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本編
58話 胎動再び その16
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そして、その頃同屋敷の厨房では、
「名前はどう報告するべきか・・・」
「ラビオリだか餃子だかペリメリだかって・・・ソフィアさんこういうのは適当ですよね」
「同じような料理だからって笑ってましたけど」
「じゃ、ラビオリにしましょう、何かお洒落に聞こえます」
「・・・いいのかしら?」
「無い方が説明難しいですから」
「それもそうですね」
ミーンとティルが朝食の片付けを終えた作業台の上に黒板を並べ打ち合わせ中である、昨日の午前中も二人はこうして額を突き合わせて報告書作成と資料作成に勤しんだのであるが、二回目から急に料理の内容が複雑で多様になり、それは王宮からチーズを持ち込んだ為ではあるが、嬉しい悲鳴と言うにはあまりにもな状況であった、
「カツの製法については以前伺った通りなのですよね」
「私もオリビアさんに聞いた通りでしたね」
「非常に手間がかかると王宮では倦厭されてしまいました」
「えっ、そうなんですか?美味しいのに」
「そうなんですよ、まったく、うちの父も変に頑固なんです、そんな妙な料理を王族に出せるかーって」
「妙な料理は駄目ですね」
「駄目ですよ、ソフィアさんは変な料理って言ってますけど、とても美味しいですからね」
「まったくです、あっ、あれですね、油料理に関しては随時増やしていくわよってソフィアさん言ってましたね」
「そうですね、楽しみですが・・・うん、そっか、最初の報告書・・・あった、油料理は4種類か・・・凄いなこれだけでもお店だせそうですよね」
「ふふっ、エレイン会長はそれを狙っているんですよ」
「そうなんですね・・・凄いなエレイン会長、とんでもないな」
「そうですよねー」
二人の会話は微妙に敬語であった、まだそれほど仲が良い訳では無く、かたや父が料理人で女性だからという事でメイドであるにも関わらず白羽の矢が刺さり、かたやメイドとしてよりも料理人としてその資質を認められてしまった娘である、偶然のように出会った二人であり、年齢は近いとはいえやはりティルはその経験上先輩にあたり、ミーンはそのように接するのであるが、ティルとしては先輩風を吹かすつもりはさらさらなく、まして、王妃達からはしっかりと協力するようにとまで言い含められている、故に二人の関係は未だ確たる形になっておらず、その会話はメイドの仮面を半分被ったよそよそしいものとなっている、しかし、それが二人にとっては最も楽な接し方なのかもしれない、何せ本職はメイドとメイドを志して学園にまで通った娘であるのだから、
「オートミールの名称は何かあります?」
「えっと、無いですね、家ではチーズ入りとかなんとかそんな感じで適当に呼んでました」
「そっか、じゃ、これもかな・・・名前付けないとだなー」
「オートミールでいいんじゃないですか?」
「そうもいかないんですよ、王宮でオートミールと呼ぶと麦しか入ってないのがそれなんです」
「へー・・・」
「少しでも野菜を入れるとオートミールじゃなくて、野菜煮込みだって、言われるんですよね」
「・・・そんな厳密なんですか?」
「そうなんですよ、野菜入りオートミールで充分通じると思うんですけどねー、まったく、あの連中は・・・」
「はぁ・・・」
どうにもティルは王宮の事、特に料理の事になると愚痴っぽい、そういう性分なのかなとミーンは思うが、それ以外の話題に関してはそう言った傾向はほぼ無く、恐らく父親との関係もあってどうしてもそうなってしまうのかなとミーンは邪推する、そこへ、
「お疲れ様」
テラが厨房へ顔を出し、二人はおっと驚いて振り返ると、テラの後ろから、
「失礼しますねー」
「おはようございます」
サビナとゾーイがヒョイと姿を現した、
「おはようございます」
二人は満面の笑みで二人を迎え、
「へー、やっぱり貴族様の御屋敷となると何処もかしこも立派ねー」
