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本編
60話 光と影の季節 その2
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正午近くにエレインとカチャーは事務所に着いた、店は休みの為見慣れた人だかりは無かったが、掲示板の前には数人の女性が立ち止まって熱心に掲示板を見つめており、そこから若干離れてニコリーネの店が出ていた、エレインは今朝方、店が休みだから無理して出すことは無いとニコリーネに伝えていたがニコリーネはそれでもやりたいとやる気に満ちていた、昨日の出店前は非常に緊張した顔で落ち着きが無かったのであるが、まるで真逆で自信満々の笑顔を浮かべるニコリーネである、エレインは本人がそう言うのであれば止める事は難しかろうと好きにさせたのであった、
「あら、もう来たの?」
二人が通りかかるとニコリーネの店は数人の御婦人方に囲まれていた、見れば皆従業員である、
「あっ、お疲れ様です会長」
ケイランが笑顔で振り返る、その足元には子供が二人、小さな紙を手にして嬉しそうに笑いあっている、
「あら、お子さん?こんにちは」
笑顔を向けるエレインにケイランの娘と息子は驚いた顔でエレインを見上げ、すぐにケイランへ視線を向ける、
「ほら、こんにちはでしょ」
ケイランは慌てて二人の頭を抑え、二人はおずおずと会釈をしつつ、とても小さな声でこんにちわと返した、
「はい、こんにちわ、あっ、そっか、子供の絵が欲しいって言ってましたわね」
「そうなんです、今日は旦那も休みなので、4人で描いてもらいに来ました」
ニコリと微笑むケイランである、見ればニコリーネの前には緊張した顔の厳つい男性が座っており、先日お披露目会で見たかしらとエレインは微笑み、
「なるほど、早速ですわね」
「はい、早速です、空いてるうちにと思いまして」
「そうだよねー、賢いと思うわー」
「うちも連れてくれば良かったかしら・・・うちの旦那も休みだったからねー、子供達と買い物行かせちゃったんだわー」
奥様達が自然にエレイン達の輪に合流してくる、
「えへへ、だって、なかなか無いですよ肖像画を描いて頂けるなんて」
「それはわかってるんだけどねー、聞いてなかったし、だって昨日から急にでしょー」
「そうそう、それに、あれだ、ケイランさんのところはどっちも落ち着いているけど、うちの子はじっとしてられないわよ、絶対にー」
「うちもだわ、椅子に縛り付ければなんとかなるかしら?」
「あっ、それ名案かも」
「荒縄準備しないとね」
物騒な物言いの奥様達にエレインはまったくと微笑み、
「とりあえず、テラさんが来るまではゆっくりしてていいですから、そうだ、カチャーさん中になにかある?」
「あっ、はい、なにかですか?」
「甘いものかなんか?」
「あっ、はい、お茶会用にクレオのひと時がありますと思います、リーニーさんとマフダさんが作ってました」
「そっか、じゃ、ケイランさん、子供たちにあげていいかしら?」
「えっ、申し訳ないですよ」
「大丈夫よ、どうせみんなで食べる為に作ったんでしょ、子供達も大事な協力者なんですからね」
とエレインは不意に腰を落として子供目線になると、
「美味しいお菓子があるけどどうかしら?お父さんが描き終わるまで中にどうぞ」
と柔らかい笑みを浮かべて小首を傾げる、子供達は再びキョロキョロとエレインとケイランを見比べた、
「すいません、じゃ、甘えさせて頂きます」
ケイランは無理に断るのも失礼かとエレインの誘いを受け入れ、
「そうね」
とエレインはケイラン親子とカチャーを連れて事務所へ入る、旦那は一人奥様達の輪の中に取り残されてしまった、肖像画の為に口を開くことも出来ず、その目はなんとも困惑したものとなる、女達の世界に引きずり込まれた男の悲哀が滲んでいた、完成した肖像画に題名を付けるとすればそれ以外にはありえないであろう、事務所の中は既にお茶会の準備が終わっており数名の奥様とマフダとリーニーが座を占めており、
「お疲れ様です、会長」
エレインの姿に気付いたマフダがピョンと立ち上がり、奥様達もお疲れ様ですと笑顔を向ける、
「はい、お疲れさまー、あら、皆さんも描いてもらったの?」
見ればテーブルには数枚の上質紙の紙片が並んでいる、
