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本編
60話 光と影の季節 その3
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公務時間終了の鐘が響き、寮の食堂でソフィアはさて今日は何を作ろうかなと腰を上げた、ミナとレインは買い物に行かせている、食材に関してはティル経由でふんだんに使えるようになってはいるが、レインはいいとしてもミナを遊ばせておくのは教育上宜しくないかなと思ってのことである、ソフィアは田舎育ちであった、故に物心ついた頃からなんやかんやと家の仕事を手伝っていた、今でもそれが当然であるし、そういうものだと思っている、恐らくそれが社会勉強であり、家業を継ぐのが当たり前の田舎にとっては職業訓練そのものでもあるからであった、しかし、どうやら都会では違うらしい、子供は田舎同様に立派な労働者として認識はされているらしいが、子供に任せる労働や仕事が思った以上に少ないようで、テラから聞いたところによると、精々が一緒に買い物に行って荷物持ちとか、弟妹の世話とか、家事を中心としたものが精一杯との事であった、ソフィアはそういうこともあるのだろうなとのほほんと聞いていたのであるが、ここでの生活に慣れてくると確かにそうなのかもしれないと理解を深める、田舎であればこの時期となれば、男共は冬に備えて薪割り作業に追われ、女子供であれば保存食の仕込みと食料の備蓄、家族総出となれば冬小麦の植え付けも忙しい頃合いであろう、しかし、都会ではそれら冬に向けての諸々の仕込みはお金があれば解決可能のようで、冬も盛りとなっても薪は勿論食料も品質を気にしなければ市場で普通に購入可能である、ソフィアは冒険者時代にヘルデルで冬を越した際に、なんて便利なんだと都会の利便性に感嘆し、と同時に都会人達がお金お金と目を吊り上げている理由を理解した、その冬はユーリと二人、酷くひもじい思いをしたのも今となっては笑い話で済まされることである、而して現在のミナとレインに関しては菜園が忙しかった頃はレインに任せておけばミナの野菜の世話という教育も担ってくれていたのであるが、冬に片足を突っ込んだこの時期は菜園の仕事はほぼ無い、今のうちに肥料でも仕込んでおく程度しかやる事が無く、それもレインの手にかかれば一瞬の事であろう、その一瞬で済ませるあの魔法こそ世の中には必要であるだろうと考えるが、教えを乞うてよいものかどうか判断が付きかねていた、レインなら鼻で笑って教示してくれそうであるが、菜園で採れた成果物は軒並み特級品と言えるほどに上質であった、その点も含め、光柱の魔法もそうであるが、便利なのは良いことであるとソフィアは思いつつ、なんでもかんでも魔法に頼るのは違うだろうなとも考えている、ソフィアもその経験とユーリの影響から魔法の扱いに関しては消極的な面があった、現時点でタロウを覗けば最も魔法に精通し、扱うだけならこの世で右に出る者はユーリ以外にいない実力者であるにも関わらずである、もしくはそれ故にそう感じているのかもしれないが、
「失礼しまーす」
ソフィアはまぁいいかと日常に回帰すべく思考を放棄し、さて夕飯は何を作ろうかと厨房へ入った、今日はミーンとティルは休みである、ミーンが休日という事もあり、屋敷の仕事はするとの事であったが午後からは休みらしい、であればこっちも休みにしてくれとソフィアが泣きついたのであった、ティルも王都に戻ってゆっくりと報告したいとも言っており、丁度よいと二人の調理実習は休憩となったのである、ソフィアとしてはホッと一息吐けるなと安堵した、正直な所教えることのできる料理も少なくなってきている、ソフィアがタロウから教えられ自分流に改良した料理ばかりであったがその種類はそれほど多くない、タロウがいたならまた違うのであろうが、元来生真面目な性格のソフィアとしては王族の手前もあって、大変に頭を悩ませていたりもする、そしてソフィアが今日は適当でいいわねーと気楽に食糧庫に入りかけたと同時に勝手口が開いた、
