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本編
59話 お披露目会 その26
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それからユスティーナとレアンの姿は寮の食堂へと移った、カラミッドはゆっくり楽しむようにと言付けて屋敷に戻り、ライニールが二人の従者となるいつも通りの光景である、そしてこちらもいつも通りに二人の相手をしているのはエレインとミナであった、
「なるほど、これはこれで良いな、ミナ貰ってよいか?」
「ダメー、これはミナのなの、お嬢様のは描いてもらったでしょー」
「この寝てる顔が秀逸だ、悪戯したくなる、そう思いませんか母上?」
「そうね、どれも可愛いわね」
「むふふー、でしょでしょ」
テーブル上のミナの顔が描き散らされた素描を手にしてユスティーナが目を細める、パトリシアが下書きと呼んでニコリーネを叱りつけたその絵であるが、ミナは自慢気に披露し、ユスティーナとレアンはそれだけでも絵としての面白さを受け取ったようだ、
「でも、そうね、こう見るとエレインさんの言った意味が良くわかるわね」
「そう思われますか?」
エレインがニコリと答える、思い付きの詭弁にしては説得力があったらしい、
「絵画の嗜みは貴族の義務ですからね、この絵のミナちゃんはそのままを描いているように見えますが、こちらの絵はエレインさんの言う対象の理想・・・というよりも願望かしらね、そういうのが感じられる絵ね、どちらも良いと思いますが、私はミナちゃんの素朴な感じが出ているこっちの絵の方が好きかしら・・・」
「むぅ、母上の肖像画も素晴らしいですよ、優しい笑みといい、知的な目元といい、良く表現されております」
レアンがニコリーネに描かせた三枚の絵を並べて不満顔である、その絵は色をのせた肖像画であり、レアンとユスティーナ、カラミッドの肖像画となる、ユスティーナの肖像画は色をのせる為に時間がかかるとニコリーネは前置きしていたが、それでもあっという間に描いて見せ、その出来も素晴らしいものであった、レアンはこれであればとカラミッドの肖像画を所望し、カラミッドも娘に頼まれては嫌とは言えず乱雑な街中の衆目が集まる中で椅子に座る事となる、そしてレアンもまた自身の色をのせた肖像画を所望し、都合四枚の肖像画が描かれた、そのうち色をのせてないレアンの肖像画は画架に飾られる事となった、エレインが是非にと願った為である、さらにその肖像画にはレアンのサインも付記された、これもレアンを知る者が見れば伯爵家御用達の証となるであろう、
「そうね、でも少しふっくらしすぎなのですよ、恐らくその願望をあの絵師さんは描いてくれたのよね」
「そうでしょうか・・・」
レアンは手元の絵とユスティーナを何度か見比べ、
「確かに、健康的には見えますが、母上は十分に健康です、間違っておりません」
「あら・・・では、私がそう望んでいるからそう見えるのかしらね・・・でも、そう考えると、面白い肖像画だわね」
ユスティーナはやんわりと自説を引っ込めたようである、肖像画は所詮絵画である、絵画はどうしても見た者の解釈によって大きく意味合いが変わるもので、その受け取り方も印象も千差万別となるのが当然であった、故に芸術という受け取った側に解釈の余地を預ける曖昧な概念に括られてしまうのである、ユスティーナとしてはそれはそれでそういうものだと理解しており、レアンがこの肖像画を見てどう感じるかはレアン次第であるし、自分がこの肖像画を見て感じるところとは大きく違うのは当然と認識している、その為これ以上の議論は不毛になるなと一歩引いたのであった、実に正しい大人の対応と呼ぶべき配慮である、そして、ニコリーネの描いた肖像画はエレインの解説の通りに商売向けに改良してあるのかもしれないとユスティーナは感じる、それでもなお、そこに曖昧な解釈を許容し、かつ美しいと思える肖像画になっている所を考えるに、ニコリーネは芸術家と呼んで差し支えない技術を持った絵師なのであろうとユスティーナは言葉にせずに評価した、
「お茶が入りましたー」
そこへソフィアがのんびりと茶道具を持って厨房から顔を出す、途端、
「ソフィー、みて、みてー、ニコがお嬢様描いたのよー」
「はいはい、さっきも聞いたわよ」
