテーブルに広げた、

「これは?」

「魔族の大陸の地図だな」

「なに?」

イフナースは思わず叫び、リンドとブレフトは主を差し置いて覗き込む、それは何枚もの羊皮紙を繋げた巨大な巻物で、長細い菱形の大陸が図示され、各所に丸印と地名と思われる名前が記されている、

「この三角は?」

「山だよ、大きい三角がでかい山、並んでいるのが山脈、小さい山もそこかしこにあるがそれは描いてない」

「この線は?」

「川だな、で、それにつながってるこれは湖な、で、この線は橋だな、但し大きいやつだけだ」

「なるほど・・・分かりやすい・・・」

四人はその地図を見下ろして押し黙ってしまった、地図は最重要の機密である、他国を攻めるにしろ自国を守るにしろ軍を進めるにも合戦の場を想定するにも、まずはその土地を把握しなければならない、街の位置も重要であるし、街道の有無も重要だ、大人数が渡れる橋等垂涎ものである、つまり地形の把握はそのまま戦況に影響する重要な情報なのである、さらに必要な情報として相手の軍の配置であったり、その土地の気候、農産物の情報等あればさらに有利に進められるであろう、

「でだ、ここな」

タロウは地図の下部、海を挟んで小さく見切れた歪な突起状の地形を指す、

「それが?」

「これが北ヘルデル」

「なに?・・・いや、まて、こんなに小さい?いや、魔族の大陸がでかいのか?」

「うん、でかい、王国の何倍だろうな、はるかにでかいぞ」

「・・・信じられん・・・」

「で、さっきの説明はこれを見ながらだと良く分かると思うんだが」

とタロウが続けようとすると、

「待て、書記官を呼んでこよう、これはしっかりと記録しておかんとまずい」

イフナースはあまりの事にクラクラと眩暈を感じつつも自身の記憶力に自信が無いことを思い出す、国王にも報告を上げるべき内容であり、タロウの持参した情報は何一つ落とすべきではない、しかしタロウは殆ど思い付きで説明している、脈絡がありそうで無いその内容全てを覚えておくことなど不可能であった、

「そうだな・・・すまん、タロウ、少し待て」

これにはクロノスも同意のようである、直ぐにブレフトが退出し、タロウはそれもそうだろうなと一息ついて茶に手を伸ばす、

「むー、つまんないー」

タロウの袖を掴んだままのミナがタロウを見上げた、ミナとレインはチーズケーキを平らげ、茶をチビチビと舐めていた、

「ん?言っただろう、真面目な話しでお前は駄目だって」

「むー、聞いたけどー、ヒマー」

「そう言われてもな・・・」

タロウは席に着くと、

「ほれ、俺のも食うか?」

「いいの?」

「いいぞ、あー、クロノス、レインの分も頼めるか?」

「あん?あっ、なら俺のをやるよ手を付けてない、レイン嬢いいか?」

「む、構わんぞ、チーズケーキは良い品だな、いくらでも楽しめる」

「それは嬉しい、これもソフィアの料理なんだろう?」

「そうだが、あれは失敗しておった、ミーンとティルであったか、あの娘達が完成させたのであろう?」

「へー、そうなのか?」

「うむ、大したものだ」

「そうらしいな、ほらどうぞ」

クロノスが自分の皿をレインの前に置き、タロウの皿を受け取ったミナもウキウキと座り直す、すると自然と手が離れた、

「まったく・・・」

タロウは苦笑いを浮かべつつ、

「あっ、海軍の方はどうなってるんだ?」

と別の話題を口にした、イフナースはそこまで首を突っ込んでいるのかとタロウを睨むが、クロノスは、

「ボチボチだな、お前が言う通り、まずは泳ぎの特訓からだと思ったが、これがなかなか難しくてな、北ヘルデルの海は冷たいからな、練習出来る期間も短いし、なにより泳げる者自体が少ない、それはそのまま教える事も出来ないって事だな」