「はいはい」
ソフィアが振り向くと、ブラスの顔がニョッと突き出る、
「あっ、すいません、お時間頂けます?」
ニコリと微笑むブラスである、
「いいわよー、どうしたの?」
「はい、こちらの作業は明日で終わるので、明後日から寮内の作業に入りたいと思いまして」
「あら、早いわね」
「そうですね、予定通りです」
「そっか、じゃ、どうしようか、一旦打合せする?確かそんな事言ってたわね」
「はい、お時間を頂ければ嬉しいです」
「ん、ユーリが居たほうがいいかしら?」
「それはお任せします」
「了解、じゃ、食堂で待ってて呼んでくるわ」
ソフィアはそれもあったわねと思いつつ三階へ向かい、ブラスは軽く埃を落として厨房から食堂へ入った、取り合えず近場の椅子に座って待っていると、
「お疲れさまー」
ユーリとソフィアが階段に姿を表す、
「お疲れ様です、すいません、忙しいところ」
「全然大丈夫よ、丁度飽きてたところだからー」
ユーリはやれやれとブラスの対面に座り、
「お茶入れるわねー」
とソフィアは厨房へ向かう、
「あっ、お構いなく・・・」
ブラスの定型的な反応に、
「そのつもりは無いわよー、私が飲みたいだけー」
自由すぎる理由を返したソフィアであった、
「ありゃ・・・」
ブラスは口元を歪めるが、ユーリはそれよりもと、
「で、次はどうなるんだっけ?」
と要件を促す、ブラスは、はいまずですねと、黒板と図面を取り出して作業項目を説明し始めた、明日までに新築部分の作業は概ね終わり、明後日から既存部分との連絡と配管作業、それと合わせて間取りの変更、トイレの設置等々の作業となる、
「あー、本格的になるわねー」
「いや、本格的にやってますよ」
「それもそうか」
ユーリが適当に微笑む、そこへソフィアが戻ってきて茶を配ると、ブラスは同じ内容をソフィアにも説明した、
「なるほど・・・じゃ、あれか、今日明日でトイレは移さないとよね」
「はい、そうなります、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、倉庫は片付けてあるし、空いてる部屋をトイレにする予定だったから、その準備もしてたしね」
「ありゃ、いつの間に?」
「ふふん、これでも寮母さんだからねー、やる事はやってるのよー」
「へー、大したもんだ」
茶を含みニヤニヤと微笑むユーリである、
「じゃ、新築の方って見れるの?」
「見れる事は見れます、ただ中に入るには足場を登ってって感じなので、今は遠慮して頂ければと思います」
「そっか、残念」
「すいません、怪我とかされると問題なので」
「それは理解してるわよ」
「ありがとうございます、で、特に問題がなければと思いますが、いかがですか?」
ブラスが最終確認と二人を伺う、二人はうーんと図面と黒板を見つめ、口を開きかけた瞬間、玄関口がバタバタと騒がしくなり、
「もどったー」
ミナが駆け込んで来た、
「あっ、大工のおっちゃんだー、ちーっす」
そのままブラスに体当たりである、
「わっ、こりゃ危ないから」
「危なくないよー、加減してるからー」
「そうなのか?」
「そうなのよー、むふふー、何してるのー」
「あー、ミナお仕事中よー」
ソフィアがやんわりと口を挟む、
「そうなの?」
ミナが不思議そうにソフィアを見上げる、そこへ、レインが入って来て、グルジアとルルも入ってくる、帰り道に行き会ったのであろう、
「あっ、ブラスさんお疲れ様です」
ニコリと笑顔を見せるグルジアである、ソフィアは腰を上げて買い物籠を受け取ると厨房へ向かい、レインはやれやれと暖炉の前に座り込む、ミナはテーブルに両腕をついて図面と黒板を覗き込み、ルルは軽く会釈をして自室に向かった、
「ありゃ、お久しぶり、授業はどうだ?やれてるか?」
「なんとかですね、まだ講義が多いので」
「それもそうか、ま、大丈夫だろうとは思うが、何かあれば言ってくれ、これでも少しは顔が利くからさ」
