セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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60話 光と影の季節 その10

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ユーリが伝える事は伝えたしと、裏口から食堂へ入ると、ソフィアが玄関脇の倉庫を開けて何やらゴソゴソとやっている、

「あっ、いた?」

「いたわよー、4人でドーナッツ食べてたわ」

「あら、優雅ねー」

「ねー、ブラスさんは何か打ちひしがれてたけどねー」

「ありゃ、なんでまた?」

ソフィアがその手を止めて食堂へ半身を覗かせる、

「なんか、タロウさんが現場でいろいろ言ったみたいよ、ま、好きに言っていいって昨日話しちゃったからね、構わないと言えば構わないんだけどもさ、改良点?配管がどうとか明り取りと換気がどうとかいろいろ言ってたわ」

ユーリはやれやれと溜息を吐く、

「そうねー、何かお風呂って聞いて張り切ってたからねー、タロウさん」

ソフィアは微笑みつつ食堂へ入ってきた、

「ねー、好きにさせちゃ駄目だったかしら?あの人やり過ぎるからな・・・」

「そうだけど、黙っているのも難しいでしょう、ああいう人だから」

「そうよねー、まぁいいわ、で、あんたは何やってるの?」

「倉庫の片付けよー、昨日話したでしょ」

「あっ、そっか、空き部屋に移すんだっけ?」

とユーリはこれまた昨日話したことを思い出す、寮を改築するにあたって現在の倉庫の中身とトイレを個人部屋の空き部屋に移す事にしていたのであった、ソフィアは倉庫に関しては片づけは済んでいるとの事であり、あとはそれを移すだけだと気楽に話していたはずである、

「そうね、今日中にやってしまいたいなって思ってね、明日は午後からその何とか先生が来るんでしょ」

「まぁね、学園長も興味があるって喜んでたわ、もの好きばかりで困るわよね」

自分のもの好きは棚に上げるユーリである、

「なら、やってしまいましょうか、あんた手伝いなさい」

ニヤリと微笑むソフィアである、

「いいわよー、でも、どうせだからあの収納魔法使えば?タロウさんのを久しぶりに見たけど、やっぱりあれは別格よねー」

ユーリはうーんと首を捻る、冒険者時代からタロウは件の収納魔法を事あるごとに便利に使いこなしていた、初めて見た時は心底度肝を抜かれたものである、その後タロウに教授され人並み以上もしくは人外と評してもよいほどの魔力を身に着けた二人であったが、それでも二人共にかの収納魔法を含めタロウの扱う魔法のうちで使いこなすに至った魔法は少ない、タロウ曰く想像力も大事だが根本原理を理解しなければ難しいだろうとの事であった、その根本原理を幾つか教示されたのであるが、非常に難解であった事も記憶にある、それはタロウ自身も完全には理解していないうっすらとした概念でしか無かった為であった、挙句聞く度にどうにも内容が変わるというおまけつきである、それでよく魔法として成立するものだと当時の仲間達は呆れたのであるが、タロウはそのフワフワとした部分を想像力で埋めるそうなのである、こうなるとソフィアにしろユーリにしろお手上げであった、良く分からない理屈を屁理屈で埋めたと仲間の一人は評したが、言い得て妙だとタロウ本人も爆笑していた、

「それもあったわね・・・楽するか・・・」

「それが良いと思うわよ、どれ、なら、私も久しぶりに使ってみようかな?上手く出来るかしら?」

「あー、どっかに飛ばさないでよー」

「あん?なによ、お掃除魔法の応用じゃない、いや、逆か、お掃除魔法があれの応用かな?」

「どっちでもいいわよ」

ソフィアはニヤリと微笑み倉庫へ戻った、お掃除魔法とはソフィアが生徒達に教えた空間魔法の事である、掃除以外にも勿論使える魔法なのであるが、いつのまにやらその名称が定着していた、

