セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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60話 光と影の季節 その4

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それから夕食時である、食堂に集まった生徒達は手にした肖像画を見せあってキャッキャッと楽しそうにはしゃいでいる、

「ジャネット先輩、こう見ると綺麗ですねー」

「ふふん、だしょー、ルルっちも美人さんじゃーん」

「むー、これジャネットじゃない」

「なんだー、ミナっちはお子ちゃまだからなー、女の魅力ってやつが分らんのだよー」

「ジャネットもお子ちゃまでしょー」

「えー、私は立派な淑女ですー、大人ですー」

「ウソだー、絶対ウソだー」

自身の肖像画を前にして上機嫌のジャネットであった、どう考えても普段であれば怒鳴りまくるであろうルルとミナの雑な扱いにも余裕の笑みを崩さない、

「ケイス先輩、可愛いですね」

「そう?レスタも可愛いじゃない」

「私は普通だと思いますよ」

「そんなことないよー、ね、コミンもそう思うでしょ」

「勿論ですよ、私のはどうですか?」

「コミンのは普通ねー」

「うー、サレバひどいー」

「何よ、正当な評価ってやつよ」

「どれ見せてー」

「わっ、うん、ちゃんとコミンさんだね、ちゃんと可愛いと思うよー」

「ちゃんとって・・・」

「ほらー、やっぱり普通よー」

「サレバは良いわよ、可愛く描いてもらってるじゃない」

「でしょー」

「うー、なんかむかつくー」

「ふふん、元が違うのよ、元が」

「えー、そうかなー、どっちも可愛いと思うよー」

「うん、そうですよ、大丈夫です、4人併せてもカトカさんにはかないませんから」

「それ言っちゃダメー」

「うん、それ禁句」

「やっぱり?」

「うん、なんか寂しくなっちゃうし」

「元が違うんだから仕方ないでしょ」

「元、元、言うなしー」

「でも・・・」

「うん、結局、元だよね・・・」

朗らかに笑っていたケイスとレスタとコミンとサレバであるが、悲しい現実に突き当り意気消沈してしまう、そんな様子をニコリーネは嬉しそうに恥ずかしそうに眺めていた、今日は店舗が休みという事もあり、朝から店を出してみたが昨日のように店舗目当ての客がついでに覗いて行くというような事は無かった、エレインの言った通りだなとニコリーネは思いつつ、それでもまったりと道行く人を写生したりしてそれはそれで楽しんでいたのであるが、午前の半ば辺りから事務所にいたマフダとリーニー、連れ立って来た従業員の奥様が客として現れ、さらに家族を連れたケイランや、他の奥様達も集まってワイワイと忙しくなった、そして、午後になって鐘が鳴ったと思ったら今度は学生達が列を作る事となったのである、どうやらジャネット達が学園で言いふらしたらしく、その友達や、仲良くなった寮の仲間も列に加わっている、昨日のようにイフナースの従者が目を光らせていないが、そこは嬉しい事にそこそこの礼儀を身に着けた学生達である、店舗で行列を作る事にも慣れている為、自然と街路の端に邪魔にならないように列を作り、ニコリーネはつい先ほどまで思う存分石墨を走らせる事となったのであった、

