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本編
59話 お披露目会 その5
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商店街の一行の反応はギルド一行のそれを大きく上回った、そして当然であるが、
「設置の際の注意点等あるのか?」
「注文したらいつ納品できるのか?」
等々の購入を前提とした質問が飛び交うが、マフレナは穏やかな笑みで、
「申し訳ありません、本日はお披露目会でございます、商談は20日以降にご予約を頂ければと存じます」
静かで慇懃ではあるが、一切譲る事は無いという強い意思を込めた視線と言葉である、バルトは真摯に微笑み、
「確かに伺っておりました、それに、ここで商談をしていたら明日になってしまいますな」
と冗談含みで笑いを誘い同行者を宥める側に回ってくれたようである、流石まとめ役を任される人物であった、さらに商店街の会員は皆基本的に貴族相手の商売である、故に余裕を見せないと足元を見透かされるという顧客との心理戦も骨身に沁みている為、全身鏡を前にしての一時の狂騒は瞬時に治まり、その内心ではどうであったかは分からないが、優雅な物腰で他の商品へと足を向かわせる、
「マフレナさんも大したものね」
エレインはニコリと微笑み、澄まし顔のマフレナと一行を眺め、
「そうですね、頼りになります」
テラもまたここは任せてもよさそうだとマフレナに一任する事とした、やがて、押し出されるように職人達が辞し、遠くで公務時間終了の鐘が鳴る、そして、商店街の一行がこちらもやや後ろ髪を引かれながらガラス鏡店を辞する頃合いで、門の前にはジャネット達が集まってきていた、テラが対応に走り、ジャネット達は嬉しそうに店に飛び込むと、
「おー、すげー」
「うわっ、こうなるんだー」
「全然違うー」
とこちらは実に素直な黄色い歓声を上げる、
「ほら、そんなにはしゃがないの」
ここでの窘め役はグルジアである、彼女の実家も貴族向けの大店である為、商材は違えど店の雰囲気は共通しているのであろう彼女だけは冷静であった、
「そうだけどさー」
「あれです、感無量ってやつです」
「あっ、それ分かるー」
ジャネットやアニタ、ケイスとパウラは誇らしげな瞳で店内を見渡し、オリビアは何度か足を運んでいる為感慨は薄いのであろうがそれでもいつもの澄まし顔ではない、内から湧き上がる笑みを押さえられないでいた、
「そうね、皆さんのお陰ですね」
エレインがそっと学生達に近寄る、
「おっ、会長だお疲れ様です」
「何よ急にー」
「えー、だってさー」
ジャネット達はキャッキャッとはしゃぐが、その後ろではルルとサレバとコミン、レスタが言葉を無くして店内を見渡していた、彼女達は生粋の平民である、貴族向けの店舗は初めてであり、貴族向けの屋敷となるとさらに馴染みが無い、ルルはこれはまた北ヘルデルの城とは違うなーと目を丸くしており、サレバとコミンとレスタに至っては何が何やらと目を回すしかなかった、
「さっ、ゆっくり見物して下さい、鏡は慣れたでしょうけど・・・そうね、あの壁画はニコリーネさんとミナちゃんとレインちゃんの合作ですよ」
エレインはまだ見せてなかったはずと一同へ壁画を示す、
「あっ、これかー」
「すごいね、話しには聞いてたけど」
「ミナっちの説明じゃ分かんなかったしなー」
「そうだねー」
生徒達は吸い込まれるように壁画へ向かった、エレインは嬉しそうにその背を見送る、実のところエレインはガラス鏡店に関して、彼女達をあまり関わらせなかった事を少しばかり後ろめたく感じていたのである、それはやはり対象とする客層が大きく異なる事とテラを中心として元メイドの二人とメイド三人衆、さらにマフダ他の従業員の存在があった為でもあるが、屋台の立ち上げから艱難辛苦を共にしてきたのはやはりジャネット達寮の仲間であった、エレインは決して彼女達を邪険にしているわけではないが、彼女達がそう感じていたとしてもおかしくは無いかなとも悩んでもいたのである、しかし、少なくともこの瞬間、彼女達は素直にこの場を楽しんでくれているようで、その笑顔とその声を聞く限りエレインの悩みは杞憂であったと考えてよさそうであった、
「うわっ、凄いなー」
「そだねー、ガラス鏡のお店だー」
さらに、学園生の従業員も顔を出し、
「失礼します」