「そうなんですか?」
「おうよ」
「あっ!!思い出した」
二人の妙に馴れ馴れしい会話にユーリが勢いよく顔を上げた、
「はいっ、なんです?」
ブラスが慌てて振り返る、
「グルジアさん、寮の改築の件って話しした?」
キッとグルジアを睨むユーリである、
「えっ・・・」
グルジアは首を傾げ、
「はい、したと思います・・・ね、先生に、ですよね?」
「そうそう、それで先日立ち話になってさ・・・」
ユーリはうーんと首を捻った、実に困った顔である、グルジアはおずおずと、
「まずかったですか・・・」
心配そうに口を開いた、
「いや、まずくはないのよ・・・別に隠してるわけではなかったし・・・研究所名目だったからさ・・・うん、いや、私の根回しが足りなかったのよ、ブラスさんもいたからね、建築科に相談してなくてね、水臭いぞーって言われちゃってさ・・・」
「あら・・・」
「あやー」
グルジアとブラスは同時に呆然としてしまう、それだけであればそれほど難しくないであろう、御免なさいねと笑って済ませる事も可能であろうし、立ち話で文句を言われる程度であればユーリは屁とも思わない、問題は浄化槽にしろ室内の配管にしろかなり高度で実験的な建設をしている点であった、ユーリとしては話しやすく慣れた関係となり、少々変な事もなんとかできると証明して見せた上に、挑戦的で機転も利くブラスが居た為丸投げでいいやと判断し、学園内では学園長と事務長程度しか改築の件を把握していなかった、ユーリはそれで十分だろうと呑気に構えていたのである、その二人もまたユーリが手掛けるのであれば口出しは不要であろうと、大した助言も無い、二人共に派閥的なものを嫌う傾向にあるのもどうやら裏目に出ている、つまり、降って湧いたもう一つの大きな問題は建築学科がある学園にも関わらずその専門家である教師には何の相談もしていなかった事である、
「えっと、もしかして、エーリク先生?」
ブラスが振り向いてグルジアに確認し、グルジアはコクンと頷く、
「あー、あの先生だと自分にやらせろーってうるさいんだよな・・・現場大好きなんだよあの先生・・・」
「そうなんですか?」
「うん、それで授業にならないことがあってさ、学園長と喧嘩した事もあるんだよ・・・」
「えっ?」
ユーリが今度はブラスを睨みつける、
「あっ、そっちは大丈夫です、職人気質の先生なんで一過性の喧嘩ですね、今はどうか分りませんが、仲は良いですよ、たぶんですけど・・・」
「そうよね、あの二人は仲良い方だわね」
ユーリはホッと一息吐いた、実際件のエーリクは昨日のガラス鏡店にも足を運んでおり、興味深そうに諸々の品々に見入り、上機嫌で同僚と話し込んでいたのを確認している、つまり、学園長と敵対している派閥ではないという事であった、それだけでもユーリとしては話しやすい相手であったりする、ここに派閥云々の問題が付加されるとさらにめんどくさい事になったであろう、ユーリはまったく小さい世界で忙しい事だと鼻息を荒くし、
「まっ、いいわ、じゃ、そうね・・・うん、ブラスさんね、浄化槽の建設も含めてエーリク先生に説明して貰える?」
「えっ、俺がですか?」
「そうよ、顔が利くんでしょ」
「そりゃ・・・はい、恩師ですし、いいですけど・・・」
「うん、お願い、で、場合によっては口出しされるかもだけど、上手いこといなして」
「いなしって・・・えっ、あの先生を?」
「そうよ」
「・・・出来ますかね?」
「大丈夫でしょ」
「そんな適当な・・・」
「何とかなるわよ、浄化槽は完成してるんだし、現地を見せろってうるさいんだわ、それと聞いたこともない事をやろうとしてるんだろうって、相談も無いとは何事かーって、まっ、それはだって・・・ね・・・あの頃は・・・それどころじゃなかったし?・・・何のかんので忙しかったし?・・・根回しは学園長だけで十分かなって思ったし?・・・っていうか建築学科が実習場所探してるなんて聞いてないしー・・・」
ユーリはゴニョゴニョと言い訳を並べた、