サビナは遠慮なく厨房内を見渡し、ゾーイは、
「そういうものですよ」
と冷静な口振りである、
「さっ、あちらです」
テラはサッと厨房の一画を示した、そこには若干空間を作られ二つの堅牢な木箱が並んでいる、冷凍箱であった、
「はいはい、じゃ、さっさと終わらせてしまいますかー」
サビナは木箱に近付きつつ、
「あっ、ここ使っていいです?」
と近くのテーブルを指差す、
「勿論ですよ」
テラの許可を得てサビナは肩から下げていた革袋をテーブルに置き、ゾーイもそれにならって革袋を置くと早速と中を開いて陶器の板を取り出す、
「あっ、冷凍箱ですか?」
ミーンが気付いてテラに確認する、
「そうよ、仕上げはサビナさんのお仕事なんです」
「そうよー、私のお仕事なのよー」
サビナは軽い調子で鼻歌混じりに答えた、木箱は昨日午後にブラスと職人達によって運び込まれ設置されたもので、サビナ達はそれに基幹部分となる冷凍用の陶器板を取り付けに来たのである、
「わっ、そっか、どっかで見たような木箱だなーって思ってたんですよー」
ミーンは嬉しそうに顔を綻ばせた、ミーンは商会の人間ではあるが事務所への出入りは殆ど無く、給料日に顔を出したりお茶会で駄弁ったり程度で、その際にこういうのもあると冷凍箱やら足踏み式の攪拌機構やらを説明されただけであった、
「冷凍箱?」
ティルは素直に首を傾げる、ティルにとっては初めて耳にする単語である、
「そうなんです、あの板を魔力で起動すると箱の中身が凍るんです」
「へー、あー、氷室みたいなものかー」
「あら、ティルさんは氷室を知ってるの?」
準備をしながらサビナが口を開く、
「あっ、はい、えっと、王城にある氷室ですね、おっきい部屋で保存したいものは何でも突っ込んでます」
「へー、あるんだー」
「はい、あるんですけど、あんまり、その・・・評判は良くない感じです」
「良くないの?便利そうなのに?」
テラは不思議そうにティルを見つめる、
「はい、えっと、料理人からすると、中の物が全部凍ってしまって、それこそ、籠に入れた野菜なんかも籠ごと凍ってしまうんですよ、なもので、必要な時に取り出すのがすんごい面倒なんです、籠が棚に凍り付いちゃったりもあるし、籠と中身が凍り付いちゃったりが当たり前で食材がすぐに使えなくて」
「あら、それは・・・ある意味で凄いわね、凍らせすぎなのかしら?」
「そうなんです、あと、それの担当の魔法使いさんもいるんですけど、毎日のように氷魔法を使わなきゃならなくて、こっちもめんどくさいって愚痴ってるのを聞いた事があります」
「それは・・・どうかしら?」
「上手い事使えてないんですかね?」
「そう聞こえるねー、そっか、凍らせればいいってもんじゃないのかな?担当者がめんどくさいってのはただの怠惰だからどうでもいいけど、籠ごと凍るって強すぎるんじゃない?」
「でも、あれ?ティルさん、その部屋って大きいの?」
「あっ、はい、えっと、この厨房よりももう少し大きいですね、で、地下にあって、元々は普通の倉庫だったって聞いた事があります」
「へー、そうなんだ、すると、あれね、氷の魔法で保存する方法に気付いたのはいいけど、その調整が上手くいってないって事ね」
「そうですね、それに大きい部屋だと全体を凍らせる為にはより強力な魔法が必要ですから、その担当者さんはそうせざるを得ないんじゃないですか?」
「そっか、するとそれが籠ごと凍らせるくらい強力でないとって事かしらね」
「たぶんそうですよ」
「それこそゾーイさんが行って調整してみればいいんじゃない?」
「うーん、求められば前向きに対処しますけど、そうでなければ私がお節介な人になっちゃうだけですよ、それ」
「それもそっか」
「そうですよ」
内容があるようで無い上滑りな会話を交わしながらもサビナは木箱に慣れた様子で陶器板を設置し、白い紐を通して別の陶器板を手にしている、ゾーイは口からまったく別の話題を答えながらもその目はしっかりとサビナの仕事を観察していた、
「そうだ、お店の方はどんな感じですか?」
話題が途切れたのを確認し、ミーンはテラを伺う、
「良い感じよ、今、イフナース様が来て会長と打ち合わせ中」