おずおずと婦人部の面々も姿を見せる、そちらは家族連れである事もあってか生徒達のようにはしゃいではおらず、しかし、
「貴族様のおうち?」
「ちょっと違うかな?貴族様のお店だねー」
「あー、なにあれー、誰ー」
「よく見て、ほらお父さん映ってるでしょ」
「あっ、ほんとだー、あー、おかーさんもー、えー、じゃー、これあたしー?」
「そうよー」
「初めて見たー、すごいすごい」
全身鏡を前にしてピョンピョンと飛び跳ねる子供の歓声が店内に響く、さらに、
「・・・確かに大したもんだな・・・」
「でしょー」
「うん、いや、凄いな・・・これ・・・俺か?」
「そうよー、違うの?」
「違わないんだろうがさ・・・あー、やっとお前の言ってる事が分かったよー」
「でしょ、だから、ちゃんと髭剃らないと、髪も適当だし」
「だなー」
なんとものんびりとした夫婦のやり取りも聞こえてくる、エレインは思わずニヤニヤと笑みし、続々と入って来る従業員とその家族から一歩引いてその様子を眺めていた、ここは素直に楽しんでもらえればとの配慮である、そこへ、
「あっ、会長、すいません御挨拶を」
マフダがその側に駆けて来た、
「ん、何かあった?」
「えっと、姉さんがちゃんと挨拶してからだっていうもんで」
マフダが申し訳なさそうに呟く、
「あら、フィロメナさん来てるの?」
「はい、あの、それと、親父とか妹とか他の姉とか・・・」
さらに小さくなって答えるマフダであった、
「あら、ならちゃんと挨拶しないとね」
エレインは柔らかい笑みを浮かべマフダと共に玄関ホールへ向かうと、そこにはあからさまに派手な女性達が屯し、彼女達よりもさらに派手で長身の男が立っていた、どう見てもマフダがいなければ門衛に止められていたであろう集団である、
「お忙しい所ありがとうございます」
エレインは確か一度挨拶をしたはずとその男に声をかけると、
「おっ、あっ、これは失礼」
足元にまとわりつく幼子を適当にあやしていたリズモンドが慌てて顔を上げ、
「エレイン会長、御無沙汰してます」
フィロメナがサッとその隣りに立つ、
「ふふっ、御無沙汰しています、フィロメナさん」
「いやー、すっかりご活躍だねー、大したもんだよー」
フィロメナ独特の馴れ馴れしい言葉使いであった、マフダはムッとしてフィロメナを見上げるが、
「そう言って頂けると頑張った甲斐がありますわ、何よりマフダさんの活躍のお陰です」
ニコリと返すエレインである、
「ホントそれ?迷惑かけてない?」
「そんな、こっちが振り回しているくらいですよ」
「そうなの?でもそれくらいでないとねー」
と二人は馴れ馴れしくコロコロと笑い合う、数十年の付き合いのような二人であった、マフダは良いのかなと二人を交互に見上げるしかない、
「あっ、ほれ、親父、ちゃんと挨拶しないと」
フィロメナは隣りで渋い顔となっていたリズモンドを促し、
「いや、お前が・・・まぁいいか、会長、マフダがお世話になっております」
恭しく頭を下げるリズモンドであった、
「いいえ、こちらこそです、マフダさんには私がお世話になっているくらいですよ、我が商会の大事な戦力です」
「そんな、畏れ多い、いや、こちらこそですよ、マフダのお陰で・・・いや、六花商会さんのお陰ですな、娘共も人一倍美しくなっておりましてな、洗髪にしろ爪の手入れにしろ、下着にしろ、素晴らしい事ばかりです、一度しっかりと御礼と御挨拶をと思っておりました」
フィロメナもそうであるがリズモンドもまた、その口調と態度は初見の時とは大きく変わっている、初見の時にはリューク商会の付き合いの為に同行と偵察を兼ねて顔を出した程度であったのだが、ちょっとした騒動を経て大事な娘の一人であるマフダは従業員として生き生きと楽しそうに仕事をしており、フィロメナもまたエレインを事あるごとに褒めていた、客と家族以外には厳しいフィロメナとしては珍しい事であったりする、さらにマフダが持ち帰る様々な知識はその商売に大変に役に立ってもいる、その言葉にあった洗髪やら爪の手入れは言うに及ばず、ちょっとした小物類や美容に関する情報も夜の仕事に従事する他の娘達は勿論、雇用している遊女達にとっても有益どころか歓迎され絶賛される事ばかりであった、
「あら、御活用頂けているのですか?」
「それはもう、そういう商売って事もあるのですが、何より、ほれ、そういう事に目が無い娘達ばかりでしてな」