「じゃ、図面と現地を見せればそれでいいんじゃないですか?俺、いなくてもいいような感じですけど・・・」
「そこはだって、恩師でしょ、顔を見せれば、喜ぶわよー・・・なに?嫌なの?」
「嫌って・・・わけじゃないです、はい、あの、良い先生ですよ、うん、尊敬はしてます、ただ・・・」
「ただ?」
「うん・・・多分ですけど・・・あの先生はこんな珍妙な建築は違うーって言いそうなんですよね」
「・・・そう思う?」
「はい、昔気質の職人様ですからね・・・腕も良いし教えるのも上手いし、軍隊建築も詳しいし、現場絡まないといい親父だし・・・でも・・・現場となるとな・・・一口も二口も多いんだよな・・・それと・・・最悪・・・図面からやり直せってなるかも・・・」
「そう・・・なのよね・・・私も何もなければ良いおっさんだと思うんだけど、変な横やりを入れてきそうで、学部長とかとは違う否定できない正論的なやつで?それはそれでいいのかしら?でも、それが・・・めんどくさい・・・のよねー」
ユーリは溜息と共に口を閉じた、ブラスも流石ユーリはちゃんと見ているなと感心しつつどうしたものかと困惑してしまう、グルジアはちょっとした雑談であったと記憶しているが申し訳なかったかなと顔を青くして沈黙するしかなかった、ついでにミナはさっさと興味を無くしてレインと共に暖炉前でお手玉に興じていた。
「失礼しまーす」
ソフィアはまぁいいかと日常に回帰すべく思考を放棄し、さて夕飯は何を作ろうかと厨房へ入った、今日はミーンとティルは休みである、ミーンが休日という事もあり、屋敷の仕事はするとの事であったが午後からは休みらしい、であればこっちも休みにしてくれとソフィアが泣きついたのであった、ティルも王都に戻ってゆっくりと報告したいとも言っており、丁度よいと二人の調理実習は休憩となったのである、ソフィアとしてはホッと一息吐けるなと安堵した、正直な所教えることのできる料理も少なくなってきている、ソフィアがタロウから教えられ自分流に改良した料理ばかりであったがその種類はそれほど多くない、タロウがいたならまた違うのであろうが、元来生真面目な性格のソフィアとしては王族の手前もあって、大変に頭を悩ませていたりもする、そしてソフィアが今日は適当でいいわねーと気楽に食糧庫に入りかけたと同時に勝手口が開いた、
「はいはい」
ソフィアが振り向くと、ブラスの顔がニョッと突き出る、
「あっ、すいません、お時間頂けます?」
ニコリと微笑むブラスである、
「いいわよー、どうしたの?」
「はい、こちらの作業は明日で終わるので、明後日から寮内の作業に入りたいと思いまして」
「あら、早いわね」
「そうですね、予定通りです」
「そっか、じゃ、どうしようか、一旦打合せする?確かそんな事言ってたわね」
「はい、お時間を頂ければ嬉しいです」
「ん、ユーリが居たほうがいいかしら?」
「それはお任せします」
「了解、じゃ、食堂で待ってて呼んでくるわ」
ソフィアはそれもあったわねと思いつつ三階へ向かい、ブラスは軽く埃を落として厨房から食堂へ入った、取り合えず近場の椅子に座って待っていると、
「お疲れさまー」
ユーリとソフィアが階段に姿を表す、
「お疲れ様です、すいません、忙しいところ」
「全然大丈夫よ、丁度飽きてたところだからー」
ユーリはやれやれとブラスの対面に座り、
「お茶入れるわねー」
とソフィアは厨房へ向かう、
「あっ、お構いなく・・・」
ブラスの定型的な反応に、
「そのつもりは無いわよー、私が飲みたいだけー」
自由すぎる理由を返したソフィアであった、
「ありゃ・・・」
ブラスは口元を歪めるが、ユーリはそれよりもと、
「で、次はどうなるんだっけ?」
と要件を促す、ブラスは、はいまずですねと、黒板と図面を取り出して作業項目を説明し始めた、明日までに新築部分の作業は概ね終わり、明後日から既存部分との連絡と配管作業、それと合わせて間取りの変更、トイレの設置等々の作業となる、
「あー、本格的になるわねー」
