セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

59話 お披露目会 その17

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「そうなると・・・うーん、決闘ですかね?」

「なんですそれ?」

「軍の度胸試しです、舞台を作って同僚達の前で真剣勝負です」

「どうしてそうなるのよ、第一それは度胸試しでしょ」

「そうですけど・・・度胸つきますよ、野次で叩かれるし、だらしない負け方したら泥投げられるんですから・・・」

「却下ですわ」

「むー・・・それは・・・そうですけど・・・楽しいのになー」

「却下ですわ」

「却下だねー」

「ネー」

「じゃ、あれじゃ、それこそ高所からの飛び降りじゃ、足に紐を括りつけてな、死なないように」

「それ聞いた事ありますわね」

「どっかの祭りでしたっけ?」

「あれは死人が出ると聞いてますが」

「度胸をつける為じゃ、死を恐れる気持ちを超越するのじゃ、有効であろう?」

「ここでは無理よ」

「そこまでの度胸は必要無いでしょ」

「どこから飛び降りますの?」

「怖そうだし痛そうだし・・・」

「それが良いのじゃ」

「えー、やだー、ねー」

「ネー、レイン、コワイー」

「なんじゃとー」

「じゃ、みんなの前で歌うとか?痛くないでしょ」

「それは恥ずかしいですわ」

「だって、度胸つけるんでしょ?」

「・・・何気に・・・難しいですわね・・・度胸・・・って何なんでしょう?」

エレインはフムと沈思する、話題は度胸をつけるという難題に移り、これは面白そうだとウルジュラが参戦し、ミナも楽しそうに席に着いている、ソフィアはのほほんとその様を眺めており、ニコリーネは困った顔でキョロキョロしていた、もう背を丸くする事は無い、エレインは恐らくこれがソフィアの言う、刺激や仲間意識という事なのだろうと思う、商会の事を思い出せば当初からこのように喧々諤々と他愛無いと思える討論を交わしていた、エレインにとってはとても楽しく充実した一時であったと思う、それはオリビアは勿論、ジャネット達もそう感じていたと思う、そしてその成果が屋台であり店舗でありガラス鏡店なのである、きっとこうして遠慮無く意見を出し合い、笑い合いふざける事が無意識の内に問題意識を共有し、目的を明確にし、新しい案を生み、明確な目標へ意識を統一する、エレインはソフィアがこのような討論を意識して仕掛けているのかと疑問に思うが、恐らくソフィアはその場の流れに任せているだけなのであろう、先程の弁舌はこの場にいる者の意識を統一したし、ニコリーネは困惑しつつも顔を上げている、王妃達も積極的に口を開き、パトリシアもどこか楽しそうである、そしてソフィア自身は口を開く事が極端に少なくなる、この雰囲気を楽しんでいるのであろうか、こういう人を策士と呼ぶのかしらとエレインは思うが、良策であればそれに乗るのは賢いと思える、

「失礼致します」

そこへ階段からしわがれた声が響いた、

「あら、学園長どうされました?」

ソフィアがさっと腰を上げ、女性達が一斉に振り返る、

「いや、皆様がいらっしゃっていると上で伺いましてな、御挨拶をと思いまして」

学園長がニコニコと答え、食堂へ踏み入ると、

「ガクエンチョーセンセーだー」

ミナがだだっと走り寄る、

「おう、ミナちゃん、こんにちわじゃ」

「こんにちわー、ガクエンチョーセンセー」

学園長はミナの肩を押さえて満面の笑みである、

「すまんのう、王妃様に御挨拶させてもらってもよいかな?」

学園長は優しくミナに問うと、

「いいよー、王妃様ー、御挨拶だってー」

ヒョイと振り向くミナに一同はまったくと微笑むしかない、学園長はそのまま恭しく頭を垂れ、王妃達もそれなりの返礼をする、エフェリーンもマルルースも先程の討論により、すっかりと弛緩しており王族どころか貴族の仮面が半分以上ズレていた、慌てて背筋を伸ばすが、やはりどこか調子が出ない、それでも相手が学園長であるから気にする必要は無いであろうと笑顔を浮かべている、

「報告になりますが、陛下はお戻りになりました、イフナース殿下とクロノス殿下はこちらの御屋敷に入られております」

「あらっ、早いですわね」

とエフェリーンが目を見開いた、荒野の下見と聞きそれなりに手間がかかるのであろうと考えていたのである、

「はい、あの地は真の意味で何もありませんからな」

学園長がニコリと答えるが、ソフィアはレインから聞いた一件を思い出し、そっちもどうにかした方が良いのであろうかと軽く悩む、自分が為政者であれば喜んで食い付く事案であるのだが、ソフィアはそうでは無いし、勿論その義理も無い、ここでまた自分が動いてどうのこうのとなってはいよいよ変人扱いになりそうですらある、まぁ、近々に必要な情報では無いし、その内他の誰かが気付くかもしれないしと自分を納得させた、

