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本編
59話 お披露目会 その24
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そうして午前の中頃に、予定されていた賓客が到着する、3台の馬車と荷馬車が一台、御者の腕が良いのであろう見事な列となって屋敷の前に着いた、エレインとテラは一行を畏まって迎え、笑顔を湛えたカラミッドが、
「待ちかねておったぞ」
と期待にその声を震わせて馬車から降りてきた、
「そんな、領主様にそこまで言われてはこちらが恐縮してしまいます」
エレインは即座に笑顔でへりくだる、
「そうかな?いや、レアンとユスティーナがな、全身鏡はすごいだの、3面鏡台は素晴らしいだのと儂が知らないと思って調子にのっておってな、困っていたのだ」
ガッハッハとカラミッドは大笑した、レアンとユスティーナは2台目の馬車から降りているところで、カラミッドの隣りには業者台に乗っていたリシャルトがすまし顔で控えている、
「あら・・・それは・・・肩身が狭かったのではないですか?」
「うむ、今の内に言うがな、あれだ、やはり今からでも息子を作らんとな、家庭内に味方が居らんでな、ユスティーナが元気になってからはもう儂は悪役なのだ、正直困っておる、リシャルトもライニールもそうなると知らんぷりでな、まったく使えない事この上ない」
カラミッドはキッとリシャルトを睨むが、リシャルトは表情をピクリとも変えずに視線だけを逃がした、
「まったく、これだ・・・じゃからな、エレイン会長には言っておくぞ、家庭の円満を願うのであれば、息子と娘を産まねばならんぞ、授かりものなどというものもおるがな、女親も大事だが、男親も大事にしなければならん、うん、違うかな?」
実に機嫌の良いカラミッドであった、ニヤニヤと高説を垂れながし、エレインとテラはカラミッドがこれほどに家庭的な話しが好きであったのかと驚いている、カラミッドとしてもその肩書に直接関わりの薄い上に話しやすいエレインとテラを相手にし、自身の上機嫌も相まって口が軽くなっていたのであろう、さらにユスティーナの快復による家庭内の力関係の変化も多いに影響していた、どうやらカラミッドは妻と娘にやり込められているらしい、しかし、それを笑顔で他人に話している様子をみる限り、これはこれで円満なのであろうと思える、しかし、もしこの時にリシャルトが助言するとすれば、エレインはレアンとユスティーナの大の親友であると先に口添えるべきだったろう、これがもし本気の愚痴であったなら、それを吐露するに相応しい相手ではないであろうから、そこへ、
「あら、楽しそうね」
ユスティーナがニコニコと近寄り、
「うむ、待ちわびたぞ」
レアンは細い胸をこれでもかと張っている、エレインとテラはこちらも丁寧に迎え、ライニールと数名のメイド、さらに見慣れない高齢の従者が一人馬車から降り立つ、
「では、こちらへどうぞ、御足労頂きましたこと心より感謝致します」
エレインが一行が揃うのを確認し、本日のお披露目会が始まった。
「素晴らしい壁画ですわね」
「そうですね、こう吸い込まれるようです、何とも奇妙な感覚です」
「ありがとうございます、あちらはミナちゃんとレインちゃんにも協力頂いたのですよ」
「なに?そうなのか?」
「はい、あの大樹の絵を描いたのがミナちゃんとレインちゃんと絵師なのです」
「あれは、あれであろう、裏山の大樹であろう?」
「分かりますか?流石レアン様です」
「ふふん、わからいでか、なるほどな、それを聞くと・・・もしかするとあの猫は・・・」
「はい、絵師曰く、ミナちゃんとレインちゃんを思い描いたと・・・」
「まぁ、ふふ、そう言われれば似てるわね、寝てる方がレインちゃん?」
「あの悪そうな方がミナだな」
「悪そうは言いすぎよ、元気が余ってる感じで可愛いわね」
「むー、悪そうで良いではないですか」
「駄目です、いいですか、どのようなものでも褒め方と誉め言葉があるものなのですよ」