「そうですか」
ミーンは若干寂しそうに視線を落とす、ミーンも本来であれば他の二人と一緒にガラス店舗の立ち上げに集中するべきなのであるが、エレインとテラから料理の研修を優先するようにと厳命されてティルと二人で厨房に籠っている、故にミーンとしては若干の疎外感を感じて寂しいのである、テラはそのミーンの顔を見て、その思いを敏感に感じ取り、
「そんな顔しないの、あなたのやっている事はこれからの商会の一番大事な仕事なんですから、一人離れるのは心細いかもだけど、私も会長もしっかり見ています、あなたを蔑ろにする事はありませんよ」
優しくも厳しい言葉である、ミーンは以前にも同じ言葉を貰ったなと改めて思い出す、
「はい、そうですね、頑張ります、あっ、そうだ、それで相談なんですが、昨日ソフィアさんが料理方法を記した木簡があるとかなんとかと言ってたんですが、それ、参考にしたいんですけど」
「あらっ、あっ、そっか、ミーンさんは店舗で仕事した事無いもんね」
それはクレオの一時の製法を記した三枚綴りの木簡の事であろう、さらにマヨソースやホイップクリームの木簡もある、テラはハタッと思い出し、
「はい、すいません、出来ればと思うんですが」
とミーンは続ける、
「謝る必要は無いわよ、こっちが気を遣うべきだったわね、御免なさい、じゃ、寮に行ったときに事務所に顔を出して、私の名前を出してマフダさんかマチャーさんから貰って下さい」
「はい、そうします」
ミーンが安堵の笑みを浮かべた瞬間、
「ん、出来たけど、テラさんでいいのかな、使用説明」
サビナが陶器板を手にして振り返る、
「はい、早いですね」
「そりゃもう、ねー、それにブラスさんも手慣れたものよね、前のより各段に使いやすくなっていると思うよー」
「そうなんですか?」
「うん、まずね」
とサビナによる冷凍箱の解説が始まり、テラは勿論、ティルとミーン、ゾーイも並んで説明を受ける、それは確かにまた一つか二つより利便性が増しているらしく、テラは嬉しそうに時折これですよこれと相槌を打ち、ゾーイは真剣な瞳で聞き入っている、ティルとミーンは早速使ってみたいなと素直に思うのであった。
「名前はどう報告するべきか・・・」
「ラビオリだか餃子だかペリメリだかって・・・ソフィアさんこういうのは適当ですよね」
「同じような料理だからって笑ってましたけど」
「じゃ、ラビオリにしましょう、何かお洒落に聞こえます」
「・・・いいのかしら?」
「無い方が説明難しいですから」
「それもそうですね」
ミーンとティルが朝食の片付けを終えた作業台の上に黒板を並べ打ち合わせ中である、昨日の午前中も二人はこうして額を突き合わせて報告書作成と資料作成に勤しんだのであるが、二回目から急に料理の内容が複雑で多様になり、それは王宮からチーズを持ち込んだ為ではあるが、嬉しい悲鳴と言うにはあまりにもな状況であった、
「カツの製法については以前伺った通りなのですよね」
「私もオリビアさんに聞いた通りでしたね」
「非常に手間がかかると王宮では倦厭されてしまいました」
「えっ、そうなんですか?美味しいのに」
「そうなんですよ、まったく、うちの父も変に頑固なんです、そんな妙な料理を王族に出せるかーって」
「妙な料理は駄目ですね」
「駄目ですよ、ソフィアさんは変な料理って言ってますけど、とても美味しいですからね」
「まったくです、あっ、あれですね、油料理に関しては随時増やしていくわよってソフィアさん言ってましたね」
「そうですね、楽しみですが・・・うん、そっか、最初の報告書・・・あった、油料理は4種類か・・・凄いなこれだけでもお店だせそうですよね」
「ふふっ、エレイン会長はそれを狙っているんですよ」
「そうなんですね・・・凄いなエレイン会長、とんでもないな」
「そうですよねー」
