セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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58話 胎動再び その24

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時は若干戻って事務所では、コッキーがデニスと共に荷車を引いて玄関を叩く、ガラス小瓶の納品であった、カチャーに出迎えられ木箱を持った二人が事務所に入ると、

「おはようございます」

「わっ、早速ですね、ありがとうございます」

リーニーとマフダが作業の手を止めて顔を上げた、

「親父共が張り切っちゃってさー」

コッキーがニヤニヤと微笑みながら二人へ歩み寄り、デニスは手にした木箱をどこに置けば良いのかなとキョロキョロと事務所内を見渡している、

「良かったですよー、喧嘩始めた時はどうしようかと思っちゃいました」

「あー、ごめんねー、だってさー」

と、もう既に仲の良い三人はキャッキャッと騒ぎ始め、デニスはこれだもんなと取り敢えず木箱をそっとテーブルに置く、

「これがそれなの?」

「そうですね、作れるうちに作ってしまおうと思いまして」

「そっかー、段取り大事だよねー」

コッキーがテーブルに並んだレースを摘まみ上げ、これでガラス小瓶を装飾するのかとしげしげと見つめる、

「えっと、確認してもいいですか?」

リーニーがやっと自分の仕事が出来るとコッキーが足元に置いた木箱に近寄った、

「はいはい、じゃ、見てもらって、場所はここでいい?」

「あー、じゃ、そっちのテーブルに」

「了解、デニス、こっち」

コッキーは慣れた感じでデニスに向かって顎でテーブルを差す、姉にとって弟は手下であり従者であり道具である、さらにこの二人には職場における上下関係まである為、デニスが口答えする事は無い、完全に無いと断言できた、デニスにとっては理不尽で憤るしかない事象であり、コッキーにとっては天地が引っ繰り返っても変わる事の無い当然の権利であったりする、

「はいはい」

デニスはやれやれと木箱を手にして指定されたテーブルに向かい、姉に命じられる前にその蓋を外し、リーニーとコッキーがそれを覗き込む、マフダも席を立って二人に近付いた、

「おおっ、こうなっているんですね」

「そうですね、ガラス小瓶はどうしても割れる事があるので、運送時は気を付けて下さい」

「そうですよね、分かりました・・・でも、どうしようかな・・・販売の時は藁箱に入れようと考えていたのですが、その時にもこんな感じにしたほうがいいのかな?」

木箱の中にはおが屑が詰められており、ガラス小瓶はその中に綺麗に整頓されて埋まっているようである、一見すると高級品であるガラス製品にしては雑な扱いかと感じるが、おが屑を緩衝材とした最も確かな運搬方法なのであろう、

「うーん、でも、あれですよね、聞いた感じだと敷物でしたっけ?があるんですよね」

「あれですね」

マフダが指差す先にはガラス小瓶を置く為だけの布が大量に積まれている、こちらもレースと共に大量に用意されたもので、香り毎に色別けする予定で3種類の厚手の生地が四角に切られ、その端は解れない様にと折って縫い付けられていた、

「であれば、それで包めば大丈夫かと、あと、貴族様の従者さんともなればガラスの扱いには慣れていると思いますしね」

「それもそうだよね・・・」

「うん、それにほらテラさんも引き渡してしまえば向こうの責任だって言ってましたから」

「でも、馬車に載せて割れてたら何か嫌じゃない?」

「そうだけど・・・」

「やってみないと分かんないかなー」

「そうだねー」

リーニーとマフダはうーんと首を傾げた、平民出の二人としては日常生活でガラス製品を手にする事が圧倒的に少ない、触った事が無いと言っても過言ではない、それほどにガラス製品は高級品の部類であり、貴族や富裕層が扱うものという認識が強かった、故にガラス小瓶にやわらかクリームを入れるとなった時には二人は勿論であるがジャネット達も歓声を上げたのであるが、実際にその品を商品として取扱うとなると気遣う事が多すぎて頭を悩ませていたのである、何よりもガラスの小瓶である、見た目は素晴らしいのであるが、割れやすく危ない品という印象が強いのであった、

「んー、でも結構丈夫だよ」

コッキーは小瓶を一つ取り出すと、

「厚みがあるからね、少々の衝撃には耐えられるし、それに凹凸の無い丸みのある型だから布で包めば削れる事も無いし」

と蓋を取って何も入っていない中身を二人に見せる、その言葉の通り小瓶は厚みがあり頑丈そうに見えた、しかし、それはそのまま内容量の少なさを意味しているように思える、

「そうなんだ・・・」

「確かに・・・」

「うん、ほら、湯呑とか皿とかだと薄く作るんだけど、こういう小瓶はね、厚めにしてあるんだよ、置物・・・に近いのかな?飾って楽しめるように?でそうなると、床に落とした程度では割れないようにって配慮かな?親父があーだこーだ言ってたよ、ね」