「あら、楽しそうねー」

そこへ研究所組が下りてきた、

「えへへ、みんなの肖像画を描いたのです」

席が近いニコリーネがはにかんだ笑顔で四人を迎える、

「そっかー、良かったじゃない」

ユーリは疲れた顔で席に着く、

「そうなんです、とっても嬉しいです、こんなに喜んで貰えるとは思ってもいませんでした」

「そうよねー、じゃ、うちの連中のもお願いしようかしら、ちゃんと描いて貰ってないからね」

「ちゃんとって・・・」

「それは失礼になりません?」

「はい、頂いたのは大したものですよ」

カトカとサビナとゾーイが非難の声を上げる、四人は共にニコリーネの練習に付き合い、そのうちの一枚を掲示する代わりに練習で描いたものは丸っと貰っていたのであった、

「そう?じゃ、あれだ、四人でこう集合した感じで描いてもらう?」

「それは・・・なんか恥ずかしいですね」

「そうですよ、家族の肖像画では無いんですから」

「私は嫌です」

サビナとゾーイはやんわりと言葉を選ぶが、カトカは明確に拒絶した、

「あら・・・寂しい事言うわね・・・なに?所長命令でもいいのよ」

「うわっ、権力の乱用だ」

「暴力上司だ」

「ダメ人間だ」

仕事終わりと言うこともあって言いたい放題となる三人である、

「ダメ人間?」

そこへミナが参戦する、

「そうよー、所長がダメ人間になってしまったのです」

「そうなの?」

「そうなの、権力を振りかざして若い女性を意のままに操ろうとする犯罪者です」

「むー、よくわかんないけど、ユーリはダメだー」

「そうね、ダメですね」

「おいおい、お前らな」

「ダメ人間が何か言ってるー」

「そうだね、そうだね」

「ユーリめー、サビナをいじめるなー」

「いいぞー、もっと言ってやれー」

「・・・えっと、あとは、あとは・・・あっ、おばさんのくせにー」

「あー、ミナちゃんそれはちょっと違うかな?」

「違うの?」

「そうね・・・あっ、悪徳上司とか権力の犬とか?」

「なにそれ?」

「難しい?」

「うん、難しい」

「だよねー」

「はいはい、その辺にしときなさい」

ミナをけしかけて遊ぶサビナとカトカをユーリは一睨みして、

「あっ、グルジアさんはいる?」

と誰にともなく問いかける、

「はい、厨房です、ソフィアさんのお手伝いです、エレインさんとテラさんとオリビアさんはまだですね」

ルルがヒョイと顔を上げて答えた、質問以上の情報を返すあたりにその生真面目さが感じられる、

「そっか、ま、後でもいいか・・・」

「お疲れ様ー」

そこへ、エレインとオリビアが入って来た、事務所で打合せをしていたのである、定例の全従業員を集めた打合せを終え給料を支払い、テラとオリビア、カチャーらを交えての実務的な打合せであった、

「お疲れ様です、何かありました?」

ケイスが顔を上げた、商会の重鎮としては気になるところである、ジャネットも若干心配そうに視線を向ける、

「大丈夫よ、どちらかというと嬉しい報告なのよね」

エレインは席に座り、オリビアは厨房へ向かう、ソフィアの手伝いの為であろう、

「ほんとですか?」

ケイスが先を促すと、

「ほんとよー、なんかねガラス鏡店の予約があっという間に一月分は埋まったのよ」

「えっ・・・」

「そりゃすごい・・・」

「大したもんだわねー」

「そりゃそうでしょうね」

「すごい事じゃないですか?」

エレインがポツリと呟いた一言に一同は揃って目をむいた、

「有難いことです、皆さんに御協力頂いた事感謝しなければなりません」

エレインはニコリとなんとか笑顔を見せる、

「私たちは大した事してないですよ、あっちに関しては」

「うん、エレインさんとテラさんの努力の結晶だよね」

ケイスとジャネットが頷き合う、

「そんな事無いですよ、こっちの店舗がしっかり回っていないとあっちに注力できませんから、それにお手伝い頂いているルルさん達にも感謝ですし、研究所の皆さまにも頭が上がりませんし」

愁傷な言葉を続けるエレインであった、ユーリはん?と片眉を上げ首を傾げる、人は得てして疲労すると優しくなり周りに感謝しだすもので、それは単純に他人に助力を求める心理なのだろうとユーリはその人生経験からそう理解している、