「いや、本格的にやってますよ」
「それもそうか」
ユーリが適当に微笑む、そこへソフィアが戻ってきて茶を配ると、ブラスは同じ内容をソフィアにも説明した、
「なるほど・・・じゃ、あれか、今日明日でトイレは移さないとよね」
「はい、そうなります、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、倉庫は片付けてあるし、空いてる部屋をトイレにする予定だったから、その準備もしてたしね」
「ありゃ、いつの間に?」
「ふふん、これでも寮母さんだからねー、やる事はやってるのよー」
「へー、大したもんだ」
茶を含みニヤニヤと微笑むユーリである、
「じゃ、新築の方って見れるの?」
「見れる事は見れます、ただ中に入るには足場を登ってって感じなので、今は遠慮して頂ければと思います」
「そっか、残念」
「すいません、怪我とかされると問題なので」
「それは理解してるわよ」
「ありがとうございます、で、特に問題がなければと思いますが、いかがですか?」
ブラスが最終確認と二人を伺う、二人はうーんと図面と黒板を見つめ、口を開きかけた瞬間、玄関口がバタバタと騒がしくなり、
「もどったー」
ミナが駆け込んで来た、
「あっ、大工のおっちゃんだー、ちーっす」
そのままブラスに体当たりである、
「わっ、こりゃ危ないから」
「危なくないよー、加減してるからー」
「そうなのか?」
「そうなのよー、むふふー、何してるのー」
「あー、ミナお仕事中よー」
ソフィアがやんわりと口を挟む、
「そうなの?」
ミナが不思議そうにソフィアを見上げる、そこへ、レインが入って来て、グルジアとルルも入ってくる、帰り道に行き会ったのであろう、
「あっ、ブラスさんお疲れ様です」
ニコリと笑顔を見せるグルジアである、ソフィアは腰を上げて買い物籠を受け取ると厨房へ向かい、レインはやれやれと暖炉の前に座り込む、ミナはテーブルに両腕をついて図面と黒板を覗き込み、ルルは軽く会釈をして自室に向かった、
「ありゃ、お久しぶり、授業はどうだ?やれてるか?」
「なんとかですね、まだ講義が多いので」
「それもそうか、ま、大丈夫だろうとは思うが、何かあれば言ってくれ、これでも少しは顔が利くからさ」
「そうなんですか?」
「おうよ」
「あっ!!思い出した」
二人の妙に馴れ馴れしい会話にユーリが勢いよく顔を上げた、
「はいっ、なんです?」
ブラスが慌てて振り返る、
「グルジアさん、寮の改築の件って話しした?」
キッとグルジアを睨むユーリである、
「えっ・・・」
グルジアは首を傾げ、
「はい、したと思います・・・ね、先生に、ですよね?」
「そうそう、それで先日立ち話になってさ・・・」
ユーリはうーんと首を捻った、実に困った顔である、グルジアはおずおずと、
「まずかったですか・・・」
心配そうに口を開いた、
「いや、まずくはないのよ・・・別に隠してるわけではなかったし・・・研究所名目だったからさ・・・うん、いや、私の根回しが足りなかったのよ、ブラスさんもいたからね、建築科に相談してなくてね、水臭いぞーって言われちゃってさ・・・」
「あら・・・」
「あやー」
グルジアとブラスは同時に呆然としてしまう、それだけであればそれほど難しくないであろう、御免なさいねと笑って済ませる事も可能であろうし、立ち話で文句を言われる程度であればユーリは屁とも思わない、問題は浄化槽にしろ室内の配管にしろかなり高度で実験的な建設をしている点であった、ユーリとしては話しやすく慣れた関係となり、少々変な事もなんとかできると証明して見せた上に、挑戦的で機転も利くブラスが居た為丸投げでいいやと判断し、学園内では学園長と事務長程度しか改築の件を把握していなかった、ユーリはそれで十分だろうと呑気に構えていたのである、その二人もまたユーリが手掛けるのであれば口出しは不要であろうと、大した助言も無い、二人共に派閥的なものを嫌う傾向にあるのもどうやら裏目に出ている、つまり、降って湧いたもう一つの大きな問題は建築学科がある学園にも関わらずその専門家である教師には何の相談もしていなかった事である、