「はい、えへへ、なんか嬉しいです」
マフダが照れくさそうな笑顔を浮かべ、
「だよねー、恥ずかしいよねー」
「うん、だって・・・あー、ちょっとでもあれね、おめかししてくれば良かったわ」
「あんたはさして変わらないでしょ」
「それを言ったらあんただって同じでしょー」
「私は良いの、ありのままを描いてもらったんだから」
「あら、それにしては皺が少ないわね」
「なんですってー」
あっという間にいつもの調子となる、エレインはあらあらと微笑みつつ、
「はい、どうぞ、クレオのひと時は知ってるかしら」
奥様達は無視して子供をかまい始めた、自ら席を引き、手を貸して座らせる、ケイランはエッと小さく驚き、マフダ達もん?と目を見張ってしまう、
「あら、どうかした?」
一瞬静かになった事務所内に気付きエレインは顔を上げた、実に優しく母性溢れるその顔に、
「いえ、なんでもないです」
マフダは慌てて答え、
「あっ、じゃ、私は上に、荷物下さい」
カチャーも慌ててエレインの荷物を受け取ると2階へ上がった、従業員達が集まる前にもう一仕事控えている、何気に遊んでいる暇が無かったりもするのである、
「そうだ、見せて貰っていい?」
エレインは子供達の隣に座りこむと二人が手にした肖像画を見つめる、大事そうに手にしている二人はケイランの様子を一度伺い、ケイランは、
「どうぞって、大丈夫よ、ちゃんと返すから」
ニコリと微笑む、すると二人はおずおずと肖像画をエレインに突き出した、
「ありがとう、わぁ、可愛いわねー、うふふ、良く描けてるわー」
エレインの明るい声が事務所内に響く、
「あっ、そうだ、子供の肖像画ってどんなもんです?」
「見てもいいですか?」
奥様達が腰を上げ、マフダもそろそろとエレインの傍に近寄る、
「そうね・・・おばさん達に見せてもいい?」
エレインは肖像画を若干隠すように胸元へ向け、子供たちへ確認する、二人はコクリと小さく頷いた、
「ありがとう、はい、お許しを頂いたわよ」
エレインはニコニコと二つの肖像画をテーブルに置いた、奥様達とマフダが覗き込み、リーニーもそそくさとマフダの背後に回り込む、
「わっ、可愛いわね」
「うん、子供の絵も良いわねー」
「そうね、これは欲しくなるわ、うん、うちの子も連れてこないと」
「わー、いいなー」
と柔らかい絶賛の声が上がった、
「そうね、それも一番可愛い時期よね、これは一生の宝物ね」
エレインがケイランに微笑みかけ、ケイランは嬉しそうにそうですねと小さく答えた、
「あっ、ほら、手を伸ばして、おばさん達に負けちゃだめよ、いっぱい食べて大きくならないとなんだから」
エレインは集まった顔面をかき分けて焼き菓子の皿を手前に引き寄せた、しかし二人は嬉しそうにはにかむもなかなか手を伸ばそうとしない、
「あら、えっとねー、私は蝶の形のが好きかなー、何が好き?」
「・・・えっと・・・ニャンコ」
娘がやっと口を開く、
「ニャンコかー、お兄ちゃんは?」
「えっと、星のやつ、カッコイイ」
「カッコイイかー、わかるわかる」
ニコニコと猫型のそれと星型のそれを摘まんで二人に渡すと、
「これ、おうちでも作ったー」
「ほんと?」
「うん、楽しかったー、えっと、型でポンポンって」
「手伝ったよー、ね、かーちゃん」
「そうね、みんなで作ったわね」
「そうなの、にーちゃん、下手だったのー」
「下手じゃないー、初めてやったから変になったんだよー」
「えー、とーちゃんが笑ってたでしょー」
「笑ってたけど、下手じゃないー」
軽い兄弟喧嘩が始まるもエレインはニコニコと楽しそうで、ケイランはもうと眉根を寄せた、そして二人はそれでも嬉しそうに焼き菓子を頬張り、
「んー、美味しい」
「おうちで作ったのより美味しいよー」
「あら、そんな事言うと作ってあげませんよ」
「ぶー、こっちの方が甘いー」
「とーちゃんがかーちゃんが砂糖をケチったって言ってたー」
「こら、そんな事言わないの」
「えー、でもー」
「ふふっ、こっちの方が美味しい?」
「うん、絶対美味しい」
「そっか、良かったわ」
ケイランは何とも恥ずかしそうに口元を引き締めるが、そこは無遠慮で正直な子供にはかなわない、そういうもんだと奥様達は笑い、わかるわかるとマフダとリーニーも笑顔になる、そこへ、
「失礼します」