「そうなのね、聞いてはいましたが・・・いいですわ・・・そうだ、博識で鳴る学園長に知恵を提供して欲しいのだけれど・・・良いかしら?」

「・・・知恵ですか?はい、この老骨の頭の中にあるものであれば幾らでも提供致しますぞ」

エフェリーンのやや辛辣に聞こえる問いに、学園長はこれは面白いと目を丸くする、

「そうね、えーと、最初から説明した方が良さそうね・・・」

エフェリーンはチラリとパトリシアを伺い、パトリシアは私が説明するの?とエフェリーンを見つめ返すが、エフェリーンはそりゃそうでしょとすまし顔である、やれやれとパトリシアが口を開き事の次第を説明する、すると徐々にニコリーネの背が丸くなり、再び縮こまって俯いてしまった、

「・・・ふむ、これが作品ですか・・・」

学園長はなるほどと呟いてテーブル上に並んだ紙を手にする、

「素晴らしい描写ですな・・・どれもこれも生き生きとしています、それに繊細で、微笑ましい」

じっくりとミナの様々な表情が並んだそれを見つめ、

「そうですな・・・少し昔話を・・・」

学園長は語り出し、これは長くなるかなとソフィアは席を用意した、学園長は軽く会釈をはさんで腰を落ち着ける、そして自分の徒弟時代から始まり、各地を回り始めた頃へと流れるように続いた、

「での、ここからが本題じゃ」

学園長は嬉しそうにニコリーネを見つめるが、ニコリーネは俯いたままである、

「そこでな、路銀が尽きてな、さてどうするかと困ってしまってのう、王都に連絡するにも時間がかかる、村に入ったばかりで知り合いも無い、で、思い付いたのが、絵画を売る事なのじゃ」

「絵画ですか?」

「うむ、ほれ、儂は気になるものは次々と素描しておったからな、それの集大成があれじゃな」

学園長は暖炉前の毛皮の上に開かれたままの書物へ視線を投げる、

「確かに、あれには素描が多いですね」

「うむ、実物を収集できればそれが一番良いのだが、難しいものもあるでな、そうなると絵と書で書き付けるしかないであろう?でな、それと一緒に手慰みで人の顔を描いてはくれてやったりもしていてな、結構喜ばれたのだぞ」

「へー、そんな事までやってたのですか」

「そうじゃぞ、で、路銀も無い、あるのは行李に詰まった大量の紙と少しばかりの絵具じゃな、だからな、それを何とか金にするにはと考えてな・・・で、描いた絵を画架に貼って人を寄せてな、椅子に座らせてその顔を描いてな、何とかかんとか宿代にしたもんだ、肖像画と言うには稚拙な代物だがな・・・うん」

学園長は懐かしそうに微笑む、話自体は異様に長かったがようは路上で絵を描いて売ったという事らしい、それもその場で書いた肖像画をである、

「あー、そういう事ですか・・・」

ソフィアが学園長の思惑に気付き、エレインとパトリシアも、

「それ、いいかもですね」

「確かに、想像するに・・・うん、度胸はつくのではなくて?」

「その辺でお客さんを取るんでしょ、確かに度胸は必要だねー」

「ネー」

先程からミナはウルジュラの真似をしてはニコニコしている、ウルジュラもまたその度にミナをつついてじゃれていた、

「度胸どころか、逞しくなるわよー」

「もう分かったか、つまらんのう」

学園長はその言葉とは裏腹に楽しそうに口元を歪めて目を細める、

「で、ニコリーネさんとしては絵は描き続けたい、度胸をつけたい・・・うん、どうかな?やってみても良いであろうな、絵の修業にもなるし、人を見れるぞ、それは人を知るという事にも繋がる、無論、度胸もつくじゃろうな、客をさばかねばならんからな、一筋縄ではいかん」

「えっと・・・」

学園長の問い掛けにニコリーネはゆっくりと顔を上げる、

「どう?ニコリーネ、私としてはとても良い案だと思いますわよ」

どうやらパトリシアも乗り気のようである、しかし、

「パトリシア様、それが宜しくない」

学園長の苦言であった、

「失礼ですが、パトリシア様の先ほどのお話を聞く限りパトリシア様の求める芸術は、絵師その人が描きたいものを描くという事では無いでしょうか」

「・・・そうですわね」

ややムッとしてパトリシアは答える、

「であれば、何より大事なのは絵師その人のやる気でしょうな、儂も芸術家と呼ばれる連中は何人か知っておりますが、彼らに共通しているのが作業が遅いという事です、違いますかな?」