とリズモンドは娘達を見渡し、娘達は何を言っているのやらと相手にしていない様子である、そしてどこか落ち着かない様子でチラチラとエレインの様子を伺っている、マフダとフィロメナとリズモンドの手前があって自重しているのであるが、彼女達もエレインに興味があり、できればお近づきになりたいと口には出さないが思っていた、リズモンドの話しを聞けばそれも当然であるが、さらにフィロメナが褒め過ぎるためと、チンチクリンとからかっていたマフダのあまりの変わりようもその要因であった、
「ふふっ、でも嬉しいですね、私としても街中の女性達がより美しく、明るくなるのがこの街の為と思っております、女性達が明るく朗らかになれば自然と優しくなるでしょう、そうなると子供達も嬉しいですし、男達もきっと嬉しいですわよね」
エレインがニコニコと持論を展開すると、
「ほう・・・それは素晴らしい、まったくです」
リズモンドが感心して目を剥いた、しかしその瞬間、
「まだー?」
「まだー?」
「マフダー、いこー」
その足元の幼子達がウズウズとジッとしていられない様子で、リズモンドの上衣を引っ張り、マフダの腕を引っ張ったりと落ち着きがない、
「あら、では、皆さんどうぞ店の方へ、マフダさん、案内してあげて下さい」
「あっ、はい、じゃ、こっちだよ・・・こっちです」
マフダが慌てて口調を直すのを、姉達はニヤニヤと見下ろし、妹達は、
「こっちー?」
と駆け出しそうになるのを、フィロメナとマフダが慌てて押さえつつ、
「ん、じゃ、その内ゆっくりと御挨拶に伺いますね」
「楽しみにしています」
フィロメナが何とか体裁を整え、エレインはニコヤカに見送る、すると、
「すいません、あの・・・うちの両親にも会って頂けますか?」
玄関先にはさらに数組の家族が屯しており、リーニーとカチャーが揃ってエレインの様子を遠巻きに伺っていた様子である、
「あら、いいですよ」
こうして二組の両親に挨拶をしつつ、さらに、メイド三人衆の家族も現れ、エレインは暫く玄関先で時間を取られる事となった、しかし、これもまた微笑ましい事なのであろう、さらにエレインは娘を預ける側である両親達の様子から、皆ちゃんと大切に思われているという事を肌で感じ取り、そのような考えは全く持ち得ていないのであるが、誰一人蔑ろにする事は出来無いし、大事な従業員として個々人を見るべきなのだと強く思うのであった。
「設置の際の注意点等あるのか?」
「注文したらいつ納品できるのか?」
等々の購入を前提とした質問が飛び交うが、マフレナは穏やかな笑みで、
「申し訳ありません、本日はお披露目会でございます、商談は20日以降にご予約を頂ければと存じます」
静かで慇懃ではあるが、一切譲る事は無いという強い意思を込めた視線と言葉である、バルトは真摯に微笑み、
「確かに伺っておりました、それに、ここで商談をしていたら明日になってしまいますな」
と冗談含みで笑いを誘い同行者を宥める側に回ってくれたようである、流石まとめ役を任される人物であった、さらに商店街の会員は皆基本的に貴族相手の商売である、故に余裕を見せないと足元を見透かされるという顧客との心理戦も骨身に沁みている為、全身鏡を前にしての一時の狂騒は瞬時に治まり、その内心ではどうであったかは分からないが、優雅な物腰で他の商品へと足を向かわせる、
「マフレナさんも大したものね」
エレインはニコリと微笑み、澄まし顔のマフレナと一行を眺め、
「そうですね、頼りになります」
テラもまたここは任せてもよさそうだとマフレナに一任する事とした、やがて、押し出されるように職人達が辞し、遠くで公務時間終了の鐘が鳴る、そして、商店街の一行がこちらもやや後ろ髪を引かれながらガラス鏡店を辞する頃合いで、門の前にはジャネット達が集まってきていた、テラが対応に走り、ジャネット達は嬉しそうに店に飛び込むと、
「おー、すげー」
「うわっ、こうなるんだー」
「全然違うー」
とこちらは実に素直な黄色い歓声を上げる、
「ほら、そんなにはしゃがないの」
ここでの窘め役はグルジアである、彼女の実家も貴族向けの大店である為、商材は違えど店の雰囲気は共通しているのであろう彼女だけは冷静であった、
「そうだけどさー」
「あれです、感無量ってやつです」
「あっ、それ分かるー」
ジャネットやアニタ、ケイスとパウラは誇らしげな瞳で店内を見渡し、オリビアは何度か足を運んでいる為感慨は薄いのであろうがそれでもいつもの澄まし顔ではない、内から湧き上がる笑みを押さえられないでいた、