ケイランの旦那がスッと顔を出した、
「あら、終わった?」
「おう」
「どれ、見せて?」
「ここでか?」
「勿論」
「みたいー」
「みたいー」
奥様達の視線が集まった中で旦那は何とも渋い顔であったが、焼き菓子を口いっぱいに頬張った子供の笑顔と女性達の期待の視線には抗えなかったようで、嫌そうに懐に忍ばせた肖像画をケイランへ手渡す、
「どれどれ」
「私たちもいいわよねー」
相手が顔見知りの旦那である、奥様達は遠慮無くケイランの手元を覗き込み、
「あら、実物よりも良い男じゃない」
「そうね、凛々しいわね」
「そっか、旦那も良いけど、あれかしらジジババのも今のうちに書いてもらおうかしら」
「何故、ジジババ?」
「だって、いつどうなるかわからないわよ、生きてるうちでしょ」
「それいいかもね・・・」
「おいおい」
どうしたものかとしかめっ面の旦那である、
「ふふっ、じゃ、お父さんも終わったのであれば、そうね、マフダさん藁箱ある?」
「はい、ありますよ」
マフダが事務所の隅に山となっている藁箱の一つを持ってエレインへ届けると、
「ありがとう、じゃ、これはおうちでゆっくり食べなさい、おとーさんはここにいると可哀そうなことになるからねー」
藁箱に焼き菓子を詰めだすエレインである、
「そんな、そこまでして頂かなくても」
ケイランが慌てて恐縮するが、
「いいの、おばさん達に食べられるより子供達に食べられたほうが幸せよー」
「あっ、会長が酷いこと言うー」
「いや、そりゃそうでしょ」
「だけどさー」
「ふふっ、はいどうぞ」
こうしてエレインから焼き菓子の詰まった藁箱を受け取り、ピョコンと二人同時に頭を下げて子供達とケイランの旦那は事務所を辞した、玄関口で見送るエレインとケイランである、
「さて、あっ、給料用意しないと、カチャーさんは上よね」
エレインはパタパタと2階へ上がってしまい、事務所では、
「エレインさんって、子供好きだったんだねー」
「意外だった・・・」
「失礼ねー」
「でも、そうでしょう?」
「うん、妙に優しかった・・・優しい奥様ってあんな感じよね」
「気品があるあたりはやっぱり貴族様よね・・・」
「うん、上品だったね、やってる事はジジババと変わらないんだけど・・・」
「雨でも降るのかしら?」
「それは言い過ぎよ」
「木の枝からスライム?てきな?」
「それ使い方間違ってるわよ」
大変に失礼な話題で盛り上がる、マフダとリーニーは普段の凛とした雰囲気とは大きく異なるエレインの様子に心底度肝を抜かれ、なんとも嬉しくなって微笑みあうのであった。
「あら、もう来たの?」
二人が通りかかるとニコリーネの店は数人の御婦人方に囲まれていた、見れば皆従業員である、
「あっ、お疲れ様です会長」
ケイランが笑顔で振り返る、その足元には子供が二人、小さな紙を手にして嬉しそうに笑いあっている、
「あら、お子さん?こんにちは」
笑顔を向けるエレインにケイランの娘と息子は驚いた顔でエレインを見上げ、すぐにケイランへ視線を向ける、
「ほら、こんにちはでしょ」
ケイランは慌てて二人の頭を抑え、二人はおずおずと会釈をしつつ、とても小さな声でこんにちわと返した、
「はい、こんにちわ、あっ、そっか、子供の絵が欲しいって言ってましたわね」
「そうなんです、今日は旦那も休みなので、4人で描いてもらいに来ました」
ニコリと微笑むケイランである、見ればニコリーネの前には緊張した顔の厳つい男性が座っており、先日お披露目会で見たかしらとエレインは微笑み、
「なるほど、早速ですわね」
「はい、早速です、空いてるうちにと思いまして」
「そうだよねー、賢いと思うわー」
「うちも連れてくれば良かったかしら・・・うちの旦那も休みだったからねー、子供達と買い物行かせちゃったんだわー」
奥様達が自然にエレイン達の輪に合流してくる、
「えへへ、だって、なかなか無いですよ肖像画を描いて頂けるなんて」
「それはわかってるんだけどねー、聞いてなかったし、だって昨日から急にでしょー」
「そうそう、それに、あれだ、ケイランさんのところはどっちも落ち着いているけど、うちの子はじっとしてられないわよ、絶対にー」
「うちもだわ、椅子に縛り付ければなんとかなるかしら?」
「あっ、それ名案かも」
「荒縄準備しないとね」
物騒な物言いの奥様達にエレインはまったくと微笑み、