ソフィアは茶を配りつつ席に着いた、一行が食堂に入った時、ソフィアは丁度二仕事程度を終えたところで、レインは暖炉前で書を開いていた、レインはそのまま我関せずと書に没頭している、
「ふふっ、どうかな良く描けていると思うのだが」
レアンが遠慮がちに自分の自画像をソフィアへ向けた、自分が描いた訳ではないのであるし、自分は十分に満足している絵なのであるが、やはり他人に見せるのは緊張してしまう、
「まぁ、とてもお嬢様らしいですね、高貴な感じが良くでてると思います」
ソフィアはニコリと褒め称える、
「そうかな、そう思うか」
レアンはホッと安心して小さく満足そうに頷いた、
「ふふっ、それになんていうか・・・あれです、優しいんですけど意地悪な所も見えますね」
続いたソフィアの評価にレアンはムッとその顔を顰め、
「そうなの、そうなの、優しいんだけどイジワルなのー」
ミナがキャッキャッと囃し立てた、
「まったく、これだから大人は嫌だ、褒めたと思ったらすぐに貶すのだからな」
レアンがムスリとソフィアを睨みつけ、ユスティーナとエレイン、ライニールは子供らしい言葉に思わず微笑を浮かべる、
「あら、失礼しました、でも、私は芸術云々はさっぱりなのですが、良い絵だと思いますよー」
「ムッ、それでは誤魔化されんぞ」
「誤魔化してませんよー」
ソフィアは適当に笑って茶を口にする、
「そうね、良い絵ではあるわね」
ユスティーナがしみじみと呟き、茶に手を伸ばした、
「であれば、どうでしょう、しっかりとした母上の肖像画を頼むのは、どうかなエレイン会長、あの絵師に依頼は可能なのかな?」
レアンがユスティーナの肖像画の件を思い出した、エレインから家族揃った肖像画も良いとは聞いているが、ここはやはりユスティーナの肖像画を求めてしまう、
「そう・・・ですね、イース様に確認してみましょう、彼女は向こうのお抱えなので・・・本人は頼めば喜んで描くでしょうが・・・すいません、確認致します」
エレインはうーんと悩みながら答える、これは中々に難しい問題であった、貴族社会の通例で考えた場合、お抱えの絵師や芸術家を他家に派遣する事はまずもって考えられない行為であるらしい、エレインの実家にはお抱えの絵師などいなかった為まるで実感の伴い問題なのであるが、先日アフラから一応注意するようにと言われている、
「そうか・・・それもそうかもしれんな、イース殿の実家のお抱えであったか・・・」
レアンもその辺の事情は理解しているのであろう、なるほどと首を傾げてしまった、それと同時にユスティーナがイフナースその人のことを思い出し、それもあったわねと悩みだす、エレインがライダー子爵家の娘である事は周知であり、その縁戚にあたる高位の貴族であろう事はその立ち居振る舞いから推測していた、しかし、それ以上の情報は皆無である、リシャルトが探りを入れたらしいが、ライダー子爵家は王都を越えて反対側に領地がある、王都のこちら側、ヘルデル公の影響下にある貴族であれば簡単に割り出せるのであるが、その影響下に無いとなると難しい様子であった、さらにお忍びとしてその名を明かさない貴族への詮索は基本的に無礼な行為ともされている、探っている事を知られればそれだけで不興を買う事になる、そうなるとエレインとの仲も難しいものになるかもしれない、諸々を懸案しリシャルトはある程度警戒しつつ調査は切り上げたようであった、なによりイフナース本人は特に問題を起こしそうな人物ではないだろうとユスティーナが証言し、レアンも同感のようである、リシャルトは主である二人共が若干の好意を持っている様子である事を敏感に察し、敵対的な立場を明確にしない限りは対策の必要は無いと判断しカラミッドもそれで構わないとの事であった、
「そうだ、一度正式に御挨拶をしたいと思っていたのですけど」
ユスティーナは彼女としては実に珍しいニンマリとした笑顔でエレインを見つめる、
「挨拶ですか?」
「そうね、失礼かと思いますがイース様は高位貴族とお見受けます、当家としても伯爵家の端くれ、是非ゆっくりとお迎えして歓待させて頂ければと思ってましたの」
「歓待・・・ですか・・・」
エレインはアチャーと大変に困った顔となる、それはレアンとユスティーナの前もあって完全に油断していた為であった、二人もエレインを前にすると貴族の仮面を被ることは殆ど無く、それは二人を前にしたエレインも同じなのである、
「難しいかしら?」