「そうだ、ケイスさんの修行ってどんな感じなの?」

ソフィアは続けて思い出した事をそのまま口にする、

「良い感じなんじゃないの?日によって上下はあるけど、真面目に練習はしてるみたいね、魔力量の底上げは出来てると思うなー、学園で隠れてやってるのかしら?午後は仕事で忙しそうだけどね、寝る前かな?まぁ事故さえ気を付けてくれればいいんだけどね、あの子やり過ぎて失敗しなきゃいいんだけど、また姿を消されても困るかしら」

「そんな事もあったわねー、でも折角の才能だからねー、ゾーイさんとまではいかなくても魔法を気軽に使えるくらいにはなってほしいかな?」

二人は何とものんびりとした口調のままに収納魔法を構築し終えた、あっという間の事である、呪文の詠唱すらない、そもそもこの魔法に呪文は無い、タロウ曰く呪文とは魔法を発動するにあたってその効果を心のうちで具現化する為に使われる共通認識を文章化したものでしか無いという、炎の魔法であれば炎を連想させ、それを打ち込む魔法であれば弓矢を連想させるか投石を連想させる文言を唱える、それは短い詩のような短文であり、実に簡単な単語の羅列に過ぎない、一般的な魔法使いはその単語の羅列でもって目的の効果を心内に想像し魔法を発動させていた、しかし、ここで問題が生じる、同じ文言を唱えたとしても同じ想像を心内に結ぶことは難しい、炎と単純に言ってもそれが蝋燭のそれであるか、焚火のそれであるかで効果は変わり、打ち込む方向性を加えようと弓矢を想像したとして、山なりに飛ぶ矢と地面に平行に飛ぶ矢で大きく異なる、そらにそこに個々人の適正が絡む、火の魔法が得意か水の魔法が得意かで場合によっては発動そのものが難しい者もいた、つまり魔法とはどこまでいっても標準的な指標を作るのが難しく、呪文に頼っていては望む効果を得られるものではないのである、タロウはこの事を良く口にしており、ソフィアとユーリは教科書的な魔法や人前で魔法を使う時意外は呪文の詠唱は省いていたりもする、そしてこの理論は実践の場に於いては非常に重宝した、目の前に敵が迫っているのに一々長ったらしい呪文を詠唱する事も無く、自身の発動の意思で魔法が展開されるのである、二人や仲間達を何度も救った実践魔法の真髄と言っても過言ではない、

「まったくだわ、才能を育てるのも教師の仕事よねー」

「そうよねー、あっ、学園としてはいいの?」

「何が?」

「仕事、忙しすぎるんでない?お金も大事だし、気心の知れた仲間とワイワイやるのは楽しいだろうけど、ちょっと心配ね、新しい子達も何のかんので巻き込まれちゃってるしね、いつの間にやら」

「あらー、寮母らしい事言っちゃってー」

ユーリは茶化しつつも空間の入口にあたる黒い靄に木箱を収める、ソフィアも同様に胸程度の場所にある黒い靄に木箱を放り込んでいた、その黒い靄こそが収納魔法である、タロウはそれを人前で見せる事が無いように服の中に常時発動させており、他人の目が無いところでは二人のように空中に発動させたりもする、二人が結局身に着けられなかった点は内容量に関してもそうであるが、その汎用性であった、タロウの真似をして服の中に隠すように発動させた事もあったが、服毎巻き込まれあわや大惨事と慌てて消した事もある、やはりタロウのその実力は二人から見ても別格なのであった、