「・・・そうでしょうが・・・」
「だから、あのニャンコは・・・そうね、悪戯好きでやんちゃな子と評するのが上品ね」
「確かに・・・まんまミナですね」
「そうね・・・ふふっ、よく似てるわね」
領主一行がガラス鏡店に一歩踏み入れると、カラミッドらは実に分かりやすい感嘆の声を上げた、レアンは得意そうであり、ユスティーナもほれ見た事かと片眉を上げる、そのまま、レアンとユスティーナはグルリと簡単に店舗内を巡ったのであるが、カラミッドはやはり鏡一つ一つに足を止めており、同行するメイドと従者、リシャルトもテラによるそれぞれの商品説明に耳を傾けながら、ガラス鏡に映る自身の姿から目を離せなくなっていた、そして、エレインはレアンとユスティーナを応接テーブルに着かせ、ノンビリと壁画を見上げているのである、
「そうですね、で、今日からなのですが、その絵師さんが事務所の前でお店を開いておりまして」
エレインは昨日の反省から言うべきことをさっさと言っておくのが賢いであろうと口を開く、
「あら、お店?」
「絵師がか?」
「はい、その子はイース様の実家のお抱えなのですが、どうにも度胸が足りないと・・・この壁画を描く時にもすったもんだがありまして、なので・・・修業という事ですね」
「でも・・・絵師が何を売るんですの?」
「絵ですわ」
「そりゃそうだろうな」
「はい、学園長の入れ知恵になるのですが、肖像画を描いて売るのはどうかと助言を頂きまして、実際に御自身もそうして路銀を賄ったとか・・・」
エレインは淡々と事情を説明する、すると、
「それは面白いわね」
「うむ、見てみたいな」
二人の興味を引いたらしい、新しもの好きのユスティーナは勿論であるが、レアンも乗り気の様子である、
「そう言えば、母上の肖像画も描かなければなりませんぞ」
「あら、アナタとカラミッド様ので十分よ」
「駄目です、折角元気になったのですから、母上の肖像画も欲しいです」
「もう、そうね、もう少し肉が付いたらね、痩せていると老いて見えるから」
「約束ですよ」
レアンがどこか心配そうにユスティーナを伺う、クレオノート家も伯爵位にある家として恥ずかしくない程度に肖像画はあるのであるが、それはレアンが生まれる前のものが多く、ユスティーナが病みついてからはカラミッドとレアンのそれは数枚描かれているが、ユスティーナのものは一枚も無い、カラミッドは寝床にあっても描けるであろうとユスティーナを説得した事もあるが、病身の姿を残すのは嫌だとユスティーナは頑として受け入れなかったのである、レアンは今でこそその気持ちは分かるのであるが、幼少の頃はそれを酷く寂しいものとして感じていた、なにせ自分とカラミッドの肖像画は誇らしく飾られているのであるが、そこに母親の姿が並んでいないのである、子供心に父親と母親の仲が悪い為であろうかと悩んだこともあったし、自分が原因かもしれないと見当違いの心配をした事もあった、
「であれば、家族並んでの肖像画が良いのではないですか?」
エレインが二人のやりとりに優しく微笑む、
「む、それも良いな」
「はい、数年に一度は家族での肖像画を残す家をあるらしいです、お一人お一人の絵も良いですが、お三人様が並んだ絵も宜しいかと思います」
「確かにな、うん、母上、良いと思います」
「そうね・・・それもいいわね」
レアンが嬉しそうに顔を上げ、ユスティーナも優しく微笑む、側に控えるケイランも嬉しそうに微笑んでいた、そこへ、
「いや、素晴らしいな」
カラミッドがじっくりと3面鏡台を楽しんだ後で応接テーブルに向かって来る、ケイランがすぐにその席を用意し、エレインは一旦腰を上げ、
「御満足頂けましたでしょうか」
「うん、いやな、さっきも言ったがレアンもユスティーナも自慢話ばかりでな、しかし、実物を見るとなるほどと納得してしまったわ、いや、大したものだ」
カラミッドはヤレヤレと席に着く、
「ふふ、カラミッド様はまるで信じてなかったんですよ」
「まったくです、幾ら説明しても分かった分かったとしたり顔でした」