「・・・大丈夫?疲れてない?」

「疲れですか?」

「そうよー、疲れてるとね、どういうわけだか当たりが優しくなって誰から構わず感謝しだすものだからね、薬草ワイン飲んでる?ゆっくり寝られてる?」

「そうかもしれませんが、疲れてる・・・というよりもあれですね、やることが詰まってきてクラクラしてる感じです」

エレインは気の置けない仲間達の前もあってか、何とも軽くその心情を口にする、

「そう?ま、テラさんがいれば大丈夫だと思うけど、ジャネットさん、ケイスさん、気を付けてあげなさいよ」

「はい、それは勿論です」

「そうですね、じゃ、どうしましょう?お湯沸かして洗髪します?疲れ取れますよ」

「あっ、それいいね、どう?エレイン様?」

ジャネットとケイスが早速と声を上げ、エレインは柔らかな笑みを浮かべて何度目かの感謝の言葉を口にした、ユーリはその様子に、ジャネット達がいれば大丈夫そうねとニヤリと微笑んだ。



そして、夕食中である、今日の献立は定番となりつつある薄パンに獣肉と野菜のシチュー、レイン特製の漬物と、昨日までとは打って変わって一般的な平民の食事となった、ソフィア曰く、

「少々贅沢しすぎているからね、今日は簡素に、でも量はあるからお代わりしなさい」

との事であった、そして誰も文句を言う者はいない、それどころか量があるとの事で、ジャネットやルルは遠慮無くがっつき、ミナも負けじと食い意地を張る、さらに、

「漬物美味しい・・・」

「うん、新しいのもいいね、魚醤でしたっけ、臭みが無いな・・・すごいね」

「ワインのお陰なのかな?不思議ー」

レインの漬物が三種類テーブルに上がったのであるが、やはり新作に人気が集中しているようで、レインは何とも満足そうに得意顔である、

「そうね、あっ、野菜が安いうちに漬けたいけど樽とか甕が無いのよね、研究所で余ってない?」

「記憶に無い」

ソフィアがそういえばと顔を上げ、ユーリが何も考えずに答える、

「小さいのしか無いはずです、大きいのは無いですね」

サビナが漬物にフォークを伸ばしながら答えると、

「あっ、事務所にありますよ、前の住人が置いてったのが」

テラがヒョイと顔を上げた、

「あら、それ頂戴」

ソフィアがあっさりと所望した、

「勿論ですよ、会長かまいませんか?」

「はい、全然、使ってください、でも、あれ使えます?」

「たぶん、大丈夫だと思いますよ、汚れてますけど割れてはいないと思いますし、でもちゃんと点検しないと駄目かもですが・・・あの大きさだと漬物用だと思われますし」

オリビアが静かに答えた、

「あっ、じゃ、あたし、明日持ってくるよー」

「じゃ、私もー」

「あー、お店が落ち着けばですね・・・」

「大丈夫じゃない?従業員増やしてるし、ほら、みんな稼ぎたいって言ってたから、明日から多めに入ってもらうしねー」

「なら良いですわ、お任せします」

「はいはーい」

食事はこうして進んでいった、この寮の日常的な光景である、そこへ、

「失礼」

玄関口に来客のようであった、低く男性のそれとすぐに分る響きに、一同はあらっと静まり返って顔を上げた、この時間に来客は珍しく、木戸から外を覗くと夕陽はだいぶ心許なくなっている、玄関から最も近い席に座っているオリビアが条件反射であろうかサッと腰を上げ、手拭いで口を抑えて玄関へ向かった、ソフィアも腰を上げるが声をかける間もない早業である、そして、玄関では一言二言会話が交わされている様子で、すぐにオリビアが戻ってくると、

「すいません、ソフィアさん、お客様です」

「あらっ、私?」

「はい、ソフィアさんを名指しで、あの、タロウさんって名乗ってらっしゃいますけど・・・」

「えっ」

とユーリが驚き、ミナが声もなくガタリと立ち上がる、レインがホウと呟き、ソフィアがありゃと腰に手を当てた、他の面々はこの奇妙な響きの名前は良く聞くなー、誰だっけと思っていると、レスタが、

「ソフィアさんの旦那さん?」

とポツリと呟く、途端、

「あっ!!」

と一同の驚きの声が食堂を揺るがし、ミナは無言でダダッと玄関へ走る、ソフィアは嬉しいような恥ずかしいような何とも複雑な苦笑いを浮かべミナの後を追うのであった。
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