「とりあえず、テラさんが来るまではゆっくりしてていいですから、そうだ、カチャーさん中になにかある?」
「あっ、はい、なにかですか?」
「甘いものかなんか?」
「あっ、はい、お茶会用にクレオのひと時がありますと思います、リーニーさんとマフダさんが作ってました」
「そっか、じゃ、ケイランさん、子供たちにあげていいかしら?」
「えっ、申し訳ないですよ」
「大丈夫よ、どうせみんなで食べる為に作ったんでしょ、子供達も大事な協力者なんですからね」
とエレインは不意に腰を落として子供目線になると、
「美味しいお菓子があるけどどうかしら?お父さんが描き終わるまで中にどうぞ」
と柔らかい笑みを浮かべて小首を傾げる、子供達は再びキョロキョロとエレインとケイランを見比べた、
「すいません、じゃ、甘えさせて頂きます」
ケイランは無理に断るのも失礼かとエレインの誘いを受け入れ、
「そうね」
とエレインはケイラン親子とカチャーを連れて事務所へ入る、旦那は一人奥様達の輪の中に取り残されてしまった、肖像画の為に口を開くことも出来ず、その目はなんとも困惑したものとなる、女達の世界に引きずり込まれた男の悲哀が滲んでいた、完成した肖像画に題名を付けるとすればそれ以外にはありえないであろう、事務所の中は既にお茶会の準備が終わっており数名の奥様とマフダとリーニーが座を占めており、
「お疲れ様です、会長」
エレインの姿に気付いたマフダがピョンと立ち上がり、奥様達もお疲れ様ですと笑顔を向ける、
「はい、お疲れさまー、あら、皆さんも描いてもらったの?」
見ればテーブルには数枚の上質紙の紙片が並んでいる、
「はい、えへへ、なんか嬉しいです」
マフダが照れくさそうな笑顔を浮かべ、
「だよねー、恥ずかしいよねー」
「うん、だって・・・あー、ちょっとでもあれね、おめかししてくれば良かったわ」
「あんたはさして変わらないでしょ」
「それを言ったらあんただって同じでしょー」
「私は良いの、ありのままを描いてもらったんだから」
「あら、それにしては皺が少ないわね」
「なんですってー」
あっという間にいつもの調子となる、エレインはあらあらと微笑みつつ、
「はい、どうぞ、クレオのひと時は知ってるかしら」
奥様達は無視して子供をかまい始めた、自ら席を引き、手を貸して座らせる、ケイランはエッと小さく驚き、マフダ達もん?と目を見張ってしまう、
「あら、どうかした?」
一瞬静かになった事務所内に気付きエレインは顔を上げた、実に優しく母性溢れるその顔に、
「いえ、なんでもないです」
マフダは慌てて答え、
「あっ、じゃ、私は上に、荷物下さい」
カチャーも慌ててエレインの荷物を受け取ると2階へ上がった、従業員達が集まる前にもう一仕事控えている、何気に遊んでいる暇が無かったりもするのである、
「そうだ、見せて貰っていい?」
エレインは子供達の隣に座りこむと二人が手にした肖像画を見つめる、大事そうに手にしている二人はケイランの様子を一度伺い、ケイランは、
「どうぞって、大丈夫よ、ちゃんと返すから」
ニコリと微笑む、すると二人はおずおずと肖像画をエレインに突き出した、
「ありがとう、わぁ、可愛いわねー、うふふ、良く描けてるわー」
エレインの明るい声が事務所内に響く、
「あっ、そうだ、子供の肖像画ってどんなもんです?」
「見てもいいですか?」
奥様達が腰を上げ、マフダもそろそろとエレインの傍に近寄る、
「そうね・・・おばさん達に見せてもいい?」
エレインは肖像画を若干隠すように胸元へ向け、子供たちへ確認する、二人はコクリと小さく頷いた、
「ありがとう、はい、お許しを頂いたわよ」
エレインはニコニコと二つの肖像画をテーブルに置いた、奥様達とマフダが覗き込み、リーニーもそそくさとマフダの背後に回り込む、
「わっ、可愛いわね」
「うん、子供の絵も良いわねー」
「そうね、これは欲しくなるわ、うん、うちの子も連れてこないと」
「わー、いいなー」
と柔らかい絶賛の声が上がった、
「そうね、それも一番可愛い時期よね、これは一生の宝物ね」
エレインがケイランに微笑みかけ、ケイランは嬉しそうにそうですねと小さく答えた、
「あっ、ほら、手を伸ばして、おばさん達に負けちゃだめよ、いっぱい食べて大きくならないとなんだから」