ユスティーナはニヤニヤとエレインを見つめ、
「そう・・・ですね、はい、一旦持ち帰らせて下さい、その、イース様は大変に・・・」
とエレインは定型の断り文句を口に出しかけ飲み込んだ、療養の為お忍びでモニケンダムに逗留していると二人には紹介していると記憶している、となると忙しいという言い訳は成り立たず、病身の為は言い訳にはなるが、元気な姿で二人に対している、持病の悪化等となると御見舞として足を運びたいとなるかもしれない、これは変な言葉を使っては後々問題になるかもしれないとエレインは軽い冷や汗を感じて黙する事を選択した、
「そうね、急で申し訳ないわね、でも、少しばかり考えておいてね」
ニコリと微笑むユスティーナである、断るのが難しい独特の圧を感じエレインは思わずコクリと頷いてしまった、ユスティーナも病床に長い事あった身であるが根っからの貴族であった、この程度の駆け引きは当然の事であり、独特の圧により他人を制御する術も身に付けている、そしてユスティーナはイフナースをレアンの伴侶としてどうかしらと画策していた、レアンはどうか分らないがその伴侶として有望であるとユスティーナは一目で見抜いたのである、なかなかにお目が高いと称賛に値する審美眼であった、しかし、イフナースの正体を知っていればそのような評価は端から存在しなかったであろう、流石のユスティーナも王族を相手に婚姻関係を持とうなどとは思ってもいないし、貴族内での軋轢も重々理解している、しかしその大事な前情報が欠落していた、そうなると現状持ちうる情報から判断するに、若干年が離れているがその程度は問題では無く、お互いの家の格式が合えば双方に益となる事であるとユスティーナは考えている、ユスティーナ自身も10代前半でカラミッドとの縁談がまとまっていたのだ、レアンはもうその年齢を若干であるが越えている、カラミッドはこの手の話題を意識して避けている様子であったが、ユスティーナとしては早めに決めておけばそれだけ安心できると気が逸っている問題であったりする、これも病を克服し元気になった作用というものであろう、
「ソフィー、いるー?」
そこへズカズカと足音を立ててユーリが下りてきた、
「わっ、これはユスティーナ様、レアン様、失礼致しました、御機嫌麗しゅう」
平然と茶を手にした二人に気付いて慌てて畏まるユーリに、ユスティーナとレアンは優雅な笑みを浮かべるのであった。
「なるほど、これはこれで良いな、ミナ貰ってよいか?」
「ダメー、これはミナのなの、お嬢様のは描いてもらったでしょー」
「この寝てる顔が秀逸だ、悪戯したくなる、そう思いませんか母上?」
「そうね、どれも可愛いわね」
「むふふー、でしょでしょ」
テーブル上のミナの顔が描き散らされた素描を手にしてユスティーナが目を細める、パトリシアが下書きと呼んでニコリーネを叱りつけたその絵であるが、ミナは自慢気に披露し、ユスティーナとレアンはそれだけでも絵としての面白さを受け取ったようだ、
「でも、そうね、こう見るとエレインさんの言った意味が良くわかるわね」
「そう思われますか?」
エレインがニコリと答える、思い付きの詭弁にしては説得力があったらしい、
「絵画の嗜みは貴族の義務ですからね、この絵のミナちゃんはそのままを描いているように見えますが、こちらの絵はエレインさんの言う対象の理想・・・というよりも願望かしらね、そういうのが感じられる絵ね、どちらも良いと思いますが、私はミナちゃんの素朴な感じが出ているこっちの絵の方が好きかしら・・・」
「むぅ、母上の肖像画も素晴らしいですよ、優しい笑みといい、知的な目元といい、良く表現されております」
レアンがニコリーネに描かせた三枚の絵を並べて不満顔である、その絵は色をのせた肖像画であり、レアンとユスティーナ、カラミッドの肖像画となる、ユスティーナの肖像画は色をのせる為に時間がかかるとニコリーネは前置きしていたが、それでもあっという間に描いて見せ、その出来も素晴らしいものであった、レアンはこれであればとカラミッドの肖像画を所望し、カラミッドも娘に頼まれては嫌とは言えず乱雑な街中の衆目が集まる中で椅子に座る事となる、そしてレアンもまた自身の色をのせた肖像画を所望し、都合四枚の肖像画が描かれた、そのうち色をのせてないレアンの肖像画は画架に飾られる事となった、エレインが是非にと願った為である、さらにその肖像画にはレアンのサインも付記された、これもレアンを知る者が見れば伯爵家御用達の証となるであろう、