二人の会話は微妙に敬語であった、まだそれほど仲が良い訳では無く、かたや父が料理人で女性だからという事でメイドであるにも関わらず白羽の矢が刺さり、かたやメイドとしてよりも料理人としてその資質を認められてしまった娘である、偶然のように出会った二人であり、年齢は近いとはいえやはりティルはその経験上先輩にあたり、ミーンはそのように接するのであるが、ティルとしては先輩風を吹かすつもりはさらさらなく、まして、王妃達からはしっかりと協力するようにとまで言い含められている、故に二人の関係は未だ確たる形になっておらず、その会話はメイドの仮面を半分被ったよそよそしいものとなっている、しかし、それが二人にとっては最も楽な接し方なのかもしれない、何せ本職はメイドとメイドを志して学園にまで通った娘であるのだから、
「オートミールの名称は何かあります?」
「えっと、無いですね、家ではチーズ入りとかなんとかそんな感じで適当に呼んでました」
「そっか、じゃ、これもかな・・・名前付けないとだなー」
「オートミールでいいんじゃないですか?」
「そうもいかないんですよ、王宮でオートミールと呼ぶと麦しか入ってないのがそれなんです」
「へー・・・」
「少しでも野菜を入れるとオートミールじゃなくて、野菜煮込みだって、言われるんですよね」
「・・・そんな厳密なんですか?」
「そうなんですよ、野菜入りオートミールで充分通じると思うんですけどねー、まったく、あの連中は・・・」
「はぁ・・・」
どうにもティルは王宮の事、特に料理の事になると愚痴っぽい、そういう性分なのかなとミーンは思うが、それ以外の話題に関してはそう言った傾向はほぼ無く、恐らく父親との関係もあってどうしてもそうなってしまうのかなとミーンは邪推する、そこへ、
「お疲れ様」
テラが厨房へ顔を出し、二人はおっと驚いて振り返ると、テラの後ろから、
「失礼しますねー」
「おはようございます」
サビナとゾーイがヒョイと姿を現した、
「おはようございます」
二人は満面の笑みで二人を迎え、
「へー、やっぱり貴族様の御屋敷となると何処もかしこも立派ねー」
サビナは遠慮なく厨房内を見渡し、ゾーイは、
「そういうものですよ」
と冷静な口振りである、
「さっ、あちらです」
テラはサッと厨房の一画を示した、そこには若干空間を作られ二つの堅牢な木箱が並んでいる、冷凍箱であった、
「はいはい、じゃ、さっさと終わらせてしまいますかー」
サビナは木箱に近付きつつ、
「あっ、ここ使っていいです?」
と近くのテーブルを指差す、
「勿論ですよ」
テラの許可を得てサビナは肩から下げていた革袋をテーブルに置き、ゾーイもそれにならって革袋を置くと早速と中を開いて陶器の板を取り出す、
「あっ、冷凍箱ですか?」
ミーンが気付いてテラに確認する、
「そうよ、仕上げはサビナさんのお仕事なんです」
「そうよー、私のお仕事なのよー」
サビナは軽い調子で鼻歌混じりに答えた、木箱は昨日午後にブラスと職人達によって運び込まれ設置されたもので、サビナ達はそれに基幹部分となる冷凍用の陶器板を取り付けに来たのである、
「わっ、そっか、どっかで見たような木箱だなーって思ってたんですよー」
ミーンは嬉しそうに顔を綻ばせた、ミーンは商会の人間ではあるが事務所への出入りは殆ど無く、給料日に顔を出したりお茶会で駄弁ったり程度で、その際にこういうのもあると冷凍箱やら足踏み式の攪拌機構やらを説明されただけであった、
「冷凍箱?」
ティルは素直に首を傾げる、ティルにとっては初めて耳にする単語である、
「そうなんです、あの板を魔力で起動すると箱の中身が凍るんです」
「へー、あー、氷室みたいなものかー」
「あら、ティルさんは氷室を知ってるの?」
準備をしながらサビナが口を開く、
「あっ、はい、えっと、王城にある氷室ですね、おっきい部屋で保存したいものは何でも突っ込んでます」
「へー、あるんだー」
「はい、あるんですけど、あんまり、その・・・評判は良くない感じです」
「良くないの?便利そうなのに?」
テラは不思議そうにティルを見つめる、
「はい、えっと、料理人からすると、中の物が全部凍ってしまって、それこそ、籠に入れた野菜なんかも籠ごと凍ってしまうんですよ、なもので、必要な時に取り出すのがすんごい面倒なんです、籠が棚に凍り付いちゃったりもあるし、籠と中身が凍り付いちゃったりが当たり前で食材がすぐに使えなくて」