「そう言うな、で、注文はしてあるのであろう?」
「はい、品も用意が出来ております、お待たせしまして申し訳ありませんでした」
エレインは謝罪の言葉を述べつつ注文伝票を取り出し、数量を確認する、レアンとユスティーナはうんうんと頷いているが、
「あー、あれか、3面鏡台は儂の分は無いのか?」
二人に向かって目を細めるカラミッドである、
「あら、必要ですか?」
「父上の部屋には全身鏡を置きますからそれで良いでしょう、壁鏡もありますし」
「そうよね、私とレアンの部屋には3面鏡台と姿見で十分ですわよ」
「いや、まて、勝手に決めるな」
「あら、何度も説明したではないですか」
「聞いてなかった父上が悪いのです」
軽い親子喧嘩か夫婦喧嘩か、家族喧嘩と呼んでも差し支えない様相である、エレインはあらあらと困り顔になり、ケイランはそれさえも愛おしく感じるのか微笑みを絶やさない、
「まぁ良い、エレイン会長、先程も言ったがな、家庭不和とはこういう事から起こるのだぞ」
カラミッドはどうやら口ではかなわないとエレインに逃げ出し、
「あら、私達の大事な友達にそのような口を聞くとは」
「そうですな、エレイン会長はどこまでも私達の味方だと思いますが?」
その逃げ場を早速塞いでしまう母娘である、これにはカラミッドはまったくと溜息を吐き、
「おっ、それはガラスペンか・・・」
と話題を逸らせた、
「はい、こちらなんですが」
エレインはここは変に突っ込むのは失礼かしらとカラミッドに合わせつつ、他の面々の様子を伺う、見ればメイド達は全身鏡を前にしてライニールと詳しく打ち合わせをしている様子で、テラを交えて話し込んでおり、リシャルトは3面鏡台に座った高齢の従者とコソコソと言葉を交わしている、エレインはリシャルトが筆頭従者であったはずと思い、その力関係に疑問を感じるが、そのまま新商品の紹介に移った、ガラスの爪ヤスリとガラスペンの台、そしてやわらかクリームである、そして、ライニールとリシャルトが一周りした事を確認し、
「では、新しい焼き菓子を用意しております、ケイランさん、お願いします」
と茶とチーズケーキ、クレオの一時を供し、何度目かの絶賛の声が店内に響いたのであった。
「待ちかねておったぞ」
と期待にその声を震わせて馬車から降りてきた、
「そんな、領主様にそこまで言われてはこちらが恐縮してしまいます」
エレインは即座に笑顔でへりくだる、
「そうかな?いや、レアンとユスティーナがな、全身鏡はすごいだの、3面鏡台は素晴らしいだのと儂が知らないと思って調子にのっておってな、困っていたのだ」
ガッハッハとカラミッドは大笑した、レアンとユスティーナは2台目の馬車から降りているところで、カラミッドの隣りには業者台に乗っていたリシャルトがすまし顔で控えている、
「あら・・・それは・・・肩身が狭かったのではないですか?」
「うむ、今の内に言うがな、あれだ、やはり今からでも息子を作らんとな、家庭内に味方が居らんでな、ユスティーナが元気になってからはもう儂は悪役なのだ、正直困っておる、リシャルトもライニールもそうなると知らんぷりでな、まったく使えない事この上ない」
カラミッドはキッとリシャルトを睨むが、リシャルトは表情をピクリとも変えずに視線だけを逃がした、
「まったく、これだ・・・じゃからな、エレイン会長には言っておくぞ、家庭の円満を願うのであれば、息子と娘を産まねばならんぞ、授かりものなどというものもおるがな、女親も大事だが、男親も大事にしなければならん、うん、違うかな?」
実に機嫌の良いカラミッドであった、ニヤニヤと高説を垂れながし、エレインとテラはカラミッドがこれほどに家庭的な話しが好きであったのかと驚いている、カラミッドとしてもその肩書に直接関わりの薄い上に話しやすいエレインとテラを相手にし、自身の上機嫌も相まって口が軽くなっていたのであろう、さらにユスティーナの快復による家庭内の力関係の変化も多いに影響していた、どうやらカラミッドは妻と娘にやり込められているらしい、しかし、それを笑顔で他人に話している様子をみる限り、これはこれで円満なのであろうと思える、しかし、もしこの時にリシャルトが助言するとすれば、エレインはレアンとユスティーナの大の親友であると先に口添えるべきだったろう、これがもし本気の愚痴であったなら、それを吐露するに相応しい相手ではないであろうから、そこへ、