「だろうな、ルーツは?」

「知ってるだろ、自分の商売に忙しいよ」

「ありゃ・・・そうなるとあれか漁師を集めて?」

「中心はそうだな、しかし、数が少ない、対して大概の兵は泳ぎはおろか操船も難しい、船は何とかなるんだが・・・それでも、何とかと思っているが・・・難しいな」

「そうか・・・だったらやりようとしてはだ」

とタロウが口を開きかけた所にブレフトが如何にも役人風の男を連れて戻ってくる、その手には大量の黒板を抱えており、さらにメイドが茶の入れ替えの為に入ってきた、

「ん、お前も少し休め、話し疲れてないか?」

「ありゃ、お優しいなクロノス殿下」

「言ってろ」

タロウに茶化されクロノスはジロリと睨みつける、

「あっ、チーズケーキはまだあるか?」

イフナースがメイドに問うと、メイドは一瞬怪訝そうに首を傾げ、しかし、ミナとレインの様子に気付くと、大皿で持ってきましょうかと機転を利かせる、

「ん、頼む、大事な客だ、歓待せんとな」

「はい」

メイドは茶を入れ替えつつ静かに答えた、

「では、改めてお願いしようか」

イフナースが書記官の準備が終わったのを確認し、タロウに向き直る、

「いいのか?では、だ、地図を見ながら聞いてもらえば分かりやすいと思うのだが」

と腰を上げる、そして、魔族の大陸の気候、国の有様、住民の種族、等々と大陸に渡って仕入れた情報を訥々と説明し直す、ほぼ二度目の説明とあってまとまっていて分かりやすい、

「すると、あれか、俺達が戦った魔王だが、当時はやはり一番強かったと思っていいのか?」

「恐らくな、さっきも言ったが魔族の世界では一番強い奴がその国の王になる、単純に腕っぷしだな、頭の良し悪しは関係無い、それが良いか悪いかは一旦置いておいて、そういう統治方法だ、で国そのものは大きいものが3つある、こことこことここ」

タロウは地図を指し示す、それらは大陸の下、南側に集中していた、

「で、お互い争っている、統治方法も変わりない様子だな、どの国もその国で一番強い奴が一番偉い・・・他には国というよりも民族・・・種族と言った方がいいのかな、その集団がたくさん、これも互いに仲が良いとは言えない、ゴブリンと一言で言っても種族で分かれているし、オークやらオーガやらも一緒、広い大陸に散在してる・・・らしい、全部を見たわけではないからな、でだ、こっちに来た魔王だが、この国の王だったらしい」

タロウは地図の一部を示した、最も南部に位置し、北ヘルデルに近い都市名がその指の下にある、

「するとあれか、あれが一番強いとは言い切れないのか・・・」

「まずな、他に似たような国が二つあって、そうなると、同じように強いであろう魔王が二人はいるってことだな、それにあれほどの存在が単体でいきなり存在する訳もない、オークともオーガとも違う種族だったから、大陸固有の種族なんだろうな、少しその話を振ってみたんだが誰も詳しくは知らなかったよ、そういうものなのかもしらん」

「そうなのか・・・」

「そうらしい、向こうには向こうの常識がある、他の種族に対しては目の前で脅威にならない限りは関心が無さそうでな、俺達もそうだろう、道行く人の家庭環境などには基本的に無関心だ、街中を歩いていてあいつはどこの村の誰だって考えながら擦れ違う事は無い、顔見知りならいざ知らず、赤の他人を一々詮索していては疲れるだけだ、この大陸の事を考えれば、あからさまに異なる生き物同士が共存しているからな、そういう無関心がより顕著になっているのかもしれない、まぁ、取り合えずそういうもんだと理解しよう・・・でだ、あの大戦時にはその一番強い奴が直々に攻めて来たんだな、で、どうにもそれを自慢げに喧伝したらしい、どういう思惑があったかはわからんが・・・ま、そうなると・・・」

「他国に攻められるだろうな、俺が他国の王ならそうする」

「俺もだ・・・」

「だろうな、そして、実際にそうなった、大戦の事を思い出しても急に弱体化した感じがあったんじゃないか?」

「そうか?」

「はい、ありましたな・・・」

リンドがなるほどと頷く、

「であれば俺の聞いた話と合致する、魔王本人が不在の国に他の2つが攻め入ったんだとさ、そうなると本国からの増援も補給もままならんだろうな、で、こっちの侵攻軍は弱体化、本国は勿論二つの国を相手に戦える訳もない、そして現状こっちの国の傘下に収まっているらしい・・・魔王がどう考えたかは分らないが、北ヘルデルに留まっていたという事は本国を見捨てたようなものなのかな?良く分からんが・・・もしくはこっちの気候が気に入ったのかもしれない、何せ向こうは厳しい土地だ、土地は見た感じだと痩せていたし冬は厳しい、夏でもこの土地の上半分は氷か雪だそうだ、冬になったら使える港も無くなるらしい」

「どういう事だ?」

クロノスが不思議そうにタロウを伺った。
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