「あら、それは・・・ある意味で凄いわね、凍らせすぎなのかしら?」
「そうなんです、あと、それの担当の魔法使いさんもいるんですけど、毎日のように氷魔法を使わなきゃならなくて、こっちもめんどくさいって愚痴ってるのを聞いた事があります」
「それは・・・どうかしら?」
「上手い事使えてないんですかね?」
「そう聞こえるねー、そっか、凍らせればいいってもんじゃないのかな?担当者がめんどくさいってのはただの怠惰だからどうでもいいけど、籠ごと凍るって強すぎるんじゃない?」
「でも、あれ?ティルさん、その部屋って大きいの?」
「あっ、はい、えっと、この厨房よりももう少し大きいですね、で、地下にあって、元々は普通の倉庫だったって聞いた事があります」
「へー、そうなんだ、すると、あれね、氷の魔法で保存する方法に気付いたのはいいけど、その調整が上手くいってないって事ね」
「そうですね、それに大きい部屋だと全体を凍らせる為にはより強力な魔法が必要ですから、その担当者さんはそうせざるを得ないんじゃないですか?」
「そっか、するとそれが籠ごと凍らせるくらい強力でないとって事かしらね」
「たぶんそうですよ」
「それこそゾーイさんが行って調整してみればいいんじゃない?」
「うーん、求められば前向きに対処しますけど、そうでなければ私がお節介な人になっちゃうだけですよ、それ」
「それもそっか」
「そうですよ」
内容があるようで無い上滑りな会話を交わしながらもサビナは木箱に慣れた様子で陶器板を設置し、白い紐を通して別の陶器板を手にしている、ゾーイは口からまったく別の話題を答えながらもその目はしっかりとサビナの仕事を観察していた、
「そうだ、お店の方はどんな感じですか?」
話題が途切れたのを確認し、ミーンはテラを伺う、
「良い感じよ、今、イフナース様が来て会長と打ち合わせ中」
「そうですか」
ミーンは若干寂しそうに視線を落とす、ミーンも本来であれば他の二人と一緒にガラス店舗の立ち上げに集中するべきなのであるが、エレインとテラから料理の研修を優先するようにと厳命されてティルと二人で厨房に籠っている、故にミーンとしては若干の疎外感を感じて寂しいのである、テラはそのミーンの顔を見て、その思いを敏感に感じ取り、
「そんな顔しないの、あなたのやっている事はこれからの商会の一番大事な仕事なんですから、一人離れるのは心細いかもだけど、私も会長もしっかり見ています、あなたを蔑ろにする事はありませんよ」
優しくも厳しい言葉である、ミーンは以前にも同じ言葉を貰ったなと改めて思い出す、
「はい、そうですね、頑張ります、あっ、そうだ、それで相談なんですが、昨日ソフィアさんが料理方法を記した木簡があるとかなんとかと言ってたんですが、それ、参考にしたいんですけど」
「あらっ、あっ、そっか、ミーンさんは店舗で仕事した事無いもんね」
それはクレオの一時の製法を記した三枚綴りの木簡の事であろう、さらにマヨソースやホイップクリームの木簡もある、テラはハタッと思い出し、
「はい、すいません、出来ればと思うんですが」
とミーンは続ける、
「謝る必要は無いわよ、こっちが気を遣うべきだったわね、御免なさい、じゃ、寮に行ったときに事務所に顔を出して、私の名前を出してマフダさんかマチャーさんから貰って下さい」
「はい、そうします」
ミーンが安堵の笑みを浮かべた瞬間、
「ん、出来たけど、テラさんでいいのかな、使用説明」
サビナが陶器板を手にして振り返る、
「はい、早いですね」
「そりゃもう、ねー、それにブラスさんも手慣れたものよね、前のより各段に使いやすくなっていると思うよー」
「そうなんですか?」
「うん、まずね」
とサビナによる冷凍箱の解説が始まり、テラは勿論、ティルとミーン、ゾーイも並んで説明を受ける、それは確かにまた一つか二つより利便性が増しているらしく、テラは嬉しそうに時折これですよこれと相槌を打ち、ゾーイは真剣な瞳で聞き入っている、ティルとミーンは早速使ってみたいなと素直に思うのであった。
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