「あら、楽しそうね」
ユスティーナがニコニコと近寄り、
「うむ、待ちわびたぞ」
レアンは細い胸をこれでもかと張っている、エレインとテラはこちらも丁寧に迎え、ライニールと数名のメイド、さらに見慣れない高齢の従者が一人馬車から降り立つ、
「では、こちらへどうぞ、御足労頂きましたこと心より感謝致します」
エレインが一行が揃うのを確認し、本日のお披露目会が始まった。
「素晴らしい壁画ですわね」
「そうですね、こう吸い込まれるようです、何とも奇妙な感覚です」
「ありがとうございます、あちらはミナちゃんとレインちゃんにも協力頂いたのですよ」
「なに?そうなのか?」
「はい、あの大樹の絵を描いたのがミナちゃんとレインちゃんと絵師なのです」
「あれは、あれであろう、裏山の大樹であろう?」
「分かりますか?流石レアン様です」
「ふふん、わからいでか、なるほどな、それを聞くと・・・もしかするとあの猫は・・・」
「はい、絵師曰く、ミナちゃんとレインちゃんを思い描いたと・・・」
「まぁ、ふふ、そう言われれば似てるわね、寝てる方がレインちゃん?」
「あの悪そうな方がミナだな」
「悪そうは言いすぎよ、元気が余ってる感じで可愛いわね」
「むー、悪そうで良いではないですか」
「駄目です、いいですか、どのようなものでも褒め方と誉め言葉があるものなのですよ」
「・・・そうでしょうが・・・」
「だから、あのニャンコは・・・そうね、悪戯好きでやんちゃな子と評するのが上品ね」
「確かに・・・まんまミナですね」
「そうね・・・ふふっ、よく似てるわね」
領主一行がガラス鏡店に一歩踏み入れると、カラミッドらは実に分かりやすい感嘆の声を上げた、レアンは得意そうであり、ユスティーナもほれ見た事かと片眉を上げる、そのまま、レアンとユスティーナはグルリと簡単に店舗内を巡ったのであるが、カラミッドはやはり鏡一つ一つに足を止めており、同行するメイドと従者、リシャルトもテラによるそれぞれの商品説明に耳を傾けながら、ガラス鏡に映る自身の姿から目を離せなくなっていた、そして、エレインはレアンとユスティーナを応接テーブルに着かせ、ノンビリと壁画を見上げているのである、
「そうですね、で、今日からなのですが、その絵師さんが事務所の前でお店を開いておりまして」
エレインは昨日の反省から言うべきことをさっさと言っておくのが賢いであろうと口を開く、
「あら、お店?」
「絵師がか?」
「はい、その子はイース様の実家のお抱えなのですが、どうにも度胸が足りないと・・・この壁画を描く時にもすったもんだがありまして、なので・・・修業という事ですね」
「でも・・・絵師が何を売るんですの?」
「絵ですわ」
「そりゃそうだろうな」
「はい、学園長の入れ知恵になるのですが、肖像画を描いて売るのはどうかと助言を頂きまして、実際に御自身もそうして路銀を賄ったとか・・・」
エレインは淡々と事情を説明する、すると、
「それは面白いわね」
「うむ、見てみたいな」
二人の興味を引いたらしい、新しもの好きのユスティーナは勿論であるが、レアンも乗り気の様子である、
「そう言えば、母上の肖像画も描かなければなりませんぞ」
「あら、アナタとカラミッド様ので十分よ」
「駄目です、折角元気になったのですから、母上の肖像画も欲しいです」
「もう、そうね、もう少し肉が付いたらね、痩せていると老いて見えるから」
「約束ですよ」