「何言っているのよ、そういうのはアンタが気にしなきゃでしょ」

「そうだけどさー、学園としては進級試験で合格すればそれで良いって感じだからねー、この間みたいにさ、試験前でバタバタやってもなんとかなるのよね、学園は」

「学園はでしょ」

「そうよ、それ以上の事を伝えたいとは思っているんだけどね、中々難しいよね、現場主義に過ぎると研究的な観点がなおざりにされちゃうし、逆だと頭でっかちになりすぎるし・・・取り合えずケイスさんはこのまま魔力を高めて欲しいかな、ジャネットはどうかなー、あの子はあのままでも十分やっていける感じはするのよねー、一番逞しいわよね、姉御肌だし、調子に乗りやすいけど現場に放り込まれれば変わるでしょ、ああいう子はね、エレインさんとオリビアさんはもう安泰だろうしね、明日叩き出しても何とかやっていくわよ、新入生達はまだこれからね、今の所は問題無さそうだけど、ま、一応は気にしてるつもりよー」

「あら、教師らしい事言っちゃってー」

「何よ、振ったのはあんたよ」

ユーリはムスリと言い返し、こんなもんかなと、木箱を数箱収納魔法に収めると、黒い靄をかき消した、

「空き部屋よね?」

「そうよー」

ソフィアの返事を待たずに倉庫を出ようとする、すると、

「ちょっと、ただで行かないで」

「ただって・・・ちゃんと収納魔法に入れてるでしょ」

「違うわよ、両手、空いてるでしょ」

「両手・・・うわっ、なにこの子・・・肉体労働までさせる気?」

「馬鹿言ってんじゃないわよ、ほら、その箱持って、重くないから」

「うわー、なによ、好意で手伝っているのよ」

「グチグチうるさい、ほら、じゃ、これ」

ソフィアも黒い靄を消し、抱えた木箱をユーリに押し付ける、渋々と受け取るユーリに、もう一個と木箱の上に木箱を乗せた、

「ちょっと、重いわよ」

「でしょうね、大丈夫よ、若くて綺麗で優しい先生には軽いはずだからー」

「どういう理屈よ」

「どうでもいいわよ」

「もう、はいはい、寮母様には逆らえないわー」

「そうね、逆らえないわよねー」

ソフィアも大きな木箱をよいしょと胸に抱く、まったくと鼻息を荒くしてユーリは空き部屋に向かい、ソフィアもその後を追った、こうして二人が三往復もする頃には倉庫の中は綺麗に何も無くなっている、事前にソフィアが片付けていたとはいっても、あっという間の出来事であった、

「やっぱり収納魔法って便利ね」

「そうよね、やっぱり今からでも練習しようかしら?タロウさんみたいに何でもかんでも突っ込んでれば倉庫の整理とかしなくていいわよね」

ユーリがやれやれとこれ見よがしに腰を叩く、暗に一仕事終えたとソフィアに無言の主張である、労えとその目は語っていた、

「・・・止めときなさい、収納空間が空の酒樽で埋まることになるわよ」

「なによそれ」

「心からの忠告」

「ふん、なによ、タロウさんが帰ってきたと思って調子に乗ってるの?それともあれ、愛しい旦那をミナに取られて妬いてるの?」

「そんな事はないわよー、大事な友人を心配してるのよー、優しいでしょー」

「あら嬉しいわ、友愛の精神は大事よねー」

「そうよ、大事だわよー」

ヒクヒクと微笑み合う仲の良い幼馴染である、そして、

「次は2階ね」

とソフィアは階段へ向かい、

「えっ、上も?」

「当然、3階もよ」

「えー」

「えー、って、なによ、昨日言ったじゃない」

「そうだけどー」

「ぶーぶー言うな、ササっと終わらせるわよ」

「そうだけどー、3階は空き部屋ないわよー」

「なら、中央ホールね」

「げ、折角広くなったのに・・・」

「そんな事知らないわよ」

「2階に下ろしていいかしら?」

「あんたが私の倍働くならいいわよ」

「ヒド・・・優しいソフィアが居なくなった・・・タロウさんのせいね、ミナのせいかしら?」

「まだ言うの?」

「口があるからね」

「なら言ってなさい」

「なによ、友達がいのないやつね」

「知ってるでしょ」

「知ってるけどさー」

ブーブーとうるさいユーリを引き連れて二階の倉庫に入るソフィアであった。
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