「そうね、でも少しふっくらしすぎなのですよ、恐らくその願望をあの絵師さんは描いてくれたのよね」
「そうでしょうか・・・」
レアンは手元の絵とユスティーナを何度か見比べ、
「確かに、健康的には見えますが、母上は十分に健康です、間違っておりません」
「あら・・・では、私がそう望んでいるからそう見えるのかしらね・・・でも、そう考えると、面白い肖像画だわね」
ユスティーナはやんわりと自説を引っ込めたようである、肖像画は所詮絵画である、絵画はどうしても見た者の解釈によって大きく意味合いが変わるもので、その受け取り方も印象も千差万別となるのが当然であった、故に芸術という受け取った側に解釈の余地を預ける曖昧な概念に括られてしまうのである、ユスティーナとしてはそれはそれでそういうものだと理解しており、レアンがこの肖像画を見てどう感じるかはレアン次第であるし、自分がこの肖像画を見て感じるところとは大きく違うのは当然と認識している、その為これ以上の議論は不毛になるなと一歩引いたのであった、実に正しい大人の対応と呼ぶべき配慮である、そして、ニコリーネの描いた肖像画はエレインの解説の通りに商売向けに改良してあるのかもしれないとユスティーナは感じる、それでもなお、そこに曖昧な解釈を許容し、かつ美しいと思える肖像画になっている所を考えるに、ニコリーネは芸術家と呼んで差し支えない技術を持った絵師なのであろうとユスティーナは言葉にせずに評価した、
「お茶が入りましたー」
そこへソフィアがのんびりと茶道具を持って厨房から顔を出す、途端、
「ソフィー、みて、みてー、ニコがお嬢様描いたのよー」
「はいはい、さっきも聞いたわよ」
ソフィアは茶を配りつつ席に着いた、一行が食堂に入った時、ソフィアは丁度二仕事程度を終えたところで、レインは暖炉前で書を開いていた、レインはそのまま我関せずと書に没頭している、
「ふふっ、どうかな良く描けていると思うのだが」
レアンが遠慮がちに自分の自画像をソフィアへ向けた、自分が描いた訳ではないのであるし、自分は十分に満足している絵なのであるが、やはり他人に見せるのは緊張してしまう、
「まぁ、とてもお嬢様らしいですね、高貴な感じが良くでてると思います」
ソフィアはニコリと褒め称える、
「そうかな、そう思うか」
レアンはホッと安心して小さく満足そうに頷いた、
「ふふっ、それになんていうか・・・あれです、優しいんですけど意地悪な所も見えますね」
続いたソフィアの評価にレアンはムッとその顔を顰め、
「そうなの、そうなの、優しいんだけどイジワルなのー」
ミナがキャッキャッと囃し立てた、
「まったく、これだから大人は嫌だ、褒めたと思ったらすぐに貶すのだからな」
レアンがムスリとソフィアを睨みつけ、ユスティーナとエレイン、ライニールは子供らしい言葉に思わず微笑を浮かべる、
「あら、失礼しました、でも、私は芸術云々はさっぱりなのですが、良い絵だと思いますよー」
「ムッ、それでは誤魔化されんぞ」
「誤魔化してませんよー」
ソフィアは適当に笑って茶を口にする、
「そうね、良い絵ではあるわね」
ユスティーナがしみじみと呟き、茶に手を伸ばした、
「であれば、どうでしょう、しっかりとした母上の肖像画を頼むのは、どうかなエレイン会長、あの絵師に依頼は可能なのかな?」
レアンがユスティーナの肖像画の件を思い出した、エレインから家族揃った肖像画も良いとは聞いているが、ここはやはりユスティーナの肖像画を求めてしまう、
「そう・・・ですね、イース様に確認してみましょう、彼女は向こうのお抱えなので・・・本人は頼めば喜んで描くでしょうが・・・すいません、確認致します」
エレインはうーんと悩みながら答える、これは中々に難しい問題であった、貴族社会の通例で考えた場合、お抱えの絵師や芸術家を他家に派遣する事はまずもって考えられない行為であるらしい、エレインの実家にはお抱えの絵師などいなかった為まるで実感の伴い問題なのであるが、先日アフラから一応注意するようにと言われている、
「そうか・・・それもそうかもしれんな、イース殿の実家のお抱えであったか・・・」