「そうね、皆さんのお陰ですね」
エレインがそっと学生達に近寄る、
「おっ、会長だお疲れ様です」
「何よ急にー」
「えー、だってさー」
ジャネット達はキャッキャッとはしゃぐが、その後ろではルルとサレバとコミン、レスタが言葉を無くして店内を見渡していた、彼女達は生粋の平民である、貴族向けの店舗は初めてであり、貴族向けの屋敷となるとさらに馴染みが無い、ルルはこれはまた北ヘルデルの城とは違うなーと目を丸くしており、サレバとコミンとレスタに至っては何が何やらと目を回すしかなかった、
「さっ、ゆっくり見物して下さい、鏡は慣れたでしょうけど・・・そうね、あの壁画はニコリーネさんとミナちゃんとレインちゃんの合作ですよ」
エレインはまだ見せてなかったはずと一同へ壁画を示す、
「あっ、これかー」
「すごいね、話しには聞いてたけど」
「ミナっちの説明じゃ分かんなかったしなー」
「そうだねー」
生徒達は吸い込まれるように壁画へ向かった、エレインは嬉しそうにその背を見送る、実のところエレインはガラス鏡店に関して、彼女達をあまり関わらせなかった事を少しばかり後ろめたく感じていたのである、それはやはり対象とする客層が大きく異なる事とテラを中心として元メイドの二人とメイド三人衆、さらにマフダ他の従業員の存在があった為でもあるが、屋台の立ち上げから艱難辛苦を共にしてきたのはやはりジャネット達寮の仲間であった、エレインは決して彼女達を邪険にしているわけではないが、彼女達がそう感じていたとしてもおかしくは無いかなとも悩んでもいたのである、しかし、少なくともこの瞬間、彼女達は素直にこの場を楽しんでくれているようで、その笑顔とその声を聞く限りエレインの悩みは杞憂であったと考えてよさそうであった、
「うわっ、凄いなー」
「そだねー、ガラス鏡のお店だー」
さらに、学園生の従業員も顔を出し、
「失礼します」
おずおずと婦人部の面々も姿を見せる、そちらは家族連れである事もあってか生徒達のようにはしゃいではおらず、しかし、
「貴族様のおうち?」
「ちょっと違うかな?貴族様のお店だねー」
「あー、なにあれー、誰ー」
「よく見て、ほらお父さん映ってるでしょ」
「あっ、ほんとだー、あー、おかーさんもー、えー、じゃー、これあたしー?」
「そうよー」
「初めて見たー、すごいすごい」
全身鏡を前にしてピョンピョンと飛び跳ねる子供の歓声が店内に響く、さらに、
「・・・確かに大したもんだな・・・」
「でしょー」
「うん、いや、凄いな・・・これ・・・俺か?」
「そうよー、違うの?」
「違わないんだろうがさ・・・あー、やっとお前の言ってる事が分かったよー」
「でしょ、だから、ちゃんと髭剃らないと、髪も適当だし」
「だなー」
なんとものんびりとした夫婦のやり取りも聞こえてくる、エレインは思わずニヤニヤと笑みし、続々と入って来る従業員とその家族から一歩引いてその様子を眺めていた、ここは素直に楽しんでもらえればとの配慮である、そこへ、
「あっ、会長、すいません御挨拶を」
マフダがその側に駆けて来た、
「ん、何かあった?」
「えっと、姉さんがちゃんと挨拶してからだっていうもんで」
マフダが申し訳なさそうに呟く、
「あら、フィロメナさん来てるの?」
「はい、あの、それと、親父とか妹とか他の姉とか・・・」
さらに小さくなって答えるマフダであった、
「あら、ならちゃんと挨拶しないとね」
エレインは柔らかい笑みを浮かべマフダと共に玄関ホールへ向かうと、そこにはあからさまに派手な女性達が屯し、彼女達よりもさらに派手で長身の男が立っていた、どう見てもマフダがいなければ門衛に止められていたであろう集団である、
「お忙しい所ありがとうございます」
エレインは確か一度挨拶をしたはずとその男に声をかけると、
「おっ、あっ、これは失礼」
足元にまとわりつく幼子を適当にあやしていたリズモンドが慌てて顔を上げ、
「エレイン会長、御無沙汰してます」
フィロメナがサッとその隣りに立つ、
「ふふっ、御無沙汰しています、フィロメナさん」
「いやー、すっかりご活躍だねー、大したもんだよー」
フィロメナ独特の馴れ馴れしい言葉使いであった、マフダはムッとしてフィロメナを見上げるが、
「そう言って頂けると頑張った甲斐がありますわ、何よりマフダさんの活躍のお陰です」
ニコリと返すエレインである、
「ホントそれ?迷惑かけてない?」