とコッキーがデニスに確認すると、デニスは、

「えっと・・・最初の話しからほら、クリームを入れる為の調味料用の壺みたいなのって話しだったと思うから、だから厚くしてあるんだよ、手に取って使うものだからね」

と若干掠れた声で補足を加える、

「そうだったねー」

「うん、テラさんがそんな事言ってたような・・・」

「そうだっけ?」

コッキーがジロリとデニスを睨み、

「そうだよ、聞いてなかったの?」

デニスはしかめっ面で睨み返す、

「覚えてない」

「・・・これだ・・・」

「あによ」

「何でもないよ」

小さな姉弟の諍いは始まりかけて終わり、

「じゃ、検品でいいです?」

「はい、お願いします、一応全部出しますね、で、割れとかヒビとか欠けとかあればそれはこちらで回収します」

「はい、宜しくです、あー、カチャーさんが居た方がいいかな?」

「うん、呼んで来る」

コッキーとデニスは慣れた手付きで小瓶を取り出してはテーブルに並べ、カチャーが二階から下りてくると検品が始まった、そこへ、

「失礼します」

と来客のようである、カチャーが仕事中の為リーニーが対応に走ると、

「あっ、リーニーさん昨日はどうもー」

来客はミースであった、

「おはようございます、看板ですね」

「はい、作業を始めても宜しいですか」

「勿論です」

リーニーはそのままミースと共に街路に出た、立ち合いのつもりである、街路では昨日と同じ職人達が荷車から看板を降ろしており、店舗の従業員達も何か始まったのかと首を伸ばしてこちらを観察している、店舗は開店したばかりの時間という事もありまだ客の姿は無い、街路には通行人も少ない為作業もしやすそうであった、

「今日はここともう一カ所なんです」

ミースはにこやかに微笑む、看板は予定通り街内の五カ所に設置される事で最終決定されており、昨日は三カ所、今日はここを含めて二カ所、工事予定である、

「そうなんですね、お疲れ様です」

「いえいえ、たまには外仕事もしないとですよ、ギルドに籠っていると飽きますからねー」

「そういうもんですか」

「そういうもんです」

ミースはムフンと解放感を楽しんでいる様子である、作業は職人達が黙々とこなしており、どうやら順調そうである、昨日の三カ所と異なり杭打ちから始めている為若干時間がかかりそうではあった、

「エレイン会長は鏡店の方ですか?」

取り敢えずとミースは話題を変えた、

「はい、今日はテラさんと挨拶周りですね、鏡店の周辺の商会を回るそうです、それとあそこのなんでしたっけ、商店組合さん?にも正式に挨拶とかなんとか」

「あー、そういうのも大事ですよねー」

「ですよね、あの屋敷を購入した際にも一度回っているそうなんですが、明日から本格的にお客様が入りますしね、ついでに内覧会にも招待する感じらしいです」

「そっかー、大変だなー、でも、明日は私も鏡店にお邪魔するんですよー」

「それは良かったです」

「偉いさん達のお供なんですけどね、一応、六花商会さんの担当って事で」

「役得ですね?」

「役得です」

二人はニンマリと微笑みあい、

「私達もまだ見てないんですよねー」

「えっ、そうなんですか?」

「はい、ほら、テラさんが中心になって動いているんですが、こっちはこっちの仕事をしなさいって感じで」

「それは寂しいですねー」

「でも、明日の午後は家族を呼んでいいよって事になってまして」

「えっ、家族?」

「はい、えっと、エレイン会長が正式開店前でないと見せれないし、第一皆さんも自慢したいでしょうし興味があるでしょうからって、御家族と一緒に見学に来なさいって事になりました、その為のお土産も準備する予定なんです」

「あらっ、エレイン会長優しいですねー」

「そうなんです、なもんで、明日が楽しみなんですよ、準備も大変なんですけど、だから、明日はこっちのお店は休みなんですよね」

「そっかー、私も楽しみですねー、何かガラス鏡だけでも種類が増えたって聞きましたけど」

「ふふーん、そうなんです、事務所にもありますよ」

「えっ、ホントですか?」

「はい、試作品ですけどね、やっぱり凄いですよ」

「そうなんだー・・・見たいなー」

ミースはニヤリと上目遣いとなる、

「構いませんけど・・・明日いらっしゃるのであれば、そっちの方が良いかもですよ、絶対にビックリします」

「・・・それもそうかな・・・いや、でも、おじさんが集まるんだよな・・・仕事だしな・・・仕事しないと怒られそうだなー」

「ふふっ、なら、今の内に、私が立会いしておきますので、事務所にどうぞ」

「えっ、いいですか?」

「はい、あっ、でも、呼んだらすぐに来て下さいよ」

「勿論ですよー」

ミースは嬉しそうに事務所に駆け込み、リーニーも楽しそうにその背を見送る、仕事が始まったばかりの爽やかな朝の光景であった。
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