「えっと、もしかして、エーリク先生?」
ブラスが振り向いてグルジアに確認し、グルジアはコクンと頷く、
「あー、あの先生だと自分にやらせろーってうるさいんだよな・・・現場大好きなんだよあの先生・・・」
「そうなんですか?」
「うん、それで授業にならないことがあってさ、学園長と喧嘩した事もあるんだよ・・・」
「えっ?」
ユーリが今度はブラスを睨みつける、
「あっ、そっちは大丈夫です、職人気質の先生なんで一過性の喧嘩ですね、今はどうか分りませんが、仲は良いですよ、たぶんですけど・・・」
「そうよね、あの二人は仲良い方だわね」
ユーリはホッと一息吐いた、実際件のエーリクは昨日のガラス鏡店にも足を運んでおり、興味深そうに諸々の品々に見入り、上機嫌で同僚と話し込んでいたのを確認している、つまり、学園長と敵対している派閥ではないという事であった、それだけでもユーリとしては話しやすい相手であったりする、ここに派閥云々の問題が付加されるとさらにめんどくさい事になったであろう、ユーリはまったく小さい世界で忙しい事だと鼻息を荒くし、
「まっ、いいわ、じゃ、そうね・・・うん、ブラスさんね、浄化槽の建設も含めてエーリク先生に説明して貰える?」
「えっ、俺がですか?」
「そうよ、顔が利くんでしょ」
「そりゃ・・・はい、恩師ですし、いいですけど・・・」
「うん、お願い、で、場合によっては口出しされるかもだけど、上手いこといなして」
「いなしって・・・えっ、あの先生を?」
「そうよ」
「・・・出来ますかね?」
「大丈夫でしょ」
「そんな適当な・・・」
「何とかなるわよ、浄化槽は完成してるんだし、現地を見せろってうるさいんだわ、それと聞いたこともない事をやろうとしてるんだろうって、相談も無いとは何事かーって、まっ、それはだって・・・ね・・・あの頃は・・・それどころじゃなかったし?・・・何のかんので忙しかったし?・・・根回しは学園長だけで十分かなって思ったし?・・・っていうか建築学科が実習場所探してるなんて聞いてないしー・・・」
ユーリはゴニョゴニョと言い訳を並べた、
「じゃ、図面と現地を見せればそれでいいんじゃないですか?俺、いなくてもいいような感じですけど・・・」
「そこはだって、恩師でしょ、顔を見せれば、喜ぶわよー・・・なに?嫌なの?」
「嫌って・・・わけじゃないです、はい、あの、良い先生ですよ、うん、尊敬はしてます、ただ・・・」
「ただ?」
「うん・・・多分ですけど・・・あの先生はこんな珍妙な建築は違うーって言いそうなんですよね」
「・・・そう思う?」
「はい、昔気質の職人様ですからね・・・腕も良いし教えるのも上手いし、軍隊建築も詳しいし、現場絡まないといい親父だし・・・でも・・・現場となるとな・・・一口も二口も多いんだよな・・・それと・・・最悪・・・図面からやり直せってなるかも・・・」
「そう・・・なのよね・・・私も何もなければ良いおっさんだと思うんだけど、変な横やりを入れてきそうで、学部長とかとは違う否定できない正論的なやつで?それはそれでいいのかしら?でも、それが・・・めんどくさい・・・のよねー」
ユーリは溜息と共に口を閉じた、ブラスも流石ユーリはちゃんと見ているなと感心しつつどうしたものかと困惑してしまう、グルジアはちょっとした雑談であったと記憶しているが申し訳なかったかなと顔を青くして沈黙するしかなかった、ついでにミナはさっさと興味を無くしてレインと共に暖炉前でお手玉に興じていた。
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ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
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