「そんな、こっちが振り回しているくらいですよ」
「そうなの?でもそれくらいでないとねー」
と二人は馴れ馴れしくコロコロと笑い合う、数十年の付き合いのような二人であった、マフダは良いのかなと二人を交互に見上げるしかない、
「あっ、ほれ、親父、ちゃんと挨拶しないと」
フィロメナは隣りで渋い顔となっていたリズモンドを促し、
「いや、お前が・・・まぁいいか、会長、マフダがお世話になっております」
恭しく頭を下げるリズモンドであった、
「いいえ、こちらこそです、マフダさんには私がお世話になっているくらいですよ、我が商会の大事な戦力です」
「そんな、畏れ多い、いや、こちらこそですよ、マフダのお陰で・・・いや、六花商会さんのお陰ですな、娘共も人一倍美しくなっておりましてな、洗髪にしろ爪の手入れにしろ、下着にしろ、素晴らしい事ばかりです、一度しっかりと御礼と御挨拶をと思っておりました」
フィロメナもそうであるがリズモンドもまた、その口調と態度は初見の時とは大きく変わっている、初見の時にはリューク商会の付き合いの為に同行と偵察を兼ねて顔を出した程度であったのだが、ちょっとした騒動を経て大事な娘の一人であるマフダは従業員として生き生きと楽しそうに仕事をしており、フィロメナもまたエレインを事あるごとに褒めていた、客と家族以外には厳しいフィロメナとしては珍しい事であったりする、さらにマフダが持ち帰る様々な知識はその商売に大変に役に立ってもいる、その言葉にあった洗髪やら爪の手入れは言うに及ばず、ちょっとした小物類や美容に関する情報も夜の仕事に従事する他の娘達は勿論、雇用している遊女達にとっても有益どころか歓迎され絶賛される事ばかりであった、
「あら、御活用頂けているのですか?」
「それはもう、そういう商売って事もあるのですが、何より、ほれ、そういう事に目が無い娘達ばかりでしてな」
とリズモンドは娘達を見渡し、娘達は何を言っているのやらと相手にしていない様子である、そしてどこか落ち着かない様子でチラチラとエレインの様子を伺っている、マフダとフィロメナとリズモンドの手前があって自重しているのであるが、彼女達もエレインに興味があり、できればお近づきになりたいと口には出さないが思っていた、リズモンドの話しを聞けばそれも当然であるが、さらにフィロメナが褒め過ぎるためと、チンチクリンとからかっていたマフダのあまりの変わりようもその要因であった、
「ふふっ、でも嬉しいですね、私としても街中の女性達がより美しく、明るくなるのがこの街の為と思っております、女性達が明るく朗らかになれば自然と優しくなるでしょう、そうなると子供達も嬉しいですし、男達もきっと嬉しいですわよね」
エレインがニコニコと持論を展開すると、
「ほう・・・それは素晴らしい、まったくです」
リズモンドが感心して目を剥いた、しかしその瞬間、
「まだー?」
「まだー?」
「マフダー、いこー」
その足元の幼子達がウズウズとジッとしていられない様子で、リズモンドの上衣を引っ張り、マフダの腕を引っ張ったりと落ち着きがない、
「あら、では、皆さんどうぞ店の方へ、マフダさん、案内してあげて下さい」
「あっ、はい、じゃ、こっちだよ・・・こっちです」
マフダが慌てて口調を直すのを、姉達はニヤニヤと見下ろし、妹達は、
「こっちー?」
と駆け出しそうになるのを、フィロメナとマフダが慌てて押さえつつ、
「ん、じゃ、その内ゆっくりと御挨拶に伺いますね」
「楽しみにしています」
フィロメナが何とか体裁を整え、エレインはニコヤカに見送る、すると、
「すいません、あの・・・うちの両親にも会って頂けますか?」
玄関先にはさらに数組の家族が屯しており、リーニーとカチャーが揃ってエレインの様子を遠巻きに伺っていた様子である、
「あら、いいですよ」
こうして二組の両親に挨拶をしつつ、さらに、メイド三人衆の家族も現れ、エレインは暫く玄関先で時間を取られる事となった、しかし、これもまた微笑ましい事なのであろう、さらにエレインは娘を預ける側である両親達の様子から、皆ちゃんと大切に思われているという事を肌で感じ取り、そのような考えは全く持ち得ていないのであるが、誰一人蔑ろにする事は出来無いし、大事な従業員として個々人を見るべきなのだと強く思うのであった。
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