レアンがどこか心配そうにユスティーナを伺う、クレオノート家も伯爵位にある家として恥ずかしくない程度に肖像画はあるのであるが、それはレアンが生まれる前のものが多く、ユスティーナが病みついてからはカラミッドとレアンのそれは数枚描かれているが、ユスティーナのものは一枚も無い、カラミッドは寝床にあっても描けるであろうとユスティーナを説得した事もあるが、病身の姿を残すのは嫌だとユスティーナは頑として受け入れなかったのである、レアンは今でこそその気持ちは分かるのであるが、幼少の頃はそれを酷く寂しいものとして感じていた、なにせ自分とカラミッドの肖像画は誇らしく飾られているのであるが、そこに母親の姿が並んでいないのである、子供心に父親と母親の仲が悪い為であろうかと悩んだこともあったし、自分が原因かもしれないと見当違いの心配をした事もあった、
「であれば、家族並んでの肖像画が良いのではないですか?」
エレインが二人のやりとりに優しく微笑む、
「む、それも良いな」
「はい、数年に一度は家族での肖像画を残す家をあるらしいです、お一人お一人の絵も良いですが、お三人様が並んだ絵も宜しいかと思います」
「確かにな、うん、母上、良いと思います」
「そうね・・・それもいいわね」
レアンが嬉しそうに顔を上げ、ユスティーナも優しく微笑む、側に控えるケイランも嬉しそうに微笑んでいた、そこへ、
「いや、素晴らしいな」
カラミッドがじっくりと3面鏡台を楽しんだ後で応接テーブルに向かって来る、ケイランがすぐにその席を用意し、エレインは一旦腰を上げ、
「御満足頂けましたでしょうか」
「うん、いやな、さっきも言ったがレアンもユスティーナも自慢話ばかりでな、しかし、実物を見るとなるほどと納得してしまったわ、いや、大したものだ」
カラミッドはヤレヤレと席に着く、
「ふふ、カラミッド様はまるで信じてなかったんですよ」
「まったくです、幾ら説明しても分かった分かったとしたり顔でした」
「そう言うな、で、注文はしてあるのであろう?」
「はい、品も用意が出来ております、お待たせしまして申し訳ありませんでした」
エレインは謝罪の言葉を述べつつ注文伝票を取り出し、数量を確認する、レアンとユスティーナはうんうんと頷いているが、
「あー、あれか、3面鏡台は儂の分は無いのか?」
二人に向かって目を細めるカラミッドである、
「あら、必要ですか?」
「父上の部屋には全身鏡を置きますからそれで良いでしょう、壁鏡もありますし」
「そうよね、私とレアンの部屋には3面鏡台と姿見で十分ですわよ」
「いや、まて、勝手に決めるな」
「あら、何度も説明したではないですか」
「聞いてなかった父上が悪いのです」
軽い親子喧嘩か夫婦喧嘩か、家族喧嘩と呼んでも差し支えない様相である、エレインはあらあらと困り顔になり、ケイランはそれさえも愛おしく感じるのか微笑みを絶やさない、
「まぁ良い、エレイン会長、先程も言ったがな、家庭不和とはこういう事から起こるのだぞ」
カラミッドはどうやら口ではかなわないとエレインに逃げ出し、
「あら、私達の大事な友達にそのような口を聞くとは」
「そうですな、エレイン会長はどこまでも私達の味方だと思いますが?」
その逃げ場を早速塞いでしまう母娘である、これにはカラミッドはまったくと溜息を吐き、
「おっ、それはガラスペンか・・・」
と話題を逸らせた、
「はい、こちらなんですが」
エレインはここは変に突っ込むのは失礼かしらとカラミッドに合わせつつ、他の面々の様子を伺う、見ればメイド達は全身鏡を前にしてライニールと詳しく打ち合わせをしている様子で、テラを交えて話し込んでおり、リシャルトは3面鏡台に座った高齢の従者とコソコソと言葉を交わしている、エレインはリシャルトが筆頭従者であったはずと思い、その力関係に疑問を感じるが、そのまま新商品の紹介に移った、ガラスの爪ヤスリとガラスペンの台、そしてやわらかクリームである、そして、ライニールとリシャルトが一周りした事を確認し、
「では、新しい焼き菓子を用意しております、ケイランさん、お願いします」
と茶とチーズケーキ、クレオの一時を供し、何度目かの絶賛の声が店内に響いたのであった。
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