レアンもその辺の事情は理解しているのであろう、なるほどと首を傾げてしまった、それと同時にユスティーナがイフナースその人のことを思い出し、それもあったわねと悩みだす、エレインがライダー子爵家の娘である事は周知であり、その縁戚にあたる高位の貴族であろう事はその立ち居振る舞いから推測していた、しかし、それ以上の情報は皆無である、リシャルトが探りを入れたらしいが、ライダー子爵家は王都を越えて反対側に領地がある、王都のこちら側、ヘルデル公の影響下にある貴族であれば簡単に割り出せるのであるが、その影響下に無いとなると難しい様子であった、さらにお忍びとしてその名を明かさない貴族への詮索は基本的に無礼な行為ともされている、探っている事を知られればそれだけで不興を買う事になる、そうなるとエレインとの仲も難しいものになるかもしれない、諸々を懸案しリシャルトはある程度警戒しつつ調査は切り上げたようであった、なによりイフナース本人は特に問題を起こしそうな人物ではないだろうとユスティーナが証言し、レアンも同感のようである、リシャルトは主である二人共が若干の好意を持っている様子である事を敏感に察し、敵対的な立場を明確にしない限りは対策の必要は無いと判断しカラミッドもそれで構わないとの事であった、
「そうだ、一度正式に御挨拶をしたいと思っていたのですけど」
ユスティーナは彼女としては実に珍しいニンマリとした笑顔でエレインを見つめる、
「挨拶ですか?」
「そうね、失礼かと思いますがイース様は高位貴族とお見受けます、当家としても伯爵家の端くれ、是非ゆっくりとお迎えして歓待させて頂ければと思ってましたの」
「歓待・・・ですか・・・」
エレインはアチャーと大変に困った顔となる、それはレアンとユスティーナの前もあって完全に油断していた為であった、二人もエレインを前にすると貴族の仮面を被ることは殆ど無く、それは二人を前にしたエレインも同じなのである、
「難しいかしら?」
ユスティーナはニヤニヤとエレインを見つめ、
「そう・・・ですね、はい、一旦持ち帰らせて下さい、その、イース様は大変に・・・」
とエレインは定型の断り文句を口に出しかけ飲み込んだ、療養の為お忍びでモニケンダムに逗留していると二人には紹介していると記憶している、となると忙しいという言い訳は成り立たず、病身の為は言い訳にはなるが、元気な姿で二人に対している、持病の悪化等となると御見舞として足を運びたいとなるかもしれない、これは変な言葉を使っては後々問題になるかもしれないとエレインは軽い冷や汗を感じて黙する事を選択した、
「そうね、急で申し訳ないわね、でも、少しばかり考えておいてね」
ニコリと微笑むユスティーナである、断るのが難しい独特の圧を感じエレインは思わずコクリと頷いてしまった、ユスティーナも病床に長い事あった身であるが根っからの貴族であった、この程度の駆け引きは当然の事であり、独特の圧により他人を制御する術も身に付けている、そしてユスティーナはイフナースをレアンの伴侶としてどうかしらと画策していた、レアンはどうか分らないがその伴侶として有望であるとユスティーナは一目で見抜いたのである、なかなかにお目が高いと称賛に値する審美眼であった、しかし、イフナースの正体を知っていればそのような評価は端から存在しなかったであろう、流石のユスティーナも王族を相手に婚姻関係を持とうなどとは思ってもいないし、貴族内での軋轢も重々理解している、しかしその大事な前情報が欠落していた、そうなると現状持ちうる情報から判断するに、若干年が離れているがその程度は問題では無く、お互いの家の格式が合えば双方に益となる事であるとユスティーナは考えている、ユスティーナ自身も10代前半でカラミッドとの縁談がまとまっていたのだ、レアンはもうその年齢を若干であるが越えている、カラミッドはこの手の話題を意識して避けている様子であったが、ユスティーナとしては早めに決めておけばそれだけ安心できると気が逸っている問題であったりする、これも病を克服し元気になった作用というものであろう、
「ソフィー、いるー?」
そこへズカズカと足音を立ててユーリが下りてきた、
「わっ、これはユスティーナ様、レアン様、失礼致しました、御機嫌麗しゅう」
平然と茶を手にした二人に気付いて慌てて畏まるユーリに、ユスティーナとレアンは優雅な笑みを浮かべるのであった。
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