「それは確かにそうね」

パトリシア自身も大変に憤慨している事象そのものである、

「そうなのです、で、何故かと聞いた事がありましてな・・・」

「・・・それは興味深いですわね・・・」

ジッとパトリシアの視線が学園長に注がれた、

「はい、単純ですな、やる気にならんのだそうです」

エッと一同の顔が学園長に向かう、皆一様に呆れたような馬鹿にされたような戸惑いの顔であった、

「曰く・・・肖像画を描くのも、神の姿を描くのも、仕事であるからやるが、正直つまらないと・・・で、それを描く気分になるまで時間をかけて練るのだと」

「そうだったんですの?」

パトリシアは何とも鼻息が荒い、そうであろうなと思っていた事がひょんな場所と思いもかけない人物の言葉で裏付けされたのである、

「勿論、その時間の中で下書きを積み重ね、構図を考え、何度も書き直しはするらしいのですが、しかし、結局仕事として与えられた、言わば作業なのですな、作業として描く絵画は簡単なんだと笑ってましたが、しかしそこに芸術性が求められる、これが難題だと、完成した作品には目の肥えた貴族様達の辛辣な意見が降り注ぎます、それが芸術性として難しい部分であると、その文言にするには難しい芸術性を籠める為にはどうしても時間がかかる、それと何より必要なのが・・・」

「やる気ですか?」

「左様・・・やる気と、それを醸成する時間、まぁ、よく言えば閃きでしょうかな・・・他には・・・天啓とか・・・まっ、何とも・・・幾らでも表現はありそうですが・・・うん、そんな感じでして、傍で聞いて居りましてな、何とも悠長な事だなと思いましたな」

アッハッハと学園長は笑うが、パトリシアは実に渋い顔となり、エフェリーンとマルルースも呆れ顔である、

「故にじゃ、ニコリーネさん、今のあなたに必要なのは自分で動くこと・・・自分からやりたいと腰を上げる事・・・度胸は勿論大事なのじゃが、その度胸とは何かと言われれば自発的に動く事、動き出すという単純明快なその一事なのですな、それと・・・自信ですな・・・これも難しい・・・儂の知る絵師は皆、妙に尊大でしてな、貴族様の前ではどうか分らんが、儂の前では自分が世界を統べているくらいに自信たっぷりで偉そうでしてな、恐らくその過剰とすら思える自信と不遜な在り方・・・それが、良い絵を描き切るのに必要な、胆力の元なのではないかとも考えます、難しいところですが・・・」

「あー、それは分かるわね」

「ねー」

「ネー」

「学園長、私も常々そう感じますわね、あの人達には・・・」

「まったくですわ」

学園長の客観的評価に貴人達は賛同している、恐らく身につまされているのであろう、どうやら宮廷付きの絵師達は貴人達の前でも傲慢で不遜であるらしい、それはソフィアのそれとはまた違った感じなのよねとマルルースは考えている、

「でしょうかな・・・ま、それが良い例とは申しませんぞ、正直付き合いにくいですからなあの連中は、故にニコリーネさんにはその創作に必要な部分だけを思い出して欲しいのですな、聞けば父上も絵師との事、私などよりも創作の苦しみは身に染みておりましょう、それに纏ろう様々な障害も・・・だから・・・うん・・・恐らくそこですな、パトリシア様から好きにやれと言われてもどう動いて良いかが分からんのではないかな?」

「・・・そう・・・かも・・・です、はい・・・」

「うむ、で、参考にしようにも周りの絵師はそのような描き方はしていなかった・・・うん、さらに、大樹を描きたい、それは決まっている、でも、それは後々評価の対象になってしまう、その絵が完成したとして自分が良いと思っても、パトリシア様に泥を塗るような事になるかもしれない・・・うん、そう考えると動けませんな、儂でも動けません」

「・・・はい・・・」

蚊の鳴くような声で微かに頷くニコリーネである、

「しかしな、パトリシア様が求めているのはニコリーネさん、あなたが描く絵画なのです、誰でも無くあなたしか描けないものでしょう、それはそうです、あなたの描く絵はあなたにしか描けないのですからな、故に・・・うん、まずはそうですな、人物画を描いて売ってみなさい、自信と度胸は付きますぞ、なにより・・・ふふっ、思い出すのがの・・・自分の肖像画を見て一喜一憂する笑顔だな、嬉しそうで楽しそうで、なのにな、もっと可愛いはずとか、もっとかっこよくしてくれとか、髪が少ないとか、皺が多いとか・・・まったく・・・」

学園長は思い出し笑いを浮かべ、

「一生の宝物ですなんて言われてな・・・あれは得難い経験でした・・・どうかな、ニコリーネさん・・・」

「・・・はいっ、その、やってみたいです、あの、やります、やらせて下さい」

ニコリーネの今日初めての覇気のある声である、パトリシアはジッとその目を見つめ、

「なるほど、分かりましたわ、では、学園長、コツとかありますの?」

「うむ、まずな・・・」

学園長は喜々として話しだす、ソフィアはどうやら何とかなるかなと思いつつも話しが長いんだよなーと心の中で溜息を吐いたのであった。
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