エレインは集まった顔面をかき分けて焼き菓子の皿を手前に引き寄せた、しかし二人は嬉しそうにはにかむもなかなか手を伸ばそうとしない、
「あら、えっとねー、私は蝶の形のが好きかなー、何が好き?」
「・・・えっと・・・ニャンコ」
娘がやっと口を開く、
「ニャンコかー、お兄ちゃんは?」
「えっと、星のやつ、カッコイイ」
「カッコイイかー、わかるわかる」
ニコニコと猫型のそれと星型のそれを摘まんで二人に渡すと、
「これ、おうちでも作ったー」
「ほんと?」
「うん、楽しかったー、えっと、型でポンポンって」
「手伝ったよー、ね、かーちゃん」
「そうね、みんなで作ったわね」
「そうなの、にーちゃん、下手だったのー」
「下手じゃないー、初めてやったから変になったんだよー」
「えー、とーちゃんが笑ってたでしょー」
「笑ってたけど、下手じゃないー」
軽い兄弟喧嘩が始まるもエレインはニコニコと楽しそうで、ケイランはもうと眉根を寄せた、そして二人はそれでも嬉しそうに焼き菓子を頬張り、
「んー、美味しい」
「おうちで作ったのより美味しいよー」
「あら、そんな事言うと作ってあげませんよ」
「ぶー、こっちの方が甘いー」
「とーちゃんがかーちゃんが砂糖をケチったって言ってたー」
「こら、そんな事言わないの」
「えー、でもー」
「ふふっ、こっちの方が美味しい?」
「うん、絶対美味しい」
「そっか、良かったわ」
ケイランは何とも恥ずかしそうに口元を引き締めるが、そこは無遠慮で正直な子供にはかなわない、そういうもんだと奥様達は笑い、わかるわかるとマフダとリーニーも笑顔になる、そこへ、
「失礼します」
ケイランの旦那がスッと顔を出した、
「あら、終わった?」
「おう」
「どれ、見せて?」
「ここでか?」
「勿論」
「みたいー」
「みたいー」
奥様達の視線が集まった中で旦那は何とも渋い顔であったが、焼き菓子を口いっぱいに頬張った子供の笑顔と女性達の期待の視線には抗えなかったようで、嫌そうに懐に忍ばせた肖像画をケイランへ手渡す、
「どれどれ」
「私たちもいいわよねー」
相手が顔見知りの旦那である、奥様達は遠慮無くケイランの手元を覗き込み、
「あら、実物よりも良い男じゃない」
「そうね、凛々しいわね」
「そっか、旦那も良いけど、あれかしらジジババのも今のうちに書いてもらおうかしら」
「何故、ジジババ?」
「だって、いつどうなるかわからないわよ、生きてるうちでしょ」
「それいいかもね・・・」
「おいおい」
どうしたものかとしかめっ面の旦那である、
「ふふっ、じゃ、お父さんも終わったのであれば、そうね、マフダさん藁箱ある?」
「はい、ありますよ」
マフダが事務所の隅に山となっている藁箱の一つを持ってエレインへ届けると、
「ありがとう、じゃ、これはおうちでゆっくり食べなさい、おとーさんはここにいると可哀そうなことになるからねー」
藁箱に焼き菓子を詰めだすエレインである、
「そんな、そこまでして頂かなくても」
ケイランが慌てて恐縮するが、
「いいの、おばさん達に食べられるより子供達に食べられたほうが幸せよー」
「あっ、会長が酷いこと言うー」
「いや、そりゃそうでしょ」
「だけどさー」
「ふふっ、はいどうぞ」
こうしてエレインから焼き菓子の詰まった藁箱を受け取り、ピョコンと二人同時に頭を下げて子供達とケイランの旦那は事務所を辞した、玄関口で見送るエレインとケイランである、
「さて、あっ、給料用意しないと、カチャーさんは上よね」
エレインはパタパタと2階へ上がってしまい、事務所では、
「エレインさんって、子供好きだったんだねー」
「意外だった・・・」
「失礼ねー」
「でも、そうでしょう?」
「うん、妙に優しかった・・・優しい奥様ってあんな感じよね」
「気品があるあたりはやっぱり貴族様よね・・・」
「うん、上品だったね、やってる事はジジババと変わらないんだけど・・・」
「雨でも降るのかしら?」
「それは言い過ぎよ」
「木の枝からスライム?てきな?」
「それ使い方間違ってるわよ」
大変に失礼な話題で盛り上がる、マフダとリーニーは普段の凛とした雰囲気とは大きく異なるエレインの様子に心底度肝を抜かれ、なんとも嬉しくなって微笑みあうのであった。
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